METALWOLF_ICHIKA(改訂版)   作:レクス

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この作品は「メタルウルフカオス」と「NINJABLADE」の世界観でISが誕生する設定につき、原作は一応メタルウルフカオス側になっています。
メタルウルフカオスのノリがわからないとちょっと厳しいかもしれません。
IS誕生の下地となる世界的な技術力が上がっているので、IS側も原作より基本性能が上がったりしています。



MISSION 0 白騎士事件/こんにちは日本! 突撃隣のアルマゲドン! 作戦
プロローグ-前編-


――化石燃料が枯渇し、エネルギー危機と経済摩擦の悪化に失業者の急増、そして紛争とテロが増加した、21世紀。

 

 地球上で代替資源を開発し、凌ごうとする世界の中でただ1国、長年の宇宙進出の末に宇宙資源を手に入れ、少数だがスペースコロニーすら建造し、月面と地球付近のラグランジュポイントを実効支配するアメリカ合衆国が世界の覇権を握っていた。

 

 2009年、アメリカ合衆国においてエネルギー兵器であるENアサルトライフル(エネルギーライフル)を装備した軍用自律サイボーグC09Nの1体目が開発され、直ちに量産されたそれが後のアリゾナ紛争において強力なEN銃弾を放つ命無き特殊機甲部隊を誕生させた。

 そして続く2010年代のアリゾナ紛争を始めとする世界各地における紛争へと“特殊機動重装甲”(SpecialHavyMobileArmour)と呼ばれるアメリカ製搭乗型有人パワードスーツが投入され、サイボーグを超える目覚ましい活躍を見せつけた。

 世界の軍事産業は転換期を迎え、戦場の主役はこれまでの戦車や航空機ではなく、耐久性と機動力を兼ね備えたパワードスーツに身を包む、“人”の手へと移り変わったのだ。

 

 2020年代初頭、アリゾナ紛争や世界各地の紛争における英雄的活躍でメダルオブオナーを受賞し、歴代最年少で第47代アメリカ合衆国大統領へと就任していたマイケル・ウィルソンJrだが、同じく各地の紛争で彼以上の活躍をしつつも、役立たずと判断した味方を容赦なく切り捨てた冷酷さ故にメダルオブオナーを逃した豪快で傲慢で執拗な完璧主義者、副大統領リチャード・ホークの妬みによってクーデターを起こされ、追われる身となる。

 しかし、最新鋭特殊機動重装甲を大統領専用に改造した“メタルウルフ”を纏った彼は、合衆国最後の希望として合衆国軍150万対1という絶望的な状況へと単身立ち向かい、リチャードの手で要塞化された崩壊していくアメリカ国有の最新鋭宇宙ステーションにて見事副大統領を打ち破ったのだ。

 

 時は過ぎ、その“アメリカ内戦”から10年が経った2030年代初頭現在。 各国では独自にパワードスーツの研究開発が進められていた。

 そして、国家のトップにはただ政治が上手いだけではなく、各々の国のパワードスーツを纏い、戦って、物理的に政治的決着を図ることも要求されるようになった今。

 国家最強の存在は、大体こう呼ばれるのだ。

 

 

――“大統領(プレジデント)”、と。

 

 

 

 

――それは、2020年代後半、よく晴れた、星空の見える夜。

 

宇宙(ソラ)は広いーな、大きいなーっと」

 

 星空の下、2人の少女が空を仰いでいる。

 1人はうさ耳のカチューシャを付け、お手製の天体望遠鏡まで持ち出して月を見ていた。

 

「ねーねー、ちーちゃん」

「なんだ?」

 

 名前を呼ばれた、篠ノ之神社の境内に寝転がっていた少女。 半袖にジーンズ、ショートカットの髪型、僅かに女らしさを感じさせ始めた体つきの織斑千冬がその身体を起こす。

 

「私ね。 大人になったら、いつかこの空を超えて広い宇宙に行きたいんだ」

「お前は本当に宇宙大好きだな」

 

 もう何度聞いただろうか、といった表情の千冬。

 彼女がうさ耳カチューシャを付けた少女、篠ノ之束の趣味である天体観測に付き合えば、ほぼ毎回聞かされる言葉だった。

 だが、千冬は同時にこれを楽しんでいた。

 普段は部屋に閉じこもってPCで何かをしてばかりいる親友が唯一自分の意思で外出する機会。

 それがこの天体観測だったからだ。

 

Space, the final frontier.(宇宙、それは最後のフロンティア) ……なんて言うでしょ。 宇宙は、この束さんの理解も及ばない領域なんだ」

「……そうなのか。それで?」

 

 遥か昔に放送され、その後何度もリメイクされたSFドラマの冒頭に流れてくるテロップを、束は無意識に呟き始める。

 かつて世界中の宇宙関連事業関係者に親しまれたと言われる作品だが、束は英語でそれを呟いていたので千冬にはさっぱり分からなかった。

 織斑千冬。 彼女は所謂脳筋であった。

 

「ううん。 ただね。 いつか、皆で宇宙に行ってみたいね。 ほら、見て! これが月面無人採掘基地“フリーダム”で、そこからちょっと右に動かしたところにあるのが同じく“ジャスティス”だよ!」

「なんだその名前は……」

 

――やれやれ、と肩をすくめながら望遠鏡を覗こうとしたその時。 星空を眺めていた少女の目に偶然飛び込んだのは高速で移動する光。 それが、どういう訳か火花でも散らしているかのようにふらついている。

 千冬は望遠鏡を覗くことなく、直接それを指差す。 実は望遠鏡の使い方をよく知らない。

 

「……なぁ、束。 あれはなんだ?」

「ほぇ? どれどれ――って、なんだこれーっ!?」

 

 千冬が指差す先へ望遠鏡を向けた束は素っ頓狂な声を上げると、望遠鏡のレンズに目を凝らしたまま動かなくなった。

 指差す先。 その光は、段々大きくなってくる。 まるでこちらへと近づいてきているかのように。

 発光体がなんであるかは、望遠鏡を見ていない千冬には分からない。 蛍だろうかとも考えたが、近年蛍は山奥以外では見かけなくなって久しい。

 発光ギミックを組み込んだラジコン飛行機にしてはカクカクとあり得ないような動きをするし、何より空中でその場に留まったりできない。

 

「お、おい、束。 何かおかしい。逃げるぞ!」

「駄目だよちーちゃん! こんなの、きっと二度と見れない!」

 

 自身より遥かに華奢なはずの束を引きずってでも動かそうとする千冬だが、束の身体はどういう訳か地面に張り付いたかのように動かない。

 

――そんな少女たちの頭上で、何かが小爆発を起こした。

 

「あっ、落ちてきた! 初めて見たよ、本物の……!」

「これは、何だ……? いや、待てこれは……!」

 

 そして、二人の声が重なる。

 

「――UFO……!」

 

 果たして円盤状のその物体は、アメリカでは数年前の副大統領による“アメリカ内戦”以来比較的よく観測されている、マゼラン星雲からやってきたらしいアダムスキー型UFOだった。

 “らしい”というのも、UFOは毎回迎撃に出てきた特殊機動重装甲の高火力の前に木端微塵に破壊され、中身のグレイ型宇宙人も“倒されて”しまっており、生け捕りされた例がないのだ。

 どういうわけか、UFOの目撃例はアメリカに集中しており、他の地域で発見されたことはない。

 そして、更に彼女達を驚愕させたのが――

 

「----、---- ---- -・・・ ……!?」

 

 銀色の、どう見てもグレイ型宇宙人。

 未知との遭遇。 それは、彼女達が小学4年生だった頃の出来事だった。

 

 

 

 

――数年後。

 

 篠ノ之束は中2の夏休みの自由研究として意気揚々と新世代マルチフォームスーツの論文を学校に提出した。

 当然ながらその内容をよく理解しきれなかった学校側は篠ノ之束からの幾度に渡る要請もあって、これをパワードスーツを扱う国連の“世界機動装甲連盟”と日本政府へと提出したが、これは国連の学会においても机上の空論としか思えない内容だった。

 

 2030年代初頭現在、世界的に見てパワードスーツはおおよそ2つの規格に分類される。 1つはアメリカ発、いくつかの大国が配備している特殊機動重装甲。 もう1つは、国連と欧州が開発した外骨格攻性機動重装甲、Extended Operation Armour(EOA)

 初期はEOSという名称で生身が剥き出し、稼働時間はフル稼働で十数分などというポンコツであったが、特殊機動重装甲の登場に触発され、膨大な欠点を克服した今では特殊機動重装甲よりやや安価で性能も多少劣る程度に落ち着いている。

 

 ずば抜けた知能を持つ天才とはいえ、彼女はまだ中学生である。 論文の書き方も滅茶苦茶であり、インフィニットストラトスの魅力が伝わるとは言い難いものであった。

 

「宇宙活動用のパワードスーツ? こんな、肌を露出させたパワードスーツで、かね。 お嬢ちゃんは宇宙を舐めているのではないか?」

「女性しか乗れない、というのは何故だ? ……分からない? 論外だ、くだらん。 いいか、私は面倒が嫌いなんだ……次はないぞ」

「く、くだらなくなんかないもん! ISには宇宙の神秘が詰まってるんだよ!」

「まぁまぁ、お嬢ちゃん話は分かった。 一緒に開発した大人を連れてきてくれないか? あと、この具体的なデータを証明する何かも、だ」

「そもそも一応宇宙用としては、水中さえ除けば宇宙でも活動できるアメリカの特殊機動重装甲があるのだ。 しかも大統領自らも確認している。 EOAは無理だし、他の国の特殊機動重装甲はそもそも宇宙に行く機会がないからわからないが……果たしてこのISとやらの性能、量産性が、既に実績のある特殊機動重装甲に勝るのかね?」

 

 このような具合で国連の学会には悉くダメ出しされ、篠ノ之束は後日、自由研究に“私の考えたさいきょうのパワードスーツ”を提出したものとして中学校の教員に怒られた。 また、中学生の小娘によるものということもあり、当たり前のように世界から一顧だにされずに終わった。 表向きは、だが。

 

「あーもう! そう言うんだったら、こっちにも考えがあるよ!」

 

 それから1ヵ月後、世界に激震が走った。

 日本に飛来する、2000を超えるミサイルの雨。 後に“白騎士事件”(ホワイトデビル襲来)と称され、世界の軍事バランスを変動させることになる日本終末の危機が発生したのだ。

 

 

 

 

 2015年、当時世界規模で発生していた最悪の生物災害(アルファ・ワーム)の影響で――表向きは“第二次東京大震災”で――1度は壊滅した日本の首都、東京。

 僅か数ヶ月で復興を果たし、その後の十数年で日常を取り戻したそこへ、突如2000発を超えるミサイルが飛来したのである。

 

 避難指示が発令され厳戒態勢の東京で、航空自衛隊の弾道弾迎撃ミサイル運用部隊が日本へ殺到するミサイルが射程に入るのを待ち構え、そのそばで日本が昔のアニメに登場したロボットを3mサイズに再現して作り上げた国産EOA、シルバーグレーの都市迷彩を施された“79式陸戦型機動装甲”、通称旭日(ライジングサン)が大盾とマシンガンを携え護衛している。

 それと肩を並べるようにして、特殊機動重装甲としては大きい6m近いサイズの機影。

 10年前の“アメリカ内戦”にやや旧式ながら投入され、大統領と荒野の決闘を行った米陸軍の逆関節の高機動型特殊機動重装甲、“フェニックス”。

 内戦以降その後幾度かのアップデートを経て、出力強化とステルス装置を内蔵したその機体が両肩のミサイルポッドに各種ミサイルを搭載し、両腕の60mmガトリング砲を誇示するように立っている。

 

 海上自衛隊、在日米海軍が横須賀沖から東京港へかけて多数の護衛イージス艦を展開させ、原子力空母2隻と厚木の米軍基地からステルス戦闘機のF-35Cと対空迎撃装備の大型艦載強襲重攻撃ヘリ“オラジワンⅡ”が発進。

 いよいよミサイルが迫り、迎撃ミサイルが発射されたというタイミングで“それ”――謎の白い人型飛行物体、後にIS白騎士と呼ばれることとなる――は日本に殺到するミサイルと日米軍の迎撃ミサイル双方を火達磨へと変えながら、突然現れたのだ。

 

 

 

 

 中学2年生になった、かつてUFOを見つけた少女たち。 篠ノ之束の親友、織斑千冬はIS白騎士を操りながら、心のどこかでこの大事件が友人の手によるものだと薄々気が付いていた。

 

『がんばれちーちゃん! あれだけあったミサイルも、あと20発だけだよ!』

「……ようやく、終わるの、かっ!」

『でも、予定よりはだいぶ早いんだよね……いやぁ、あんなに早く日本とアメリカ軍が集結しちゃうなんて思ってもなかったよ!』

 

 最初に迎撃ミサイルごと撃墜してしまうアクシデントはあったものの、東京国際展示場上空で熱光学的、電子的なステルスを解除してその姿を晒した白騎士は、日米軍と協力してミサイルを全滅させつつあった。

 イージス艦が残り少ない迎撃ミサイルを発射し、巨大なヘリが大型ミサイルのレーザーで核弾頭を消し飛ばし、そして彼方に宇宙から光が落ちてくる。

 千葉西方沖の空ではミサイルが突如消滅し、海は落ちてきた光を中心に蒸発していく。

 

「……あれは!?」

『アメリカの衛星波動砲だね。 近くに来てたのかぁ』

 

 興味なさげに、その衛星砲の情報をアメリカ国防省(ペンタゴン)のデータベースに侵入して呼び出す束。

 

――でも、まだISのパフォーマンスには足りないんだ。 ちょっと手伝ってもらわないとね――

 

 束は、白騎士とのモニターとはまた別のモニターを呼び出し、猛烈な勢いでキーを操作する。 いくつかの工程を経て、ピロンという軽い音が聞こえた。

 その間に最後の大陸間弾道ミサイルを、アメリカの大型艦載強襲重攻撃ヘリ“オラジワンⅡ”が迎撃する。 真上に打ち上げられた弾頭部分に自律兵器“A5”搭載の大型ミサイルがレーザーを発射し、再び核ミサイルを撃ち抜いて撃滅した。

 

『ちーちゃん! アメリカの衛星砲がこっちを狙ってる! 破壊しないと日本も焼かれちゃうよ!』

「な、なんだと!? 気でも狂ったのか、アメリカは!」

 

 白騎士のハイパーセンサーが超望遠モードとなり、衛星軌道で制御不能に陥ったらしい衛星砲へと大型荷電粒子砲の砲口が突きつけられる。

 最大出力で、白騎士はトリガーを引く。 膨大な光の束が成層圏を貫き、衛星砲を瞬く間に融解、大爆発を起こして消滅させた。

 

『ついでにもう1つ!』

「貴様らぁ! イチカのいる日本はやらせんぞ!」

 

 続けざまに2015年の生物災害で東京に使用されかけた、衛星マイクロウェーブ砲が光の中に溶けていく。

 発射されれば関東一帯の生物を根こそぎ死滅させる、抑止力の1つがこうして使われないまま消えていった。

 束にいろいろ言われるがまま激昂した千冬は、そのままアメリカ艦隊に襲いかかる。

 最後の弾道ミサイルを仕留めて近寄ってきたオラジワンⅡのヘリローターを、白騎士が近接ブレードで切り裂いた。

 衛星砲の突然の暴走、そして崩壊により一時混乱に陥ったアメリカ艦隊を白騎士が無力化していく。

 束も千冬も知ることではないが、ちょうどアメリカのマスコミ、ニュース専門局のDNN(Digital News Network)社の生放送準備が整うまでの僅かな時間で、DNNの名物記者ピーター・マクドナルドに“ホワイトデビル”を印象付けていた。

 

――束の計画では、ここでうまく千冬を言い包めて、自称世界の警察のアメリカ艦隊と偽装工作のために日本艦隊を壊滅させ、それでお終い。 白騎士は大した損傷もなく帰ってこれる。 そう踏んでいた。

 だが、それは唐突に接近し――そして始まった。

 白騎士の状態を表示しているモニターの中ではシールドエネルギー(防御・基幹システム用EN)と高速回復可能なウェポンエネルギー(兵装・機動用EN)の数値があり、後者は荷電粒子砲発射の消費分を既に回復し終えていた。

 そんな中、広域レーダーに突如出現したIFF表示。 アメリカ大統領直属軍(U.S.PresidentForce)と重なって表示されたアメリカ宇宙軍(U.S.SPACECOM)輸送機を示す5つの表示と、そしてその先頭は――!

 

スペースコマンドワン(大統領搭乗宇宙軍機)!? どうしてこんなものが、ここに……!?』

 

 

 

 

「やったぞ! 日本本土へのミサイル攻撃の全弾阻止を確認!」

 

 最後に飛来したのは、アメリカの戦略核を搭載したICBMだった。

 アリゾナ紛争で陸軍が開発した、空中に浮遊させて四方にレーザーをまき散らす自律兵器“A2”を迎撃ミサイル用に改良した“A5”を弾頭として搭載したレーザー迎撃大型ミサイルが大気圏に再突入してきたICBMを待ち構え、核ミサイルをレーザーで貫いて日本は再び核の炎に焼かれることを免れたのだ。

 オラジワンⅡの副操縦士が、やり遂げたと言わんばかりの表情を操縦士に向けた。 その手前で、攻撃手2人がハイタッチをしている。

 

「大統領が来るまでもありませんでしたね。 借り物も壊さずに済みましたし」

「ああ――司令部から連絡が来たぞ。今夜は日本と合同パーティだ」

『こちら、アメリカ第7艦隊、イージス戦艦“マイケル・ウィルソン”。 きっと日本のだろうが、一体どこのパワードスーツかは知らないが、助かった。 共にミサイルを迎撃し、悲劇を防げたことに、感謝を――』

「それは、夜が楽しみ――!?」

 

 全周波で送られていた通信が、突然途切れた。 同時にオラジワンⅡの操縦士達も絶句する。

 

「衛星が……!?」

「一体何が起きている!?」

 

 ミサイルが全滅したにも関わらず、突然放たれた荷電粒子砲が真上へと発射され、その高エネルギー反応が衛星軌道で大爆発を生み出したことを確認。

 殆どの将兵はそれが何の衛星であるかも分からなかったが、海上から衛星軌道を狙撃するその有効射程の長さに、誰もが言葉を失っていた。

 加えて、束の手で白騎士は束以外からの一切の“雑音”が遮断されており、アメリカ艦隊から礼を言われていることに気付かぬまま、オラジワンⅡへと襲いかかったのだ。

 

「クソッタレ! 攻撃を受けた! 1番2番ローターが破損!」

「補助エンジン、出力全開! ……ダメだ、足りない! オラジワンⅡ、墜落するぞ!」

「やったのはあのIFF応答なしの所属不明機だ! くそ、厚木からの借り物だってのに、弁償物だ!」

「どういうことだ! 味方じゃなかったのかアレは!?」

『フリーダム01、聞こえるな? 脱出の手立は心得ているはずだ。 落ちついて行動しろ』

 

 もう1機の借り物なオラジワンⅡに搭乗しているヘリ部隊の隊長“ジョン・スミス”――通称“ナイスミドル”が離着陸用補助エンジンでゆっくりと落ちていくオラジワンⅡへと通信を繋いだ。

 彼、ナイスミドルは日本を訪問中にこの事態に巻き込まれ、現在のアメリカ副大統領としてものの見事に“戦う副大統領”の責務を果たしていた。

 オラジワンⅡの臨時乗員は全員紛争地帯でナイスミドルが率いた傭兵部隊の一員であり、かつての“アメリカ内戦”で、自由の女神像を守るべくナイスミドルと共に立ち上がったレジスタンスだった歴戦のヘリパイロットである。

 今では副大統領を守る彼直属のプレジデントフォース(大統領直属軍)だ。

 

『迅速かつ効果的に殺せ。 いつも教えていた通りだ』

「了解、ボス! ミサイル全弾お見舞いしてやれ! ハッチオープン!」

「なんだこいつ、ロックオンできない!?」

「アメリカ魂で撃つんだよ!」

 

 ミサイル迎撃の為にかなりの高度まで上昇していたオラジワンⅡが、重力に引かれゆっくりと墜落を始める。

 攻撃手(ガンナー)が副攻撃手を叱咤し、ロックオンを無効化されたことでレーザー発射機能を停止させたレーザー迎撃ミサイルをいくつかに分けて発射することで未確認飛行物体を特定空域におびき寄せ、最終的にマニュアル照準の大口径対地対空レールガンを直撃させるという作戦をアメリカ魂の気合いのみで実行に移していくオラジワンⅡ。

 

「レールガンはまだ撃てるんだな!?」

「やられたのはローターだけです! もう飛べないだけで、撃てます!」

 

 レーザー迎撃ミサイルを、戦闘機以上の速度で大混雑の東京湾上空を舞う未確認飛行物体へと次々撃ちこみ、それに反応した未確認飛行物体がミサイルを切り裂きながら迫ってくる。

 

空飛ぶリングドーナツにしてやる!(You are ring donut!)

「大統領ほど上手くはできないがな!」

 

 最大チャージが完了し閃光を放つ対地対空レールガンが、至近距離まで接近し今まさに電磁バリアを切り裂いた未確認飛行物体へと飛来した。

 音速を遥かに超えた砲弾は、レールガン本体を切り落とそうとした未確認物体を掠め、それでも弾き飛ばす。

 偶然にもその攻撃が“未確認飛行物体(IS白騎士)”に直撃こそしなかったが大きな衝撃を与え、ステルスシステムを故障させることに成功していたが、それを乗員が確認する暇などなかった。

 最後に、距離が開いた目標へと撃ちこんだ一際大きなミサイルが未確認飛行物体の前で分裂し、中から現れた複数の対空ミサイルが突き刺さった。 直撃だ。

 

「Yeahhhh!」

「総員、脱出(イジェークト)!」

 

 そう言うが早いが、窓やハッチをぶち破り、パラシュートの代わりに大凧を広げ落下していく。

 このパイロット達はアメリカ内戦前に、国際災害対応機関GUIDE所属のNINJAによる指導を受けているが為のこの暴挙。 決して真似をしてはいけない。

 レールガンの着弾で巻き起こった人口津波とミサイルの爆風が消え――そして、変わらず滞空する未確認飛行物体の姿。

 

『第7艦隊司令部より通達する。 作戦目標を変更。 現時刻を以て、FQ-35C(無人機)の使用許可が下りた。 “未確認飛行物体(UFO)”を敵性と判断、撃墜せよ!』

「どうなっている!? レールガンもミサイルも直撃したんじゃなかったのか!?」

「悪魔め……! 電磁バリアかエネルギーシールド付きか!?」

「まだだ、ありったけのミサイルとEN機銃を叩き込め!」

「分かっちゃあいるが、無理だ、あんなの! 滅茶苦茶な動きしやがって、下手に撃ったら市街に当たるぞ!」

「これがマーベルなら、俺達はまるで“ヒーロー”が出てくる前のやられ役だ……!」

 

 日本の危機に出し惜しみすることなく出撃、艦隊上空で警護していたF-35Cがビル・クリントンから発進した無人機型のFQ-35Cと編隊を組み、輸出用に光学ステルスシステムが排除された日本のF-35Jのパイロット同様にレールガンとミサイルの直撃で文字通り消し飛んだと思われていた未確認飛行物体を視認した。

 急にレーダーで捕捉できるようになった未確認飛行物体へ光の弾丸と分裂する対空ミサイルを放つ。 しかし、一度見て覚えたのか、まるでUFOのように慣性を無視した機動で一切当たらない。

 照準に未確認飛行物体を捉えたまま出鱈目な機動を行う無人機も同様で、直角に曲がった未確認飛行物体を追い切れず、次々とミサイルが振り切られていく。

 従来の電子ステルスの上から光学ステルスを展開して、未確認飛行物体へ次々と一撃離脱を図っていく不可視のF-35C。

 その分、ENタンクのエネルギーの消耗も激しい。 ステルスを使用しているなら尚更。

 F-35Cの装甲に覆われたキャノピー内、HMDで投影された視界の中を未確認飛行物体が飛び回る。

 ミサイルが180度旋回して未確認飛行物体の目前で内部から小型ミサイルを吐き出すも、全て切り落とされていった。

 

「待て、そっちは――逃げろ、“ジェラルド・R・フォード”!」

『こちら空母“ジェラルド・R・フォード”! あの未確認飛行物体(アンノウン)、甲板を滅多斬りにしていった! 最早着艦不能だ!』

『こちらイージス艦“ロバート・フォレスター”! こいつ、電磁バリアをあっさり切り裂いて突破してくる! 5インチエネルギー砲とレーダーまでバッサリやられた! レーザーCIWSのロックが追いつかん、誰か奴を止めろ!』

『“マイケル・マーフィー”のレーザーCIWSが何発か命中したようだが、敵機健在! どうやって止めればいい!?』

『こちら“マイケル・ウィルソン”、東京を背にされてレールガンが撃てない! 奴を上空へ引き離せ!』

日本艦隊(こちら)にも向かって来るぞ!? 冗談じゃない!』

『絶対に止めろ! 本土へ再上陸させ、うわーっ!?』

 

 大混乱に陥った日米連合軍。 あっという間に日本艦隊は突破され、まるで己の戦闘力を誇示するように東京のパワードスーツ部隊へも襲いかかる未確認飛行物体。

 高圧電流を放つ6発同時発射スタンミサイルを拡散荷電粒子砲で撃墜し、60mmガトリング砲2門の弾幕をものともせず――シールドバリアーを突破して命中しているので、結構ダメージは入っているのだが――ふ頭公園で応戦するフェニックスに接近した未確認飛行物体は、60mmガトリング砲を放ちながら回避運動を行うフェニックスの両脚をエネルギーシールドごと切断し、腿装甲が開いて隠されていたミサイルが発射されるより早く腹部を蹴り飛ばす。

 

ちくしょぉぉぉっ(Fuck)!」

「ちぃっ! テロリストめ、日本を、俺たちの国を好きにはさせん!」

 

 薬莢をまき散らしながら仰向けに倒れ、地面を削りながら滑っていく在日米軍のフェニックス。

 陸上自衛隊対テロ部隊所属の旭日がマシンガンを未確認飛行物体へと投げつけ、フェニックスを庇うように前進する。

 マシンガンを投げていないもう1機の旭日がマシンガンによる銃撃で牽制するのを見ながら、前進した旭日が凸型のゴーグル状のカバーに覆われたツインカメラアイが存在する頭部で未確認飛行物体を睨みつつ、大盾を構えながら脹脛から射出されたエネルギーサーベルの柄を流れるような動きで掴み、展開させた。

 しかしマシンガンを切り捨てた未確認飛行物体は一瞬で詰め寄り、エネルギーサーベルの柄を握った旭日の手首ごと切り落とし、返す刃で大盾の上半分を切り落としたのだ。

 

「ッ! 一尉、後退を!」

「後退してどこに行く!? 試製78式がいてもいなくても、日本を守るのが俺達だ!」

「ですが……! クソ、こいつエネルギーシールドでも……!?」

 

 最初に、純粋な軍事用パワードスーツであるフェニックスを無力化されたのが痛かった。 旭日は対テロ鎮圧用パワードスーツとして市街戦での運用を想定されている。

 火力、防御力ではフェニックスに及ぶはずがない。 ただ1つ、近接戦におけるエネルギーサーベルを除けばだが、まともにやりあえば近づく前にハチの巣になるだけだろう。

 眼前の未確認飛行物体はマシンガンの銃撃をまるで意に介さず、牽制が牽制にならない。 だがエネルギーサーベルに替える隙があるとも思えない。 このまま撃ち続けるしかないのだ。

 右手と大盾を切断された旭日が大盾を投げ捨て、もう片方の脹脛からエネルギーサーベルの柄を射出させ、熟練の手つきで赤く輝く刃を閃かせつつ、叫ぶ。

 

「なんだ……! なんなんだ、お前は…っ!?」

 

 エネルギーサーベルの一閃を避け、近接ブレードを振るおうとするも、先ほど転んだフェニックスが光学ステルスで不可視化しながら放った鋼鉄のシャワーを数発被弾してすぐに回避し、何も答えないまま再び未確認飛行物体が飛翔する。

 

「……まだ止まらないのか。 大丈夫か、日本の?」

「これで、大丈夫に見えるか? だが助かった。 問題は奴をどうやって止めるかだが……」

「助かりました。 しかし、旭日のマシンガンだと通じないか……」

「そうだな……日本の、提案がある。 俺の機体の脚になってくれ、代わりに俺が火力と盾になってやる」

「分かった、頼む……!」

 

 東京の各地で続々と無力化されていく日米パワードスーツ部隊。

 不思議なことにトドメは刺していかないが、最早日本とアメリカの戦力に、未確認飛行物体に抵抗する手段はない。

 日本の最大戦力である試製78式はこの日定期メンテナンス中に外部ハッキングを受け、大急ぎで進めているものの発進の目途は立っていない。

 亡国機業(ファントムタスク)を名乗るテロリストに度々標的とされ、それでもなんとか対抗してきた日本も、最早これまでなのか……!

 

『こちら、北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)。 日本で作戦中の全アメリカ・日本将兵へと通達する』

 

 その時、混乱の真っただ中にあった日本とアメリカの通信チャンネルに、落ちつき払った声が割り込む。

 

『こちら、北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)。 遅くなってすまないが、緊急事態につき緊急展開用輸送機を使用した。 予定通りならおよそ5分後に諸君待望の“ヒーロー”をそちらに到着させる。 これより“日本への宅配便”(大統領搭乗宇宙軍機)の到着を以て、急遽オペレーション:サン・ガードを第2段階へと――』

『さっき言ったじゃないですか! 各国から核もたくさん飛んでるんだから、作戦名は“こんにちは日本! 突撃隣のアルマゲドン!”作戦ですって!』

『――“こんにちは日本! 突撃隣のアルマゲドン!”作戦を開始する。 しかし、ジョディ女史……本当にこんな作戦名で……?』

『予想より早めに片付いたみたいですが、安心してください! 大統領、もうすぐ見えるはずですが、なんだかおかしなモノが浮かんでますよ! こいつのせいで第7艦隊と日本から救援要請も出ていますし、まるでUFOみたいなので、いつものように破壊しましょう!』

 

 NORADの司令官とオペレーターである大統領秘書の掛け合いと共に、6連星(プレアデス)が西から東京の空めがけて飛来する。

 その姿はまさしく超大型の大陸間弾道ミサイル弾頭――のように見えるが、実際はロケットブースターを既に切り離し終えた使い捨てのカプセル型宇宙船。

 星条旗マークに“UNITED STATES OF AMERICA”が表記されたそれは、宇宙空間を経由して目的地に着弾する、1人乗りの“特殊機動重装甲緊急展開用輸送機”(希望のデリバリーサービス)である。

 

『カウント、5、4、3、2――ブースター、点火!』

 

 日本沖合で大気圏に再突入した6つの乗員モジュールが芸術的なまでの空中分解を起こして自壊し、まるで祝福するかのように破片が陽光を煌めかせる。 細かくなった部品を吹き飛ばし、その中からブースターを点火させて現れたのは、プレジデントフォース部隊章を付けたダークブルーに青いカラーリングと青い単眼(モノアイ)

 アメリカ内戦当時、最新鋭特殊機動重装甲として開発され、後にニューヨークで大統領役として破壊される1機を除いて副大統領に奪われる前に全機破壊された“メタルレイヴン”。

 そして同じくダークブルーに赤いカラーリングと赤い単眼(モノアイ)、第47代アメリカ合衆国大統領、マイケル・ウィルソンJrが駆るメタルレイヴンの大統領仕様、特殊機動重装甲“メタルウルフ”!

 

『オーケェェィ、ジョディ! レッツ、パァァァリィィィィ!(パーティの時間だ!)

『ハッハー! レェェッツ、パァァリィィ!』

『こちらプレジデントフォース(大統領直属軍)! これより“こんにちは日本! 突撃隣のアルマゲドン!”作戦に参加する!』

「来た! 来たぞ、最強の援軍が!」

「大統領閣下と特殊機動重装甲のプレジデントフォースだ! 頼む、日本を守ってやってくれ……!」

「ああ……! 巻き込まれないように後退する! 後は大統領閣下たちに任せるぞ!」

 

 アメリカで最も有名な掛け声であるその咆哮が、一方的に壊滅させられつつある全アメリカ、日本将兵の士気を一気に最高潮へと押し上げる。

 世界最強の戦士にして大統領、マイケル・ウィルソンJrの登場だ!

 東京湾に着水したオラジワンⅡ乗員を救助にやってきた、やや旧式化しつつある日本の観測ヘリがその通信を聞いてただ一言、オラジワンⅡ乗員へ手を差し伸べながら呟いた。

 

「ありがとう、これで日本は救われた」

 

 

 

 

「父さん……!」

 

 都内港区の米軍施設地下シェルター内、そこで不安気にモニターの前へと連れてこられた少年。

 その少年の名は、つい先日6歳になったアメリカ系の日本人、織斑イチカといった。

 都内に天国への入場券(ミサイル)が降り注ぐと判明し、地下シェルターへの避難指示が発令される中、保護者である姉が不在なのをいいことに彼は1人で米軍施設へと走ったのだ。

 その理由は、アメリカの実在するヒーローである“メタルウルフ”、初代世界政府大統領兼第47代アメリカ合衆国大統領マイケル・ウィルソンJrを見るため。

 それと、その大統領に率いられた特殊機動重装甲部隊の中で一番偉いらしい、顔も覚えていない父親と会うため。

 守衛をしていたアメリカの軍用サイボーグに容赦なく捕まえられたものの、イチカが軍関係者、それも現在アメリカ本土からミサイル迎撃に駆け付けつつある大統領直属軍“プレジデントフォース”の実戦部隊隊長、アレックス・オリムラの息子であると判明すると、ここへ通されたのだ。

 

「戦況は!? 大統領は到着したのか!?」

「大統領はたった今到着したが、戦況はめちゃくちゃだ! 日本に殺到していたミサイルは全部落としたが、“未確認飛行物体”が暴れている!」

「宇宙軍から緊急連絡があったが、あの未確認飛行物体、光学兵器で正確に軍事衛星を破壊したそうだ……」

 

 イチカを案内した係員が勢い込んで尋ねるも、アメリカ軍の文官は常にない緊迫した声音で返す。

 モニターの中では第7艦隊のイージス戦艦“マイケル・ウィルソン”が“未確認飛行物体”に艦載レールガンの砲塔を輪切りにされ、拡散荷電粒子砲で同艦が発射した迎撃ミサイルを焼き払い、ついでに艦首の先代合衆国大統領の銅像を真っ二つにされている。

 流れ弾のミサイルがモニターであるDNN報道ヘリに命中し画面が揺れているが、この報道ヘリはその程度で落ちることはない。

 

――おお、マイケル……私の愛するアメリカと、日本のことは頼んだぞ……――

 

 どこからともなく響いた声が空へ消える頃、アメリカから同盟国日本の救援へやってきたアメリカの最終兵器、世界政府大統領“マイケル・ウィルソンJr”とその“大統領機(プレジデントアーマー)”である“メタルウルフ”が、通りすがりに多数のグレネード弾を浴びせながら、怒りを赤い単眼(モノアイ)に乗せ、部下の5機と共に“大統領らしい紳士的な着地”で日本へと降り立った!

 

『無事到着できたようですね。 大統領、乗り心地はいかがでしたか?』

まるでリムジンのように快適だったさ。(It was almost comfortable as limousine.) だが、次はエアフォースワンで(However, this time )行く余裕が欲しいな(the ride is you.)

『そうですか。 チケットの請求書はあの変なの(未確認飛行物体)に請求しておきますから、受け取ってもらえるように撃墜してくださいね』

 

 逆関節の両脚を切断されて転がりながらも武装を空へと掲げるフェニックスの、マシンガンと片手を切り落とされ、そのフェニックスに寄り添う旭日の、帰るべき空母に帰れず厚木基地や空港に緊急着陸したF-35Cのパイロットの、そしてそれを見守る世界の人々の。

 そして、キラキラした瞳でメタルウルフとメタルウルフによく似た青い単眼の機体5機を見つめる織斑イチカの。

 彼らの期待を一身に背負ったアメリカ大統領、マイケル・ウィルソンJrが駆るメタルウルフが、IS白騎士――“テロリスト”を睨み、次の瞬間両者は激突した!

 

 

 

 

「スペースコマンドワン……?」

 

 アメリカの戦艦を無力化し、束に言われるがまま制圧した一帯まで戻った織斑千冬。 束の声に釣られて見上げた先に、ハイパーセンサーによれば確かにスペースコマンドワンの識別信号を発する何かが存在することを確認していた。

 この時、千冬は逡巡した。 白騎士の荷電粒子砲であれば、衛星軌道まで攻撃できる。

 しかし、本当にスペースコマンドワンとやらであれば、ソレに乗っているのはアメリカの大統領である。 そんなものを撃墜していいのか、と。

 ここまで白騎士が相手を殺さないように動いていた――そして実際に負傷者こそ出ているものの死者は出ていない――ことからも分かるように、織斑千冬に人を殺す覚悟など持ち合わせていなかった。

 だが、彼女の頭脳は告げている。 “あれは、何故かとてつもなくマズイ気がする”と。 そして更に拙いことに、アメリカの大統領が一体何であるかも、初の実戦という極度の緊張状態から失念してしまっていた。

 だから、彼女はしばらく無防備に眺めていたが為に周囲から敵性反応が一斉に引き払っていることに数秒間気付けなかった。

 千冬がそれを認識した直後、スペースコマンドワンの反応が急激に接近し――反応が消滅。 そして、“何か”が現れた。

 更新された識別コードは――President(大統領)

 

『オーケェェイ、ジョディ! レッツ、パァァァリィィィィ!』

『大変だよちーちゃん! それ、アメリカの最終兵器(メタルウルフ)だよ! 今すぐ撃ち落として!』

「メタルウルフ――!?」

 

 聞いたことがある――などというレベルではなかった。

 千冬が現在通う中学校、その歴史の最新の1ページに、2010年代の世界各地の紛争と近年のテロ増加についての記述がある。

 教科書曰く、メダルオブオナーを与えられた英雄にして現職のアメリカ合衆国大統領兼世界政府大統領。 大勢の兵士が戦うのではなく、国家もしくは勢力のトップ同士が戦って決着をつける“もっとも犠牲の少ない戦争”大統領戦争(プレジデントファイト)の提唱者にして、最強の大統領(プレジデント)

 大統領戦争の導入により、各地の紛争はトップ同士に物理的決着を行わせることによって解決、激減した。 ちなみにテロリストに参加権限はない。

 そんな彼が世界(アメリカ)の危機に使用する、戦略核を超えるアメリカの最終兵器である、と。

 

『オードブルをたらふく食らいな!』

『ハッハー! パーティの最初だ、前菜(オードブル)を食らえ!』

 

 みるみる近づいてくる機影が空中で速度調整を行う。

 白騎士の頭上を通り抜けざまに、3m級の6つの影がショットガンらしきものを構え、発砲した。

 白騎士に降り注ぐ散弾。 しかしその散弾は通常の散弾ではなく、全てがグレネード弾。 それが散弾のように飛び散り、一斉に炸裂するのだ。

 それに混じって何故かひらひらと舞い散る万国旗とドル札。 鳩が飛び出したように見えたが、千冬は気のせいだと思うことにした。

 だが次の瞬間、発射直前の大型荷電粒子砲にその無駄に精巧で生きているようにしか見えない鳩型ミサイルが方向転換しながら羽ばたき、TROTと呼ばれる宇宙資源由来の液体燃料を染み込ませた万国旗の紐をくわえたまま突っ込み、異物が詰まった大型荷電粒子砲が破裂した。 バードストライクだ!

 

「くそっ、荷電粒子砲が! ふざけたモノを……!」

『ちーちゃん落ちついて! ちーちゃんの声は外に聞こえてないから!』

 

 グレネードの爆発に巻き込まれた白騎士に、お台場へと着弾したプレジデントフォースからいくつものミサイルが飛来する。

 サメの形をしたミサイルが、海水をまき散らしながら迫ってくるのだ。

 

「なんだ、このふざけたミサイルは!」

 

 使えなくなった大型荷電粒子砲を量子化し、向かってきたサメ型のミサイルを普通のミサイルと同じように斬り飛ばす。

 だが、このミサイルは普通のミサイルではない。 アメリカ内戦当時のプレジデントフォース技術部が無駄に技術を投入して追尾性能特化型として作り上げたこのミサイルは海水をまき散らしながら接近、そして――シールドバリアーに覆われた白騎士の腕を、氷漬けにしたのだ。

 

「腕が――凍った!?」

『何これ……! シールドバリアーがなかったら全身カチンコチンで動けなくなってたよ、ちーちゃん!』

 

 近接ブレードごとそれを振るう右腕を氷漬けにされた白騎士は、しかし腕を一振りするとその氷が消滅する。

 更に続けてミサイルが――当然、先程のサメ型ミサイルも混じっている――接近した為、白騎士に搭載されたPICをフル活用し、急加速からの急停止をしたかと思えば瞬時加速(イグニッション・ブースト)2回による直角カーブで回避するなど、まるでUFOのような通常の兵器ではあり得ない機動で距離を離していく。

 

『どうやら間にあったようです。 日本は今こんにちはですが、親愛なるアメリカ市民の皆さんこんばんは。

 DNNリポーター、ピーター・マクドナルドです。

 上空より我らが親愛なる大統領たちと、凶悪犯罪者“ホワイトデビル”をとらえています。

 奴は日本を守るべく集結した在日アメリカ海軍、日本海上自衛隊をほぼ殲滅まで追い込み、在日アメリカ陸軍と陸上自衛隊に多大な被害を齎しましたが、大統領がやってきた今最早心配ありません。

 リポーターを交代し、このDNN独占スクープの模様を私が生中継でお送りいたします』

 

 そしてついに赤白青のカラーリングのヘリがもう1つ、この取材の為に乗艦許可を取った無人戦闘機母艦“ビル・クリントン”から発艦した。

 ピーターの代理として今までヘリから中継を行っていたDNNヘリが、交代で甲板を滅多切りにされている空母へと降りていく。

 DNNヘリの中で報道を行うのは今も変わらずピーター・マクドナルド。

 アメリカでもなかなかの人気を誇るリポーターであり、彼の報道の有様から年にアメリカ国旗の星の数だけ取材先から苦情がきているというが、定かではない。 もっと多いに決まっている。

 

『ご覧ください! 世界各国がテロリスト“ホワイトデビル”のハッキングを受けて発射されたミサイル!

 これがその全てを撃墜した米日連合軍を壊滅に追い込んだ“ホワイトデビル”です! なんと凶悪な面構えでしょう!』

 

 白騎士がミサイル暴発の犯人である――というのは、もちろん想像力逞しい彼の予測が多いに混じっている。

 

『えっ!? どうして束さんの仕業だってばれちゃったんだい!?』

 

 しかし束はそんな事とは露知らず、何故分かったのかと大いに驚いていた。 珍しく彼の誤報は真実だったのだ。

 

「やかましい!」

 

 一方千冬は、そのスピーカー(ピーター)のあまりの音量に顔をしかめていた。

 白騎士の通信回線は束相手以外には機能していないが、日米連合軍のように無線ではなく、物理的にスピーカーとカメラとマイクで絶賛全世界生中継中の彼の声を、白騎士は拾ってしまったのだ。

 ついつい黙らせようと腰部装甲を展開させて予備である腰部荷電粒子砲2門を発射してしまい、気付いた時には報道ヘリが荷電粒子砲の射線からふらりと外れ、その向こうにいたオラジワンⅡの電磁バリアを貫いて直撃したところだった。

 

『大変です! 残虐非道な“ホワイトデビル”は報道ヘリにまで攻撃を仕掛けてきました!

 そしてなんと! あの空に浮かぶ要塞“オラジワンⅡ”が、アメリカが誇る大型艦載強襲重攻撃ヘリ“オラジワンⅡ”が火を噴いています!

 この未曾有の危機に当たり、日本を訪問していたアメリカの副大統領が操るヘリ(ネイビーツー)ですが、大丈夫でしょうか。 視聴者の皆さん、大統領と副大統領を応援しましょう』

 

 ついに人を殺めてしまったのかと動きを止めてしまった千冬だが、オラジワンⅡは副大統領魂による神がかり的な操縦の甲斐あって、大量の弾薬を東京湾へ不法投棄しながら無事切り刻まれた甲板の無事な部分に着艦。 例の如く死者はいなかった。

 

『Yeah! ミサイルパンチを食らいな!』

「ぐぅっ……!」

『ちーちゃん!?』

 

 ほっとした千冬を現実に引き戻したのは感じたことのない強烈な衝撃。

 大統力の籠められた一撃は白騎士のシールドバリアーの上から、搭乗者である中学生、織斑千冬の意識を奪い去った。

 爆発的な加速力で振り抜かれた拳が、白騎士をビルに叩きつける。

 半分ほどビルに埋まって身動きが取れなくなった白騎士へ、再度サメ型ミサイルが命中し、ビルの一部ごと瞬間的に凍りついた白騎士へマッドリーガーボーイ(野球ボール)の一撃が直撃する。 なんと絶対防御が発動すらしていた。

 

『ち、ちーちゃん! 起きて!』

『ハッハー! もう1発、おまけだ! プレゼント、フォー、ユゥゥッ!』

 

 束の呼びかけにも千冬は応えない。 操縦者の気絶に反応し、操縦者保護機能が作動した。

 その間にも白騎士はメタルレイヴンのタックルでビルの瓦礫に埋められ、どう見てもふざけているとしか思えない、何故かたまに変化球で飛来する野球ボールと、下手なロケット弾やミサイル並みの威力で連装ガトリングボウから高速で連射される木製の矢が次々と命中し、シールドエネルギーを削っていく。

 

『な、何これ……ふざけてるの……!?』

 

 慄きながらも、束は白騎士のシステムをチェックし、千冬を起こすべく操縦者保護機能への干渉を開始した。

 

 親しい極一部の人間以外、他人に興味を持たない少女、篠ノ之束。

 中学校の歴史の授業でも過去の偉人なんか知ったことじゃないとばかりの態度でいながら試験では満点を取る彼女だったが、少なくとも最新の歴史は知っておくべきだった。

 国家最強の存在、大統領。 歴史の闇で活躍する国連の超人集団、NINJA。

 この世界はそんな存在がいる世界だったのだから。




続けて後編も投稿します。
ここだけ見るとISが白騎士事件で終わりそうですが、そういうことはないのでご心配なく。
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