METALWOLF_ICHIKA(改訂版)   作:レクス

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今回はプロローグからいた、“メタルウルフカオス”と元々共通世界観(同じバカゲー)の“NINJABLADE”主人公のNINJA、ケン・オガワの出番があります。
1人だけ世界観が違うような動きをしていますが、大体彼本人やその親父が原作でやっている挙動なので至って通常運転です。 ごあんしんください。

9/22 誤字脱字修正


#8

 12月下旬のフォート・ウィルソン屋外演習場。

 多数のサイボーグが警備にうろつくそこで、1機の特殊機動重装甲と1人の人間――否、超人であるNINJAが模擬戦を行っていた。

 

「どうなってんだよ……!」

 

 攻撃が、当たらない。 一見、生身の黒装束の男に戦場の主役、特殊機動重装甲が押されているように見える。 本来、ありえないことだ。

 今も、噴煙が尾を引きながら放たれた“HANABI”が空中のNINJA――ケン・オガワへと殺到している。

 ケンは素早い戦術眼で命中しないミサイルを足場にし、双剣から伸びたワイヤーが直撃コースのミサイルを叩き落とす。

 イチカがメタルウルフを2歩後退させると、ワイヤーはメタルウルフの装甲を掠めていった。 後退動作の影響でたった今発射された1発のHANABIの軌道が上にずれる。

 メタルウルフを掠めて戻っていくワイヤーがその上にずれたHANABIの尾翼を絡め取り、振り回されたHANABIが遠心力と推進力で更に加速しながらイチカの下へと帰ってくる。

 メタルウルフはムーンライトソードを一振りする。 3mほどの機体と比較すればロングソード程度の青い刀身がHANABIを弾頭からロケットモーターまで綺麗に真っ二つにした。 同時に飛んだ光波はケンが別のミサイルに飛び移ることでかわされる。

 

なんなんだよこれぇ!?(What the fuck!?)

 

 が、その瞬間イチカの目に飛び込んできたのは足場にしたミサイルの上で巧みな脚捌きとまるでサーフィンのような腰使いでミサイルの向きをくるりと変えさせたNINJAの姿! アルファ・ワームの時にもやったミサイルサーフィンを今更失敗するはずがない。

 次の瞬間、HANABIはメタルウルフの胸部装甲へ直撃! メタルウルフの視界一杯に大輪の光の花が咲き、ケンは後方宙返りでHANABIの範囲から脱出している。

 

「嘘……だろ……!」

「この程度、嘘でもなんでもないさ」

 

 メタルウルフが一歩踏みこむ。 後方宙返りしたケンが空中を蹴って方向転換しながら向かってくる。

 ケン・オガワへとそのムーンライトソードの青い刃を走らせたが、しかしケンはやはり着地しないまま空中を蹴ってバック転で鮮やかに回避。 逆にケンはクナイを投げ放ち、メタルウルフに見事命中させた。

 

「どうした、イチカ・オリムラ。 気合だけでは勝てないぞ」

「くそっ!」

 

――冷静になれ、イチカ。 ケンは強い。 君が焦っては万が一の勝ちも失う――

 

 メタルウルフが右手に持っていたムーンライトソードを両手で振りかぶり、勢いを付けて真下に振り下ろす。

 幼少期、まだ大統領に憧れ始めた頃にやっていた篠ノ之流剣術。 中学生になってからは射撃競技にのめりこみ、IS訓練生に混じったりしていたおかげで篠ノ之流剣術の鍛錬をやっておらず、腕は鈍っていた。

 多分剣よりアメリカで銃の練習をしている方が長いだろう。

 眼前で双剣を振るっていたケンは咄嗟に身を捩って3連続側転を行い、メタルウルフの側面に回り込んだ。 ムーンライトソードから光波が放たれ、エネルギーがケンの防護結界を掠めるチリチリとした音が耳に入る。

 地を割るが如き勢いで振り下ろされたムーンライトソードは、しかし勢いをつけすぎた為に本当に地面へとめり込んでいた。

 もう片手に持っていたクレイジーホースから木製の矢の弾幕が放たれるが、ケンはNINJA動体視力(NINJA VISION)で自らの血を刃として鍛えた妖刀NinjaBladeを高速回転させ、真正面から斬り払い迫ってくる。

 

「どんな武器でもそうだが、本命の攻撃は先に隙を作ってから当てるんだ」

 

 ケンの双剣からワイヤーが射出され、メタルウルフに巻きつく。

 ムーンライトソードを地面から引き抜く一瞬の隙を突かれ、対応できなかったメタルウルフは次の瞬間空中へと放り投げられた! 

 ケンはその場から動かず、眼前で印を組み、両手を掲げる。 その両手の間の空気が揺れ、かつてカンベエ・オガワもやっていたプラズマを纏う摩訶不思議な“NINJAPOWER”のプラズマを纏う巨大な赤黒いエネルギーの球体が生まれ、気合の一声と共にそれを投げつけてくる!

 

「んなっ!?」

 

 高エネルギー反応を前にし、イチカは急降下による踏み潰しで急降下。 余波でメタルウルフのシールドメモリを削られながらも、直撃を回避した。

 

「隙を作る、と言ったはずだ」

 

――イチカ、後ろだ!――

 

――先程の場所ではなく、イチカのすぐ背後。 碧色の大剣を構えるケン、その手に握られたのは大剣のムーンライトソード。 二十数年前、アルファワームに襲われた東京に何故か鎮座していた光波を飛ばす大剣だ。

 ブーストで前進し、メタルウルフが大剣の一撃を回避しようとするが、それより早くメタルウルフへ下から綺麗な三日月を描くように振り上げられた碧い大剣の重い一撃が迫り、イチカは咄嗟に反応して振り返り、ムーンライトソードを翳して防ぐ。 衝撃でメタルウルフが少しだけ浮き上がり、体勢が崩れる。

 続けてケンは背を向けるようにしながら碧い大剣を突き刺し、強烈な一撃がエネルギーシールド越しにメタルウルフの腹部装甲に多大な負荷をかける。 

 真上に振り上げながらイチカのムーンライトソードを撥ね上げ、無防備になったメタルウルフへケンの右足から繰り出されるジュージツの蹴撃が突き刺さった!

 

「……ッ!」

 

 エアフォースワンからブーストを吹かして落ちてきてもなんともないメタルウルフの耐衝撃機能を突破し、イチカの息が詰まり、肺の空気が強制的に押し出される。 果たして生身で受ければどうなるのか。

 空中で揺れるメタルウルフの中で、イチカの瞳はしっかりと網膜投影越しにケンの姿を見据えていた。

 高く跳躍し、日光を遮る黒い影。 まるで日本の往年のバイクに乗ったバッタ型ヒーローのような構えで降ってこようとしている、かつて東京を救ったNINJAの姿を。

 

「やられ――て――!」

 

 負けず嫌いのイチカが、強い調子で一言一言絞り出す。 大統領たる者、簡単に諦めてはならない。

 更に無慈悲な一撃を繰り出さんと刹那の間にメタルウルフの眼前へと迫っていたケン・オガワ。

 それを認めた時、逆境にイチカ自身の大統領魂が燃え上がる。

 

――イチカッ!――

 

「やられて――たまるかっ!」

 

 咄嗟に、メタルウルフが動く。 次に何をすべきか、どう動かすか。 大統領魂の高まりに応じて、一時的にイチカと先代の意識がシンクロした。

 先代大統領のジュージツ知識と豊富な経験が流れ込み、考えるより先にイチカはその動作を行う。

 空中で、スラスターの勢いを利用したサマーソルトキック。 かつて先代がアルファワームに感染したNINJAを蹴飛ばした一撃が、同時にケンの斜め下への急降下キックと激突する。 とても片方が生身とは思えないような鈍い金属音が響いた。

 

「……ほう」

 

 このままメタルウルフを地に叩き伏せ、地面とサンドイッチして無数の蹴りを見舞うTODOMEに移るつもりだったケンが目を細める。 ケンは激突の反動を利用して後方宙返りし、着地した。

 TODOMEは刺されなかった。 砂地を削り、砂煙を巻き上げながらメタルウルフが膝立ちで着地。 肺いっぱいに新鮮な空気を取りこみ、イチカが呼吸を整えながら起き上がる。

 大統力(プレジデントポイント)の数値は先程より少し上がっていた。

 

「それを振るうのなら、光波に頼り過ぎてはいけない。 ……では、指導を始めよう」

「いてて……。 流石大統領戦争の審判、か」

 

 

 

 

 元々、ケン・オガワは来月に迫った欧州国際IS演習の警備打ち合わせでホワイトハウスとフォート・ウィルソンを訪れていた。

 そこで今回、演習には参加しない大統領から剣の扱い方をイチカに指導してほしいと頼まれ、向かった先にいたのはイチカと、かつての上司で既に故人のマイケル・ウィルソン。

 予想だにしない再会に両者驚愕し、ケンは段々カンベエ・オガワそっくりになってきた風貌をからかわれたのだった。

 一通り剣とジュージツの指導を終えたケンは、また見に来ると言い残すと印を結んで周囲に張り巡らせていた結界を消去。 国連マークのついた青い塗装の大型バイクに跨り、黒いNINJA装束のまま去っていった。

 NINJAである彼は、バイクの運転も一流である。

 残されたイチカとファイルスは、ケンの結界の外からデータ収集に当たっていたスタッフを撤収させながら、格納庫へ歩いていく。

 

「ふむ。 来月のIS演習だが、場所はこの前モンドグロッソがあったドイツのアリーナを使用する。 油断をするなよ」

「分かってるさ」

 

 メタルウルフを整備用ハンガーに戻し、機体の簡易チェックプログラムを走らせる間に煤を払いながら装甲を磨く。

 やってきた整備員と機体状況について確認し、メタルウルフを預けた。

 

「話は変わるがイチカ。 年末は東京に行くぞ。 冬の祭典だ。 カタログも入手している」

「……急に何言ってんの、ファイルスおじさん。 確か今年もNORADがイーリスさん主役の上空を飛び回るサンタカラーのISを追跡(NORAD Tracks Santa)するって言ってたんだけど……」

 

 いきなり話題を変えてきたファイルスに、イチカが呆れたような目を向けた。

 イチカが言う“ノーラッド・トラックス・サンタ”とは毎年クリスマスに北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)が行っている、サンタクロースの追跡である。

 大雑把にいえば架空のサンタクロースをレーダーで確認し、偵察衛星とイージス艦によるネットワークで追跡し、戦闘機でアメリカ領空のサンタクロースを追いかけるものであるが、2年ほど前からアメリカIS国家代表のISを架空のサンタクロースと一緒に追いかけるようになっていた。

 

 一方、ファイルスは真面目そのものである。 夏と冬の祭典は親友に影響されて日本好きになった彼が日本に行ける数少ない機会だ。

 

「君こそ何を言っている、イチカ。 日本で盆と年末といえば夏と冬の祭典だろう?」

 

――ファイルス君、君は何を言っているんだ?――

 

「誰が言ったんだよ、そんなこと」

君の父さん(アレックス)だ。 私も何度かプレジデントフォース技術部でサークル参加したことがあるし……何より、アレックスは毎年向かっていたぞ」

 

 歩兵と特殊機動重装甲の中間のような背中と肩部にスラスターが仕込まれたボディアーマーを着込み、背中にスペースシャトル用の防護素材を転用したHDシールドを背負っている基地の守衛が詰所の中から顔を覗かせた。 2人は守衛にセキュリティカードを見せる。

 この基地に長年勤務する、イチカも顔馴染みの60代の守衛。 過去、この基地へ遊びに来たイチカを何度か取り押さえた経験もある。 8月の襲撃の際には彼も負傷し、一時入院していた。

 詰所の前で夕陽をその装甲とENアサルトライフルに浴びていた自律装甲歩兵(サイボーグ)C33Nが銃口を下ろす。

 赤い双眼を輝かせるその前を通り抜け、フォート・ウィルソンからファイルス家へと戻る。 歩いてそうかからない距離だ。

 

「うーん……、日本に行くのは別に構わないよ。 いつまで?」

 

 イチカは別に日本に行くことに反対している訳ではない。 むしろ賛成だ。 8月のホワイトハウスが襲撃を受けた事件の後、イチカはアメリカへの転校で日本を離れることとなり、友達にも碌に挨拶できていなかった。

 突然の転校で弾は驚き、箒と鈴には滅茶苦茶怒られたことは覚えている。 一応その後、電話で仲直りはしたのだが。

 

「クリスマス頃はナターシャと妻がコロニーから帰ってくるからな。 参加するのは3日目と4日目、その後にもう1日、私は新アキハバラを巡ってくる」

「オーケィ、ちょっと友達に電話して――いや、今日本は深夜か」

 

 家に着いたイチカは代わりにドイツの姉へと電話して時間を潰し、家の中をピョコピョコ動いて回るモッピーちゃんTSP(束さんすぺしゃる)を眺めながらミドルスクールでの勉強をしつつ、日本時間で午前8時になるのを待つことにした。

 ちなみに技術部から返ってきた独特の愛嬌を持つモッピーちゃんTSPは、なんと月まで届くような高出力通信アンテナを内蔵していることが発覚し、技術部の手で一部動作を制限したらしい。 尤も、束の手にかかればどうとでもなりそうなのが恐ろしいが。

 イチカは自分の部屋として使わせてもらっている部屋の電気をつけ、棚の誕生日プレゼントだった射撃競技用の銃とデスクの上に置いてあった8月に撮った写真をチラ見しながらミドルスクールの予習の準備を始める。

 しばらくして10月の作戦における目標チャーリー、グラウンド・アルファの作戦記録をファイルスから借りてきたイチカは、予習として広げていた教材をそのままに、それを再生し始めた。

 

 

 

 

 北アフリカのサハラ砂漠東部、“グラウンド・アルファ”と呼ばれる地域。 そのうちのかつて“リビア”や“エジプト”と呼ばれた国があった場所。

 2011年7月7日、国際条約違反兵器の密輸の検閲にやってきた平和維持軍によって北アフリカの小さな村で確認された未知の生物(感染体)と新種の寄生虫“アルファ・ワーム”。

 その猛威によって“グラウンド・アルファ”と指定されたこの地域は、アルファ・ワームの感染拡大が手に負えなくなった国連の手で“思い切った手段”(超強力核爆弾)を取ることとなった。

 アルファ・ワームは寄生した宿主の体内に産み落とした幼虫を血流に乗せて全身へ移動させ、多くの遺伝子的異変を引き起こして感染者は生きながら異形化し、極めて強靭な肉体へと変化した後、新たなる宿主を探して捕食行動を行うようになる。

 感染レベルの低いうちは著しい細胞壊死と液化現象、腕が大砲のように変異して何か撃ちこんでくるなど所謂“ゾンビ”のようになるが、感染レベルが上がれば2015年の東京に出現したような、軽く高層ビルをへし折る“炎を纏う巨人”や“装甲巨大蜘蛛”、脳に寄生するタイプのアルファ・ワームに支配された思考能力があって喋れる“ミュータントYAKUZA”まで出現するようになる。

 

 リビアは当時内戦真っ最中で、3月には米英仏が中心の多国籍軍が介入し、オペレーション:オデッセィ・ドーン(オデッセイの夜明け作戦)が実施されるなど混迷を極めた情勢下にあったが、このアルファ・ワームとその後の“思い切った手段”によって周辺各国は退去を余儀なくされた。

 とはいえ、それももう20年以上昔のことだ。 確かに寄生虫は国連のGUIDEの、ケン・オガワの手で撲滅された。

 だがグラウンド・アルファ内のリビア、エジプト、スーダン、チャドの国土放棄宣言で核による放射能汚染は未だ手つかずのまま残り、それでなくとも21世紀最悪の生物災害(バイオハザード)が始まったグラウンド・アルファは気味悪がられ、近づく者などいない。

――その、はずだったのだ。

 

 3ヶ所で同時展開している亡国機業拠点攻略戦のうち、地中海を渡って欧州連合軍がアフリカの旧リビア、シドラ湾から上陸を試みるオペレーション:ヴァルキリー。

 少ないISを戦乙女に、数の多いパワードスーツ部隊をエインヘリアル(戦乙女が率いる勇者)に見立てて命名されたこの作戦。 人類から見放され、誰も訪れるものがいない放射能汚染地帯のサハラ砂漠東部。

 その砂漠でかつてオアシス都市だった“セブハ”と呼ばれた都市跡に築かれた四角錐――鋼鉄のピラミッド要塞を目指して、沿岸部の廃墟都市“スルト”に上陸する欧州連合軍は、直線距離にしておよそ300kmという過酷な行軍を迫られることとなった。

 

 そのスルトから数十km地点に存在する亡国機業の前進基地へ向けて欧州連合海軍と空軍による長距離対地ミサイル攻撃が行われたが、そこに展開していた亡国機業の打鉄部隊が超長距離射撃用パッケージ“撃鉄”によってミサイルを狙撃し、迎撃する。

 ならばとその打鉄めがけてミサイルによる飽和攻撃を行うが、迎撃を突破して着弾したミサイルは同じく打鉄のシールドパッケージ“不動岩山”で展開していた広範囲防御に阻まれた。

 打鉄の超高感度ハイパーセンサーによって彼方のフリゲートが照準に捉えられ、超長距離狙撃で次々と船体を覆う電磁バリアを撃ち、減衰、消失した電磁バリアごと狙いやすい艦橋内の要員が撃たれ、貫通可能な部位があればそこを撃ち貫いていく。

 

 ユーロファイターの近代改修型とハウニブ2025が対地ミサイルやエネルギー砲を撃ちこむが、広範囲防御として展開された、周囲15m程を覆う大型ENシールドと鋼鉄の山のような存在感の実体シールドを貫通できない。

 ENシールドのエネルギーはウェポンエネルギー側から供給されるので、これを貫通できない限りシールドエネルギーを削ることすらできないのだ。

 それにそんな広範囲防御を展開しながらも“不動岩山”を展開した打鉄は別に動けないわけではないのだ。 時々場所を移動しながら、3機の狙撃型と1機の防御型で組んだ2組の打鉄部隊が欧州軍を打ちのめす。

 逆にユーロファイターは目標をロックオンして対地ミサイルを放つ、どうしても直線機動になるコースを取った直後、飛来した大口径狙撃弾の一撃でエネルギーシールドを貫通され、翼をもぎ取られてそのまま砂漠へと叩きつけられた。

 廃墟都市以外には遮蔽物は砂丘程度しかない。 超長距離から迎え撃つ打鉄にとって、絶好の狩場と化しつつあった。

 

「ダメです! ミサイル、効いていません! ……っ、ドイツ軍のフリゲート、大破!」

「構うな、弾があるだけ撃ちまくれ! IS部隊の出撃はまだか!?」

 

 やがて強固な電磁バリアに覆われた揚陸艦が到着するが、まだその分厚い扉は開かない。 内部には収まっているのは各国のISを除いたEOAとドイツ製特殊機動重装甲だ。

 欧州ISは揚陸艦上部で飛翔を開始し、超長距離狙撃を回避しながら距離を詰めようとする。

 揚陸艦内部で凸形の防塵ゴーグルの下に保護されたツインアイのセンサー光を輝かせ、既に起動状態で出撃を待つのは砂漠迷彩を施し、装甲にリアクティブ・アーマーを装着した、国連標準採用で人気もあって扱いやすい日本製EOA。

 昔のロボットアニメの兵器を技術立国日本が3mサイズで再現し、日本へのホワイトデビル襲来(白騎士事件)でも白騎士相手に戦った79式の改良型、“陸戦型79式改機動装甲”(ゼネラルモビルアーマー)

 

 ロボット技術でアメリカに追随、または並ぶ日本は、基本的に輸出されないアメリカ製特殊機動重装甲に代わってEOAのシェアも獲得した。

 尤も、日本だけでは生産力が足りないのでアメリカや欧州でライセンス生産もされている。 どちらかというと79式の元ネタに食いついたような形ではあったが。

 日本国内では同型機は“ライジングサンカスタム”(旭日改)と呼ばれているが、国際的な名称は“ゼネラルモビルアーマー”(GMA)、もしくは略称から“ジマー”となっている。

 その砂漠対応モデル“砂漠型79式改機動装甲(ゼネラルモビルアーマー・デザート)”、略してジマー・デザート。

 欧州連合陸軍が総力を賭け、多数の揚陸艦に収めるジマータイプの機数は実に4桁を優に超える。

 

 特殊機動重装甲の登場によって、戦場の主役は“歩兵”の手に渡った。 支援の航空機や戦車、艦艇こそ居れど、それらはもはや主役ではない。

 ならば、その戦場へと主に出てくるのは、パワードスーツを纏った装甲歩兵であるのが必然。

 被曝を避けるべく通常の生身の歩兵は上陸部隊に参加していない。 パワードスーツを纏っているのを除けば、前時代的な人間同士の決戦だ。

 ジョディのみならず、この世界の人型兵器好きな一般人が見ていれば大興奮間違いなしだろう。

 

 ところがそんなことなど知らぬとばかりに砂漠を駆けるいくつかの影。 揚陸艦の上からバイクとストライカー装甲車の次世代型、“ウィルソン装甲車”で飛び降り、廃墟都市スルトを抜け、砂漠を疾走する黒装束の集団の姿!

 国連の国際災害対応機関GUIDEから派遣された、NINJAの軍団だ! ケン以外は不整地用ホバークラフトで砂漠を爆走するドーザーブレード付き8輪装甲車の上で印を結び、赤黒い球状のエネルギーを纏う防護結界で忍んでいる。

 

「嘘でしょう……!? GUIDEのNINJAを投入してきたって言うの!?」

 

 欧州連合軍の先陣として疾走するケン・オガワを超長距離から打鉄の撃鉄パッケージによって狙撃する。

 だがその音速を超えて飛来する砲弾を、ケンは見てから回避余裕とばかりに腕力だけでバイクを空中へと舞わせ、極めてアクロバティックな動きをしながら砲弾を紙一重で回避した。

 

「……は?」

「偶然よ、当ててやるわ!」

 

 もう1発、超長距離射撃がNINJAの駆るバイクを襲う。

 だがやはり砲弾程度見て回避できると言わんばかりに、空中で持ち上げたバイクごと身体を捻ってアクロバティックに砲弾を回避した。

 何事もなかったかのように回避しつつ空中で結んだ印でその背後に光り輝く結界が出現し、後方の欧州連合軍に直撃コースだった砲弾を受け止めた。

 

「……はぁ!?」

「狼狽えるな! 3人がかりであの目障りなNINJAを制圧射撃すれば……!」

 

 撃鉄パッケージの打鉄3機がかりの砲弾の嵐がケン・オガワを襲う! しかしそろそろ面倒になってきたのか、ケン・オガワはバイクをウィリーさせ、腕力と前輪を叩きつける反動で軽く100mほど跳躍した!

 空中で何度も前転しながら勢いを増したケンが、バイクを数km離れた打鉄部隊の1組めがけて投げ飛ばす。 そして自身は“NINJUTSU”で大型手裏剣に旋風を巻き起こさせ、旋風で飛来した砲弾を逸らしながらそれに飛び乗った!

 当然ながらバイクは打鉄にあっさりと撃墜されたが、ケンが飛び乗った旋風手裏剣は超人1人乗せたまま強風で浮かび、巨大な砂嵐を巻き起こしながらまるで空中でスノーボードにでも乗っているかのようにこちらへと迫ってくる!

 

「何よアレ!?」

「もう駄目よ、NINJAが出てきたらおしまいだわ……!」

 

 ケンが空中の砂嵐の中で印を組み、両手を掲げる。 “NINJAPOWER”によって生み出された、紫電のプラズマを纏って中心が白く光り輝く2m程の赤黒いエネルギーの球体が両手の上で生成され、打鉄部隊へと飛来する!

 

「防御体勢ーっ!」

 

 不動岩山パッケージの広範囲防御がエネルギー球と激突し、視界が真っ白な光に覆われる。

 凄まじいエネルギーで打鉄のウェポンエネルギーが削られていきながらも受け止めていたその間に、ケンは赤いオーラを纏う刀身の妖刀NinjaBladeを振るう!

 赤いエネルギーが斬撃波(ビーム)として撃ち出され、2つのエネルギーが合体してついに不動岩山の広範囲防御は突破され、不動岩山の一部を削り取りながら、砂地に着弾した!

 そしてついにNINJAの刃は打鉄部隊を捉える。 着弾で巻き上げられた砂の中をNINJA仕様ミニガンによる多量の弾幕を形成しながら突っ切って現れた不整地用ホバー式のドーザーブレード付き装甲車が超高速で激突し、撃鉄パッケージの打鉄が轢かれて勢いよく空中へと跳ね飛ばされた!

 NINJAは装甲車の運転も一流だ。 吹き飛んだ打鉄へ装甲車のグレネードマシンガンと忍者刀を背負うミニガンNINJAの集団が火を噴く。 ミニガンは貫通はできないが、目くらましにはなる。

 

「な――!?」

 

 同じく砂の中へと突っ込んで不動岩山パッケージの打鉄の至近距離に青白い残像と共に姿を現す、黒装束のケン。 歯車のように高速空中縦回転しながらNinjaBladeで赤い旋風となって不動岩山を破られた打鉄を襲う。 超人的筋力で力任せにシールドバリアーを突破した刃が打鉄のシールドエネルギーを削っていく。

 適当な頃合いで双剣のワイヤーを3秒前に空中へと跳ね飛ばされた撃鉄パッケージの打鉄に打ち込み、空中でISの重量など一切感じさせずに打鉄を高速で振り回し、着地するまでに残りの打鉄3機をなぎ倒した!

 当然だ。 彼は空中で飛来する高層ビルをも受け止めて投げ返すNINJA筋力の持ち主なのだ!

 打鉄にTODOMEの必要はないだろう。 中身は普通の人間だ。

 ここまで忍んできたNINJA、ケン・オガワが無力化して鎮圧した打鉄部隊から視線を逸らし、別の方向を見上げる。 そこには巨大な円盤状の飛行物体が見えた。

 

 

 

 

 そして、NINJAが砂嵐を巻き起こしていた頃にまた別のポイントでは、前進基地から出撃するEOAとロシアの赤い突撃歩兵が押し寄せてくる。 そんな最前線へと、円盤状の物体とその上に立つ2機の大統領機が飛来した。

 ドイツ空軍の遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)部隊“ヴァイス・アドラー”(白ワシ隊)所属のエネルギーシールドを纏う直径100mサイズの大型多目的戦闘機“ハウニブ2035”だ。 ISではない。

 内部にはISの絶対防御と操縦者保護機能を作動させた操縦者と降下を待つ陸軍特殊機動装甲部隊が、いつ撃墜されるかもわからないから早く中身を降ろさせて(早く降下させてくれ)とヒヤヒヤしながらその時を待っている。

 そしてその上に立つのは、かつて各国の最強の存在であり、数年ぶりに戦線復帰したドイツとフランスの大統領機(プレジデントアーマー)に他ならない!

 ドイツ元首相が駆る“グスタフツヴォー”が、アダムスキー型UFOに似た、しかし元は旧ナチス・ドイツの秘密兵器であった円盤機をお立ち台か何かと勘違いしたかのように、その上で両腕を高らかに掲げながら叫ぶ!

 打鉄の超長距離射撃パッケージ“撃鉄”による超長距離狙撃弾が飛来するが、元より重装甲が特徴で、しかも元首相が乗る特殊機動重装甲を撃ち抜くことはできない。 乾いた音を立て、弾かれていく。

 

「ドイツの技術はァァッ! 世界一ィィッ! 貴様らテロリスト如き、この“ツヴォー”の前に恐れるまでもなァァいッ!」

「……大丈夫か、ドイツの。 グスタフで戦場に出るのは中東IS戦争以来だろう? 機嫌がいいのはわかるが、私のような若者に任せて引っ込んでもいいんだぞ?」

「冗談ではなァァいッ! 若者を戦争に投入して、我々が安全な場所で観戦なぞできるわけがなかろうゥゥッ! 大体貴様、私とそう変わらんではないかァァッ!」

「……せめてフィンランドのように静かか、カワイイ女の子と組みたかったぜ……!」

「では、私がお傍にいましょう、元大統領閣下」

 

 最新技術で蘇ったドイツの特殊機動重装甲“グスタフツヴォー”とドイツ元首相。

 その彼にジョークを飛ばしながらフランス元大統領が操る、燃え盛る炎を纏って攻撃に使用する“アルミューレ・フラム”を装甲と大槍に纏わせ、炎弾を撃ちこむフランスの聖女を模したEOA“ジャンヌ・ダルク”。

 そのIS版にしてフランス代表第2世代IS、ラファール・リヴァイヴの汎用性を捨てた燃える全身装甲IS“ジャンヌ・リヴァイヴ”がジャンヌ・ダルクの下へと飛来する。

 

「そうかい、よろしくレディ。 だが最初は私の勇姿を見ていてくれ!」

「危なくなったら支援しますので、閣下」

 

 空中へと跳躍した大統領機2機から、手始めにドイツ大統領機が88cm砲改の砲弾をプレゼント。 ギローィと亡国機業のEOAがなすすべもなく巨大クレーターと共に粉微塵に吹き飛ばされる。

 後方にいるので今は見えないし、そもそもどこに隠れているのか分からないが、フィンランド元大統領のギリースーツ型光学迷彩を纏う狙撃型大統領機“バーレルセル”もどこからともなく狙撃している。

 モンドグロッソ決勝戦でアメリカ大統領がISと戦っていたことで再び戦意を燃やした3名は、長いブランクを感じさせない動きで敵を仕留めていく。

 88cm砲改、第2射。 超威力のその砲弾を空中から直接前進基地へと撃ちこんだが、迎撃の打鉄部隊によって砲弾を撃墜される。 だが想定済みだ。

 すぐさま迎撃した打鉄の元へと大量の炎弾と共に88cm砲弾が撃ちこまれ、周辺区画ごと打鉄部隊を吹き飛ばす。 大量の砂を巻き上げ、常識外の破壊力に直撃された打鉄が空中へと放り出された。

 

 量産型ISのシェア第2位であり、“破壊寸前まで追い込んだ盾があっという間に新品同様まで自己修復された”という逸話を持つ第2世代最高の防御力を誇る日本製IS、打鉄。

 その打鉄がシールドパッケージ“不動岩山”で展開していた広範囲防御内からこちらに攻撃していたIS部隊が、想定される攻撃力を遥かに超えた88cm砲改の直撃で諸共に吹き飛ばされた。

 再生する。 防御力が高い。 そんなもの、ドイツ元首相とグスタフツヴォーの前には無意味だ。

 何故なら彼は強化人間にして当時のドイツ連邦共和国首脳、最高権力者にしてドイツ最強の戦士、首相(プレジデント)であった。

 アメリカ大統領が元陸軍少佐な大統領のように、当時のロシア大統領が元KGBな大統領だったように、彼は強化人間から首相へと至ったのだ。

 ドイツの元首相は、遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)以前のタイプである外科手術によって性能を強化した強化人間部隊出身だ。

 後々遺伝子強化試験体が施されることになる技術を、その十数年は昔の安全が確認できないうちから真っ先に人体実験で導入されていた強化人間部隊は、もちろん損耗も激しかった。 実戦的な意味でも、実験的な意味でも。

 そしてここ数年、静かに余生を送っていた彼はモンドグロッソ決勝戦を見て、自らの身体に最新技術を投入させて戦線へと蘇ったのだ。

 

 8万のシールドエネルギーを持っていた打鉄の集団がただの一撃でエネルギーゼロに追い込まれ、具現維持限界(リミットダウン)に陥る。

 クレーター状に吹き飛んだ着弾地点でIS操縦者が原形を保ち、絶対防御の救命領域対応で瀕死で昏睡状態とはいえ生存しているのは、流石ISと言うべきだろう。

 無論、次に何かしら流れ弾が飛来すれば生命の保証はないが。

 上陸時の最大の脅威は排除された。 ドイツ元首相が叫ぶ。 人型戦車モデルの特殊機動重装甲が突撃時に叫ぶ言葉など、決まっている!

 

全軍、突撃ィィィッ!(Panzer vor!)

閣下に続け!(Panzer vor!) 俺達の戦う相手がいなくなっちまうぞ!」

 

 大型多目的戦闘機ハウニブ2035の下部装甲が開き、内部からドーラを纏う極めて士気の高いドイツ陸軍の特殊機動重装甲部隊が降下する。

 巨大な機体でありながら、装甲内側の極めて広い範囲が空洞になっているハウニブ2035が、空中から高出力エネルギー砲を放ちながら支援する。

 グスタフツヴォーを駆るドイツ元首相は、2010年代から20年代、純粋に“人型生体兵器”として軍の備品扱いされていた強化人間及び初期の遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)に対する基本的人権を認めさせるべく、自身含めた強化人間部隊で議会制圧を実行し、その後参政権を得て堂々とドイツ首相へ駆け上がった、ドイツの強化人間にとって神のような存在である。

 いっそこれが撃墜されればIS“ヴァイス・アドラー”を展開してもっと援護できるのに、とハウニブ2035内で歯噛みする遺伝子強化試験体の操縦者。

 3人のかつて大統領戦争を戦った元政府トップが奮戦し、それに続かんと揚陸艦からも上陸を開始した欧州各国のEOAや特殊機動重装甲が砲弾の雨を降らせた。

 3mサイズのEOAと特殊機動重装甲に各国のISが、未だ放射線量の高い無人のスルトを瞬く間に制圧し、間を置かずに前進する。

 各国のEOA精鋭部隊がISと航空機に護衛された輸送機で飛来して、大統領機の(最前線)付近へと次々降下した。 戦況はNINJAと元首相と元大統領の3名によって欧州連合軍に傾きつつある。

 

「まずいぞ、敵に大統領機(プレジデントアーマー)がいる!」

「EOAじゃ大統領機に太刀打ちできないわよ、ISを突っ込ませなさい!」

「させるとでも?」

 

 空舞う亡国機業のテンペスタ。 嵐を冠するその機体は風を操り、掌の上で収束させて製錬した高圧大気の槍を出現させる。

 それを欧州連合のラファール・リヴァイヴが迎え撃ち、重機関銃“デザート・フォックス”2丁を撃ちながらドッグファイトへ突入した。

 

 それら大統領機とパワードスーツ部隊に対する亡国機業の戦力はやはりEOA、ジマー・デザート。

 亡国機業ジマー・デザートが横薙ぎに振るうエネルギーサーベルを、グスタフツヴォーが自慢の超機動で一瞬にして背後に回りながら回避し、がら空きの装甲の薄い脇腹からコクピットへ向けて高周波ナイフを突き刺す。

 力尽きたEOAを有り余るパワーで放り投げ、極めてテンションの高いパイロットの言動と共に、運悪く激突させられたジマー・デザート諸共跳躍からの急降下で踏み潰しつつ88cm砲改を発射した。

 発射時の衝撃波で砂を大量に巻き上げながら、その砲弾はギローィの集団に着弾し、集団諸共消し飛んだ。

 

 その一方で、ジャンヌ・ダルクが炎の大槍で亡国機業EOAの胸をパイロットごと溶断しながら、掌に生み出した炎の大玉をジマー・デザートの集団へと投げつける。

 複数の敵機が高熱で燃え盛って制御不能となり、ジェネレーターが大爆発を起こして吹き飛んだ敵機の後続を、どこからか神業的な長距離狙撃を行うバーレルセルが対大統領ライフルで次々と一撃で仕留めていく。

 元とはいえ、彼らは国家の頂点であった首相と大統領(プレジデント)。 生半可な戦力で彼らを止めることなどできない。

 

 国連軍(UN)の表記が機体とシールドに描かれた欧州連合軍と、国連軍表記を亡国機業のマークに変えたジマー・デザート同士がシールドを構えながらレールキャノンを撃ちあい、欧州連合軍の後方から通常型のジマーや砲撃型ジマーがキャノン砲で支援砲撃を行う。

 それに割り込むように迂回して戦線の側面から静かに吶喊するドイツ陸軍のドーラ。

 ライフル式のレールキャノンで欧州連合機を撃破した亡国機業機が240mm砲の直撃を受けて消し飛び、27mmリボルバーカノンをシールドで耐えながらブースト突撃したジマー・デザートが高周波チェーンソーで斬り伏せられたかと思うと、直後に踊りかかった3機の高機動型ジマーのエネルギーサーベルに串刺しにされ、ドーラが弾薬庫に引火して大爆発を起こす。

 

「欧州の犬め……! 私たちがこの世界を1つにすれば新世界は平和になるのに、何故わからない! ここで死んでいきなさい!」

 

 高高度から爆撃し、マシンガンとアメリカ製のMIM304 地対空4連装ミサイルランチャー(EOA用パトリオットミサイル)で対空射撃を行う欧州連合軍に爆弾と銃弾の雨を降らせながら飛来する大量のミサイルを潜り抜け、撃ち落としていく亡国機業ラファール・リヴァイヴ。

 21世紀初頭には中隊規模で運用し、多数の車両を使用して発射されたミサイルも今ではたった1機の機動兵器によって運用可能になっていた。

 だがマッハ5で飛来するミサイルであっても、ISを落とすのは難しい。

 PICによって遅くとも音速飛行し、死角から狙おうが発射体勢に入るだけで超反応速度のハイパーセンサーに捕捉され、捕捉されればハイパーセンサーによる射撃補佐もあって風が強かろうが正確に計算済みの攻撃が返ってくる。

 極め付けに命中してもオートガードにシールドバリアー、絶対防御が存在し、致命傷に至らない。 IS1機にEOA部隊があっという間に叩き潰されるのも珍しくはない。 大統領機でもない限り。

 故に高高度から攻撃を行うISには、砲撃の雨が地上から空に降るような量の攻撃がほぼ確実に行われる。

 警告表示を設定で切り替えて色分けされた、通常敵機と射撃体勢移行済み敵機と友軍の3色ある無数のロックオンカーソルとこちらへと飛来する4桁の砲弾が、ラファール・リヴァイヴのハイパーセンサーの視界を彩る。

 IS操縦者の対処能力を飽和させて命中弾により飛行不能にする、防御機能を超える衝撃で意識を奪う、読まれていようと関係ない一撃を叩きこむ、首脳(プレジデント)をぶつける、対処方法はいくらかある。 どれも当たらなければ意味はないが。

 

この世界を一度粛清(ワールド・パージ)して、新たな世界を創造するのよ! 邪魔をしないで!」

 

 機動力にものを言わせて砂漠を滑るように低空飛行で進む、上空の機体とは別の亡国機業ラファール・リヴァイヴ。

 上空の機体に対処するMIM304装備ジマー・デザートを強襲して鉄屑へと変え、レールキャノンの砲弾を肩部シールドで防ぎながら両手のIS用アサルトカノン“ガルム”でジマー・デザートを的当ての的のようにその胸部を撃ちぬき、装甲を貫かれたジマー・デザートが操縦者を失ってレールキャノンのトリガーを引き続けたまま仰向けに倒れ伏す。

 そのラファール・リヴァイヴを操る女性が暗い笑みを浮かべるのと同時に砂丘の陰から無限軌道で加速したドーラが空中へと跳躍。 先ほどと同じくガルムを撃ちこむが、叩き落とせると読んでいたドーラの分厚い曲面装甲に弾かれて、ガルムを連射するラファール・リヴァイヴはブーストで踏みつけられるようにシールドバリア越しに頭を蹴り飛ばされ、砂地を転がっていく。

 240mm砲弾を転がるラファール・リヴァイヴに連続して叩き込みながら、ドーラの操縦者が叫ぶ。

 

テロリスト(亡国機業)の妄言に耳を貸す必要はない! 全員でこのまま連中(IS)を空から引きずり落とせ!」

「とっくにやっている!」

「スペイン陸軍、ミサイル第5中隊KIA!」

 

 上空ではマッハ5で飛来するミサイルを迎撃しつつ、新たに発射体勢に入ろうとしたジマー・デザートの部隊を遥か下方で戦闘不能になった味方の分までENガトリング砲で掃射して薙ぎ払うラファール・リヴァイヴだが、毎秒2桁の攻撃に晒され続けてついにレールキャノンの砲弾が連続で命中。

 ラファール・リヴァイヴのウイングスラスターで4基あるうちの多方向加速推進翼1基が破損して高度を落としていく。

 ラファール・リヴァイヴの自動姿勢制御とブラックアウト防御で墜落は免れるが、その隙に集中砲火を浴びてもう2基のスラスターを潰され、PICで浮遊自体はできるが完全に的となった。 集中砲火を浴びて、錐もみしながら墜落して行く。

 

「“ガーデン・カーテン”、展開します! EOAの皆さん、シールドの後ろに!」

「おうよ! 生きて帰ったらイタリアワインを奢らせてくれ、ISのお嬢さん!」

 

 あるところでは打鉄用の不動岩山パッケージをラファール・リヴァイヴ用に改修した防御パッケージ“ガーデン・カーテン”装備の欧州軍ラファール・リヴァイヴがイタリア陸軍EOA部隊の前に立ちはだかって前進する盾となり、大型ENシールドの内側からジマー・デザートが一方的な攻撃を加える。

 高機動パッケージを装備した亡国機業の打鉄の編隊がその上空、地上から豆粒のように見える高度からマルチロックオンしたミサイルで爆撃し、プログラムに従って一直線に飛来するミサイルをシールドで凌いだジマー・デザートの大隊がミサイルとレールキャノンで反撃する。

 またあるところでは欧州連合のジマー・デザート隊を急降下で強襲して決死の反撃を行う部隊を一方的に崩壊させ、砲撃を回避しながらかなりの高度まで舞い上がった亡国機業のラファール・リヴァイヴが、倍以上のジマー・デザートに撃ち返されて数の暴力を振り切れずに撃墜され、最後には具現維持限界(リミット・ダウン)になるまでエネルギーサーベルを突き立てられ、トドメを刺された。

 

 随伴兼護衛としてきていたドイツ陸軍の、ISと特殊機動重装甲を運用する遺伝子強化試験体部隊である“グリューン・レーヴェ”(緑獅子隊)隊長機ISを適当に追いやったドイツ元首相が暴れる最前列より先へ、イギリス代表のIS“メイルシュトローム”が全身のスラスターを吹かせながら飛び込む。

 騎士をイメージさせる装甲をISスーツの上に纏ったイギリス代表が、眼下を這いずる(劣等種)と、男共と共闘する女(哀れな存在)の群れに辟易しながら超高速で回転、頭を大地へと向けたまま複数の敵機をマルチロックオンし、非常に短い間隔で連射される高出力レーザー弾を撃ち下ろし、応戦するジマー・デザートとギローィをハチの巣にしていった。

 メイルシュトロームの名の通りそのまま大回転しながらレーザー弾を全方位の敵機のみにまき散らし、停止したかと思えば両手首を覆う裾部分と肩などの全身から発生したレーザーブレードを展開して、高い機動性を活かしてまたも高速回転しながらレーザーの渦となって突っ込んでいく。

 この大回転が家庭用ゲームの“アーマード・プレジデント2”に対抗して日本の同じ企業から発売予定の“インフィニット・ストラトス/ヴァーストスカイ”にも採用されているが、アーマード・プレジデント2同様にVRヘッドセットを付けてプレイするゲームなので非常に酔いやすく、ベータテスターからも非常に使いづらいと評されている。

 

 メイルシュトロームが通過した後には、もう立っている敵機は存在しない。 そんなメイルシュトロームがレールキャノンとミサイルの集中砲火を受け、機体を一部損傷しながらも平然と反撃しつつ、紅茶を漏らしながら後方へと下がっていく。

 追いかけてきた亡国機業のテンペスタが同じように集中砲火を受け、後退しようとしたところで長距離狙撃で前進基地の出撃ゲートを粉砕したフィンランド大統領機に背後から狙撃され、対大統領弾でシールドバリアーごとウイングスラスターを撃ち抜かれて大地へと堕ちていく。

 その先には、たった今ゲートを粉砕されてこじ開けられた出撃ゲートに炎弾と88cm砲改を撃ちこんだ2機の大統領機が待ち構えており、最早テンペスタ操縦者の運命は決着したも同然だった。

 

 

 

 

「こっちはこっちですげぇな……!」

 

 日本時間で午前8時になったのを確認したイチカの携帯小型端末から投影ディスプレイを表示し、連絡先を呼び出す。

 その間に作戦記録の終盤だけ確認したが、先程の場面から1時間後、欧州連合軍は犠牲を払いながらもグラウンド・アルファの亡国機業“モノクローム・アバター”拠点の前進基地を制圧。

 勢いに乗った欧州連合軍は300kmの行軍を踏破し、鋼鉄のピラミッド要塞をも制圧した。

 幸か不幸か、こちらの拠点ではUFOは確認されることもなく終わったらしい。

 

 そして、サハラ砂漠東部には再び世界が死んだような静寂が訪れた。 破壊された要塞とオアシス都市のなれの果ては、砂に包まれて再び永い眠りへとついたのだ。

 

「さてと……」

 

 いつの間にかイチカの肩に上ってきてモニターを見ていたモッピーちゃんTSPが何故かプルプルと震えていたので、とりあえずモッピーちゃんTSPを降ろした。

 選択したのは鳳鈴音。 日本の中学時代の友人だ。 弾はどうやら取り込み中なのか、応答がなかった。 箒はどうもモッピーちゃんTSPを毎日見ているとしょっちゅう会っているような気分になってしまう。

 数回のコールの後、接続音が聞こえた。 モニターに鈴の顔が表示されるより早く、イチカは喋り出す――うっかり、英語のままで。

 

 

 

 

 冬の新生ナチス・ドイツ連邦。 ドイツ特殊部隊“シュヴァルツェ・ハーゼ”(黒ウサギ隊)が駐留する基地にも雪が降り、基地スタッフの女性が操るドイツ製特殊機動重装甲“ドーラ”の予備機が、本来なら超重量の88cm砲も担げるそのハイパワーで巨大スコップ片手に雪かきをしている。

 その全身装甲の内部、エアコンとパイロットスーツによる温度調節で適温に保たれた空間から向けられた同情するかのような視線の先には、半裸といって差し支えない、ISスーツとパイロットスーツ姿の女性と少女たちが整列している。

 

「遅いぞ、小娘共! 非常事態宣言が出ることは分かっていただろう!」

 

 ISスーツで凛として立つのは日本から教官としてドイツにやってきた元日本代表にして初代ブリュンヒルデ、織斑千冬。

 そのまま彼女は続けて何事か罵倒の言葉を吐きだそうとしたが、現在直面している事態を素早く思いだし、追撃をやめた。

 

「ではボーデヴィッヒ、説明してみせろ!」

「ハッ! 現在、新生ナチス・ドイツ政府は元ドイツ代表、ゼクス・アルトマイヤー議員によって拡大しつつある反政府組織(新生ナチス政権反対派)を粛清すべく、ゼクス議員を拘束! 反対派に対して化学兵器戦術(有毒ガス)部隊によって粛清を行う模様です!」

「そうだ! 幸い、貴様らの部隊は機動兵器に搭乗していれば化学兵器をばら撒かれても平気だ! だが、だ! 貴様らは化学兵器を無実の国民に対して使わせていいと思っているか!?」

「思いません、教官!」

 

 新生ナチス政権は、国民に人気があったゼクス・アルトマイヤーが政界入り後、みるみる内に支持率を落とした。

 これに怒った反男性・女性至上主義を掲げている新生ナチス・ドイツの女性総統(首相)は、ゼクス議員を拘束し、更に他の反対派及び野党の議員とそれに与する国民を化学兵器によって抹殺すべく、化学兵器戦術部隊を動員させた。

 総統が粛清に備えて新設させたこの部隊は全員が新生ナチス派の女性で構成され、しかもその隊長は化学兵器を満載した粛清専用ラファール・リヴァイヴを所有している。 攻撃開始は時間の問題であろう。

 それを遅らせるべく、特殊機動重装甲のドーラを装備した男性軍人たちとIS及び特殊機動重装甲を凍結された首都防衛隊の“ロト・ティーガー”戦闘歩兵が命がけで抵抗する、という連絡も入っている。

 別口で総統専用ISを纏う新生ナチス・ドイツ総統がいる総統官邸――旧連邦首相府へ、軍から要請を受けた元首相が駆る“グスタフツヴォー”が向かっているという情報もあったが、これに横槍を入れるのは無粋だと軍も判断していた。

 

「それでいい。 そして、軍の上層部から貴様らに命令が下った! 最初の遺伝子強化試験体(貴様らの姉)をロト・ティーガー、シュヴァルツェ・ハーゼ、陸軍グリューン・レーヴェ、空軍ヴァイス・アドラー、海軍ブラウ・ヴァールの全遺伝子強化試験体部隊(その妹たち全員)によって救出し、軍を救援、化学兵器戦術部隊も制圧せよ!」

了解!(jawohl!)

「今回、(日本)の出撃及び介入は認められていない。 だが、この2ヶ月鍛えたのは無駄ではないと信じている! 帰ったらまた鍛えてやる、生きて帰ってこい! ドイツの問題はドイツ国民の手で決着をつけろ……よし、出撃!」

 

 シュヴァルツェ・ハーゼの新しく隊長に就任したラウラ――尤も、実力はあり、グリーンランド出撃以前より何故かマシになったとはいえ隊員の人望があるとは言い難く、実質副隊長になったクラリッサが隊員をまとめているのだが――は考える。

 実のところ彼女は以前まで隊員たちから“いつも無愛想で冷徹な生体兵器(我々)以上に生体兵器らしい存在”として、越界の瞳不適合もあって敬遠されていたが、“メタルウルフにお姫様抱っこされて、あの冷血少女が薄く微笑みながら腕の中から降りてきた”というギャップに隊員が打ちのめされたとかされてないとかいう話があることに気付いていない。

 

――ここ最近は奮わないようだが、なに、心配するな。 私が教えるからには1ヶ月で部隊内最強へと戻してやろう――

――気にはかけていたのだがな。 生憎、私には教官は向いていなかったらしい。 5部隊全ての教官をしつつ、首都防衛隊の隊長も兼任し、モンドグロッソへの調整をしていればこうなるのも必然か。 千冬、彼女を頼む。 才能はあったから、部隊内どころか国内最強にもなれるかもな――

 

 10月の初め、出来損ない(ラストナンバー)と呼ばれていた彼女が出会った、2人のブリュンヒルデ。 それまでの教官であったゼクスと、新たにやってきた織斑千冬。 特に後者は彼女の憧れる光となった。 ああなりたい、と。

 それからおよそ3週間後にはその弟と遭遇して作戦から共に生還し、千冬の指導を1ヶ月少し受けた頃には、ラウラは才能と努力で再び部隊内最強へと返り咲き、IS操縦者へとなった。

 そんなある日。 ラウラは千冬に尋ねたのだ。 何故そんなに強いのか、と。

 すると強く凛々しく鬼のように厳しい、“唯我独尊私がルールだ”を体現する教官がどこか気恥ずかしそうに、そして優しげな声音で言ったのだ。

 

――私にはやんちゃ過ぎてメタルウルフまでも動かした弟がいるのだがな――

――イチカ・オリムラですね。 先日の作戦で会いました――

――なんだ、もう会ったのか。 まぁ、強さにもいろいろあるのだが、あいつを見ていると強さとはなんなのか、そのうちの1つがわかるのだ。 あいつには芯がある。 大統領になって世界を守る男になるという、今は大言壮語だが……あいつは呆れるくらいにまっすぐだからな、もしかすると、本当になりかねん――

――確かに、言っていました。 甘い男ですが、意志の強さは一人前かと――

――フッ、だがな。 まだまだ私も14歳のガキに守られるほど、弱いつもりはない。 だから、今は所属する国は違うが、あいつが夢を叶えるまでは可能な限り私がイチカを守るつもりだ。 お前の姉は、お前が誇れる程度には強いのだ、とな――

 

 そう言った千冬は、酷く嬉しそうな顔をしながら最後に付け加えた。

 

――そういえば、あいつは未熟者だが妙に女を刺激するのだ。 心を強く持たねば、油断すると惚れてしまうぞ。 なにせ、私の自慢の弟だ――

 

 生憎、自らを戦闘兵器であると自負するラウラはそれを一蹴した。 だが、何故かモヤモヤすると宿舎への帰りにその話を共に聞いていたクラリッサへなんとなく零すと、クラリッサはまたしても妙に興奮していたのは覚えている。

 

「クーデター軍に合流する! まずは抵抗中のロト・ティーガーを救援に向かう!」

了解!(jawohl!)

 

 飛行能力を持たないドーラが高速輸送ヘリに収容されたのを確認したラウラの小柄な身体が光に包まれ、第2世代ISシュヴァルツェア・イェーガーが展開される。

 その隣では同じくクラリッサと、もう1人のIS操縦者も。

 

「シュヴァルツェ・ハーゼ、全隊員出撃! 目標、首都ベルリン!」

 

 漆黒の猟兵が、白い雪が舞う新生ナチス・ドイツの空へと飛翔した。

 

 

 

 

「やったぁ! でーきたっ!」

「お疲れ様です。 お茶でも淹れましょうか」

 

 月の表側のどこかに存在する秘密研究所。

 そこには腕が異様に長く、深い灰色のカラーリングに不規則に並べられたセンサーレンズを持つ全身装甲(フルスキン)の機体が直立していた。

 その前には、今日は赤ずきんとマッチ売りの少女を合体させたような服装にうさ耳を付けたような女性と、銀髪の少女が立っている。

 彼女が“くーちゃん”と呼ぶ銀髪の少女の為に造ったモノだ。

 両目を常に瞑り、銀髪に三つ編み。見た目は12歳程の少女。篠ノ之束の唯一の助手、通称“くーちゃん”。

 

 彼女――篠ノ之束は行方をくらますと同時に、ISコアの製造を打ち切ったことは世界にもよく知られているが、これには理由があった。

 そもそも、ISコアは大量生産ができず、篠ノ之束が1つ1つ時間をかけてコアを手作りしている。 コアに個性があるなどとされるのは手作りだからだ。

 白騎士事件直後、世界終末の危機として緊急集結した国連GUIDEのNINJA達はミサイル迎撃には間に合わなかったものの、日本政府の支援もあって篠ノ之束を捕捉し、一旦拘束することに成功した。

 それから1年後のアラスカ会議まで、一時の自由を手に入れた束は、白騎士を操る千冬を連れ、月で特殊なレアメタルを集め――結果、アラスカ会議直前までに469個のコアを完成させた。

 その後、束はそもそもISコアの材料がない中でISコアを造る気にもなれず、月の地下基地に自給自足できるオートメーション化したプラントを作ってくーちゃんと天体観測しながら2人で過ごしていた。

 それも、マゼラン星雲方面をずっと。 たまにこの方面から太陽系に飛来する岩塊(デブリ)があるのだ。 そうでないモノ(・・・・・・・)もあるが。

 

「それにしても、まだあのトンデモ集団(GUIDEのNINJA)いるんだね……」

 

 片手間に見ていた別のモニター(モッピーちゃんTSP)でアフリカ戦線の様子を見ていた束の身体が震え、そのたわわな胸も揺れる。

 余談だが、彼女がもしも全面的にアメリカに協力していれば今頃月面都市が1つできあがっていたかもしれない。

 篠ノ之束は、アメリカが苦手だ。 せっかく作った白騎士も大破寸前に追い込まれるし、アラスカ会議では首脳(プレジデント)の集団に囲まれ、怖い思いもした。

 しかし同時に、宇宙開発を行う余裕があり、一番ISでの宇宙進出に積極的なのがアメリカである。 アメリカをどうこうしようものなら、彼女の夢である人類の宇宙進出は遠のいてしまうだろう。 それに、今は親友織斑千冬の弟であるイチカも身を寄せている。

 箒や千冬、イチカがいる日本とアメリカ以外の国に対しては基本的にどうなろうと知った事ではないが、この2ヶ国に対しては静観に近い状態だ。

 

「さーて、これをどこでテストしようかなー?」

『……ほう、ウィルソンJr。 とうとうISを宇宙開発に使おう、と?』

『そうだ。 ホワイトデビル襲来(白騎士事件)の終わった頃から、新しく国際宇宙ステーションの建造を始めたのは、ケンも知っているだろう?』

「むむっ!?」

 

 そんな時、どこかにしかけていた盗聴マイクの電源が入り、声を拾った。 このマイクは篠ノ之束が興味を示す特定の人物の声か、特定の話題を拾った時のみ、電源が入るようになっている。

 宇宙ステーションについては、もちろん束も知っている。 ISの宇宙進出にも関係もあるし、衛星軌道でアメリカの宇宙艦隊も派手に動いている。

 

「ウィルソンJr……ケン……誰だっけ?」

「……束さま。 その名は、メタルウルフと、NINJAのマスターです」

「げぇ!?」

 

 びくり、と思わず束の身体が跳ねる。 興味がある、とはいえそれは天敵のような相手に対する興味だ。

 こちら側からマイクを切ろうとも思ったが、話している内容自体には興味があった。

 

「やっと、束さんのメッセージが伝わったのかなー?」

『それがもうすぐ最終段階になるからな。 宇宙進出が目的だったか? アレのパフォーマンスにもなると思ってな』

「ふふーん」

 

 思わず椅子に座ったまま胸を張り、低重力の月面、その1G重力ブロックにいる束の、その豊かな胸が揺れ動く。

 マイクの向こう側では、どうやら酒を飲み交わしているらしい2人。 父の友人と、友人の忘れ形見。

 だが、マイクの向こうでは話が妙な方向へと転がり始めた。

 

『それもいいが、確か、タバネ博士には閉鎖した無人採掘基地ごと、簡易拠点を売っていただろう? あの採掘基地の管理は、今どうなってるんだ?』

『そりゃあ、タバネ博士がしているんだろう? 他にいくつもあるから、閉鎖済みの2つをおまけしたが……彼女なら何かしらできるんじゃないか?』

『そうか……』

 

 つつーっと、不意に束の背中に冷や汗が流れた。

 

「……くーちゃん、あそこって、今どうなってるかわかる?」

「存じません。 束さまが、指名手配を解除されて、白騎士を月に連れてきて、ISコアを作ったときが、最後です。 ……私はまだついていけませんでしたので、束さまが、きっちり処理(・・)、されたのでは……?」

 

 彼女は冷や汗など流さないが、まるで電池の切れかかったのペットロボットのようにゆっくりと、そうあってほしいという願望を乗せて尋ねる、目を瞑ったままな銀髪の少女。

 束は笑顔で大仰に、先ほど完成させた腕の長い深い灰色の機体を指差した。

 

「……くーちゃん、“イヴ”ちゃん(この子)の最初の任務が決まったね!」

「はい。 “イヴ”の試験飛行を兼ねて、何をすれば?」

「んーとねー……」

『……では、きちんと管理はされているということでいいんだな? なぁ、タバネ博士(・・・・・・・・)?』

「ぎゃぁぁぁっ!? な、なんで!? なんでバレたの!?」

 

 束は慌ててマイクに自壊命令を出し、マイクの電源を切断した。

 

「あぅあぅ……くーちゃんは、例の月面基地を見てきて! 束さんが置いてあったサイボーグなんかを片手間でまとめて改造して、無人でほっといても大丈夫にしてたから、大丈夫だとは思うけど……!」

「……だといいのですが。 もし、何かあれば……?」

「その時は……そうだ! アメリカにいっくんがいるから、いっくんに手伝ってもらおう!」

 

 

 

 

「ケンも、タバネ博士の盗聴器に気付いていたのか?」

 

 ちなみに大統領も気付いてはいた。 大統領ともなれば、第六感も冴えるのだ。 

 そして、ケンも。 NINJAである彼は見えないものを見抜く異能、“NINJA VISION”(NINJA視力)があるのだ。

 

「もちろん。 NINJA VISIONで見えていたからな。 彼女以外こんなことをする命知らずはいないさ。 さてはウィルソンJr、何か掴んでいたのか?」

「ああ、月の静かの基地(キャンプ・アームストロング)から情報が来ていたのだが、この月面の写真を見てくれ――」

「一応言っておくが、宇宙ではGUIDE(国連)は動けないぞ?」

 

 そう言いながら“宇宙軍管轄の月面スペースプレーン基地”兼“宇宙海兵隊第7海兵遠征軍司令部”から送られてきた、件の採掘基地を月軌道から撮影した写真を取り出す大統領。

 

――世界は、新たな局面へと動き始める。

 イチカ・オリムラ。 彼に迫る月の天才の影に彼自身が気付くのは、もう少し先のことだった。




・ミュータントYAKUZA
“YAKUZA”は日本に生息する凶暴な生物。
ダディによると
「(アルファ・ワーム)宿主の正体が判明した。 クロカワ組の組長と、その娘のリョウコ。 二人とも日本で有力な“YAKUZA”だ」
「気をつけろ。 そいつらは感染していなくてももともと凶暴なやつらだ」
(NINJABLADE原作より引用)
最終的にケンの頭上からロードローラーを落とすが……。

第2章からは不定期更新を予定していますが、少なくとも次話は書きあがっているので、ストックが増え次第投稿の予定です。
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