都内の米軍施設地下シェルターで生中継のモニターを眺める織斑イチカが見る限り、大統領とプレジデントフォースの出現後、戦局は日米軍優位に進んだ。
ビルの崩落に巻き込まれ、操縦者が気絶して頭以外を瓦礫に押し潰されたまま沈黙した
そして、一見最早抵抗できなくなったように見えても、プロの軍人である彼らは確実に仕留めるまで油断はしないのだ。
『追い詰めたようだな、そろそろメインディッシュと行こうじゃないか!』
『ハッハー! 了解、大統領!
『
『
『
『
ガチャリ、という音と共に、空間圧縮・拡張技術の粋が詰め込まれたメタルウルフ及びメタルレイヴンのバックパックが上下に開いて更に内側へと倒れる。
外側へ向けて全武装が飛び出し、正面へとその銃口を向ける。
バースト攻撃の証である金色の
『
『
『
6機分のバースト攻撃。 光の龍が、青い光波が、野球ボールと木製の矢が、桃色の光が、超低温のサメ型ミサイルが。 それらを一纏めにした大火力が殺到し、ビルごと
「やったか!?」
モニターの向こうで戦う
そう、普通であれば、これだけの火力が集中すればいくら白騎士とて耐えられなかった。
「――ちーちゃん……?」
束が見る白騎士との秘匿回線のモニターの中で、白騎士が再起動を果たす。
だが――あり得ないのだ。 束の作業も終わってないのに再起動できるはずがない。 まだ
DNNヘリが映すモニターに、集中砲火を受けるより一瞬早く瓦礫を吹き飛ばし、メタルウルフらを空から見下ろすテロリスト、DNN曰く
屋上に布陣していたメタルレイヴンが回避運動を取り、屋上から地下まで一直線に貫かれたホテルがものの一瞬で崩壊する。
散開しつつ整然と対空射撃を行うメタルウルフとメタルレイヴンを追いかけ、最大出力で薙ぎ払われた光線が飛来するミサイルごと建造物を次々と燃え上がらせ、この一帯だけ大災害に遭ったかのような様相を呈していた。
『なんということでしょう、お台場周辺の建物が次々と崩れ落ちていきます! まるで怪獣大決戦です! これはもうアメリカンジョークでは済まされません、本物のテロリストだ!』
ピーターの叫びを肯定するかのように、拡散荷電粒子砲が最早無差別爆撃のように降り注いではコンクリートを蒸発させ、地を穿つ。
プレジデントフォースがレールガンとマルチミサイルで応戦し、荷電粒子砲と交錯する。 ホワイトデビルはDNNヘリを盾にするように勢いを緩めないまま5連続の
『うわあぁぁぁぁぁ……っ!』
『ビンゴォ!』
DNNヘリはきりもみ回転をしながら墜落、お台場のテレビ局の陰で爆発を起こした。
だが、どんなマジックを使ったのかすぐに新たなヘリで舞い上がる。 NORADに控えている秘書ジョディの舌打ちが米軍施設で受信している無線越しに聞こえた。
『視聴者の皆さん、御心配おかけしました。 なんとか脱出に成功しました。 日本のテレビ局のヘリをちょっと拝借して、新たなヘリで復帰します』
『大統領と一緒でもう40代なのに、彼もしぶといですね』
『全くだな』
同じようにイチカが見ていた報道モニターの向こうが爆発に包まれる。 ぐるぐるとヘリごと撮影カメラの視界が回転しながら墜落して中継が途切れるも、しばらく空母に着艦したヘリから中継された後は再びお台場上空からの生中継が再開されていた。
ほぼ同時に、地下シェルターへ職員が駆け込んでくる。
「またあのピーターさん、ヘリが墜落したのか……何回目だ?」
「さあ……? いつものことだろ……?」
「たった今日本政府及び轡木首相から発表がありました! 試製78式の定期メンテナンスを中断、これより首相官邸より緊急発進させるとのこと! ただし、ハンガーへの外部ハッキングの影響で一部武装使用不可につき、
「
やがてメタルウルフを発見したホワイトデビルが低空へとダイブ。 建造物の間を縫うように高速で接近し、近接ブレードを振りかざした。
『この野郎ッ、スライスチーズにしてやる!』
だが、それがメタルウルフに振り抜かれるより早く、メタルレイヴンがバックパックから内戦後に新造した、グリップにトリガーがある
だが、メタルレイヴンがホワイトデビルの一閃を受けることはなかった。 青い剣と近接ブレードが激突する直前で反応したホワイトデビルが、
『
思わずそう叫んだメタルレイヴンのパイロット、アレックス・オリムラを誰が責められようか。
別のメタルレイヴンからの援護射撃を、ホワイトデビルは再チャージした
メタルウルフは、ホワイトデビルへと突撃しながらおもむろに
ムーンライトの切先から、独特の発射音を響かせながら青い稲妻を散らす光波が発射された。 ホワイトデビルはメタルウルフの放つ木製の矢の弾幕を超高速で斬り裂きながら突っ込み、続いて飛来した光波を斬り払おうとしてシールドバリアをいとも容易く貫通され、絶対防御を掠めてウィングスラスターをズタズタに引き裂かれる。
ホワイトデビルは建物を突き破って墜落しながらも、まるで気にするそぶりもなく壁をぶち破って再出現。 急加速の奇襲でメタルウルフに近接ブレードを叩きつけた。
「ああっ、メタルウルフが!?」
「
しかし、メタルウルフはシールドメモリこそ削られたものの、フェニックスのように切断されることなく、そのままの勢いで無人の東京国際展示場へと激突し、その衝撃と余波で国際展示場全棟をまるで砂の城にA-10が爆撃を行ったかの如く全壊させ、崩落の中に消えた。
『あぁぁっ!? ふざけるなホワイトデビル! 年末の冬の祭典どうしてくれる!?』
『せっかく休暇申請したのに……!』
施設が受信しているオープン回線に日本語と英語で、それぞれ悲鳴が響く。
フェニックスを切断できた近接ブレードでメタルウルフが両断されなかった理由は簡単だ。
“彼は大統領である”。
その大統領が持つ“
一撃でシールドメモリはいくらか消費されたが、何事もなかったかのように瓦礫を吹き飛ばしてメタルウルフが再度バースト攻撃を行う。
大統領である彼は、弱みなど見せてはいけないのだ。
「すごい、流石メタルウルフだ!」
「でしょう! そのメタルウルフの部下に、私のパパがいるの!」
「あれ、僕の父さんだってそうだよ?」
「まぁ、本当!?」
はしゃぐイチカの前、モニターの向こう側で、爆炎に包まれた片翼のホワイトデビルが後ずさる。
隣にいる親子、ここまでイチカを連れてきた係員によると、プレジデントフォース副隊長の奥さんで宇宙飛行士の資格を持つ女性とその娘だという少女、ナターシャ・ファイルスも同じく歓声を上げ、意外な共通点を見つけたイチカとナターシャが2人で盛り上がり始める。
『首相官邸より試製78式へ。 外部ハッキングも含めて我が国に対する攻撃は既に確認している。 直ちに戦闘行動を開始せよ。 “遺憾の意を表明する”』
『”遺憾の意”を確認、戦闘システム起動いたします。 試製78式2型機動装甲、これより“正当防衛”を開始します』
そこへ一陣の風が吹き荒れる。 首相官邸から発進した、試製78式専用の無人戦闘機FX-3の上に足首までドッキングして立つ、日本が開発した最大戦力。
V字アンテナにツインアイで圧倒的な知名度を誇る、自衛隊と四菱重工によって日本のロボットアニメの主役機そっくりに造られた“試製78式”が合流したのだ。
本来持っているはずだった、メタルウルフとお揃いの
大統領がいない国や勢力でもトップの機体名称は
追撃するメタルウルフとメタルレイヴン。
完全に追い込まれた
偶然か神の悪戯か、ホワイトデビルが後退し、試製78式が追い詰め、プレジデントフォースが追撃した先は東京湾上空。
世界最強の大統領が負けるはずがないと見守るイチカとナターシャ、軍関係者の願いとは裏腹に、満身創痍の“ホワイトデビル”は、日本を守るため立ち向かった最後の希望、6機の特殊機動重装甲を東京湾上空におびき寄せて迎え撃ち、そのブレードで6機全てを海中へと叩き落したのである。
『ノォォォゥッ!?』
『大統領!? そんな……東京に海水浴に来たわけじゃないんですよ!?』
「父さん……っ!?」
「いやぁっ、パパッ!?」
「馬鹿な、大統領がっ!?」
『
『大変です! 我らが親愛なる大統領が水没してしまいました!』
見守っていた米軍関係者含め、たちまち騒然となる室内。 失神したファイルス夫人が倒れこんできたため、必死に支えるイチカ。
モニターの中では日本の、別の意味で“ホワイトデビル”な試製78式がプレジデントフォースの水没地点上空で滞空したままホワイトデビルを二度見した後、神風シールド全開で水中へと飛び降りていく。
同じく第7艦隊のビル・クリントンから応急処置を受けて発進した
あっけない幕切れにしばらくポカンとしていたのかしばらく停止していたものの、それを尻目に東京湾から去っていく
『我らが大統領なき今、このまま日本は悪に屈してしまうのでしょうか……』
震える足で、イチカは祈る。
姉が言うには両親揃って仕事で自分たちを捨て、父親が長年振り込み続けた養育費を母親が全額持ち逃げしたその後も、帰ってくることどころか連絡すらもなく、素知らぬ顔で養育費を振り込み続ける偽善者だという父。
それがもし本当なら、自分の手で問い詰める前に死んでもらっては困るし、誤解なら父から送られてくる養育費に一切手をつけず、身を粉にして働く姉の誤解を解き、少しは楽をさせてあげたい、と。
「ファイルスさん、
『しかし、私は希望を失わない。 新たなる希望が、国連よりホワイトデビル追撃へと出撃しようとしています。 希望が暴力に屈することなどあってはなりません。 私はこれからもアメリカと報道の正義と、自分の信念を貫きます』
『“ペンは銃より強し”。DNN、ピーター・マクドナルドがお伝えしました』
*
――もちろん、彼の父親はプレジデントフォースらしい正義の心の持ち主で、その立場と多忙を極める故に、そして妻を信頼していたが故に連絡も取ることなく、その蒸発を知らずにいただけだった。
溺死しかけながら搬送された先の病院の個室で、ホワイトデビルによるテロ事件から数日後、およそ5年ぶりに再会した織斑親子。 尤も、当時1歳だったイチカ側は記憶にないのだが。
「クソ……そうか、アイツ、お前らの為の金にも手を付けていったのか……」
「うん……よかった、誤解で」
日本好きな茶髪のアメリカ人、アレックス・オリムラがイチカの頭をわしゃわしゃと撫で、流暢な日本語で6歳の息子を抱きしめながら唸る。
立場と任務故にアメリカを離れられなかった彼は、アメリカが肌に合わずどうしても日本に戻りたがった妻と別居しつつも、休暇を捻出しては日本にいる愛する妻のところへと向かい、結果
尤も、アレックスは女を見る目はなかったらしく、このところ連絡の繋がらない妻をそれでも信じ、久々に息子に会った結果がこれである。
「……いや、待て。 イチカ……もう1度聞くが、家にいるのは、
「……そうだけど?」
「なんだと……? ……いいか、イチカ。 もし、相手が明らかに間違っていると思ったら、例えお前の親だろうと大統領だろうとNINJAだろうと止めなきゃいけない」
「父さんと大統領とNINJAを!? そんなの無理だよ!」
「無理だろうが無茶だろうが、やるんだ。 譲れない意見があるときは大統領としょっちゅう
「そ、そうなんだ……」
ぽつぽつと、イチカとアレックスは親子の会話を重ねていく。 検査入院とはいえ、今は日本もアメリカも事後処理が大変なことになっている。 しばらくはアメリカに帰国できないだろう。
お台場が半ば吹き飛び、国際展示場も崩壊し、アメリカも日本も死者こそいないが多数の戦力を失った。
原子力空母やイージス艦、メタルウルフなども含めてその被害総額はとてつもない。
「そういえば、なんで父さんはメタルレイヴンに乗ってたの?」
「ああ――」
アレックスは、かつての光景を思い出し、息子に伝えていく。
――私は友人を見捨てることなどできない。 何故なら、私はアメリカ合衆国大統領だからだ――
副大統領のクーデター当時、自分はプレジデントフォース技術部としてロバートという友人と組んで珍兵器を開発しながら整備班として大統領と行動を共にしていたこと。
――大統領……来ないでください、これは、
副大統領の罠で大統領から離反した、秘書のジョディ・クロフォードと彼らが捕らえられ、ヘリごと自由の女神の上に監禁されたところで、大統領が助けにやってきて。
――この国の自由は死んだ! お前も、お前の部下も、この自由の女神と共に消え去るがいい!――
自分達の為に駆け付け、迫る超巨大戦車とついでに飛んでいたUFOに単身立ち向かい、超巨大戦車をジャイアントスイングで海に沈めた
――ジョディ。 遅くなって、すまない――
そして、いつかその隣に立ち、今度はメタルウルフが単身戦わずに済むよう、共に戦うのだ、と。
そんな思いを込めた、たった一言。
「――カッコイイ、だろう?」
「うん! すっごくかっこよかった! 僕も乗ってみたい!」
「ハッハー! それでこそ俺の息子だ!」
「ああ、イチカ! もう貴方のパパは起きたのね!?」
「そこの子供たち。 子供が賑やかなのはいいことだが、ここは病院だぞ?」
「わ……! 本物の大統領だ……!」
キラキラした瞳のイチカを、アレックスは再びわしゃわしゃと撫でる。
大声が聞こえたのか隣からやってきた副隊長ロバート・ファイルス一家の娘、ナターシャ・ファイルスが再会を喜び、事後処理の休憩にやってきた初代世界政府大統領兼第47代アメリカ大統領のマイケル・ウィルソンJrとアメリカから日本に来たその秘書ジョディに出会った。
その後イチカ達の父、アレックス・オリムラは検査入院からの退院後、休暇をもぎ取り、無事だった織斑家にしばらく滞在するのだが、何故か千冬は白騎士事件以降、更に父親への態度を硬化させて誤解が解けることはなく、友人の家に入り浸って結局顔を合わせることはなかった。
100万という莫大なシールドエネルギーを持って挑んだはずが、気が付いたら被撃墜寸前に陥っていたが為に戦場から逃走した後、奇跡的にGUIDEの追跡を振り切った千冬が白騎士事件で敵対した父親に合わせる顔がなかったのと、未だ行方不明の束を案じてなのだが、もちろんアレックスは白騎士の操縦者について知らない。
そのうち誤解は解けるさ、と陽気に笑いながらどこか楽観視する父に、特殊機動重装甲と大統領、プレジデントフォースの話をねだり。
時折、国際電話をかけてはイチカがわからない英語で“
2週間後、年給の大半に相当する大金を口座に預けられ、アメリカに帰っていく父を寂しげに見送るイチカ。 去り際の会話は、イチカの脳裏に刻みつけられた。
「なぁ、イチカ。 大きくなったら、何になりたい?」
「僕、父さんみたいに世界を守る男になりたい!」
「ハハ、そりゃ大きく出たな。 だが、どうせ世界を守るなら――」
――そのおよそ2年後、父であるアレックス・オリムラが中東で戦死したという連絡が届くなど、当時のイチカは想像もしていなかったのだ。
*
――そうして、白騎士事件により世界の平和は失われた。
アリゾナ紛争における特殊機動重装甲の登場で、戦場の主役は再び歩兵の手に戻った。
更に2020年代に発生したアメリカのクーデターにおけるアメリカ大統領“マイケル・ウィルソンJr”の活躍が知れ渡り、これに対抗すべく各国が独自にパワードスーツを開発した結果、5年に一度国の威信をかけた機体と操縦者による戦いによって新たに誕生した世界政府のリーダーシップを決定する、表面上は戦争のない世界が訪れていた。
その名を、
ISの理論が初めて国連に提出された際、各国は自国パワードスーツの性能向上に鎬を削っており、当然ながらISにも何かの足しになれば、と一抹の期待が寄せられた。 そうでなければ国連まで論文が提出されなどしない。
ところが、ISはそれこそ反重力に始まり、慣性無視やら量子化やら、更に機能の中核であるコアの情報はさっぱり書かれておらず、まさに荒唐無稽のオンパレードというべき代物であったが為に各国は所詮小娘の落書きであったと落胆したものだ。
閑話休題。
世界政府の決定的な決裂となったのが、白騎士事件の翌年にISコアの各国への分配数を決めるべく開催されたアラスカ会議である。
IS白騎士は、世界最強の世界政府大統領であるマイケル・ウィルソンJrを東京湾に突き落としたことで寸での所で打ち勝った。 水没がなければ白騎士は打倒されていた可能性が極めて高いが、白騎士が勝利したのは一応事実である。
それはつまり、これまで“大統領は大統領でしか倒せない”と言われていた世界で、“大統領にたった1機のISで対抗できる”という証明が成されたこととなる。
世界政府兼アメリカ大統領、マイケル・ウィルソンJr。 彼は、1年前の白騎士事件において日本の救援に駆け付け、そして後一歩のところで東京湾に突き落とされるという屈辱を味わった。
「――よって、私は次の要求を日本及び篠ノ之束に対し行う。
1.篠ノ之束はIS技術の公開を行う。
2.ISの出現で
3.その機関のあらゆる費用と責任は全て日本持ちである。
4.ISコアは世界の警察であるアメリカと世界政府及び国連が管理する。 以上だ」
だが、それもこれまでである。 彼はこのアラスカ会議の結果がどうなろうと、白騎士事件の責任を追及されて辞任しなければいけない立場に追い込まれていた。
それに、日本の首相である彼――轡木十蔵は、事前にアメリカと打ち合わせてこの条件を知っていた。 このアメリカの要求は、1だけを見れば一部国民が声高に叫ぶものと比べれば、まだ甘い方なのだ。
だが、身柄を確保された篠ノ之束が心身を消耗し比較的協力的だったのと、多額の賠償金及び保釈金を支払うことで、国連の仲介と当事者であるアメリカと日本両国の間でなんだかんだ手続きを経た末、彼女はようやくお尋ね者ではなくなった。
そして、当事者であるアメリカと日本が篠ノ之束の身柄を要求しなければ、他国が表だって身柄を要求することもできない。 この場で最も影響力があるのは世界政府大統領であるアメリカなのだから。
「マイケル氏。 我が国は2015年の
日本首相が建前を口にしつつ指をパチンと鳴らすと、背後に控えていた試製78式がV字アンテナにツインアイでトリコロールな有名すぎる外装に、特殊な陣羽織を身に着けた白装束の侍を模したその機体がメタルウルフとお揃いのビームライフルを腰に収めたまま、神風を纏った日本刀を抜刀した。
「“遺憾の意を表明する”。 大和魂を見せてやれ」
『承知しました。 “遺憾の意”を確認、戦闘システム起動いたします。 機械の身体に込められた熱い大和魂をご覧いただきましょう』
技術立国日本の作り上げた特殊機動重装甲“試製78式2型機動装甲”。 通称試製78式の中には最新技術で極限まで人間に近い動作を可能とし、性能的にもアメリカのサイボーグを上回るとされるアシモver2029がいた。
日本はその政権交代の早さが懸念された為、首相ではなくFONDA社のアシモを
アラスカの会議場に科学と精神論の融合を果たした一陣の風が吹き荒れる。 次に行動を起こしたのは、東の大国ロシア。
「よい機会だ。 誰が真に世界のリーダーとして相応しいか教育しよう」
『Ураaa!』
既に80を超えた年齢にも拘わらず未だ衰えぬ肉体に鋭い眼光の元KGB、現職ロシア大統領。 彼もまた30年以上ロシア政府を主導し、先頭で戦う大統領だ。 自身のクローンを量産型生体部品として組み込んだ深紅のロシア製量産型特殊機動重装甲“ウラディーミル・プッチーン”が会議場の床を破壊し地中から飛び出す。
「
両腕のドリルがゆっくりと停止し、ドリルが手刀のように揃えられていた鋭利な指へと戻る。
ちなみにこの名前はロシア製特殊機動重装甲の名前ではなく、搭乗者本人の名前である。
ロシア製特殊機動重装甲の正式名称はロシア大統領から頭文字を取った無機質な形式番号のみの為、搭乗者名がそのまま愛称になっている。
「ドイツの技術はァァァ! 世界一ィィィ! 故に新兵器は我々が多く手にするのだァァッ!」
数々の先進技術を組み込んだドイツ製の特殊機動重装甲“シュベーレ・グスタフ”に至っては、パワーアシストに全力を尽くした結果88cm砲、所謂アハトアハトを軽々と振り回し砲撃するロマン溢れる機体となっていた。 8.8cmの間違いではない。
パワーアシストと88cm砲、重装甲と機動性の両立に労力を割いた結果として武装が88cm砲1門とナイフのみ。 武装は少なく見えるが、88cm砲を支えるその重装甲の巨体は四肢そのものすら超重量級の武器とするである。
「神は言われた。 優劣をつけるが故、争いが生まれる。 ならばいっそ、その超国家機関に全てのコアを管理させてはどうか。 ……そして世に平穏のあらんことを」
イタリア――もとい、バチカンは100歳を超えて尚壮健なローマ法王自らがこの会議へと出陣していた。 代々の法王のみ受け継いできたという神の奇跡“フォース”の力を増幅させて雷を落としたり超重力を発生させる殲滅型である。 今もそのフォースで立ち上がると同時に浮遊している。
法王の力を最大限に増幅させる特別な法衣を纏うが、フォースの大魔術発動には聖書を読み上げる必要がある為、時間がかかるのが難点だ。
ちなみにイタリアは法王が強いことを知って全権委任していたが、一度もイタリアに配慮されることはなく、後にISコア分配の際にバチカン分のコアの権利を放棄した法王の手で自国分は自分でどうにかしろと大統領機もなしに引きずり出されることとなる。
「静粛に! ケン・オガワ殿! 後は頼みましたぞ!」
「承知した」
そして国連及び世界政府からは“NINJA”である日系アメリカ人、
国連直属の特殊任務部隊である
この睨みあいの中で代理がいる日本首相とフォースを扱うローマ法王を除けば唯一パワードスーツを装着しない生身の人物であり、激闘の末に地球上のアルファ・ワームを完全に駆逐した、民衆の誰にもその隠蔽された活躍を知られることのない英雄である。
東京のアルファ・ワーム危機から時を経て貫禄と“TODOME”の技術に磨きをかけた彼は、愛用の赤いオーラを纏う妖刀“NinjaBlade”と碧色の大剣“ムーンライトソード”、ワイヤー付き双剣にNINJUTSUを駆使して戦う超人にして大統領戦争の審判だ。
この他にも殆どの国々が自前の
「オーケェィ! 誰から“
「若造が。
「ウィルソンJr、落ち付け。 世界政府大統領がそれでは会議にならない」
「さぁ、大変なことになりました。 今まさにこのアラスカで第3次世界大戦の火蓋が切って落とされようとしています! 果たしてこれが地球最後の
「中国の機体が突然爆発したぞっ!?」
「またか! モンゴルが巻き込まれた、狙ったか中国!」
そして、この場にいる特殊機動重装甲とEOAは文字通り国家の顔である。 当然性能は大幅に引き上げられ、この場にふさわしい多種多様なカスタマイズが施されていた。
フランスの聖女のような機体が発火したかと思うと、大槍と機体の装甲に制御された燃え盛る炎を纏って戦闘態勢に入り、騎士の代わりにレーザー砲内蔵の無線誘導パンジャンドラムを従えたイギリスの円卓の騎士王が黄金の剣を抜く。
自らの反応装甲を爆破し、破片と爆風で全周囲を先制攻撃しつつ身軽になろうとした中国の機体が、爆発の威力が強すぎて周辺各国の大統領機を巻き込んで危うく自滅しかける。
「最後の大統領戦争か。 ちょうど良い、ロシアよ。 クローン技術は生命への冒涜だと、我がバチカンが宣言しているのは知っているだろう。 これより神に代わり、遺伝子改造していた数年前のドイツのようにフォースの裁きを受けるがよい……そして世に平穏があらんことを」
「ほう? いいだろう、やってみるがいい宗教家。 ならば私はその神を否定しよう」
このように467のコアを巡り、世界政府大統領であるマイケルが全てのコアを世界の警察であるアメリカと世界政府が掌握すべきと主張するも、各国と篠ノ之束が反発。
アメリカ大統領の要求については圧倒的賛成多数により4以外の実行が決定され、白騎士を連れていないが為に状況についていけず涙目になりつつあった篠ノ之束が必死に1を拒否し、最後の抵抗としてコアはブラックボックス化された。 元々ブラックボックス化されていたともいうが。
「うわーん! 皆怖いよ、ちーちゃん助けてー!」
全世界の首脳が結集した結果、比喩でもなんでもなく、会議場が揺れている。そんな濃密な
爆発の影響を受けたモンゴル機と過去に中国から独立した台湾機が腹いせに中国機に襲いかかり、ロシア機が周囲にお構いなしに腹部プラズマ砲と背中から3桁近い小型ミサイルを発射するのをBGMに、審議は進んでいく。
束のすぐ背後でイギリス機のEOAがメタルウルフのビームライフルにリアクターを撃ち抜かれ、機体内部を循環している紅茶が溢れ出してハイパワーかつ極めてエコなティー・リアクターが
わかりにくいが一応束を庇っているように、イギリス首相はジェントルマンである。
審判兼調停役のケン・オガワが席を立ち、流れ弾を斬り防ぎながら戦闘不能になったイギリス機を中身ごと抱えて移動させる間、ずっと頭を抱えて蹲っている束も一応ISを持ってはいるが、あくまで彼女は技術者であり、IS自体もアラスカ会議終了後直ちにこの危険地帯を去る為のものだ。
白騎士事件後、首謀者を捕まえようと追ってきた国連の“GUIDE”のNINJAにあっという間に捕捉され、世界各国を逃げ回っても物理的に追い詰めてくるNINJA相手についにノイローゼに陥りかけ、いよいよ観念した篠ノ之束はスイスジュネーブの国連事務所に投降。
製造技術の秘匿と確実な受け渡し、もう観念して作るから追わないで、などを条件に再びアラスカ会議直前まで行方をくらました篠ノ之束が作り上げたISコアが、469個。
ISコアの1つ1つに白騎士と同じ
後日、篠ノ之束は各国のトップに詰め寄られることを避けるべく、迎えにやってきた銀髪の少女と共にさっさと宇宙へと脱出した。 ついでに夢を叶えてやろうと言わんばかりに、世界政府を通じてアメリカから彼女へ簡易月面拠点が
そんな訳で、世界政府は10年もしないうちに倒れ、世界政府大統領を選出する
ISコア分配後のあらゆるコアの取引の禁止と束に対するコアを除いたISの開発等に必要な基幹情報の開示、件の超国家機関関連を定めたIS運用条約“アラスカ条約”が締結され、その審議の合間にロシアに勝利したバチカンの提案によりクローン技術の全面禁止なども締結されることとなる。
こうして、結局それまでの元の世界に戻ってしまうばかりか、ISコアを巡り全世界規模の冷戦状態に陥るのであった。
*
――後日、無事宇宙へと逃げ延びた篠ノ之束は各国がコア分配数を決定した頃を見計らって、国連を通じて1つの反撃を行った。
“白騎士事件における各国への賠償を行わなければならないため、その“超国家機関”以外に配分するISコアは有償かつ超高額での譲渡とし、期間内に支払えない場合その分のISコアは国連が取り立てて超国家機関へと所有権を移す”。
「ちなみに、取り立ては我々が行う。 国連で立て替えているからな」
そう国連の国際災害対応機関GUIDEのNINJA、ケン・オガワが宣言した際、各国は迂闊に踏み倒せないことを思い知らされた。
せっかく確保した自国分のISコアの代金をどうにか工面しようと各国が緊急の予算編成を迫られた結果、世界経済までもが一時期悪化の一途を辿ることとなる。
*
波乱のアラスカ会議が終わる。 ところどころ吹き飛んだ会議場は、国家の最高権力者が意見を物理的に戦わせあった証だ。
アメリカ合衆国大統領、マイケル・ウィルソンJrはこの1年で一気に老け込んだ日本首相、轡木十蔵の下へとブーストを使わず、通常の歩行で歩いていく。
「やあ、ジューゾー」
「ああ、マイケルか……」
『これはアメリカ大統領閣下。 ご機嫌麗しゅう』
返事を返すのは個人的な友人である轡木十蔵と、アシモver2029。 背後にところどころ損傷し、中身を空っぽにした特殊機動重装甲、試製78式を直立させている。 いかにも機械なその外見を除けばほとんど人間と変わらないアシモの反応を、今更特に気にすることもない。
「……ジューゾー、やはり辞任は避けられないのか? また日本首相がコロコロ変わるようになると思うと、な」
『大統領閣下が名前を覚えるだけの価値がある期間、任期が続けばいいのですがね』
「次の首相はうまくやってくれることを祈りますよ。 私は最早日本に戻ったら解散総選挙を行うだけの立場ですから……ああ、例の超国家機関の責任者枠になるのも、面白いかもしれませんね。 この後の日本首相よりは楽でしょう」
『可能ならお供したいものです。 今後の首相官邸に私の出番があるか、不明ですので』
「そうか……息災でな、ジューゾー」
「ええ」
『御機嫌よう、大統領閣下』
会議場を出た途端、アメリカ大統領は集まっていた記者に囲まれた。
国連本部がニューヨークにある関係上、すぐそばにはケン・オガワと国連スタッフもいるが、まるで相手にされていなかった為、先に抜けていった。
「大統領! 今のお気持ちをお聞かせください!」
「残念だ、と言う他ない。 そう遠くない未来、1つになろうとしていた世界は再び分裂してしまった」
メタルウルフの中で沈痛な表情を浮かべる大統領。 残念ながら記者にその表情は見えないが。
「大統領、昨年ISが発表されて以来、各国でISを操縦できる女性を優遇すべきではないかとの意見が強まっていますが、どうお考えですか!」
その時、各国の記者を押し退けてマイクを突き出したのはイギリスのとある新聞社の記者だった。 女性にしか扱えないISの登場以後、盛んに女性優遇運動を推し進めていることで有名な彼女は、決まり切った答えを待つかのように笑みを浮かべている。
だから――という訳でもないが、マイケル・ウィルソンJrはこう答えた。
「アメリカは、自由の国だ」
「……は?」
「自由とは、当たり前に存在するものではない」
パチクリと大きな瞳を瞬かせ、思わず戸惑いを漏らした記者をメタルウルフの単眼越しに大統領が見つめる。
「アメリカでは肌の色で差別をしないように、性別で差別をすることはない。 何故なら、それがアメリカ合衆国だからだ」
「
会議場の前に、ドリフトしながら1台の装甲車が停止する。 その中からは車を手配していた大統領の秘書ジョディの声。
「もし、世界に差別社会が蔓延ろうと、私は自らの“正義”を信じ、“自由”の為に戦う」
装甲車の運転席から、ケン・オガワが早く乗れとサインしている。 NINJAである彼は、装甲車の運転も一流である。
その装甲車のドアに手をかけ、最後にもう一度女性記者へと振り返った。
「何故なら、私はアメリカ合衆国大統領だからだ」
M4カービンと忍者刀を持った国連のNINJAが装甲車へ詰め寄ろうとする報道陣を抑える。
装甲車のドアが閉まり、電気エンジンの甲高い音と共に走りだす。 その上空を、DNNのヘリがエアフォースワンへ先回りしようと飛翔していった。
*
――世界は変わる。 国家の最高戦力は代替の利かない
――これは、そんな世界の警察、アメリカ合衆国の大統領直属軍“プレジデントフォース”実戦部隊隊長をかつて父としていた少年、織斑イチカの物語である。
(7/24追記)
未だに突っ込みはないので大丈夫だろうとは思いますが、「You guys roast chicken!(あなたたちはローストチキン!)」を「アツアツのローストチキンにしてやるよ!」に意訳するのがフロムなので、こんな感じの意訳で大丈夫だと考えています。 無論、全文ルビ振ったりはできないのと、フロムほどのセンスもないですが。
ここに載せていた大統領とケンの設定は#1の時の活動報告に移しておきます。 長いし。