METALWOLF_ICHIKA(改訂版)   作:レクス

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先週は日刊ランキングに載っていたようで、ありがとうございました。

 #3投稿の活動報告で考察していますが、この世界には宇宙条約が存在しないか機能してないのと、宇宙を封鎖されると宇宙資源依存のアメリカがあっけなく配給制に追い込まれる(実際にゲーム中全米で配給制に追い込まれている)という理由で、宇宙に出るとあちこちにアメリカ領を示す星条旗が立ち、哨戒のアメリカ宇宙軍が領宙侵犯船を大気圏ダイビングツアーに招待してくれます。

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#4

 2011年、突如として北アフリカに出現した未知の寄生虫、アルファ・ワーム。

 生物の体内に多数の卵を産み付け、遺伝子変異を誘発することで未知の異形の生物へと変貌させる、最悪の生物災害の幕開けであった。

 これに対し、収集の付けられなくなった北アフリカには国連により核攻撃が行われ、付近一帯は完全に消滅した。

 更には国連国際対策本部長官のマイケル・ウィルソン、友人の“NINJA”であるカンベエ・オガワ他数名の主導により国連国際災害対応機関“GUIDE”を設立し、激闘の末に隊員唯一生き残ったケン・オガワの手でアルファワームは完全に駆逐された。

 しかし、アルファワームが集中的に発生した北アフリカの4ヶ国、エジプト、スーダン、チャド、リビアの4ヶ国はアルファワームによって甚大な被害を被り、また最初に行われた核攻撃に用いられたアメリカ開発の“50倍の破壊力を持つ核爆弾”による深刻な放射能汚染を理由に国土の放棄を発表。

 北アフリカ4ヶ国より退去を余儀なくされた人類だが、アラビア半島を含めた全世界的な石油などを含めた化石資源の枯渇が確認されて以降、エネルギー資源を巡って世界各地で紛争が激化し、経済摩擦も合わさり各国の経済事情は次第に悪化していくこととなる。

 宇宙資源を手にしたアメリカも、例外ではなかった。

 

 2010年代から急増した亡国機業による国内テロ、化石燃料枯渇に伴う経済摩擦、それによって増え続ける難民の流入を、副大統領リチャード・ホークは現政権までの無能によると断じ、クーデターでアメリカの全機能を掌握後、有能な者以外を抹殺すべく動き出した。

 自国都市への毒ガス散布、自国民を人身売買(肥え太ったブタの出荷)、市街制圧用無人巨大兵器をニューヨーク市街でお散歩(実験)、更には宇宙資源を軍で独占した結果、化石資源の代替を宇宙資源に求めていたアメリカでは日常品に至るまでが欠乏。 あのアメリカが配給制に陥るほどの混乱を引き起こした末、自身の特殊機動重装甲と宇宙ステーションに配備した“地球上の全核爆弾の3万倍の威力を持つミサイル”搭載の地球制圧用究極兵器アルティメットウェポンを引っ提げマイケル・ウィルソンJrとの対決に挑んだ。

 

 これを退け、人知れず地球崩壊の危機から地球を救ったマイケル・ウィルソンJrは世界政府理論とトップ同士による物理的な政治決着、大統領戦争(プレジデントファイト)を提唱。

 これにより、世界各地の紛争がある程度沈静化した頃、世界に新たな火種が燃え上がった。

 インフィニット・ストラトス。 宇宙開発用のマルチフォームスーツとして発表されたが、白騎士事件で見せつけたその性能により特殊機動重装甲を上回る機動性能の軍事用パワードスーツとして開発が始まることとなる。

 

 だが、白騎士事件の際の日米への賠償金を支払う為、全てのコアを有償で分配することとなった時、再び世界経済は悲鳴を上げた。

 大国の面子として大国ほどISコアを確保し経済が傾いていく中、唯一ISの登場以前から生命線である宇宙資源採集へと積極的に宇宙へ進出し、2010年代には化石資源依存から宇宙資源依存への転換によってエネルギー問題から脱却していたアメリカを除き、経済事情と予算、既に地球上で代替エネルギーの開発が進んでいること、そして下手に宇宙へ出れば領宙侵犯の宇宙船を撃沈するアメリカ宇宙軍がいることを理由に宇宙への道は閉ざされた。

 

 ISにより女尊男卑が広まった地球を月から見下ろす天才篠ノ之束。

 ISコアを巡り、世界恐慌と全世界規模の冷戦状態に陥った世界。

 各国はISに対抗できる兵器や男性にも操縦できるISの開発を急務とするも、後者はそもそも糸口すら掴めず、前者は大統領魂やフォースといった万人には扱えない物ばかりだが、量産機としては火力面での対抗馬としてアメリカの特殊機動重装甲が存在し、他国パワードスーツは良くて数を揃えればIS1機相手なら、という程度。

 

 IS以前最強の座であった――というより、例外的にアメリカの大統領に限れば第2回モンドグロッソでISを倒し、まだISが最強の存在でないことを証明した――“大統領”という存在がある故に、イギリスや当初のドイツ、日本などを除けば政府が女尊男卑政策を主導したり、民衆へ急速に女尊男卑が浸透、台頭して政情不安に陥ることこそなかった。

 だがそれでも“専用ISと訓練された操縦者”(まだ替えが利く存在)“メタルウルフとマイケル・ウィルソン”(替えの利かない存在)、後者にもしもがあれば。

 

 その時はこのまま世界が緩やかに行き着く先は、政府主導で存在するだけでも男性が虐げられているイギリスのようになるだけか、そう思われた時だ。 突如全男性の希望、アメリカ合衆国大統領しか操れないはずの大統領機(プレジデントアーマー)メタルウルフの新たな操縦者が発見された。

 

――イチカ・オリムラ。 IS世界最強(ブリュンヒルデ)の織斑千冬の実弟。 先日、日本国籍から彼の父と同じアメリカ籍となり、現在はアメリカ、大統領直属軍であるプレジデントフォース実戦部隊隊長の保護を受けていた。

 

 

 

 

「欧州国際IS演習?」

「そうだ。 毎年冬に欧州各国の技術試験用ISが1ヶ所に集まり、統合防衛計画“イグニッション・プラン”の主力機選定を主目的に大規模演習を行っている。 我々、プレジデントフォースも特殊機動重装甲で参加することになっている」

「特殊機動重装甲で? ISの演習に?」

「そうだ。 尤も、第2次期主力機選定は去年、フランスのラファール・リヴァイヴで決着した。 今年はただ集まるだけ……のはずだったがな」

 

 ホワイトハウス強襲以来、知っておくべき軍規則を叩き込まれつつ、日本の中学校からアメリカのミドルスクールへと転入したイチカが、眠たげに欠伸をしながらキッチンに立つ。

 フライパンに週末スモークしたばかりの大きめにスライスした自家製肉厚ベーコンを放りこみ、加熱する。

 健康に割と気を使うイチカだけあって、塩味は薄め。

 焦げ目がついた辺りで卵を投入し、半熟になるくらいで手早くフライパンから皿へと移す。

 市販のハーブサラダミックスにドレッシングをかけ、充分にかきまぜて馴染ませた。

 

「名目はもうすぐ完成しそうな世界初の第3世代ISの、IS以外の兵器と欧州主力機、フランスのラファール・リヴァイヴ型との比較試験だそうだ」

 

 ファイルス家の食卓を当たり前のようにイチカが用意し、ファイルスはテーブルについたまま空中投影ディスプレイで今朝配信された電子新聞の朝刊を読んでいる。

 彼の父が住んでいた家もあるにはあるが、父の部下であり親友だったロバート・ファイルスの厚意により、父の死後――実際には生存しているそうだが――からは滅多に使用されておらず、こちらのファイルス家に居候している。

 ファイルスの妻は宇宙コロニー“グレート・リチャード”の技術者としてコロニー在住であり、また娘もモンドグロッソ終了後は新型IS計画によって同コロニーに出向していた。

 

 “ドイツベルリン防衛部隊(赤トラ隊)隊長、2代目ブリュンヒルデ兼国家代表ゼクス・アルトマイヤー、国家代表資格剥奪される -1面”、“イギリスにてついに第3世代IS試作機「ブルー・ティアーズ」が完成間近か-2面”、“イギリスの女尊男卑革命から7年。 列車テロ唯一の生存者となった元首相夫人のオルコット氏と、娘のセシリア・オルコット嬢が列車テロ追悼式典に参列-3面”、“機動装甲連盟発表、国連の改良型外骨格攻性機動重装甲(EOAⅡ)の基礎モデルが量産開始、欧州アフリカアジア方面に供給予定-4面”、“国連のExtended Operation Armour Mk-Ⅱ(EOAⅡ)対各国主力パワードスーツ、本誌が性能を独自比較-5面”。

 

 電子新聞4面の記事を開き、動画を再生。 昔はEOSという名前だったそれも、現在ではISの随伴歩兵として国連と欧州アフリカアジアで運用が予定される陸戦用次世代主力パワードスーツだ。

 3mサイズのパワードスーツが装甲を纏い、レーザーガトリングとロングソードを振り回し、飛行こそできないもののブーストで飛び回り、NINJA10人が上に乗った巨大なコンクリートブロックをパワーアシストで持ち上げて放り投げた。 それをホームラン予告のようなポーズをとったケン・オガワが碧色の大剣(ムーンライトソード)で打ち返している。

 

 3面の記事はアラスカ会議から約1ヶ月後、イギリスで勃発した女尊男卑革命において、“革命の使命に燃える一般人”の手でリニアトレインが爆破され、“偶然現れた暴徒”によって乗客とイギリス政府高官が首相夫人を除いて全員死亡した事件によるものだ。

 大統領機“アーサー”を纏い、迫る暴徒から気絶した妻だけは守りきったものの、最初の爆発によって受けた傷からの出血多量で、軍の鎮圧部隊と救急隊と合流直後にアーサーの中で最期を迎えた当時のオルコット首相。

 彼の死によって政権は女尊男卑勢力の神輿にされた政治経験ゼロのイギリス女王の手に渡り、その後イギリスでは男性の価値が世界恐慌をも超えるスピードで底辺まで墜落した。

 元首相一家にして名門貴族のオルコット家が参列してはいるが、思想も言論も統制された今のイギリスで、何か喋れるはずもない。

 

「ニュースにもあるが、今年はイギリスの第3世代試作ISが出てくる。 今のイギリスを治めるイギリス女王が期待の若手新人パイロット同士で優劣をつけてはどうか、とな」

「へぇ……で、誰が相手するんだろ?」

「フランスは、恐らくデュノア社テストパイロットの社長令嬢とラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡがでてくるかもな。 そしてアメリカで期待の新人と言ったら、君だぞイチカ」

「俺かよ! ……強いの? それ」

 

 テーブルの上から響いたベルの音と共にファイルスは電子新聞の画面を閉じ、やや年季の入ったポップアップトースターからほどよく焼けたトースト2枚を取り出し、マーガリンを塗る。

 このトースター、彼がプレジデントフォース技術部にいた頃無駄な技術力を使って作られたもので、トーストの焦げ目でプレジデントフォースの部隊章である大統領章をバックにメタルウルフの機影をくっきりと描く代物だ。

 アメリカ内戦終結後、ハリウッド製作の映画“メタルウルフ”が公開された際にはプレジデントフォース技術部が便乗し、メタルウルフトースターを発売している。

 大統領章が入ったものは、プレジデントフォース内のみで造られた非売品である。

 

「それが、操縦者ごとIS学園に送ってお披露目する(劣等種たる男共に恵んでやる情報はない)と言って、一切の情報を公開していない。 まぁ公開義務もないからな。 ぶっつけ本番になる。 プレジデントフォースの情報部も調査する予定だが、今のところ分かっているのは光学兵器を使う蒼いIS、だ」

 

――何、イチカ。 側に君の生まれる前から戦場にいる私もファイルス君もいるのだ。 いざとなれば“ジュージツ”もある――

 

「だが、だ。 今の我々にはその前にやることがある。 ……詳細は14時、フォート・ウィルソンAブロック作戦室で説明する予定だ」

「……軍事作戦?」

「そうだ。 この前のテロリスト共に報復する。 ……だがイチカ、本当についてくるのか?」

 

 ベーコンエッグをそれぞれトーストの上に乗せ、2人同時にかじりついた。

 

「前も言ったが、ミドルスクールの学生を戦わせるのは私の本意ではない……だからこそ、未成年のハイスクール(IS学園)の学生はISを競技用として学ぶのだが。 イチカはそもそもIS乗りですらないからな。 ……後方で待っていてもいいんだぞ?」

「でも、あいつらのところに、父さんと俺の妹が行ったんだろ!? もしかしたら、何か手がかりが……!」

 

 むむ、と考え込む表情になるファイルス。

 参加予定者に子供はいない。 若くても、IS訓練生を修了したか、IS学園は卒業しているのだ。

 だが……気持ちは、分からなくもない。 それに彼自身、親友の手がかりはなんとしても見つけたいのだ。

 ついでに、下手をすればこっそりやってくる可能性もある。

 

「……どうしても、か?」

「どうしても、だ」

 

 強い意志のこもった瞳を見つめ、逡巡するファイルス。

 長い沈黙の時間が過ぎ、やがて溜め息を吐いた。

 

「……分かった。 だが、アレックスたちがそこにいたのは、あくまで数か月前の情報だということを忘れるなよ」

 

 

 

 

 約1ヶ月後。 フォート・ウィルソン。

 その日、フォート・ウィルソンの広い作戦室はほぼ満員となっていた。

 

「では、改めて作戦を説明する。

 8月のホワイトハウス襲撃を受け、アメリカは亡国機業(ファントムタスク)への大規模報復攻撃を可決し、ようやく総攻撃となった。 この内、我々アルファ攻略チームが参加するのは現在確認されている中で最大の亡国機業拠点攻略である“北極の狼作戦(オペレーション:ノーザンウルフ)”。 各自、作戦要領は既に頭に叩き込んでいるはずだが、質問があれば聞く」

 

 以前から亡国機業内部に潜入していた人員からの報告を受け、大規模拠点3ヵ所への同時攻撃を実施し、これを全て撃滅する。

 同時に資金源になっていると思われる企業などを全世界同時に査察し、活動できないように叩き潰すのだ。

 この目標拠点3ヵ所を規模の順に目標アルファ、ベータ、チャーリーと呼称する。

 アルファ攻略チームに所属するのは、イチカを含めた大統領直属部隊、プレジデントフォース。 そしてアメリカ海軍及び空軍から選抜したIS部隊。 更にゲストとしてドイツからの要請(お礼参り)でドイツ特殊部隊“シュヴァルツェ・ハーゼ”からIS3機、ドイツの大統領機シュベーレ・グスタフをコストダウンさせた量産型支援機の特殊機動重装甲“ドーラ”9機が参加することとなっている。

 目標2つが存在するグリーンランドはデンマーク領だが、デンマークは国外に動かせるISがないことを理由に出撃を拒否、しかし査察による資金源遮断には参加している。

 尚、アメリカのIS部隊にはまだ佐官がおらず、事実上ファイルスが実働部隊の最高階級者となっている。

 ナターシャ・ファイルス等といったIS国家代表経験者は便宜上佐官相当官となるが、外国での実戦経験がなかった。

 紛争自体は亡国機業が引き起こしたものが散発しているが、ISを投入するほどの規模はアラスカ会議の翌年に中東で亡国機業の差し金によって当時のイスラエル所属第1世代ISが引き起こし、書類上アレックス・オリムラ少佐が死亡した“中東IS戦争”しかない。

 

「少佐、質問があります」

 

 その時、手を挙げたのは彼の娘、ナターシャ。

 

「ベータ、チャーリーにはどこが?」

「チャーリーには、今までのツケを支払うべく欧州主導で攻撃が行われる。 場所はアフリカ北部の無人地帯、通称グラウンド・アルファ。 あの汚染地帯に潜伏していたそうだ」

 

 グラウンド・アルファ。

 現在はエジプト、スーダン、チャド、リビアの4ヶ国を指す言葉であり、アルファワームが最初に発見された場所でもある。

 この4ヶ国は最初のアルファワーム感染に対処できなくなった国連による核攻撃により――表向きには核実験施設の事故として――今尚、放射能汚染地帯として立ち入りが制限され、国土放棄宣言もあり無人地帯と化している。

 アフリカには、今も宇宙から確認できる巨大クレーターがそのまま残されているのだ。

 

「そしてベータだが……大統領(ミスタープレジデント)、単独だ。 場所はアルファから比較的近く、同時に制圧する必要がある。 何か質問は?」

 

 質問の手は、今度こそ挙がらない。

 かつて、合衆国軍150万人を相手にたった1人敢然と立ち向かった大統領。 誰よりもテロを憎む漢。

 それが立ち上がるというのに、何を心配する必要があろうか。

 それに――付け加えて言うなら、ここにいる殆どの者は何故そうなったのか知らないが、その大統領の父であるマイケル・ウィルソンもこの場にいるのである。

 

「ないようだな。 では、出撃する」

 

 ちょうどその時、エアフォースワンのエンジンが発する轟音が響き始めた。

 また、いつものようにリフレクティング・プールが開き、改修されて低くなったリンカーン記念館の屋根を掠めてエアフォースワンが飛び立とうとしていた。

 

 

 

 

 澄み切った空に見える幻想的なオーロラ、氷に閉ざされた白い大地。

 ここは凍土の地、グリーンランド。

 季節は秋真っただ中の10月後半。 平均気温は氷点下、極寒の大地であるそこに世界の敵、亡国機業の一大拠点は存在した。

 

『――敵軍は、グリーンランドのアメリカチューレ空軍基地とデンマークのノード基地の間に広がる、北東グリーンランド国立公園の内陸部に拠点を築き、アメリカと欧州への攻撃拠点としていたようです。 ターゲットの半数は地下にあるようですが、この程度軽く捻れるはずです。 幸い今はブリザードは起きていないようですが、雪が降っていて視界が悪いのでホッキョクグマを撃たないようにしてくださいね。 今まで散々世界の手を焼かせてきた悪戯っ子に、火薬のお灸を据えてあげましょう! さて、それでは今回の作戦名は……“亡国機業をぶっつぶせ大作戦”です。ご幸運を、大統領たち!』

 

 ドラムロールの音と共に作戦名が発表され、別ルートを進むエアフォースワンからの通信がそこで一旦途切れる。

 

北極の狼作戦(オペレーション:ノーザンウルフ)なんだが……」

「いや、ポール。 ……彼女はアメリカ内戦の頃からずっとああだ」

「……我々との戦闘は?」

「“荒野の決闘作戦”」

「oh……」

 

 アメリカのヒューストンスペースプレーン基地から発進後、フォート・ウィルソンでアルファ攻略チームを乗せて飛ぶヘリ型IS“オラジワンⅢ”が高高度を飛行する。

 白騎士事件当時、アメリカ内戦時に“悪辣の副大統領に逆らえずやむなく大統領と敵対し、撃墜された”ことになっている防衛用超大型強襲重攻撃ヘリ“XH-34 オラジワン”の艦載型として二回りほど小型化した大型強襲攻撃ヘリ“XH-34-2 オラジワンⅡ”が白騎士迎撃に当たった。

 オラジワン同様に155mm対空機関砲をものともしない重装甲を誇り、対空装備としてマルチミサイルとレールガンを放つ、DNNのピーター・マクドナルド曰く“空の要塞”だったが、これまた規格外である白騎士の荷電粒子砲の前に装甲表面を覆う電磁バリアは一撃で貫通され、肉厚の装甲は役に立たず、武装も白騎士撃墜に至らなかった。

 

 そんなオラジワンⅡを呆気なく無力化したISが各国で広まり、最早従来のその鈍重な巨体では対抗できないと判断されたオラジワンⅡの次策として誕生したのが、小型化ではなく敢えて原点回帰で大型化させ、更に宇宙資源を惜しげなく投入して特殊機動重装甲とISの技術の融合を果たした超弩級強襲重攻撃ヘリ型IS“XH34-3 オラジワンⅢ”である。

 操縦席に2つのISを用意し、操縦士と副操縦士がそれを通じて巨体を操作することでPICで自在に空を舞うことができる。

 あくまで人が操縦するISとして人型に拘った各国に対し、ISを操縦席として巨大兵器を運用するというぶっ飛んだ発想に世界は度肝を抜かれた。

 

 とはいえ、オラジワンⅢもサイズが桁違いなだけで、人型として見れなくもない。

 メインモジュールをうつぶせになった胴体として、背中に6基のヘリローター。 進行方向側に突き出したのが頭に相当する装甲に覆われたコクピット。

 胴体から左右に突き出す、手に相当する主兵装搭載モジュール。 210mm榴弾砲から波動レーザー砲、ミサイルコンテナなどが量子化して搭載されている。

 胴体後方に突き出す、脚に相当する大気圏離脱用のものを転用した液体燃料ロケットエンジンを搭載する非常用推進モジュールとPIC動作時に使用する超大型高出力スラスター。

 胴体部分には実験的に多数の設備があり、コアネットワークを介して十数名で電子戦とISを統括するコンソール室と指揮用司令部。

 そしてこのオラジワンⅢはオラジワンと同じく完全武装状態でもつめれば3桁を軽く超える人員を乗せられる搭載量を誇る格納庫がある。 格納庫の出口は機体後方、つまり足の間。

 そこにIS整備用のISと整備・補給ユニットを積みこみ、核融合エンジンで理論上はISエネルギーを消耗したそばからISコアに補充できるという、“ISを運用する空中母艦IS”である。

 それなりの速度で飛行する巨大ISが内部からISを発進させながら砲撃してくる姿は、最早悪夢である。

 そのサイズ故にIS学園に受け入れを拒否され、ヘリ部分は量子化できない為非常にスペースを取るという欠点があるが、運用方法を考えれば問題はない。 どう考えても競技用に使えるISではないのだから。

 

「イチカ、私も今回参加するっスよ」

「あれ、フォルテ先輩? なんでここに……?」

「IS学園に進むのを蹴って、本当だったらあと5ヶ月してIS学園に行く頃に受領するはずだった、第2世代IS“コールド・ブラッド”を受領したっス。 ……本来はダリル先輩のヘル・ハウンドとセット運用するはずだったって聞いて、ちょっとショックっスけど……」

「……いるといいな、ダリル先輩」

「もちろんっスよ。 まだ勝てるかはわかんないっスけど、今回は、後方待機ってことで特別に参加できたっス」

「私の護衛で、ね」

 

 フォルテの背後に現れたのは、イチカが6歳の時に顔見知りになり、今では居候しているファイルス家の一人娘、ナターシャ・ファイルスだ。

 

「ハァイ、イチカ。 久しぶりね」

「うわっ! ……ナターシャさん。 お久しぶりです。 向こうはどうでした?」

「んー、宇宙コロニーでの生活もなかなか良かったわ。 母さんにも会えたしね。 父さんも久しぶり」

「ああ」

 

 少年、織斑イチカは広い格納庫の中で悶々としていた。

 巨大ヘリの格納庫で出撃を待つのは36機のISと66人のアメリカンな若い女性、少女。 この数は出撃IS部隊とその交代要員のみの人数で、待機する整備ISや整備班のメンバーは含まない。

 そしてダークブルーの特殊機動重装甲に収まった男が31人。 こちらはイチカ以外全員熟練兵だ。

 イチカのメタルウルフが1機、メタルレイヴンが5小隊と隊長機で16機、逆関節型のフェニックスが5小隊15機なのだが、イチカを除けば既婚者かもしくは若くても30オーバーと、当然だが10代後半から20代で構成されたIS部隊より年齢層が上なのである。

 ファイルスは「もう慣れた」と言うし、娘も一緒にいるので問題はないが、問題はイチカである。

 彼は健全な14歳なのだ。

 そんな中、突如メタルウルフに抱きついてきたナターシャ・ファイルス。

 それまで少し距離を取っている感じだったIS部隊員が、一斉に近寄ってくる。

 

「えと、あの、よろしくお願いします、イチカさん」

「イチカ君、この任務が終わったら一緒にお茶しない?」

「ダメだよウィンディ。 イチカ君は私とデートするの。 ってかしようよ」

「ううん、イチカ君は私と一緒に遊ぶの」

「ひいっ! は、は、背後に人が浮かんで!?」

 

 イチカ自身に自覚はないが、彼は所謂イケメンである。 大統領を目指す為に勉強をしている為、それなりに頭もいいが、考えるより先に身体が動くタイプである。 目標はハーバード大学経由で大統領。

 更にメタルウルフを動かし、ファイルス親子や大統領とも顔見知り。

 フォート・ウィルソン襲撃の際には機転を利かせて逃げ込んだホワイトハウスで運悪くISに襲われるも、逆に友人の少女ティナ・ハミルトンと先輩のフォルテ・サファイアを守る為勇敢にISへ立ち向かい、これを撃破した。

 そんな少年が女性だらけの部屋に放りこまれればこの様に引っ張りだこになるのは当然。

 彼が無事でいるのは単に特殊機動重装甲の中に収まっているからでしかない。

 

「フォルテちゃん。 もしかしてあの時、イチカに惚れたりなんかしちゃったり?」

「いやー、私は別に好きな人がいてっスねー、ダリル・ケイシー先輩だったんスけど……」

 

 そして、彼女達が纏うのは肌の露出が多いISスーツ。 若い男であればその惜しげもなく晒される肢体に視線が釘付けになるのは自然であり、既婚者の特殊機動重装甲パイロット達がイチカへ装甲越しに生温かい視線を送ってくる。

 ISスーツはボディラインがくっきりと出る。 流石に双丘の頂やむちむちとした太股の間に存在するクレバスまでくっきりと出ることはないが、イチカの視界にはなだらかな丘陵から存在を主張する豊満な膨らみまで揃っている。

 口に出すことはないが、イチカは内心思っている。 このISスーツの開発者、天才だね、と。

 もう一度言うが彼は健全な14歳だ。

 ……そんな心境も背後にいる先代大統領に筒抜けで、微笑ましく思われていることには気付いていなかった。

 

 

 

 

「へくしょんっ!」

「……やっぱり美味しくなかったですか、束さま」

 

 束がくしゃみと共に飛ばしてしまった黒焦げ合成肉ハンバーグの欠片をふき取りながら、銀髪少女“くーちゃん”が言う。

 

「ううん、このハンバーグは上手く焼けてるよ! いやぁ、また誰かがこの束さんの噂をしているみたいだね!」

「……そうですか」

「どれどれ……。 あー、いっくん、今テロリスト殲滅に向かってるんだー。 まぁ、今度はちーちゃんも関係ないし、地上のことは地上の好きにさせといたらいいかなー」

 

 くーちゃんの表情は目を瞑ったまま変わらないが、眉が僅かに下がったように見える。

 彼女は元々感情表現が苦手で、最近喋れるようになってからも上手く感情を表せない。

 

 デスクの上に鎮座していた“モッピーちゃん”が掃除しようとして、既にその必要がなくなっていることが分かると、しょんぼりとくーちゃん以上に落ち込んでしまうのであった。

 

 

 

 

 その頃、アメリカ西部。 アルカトラズ島。

 昨日、亡国機業によるアメリカへの次なる攻撃として、アルカトラズ島及び巨大レールガン“アルカトラズ砲Ⅱ”の奪取作戦が行われた。

 ISによる襲撃を受けたとの連絡を最期に連絡が途絶えたアルカトラズ駐留隊の救出と島の奪還の為、“北極の狼作戦”直前に秘密裏に目標デルタとして設定されたこの島へ、海中から特殊潜水艇に乗る2つの特殊部隊が接近していた。

 

「もうすぐ到着する」

 

 船室内からISの端末接続用ケーブルを介してこの潜水艇の操縦を行う女性が、静かに述べる。

 片方の隊員たちが、緊張の為僅かに身じろぎする。 もう一方は物音一つ立てない。

 

「今回は珍しく共同で作戦を行う。 あちらさんが静かに敵を始末する間に、我々は上層部に潜入。 アルカトラズ砲のエネルギー施設を破壊する」

 

 低い声でこの潜航艇で唯一の女性と大きめの防水スーツを纏った側を指差すのは、先程身じろぎした側の小隊長。

 片やアリゾナ紛争時に結成され、先日のホワイトハウス襲撃時にも防衛に参加した、主に潜入任務を主とする陸軍特殊機動部隊ナイトリーフ。

 普通の潜入(スニーキング)であり、決して大統領のように炎を噴きながら墜落する輸送機ごと敵基地に“潜入”する意味ではない。

 しかし、近年は厳しい訓練の一環として国際災害対応機関GUIDEに出向し、ヘリからパラシュートなしでの降下やジュージツ、ヘリや装甲車の操縦といったNINJA技能を習得させている為、段々ステルスNINJA部隊化しつつあるのでそういった“潜入”も不可能ではない。

 

「敵ISが存在する可能性が高い。 戦闘は我々に任せろ」

 

 もう一方は数年前に新設され対IS作戦を主任務とする最新鋭自律装甲歩兵(サイボーグ)C38Mで構成されたCIAの秘密攻撃部隊“名も無き兵たち(アンネイムド)”。

 運用目的は真逆だが、双方共に目視、レーダー、赤外線といったあらゆるセンサーでの探知を不可能にするステルス迷彩を保有している。

 アンネイムドの隊長には同様のステルス仕様を有するストライクイーグル、“サイレントイーグル”が配備され、黒と緑、所謂“マイケルブラック”に塗装されている。

 両者とも表向き存在しない部隊であるが、ナイトリーフはアメリカ内戦時に参戦していたこともあって、アメリカ軍内部では一部に存在が知られている。

 今回、両者とも相手がどこの部隊か知らされていない。 知る必要もない。

 

「任せた。 そちらのコールサインは――」

「存在しない。 彼らからも隊長としか呼ばれていない」

「……了解した。 こちらはSHINOBI1、S1だ。 ではサイレントイーグル(SE)、健闘を」

「忍……、いや、なんでもない。 地下ドッグに着底した。 ハッチを開ける。 S1、いいな」

「いつでも」

 

 潜水艇のハッチを勢いよく開き、一気に海水が流入する。

 かなり前に閉鎖され使われなくなった地下ドッグから上陸すると、双方ともに防水スーツを脱ぎ棄てる。

 どこかそわそわした様子で、ナイトリーフ隊員の1人が小隊長の前に立った。

 

「小隊長、ここに装甲車とかないでしょうか。 アレに乗って真正面から突っ込みたいのですが」

「S8、ブリーフィングでもダメだと言っただろう。 お前、GUIDEに毒されたんじゃないのか?」

「……お前らは忍者じゃないのか。 目立ってどうする」

「いや、当然、我々はNINJAもどきさ。 本物のNINJAを名乗るほど人間やめてはいない。 だが、今回は残念ながら普通に大人しく潜入することになっている」

「意味が分からん……」

 

 忍者を自称するにしてはおかしな発言に呆れるアンネイムドの隊長。 しかし、双方で微妙に認識が異なることにはどちらも気付けなかった。

 

「全員上陸しました」

 

 ナイトリーフの最後尾にいた隊員が呟く。 小隊長は背中の高周波忍刀をチンと鳴らすと、何も語らずただ防弾ヘルメットの防弾バイザーを下げる。

 その澄みきった音を合図に部下もバイザーを下げ、ナイトリーフの青い制服が空気中にかき消えた。

 同じくサイレントイーグルとC38Mの姿も完全に消失する。 アンネイムドの隊長は妙な合図だとは思ったものの、もう声に出すことはしなかった。

 

「以後、ナノマシン通信。 作戦、開始」

 

 小隊長はそう宣言すると、手始めに内側から固く封印された耐圧扉に爆薬を仕掛け始めた。

 2013年頃にアメリカが宇宙資源を元に開発した、TNTの10倍の破壊力を持つ液体燃料TROTを少量染み込ませた工作用爆薬である。

 アメリカ内戦時には副大統領がこれをタンク数個に満載して一纏めにし、ビバリーヒルズ各地に設置していた。 大統領はそれを“安全に爆破解体”(その場で破壊して起爆)している。

 

「待て、何のつもりだ」

「何って、扉を爆破するつもりだが」

「……そのTROT爆弾でか? やめろ、私が開ける」

「そうか? なら、頼む」

 

 ナイトリーフ小隊長の言葉と同時に、固く封印されていた耐圧扉をサイレントイーグルの力がこじ開けた。

 開いた扉から、ナイトリーフとC38Mが足音もなく突入していった。

 

 

 

 

『こちらドイツ軍、シュヴァルツェ・ハーゼ。 クラリッサ・ハルフォーフ大尉です。 貴隊に合流します』

「認識コードを確認しました。 歓迎します」

 

 ドイツ特殊部隊、シュヴァルツェ・ハーゼ。 IS3機とドーラ9機を搭載した通常動力の大型輸送機――なのだが、オラジワンⅢがあまりの大きさである為、非常にちっぽけに見える。

 

『そちらのコードを確認した。 ……しかし、存在だけは聞かされていたが……大きい。 これで、IS……?』

「HAHAHA、そうだろう? パッと見ISには見えないが、これでも一応人型の背中にヘリローターをくっつけたISなのさ」

『これが?』

 

 生真面目な操縦手に代わり、副操縦手兼攻撃手のソフィア・フォレスターが豪快に笑い飛ばした。

 2重のPICとPIC使用中は格納される6つのヘリローターが生み出す速力は、この巨体にある程度のスピードを保持させている。

 ISは、人型でなければならない。 そんな固定観念を初めて打ち砕いたISである。 初見で普通に見ても人型とは認識しづらいのだ。

 

「しかし、雪原に黒いウサギだなんて、生きていけるんでしょうか?」

『さぁ、ね。 自然界の兎なら無理でしょうが、我々は生き延びます。 何故なら我々は特殊部隊ですから』

 

 オラジワンⅢの操縦手の通信ディスプレイの向こう、クラリッサは自信に満ちた笑みを浮かべる。

 

『ところで、噂のイチカ・オリムラはそこに?』

「ええ。 出撃待機中なので、話はできませんが」

あの少年(メタルウルフボーイ)になにか用事かい?」

『……イチカ・オリムラ? ハルフォーフ隊長、それは?』

『ボーデヴィッヒ中尉。 今、発言を許可した覚えはないが……イチカ・オリムラは織斑教官の弟だ』

『教官に、弟が――』

『隊長から離れなさい、出来損ない(ラストナンバー)!』

『最近急に成績がよくなったからと言って、お姉様に擦り寄らないでください』

『貴様達、やめろ! 他国が見ている前で!』

 

 クラリッサが背後に振りかえり、一喝。

 第2世代IS“シュヴァルツェア・イェーガー”2機が掴み上げ、宙に浮かせていたドーラから静かに手を離す。

 シュヴァルツェア・イェーガーはレールガン1門か大型ガトリング砲2門を背負い、IS用に再調整された特殊機動重装甲用バズーカ(カールグスタフ)か、標準装備のIS用重機関銃、ワイヤーブレード6つにプラズマ手刀(ローター・レーゲン)を装備している。

 

『この件は帰還後、教官に報告する! ……失礼した。 今の……ドーラの操縦者だが、織斑教官が赴任してからめきめきと頭角を現してきたのだが、それまでいろいろあったせいで……』

「え、ええ」

「どこも新人教育は大変だからねぇ、わかるよ?」

『いや、すまない。 他国にする話ではなかったな。 忘れてほしい。 それで教官から彼への伝言なのだが、たまには連絡をしてくれ、と。 以上だ』

「……ええ、伝えておきます」

 

 “この作戦が終わったら”という言葉を飲み込んだオラジワンⅢの操縦手。 彼女はフラグというものをきちんと理解していた。

 

 

 

 

「はいはい、そろそろ静かにしてね」

「なんだよナタル、せっかく面白そうなところだったんだぜ」

 

 イチカに話を聞こうとIS部隊員が集まっていたそこに、再び現れた救世主ナターシャ・ファイルス。

 もう一人はナターシャ同様アメリカ国家代表であるイーリス・コーリング。

 2人ともアメリカIS操縦者でトップレベルの操縦者であり、周囲のIS操縦者の憧れでもある。

 そもそもナターシャがこの騒ぎの火付け役であったことには誰も触れない。

 

「そういえばイチカ。 今も“ホウキ”や“リン”とは連絡取り合ってる?」

「いや……アメリカに来るとき、だいぶ気まずいことになったから、あれからしてないけど……」

「それはダメね。 ちゃんと帰って2人に連絡しておきなさい」

「なんだなんだ、日本でもモテてたのかイチカ・オリムラは? 今度聞かせてくれよ、ナタル。 さあお前ら! あと10分だ。 お前ら、そろそろ気合い入れるぜ! コクピット、聞こえてるか!?」

『おうよ! 降下実施点に接近! メンテ要員、交代要員は奥の方に退避し、身体をシートに固定しときなよ!』

 

 先ほどまでのあどけない笑顔を振りまいていた少女たちは冷徹な瞳を宿す戦士の顔へと変わる。

 ISの絶対防御とて絶対ではない。 生と死の狭間を駆け抜ける戦場へ、これから彼女達は飛び立つのだ。

 控えのIS操縦者としてISスーツの上から防寒スーツを着ていた約半数が整然とシートに身体を固定し、その時を待つ。

 

『退避要員、酸素マスクを装着してください』

「出撃チーム、ISの操縦者保護機能を作動させろ! 退避チーム、酸素マスク装着!」

 

 IS操縦者それぞれの身体が僅かに光る。 まだIS自体は展開しない。

 シールドバリアーと絶対防御はいいとしても、IS装甲や装備までも一斉に展開してしまうとスペースを取り、非常に混雑するのだ。

 

『通信を受信。 作戦開始だ! ハッチ解放後、各員ISの高度センサーに従い、一定速度で降下するように!』

 

 作戦開始と聞き、前に出ようとしたメタルウルフをメタルレイヴンが止める。

 

「焦るな、落ち付け。 まだ我々の番ではない」

「……わかった」

『退避要員、酸素マスク作動。 減圧、開始!』

「酸素マスク作動! 減圧開始するぞ、ちゃんとベルトは締めてるな!?」

 

 返事はない。 それを確認すると、イーリスはハッチの方向を向く。

 

「予定通り30秒後にハッチ解放!」

『30秒後にハッチ解放!』

「コーリング、ハイパーセンサーに遮光フィルターをかけろ。 眩しいぞ」

了解(Yes,Sir)、降下の先輩!」

『ハッチ、開きます!』

「以後、通信はオープン・チャネルと無線に切り替え!」

 

 オラジワンⅢの後部ハッチが開く。 予想通り、ハッチが開いた瞬間眩い光が差し込んだ。

 空気が外に吸い出されていき、その音以外何も聞こえない。

 

「うおっ! 確かに本当だぜ、自動設定から変えといて良かった」

『コンディション、オールグリーン!』

 

 強い光が差し込む中、イーリスは振り返る。

 

「さぁて。 お前ら、出撃だ! 私以降、3人ずつ降下!」

了解(Yes,Ma'am)!」

「私達が胸に秘めるモノはなんだ!?」

「アメリカ魂です!」

「私達が守るべきものは何だ!?」

「世界の自由と平和です!」

「私達が忠誠を誓うのは!?」

「合衆国です!」

「オーケィ、テイクオフ!」

 

 イーリスが静かに身体を傾けていき、そして外に消えた。

 すかさず降下作戦経験者、ロバート・ファイルスが叫ぶ。

 

行け! 行け! 行け!(GO! GO! GO!) 作戦開始!」

 

 勇将の下に弱卒無し、とはよく言ったもので、ISを大量投入した大規模作戦が初めての少女たちは同じ境遇のイーリスに力づけられ、続々と降下していく。

 そもそも大統領、つまり最高司令官が真っ先に戦うのだ。 アメリカ軍の士気はこのご時世でも元々高い。

 お手本のように綺麗な姿勢で降下していくイーリスを追いかけ、降下していく。

 

『こちらイーリス、イーグルリーダー視界良好で降下中。 いつのゲームだっけ、鳥になって来い! ってのは』

「こちらレイヴンリーダー。 ファイルスだ。 それは21世紀初めに出た、アメリカの特殊工作員がロシアに潜入するゲームだな。 ……余裕そうで安心したよ」

 

――以前、DARPAがそのシリーズに出てくる核搭載2足歩行戦車を作った事があったな――

 

「ああ……空想に技術が追いついた、と言って再現しようとした、大きなレールガンとレドームがついた、あの……」

 

――何もテロリストに襲われるところまで再現しなくともよいのだがな。 レールガンの核弾頭までは再現しなかったからこそいいものの、私が乗って迎撃する羽目になった……――

 

 ちなみにその試しに造った二足歩行戦車は、後の6脚の市街制圧用無人巨大兵器と、惑星破壊ミサイル搭載可変多脚戦車の技術へと繋がっている。

 最終降下組のナターシャと、その護衛2名とフォルテがオラジワンⅢから降下した。

 時間は予定通り。 ハッチが閉まっていく。

 

『いや、実は怖い。 予定高度までの気を紛らわすことができて、助かった』

『安全高度に到達すると同時に、信号を送ります。 同時に展開を』

『オーケェィ! ……安全高度、確保! 展開!』

 

 アメリカ代表、イーリス・コーリングを筆頭として32人の女性が整然と装甲と武器以外展開したISスーツ姿で凍てついた地上へ落ちていく。

 それらが降下した順にISを展開し、太陽光をメタルウルフを意識したダークブルーの全身装甲に反射させながら舞い上がる。

 安定した性能と高い汎用性が特徴のラファール・リヴァイヴのアメリカ仕様機、最高速度と機動性を犠牲に拡張領域と装甲を増やしたアメリカ軍の主力IS“ストライクイーグル”。

 その先頭には専用機であるイーリスの“ストライクイーグルカスタム”。 量産型と同じく部分装甲式と全身装甲式の切り替えができるのは変わらないが、代わりに全体的に装甲が薄くなったほか、“ファング・クエイク”用の試作スラスターに換装されている。

 元々別の要因から全身装甲であるナターシャの“カスパライティス”とフォルテを含めた護衛3機はそのまま地表まで降下した。

 

「カスパライティス、着陸しました。 周辺に異常なし。 作戦、第1段階最終フェイズ開始します」

『了解、最終フェイズ開始せよ』

 

 カスパライティスの背中、6本の装甲脚が動き出す。

 モンドグロッソでは牽制用のミサイルユニットと装甲脚だけで格闘戦を行わざるを得なかった本機だが、実はこの装甲脚、本来格闘用の装備ではない。

 

「PIC、全力稼働でカスパライティスを空間固定。 超エネルギー波動砲ユニット、起動」

「補助ユニットを呼び出します(コール)

呼び出し(コール)。 補助エネルギーユニット、接続させます」

 

 通常はオフラインになっている波動砲ユニットが起動。 背中の6本足の中心に、赤い球体が出現する。

 装甲脚が全て下を向き、機体を固定するアンカーとして永久凍土を抉り、突き刺さる。

 護衛機のストライクイーグル2機が運んできた、拡張領域(バススロット)の大部分を占めるカスパライティスの超エネルギー波動砲ユニットの補助ユニットをメインユニットへと連結させる。

 ほぼ同時に背中の赤い球体が光を放ち始めた。

 

「右補助ユニット、接続確認」

「左補助ユニット、接続確認」

「接続確認。 エネルギー、供給開始」

 

 甲高い音と共に、“超エネルギー波動砲”の出力が上がっていく。 明滅を繰り返す赤い球体の内部で、莫大なエネルギーが生成、収束していく。

 

「エネルギー、補助からメインまで全ユニット正常伝達。 衛星データリンク完了」

「正常起動確認! 退避! 退避!」

「退避完了! 耐熱防御、データ記録開始!」

 

 球体の下から両脇へと折りたたまれていた長い砲身が突き出てくる。 それを掴むと、赤い球体から高温で蒸気を吹き出し始めた。

 球体を中心に、超高温の熱気が周囲を包む。 その熱気は瞬く間に足元の永久凍土を溶かしつくす。

 護衛機も距離を取り、全てのハードポイントにエネルギーシールドを呼び出して防御態勢に入る。 コールド・ブラッドも一応その陰に隠れた。

 

「うわぁ……暑そうっスねー……」

「出力、90……100……120%……!」

 

 100%に到達すると同時、耐熱装甲から冷却ジェルが吹き出す。

 だが、背中の赤い球体はそのまま。 間を置かず、今まで見ていなかったステータスパネルの隅に警告音と共にメッセージが表示される。

 

――WARNING! Back unit overheat!――

「ごめんなさい。 それでも、撃たなきゃいけないの……!」

 

 ナターシャの言葉に反応したのか警告メッセージが消える。 次の手順である超高感度センサーを呼び出す(コール)

 

「超高感度ハイパーセンサー起動」

――Ultra-high sensitivity hyper sensor unlocked.――

 

 カスパライティスの額部分にあった精密射撃用の超高感度センサーが下りてきて、赤い単眼の上に蒼い単眼が被さった。

 基本的にISが発するメッセージは篠ノ之束が日本語に設定しており変更できなくなっているが、このカスパライティスはコアの自我が学習したのか、たどたどしいながらも英語を表示してくる。

 ナターシャはクリアになった視界で照準を合わせた。

 

――Anchor locked……OK.――

――Energy line Connected……OK.――

――Super energy wave laser cannon,(超エネルギー波動砲、) ready to fire.(撃てます)――

 

 周囲に広がるのは最早永久凍土ではなく、乾燥しきったひび割れた大地。 モンドグロッソで使用を制限されるのも当然と言える。

 降り続ける雪など、雨を通り越してそのまま蒸発していく。 漏れ出す熱でこれだ。 赤い球体の内部では、核爆発を遥かに超えるエネルギーが荒れ狂っている。 ふと、管制塔上部から1機のISが脱出し、高度を上げるのが見えた。

 

「超エネルギー波動砲、発射!」

 

 放たれた圧倒的なエネルギーは、射線上の凍土を一瞬で蒸発させ、全てを薙ぎ払う。 30000℃の超エネルギー波動砲が通過していくそばから、その射線沿いで熱せられて高温高圧となった空気が爆発的に膨張し、雷鳴のような音と共に強烈な爆風となって周囲へ押し寄せていく。

 恐らく管制塔であろうタワーの根元にまず突き刺さり、一瞬で構造物を蒸発させる。

 そのまま掃射され、管制塔は地下の一部と3階までをごっそりと失い、更に爆風で下から巻き上げられる形で倒壊が始まった。

 更に航空機とISが待機するであろうハンガーへと突き刺さり、超長距離からの攻撃でハンガーは緊急出撃した勘のいい戦闘機数機を残して根こそぎ消滅。 生き残った戦闘機で最後に上空へと逃れた機体が、襲いかかる爆風に揉まれて空中分解して落ちていく。

 ISも既に操縦者がISを装着済みであれば運が良ければ逃れられるかもしれないが、直撃を避けても直後に襲いかかる超高温の爆風に巻き込まれたならば、ローストチキンを通り越して炭になるだろうからやはり生存不能だろう。

 この凍土の地において陽炎を揺らす、見通しのよくなった目標地点を眺めつつ、思わずナターシャの口から呟きが零れ落ちた。

 

「……綺麗になったわね(It's a beautiful spectacle.)

「えっ……? な、何か、言ったっスか……?」

「気のせいじゃないかしら? スカッとしたわって言っただけよ」

「全然物騒さを隠せてないっスよ……!」

 

 と、超エネルギー波動砲のあまりの威力に怯えるフォルテが、自機の周囲の分子活動を極端に鈍らせて自分だけ涼しい空間を作り出した頃。

 先ほど上空へと逃れていた8本の装甲脚を背負ったISが、何か怒鳴り散らしている。 データ照合するまでもなく、あの8本脚には見覚えが――。

 ふと、そこでカスパライティスの視界にノイズが走った。

 元々、ニューヨーク1日分の電力を充電して発射し、3000℃の熱線で大統領のメタルウルフをも一撃で撃墜しかねないエネルギー波動砲だが、ISへの搭載にあたって何を考えたのか出力10倍、フルパワーなら30000℃の熱線を発射して直撃させれば絶対防御ごとIS搭乗者を破壊できるように改造されている。

 だが、冷却機能が追い付いていない。 氷点下だった気温をこの周辺だけ3桁以上の数値と化して、尚。

 

「カスパライティス、波動砲ユニットが異常加熱しています! 温度が低下しません!」

「フォルテちゃん、なんとかなる? ちょっと今、この子も動けないの」

「なるっスよ。 だからこそ、この“コールド・ブラッド”の出番っスね」

 

 左右に非固定浮遊部位(アンロックユニット)を浮かべ、氷の結晶を模した冷気を纏う全身装甲のIS、コールド・ブラッドが灼熱の大地の中央に立つカスパライティスへと近づいていく。

 その両手に呼び出された(コールされた)のはアメリカのフォーレイク社が開発した特殊機動重装甲用凍結ガス放射器をIS用に調整した“フリーズスロワー”(FRT550)

 放射される超低温凍結ガスは白騎士事件で使われたサメ型ミサイル同様に、戦闘ヘリだろうが戦車だろうが瞬く間に瞬間凍結させた氷像へと変える、冷凍兵器の決定版とでもいうべきものである。

 

 ISならば絶対防御やシールドバリアーで全身氷像を避けることはできるが、このコールド・ブラッドは元々分子活動を極端に鈍らせ、停止と凍結させることを主眼とした冷気を操るIS。 上手く特性の合致した両者ならば、IS相手だろうが問答無用で氷漬けにするのもお手の物だ。

 凍らせたら、あとは氷の結晶の意匠をあしらったシールドの中に隠し持つ“灰色の鱗殻(グレー・スケール)”でマイペースに粉砕して砕けばいい。

 コールド・ブラッド(冷血)とはそういうISなのだ。

 

 コールド・ブラッドを操るフォルテは、周囲へ適当に巨大氷塊を降らせつつ、フリーズスロワーで波動砲ユニットの温度をゆっくりと下げていく。 今回は逆に凍らせすぎないようにしている。

 

「……これで大丈夫かしら? やっぱり試射なしで撃つものではないわね」

 

 ナターシャが確認するステータスパネルの中で、カスパライティス側の自己判断によっていくつものウィンドウが高速で現れては消えていく。

 FCSやミサイルユニットといった不要なエネルギーをカットし、コールド・ブラッドの放つ冷気で未だ蒸気を纏いながらも安全に冷却中の波動砲ユニットの冷却機能を再構築、最適化し、ユニットの冷却速度を速めていく。

 やがて温度が安全圏へと低下すると同時に停止していた機能が復活し、ウィンドウに“再発射可能”(Again possible shelling)“エネルギー不足です”(Energy shortage)の2文が表示された。

 

「ありがとう、カスパライティス。 それにフォルテちゃん。 ……戻りましょう。 エスコート、よろしくね」

「どういたしましてっス」

 

 ナターシャが見上げる先でオラジワンⅢが高度を上げ、前傾姿勢を取ることで加速している。

 特殊機動重装甲を投下するのは、もう少し先の地点だった。




ラウラ及びシュヴァルツェ・ハーゼはまだ千冬に鍛えられ始めて1ヶ月経っていない状態。
次回は大統領による素敵なハロウィンパーティーもあります。

イチカのメタルウルフをハイパーセンサーで見ると、2人分の大統力によるちょっとしたプレッシャーと共に、通常見えない半透明の人影が「Hallo!」と挨拶してくれます。
ホラーが苦手なIS操縦者に対する一種の精神攻撃ですが、毎度毎度反応を描写するのも面倒なので、タイミングによって見えたり見えなかったりということで。
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