METALWOLF_ICHIKA(改訂版)   作:レクス

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地球でしか使われていない宇宙用マルチフォームスーツの広域殲滅型が、ちゃんと宇宙で運用する広域殲滅型になるとこうなるというのと、このくらいしないとISみたいな国家情勢にはならないだろうというもの。

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#5

 厳寒のグリーンランド国立公園、その内陸部上空を舞う、1機の早期警戒機。

 手頃である為、多数の国に輸出されているその機影――艦載用の着艦フックとカタパルトバーを撤去した空中警戒機E-2D。

 拠点上空を常時E-2D1機と護衛のF-35B3機が飛行し、その強力なレーダーによる対空警戒を行い、必要とあれば管制塔へ航空機やISの出撃要請を出すことでこれまで強固な防空網を形成していた。

 その探知距離はE-2Cの時点で560kmと広大な範囲をカバーしており、現在のE-2Dはそれ以上の範囲をカバーしている。 しかし、今その性能は殆ど発揮できていない。

 急に無線が通じなくなり、情報処理の精度も落ちたことに気付いたE-2Dのパイロットがそれを目視確認した時には、既にミサイルが垂直発射されていた。

 

「ダメだ、ジャミング継続中! こちらのECCMでは対抗しきれない!」

「管制室、応答しろ! 助けてくれ、アメリカ軍だ! 北西からステルスモードでISの大編隊が接近中! 直ちに応援を――」

 

 多数の計器が並んでいるコンソール室でレーダーオペレーターが必死に対抗手段を取り、CIC士官が無線に叫ぶ。

 鳴り響くミサイル接近警報。 上昇を続けていたミサイルが斜め下へと向きを変え、E-2Dにその弾頭を向ける。 元イギリス空軍のパイロットが自棄になって操縦桿を握り直す。

 

「全員、掴まれっ!」

 

 直後、天地がひっくり返った。 右急旋回を2度繰り返した後に空中分解しかねない勢いでのバレルロール。

 酷く軋むような音を響かせながら高度を落としたE-2Dの窓から噴射炎を噴き出すミサイルが機体を掠めて飛び去るのが見えた。

 

「やった!」

 

 快哉を叫んだのも束の間。 ミサイルの次弾が迫っていた。 護衛のF-35BがEN機銃を撃ちながら上から降ってくるミサイルを高出力レーザー砲で迎撃し、次の瞬間ミサイルが直撃してきりもみしながら落ちていく。

 幸運は何度も続かず、先程の無茶な機動でふらついたE-2Dの機体上部に設置されているディスクレドームへ本命の対レーダーミサイルが命中した。

 

「ぐあっ……!」

 

 音速を超えて飛来したIS――ストライクイーグルカスタムのミサイル攻撃が空中警戒機E-2Dのレドームを一発で粉微塵にし、その真下のコンソール室の天井が砕け、炎が流れ込んだ。

 炸裂した爆発が機体に伝播し、E-2Dはただの1撃で胴体部からへし折れ、落ちて行く。

 

「大出力のECM……電子戦ISだと……?」

 

 レーダーオペレーターが、自由落下していく身体を捩りながら呻く。

 彼は幸運にも炎にも撒かれず、瓦礫の直撃を受けなかった。 だが、それだけ。 高空から何の装備もなしに落ちて助かるはずもない。

 彼は、元々イギリス軍で早期警戒管制機(AWACS)のオペレーターだった。

 イギリスはISの出現に伴い、イギリスの女性とマスコミが女尊男卑を掲げて革命を起こし、当時のオルコット首相含めた政府高官が爆殺され、イギリスの最高権力者は女王へと移った。

 以降、必ず男性から選出することになったイギリス首相は女王の傀儡に成り下がり、女王が政治を行うためのお飾りとして、そして政策が失敗した場合に全責任を負わせる不満のはけ口としてのみ存在している。

 そんな政治経験ゼロのイギリス女王は、女尊男卑政策とIS至上主義を掲げ、従来兵器の削減にかかった。

 

――IS以外の兵器は全てが塵芥も同然、故にISを動かせない“男”という存在は、存在する価値もない猿以下の劣等種ですわ。

 

 当然、最もこれに翻弄されたのがイギリスの男性軍人である。

 IS導入後、その言葉と共に戦車兵と戦闘機パイロットは真っ先に削減されたが、ISは電子戦機としては当時それほどでもなく、電子戦機や管制機は削減を免れると思われていた。

 ところが、男が乗る航空機如きが最強の兵器であるISを管制することが気に食わなかったその女王の命令で、管制のAWACSと電子戦機に戦闘機と、拡張領域(バススロット)に電子戦装備を満載したISと通常のISをこの為だけに用意し性能勝負をさせた結果、電子戦装備ISが大出力のECMを以てAWACSのレーダーと電子戦機を封殺し、挙句力任せに対ECM防御を突破した電磁波が情報処理装置を破壊した。

 その後、大出力ECMでAWACSを攻撃した際、IS自身に搭載していた情報処理装置も酷く損傷していた、乗員1名のISに複数名で運用するAWACSと同等な管制能力を求めたところ、操縦者の情報処理が追い付かずに操縦者が倒れた、というオチが待っているのだが、このようなナンセンスな対決を行わせたことに呆れ、その頃既にイギリス軍を離れていた彼には関係なかった。

 世界で最も男性軍人の排斥が進んだイギリスは軍から男女平等であるアメリカへの亡命者、軍人崩れのテロリストを大量に生み出すこととなる。

 

「貴様らが世に出てこなければ、俺達は……! シノノノ・タバネ……!」

 

 強風の中で慎重に、素早く腰の拳銃を抜き、既に通過して行ったISに向ける。 当たらない。 当たっても損傷を与えられない。 そんなことは、知っている。

 それでも彼はISが見えなくなるまで拳銃を握りしめていたが、やがて最後の弾丸が込められた拳銃を自身の頭に向け、そのトリガーを引いた。

 

 

 

 

「イーグルアイズよりイーグル各機。 イーグルリーダーが敵管制機撃墜」

「よし、敵の目は潰したな」

 

 ストライクイーグル電子戦仕様改修型“イーグルアイズ”の操縦者が、超高感度ハイパーセンサーで観測した結果を冷淡に告げる。

 電子戦ISの開発に伴い、管制能力の不足といった問題にぶつかったのは何もイギリスだけではなかった。

 その中でアメリカは大型レーダーを備えたAWACSを母機とし、電子戦ISはそのハイパーセンサーを活かして自機の小型レーダーとは別に超長距離から目視確認、情報収集を行い、その情報を受け取った母機が母機側の情報と照合することでECMの影響下でも遅滞なく指揮管制を行えるようになっている。 AWACSや情報収集艦が主で、ISが従といったところか。

 オラジワンⅢの場合、その巨大な機体を活かそうと様々な実験的要素が詰め込まれた結果、その1つとしてコアネットワークを介して十数名が待機するコンソール室と指揮用司令部へとISからの索敵情報が送信されている。

 その代償としてオラジワンⅢは“ガンシップと管制機を兼ねた攻撃ヘリな人型IS”という、なんとも表現に困る物体になってしまっているが。

 

 IS自体の操縦者保護機能とは別で全身装甲に対電磁防御を施し、特殊機動重装甲と同型のレーダーを搭載するイーグルアイズが、リアルタイムで戦域情報を収集してコア・ネットワークで送信し、その情報を解析、取捨選択して纏めた物が同じようにコア・ネットワークで返ってきて、アメリカ軍のストライクイーグルへと送られる。

 ハイパーセンサーが、砕けて炎に包まれながら落ちていくE-2Dの残骸の中に紛れた“かつてヒトだったもの”の映像を拾い上げ、操縦者の脳に伝えてくる。

 思わず、何人かが目を逸らした。

 

「お前達、目を逸らすなッ!」

 

 しかしそれを、イーリスが叱責する。 今回、彼女が先導しているIS集団の半分は、昨年IS学園を卒業したか、IS学園に入らず軍に入った新人達だ。

 IS関係で出遅れたアメリカ軍は本格的にISを運用し始めたのも遅いほうだったので、まだ運用期間が短い。

 だが、イーリス達が新兵器ISで何度も墜落しながら実機で操縦を習得してマニュアル化し、他国から取り入れた運用ノウハウやIS学園第1期卒業生によって、やっと運用も軌道に乗った。

 空を飛ばなければ特殊機動重装甲やEOAとそう変わらなかったのも大きい。 そして、一旦軌道に乗ってしまえばそこからアメリカは早いのだ。

 

「私はIS学園行ってねぇからどんな教え方をしているかは知らねぇけど、ISは間違いなく簡単に人を殺せる兵器だってことを忘れるな! その自覚を持て! 持てないならIS乗りなんてやめちまえ!」

 

 そうだ、と新人達は思い出す。

 3年間、IS学園での厳しい扱きに耐えてきたのは何の為だったか。

 軍での厳しい扱きに堪えているのは何の為か。

 世界のリーダーであるアメリカ国民として、世界の平和を守る為に。 もしくは、幼き頃憧れた大統領(ヒーロー)のようになる為に、アメリカ軍に入ったのだ、と。

 ほぼ同時、眼下を閃光が駆け抜け、拠点の施設に命中した。 カスパライティスの波動砲だ。

 が、それより早く上空へと舞い上がった戦闘機が5機。 残りは離陸中か直後に波動砲の余波を受け、雪原へと落ちていく。

 

「……イーグルアイズよりイーグル。 目視にて敵機を確認」

『こちらオラジワンⅢ司令部、情報受信中。 ……こちらでもレーダーに捉えた。 続行せよ』

「イーグルアイズよりイーグル、ボギーは12時方向より5機。 イギリス空軍――いえ、亡国機業所属、F-35Bです。 データと一部不一致、現地改修型です」

「イーグルリーダーより各機、マスターアーム・オン(兵装安全解除)。 イーグル1より5、お客さんだ。 私たちで排除するぞ。 残りは新人と留守番だ」

「了解」

「レーダーコンタクト。 輸出型なら光学ステルスはないな?」

「そのはずです」

「了解。 イーグルリーダー、ダイブして接近する」

「了解」

「了解。 イーグルアイズ、ECM、ジャミング兵装起動。 イーグル、ご武運を」

 

 背中の2対のウイングスラスターから得た推進力で、イーリスのストライクイーグルカスタムとストライクイーグル5機が加速する。

 その両手にアサルトライフルのレッドパレットを握りしめ、背中のハードポイントには4連装空対空ミサイルが4基呼び出されている。

 

「イーグルリーダー、エンゲージ」

「イーグル1から5、エンゲージ」

 

 表示されたオラジワンとイーグルアイズの2機の情報を重ね合わせたレーダーで、E-2Dの撃墜地点の方向からカスパライティスの方向へと行先を変え、急行していくF-35Bの編隊。

 ISのステルスモードでレーダーから隠れたストライクイーグルとイーリス機は、隠れていた雲の中から舞い降りた。

 

「ロックオン! FOX1、FOX2!」

「落ちろ!」

『上だ! ブレイク! ブレイク!』

『近すぎ――』

 

 噴煙と共に飛来するミサイルが、F-35Bの5機のうち、散開が遅れた1機を直撃する。

 イーグルアイズの比較的強力なECMによって、F-35Bの編隊はレーダーで自機の位置も分からないほどの状態へと叩き落されていた。

 

『ボーン3、ロスト……! ISめ!』

『くそ……祖国に棄てられた我らが恨み、貴様らに叩きつけてやる!』

 

 キャノピーまで装甲に覆われ、EN機銃と分裂ミサイル、第1世代IS登場頃に開発された高出力レーザー2門を搭載する白銀の翼が飛行機雲を描きながらバラバラに動き、しかし同じ1機を照準して襲い来る。 先頭の、イーリス機を。

 

「私とダンスしようぜ?」

『死ね!』

 

 追われるイーリス機と、四方から追うF-35B。 それを更にストライクイーグルが追撃する。

 多数飛来するミサイルを、イーリスは両肩の盾を量子化しながらアサルトライフルへと切り替える。

 バレルロールしながらハイパーセンサーで後方を照準し、ハードポイントのライフルだけ後方を向かせて近づいてきたミサイルから撃ち落とす。 IS運用開始当初はできなかったこんな曲芸も、最早慣れたものだ。

 F-35Bにもミサイルが飛来するが、フレアを撒きながら回避。 しかし1機だけストライクイーグルは別種の電波誘導ミサイルを混ぜていたが為、F-35Bの1機にミサイルが殺到し、エンジンノズル付近への被弾で一瞬跳ねた機体へ次々にミサイルが着弾し、食い散らかした。

 

『ボーン5が食われた!』

『クソ、コイツ――!』

 

 1機脱落し、残り3機になったことを確認したイーリスは、追われながらもその場で振り返る。

 途端にEN弾が命中するが、シールドバリアーを貫通するには至らない。

 高出力レーザーだけはシールドバリアーを貫いてくるが、それはシールドで防げばいい話だ。

 そして、両腕のレッドパレットをF-35Bのコクピットに照準し、1機にはミサイルを発射した。

 

おやすみ!(FOX2,FOX3!)

 

 最初の数発はF-35Bの機首付近から発せられたエネルギーシールドに弾かれた。 やっと貫通した1弾が超高速で接近する敵機の、コクピットを覆う湾曲した装甲を滑るように弾かれたが、続けて同じ個所に飛来した次の銃弾が装甲を突き破り、コクピットの内部を食い荒らす。

 攻撃コースに入ろうとした1機が正面からミサイルと鉢合わせして視界を爆発に覆われ、減速しかけたところで後方のストライクイーグルから無防備な機体後部に集中攻撃を受けて砕け散り、一撃離脱を試みていた1機がエネルギーシールドを貫通され、掠めていったレッドパレットの銃弾の当たり所が悪かったのか発火し始める。

 

『クソ、クソぉぉっ! 貴様も、みちづ――』

 

 F-35Bは赤いレーザーを放ちながら黒煙と炎を纏いつつ、イーリス機へと直進し――やがて、コクピット内部に回った炎に焼かれ、イーリス機とすれ違いながらENタンクに引火してショート。 内部から爆発し、弾け飛んだ。

 

「……あばよ。 イーグルリーダーよりイーグルアイズ、お客さんは掃討した!」

「イーグルアイズよりイーグル、ボギー反応なし」

『こちら司令部。 速やかに所定の任務を遂行せよ』

「イーグルリーダー、了解」

 

 敵戦闘機を撃破したイーリス機とストライクイーグル5機は元の編隊へと復帰する。

 現時点で敵IS、航空機は確認できない。

 

「イーグル全機、攻撃準備!」

 

 新人達が、速度を緩めぬまま武装を展開する。

 ストライクイーグルの背中にあった追加大型ウイングスラスターが消失し、代わりに堅実な設計で信頼性も高いクラウス社のIS搭載用9連装MLRS“ブレイズレイン”が出現。 後方に向かって2つずつ、最後方だけ1つのそのコンテナの口が開き、中には多数の子弾を搭載したロケット弾がその先端を晒していた。

 ちなみに、競技用の場合はMLRSの不発弾の子弾の回収が手間であることから、単弾頭型のロケット弾が用いられる。

 追加で脚部3連装ミサイルポッド、グレネードガトリング砲、レールガン等といったいくつもの武装が機体各所のハードポイントに現れた。

 

 アメリカのIS関連企業は他国からの評価も高い模範的な優良企業の元航空機メーカーなクラウスと、アメリカ陸軍と特殊機動重装甲を共同開発して以来、アメリカ軍向けに装備を卸しているが時折度肝を抜くような珍兵器を生み出すフロントムーヴの2社が大手として挙げられる。

 モンドグロッソ以降、クラウス社の協力もあってそんな両社が開発する第3世代型量産機のファング・クエイク1号機は月刊軽空母、週刊護衛空母、日刊駆逐艦とかつて呼ばれたような圧倒的生産力にモノを言わせて急速に製造と組み立てが進み、残すは試作中の大気圏内外兼用大出力スラスターと第3世代兵器である射出型ワイヤード・パイルバンカーのみ。

 

 過去の化石燃料枯渇によって、確かにアメリカから石油は失われた。 だが、その他の資源や生産力までもが失われたわけではない。 ましてや今のアメリカはリチャード時代のように流通を絞って配給制になっているわけでもない。

 ファング・クエイクが完成し、試験が済み次第、ノーマルなストライクイーグル60機は全機ファング・クエイクかシルバリオ・ゴスペルのどちらかへと随時アップグレードされることになるだろう。

 コアの数に限りがなければ、それこそ無数の万能汎用機(マルチロール)ファング・クエイクとそれに護衛された広域殲滅ISシルバリオ・ゴスペルを造れたのだが。

 

「目標は敵拠点地上部全域! まっさらにしてやれ!」

 

 残り半分、イーリスと同じく手探りの状態から特殊機動重装甲を参考にISを操り始めた操縦者の集団が高度を上げて加速する。 新人のMLRSによる攻撃後、彼女ら突入支援組はIS用バンカーバスターで地下層をいくらか破壊し、特殊機動重装甲の突入口を作ることとなっている。

 

「イーグル! 敵IS反応出現!」

「きゃっ!?」

「くぅっ……!」

 

 しかしその時、高熱による陽炎と粉塵の中に潜んでいた8本の装甲脚を背負ったISが長距離から砲撃を開始。

 イーグルアイズの警告と同時、狙われた突入支援組が8機ほぼ同時に直撃弾を受け、体勢を崩す。

 

「イーグルアイズよりイーグル、敵IS反応、アラクネと確認!」

「アラクネか! 気を付けろ、あいつは武器10個、一気に使えるぞ!」

 

 アラクネが両手に1つずつ抱えるのは、IS用16連マルチミサイルランチャーだ。

 更に背中に8本存在する装甲脚のハードポイントへIS用スナイパーライフルが装着されており、独立したPICで姿勢制御され、同時に8機の目標を狙撃している。 先程の直撃弾の正体はこれだ。

 そこへ新たに32発のミサイルが発射され、ストライクイーグルめがけて飛来してくる。

 

「ENガトリングポッドで迎撃! 新人(ルーキー)、落とされるなよ!」

 

 射程と威力は低いが、牽制や迎撃には最適な頭部ENガトリングポッドを全員起動、突入支援組が新人を庇うようにコースを修正し、アサルトライフルでミサイルを撃ち落とす。

 だが防御の甘かった新人1名が最初の狙撃で盾を持つ腕を打ち上げられ、次弾がシールドを弾き飛ばし、残り6発の狙撃が次々とガラ空きになったISへと命中する。

 直撃を受けたミサイルポッドは被弾と同時に切り離されており、いくつもの装甲を損傷したストライクイーグルがまるで狙ったかのようにイーリスの胸の中へと弾き飛ばされてきた。

 

「な、なんだと……! おい、大丈夫か!?」

 

 恐るべき命中精度と、瞬時に狙いやすい敵を見抜く判断力。 尋常な腕ではない操縦者と、そのIS。

 しかし、スナイパーライフルの威力が低かったのか、ストライクイーグルの厚い装甲に助けられたのか。 損傷した装甲こそ多いものの、全損した装甲はなかった。

 

「へ、平気です! まだやれます!」

「オーケィ、無理すんなよ!」

 

 と、その直後。 生き残っていた20のミサイルが割れ、中からそれぞれ4発のミサイルが出現した。 思わず腕の中にいた新人を放り出す。

 

「きゃっ!?」

「分裂ミサイル!? やられた! 突入支援組は防御を固めろ! 新人はその後ろで攻撃準備! 着弾する前に撃て!」

 

 80のミサイルが、ストライクイーグルの編隊を包み込むように動きながら突っ込んでくる。

 突入支援組が左右の肩部シールドと両手に呼び出した物理シールドを突き出し、背中から伸ばしたアームのハードポイントでENシールドを展開させる。 6枚のシールドを掲げたISが新人とミサイルの間に割って入りながら、フレアと連装ENガトリング砲からEN弾をばら撒く。

 イーグルアイズがECMジャマーを起動し、ミサイルの誘導を狂わせにかかった。

 

「やらせやしねぇよぉぉっ!」

 

 イーリスは突入支援組と新人の間に位置し、両腕と肩、背中からのアームに計8門の2連装ENガトリング砲を呼び出した。

 高速回転を始めた16の銃身からEN弾の薬莢であるエネルギーセルをばら撒きながら、黄色く光るエネルギーの弾丸が飛来するミサイルへと殺到し、次々ミサイルを撃墜する。

 その間にイーグルアイズが量子変換(インストール)していた、IS用に調整した特殊機動重装甲用のショットガン、スターフリー・チャフ仕様(SG7/CH)2丁を発射し、大量の金属箔片がストライクイーグルの至近を漂う。

 

「ナイスだ! 新人、砲撃開始ーっ!」

 

 思わず耳を塞ぎたくなるような音と共に15機のISから計270発のロケット弾が放たれ、それは砲撃するアラクネの頭上にも降り注いでいく。

 瞬間、こちらへ飛来するミサイルが特殊なチャフに触れ、即座に強制的に爆発させられた。 遅れてすり抜けてきたミサイルが数発、ストライクイーグルのシールドに着弾。 着弾の反動が、操縦者達の身体を揺さぶった。

 

「まだだ! 次のMLRS用意! 今、反撃してきた奴の位置は全員分かってるな! イーグル24以降はそこに集中させろ!」

 

 弾切れになったMLRSの中に、量子化されていた新しいロケット弾が呼び出されていく。

 そう、まだこれは始まりの砲撃に過ぎないのだ――。

 

 

 

 

 そんな戦場の様子を、超長距離から見つめているISが1機。

 衛星軌道上から現在作戦中のグリーンランドを見つめるストライクイーグルの電子戦改修型“イーグルアイズ”だが、頭部だけが無塗装な別の形状(違うISの頭部)へと変更され、少々歪な機体になっていた。

 アメリカ宇宙軍秘匿拠点“イレイズド・ツー”所属イーグルアイズの頭部に装備しているのは、絶賛開発中であるアメリカ製宇宙用IS“シルバリオ・ゴスペル”(銀の福音)の大気圏外用ハイパーセンサー“セイヴァー・アイ”(救世主の瞳)

 

 ISのハイパーセンサーは本来宇宙空間での運用を前提とされており、大気圏外では数千km以上の距離ですら知覚可能となるが、大気圏内ではリミッターがかけられている。

 そして、そのリミッターを空間戦闘用に解除したのが、このセイヴァー・アイ。 衛星軌道上から地上の人間サイズを精確に視認しロックオン、そして分裂する高密度エネルギー誘導弾の雨を降らせる広域殲滅用ISの要となる瞳。

 視界の“モノクローム・アバター”拠点へ、無数のロックオンを示す表示と、それと同じ数だけ対象を攻撃可能な武装がないことを示す表示が出現する。

 

「セイヴァーアイより“エンタープライズ”観測班へ。 こちらの直視映像(ダイレクト・ビュー)を転送します。 見ての通り、ロックオン表示が多すぎて視界が塞がれています……」

『こちら観測班、確認した。 表示方式を変更させよう。 今回は射程外の表示を非表示にせよ。 ロックオン表示は、そろそろ綺麗になるからそのままでいい』

「どういうことで――ああ、ナタルのカスパライティス……」

『今回、こちらからの干渉は緊急時を除いて不要とされている。 見て、記録しているだけでいい。 尤も、その機体に地上を攻撃する武器もないがな……』

 

 イーグルアイズから見てやや遠方に停止しているアメリカ宇宙軍秘匿拠点“イレイズド・ツー”所有の宇宙空母“エンタープライズ”。 最近またリメイクされた大昔のSFドラマに登場する宇宙船と同じ名前がついているが、当然ソレそのものではない。

 戦闘機の代わりに特殊機動重装甲の空間戦闘仕様型“メタルワイバーン”を搭載した秘匿空母であり、“北極の狼作戦”(オペレーション:ノーザンウルフ)が万が一失敗した際にはアメリカ宇宙軍が宇宙資源から開発した、超音速と高熱に耐えうる大質量弾頭を発射するレールガン“ロッズ・フロム・ゴッド”(神の杖)を使用すべく、同レールガンを構える多数のメタルワイバーンが周辺を見張っている。

 

 音の伝わらない真空の世界から、同じイレイズド・ツー所属の同僚にして国家代表、そしてシルバリオ・ゴスペル第1号の専用操縦者予定のナターシャが放つ波動砲が敵拠点地上部を崩壊させる様子を眺める。

 威力があり過ぎてISコアも残さず消し飛ばしてしまう波動砲の光が消え失せ、破滅的な被害を受けた地上が露わになり、あの少々危ない性格の同僚は、今頃“スカッとした”とでも言っているのかしら――と考えていたその視線の先で、1機の敵性ISにロックオンの表示が出た。

 

 

 

 

「殺す気か畜生ーっ!」

 

 管制塔の上空へ、間一髪退避した赤と黒のスパイダーマンカラーで背中に8本の装甲脚を背負ったクモを模しているIS。

 事前に聞いていたとはいえ、まさかいきなり管制塔を崩壊させるとは思っていなかったアラクネの操縦者にしてCIA諜報員、亡国機業でのコードネーム“オータム”が絶叫する。

 アラクネは、2足歩行して背中にある8本足を武器として扱う人型モードと、背中のユニットを腰までスライドさせ、8本足で安定した姿勢を取れる多脚モードの切り替えが可能な、表向き強奪されたことになっているアメリカのフロム社製第2世代ISだ。

 

『……文句は現場指揮のファイルス少佐か上層部に言ってくれ』

「いやおかしいだろ! なんだよこの威力! アラクネの波動砲なんてこれと比べりゃオモチャじゃねーか!」

 

 彼女の絶叫と怒りに応えるのは、オラジワンⅢの内部に存在するコンソール室と指揮用司令部で待機中のCIAの上司である。

 

『それはそうだ。 アラクネの波動砲はモンドグロッソ出場用に出力を制限している。 対してアレは、フロムが出力向上を追求して単純に大出力で絶対防御を貫通する(レギュレーション違反)ものだ。 そもそもカスパライティスの元々のコンセプトは白騎士事件で破壊された衛星に代わる“衛星軌道から砲撃する高機動衛星砲IS”だったからな』

 

 尤も、シミュレーション結果では最大までチャージしないと撃てない、1発撃ったらユニットは破棄する上にユニット自体のコストも高い、実際に衛星軌道から地表に向けて発射した場合、地球にどの程度の被害が及ぶか推測できないという理由により衛星砲として運用されることはなかった。

 

『ちなみに、君が潜入工作員だと知っているのは私と大統領くらいだが――』

「当たり前だ! ああ畜生、この前どっかから盗んだらしいクアッド・ファランクス搭載機がいりゃ対空砲撃も楽なのによぉ!」

 

 ハイパーセンサーで拡大した先に、IS32機が整然と突撃してくる様を見てしまったオータムは8本足全ての先端を開き、中から現れたマシンガンをストライクイーグルに向ける。

 有効射程外と表示された照準8つを見て舌打ちし、代わりにスナイパーライフルを呼び出す。 ただし、手ではなく装甲脚側に。

 装甲脚先端が一旦量子化され、ハードポイントがついた状態でスナイパーライフルを装着する。

 装甲脚のPICが長い銃身を一切のブレなく支え、新たに表示された照準をストライクイーグル8機に向け1門1門を精密狙撃に等しい精度で連射、装甲脚がその反動を吸収する。

 数発を高速で移動してくるストライクイーグルに命中させると、たまらずストライクイーグルは回避運動を取り始めた。 真っ直ぐ突っ込んでくるだけなら簡単だが、高速で回避運動を取るISに命中させることは至難の業だ。 少し発射サイクルの速度を落とす。

 偶然目に映った及び腰のISに全ての照準を重ね、吹きとばす。

 

『私が言いたいのはだな。 君は今、普通に我が軍から敵機として認識されている。 急いで逃げないと飽和爆撃の餌食になるぞ』

「あぁ!? 飽和爆撃だぁ!? テメェ、やっぱり私を殺す気か!」

『仕方ないだろう? 今ここでは、私しか知らないのだから』

「クソがぁ!」

 

 空いていた両手にマルチミサイルランチャーを呼び出し、飛来するストライクイーグルに向ける。

 FCSが自動で高速マルチロックオンを行い、32機全てにロックオンが完了したことを告げる電子音が響くと同時、オータムはトリガーを引き絞った。

 

「悪く思うんじゃねぇぞっ!」

 

 発射されるが否や、オータムは武装を量子変換し大急ぎで未だ熱々の地表を突破し、地下施設へと逃走していく。

 地下には脱出する為の何かがあるかもしれない。 なければ、自分の任務はここで終了だ。

 その途中、本来ここにいたはずの者へと個人秘匿通信(プライベート・チャネル)を繋いだ。

 

『……こちら、エムだ』

「テメェ! こんな時にどこほっつき歩いてやがんだ! あぁ!?」

『……オータムか。 アルカトラズで任務中だ。 用件がないなら、切るぞ』

「何が任務だお前、スコールから独断専行だって聞いたぞ!? 用件なら今すぐ言ってやる! 今、こっちにアメリカ軍が侵攻してんだ!」

『……は……?』

 

 彼女が地下に消えた直後、無数に降り注いだ子弾が炸裂し地上構造物は完膚なきまでに破壊され尽くした。

 

 

 

 

『目標上空です。 入場券(武器)の用意は済んでいますか? そういえば、こうやって2人で出かけるの(作戦)も随分と久しぶりですね』

「そういえばそうだな。 もちろん、チケットは大量に用意しているとも」

 

 高度25000フィートからのフリーフォール。

 途中偶然飛んでいた哀れな早期警戒機を真上から踏み潰し、更に管制塔の屋上から1階までを豪快にぶち抜き、崩落する瓦礫の中から力強く輝く赤い単眼(モノアイ)

 鋼鉄の破壊神メタルウルフが今まさにブリザード吹き荒れるグリーンランドの地に降り立った!

 

「敵拠点への“潜入”(スニーキング)に成功した」

『潜入にしてはいつもお出迎えが早いようですが?』

 

 秘書のジョディから盛大な溜息が洩れる。

 拠点の規模としてはイチカ達が向かった物よりやや劣り、地下層はこちらの方が少ない。

 しかし、こちらに投入された戦力は56歳になる大統領ただ一人である。

 既にもう片方の拠点が強襲されたと連絡を受けていた亡国機業は、この段階ではそれを侮られたと勘違いしていた。

 だが違う。 そもそも大統領以外に必要ないのだ。 この程度であれば。

 

『一足早いですが、ここがハロウィンパーティーの会場のようですね。 皆さんが大統領に熱烈なラブコールです。 まぁ、いつものことですから、期待に応えてあげてください』

なに、構わんさ!(No problem!)

 

 ハロウィンの仮装として囚人服カラーのメタルウルフ(スーツ)で現れたアメリカ合衆国大統領。

 そんなメタルウルフを包囲する歩兵、ヘリ、戦車、砲台、EOA。

 だが、それらが一斉に攻撃を始める頃には、既に大統領はその場にはいない。

 視界の悪いブリザードの中でどこへ行った、と見まわす兵士たちの視線の先、メタルウルフは真上に跳躍し武装を展開しようとしていた。

 

『あちらが歓迎の挨拶をされたようなので、今度はこちらから挨拶してあげましょうか』

「メ、メタルウルフ……!?」

「歓迎に感謝する! まずは私の名刺を受取ってくれないかい?」

 

 32連装のマルチミサイルランチャー“メテオスウォーム”2つがメタルウルフの腕に収まり、同時にその砲身が4つに割れた。

 ここに至って相手が長らく亡国機業(ファントムタスク)を苦しめてきたアメリカの指導者にして悪魔の化身(メタルウルフ)だと理解するも、全ては遅すぎた。

 64発のミサイルが一斉に流星群のように降り注ぎ、大地へと突き刺さった“名刺”が広範囲を焼き尽くす。

 かまどの中に放り込まれた薪が(歩兵やEOAは爆発の中でその身を)火種から直火で勢いよく燃え上がり、(焼き尽くされて一網打尽となり、)オーブンの中の生地が(レールガンを主砲に据えた戦車が)アツアツに熱されて、(上面からトップアタックを受けて大破し、)“ミートパイ”がこんがりと焼き上がる。

 

『あら、連中名刺交換もできないだなんて、ビジネスマナーがなってないですね』

「敵は化け物よ! 撃て撃て撃て! 地上の連中の仇を――」

「ハロー、お嬢さん!」

 

 跳躍したメタルウルフが着地したのは、ガトリング砲を乱れ撃つヘリのコクピットのすぐ脇だった。

 片腕はヘリを掴み、もう片方の手には未だ噴射炎を吐き出すミサイルが握られている。

 

トリック・オア・トリート!(Trick or treat!)

「や、やめて……!」

「お前達にはミサイルのお菓子をご馳走だ!」

 

 ヘリから発射された対地ミサイルをその手で掴み、逆に相手へプレゼントする、所謂ミサイルのキャッチアンドリリース。

 メタルウルフのミサイルによって操縦席を押し潰され、更にミサイルが炸裂したヘリがバイオ燃料に引火し大爆発を起こす。

 その爆発を背にメタルウルフは飛翔し、別のヘリに愛用の2連装ガトリングボウ“クレイジーホース”を突き立て、発射した。

 “お菓子”をあげている最中にちょっかいをかけてきた“お客様”を席に戻すべく、多数の木製の矢によるマシンガントークならぬガトリングトークに貫かれたヘリは炎とオイルをまき散らし、コクピットのすぐ後ろ辺りで真っ二つに割れる。

 地上が迫ってきた頃、もう用はないとばかりに機体前部を失ったヘリは蹴り飛ばされ、地面に激突炎上、操縦者はパーティ会場どころかこの世から退場した。

 

『更に来客です。 そろそろ“スピーチ”をされては?』

「まずは静粛にしてもらおうか!」

 

 マルチミサイルランチャーを両手に担いだままのメタルウルフがその場で回転。

 独楽のように回転するメタルウルフから放たれたミサイルが管制塔の瓦礫を、弾薬庫を、格納庫を吹き飛ばす。

 凍土が高熱で解け出してはすぐにまた凍りつく。 メタルウルフが乱舞する様はまさに破壊神!

 

『お疲れ様です。でも、まだ来賓の方が残っているみたいですよ』

 

 大統領に無数の銃弾が命中する。

 そこにいたのは、ラファール・リヴァイヴとテンペスタ。 ラファール・リヴァイヴはクアッド・ファランクスを装着している。

 重量と反動制御で展開中は全く動けない固定砲台となる代わりに超威力の7銃身25mmガトリング砲4門であっという間に絶対防御を発動させ相対したISのエネルギーを枯渇させる超兵器……という売り文句だったが、実のところ重量と反動制御に関しては当パッケージ開発企業の技術力不足が原因だったことが判明している。

 設計も第2世代初期で、最強の攻撃力という謳い文句はすでに過去の物だが、大量の弾幕を張るのにはうってつけ。

 大統領の眼前で薬莢をばら撒くことなく弾丸を吐き出し続けるのは、イギリス海軍が再利用として退役した艦艇から取り外したCIWS“ゴールキーパー”の7銃身30mmガトリング砲を装備したクアッド・ファランクス。

 テンペスタは一体どこから盗み出したのか、アメリカの量産型特殊機動重装甲であるフェニックスが両腕に装備する60mmガトリング砲1門を抱えている。 6mサイズの機体の武器なのでISが扱うにはサイズが大きく、不格好な体勢になっている。

 

「いい的よ、貴方」

「随分と暴れてくれたわね」

 

 そのIS2機はメタルウルフと正対し、まるでかかってこいと言わんばかりに。

 勝利を確信したかの様に笑みを浮かべていた。

 

「oh! これは失礼。 お客様に背を向けていたとは」

 

 しかし、彼女達は勘違いしている。

 大統領直属軍として、万一の際にはシークレットサービスの代わりに特殊機動重装甲で護衛を行うこともあるプレジデントフォースは誰でもなれるわけではない。 ある程度適性が必要なメタルレイヴン1機か、特に適性が必要ないフェニックス3機によるチームで高い操縦技術を身に着けたエース級のパイロットでいる必要がある。

 ましてや彼女達の前にいるのはそのトップ、IS登場以前から国家最強だった存在、第47代アメリカ合衆国大統領。

 クアッド・ファランクスの弾幕に曝されながら、乾いた音を立てて弾丸を弾きながら悠然と振り返るメタルウルフに、彼女達の笑みは硬直した。

 1門ですらとてつもない反動を受けるというのに、それが4門。 戦車は穴あきチーズと化し、人間なら近くにいただけで消し飛ぶというのに、それで平然としているというのなら、最早眼前の敵は人間ではないのではないか――!

 

「クアッド・ファランクスが、効かない!?」

「そんな……何故!?」

「決まっている! 何故なら私が、(The Reason is,)アメリカ合衆国(Because I'm the President of )大統領だからだ!(Great United States of America!) お前たちテロリストに負けるわけがない!」

「な……なんてことなの!? こいつ“人間”じゃあない、“大統領”よ!」

「これが、世界最強(ラーズグリーズ)……!?」

 

 確かにメタルウルフのシールドゲージはそれなりに削られつつあるが、撃墜されるにはほど遠い。

 何故か。 それは彼の大統力がメタルウルフを覆っているからである。 メタルウルフ及びメタルレイヴンのエネルギーシールドは、操縦者の精神力次第で強度や性能が上がる。

 そこが両機が操縦者を限定する要因なのだが、大統領は精神力に加えて自身の大統力(プレジデントポイント)があるのだ。

 そして、メタルウルフを装着した彼の大統力は通常の数倍へと跳ね上がる。 その状態の大統領は、時として既存の物理法則を大統力で覆すのだ。

 しかも大統領魂の大半が先代大統領(他者)によるイチカと違い、その全てが彼自身の大統領魂。 エネルギーシールドの堅さは、イチカと比較するまでもない。

 

――そして一番の原因は、目の前の亡国機業こそが彼の父と妻の命を奪ったテロリスト集団である。 その深い怒りと悲しみを心の内で静かに燃やす大統領のメタルウルフが、テロリストを前に恐れるはずがない!

 

「ジョディ――」

『はい、なんでしょう?』

「ちょっと美人とデートしてくる」

『まぁ! 妬けますね大統領! スキャンダルには気を付けてくださいね?』

 

 とはいえ、黙って銃弾を受け続けるのも面白くない。

 メタルウルフが全身のスラスターを左に向けると、瓦礫を踏み砕きながらほぼ真横にメタルウルフが跳んだ。 メタルウルフがジャックランタン型グレネードを発射するグレネードランチャー“トリックオアトリート”を取り出し、IS2機に向けよう――として、進行方向にいい“プレゼント”を見つけた。

 ミサイルの爆発で吹き飛んだ建造物の支柱が偶然そこに立ったまま残っていたのだ。

 メタルウルフの全長の2倍近いそれを掴んで引き抜く。 一見、ただの鉄骨だ。 どう見ても種も仕掛けもない。 だが、それを振り回すのは特殊機動重装甲であるメタルウルフと大統領。

 メタルウルフを通じて流れ込んだ彼の熱い大統領魂が、ただの鉄骨を流し込まれた大統力とジュージツのオーラに反応させてプラズマを纏わせた天下無敵の一振りへと変貌させる!

 まさに規格外の破壊力を生み出すこと必至の、種も仕掛けもない大統領(プレジデント)マジック!

 

「気分は4番打者だな」

『レイヴンズバットがあれば完璧でしたね』

「ジョディ。 次のMLB(メジャーリーグベースボール)の優勝はどこだと思う?」

『そうですねぇ……いっそ、ワシントンレイヴンズを再結成してみませんか?』

「考えてみよう」

 

 鉄骨を抱えたメタルウルフの紅い単眼が光り、30mm弾と60mm弾の弾幕の中をIS目がけて発進する。

 銃と剣では剣が負けるだろう。 銃と大統領でも、彼の父やリンカーンのような暗殺された大統領が存在するように、銃が勝つだろう。

――では、たかが30mmや60mmの銃とプラズマ鉄骨(正義の剣)を掲げるメタルウルフを纏ったマイケル・ウィルソンJr(大統領)ならはどうなるか。 当然、大統領が勝つのだ!

 

「レッツ、パァリィィィィィ!」

 

 流星の如きメタルウルフの一撃とIS2機の決死の反撃が激突。

 両手で抱えられた状態から振り下ろされた青白い閃光がIS2機を地面に叩きつけ、地下最下層まで大穴を開けた末にISを強制解除させながら停止した。

 プラズマを纏っていた鉄骨がメタルウルフの手の中でボロボロに崩壊していく。

 

『素晴らしい“余興”も済みましたし、そろそろ我々もご馳走に手を付けましょうか』

「ああ。 だが、どうやらこの下にあるご馳走は腐っているようだ。 処理業者が必要だな」

『こんなところまで業者が来るでしょうか?』

「なに、処理さえやっておけば放っておいても自然と土に還るさ。 自然は偉大だからな」

 

 メタルウルフが軽く跳躍し、大穴の上へと躍り出る。

 常人ならその高さに尻込みしそうなものだが、彼は大統領である。 全身のスラスターを真下に向け、一気に突入した!

 

 

 

 

 オラジワンⅢは順調に飛行を続け、そろそろ敵拠点直上に差し掛かろうとしていた。

 眼下では4度目のMLRS斉射が行われ、更地と化した地上とバンカーバスターで空けられた地下上層に大量の子弾が降り注ぎ、それらが一斉に炸裂した。

 流石世界の警察を自称するアメリカというか、どう見てもオーバーキル気味の攻撃が行われているのはリーダーである大統領が父を、母を、妻を、妹を――全ての家族をテロによって奪われていることが一因としてあるのだろう。

 いつの間にかオラジワンⅢからは大音量で“ワルキューレの騎行”が流れている。

 

『大西洋艦隊より入電、グリーンランド沖に所属不明機は確認できず』

「作戦を再確認する。 敵拠点の地下施設複数階をまとめて1ブロックとし、地上から順にA、B、Cブロックとする。 フェニックス各機がAブロック。 シャック、ポール、ランディ、君達が先導し、メタルレイヴンでドイツ機と共にBブロック制圧。 私とイチカ、ドイツ軍で最下層ブロックのCを制圧。

 予備兵力としてカスパライティス及びストライクイーグル2機とコールド・ブラッド、万一にはオラジワンⅢが対地攻撃を行う。 出撃中のストライクイーグルは操縦者交代後、半数が上空警戒及び包囲網の形成、残りは到着次第地下へ突入する」

『シュヴァルツェ・ハーゼより入電。 ドイツ空軍からも同様の連絡があった模様』

「アレックスの息子だというのは知っているが、本当にこんな子供を投入して大丈夫なのか?」

 

 メタルレイヴンの青い単眼が、イチカのメタルウルフを見つめる。

 しかしすぐに横から別のメタルレイヴンが軽くそのメタルレイヴンの胸を小突き、金属音が響いた。

 

「シャック。 大統領がOKを出したのだ。 我々が疑っても仕方あるまい」

「……そうだな、ポール。 我々の大統領なら間違いないだろう。 ロバート、頼んだぞ」

「……彼を頼む」

「任せておけ」

 

 シャック、ポール、ランディ。 アリゾナ紛争時の大統領の部下で、アメリカ内戦時には副大統領の卑劣な情報操作でかつての上司であり憧れた英雄と激突し、倒された。

 プレジデントフォース実戦部隊創設時に3人揃って大統領にスカウトされ、今も長年の経験を活かすベテランとしてその腕を振るっているという。

 戦歴だけならアメリカ内戦当時にプレジデントフォースの技術部だったファイルスやそのファイルスの同期でイチカの父親なアレックスより長いが、彼らは騙されていたとはいえ大統領に銃口を向けたことに責任を感じ、隊長への就任を辞退していた。

 

『まもなく降下ポイントです。 ハッチ、解放します。 投下後、ストライクイーグルを収容し、操縦者交代及び簡易チェックに入ります』

「さぁて、整備チームも準備を始めるよ」

 

 轟音と共に、ハッチがゆっくりと開かれていく。 軍事作戦ではこれが初陣であるイチカの前に、白い大地が広がる。

 ふと後方に視線を向ければ、3機のメタルレイヴンの向こう側に作業用アームやユニットを備えた整備用IS2機と、それを手伝う整備士4名が何らかの作業を始めようとしていた。

 メタルウルフの中は空調で最適な温度に保たれているはずなのに、着込んでいるパイロットスーツに大量の汗が染み込んでいく。

 このパイロットスーツはISスーツを一般用にしたもので、多少の防弾性を持ち吸水性も抜群である。

 そこに欧州のデュノア社が体温発電機能とISの操縦者保護機能から一部を応用してスーツ表面に膜状のフィールドを張り、その範囲内の温度を首元のセンサーで最適な温度に保つことができるようにしたところ爆発的な売り上げを見せ、今では各国軍の歩兵やゲリラ、民間人ですら着込んでいる程普及している。

 逆にISスーツには肌表面の微弱な電位差を検知する機能がこの機能と干渉してしまう為に実装不可となっている。

 デュノア社はこれで特許を取得し、第1世代ISラファールから第2世代の傑作ISラファール・リヴァイヴが完成するまでの間をこのスーツと特許料だけで持ちこたえさせた。 その後はラファール・リヴァイヴ自体の売り上げやライセンス料で荒稼ぎし、最大の顧客と化したクラウス社のストライクイーグル60機分の大口契約で量産型ISの最大手に躍り出た。

 

――行くぞ、イチカ――

 

「OK、先代さん(ミスター)は……準備はいらないか」

「いいか、メタルレイヴンもメタルウルフも、“流れ星”にならなければ大気圏突破して落ちてきても大丈夫だ。 水中にさえ落ちなければ、この高さ程度で墜落死することはない」

『ハッチ解放完了。 降下カウントダウン、スタートします』

 

 白い装甲に黒の配色、白の中に輝く赤い単眼が日の丸を思わせる、メタルウルフのホワイトサンズと呼ばれるカラーリングの機体がイチカに与えられたデータ収集用メタルウルフ。

 その1歩先を先導する1機と、更に背後からついてくるのがダークブルーに鮮やかな蒼の配色と蒼い単眼を光らせるメタルレイヴン。

 残りはやや旧式の逆関節の特殊機動重装甲フェニックスだが、やはりこちらも8年前の白騎士事件と比べてエネルギーシールドの強化などのアップデートが行われている。

 

「5、4、3、2……降下!」

 

 イチカとファイルスがハッチの前に辿りつき、そして重力に身を任せて特殊機動重装甲が落ちていった。

 パラシュートなしのスカイダイビング、高度7000フィートからの自由落下だ。 風を切る音と共に、鋼鉄の狼と鴉が落ちていく。

 太陽が燦然と輝く雲の上からすぐに白い雲の中に突入し、雪舞う地上を単眼が睨みつける。

 

「yeah! ショウタイムだ!」

 

 風を切り、みるみるうちに地表が近付いてくる。 両手両足は広げず自由落下に身を任せた結果、景色は一瞬で後方に流れていく。

 

――おや、これは……――

 

「……ミスターも気付きましたか」

「え?」

「イチカ、3秒後にバックパックを開け。 3、2、1!」

 

 言われるがままイチカはバックパックを開く。 8つの武装が飛び出し、増大した空気抵抗で機体が減速する中、目の前のメタルレイヴンも同様にバックパックを開き、スナイパーライフルを取り出した。

 風圧で揺れる視界の中、ファイルスはスナイパーライフルをある一点に向け、発砲。

 状況が理解できていないイチカの視線の先で、地下から分厚いシャッターを開けながら地上に姿を現した対空ミサイルランチャーが突如炎に包まれ、引火したのか内部から炸裂し黒煙を噴き上げる。 遅れて低い爆発音が響いた。

 と、同時に視界の隅でもう一つ炎が噴き上がる。

 メタルレイヴンを見れば、横方向に一回転。 蒼い光が尾を引き、くるりと回る。

 そうして姿勢制御を終えたメタルレイヴンがもう1射すると、更に2連装の対空機関砲の中央に弾痕が穿たれ、中の弾薬が弾け飛び砲身が吹き飛んだ。

 

「こんなものか」

 

 スナイパーライフルをバックパックに戻し、ファイルスはメタルレイヴンを更に加速させる。

 

「どうしたイチカ、置いていくぞ!」

「すっげぇ! 今の、どうやって!?」

「できることをやるだけだ、と昔のスナイパーも言っているだろう。 要は慣れだ。 年季が違うのさ!」

 

 特殊機動重装甲を狙っていた対空砲が沈黙。 いよいよイチカのテンションは最高潮だ。 最早眼前に障害はない。

 特殊機動重装甲は精神力、つまり搭乗者のテンションが機体に大きな影響を及ぼす。 気分が高揚すればするほど性能が上がる。

 その気になれば大統領のように大砲の直撃を受けても傷一つないこともあれば、以前のイチカのように盾殺しの1発で中破することもあるほどだ。

 だからこの2機の搭乗者は、はっちゃけていた。

 

「イィィィヤッホォォォォゥ!」

「2人同時に突っ込む、タイミングを合わせろ!」

 

 歓声を上げ、イチカは落ちていく。

 ファイルスは時折バックパックを開いて減速させながら、イチカと高度を合わせて行く。 一方イチカはその隣で鼻歌を歌っている。 クーデター終結から2年後にハリウッドで公開され、オスカーを受賞した映画“メタルウルフ”の“METAL WOLF THEME”だ。

 2機は地上へ一直線に落ちていきながら、同時にバックパックを開き、同じツインバズーカを構え、バンカーバスターで天井に風穴を空けられた地下1階へと発射した。

 砲身1つより2つ砲身がある方が強い、と実にアメリカ的発想で作られた2砲身バズーカから放たれた4発の弾頭は大きな風穴を通過し、地下1階の床にめり込みながら爆発。 当たり前のように、地下1階の床と特殊装甲が吹き飛び地下2階が顔を覗かせた。

 

やったぜ!(All right!)

 

――やったな!(All right!)――

 

『All right!』

 

 イチカ、先代大統領、“大統領シャウト!”が何の打ち合わせもなしに同じ語句をシャウトし、隣のファイルスは思わず噴き出す。

 落下速度とブーストによる加速で巨大な砲弾となった2機はパイのように何層も重ねられた亡国機業の地下施設へと突入した。

 地下数階に渡って構築された地下施設が特殊機動重装甲の衝撃に耐えられず2機分の大穴を形作りながらクッションの代わりにされ、ついでとばかりに最下層で大きなクレーターを生成してようやく停止した。

 

「敵拠点への潜入に成功した!」

 

 テロリスト集団である亡国機業実働部隊最大派閥“モノクローム・アバター”本拠地。

 この日、いよいよ長年の行いに正義の鉄槌(アメリカ軍)という名の報いが訪れようとしていた。




 イギリスとセシリアについては活動報告の方に。
 このイギリスはIS原作っぽく仕上げています。

英国女王「今のイギリスで男という名の劣等種共に人権なんてありませんのよ」
セシリア「なんですのこの政権……絶対にこいつらを見返してやりますわ(BT操縦者選抜中)」
英国軍人「男女平等なアメリカに亡命します」
英国軍人「部隊全員そっくりそのままテロリストになります」
英国軍人「女王様の蔑む目線、実にいいので残ります」

・SG7/CH(スターフリー/チャフ)
 原作中で2013年デルタフォース制式採用の2本銃身ショットガン……から大量のチャフ(金属箔片)を発射するショットガン。原作に出てきたSG1/CHを使った大統領も多いはず。
 SG1/CH同様に一体どういうチャフなのか、この謎チャフに触れた砲弾は強制的に破壊される。

・ロッズ・フロム・ゴッド(神の杖)
 宇宙軍用の対地対艦レールガン。
 白騎士事件で衛星軌道の衛星を撃墜され、今後白騎士クラスのISが続々現れて軍事衛星を叩き落してくると考えたアメリカ宇宙軍は、新世代の兵器開発技術と宇宙資源を駆使し、21世紀初頭の衛星兵器を威力据え置きで3m程度の特殊機動重装甲やISが携帯できるサイズに小型化した。
 極めて高い貫通力を持ち、核爆弾にも匹敵する着弾時の破壊力は、まさに神の雷。
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