METALWOLF_ICHIKA(改訂版)   作:レクス

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#7

 サンフランシスコ湾沖、旧監獄島アルカトラズ。

 現在はアルカトラズ発電所とも呼ばれるここは、全世界における亡国機業掃討作戦開始直前に亡国機業がこの島を襲撃したため、目標デルタに指定された島となった。

 かつてアメリカ内戦で大統領に破壊された、監獄島アルカトラズを丸々改装して造りあげられた前代未聞の“対テロ用超巨大地対地レールガン アルカトラズ砲”を更にパワーアップさせて再建した“対テロ用超巨大地対地レールガン アルカトラズ砲Ⅱ”。

 アルカトラズ砲Ⅱは上下左右に砲塔が回転できるようになり、かつては西海岸砂漠地帯を砲撃して民衆に恐怖を植え付けるべく自国へと固定されていた射線を自由に取れるようになっていた。

 ソレを亡国機業のエージェント、エムが制圧した翌日。

 

「……遅いな」

 

 ド派手な星条旗カラーのIS、試作型ストライクイーグルで身を包んだ彼女は、ある人物を待っていた。

 2ヶ月前に自分をぶっ飛ばした織斑イチカ。 アメリカへ再度侵攻すれば、またイチカが現れる……と思っていたのだが、まだその様子はない。

 ここはアルカトラズ島の地下に存在する広大な地下演習場。

 かつて、昔のゲームに出てきたDARPA製の二足歩行戦車を、技術が追いついたと喜んだDARPAが再現しようと建造したところ亡国機業が奪取に動いた為、先代の大統領自ら乗り込んで対抗してみたり、副大統領の極秘命令に従って市街制圧用6脚機動兵器カスパライティスや対大統領用サイボーグC21Mといった自律兵器の地上動作試験を実施していたここは、現在はイレイズド(地図にない基地)やグレート・リチャードの存在もあって滅多に使用されていない。

 

「せっかく、感動の再会の場を用意してやったというのに」

 

 エムから見て左側、視界の隅辺りに開かれた空中投影ディスプレイの中では、このアルカトラズ砲の守りとして布陣していた駐留部隊を蹴散らし、その場に立ちつくすメタルレイヴンが映っていた。

 襲撃直後に瞬く間に撃破され、炎上していた数機のフェニックスとサイボーグは既に燃え尽き、無残な屍として放置されている。

 その片隅には、紐状の物体で縛られた駐留部隊の面々が、檻の中に放り込まれている。

 破壊には軽火器が必要な程度に頑丈で、重火器だと人質ごと破壊されてしまうだろう。 フェニックスの操縦者も含め、死者はいない。

 しんと静まり返った空気の中、駐留部隊の指揮官が呻く。 彼は頭を負傷し血を垂らしてはいるが、視線は彼らを鎮圧したメタルレイヴンから動かない。

 プレジデントフォース部隊章と共にペイントされた、“001”の文字。

 プレジデントフォース唯一の行方不明となった機体。 そして、そのパイロットは今も変わらないのであれば――

 

「……オリムラ少佐。 貴方は、クーデターでも副大統領の下へ走らず、大統領と共に戦い抜かれました……軍人として、悪しき副大統領にも唯々諾々と従った我々と違って」

 

 ぼんやりと天井を仰ぎ見ているメタルレイヴン。 駐留隊を鎮圧し、檻に放り込んだら微動だにしなくなったのだ。

 

「……普段の行いはともかく、そのような高潔な戦士であったはずの、貴官が、何故……」

 

 メタルレイヴンのパイロットは、何も語らない。 何も反応しない。

 静寂の中、ただ檻に放り込まれて捕虜となった兵士が、うめき声を上げるだけだ。

 

「イ、チ……チフ……マ、ガ、ァ、ァ……ッ! グガ、ァ……!」

 

 しばらくの沈黙の末、ようやく返ってきたのがそんなうめき声1つ。

 しかし、そのうめきはとても正気であるようには聞こえない。

 

亡国機業(テロリスト)! 貴様、少佐に何をした!」

「……何をしたか? 決まっている、我々の崇高なる目的に賛同してもらったのだ。 骨が折れたぞ? 分からず屋の父さんを賛同させる(洗脳する)のは……? 尤も、6年経ってもまだ薄い自我でこの通り抵抗している」

「なんだと……っ!」

「黙っていろ。 次に余計なことを話せば――」

 

 冷たい視線で一瞥するストライクイーグル。

 爆撃対策として地下演習場の奥に移されたエネルギープラントの手前、地下演習場で苛々したような顔を見せる、試作型ストライクイーグルに身を包んだ少女。 元世界最強(織斑千冬)と瓜二つ。

 エネルギープラントのエリアへ行くには、ただ1つの入口であるここを通らねば向かうことはできない。 そして、エムのいる地下演習場とエネルギープラントのエリアは隔壁で閉ざされていた。

――唐突に、エムのストライクイーグルへと通信が入った。

 

「……こちら、エムだ」

『テメェ! こんな時にどこほっつき歩いてやがんだ! あぁ!?』

「……オータムか。 アルカトラズで任務中だ。 用件がないなら、切るぞ』

『何が任務だお前、スコールから独断専行だって聞いたぞ!? 用件なら今すぐ言ってやる! 今、こっちにアメリカ軍が侵攻してんだ!』

「……は……?」

 

 エムが、目を白黒とさせる。

――読みが外れた? いや、そもそも何故アメリカがグリーンランドに? 目と鼻の先にあるこのアルカトラズはさほど重要ではないと?

 

『おら、見やがれ! ついさっき撮ってきた映像だ!』

 

 空中を悠然と進むオラジワンⅢ。 30機を超えるISによる大編隊。 そして――あの時と模様が違うが、白い鋼鉄の狼。

 

「メタル、ウルフ……!」

『今から来たって間にあわねぇ! ついさっき、地上施設が吹っ飛んだ! モノクローム・アバターはどこの拠点も壊滅状態だ、残存勢力は拠点コード・ガンマ(中東拠点)に集け――』

 

 大量の爆弾が炸裂したような轟音と共に、通信は途切れた。 エムはまんまと出し抜かれていたことで悔しさのあまり下唇を噛み、血が滲み出す。

 

「くそっ! こうなれば――!」

 

 エムはアルカトラズ砲ⅡをIS学園の方角へと向ける。 このサンフランシスコ湾からIS学園までおよそ8000~9000km。

 再建後、撃たれたことがないアルカトラズ砲Ⅱの最大射程は不明だが、スペック上ではここから中国やロシアも砲撃できるらしい。

 砲撃は当初の予定にはないが、これならば無視できまい。 遠隔操作し、アルカトラズ砲Ⅱのエネルギー充填が始まる。 発射まで、およそ5分。

 アルカトラズ発電所のサンフランシスコ方面へのエネルギー送電がカットされ、アルカトラズ砲Ⅱのエネルギープラントに流れ込んでいく。 エネルギープラントが激しい蒸気を噴き出しながらアルカトラズ砲Ⅱへエネルギーチャージを開始した。

 西海岸を焼け野原にできるアルカトラズ砲、しかもそのパワーアップ版であれば、1発でIS学園は吹き飛ぶだろう。

 

「や、やめろ! アルカトラズ砲を撃つつもりか!?」

クソ暑いぜ(Fuckin' hot)……!」

 

 通信越しに、ここの指揮官と思わしき男が騒ぎ出す。 だがその彼らが放り込まれている檻は、エネルギープラントのエリアにある。 激しい蒸気が噴き出し、その熱気に曝された兵士たちが悲鳴をあげている。 ディスプレイ内のメタルレイヴンは特に黙らせるようなことはせず、檻の前に立った。 檻へ直接蒸気がかかるのを防ごうとしているのか、庇うように両手を広げていた。

 メタルレイヴンのパイロットは相変わらず言葉にならない言葉をあげながらなので、正気を取り戻したわけでもない。 かつて擦り込まれた精神が、無意識に捕虜を庇わせているのか。

 しかし、その時だ!

 

「Yeahhhhh!」

 

 地下演習場の扉を突き破り、M939を改造した装甲トラックが突っ込んでくる。 その車体後部、積まれたドラム缶の上には高周波忍刀を背負い、いかにもNINJAな格好をした人影が乗っている!

 アルカトラズ地下に放置されていたTROT燃料満載の装甲トラックの自動運転制御システムをアンネイムド隊長がハッキングし、操縦しているのだ。

 

「馬鹿な! 何故国連のNINJAがこんなところに!?」

「本物のNINJAならこんなコソコソ忍んで来るわきゃねぇだろっ!」

 

 状況を飲み込めないエムのストライクイーグルの対ISバズーカから放った対ISロケット弾が装甲トラック前面を直撃するが、防弾仕様の装甲トラックの勢いは微塵も衰えない。 ステルス精鋭歩兵が次々飛び降りて行く。

 勢いのついたまま、装甲トラックはストライクイーグルと激突!

 しかし、猛烈な勢いで飛び込んできた装甲トラックは、応急処置でラファール・リヴァイヴの装甲を使って再生されたストライクイーグルの左腕でその勢いを殺され、ひしゃげて停止させられた。

 

「馬鹿め」

「今だ。 かかれS1」

「レッツ、パーティ!」

 

 生身の人間なら即死している程に潰れた装甲車の運転席から、ISの拳と防御機能だけ展開したサイレントイーグルの拳で、脱出の為にフロントガラスを突き破りながらアンネイムド隊長が無感情に叫ぶ。

 装甲トラックの後方から飛び出してきたのは、足裏のローラーでここまで装甲車を追ってきていたサイボーグC38Mと装甲トラックに乗りきれなかった為己の脚力で全力疾走してきたナイトリーフのステルス歩兵。 装甲トラックから飛び降りたステルス歩兵も合流する。

 C38Mが全力疾走のままグレネードマシンガンを構え、ストライクイーグル目がけてグレネード弾の嵐が吹き荒れた。

 更にナイトリーフのステルス歩兵が全力疾走しながら平然とM4カービンを斉射しグレネードランチャーを発射する。 そこまで長い研修ではないといえ、国連の超人集団GUIDEで研修を受けた彼らは必然的に個人個人の戦力が向上している。

 ナノマシン通信で指示された半数はエネルギープラントを破壊すべく散っていく。

 

「な……、ええい、邪魔だ!」

 

 ISにとって、歩兵のM4の銃弾程度蚊に刺された程度。 マシンガンから放たれるグレネード弾はこれだけ集中砲火を受けていると流石に無視できないが、それでもシールドエネルギーが尽きて撃墜されるにはまだまだ遠い。

 が、潰れた装甲トラックのひび割れた防爆フロントガラスをついに蹴破り、アンネイムド隊長がコンクリートを削りながら全速前進を続ける装甲トラックの上から、左腕以外ド派手な星条旗カラーのストライクイーグルを、エムを見下ろしていた。

 原型はラファール・リヴァイヴでありながら、メタルウルフによく似せられた全身装甲(フルスキン)を被せられた第2世代IS“ストライクイーグル”を黒とライトグリーンの“マイケルブラック”と呼ばれる特殊部隊用カラーリングに染め、背中の追加大型スラスターをステルスユニットに換装したステルス仕様ストライクイーグル、通称“サイレントイーグル”。

 そのサイレントイーグルが、メタルウルフを模した赤い単眼(モノアイ)を光らせながら、糸鋸のような形状のプラズマカッターを背中のハードポイントから抜き、高周波忍刀を抜いたS1と共に黄色い稲妻を迸らせながらトラックの上から斬りかかる。

 エムも背部左右下の両ハードポイントから両手に近接ナイフ“ケーバー”を抜き、空中で上から押し込むサイレントイーグルと2本のナイフで受け止めるストライクイーグルが、それぞれスラスター全開での鍔迫り合いとなった。

 

「先日、ホワイトハウスを襲ったISだな。 亡国機業(テロリスト)、目的はなんだ」

「ふん……。 言うと思っているのか?」

 

 両者の間でプラズマの火花が散る。 両腕が塞がったエムのストライクイーグルの死角を縫うように、ステルスで姿を消したナイトリーフ歩兵が忍刀と自動小銃でちくちくと攻撃してくる。

 サイレントイーグルの顔面にENガトリングを撃ち、蹴飛ばしながらケーバーをステルス歩兵に振り下ろそうとするが、追加スラスターを外して運用するサイレントイーグルはその分小型のメインスラスターが強化されている。

 シールドバリアーを貫通できないENガトリングは無視され、蹴飛ばしても空中に踏みとどまって吹き飛ばせず、ステルス歩兵は華麗な3連続バク転で間合いから逃れて行った。

 

「今は必要ない。 だが、貴様はここで確保され、合衆国の法によって裁かれる」

「……なら、その前にお前は死ね。 その傲慢に溺れて」

「フン――言葉は不要か」

 

 それと同時にナイトリーフ隊長、S1がアンネイムド隊長の背後で炸裂するように投擲したハイパーセンサーを眩ませる対IS閃光手榴弾を、エムはENガトリングポッドで消し飛ばす。

 投げた歩兵を狙おうとするエムだが、それはアンネイムド隊長が背部左右上側のハードポイントにセットしていた“SG566IS”(アサルトライフル)2丁の連射に邪魔された。

 以前、アメリカ内戦時に使用されていた特殊機動重装甲仕様SG552の発展型である特殊機動重装甲仕様SG566をIS用に再調整したそれは、世界各国に輸出され、エムも背部ハードポイントに搭載するクラウス社製IS用アサルトライフル“レッドパレット”より強烈な禁輸指定の武装だ。

 というより特殊機動重装甲の兵装をIS用に再調整したものは全て任務以外での国外への持ち出しや輸出及び米国組織以外での解析が厳しく禁じられている。

 エムは肩部両シールドで、自機を穿とうとする銃弾を防いでいく。 高い攻撃力と貫通性能を持つSG566ISから排出されるIS用薬莢がコンクリートの床に跳ねて転がり、連続的な音を立てている。

 サイレントイーグルのSG566ISが弾切れになるタイミングでエムは斬りかかろうとしたが、目の前で背部左右下側のプラズマカッターを収めていた方と空いていたハードポイントに新しく連装ショットガンのSG7/EN(EN型スターフリー)2丁が出現した。

 

「――チッ!?」

 

 たまらずエムはSG7/EN出現と同時にサイレントイーグルの左右の脇の下から現れた2本銃身を肩部シールドの先端で外側へと跳ねのけ、プラズマカッターを受け止め続けていた影響で溶断されかかっていたケーバーを投げつけながら対ISロケット弾を発射し、鍔迫り合いから離れる。

 一瞬遅れて2本銃身ショットガンから極めて広い範囲を撃ち抜く強力なエネルギー拡散弾が連続して撃ち込まれ、その隙に弾切れになったSG566ISの弾倉を量子化し、新しい弾倉が呼び出されるとサイレントイーグルは背部の4丁全てで制圧射撃を開始した。

 ケーバーを持っていた両腕の装甲にはSG566ISによっていくつもの弾痕とヒビが刻まれ、貫通した弾丸によりシールドエネルギーが削られている。 特に応急処置の左腕は既にボロボロだ。

 同時に対核用の隔壁がナイトリーフ歩兵の手動操作によって開いていく。

 

「この……っ、どれだけ武装すれば気が済むつもりだ……!?」

「それがストライクイーグルの特徴なのは、貴様も分かっているだろう?」

 

 距離が離れたと見るや、サイレントイーグルはプラズマカッターを量子化し、銃声が出ない禁輸指定のIS用単装ガトリングボウ“ハーフクレイジー”を両腕と両脚ハードポイントに呼び出して木製の矢を連射する。

 SG566ISから伸びる2条の銃弾と共に、4本の矢がストライクイーグルに突き刺さらんと追いながら、見た目と違ってコンクリートの壁面に深々と突き刺さる。

 懐には先程の背部左右下側の連装ショットガン2門が搭載されたままで、肩部シールドで撃ちこまれてくる対ISロケット弾とレッドパレットによる射撃を防ぎながら木製の矢でミサイルを迎撃し、空になった脚部ミサイルポッドを量子化するストライクイーグルを見つめていた。

 地下演習場を飛び回りつつ、エムはハードポイントから新しいケーバーを引き抜く。 ここへ無断出撃する際、出撃元のIS搭載原潜からあまり補給を受けられなかったのが惜しかった。

 最近任務が減り、維持にも苦労する亡国機業の原潜にはあまりIS用補充物資がなく、腕は修理して武装もいくらか積めたが、その程度だ。 それだけ補給を受けると、エムによる偽の出撃指示に従ってVLSからメタルレイヴン共々高速垂直射出されたのだ。

 

「……まさか、それだけしか武装がないのか。 我が合衆国のようにモノがないところは大変だな? だが……それなら時間の無駄だ」

 

 ナイフ2本でなんとか接近戦を仕掛けようとするストライクイーグルに対し、サイレントイーグルが右手のハーフクレイジーを後方に放り投げて量子化させながら腕を一振り。

 直後、ハイパーセンサーにも捉えられない速度で飛来した対IS用爆裂クナイが、接近するエムのストライクイーグルの右膝裏、関節部に突き刺さって炸裂した。

 右脚の装甲が僅かに吹き飛ぶ。 だが、それだけだった。 不意を衝かれ、体勢を崩したエムのストライクイーグルは隙を衝かれないよう矢を回避しながら後退する。

 本来なら装甲下のフレームごと吹き飛ばし、右膝から下を動かせなくするはずだったのだが、ストライクイーグルは耐えてみせたのだ。

 

「チッ、ラファールなら今ので関節を壊すくらいできていたのだが……流石我が国のストライクイーグル、関節も強化されている」

 

 エムが先ほどから散々攻撃を受けて装甲トラックから引き離されていたことにより、M939装甲トラックがサイレントイーグルからの有線遠隔操縦に従い、全速前進でコンクリートの破片を砕き散らしながらのドリフト旋回を決めた。

 目標は、激しく蒸気を噴き出すエネルギープラントの集合体。 8300ccのバイオディーゼルターボエンジンに物を言わせ、加速し続ける装甲トラックは捕虜を救出して退避するナイトリーフの近くを通過し、見事目標へと激突。

 大量に積みこまれていたTROT爆薬に引火し、エネルギープラント全基を連鎖的に巻き込んで爆発四散した!

 

「発射阻止に成功、我々の任務(メインターゲット)は完了した。 後は、貴様を捕まえるだけだ」

『5分後、自爆モードに移行します』

 

 アルカトラズ砲の制御システムが電子音声で自爆モードの開始を伝え、アルカトラズ島全体がエネルギープラント爆発の振動に揺れる。

 

「……待て、自爆モード? S1、アルカトラズ砲の自爆機能は残されていたのか?」

「そこまでは知らされていないが……冗談じゃない、新型核融合炉が何基も一度に吹き飛んだらこの島ごと消し飛ぶぞ!」

「……そういう時のためのものだろうな」

 

 アンネイムド隊長が気を逸らした隙をついて、エムが後方へ瞬時加速(イグニッションブースト)

 温存していたミサイルランチャーから多数のミサイルを置き土産に地下演習場の出口へと向かって行く。

 アンネイムド隊長はミサイル迎撃をC38Mとナイトリーフに任せ、IS用に再調整された元副大統領の完璧主義さを物語る強大な一撃を放つスナイパーキャノン“サジタリウス(SC/RH)”を展開した。

 

「逃がさん」

「ガ、ガァァ――ッ!」

 

 照準がストライクイーグルを捉え、今まさにトリガーが引かれようとした瞬間、大量のEN弾が飛来する。

 現れたのは先程まで奥のエネルギープラントが発する蒸気の中に隠れてしまっていたメタルレイヴン。

 メタルレイヴンは近くのC38Mをあっという間に殲滅し、逃げるナイトリーフ歩兵と捕虜を飛び越え、アンネイムド隊長のサイレントイーグルへEOA用ガトリング砲から大量のEN弾を撃ちこみ、サジタリウスを使用不能に追い込んだ。

 

「メタル、レイヴン…? 機体番号001、まさか……!?」

「父さん!」

 

 ストライクイーグルがアンカーを射出し、メタルレイヴンに引っかけ固定する。

 

「ァ、ガ、ガァ――ッ!」

 

 次の瞬間、絶叫と共にメタルレイヴンの背中が燐光を発した。 全砲門開放によるバースト攻撃(一斉攻撃)だ。 国外で搭載されたEOA用武装から、濃密な砲弾とEN弾がサイレントイーグルと背後のNINJAもどきに飛来する。

 アンネイムド隊長は瞬時にENシールドを最大出力で展開。 その間にエムの試作型ストライクイーグルは脱出していった。

 舌打ちしながら、隊長は通信を繋ぐ。 ナイトリーフは自爆を停止させる為再び奥へと駆けていく。

 アンネイムド隊長の率いる対大統領サイボーグC38Mは、1体残さず撃破されてしまっていた。 ワンマンアーミーの文字通り、当初から人間が1人しかいないアンネイムドは再び戦力を補充する必要があるだろう。

 

「SE、助かった」

「逃がしたか……礼は要らん。 SEより本部、敵性存在は西へ逃走。 空軍、海軍の支援を要請」

 

 捕虜を無事救出し、アルカトラズの自爆を阻止したナイトリーフとアンネイムドは、再び存在しない部隊として合衆国の闇へと消えていく。

 西海岸とハワイから出撃する空軍と海軍。 戦闘機とAWACS、そして“北極の狼作戦”居残りのISが捜索に当たるも、エムたちが見つかることはなかった。

 

――そして、帰り着いた先でエムは、スコール、オータム、レイン、そして自分。 ISはたった4機を残して“モノクローム・アバター”が壊滅したのだと知ることとなる。

 

 

 

 

「中尉、逃げてくれ……!」

 

 グリーンランド拠点をアメリカ軍と攻略中のシュヴァルツェ・ハーゼ隊員、ラウラ・ボーデヴィッヒが隊長のクラリッサ・ハルフォーフの機体を見つめる。

 それを見て彼女、ラウラが思ったのは、やはり遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)に弱い存在など不要か――というものだった。

 

「どうした、ハルフォーフ隊長……撃ちたいならなら撃つがいい……」

 

 突然、すぐ前方を進んでいたシュヴァルツェア・イェーガーが停止し、クラリッサが呻きながら通路に着地したかと思えばレールガンの砲口を突き付けられたラウラ。

 シュヴァルツェア・イェーガーの動きは非常にゆっくりで、白いツインアイと黒い全身装甲で覆われたドーラと同形状の頭部装甲越しに聞こえる声音にも、どこか否定的な意思が漏れ出している。

 それがポーズなのかはラウラにはわからない。 少なくとも彼女のドーラには大破している以外に何の異常もない。

 どの道、大破したドーラではシュヴァルツェア・イェーガーにとても抗いきれないのだ。 ならば、生体兵器として戦場に散れるのなら本望だろう。

 

「ち、違う……っ! ハッキング、されている……! これは、一体……!?」

「なに……?」

 

 普通なら一瞬で終わらせられる88mmレールガンのチャージが、何故かゆっくり進んでいく。 閃光がレールガンから漏れ始め、いよいよラウラが一思いにやれと目を瞑り。

 

『こちらレイヴンリーダー! 再起動した原潜を撃沈した!』

 

 唐突に聞こえた通信と同時に、レールガンのチャージ音が途切れた。

 

「……っ!」

 

 ガシャリと倒れこむシュヴァルツェア・イェーガーと、荒い息を吐くクラリッサ。

 助け起こすことこそしなかったが、ラウラは冷たい視線でシュヴァルツェア・イェーガーを見下ろしながら、彼女の回復を待った。

 

 

 

 

 原潜撃沈から十数分後、やってきたストライクイーグル小隊と交代し、ドイツ軍と合流したイチカは空中にいた。

 最下層まで一直線な大穴を上昇するシュヴァルツェア・イェーガーと共に雪が強くなってきたグリーンランド拠点の上空の風に煽られ、メタルウルフがゆらりと揺れた。

 大爆発を起こした地下施設からシュヴァルツェア・イェーガーが脱出する。 結局のところスコールは発見されず、まんまと逃げきったのだ。

 

「こちら、レイヴンリーダー。 ウルフと共に現在オラジワンⅢへ帰投中。 全員無事か?」

『レイヴン3からレイヴン5、担当領域を制圧。 残敵なし、フェニックス及びメタルレイヴン隊は周辺捜索中』

 

 小破したシュヴァルツェア・イェーガーの6本のワイヤーブレードに吊り下げられた3機の特殊機動重装甲が、ぶらぶらと揺れながら運ばれていく。

 共に吊り下げられているラウラの機体は味方(ギローィ)ごとドーラを攻撃してきたロシア大型機との戦闘で大破し、スラスターが死にかけている他、黒煙を噴いていた。

 スペック差を優れた頭の回転と誇りと努力、そして越界の瞳でひっくり返していた最初の遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)、ゼクスの成績に才能だけで後一歩に迫る最高レベルを記録するも――越界の瞳不適合によって遺伝子強化試験体最下位へと転落し、それ以前までの自信を失っていた彼女。

 つい最近までそんな状況だった彼女なので――というより元々だが――人付き合いは苦手で、気になる存在(織斑教官の弟)が同じ班にいても、声をかけようとは思っていなかった。 どうせ貴様も、私を気に食わないのだろう、と。

 と、その時ファイルスのメタルレイヴンがぐらりと揺れる。

 

「揺らさないでください、少佐」

「すまない。 ドイツ軍の状況は?」

「ドイツ軍は施設の制圧を続行中。 特殊機動重装甲に影響はありませんでしたが、IS全機が先程制御不能になったのはアメリカ同様です。 そちらの状況は?」

『イーグル18よりレイヴンリーダー。 敵IS2機を包囲し撃墜しましたが、先程のIS制御不能中に攻撃を受けたイーグル19が機体維持警告域(レッドゾーン)です。 敵ISコアは没収しましたが、敵操縦者はどうしますか』

『こちらイーグルリーダー。イーグル18、イーグル19と共に捕虜はオラジワンへ連行しろ。 コアは帰ったらIS委員会に提出する。 カスパライティスが営倉へ招待してくれるはずだ』

『こちら司令部。 待て、イーグル18。 亡国機業のISは我々のように行動不能にならなかったのか?』

『こちらイーグル19……。 なりませんでした、敵機は通常通りに攻撃してきました……』

『まさか、対IS用新兵器なのか……? こんなことが何度も起これば……!』

「いや、どうやら同じ――大尉、下だ!」

 

 先程脱出してきた地下施設から、閃光が漏れ出す。 程なくして、黄色い閃光が迸った。

 垂直射出リフトが火花を散らせながら全速力で上へと加速し、積もった雪で隠れていたゲートをプラズマ砲で突き破りながら、小爆発を起こして停止したリフトから勢いのまま高速垂直射出され飛び立つ巨大な赤い影。

 

「まさか……! 全員警戒! 地下にいる機体は注意しろ!」

 

 胸部プラズマ砲が空を焼き、地面を砕いて現れたのは頭部と両腕を失いウォッカまみれの、損傷の激しさ故に一度はクラリッサが大地に沈めたロシア大統領機(プッチーン)

 常に機体内部に高熱が籠るその機体が厳寒の外気によって十全な機体冷却を行った結果、十全以上の機体性能を発揮することに成功した。

 

『Ураaa!』

 

 数こそ減ったが、全弾発射するかのようにそれこそ土砂降り(スコール)のように4桁近いミサイルをばら撒き、その内数十発がクラリッサ機を照準し飛来する。

 

「再起動だと!?」

「外に出てきたか……! 奴は寒い場所だと、カタログスペック以上にパワーアップするんだ!」

「まるで冬将軍だな!」

『こちら、イーグル10! 地下最下層の管制室を確認したところ、核爆弾の起動が確認されました! 脅しじゃないですよ!』

「なんだと!? 核!?」

『ハーゼ3よりイーグル10。 冗談は止めてください』

 

 クラリッサが特殊機動重装甲3機をぶらぶらと揺らしながら重機関銃でミサイルを迎撃する。

 ファイルスがスナイパーライフルでプッチーンのバックユニットを貫き、ミサイルコンテナ内部のミサイルが一斉に起爆して体勢を崩す。 とはいえ既に撃ち尽くしかけていたのか、派手な爆発は起きなかった。

 イチカとラウラもワイヤーでぶら下がったままガトリング砲とリボルバーカノンで弾幕を張り、突っ込んできたミサイルを迎撃する。

 

『本当です! 直視映像(ダイレクトビュー)チャンネル120で映像転送します! 連中、地中深くの核でここを吹っ飛ばす気です! 解除したいところですが、なんかいろいろぶっ壊されてて解除不能!』

『馬鹿な……ハルフォーフ隊長、核だ!』

『中国の戦術核盗難はコイツらの仕業か!』

「撤退! 撤退だ!」

 

 焦る気持ちがクラリッサの操縦を荒くする。 如何に普段冷静な操縦者であろうとも、すぐ近くで核爆弾が起動しているなどと言われて冷静でいられるだろうか。

 しかし、それがいけなかった。 揺れが激しくなったことで、損傷していたワイヤーブレードが千切れ、ドーラが落ちて行く。

 

「う、うわぁぁぁっ!?」

「中尉!」

 

 ワイヤーブレードを再び延ばそうとするクラリッサ。 しかし届かない。 ドーラが伸ばした手は、空を切る。

 

「うおぉぉぉぉっ!」

 

 ドーラが落ちて行き、ワイヤーブレードも届かないのを見たイチカは、即座にワイヤーブレードをムーンライトソードで切断し、ドーラの後を追って落ちて行く。

 気付いたファイルスが手を伸ばすが、既に届かない距離へとメタルウルフは行ってしまった。

 

「イチカ、何のつもりだ! 戻れ!」

「あのドイツ機を助ける!」

「無茶だ! 時間もないんだぞ!」

「だからって見捨てるのかよ!」

「それは……」

 

 クラリッサが、一瞬言葉に詰まる。 しかし、すぐに悔しさを噛み殺したような声で続けた。

 

「……そうだ。 彼女1人と、全員を天秤にかけることなど……できない」

「ふっざけんじゃねぇ!」

 

 ムーンライトソードを抜き放ったままの白いメタルウルフが、透き通った青い刃に太陽光を煌めかせながら落ちて行く。 その先には体勢を立てなおしたプッチーンがいて、ツインバズーカを撃ちこんで注意をラウラからイチカヘと向けさせる。

 

「俺は、大統領になるんだ! 大統領を目指す奴が、そんなこと――」

 

 プッチーンの胸部には、プラズマ砲の収束する光が輝く。 それを見てメタルウルフが全身のスラスターを全開させ、ブーストで加速した。

 

「仲間を見捨てて、背を向けて逃げるなんて、そんなの大統領がやることじゃねぇっ!」

 

 プラズマ砲が発射されるほうが、一瞬早かった。 高エネルギーがメタルウルフを包み、メタルウルフのシールドメモリをガリガリと削っていく。

 

「お、おぉぉぉりゃぁぁっ!」

 

 身体の中心で脈動する何かを感じる。 目に見えてシールドゲージの減少速度が低下するのを感じたイチカは、その脈動に身を任せた。

 

「無茶なんかじゃない! 何故なら俺は、(The reason is, )アメリカ合衆国大統領(because I become the President )になるんだっ!(of the Great United States of America!) 応えてくれ、メタルウルフ!」

 

――ああ、存分にやるがいい、イチカ!――

 

 メタルウルフの代わりに先代大統領が応え、イチカの大統領魂(The president spirit)が更に熱く燃えあがる。 以前と同じ、自分が何か別の存在(プレジデント)へと変わっていくかのような感覚に、身を委ねた。

 プラズマ砲の眼前に飛び込んだメタルウルフが、落下してきた勢いのまま唐竹割にムーンライトソードを振り下ろす。

 

これがっ、俺の大統領魂だぁぁぁっ!(Believe my Justice!)

 

 ムーンライトソードはイチカが引いたトリガーに従い、今まさにエネルギーを放っている砲口を切り裂くよう光波を放ち、大統領魂で巨大化した光波が高熱蒸気を発するプッチーンを頭のあった辺りから股間まで真っ二つに切り裂いた!

 機械の断面が激しいスパークを放ち、左右へと倒れていく。 倒れていくその隙間を通り抜けながら着地直前で宙返りし、燃え上がるロシア大統領機を背に溶けかけている足元の雪を削りながら着地した白いメタルウルフ。

 

――Большое спасибо.(解放感謝する、若き大統領候補よ)――

 

「……なにか聞こえた?」

 

――ああ。ロシア語で、彼が感謝していた――

 

 幻聴だと切り捨てかけたイチカが、かつて国連のエージェントとしてロシア語も理解し、生前のプッチーン大統領とも親交のあった先代大統領に告げられて振り返る。

 炎上するロシア大統領機、その炎の影でよりにもよってテロリストに望まぬ戦いを強いられていた、薄れていく元KGBの老人の姿を見た。

 

「――さよならだ、大統領(Goodbye,President Putchin.)

 

 そしてメタルウルフがムーンライトソード(正義の刃)を一振りしてバックパックに収納した瞬間、真っ二つになっていたロシアの鋼鉄の巨人、プッチーンは遂に爆散した!

 ロシア大統領機内部にそのAIとして搭載され、所有する亡国機業に孤独な抵抗を続けていた彼のクローンの脳は、それで完全に破壊されたのだった。

 

『Yeahhh! よくやったぜ! 気持ちいいセリフ聞かせてもらったお礼だ、みすみす死なせやしねぇよ! 整備チーム、追加ブースターだ! 40秒で支度しな!』

『そうだ! あのアリゾナ紛争でも、あの男(リチャード)と違って大統領は決して仲間を見捨てなかった! コーリング、頼む!』

『あいよ、ネビル大尉! 聞いてるな、オラジワン! 今だけ私のコードは“エアフォースワン”だ!』

『了解、エアフォースワン! あの坊主、なんとしても連れ帰ってきな!』

『こちら司令部。 ……一応許可はするが、そのコードで撃墜された場合非常に問題となる。 必ず生還せよ』

 

 通信機から威勢のいいイーリスとシャックの声が聞こえる。 プスプスと黒煙を噴くイチカのメタルウルフが、ラウラを探すべくレーダーと雪原に目を向けた。

 

――イチカ、見事だった。 どうやら君自身の大統領魂が高まったようだな――

 

 先代大統領の言葉と共に網膜投影されるモニターの隅に目を向けると、確かに常に一定値を示していた大統力(プレジデントポイント)の数値が跳ね上がり、バースト攻撃の使用が解禁される数値へと達していた。

 ファイルスがイチカの言葉を聞いて脳裏を過ぎったのは、かつて自由の女神の上に囚われた自分達を救いに来た鋼鉄の狼の姿。

 

――ジョディ、私は友人を見捨てることなどできない。 何故なら、私はアメリカ合衆国大統領だからだ――

「大統領じゃない、か。 確かにそうだな」

 

 しかし今のイチカにその声は聞こえておらず、先に落ちたドーラを探してレーダーに目を走らせる。

 イチカから見て北西に、微弱な反応が映りこんだ。

 

『起爆まで、残り5分!』

「見つけた!」

 

 崩れた瓦礫の山で、火花を散らせながら仰向けに倒れている黒い機体。 落下の衝撃を瓦礫の山が吸収したのか、本体は原形を保っていた。

 装甲を引き剥がし、フレームを引き千切り、イチカはラウラ・ボーデヴィッヒを引きずり出す。 生身のラウラを初めて見たイチカは知らないが、先程までつけていた眼帯が顔の横に落ちている。

 

「しっかりしろ、ボーデヴィッヒ中尉!」

 

 イチカと同じデュノア社の温度調節機能付きパイロットスーツに包まれたその身体をメタルウルフの左手が抱き上げると、すかさずイチカは信号弾――なんて持っていないので、HANABIを1発だけ発射した。

 

『位置を確認した! あと20秒待て! 重いから武器は捨てとけよっ!』

 

 イチカがドーラの残骸からとりあえず眼帯を拾い上げた時、頭上に花開くHANABIの下へと本来はファング・クエイク用の試作型強襲用追加ブースターを両肩と背中のハードポイントの6ヶ所に積んだイーリス機が降下してくる。 その両腕と脚部には、特殊機動重装甲や貨物を輸送する為の多目的ワイヤーアンカーが見える。

 HANABIが、ツインバズーカが、ガトリングガンが次々放り出されていき、放り出された武装に自動で使用制限がかかる。 残ったのは、ムーンライトソードだけ。 これだけは捨てられない。

 

「おっし、急いで逃げるぞ。 この追加ブースター、いつまでもつかわかんねぇ……」

 

 両脇とバックパックに発射されたワイヤーが引っかけられ、自動で巻き取られていく。 ワイヤーの固定をイーリスが何度か確認すると、ストライクイーグルカスタムはふわりと浮きあがった。

 イーリスは背中のウイングスラスターの制御を愛機に任せ、6基の追加ブースターをフルマニュアルで制御しながら、全力で加速させた。

 この強襲用追加ブースター、試作型なので変に推力バランスを崩すとそこから真っ逆さまになったり暴走しかねないのだ。 イーリス自身、ついさっき切った啖呵がなければ笑顔で用意されたこのブースターの試験は遠慮したかった。

 

「何故、助けた……?」

 

 弱々しい声が、メタルウルフの腕の中から聞こえる。 風圧から守る為に進行方向に背を向けたメタルウルフに抱きかかえられているラウラ・ボーデヴィッヒが、いつの間にか意識を取り戻していた。

 

「私は、いや、我々は造られた存在……。 今はもう禁止されているが、戦う為に生み出され、そして落ちこぼれた私など……」

「人を助けちゃいけない理由があるのか?」

 

 片目を金色に染めたラウラの吐く息が、膜状のフィールドを出ると同時に白く変わり、ブリザードの中に消えていく。 パイロットスーツの温度調節にも限度があり、北極圏で吹雪の中を突っ切るような使用方法は考慮されていない。

 それでも、直接外気に晒されていたなら凍死していたかもしれない、とハイパーセンサーで真下のラウラの様子を確認するイーリスはパイロットスーツに感謝した。

 彼女が生きて帰れたなら、デュノア社に感謝の連絡でもしておこう、と。

 

「教官……お前の姉上が来てからの3週間、夢のようだった。 今なら、夢のまま終わらせ――ふぎゃっ!?」

「おい、揺らすな!」

 

 メタルウルフの指が、ラウラの頬を引っ張っている。 おかげでラウラは涙目になりながら頬をさすり、メタルウルフが動いたせいでイーリスはフルマニュアルの姿勢制御を余儀なくされる。

 

「俺の夢は、世界政府大統領なんだ」

「……先程から何度か聞こえていた。 しかし、世界政府はもうないぞ」

「そうだな。 でも、俺が世界政府大統領になりたいのは、父さんや大統領みたいに世界を守る男になりたいからだ。 だからまずは、目の前の仲間を救えなきゃダメだろ」

 

 イチカが少々気恥ずかしそうな声音で――といっても、ラウラに見えているのはメタルウルフの白い装甲と赤い単眼だけなので、中にいるイチカの表情は見えないが――言ったのだ。

 

「それに――大統領になるなら、もっと強くならなきゃいけない。 大統領はどんな状況でもどんな仲間でも絶対に助けるために戦ったそうだし、今も自由と正義を守るために戦ってる。 俺の父さんだって俺達がいた日本を守るために戦った。 それに、千冬姉も――決勝戦を放棄してまで、俺を助けに来てくれたんだ」

「――なに……あの教官が……!? いや、それより教官が2度目の栄誉を逃したのは貴様のせいだったのか……!?」

「俺のせいというより、亡国機業(ファントムタスク)のせいじゃないか……?」

 

 当然、イチカの存在を今日まで知らなかったラウラには、あの強く凛々しく堂々と、更に鬼のように厳しい教官が誰かを助けるシーンが、全く想像できない。

 ましてや、そのイチカのせいで憧れている教官(織斑千冬)は世界最強の座を逃し、代わりにかつての教官(ゼクス・アルトマイヤー)はIS世界最強の座を手にしたのがより事態を複雑にさせる。

 アメリカ大統領の決勝戦への出現は、ドイツIS関係者の間では“天災が向こうから突っ込んできた”どうしようもない事態だったという扱いになっている。

 

「だから俺は、その人たちと同じくらい誰かを守れるくらい、強い男になりたいんだ。 そしていつかは世界も守れるくらいに強く、な」

 

 ラウラはしばらく黙りこむ。 憧れる教官の弟が、果たしてその弟という存在位置にふさわしいのか。 幸い、あの大型機が沈黙していることから察するに、アレを撃破する実力はあるのだろう。

 いつの間にか彼女の中で、遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)として機体すら破壊されてしまった自分に存在価値などない、とあの時シュヴァルツェア・イェーガーから振り落とされてから先ほどまで抱えていた感情は、もうどこかに消え去っていた。

 1分ほどかけて――遺伝子強化試験体が当然のように思考加速処置を施されていることから考えれば極めて長い――イチカを評価し、やっと口を開いた。 

 

「……フン。 甘い男だ。 しかしまぁ……悪くはないのではないか。 その甘さに、私は救われたのだ。 それは感謝しておこう。 流石教官の弟だ」

「俺を褒めてんのか千冬姉褒めてんのか、どっちだよ」

「さて、な。 私にも分からん……」

 

 そう言いながら、強化人間(アドヴァンスド)として産み出された最後の少女(ラウラ)は、微かに笑みを浮かべた。

 

「ほらよ、“エアフォースワン”到着だぁ! 2人とも無事だぜぇ!」

 

 ストライクイーグルカスタムが追加ブースターを量子化させながら、オラジワンⅢの中に滑り込む。 ドイツの大型輸送機は核の予想範囲から逃げ切ることは不可能と判断され、ヘリは放棄しアメリカ軍の操縦者がひしめくオラジワンⅢの格納庫へ案内された。

 元々、ISは宇宙空間での作業を目的としているので宇宙線対策が操縦者保護機能の中に盛り込まれており、生半可なEMPは通用しない。 オラジワンⅢは2つのコアを以て絶対防御等の範囲を機体全体に拡大してあるのでただのヘリより安全だろう。

 メタルウルフの腕の中でお姫様抱っこされていたラウラが下ろされ、それを見て妙に興奮しているクラリッサからのドーラ墜落に対する謝罪を困惑しながら受け入れた。

 その背後には、ラウラのように機体喪失ほどではなくとも少なからず損傷したドーラ8機とクラリッサと同じく妙に興奮する操縦者達が並んでいる。 彼女たちは日頃からクラリッサからの影響を大いに受けていた。 つまり、そういうことだ。

 

『収容を確認!』

『これより、最大戦速で離脱します!』

 

 特殊機動重装甲を降下させて以来、停止していた2重のPICが起動し、核融合エンジンの出力で動かしていたヘリローター6基が停止した。

 代わりに核融合エンジンのエネルギーバイパスがオラジワンⅢ後部の超大型高出力スラスターに直結されて起動し、更に後部側面が開いて出現したのは大気圏離脱用のものを転用した液体燃料ロケット。

 理論上、PICとの併用で大気圏を離脱することが可能だが、宇宙用の気密隔壁などがないオラジワンⅢが宇宙へ出るわけにもいかない。

 

「やったな、イチカ」

「結構ギリギリだったけど、無事回収できてよかったぜ」

「無茶するのね、イチカ。 アクション映画見てるみたいにハラハラしたわ」

 

 イチカのメタルウルフとファイルスのメタルレイヴンの鋼鉄の腕がハイタッチでぶつかり合い、続いてカスパライティスの腕とも接触して鈍い金属音を響かせる。

 整備班がメタルウルフの確認に近寄り、一旦イチカが降りた頃、ちょっと遅れて頭以外展開したままのコールド・ブラッドを纏ったフォルテが、イチカへガチガチに凍らせた粉末ココアのパックを投げ渡した。

 今回、彼女含め第2世代ISが緊急用に箱ごと量子変換(インストール)していた寒冷地用レーションのものだ。

 

「おかえりっスよ。 他のISからの直視映像(ダイレクトビュー)で見てたっスけど、よく飛び降りられたっスねー……」

「あー……本当は気が付いたら、ついワイヤー切って飛び降りてたってのもあるかもなぁ……って、つめたっ!?」

「はっはっはー、引っかかったなー……っス」

 

 悪戯な笑みを浮かべたフォルテのコールド・ブラッドが、投げ渡した凍りつくパックに改めて触れると、ガチガチに凍りついた粉末ココアのパックが解凍され、少々冷たいが常温へと戻った。

 

「分子活動を鈍らせて止めたり凍らせるのがこのコールド・ブラッドの本領っスけど、一応元に戻す(解凍)まではできるっスよ」

 

 尤も、あくまで解凍するまでで、それ以上に温めることはできない。 その役目はヘル・ハウンドが担うはずだったが、そのヘル・ハウンドは操縦者ごと亡国機業に行き、機体は再生産の予定もない。

 粉末ココアが冷たいのは全員同じだったので、イチカも特に言うこともなく飲み干した。

 

「貴方が、イチカ・オリムラ准尉か?」

「そうだけ――んん、そうですが?」

 

 ちょうどその時ドイツ軍から、2人の軍服の女性と少女が近づいてきた。 先程のドイツIS乗りとパイロット、クラリッサとラウラだ。 ISスーツの上に黒ウサギの部隊章と鉤十字がついた軍服を着ている。

 “強きドイツ”を目指して(ナチス)から入った新生ナチス・ドイツ連邦は旧ナチスと同じ反ユダヤ主義ではなく、今のご時世を反映して反男性・女性至上主義を掲げている。 勝手にナチスを名乗るな、と亡国機業に合流したネオナチからは非難轟々だ。

 しかし、先のモンドグロッソでドイツ男性の希望であったアメリカ大統領相手での敗北と、国家代表として人気があり、アメリカ大統領と対決したゼクス・アルトマイヤーが政策に一石を投じるべく政界入りしたことで、今は穏健派を取りこんで新ナチス反対の火が燃え上がりつつある。

 このままでは国から多くの男性が逃げ出したイギリスのようになる、極端な政策は撤廃すべきだ、と。

 これに対してドイツ政府はゼクス・アルトマイヤーの国家代表資格剥奪を以て答え、国民から批判が集中していた。

 

「イチカ・オリムラ准尉。 今回は貴官のおかげで大事な部下を失わずに済んだ。 後日、我が軍から謝礼があるだろう」

「いや、当然のことをやっただけです」

「……敬語は不要です。 他国の兵士から、先程のように怒られるなどとは思ってもいませんでした」

 

 イチカの敬語を手で制したクラリッサ自身も、心なしか口調が柔らかくなった。 こちらが素なのだろうか。

 ドイツ軍の方からも、ちょっと教官っぽくて怖かったねー、という声が聞こえてくるが、こちらはドイツ語なのでイチカには分からない。

 軍服を羽織ったラウラが、パイロットスーツの脇の下に何かの入った鞘を固定していたベルトを外し、それをイチカに向けた。 黒いそれはよく見ると、刃物の柄のような形状をしている。

 今回の作戦で初めて、ラウラはメタルウルフの中に収まっていたイチカの姿を視認した。

 

「一応、私からも礼はしよう。 生憎これ以外、私には何もない。 これを受け取れ」

「おー……サンキュ。 銃は持ってたんだけど、ナイフはまだなかったんだ」

 

 ラウラから渡されたのは、鞘入りの軍用ナイフ。 イチカがそのナイフを抜くと、刃渡り20センチ程の艶消しされたブラックメタルの刀身が現れた。

 ちなみにこのイチカが言う銃とは、ホワイトハウス襲撃の際に拾ったマゼラン星雲からやってきた――と言われるが確証はない――光線銃のことだ。 今も一応腰に提げている。

 

「礼は要らん。 ところでお前は、欧州IS演習に出るのか?」

「おう。 俺もプレジデントフォースだからな」

「ふむ……では、それまでに私もIS操縦者になるとしよう。 また会おう、“戦友”よ」

 

 ラウラは、そこまで言い終わるとイチカに背を向け、ドイツ側へと歩き出す。

 

「待ってくれ、ボーデヴィッヒ中尉」

「なん――」

 

 声をかけると同時に、イチカが何かを投げた。 振り向きながら反射的にそれを受け止めたラウラの手に飛び込んできたのは、自らの眼帯。

 

「忘れもんだ」

「――ああ」

「じゃあな」

 

 それ以外何も語らず、ラウラは金色に輝く左目に眼帯をつけ直す。 別れの言葉は先程済ませた。 ならば、最早言葉は不要だ。

 

「教官の弟と言うからどんな奴かと思ったが……意思の強さは教官譲りらしい」

 

 後日、ドイツに戻ったラウラは織斑千冬に“何故そんなに強いのか”と尋ね、そして強烈に納得することとなる。

 “あの姉にして弟であり、その逆も然りだったのだ”と。

 

『こちら司令部。 起爆まで残り2分となったが、これより宇宙軍による核爆弾破壊作戦が開始される』

 

 その直後、宇宙から超音速で何かが落ちてきた。 宇宙軍特殊機動重装甲部隊による“ロッズ・フロム・ゴッド”(神の杖)の宇宙資源製の大質量弾頭がカウントダウンを続ける核爆弾が存在した“モノクローム・アバター”拠点を直撃。

 音速のおよそ十数倍で激突した小さな隕石は、激突の瞬間に核爆弾に匹敵する破壊力を生み出して地下数百mをクレーター状に破壊しつつ、周辺を衝撃波で薙ぎ払った。

 起爆まで残り2分を切っていた核爆弾も、残されていた証拠品も、誰も脱出できずに浸水して沈んだ原潜も、放棄されたラウラのドーラも、ほぼ全てが消え去っていく。

 液体燃料ロケットで結構高度と距離を稼いでいたおかげか、オラジワンⅢに到達した衝撃波は軽微なものだった。

 

『宇宙軍より通達。 核爆弾があったとされる目標地点を破壊した。 諸君らが核爆弾を発見したおかげで極めて迅速かつ効果的に破壊し得たことを感謝する、とのこと』

 

 そのまま起爆予定時間が過ぎて静まり返っていた格納庫のモニターで、巻き上がった粉塵の中から新たな爆発が起きないことを理解した面々が徐々に騒がしくなっていく。

 

「本当に、やったの……? お姉さま、やりましたよ!」

「ふぅ……シュヴァルツェ・ハーゼ初の国外作戦、無事完了か……きゃぁっ!?」

「なんだったのだ、アレは……アメリカの宇宙軍は、あんなものを運用しているのか……?」

 

 まずドイツ軍のシュヴァルツェ・ハーゼ隊員が隊長であるクラリッサに抱きつき、それを真似て他の隊員も抱きつこうと迫っていく。

 あまり馴れ合いが好かないラウラは壁にもたれかかり、1人宇宙からの脅威について考え込んでいた。

 

「おい、やったぞナタル! 明日の夜は全員無事ってことでパーティーしようぜ!」

「はいはい、イーリ。 無事着陸するまでが作戦よ? パーティーはその後ね」

「心配無用だ、コーリング。 作戦成功した場合、パーティーを行うようプレジデントフォースの経理部門に申請してある」

「おお、流石だぜナタルの父さん!」

「とはいえ、ISの誤作動も気がかりではあるからな……コーリング、君は空軍だろう? 空軍から今作戦参加のIS全機と、その後に残りの待機中IS全機に緊急点検が必要だろうから、話は付けてくれないか」

「宇宙軍はこの作戦に私1人しか参加してないから……イーリは頑張ってね?」

「パーティー前に大仕事かよ……よし、イーグル3、アーヴィング! お前海軍だからそっちは任せた!」

「マ、マジ……? わかったわ……」

 

 アメリカ側では国家代表を中心にパーティの予定を立て始め、イチカを含めた特殊機動重装甲パイロット達もそれに参加する形で巻き込まれていく。

 別方向から離脱するエアフォースワン。 大統領は拠点突入後にいつも通り大破壊を齎しており、カウントダウン起動前の核爆弾ごと破壊していた。

 ジョディが抱えていた、宇宙軍への緊急回線(ホットライン)端末が収められていたスーツケースを閉じる。

 

「お疲れさまでした、大統領。 宇宙軍で向こうの核爆発を阻止できてよかったですね。 宇宙から見たら、さぞすごい光景だったんでしょうねぇ……」

「そうだな、ジョディ。 ……だが、やはり私はテロリスト(亡国機業)を許すことはできないようだ。 この美しい銀世界を核で汚そうとするなど、許されることではない」

 

 10月下旬。 この日、亡国機業はグリーンランドに存在した欧州・アメリカ方面最大の拠点を幹部、実働部隊“モノクローム・アバター”の大多数と共に喪失。

 事実上世界最大の拠点を失い、数日遅れてグラウンド・アルファの拠点も欧州連合軍による大攻勢の末に陥落。 大統領たちに撃破されたものを含め、多数のISを奪還された。

 この日からしばらくの間、亡国機業の活動は影を潜めることとなる。

 

 亡国機業の最後に残された、中東拠点。 化石資源枯渇の影響を最も強く受けた中東。

 中東IS戦争以来、政府と治安組織が壊滅して暴力が支配する無秩序領域となったそこは、亡国機業とそれに従わない現地武装勢力に、旧来のイスラム主義打倒を目指すIS所持の女尊男卑勢力による紛争が絶え間なく起こる現代の暗黒地帯。

 世界中に散らばった亡国機業をこの一点に集中させ、全て駆除する。 そのような予定が国連によって立てられている。

 今となっては国連軍ですら退避した中東で、この先何が起ころうとしているのか――それは、大統領ですらまだ分からなかった。

 

 

 

 

 後年、グリーンランド国立公園にできた巨大クレーターには、1つの凍りついた湖ができあがった。

 グリーンランドの原住民によって、その湖には“ウィルソン湖”と名付けられる。 空を貫いて落ちてきた“大統領の雷”で、世界とグリーンランドに一時の平和をもたらした1人の大統領の名を――。

 

 DNN ピーター・マクドナルド&IS学園1年生新聞部(当時) エイミー・マクドナルド




第1章、終わったように見せかけて第1章エピローグ的な話がもう1話ついてきます。
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