セイバーの中では赤王様と並んで1位の人気(アンチャン的に)の沖田さんがヒロインです!
シリアス!………と、見せかけてギャグで下に折る!
この世に人として生を受け、人並みの親の元に生まれたのなら、誰しも平穏を生きる権利をもっている。
平和な現代日本に生まれた〝彼〟もまた例外ではなかった。母を呼べば柔らかな抱擁を受け、父を呼べば大きく暖かな手で頭を撫でられ、妹の名を呼べば己が優しい両親にされたように大きく腕を広げた。そんなどこにでもいる普通の少年。それが〝彼〟の本質だった。
恐らく死によって分かたれるその時まで続いていくと信じて疑わなかった暖かなモノ。それを最後まで守ることこそが己の生き方であると、齢11歳のにして漠然と知った。
だが、それはたった1部の例外によって儚く消えるモノでしかなかった。
学校の休日、夕方まで友人と汗と泥に塗れるまで遊んでから帰宅した時、何時ものように『ただいま』と、〝彼〟が告げた時、何時もは母か、それか妹か父から『おかえり』と返事が耳に届くはずだった。しかし今日は誰も答えない。車はある。明かりもついている。テレビからはバラエティ番組が放送されている。居間を覗けば家族3人が楽しそうに談笑している。
首を傾げつつも鞄を自室に置くために2階へ上がり、再び居間に戻って声をかけた時、この時も誰も応えようとしない。いよいよ不安になった〝彼〟は大声をあげる。
父よ、何とか言ってくれ。
母よ、お願いだから答えてくれ。
妹よ、自分は此処にいる。
何度叫んでも自分の声が届かない。遂には涙を流しながら父の体に縋りつこうとした時――――
「……え?」
自分の手が、父の体をすり抜けた。
訳も分からず何度も何度も家族の手を掴もうとした。だが何度やっても結果は同じ。まるで空を切るようにその幼い手はすり抜ける。
たまらず裸足のまま家を飛び出した。『こんな事はありえない!!』、そう自分に言い訳しながら不安をかき消すように叫び、走る。きっと自分のことが分かる人がどこかにいる、そう思ってからは知り合いの家に向かった。
それでも結果は同じ。インターホンを押せば悪戯と間違われ、出てきた友人の耳には己の声は届かず、体に触れようとしてもやはりその手はすり抜ける。
ついに泣き疲れて公園の土管の中、生まれて初めてその身一つの野宿をした。この異常事態、実は自分は気づかぬ内に死んでしまって、今は幽霊なのではないかと思ったが、そうでないことは体の感覚と空腹が教えてくれた。目が覚めれば、何時もの日常が戻ってくればいい。そう願いながら、〝彼〟は眠りについた。
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そんな、寂しい夢を見た。
本来なら高校に入学していたであろう年の4月3日、それは住み続けた畳の匂いと共に目を覚ました〝彼〟の16歳の誕生日だった。かつてはそれを祝ってくれる者が多く居たが、今はもう無縁の話。
あの全ての始まりの日、家に帰りずらく、子供ならではの意地を張って野宿をし続けた〝彼〟はとうとう警察に補導されることとなる。
名前や年齢を告げても失踪届が出ておらず、日本で数名存在する同姓同名の少年を訪ねても異常は見当たらないと言う警察に対して警戒心を露にする子供の対応に困った警察は1年ほどで匙を投げ、〝彼〟は施設に預けられそうになった。
「その子は、児童施設に預けられるのだろう? ならどうだろう、私の養子になってみんかね?」
桜木六郎太。
そんな名前の酔狂なことを言う老人が現れたのは、そんな時だった。
当てのない〝彼〟は『誰かの子供』というポジションを本能的に求め、老人についていくことを決意。老人に手を引かれ駒王町という場所に辿り着いた〝彼〟は町のはずれ、ライフラインがギリギリ届く竹林の中に和風の一軒家で暮らし始めた。
〝彼〟はなぜ自分を引き取ったのかと、老人に尋ねると皺だらけの顔で事情の説明と一つの提案をしてきた。
「この家を含む私の私産全て与える代わりに、私の最期を看取って家の裏にある妻と息子の墓の隣に、私の墓を建ててくれないか?」
聞くところによると、老人は隠居した資産家で20代で妻と息子に先立たれてから仕事一筋で莫大な金銭を所有する身になったが、数年前から病を患っており、医者からは余命は数年以内だと宣告されたらしい。
有り余る金は自分が生きた証、それが死によって無に還るのは心苦しい。死ぬのなら病院ではなく家族と過ごした思い出のあるこの家で最期を迎えたい。自分の死後、この家が無くなるのは我慢できない。生きた証を誰かに残したいとそう話した老人の提案を受け入れると、老人は嬉しそうに笑った。
それから約4年後の3月18日、互いを『爺さん』、『少年』と呼び合う奇妙な生活が続き、老人はまるで糸が切れたかのように安らかな寝顔のままこの世を去った。そして約束を果たすべく老人を家の裏にある2つの墓、その間に埋める時の〝彼〟の台詞はこうだ。
「あっ。……そういや、今まで一度も名前で呼ばれなかった。ファック」
そういった〝彼〟の鼻はツンッと痛み、喉が引きつっていた。
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16歳になった日の深夜3時、コンビニエンスストアで立ち読みした後で食事を購入した〝彼〟は街灯に照らされた桜並木の道を歩いていく。
老人が〝彼〟にもたらした恩恵は莫大だった。家賃に関する全てを貯金から支払うようにしていた家にそのまま住み、もらい受けた複数の銀行手帳とカードをもってATMから生活費を下す日々。総金額にして0が九つある貯金残高を見た時は『何者なんだ、あの爺さん』と眩暈がしたのはいい思い出である。
これほど大量の金銭、本来僅か16歳の少年が一人で管理できるものではないが、老人の古い知人であるアザゼルという見た目チョイ悪親父の男性が管理、自由に引き落としができるようにしてくれた。
家を手に入れ、金銭を手に入れてから16日が経過し、もはや無理に動くことのない身となった〝彼〟は高校にも通わずにすっかり昼夜逆転したニートと化し、『あー、これからどうしよう』などと呑気に考えながら暗い街を歩くのが日課となっていた。
それが良くなかったのか、単純に間が悪かったのかどうかは分からない……。幻想的な桜並木の中で〝彼〟と〝それ〟は対面した。
呻き声をあげる女だった。……否、それは女
人間の女の上半身と牛のように巨大な
「人、間……? ……アハァ……!」
怪物はこちらを見てニタァと、笑った。それは弱肉強食の理を持つ獣のように純粋なものではなく、悪意と欲に塗れた人のように濁り切った捕食者の目だ。
「こいつを人質に取れば逃げれる……! この町の管理者から! そしたらお前も食ってやる!!」
その言葉の真意、この怪物は何者なのかと考える暇もない。
重症とは思えない俊敏な動きに〝彼〟の認識は追いつけず、一瞬で間合いを詰められる。それも当然だ。いくら奇怪な経緯はあれど、多少体力のある人間程度の身体能力しか持たない〝彼〟が未知の怪物を前に出来ることなどありはしない。
この身を縛るのは、余りに非現実的な現状と圧倒的捕食者を前にした恐怖によるものだ。本能が肉体を縛り上げているのを自覚した時、理性は煮えたぎる溶岩のように熱く、そして静かに燃え上がる。
――――ここで死ぬのはおかしい。
――――家族だった人たちから目を背け、それでも前に向かって生きてきたのは何のためだ?
――――思い出せ、お前の原点を。
――――かつて持っていたモノの全てを置き去りにしてでも、生きて成し遂げたいことがあるはずだ。
それなのに
身を縛る恐怖は消えない。それでも眼光と意思だけは不思議と屈しない、 生物の原点である生存本能が爆発した瞬間、全身の神経が脈を打ち、右手の甲に灼熱が走る。誰の意識の介入しないまま、複雑な魔方陣が怪物の前に現れた。
「な、何だこれは―――――!?」
強い発光に怯む怪物を余所に、〝彼〟……桜木雄也は痛む右手に目を向ける。
「な、何これ……?」
いつの間にか右手に刻まれた三画の紋章。それを見た時、目の前の魔方陣から凄まじい風が吹き荒れ、中心に
「お下がりください、マスター」
鈴を転がしたような可憐な声が、雄也を労わるように投げかけられる。先ほど人生で一番驚かされたというのに、それを更に上回る驚愕が目の前に広がる。
(お、女の子……!?)
「ぎ、ぎゃあああああああああああああああああああっっ!!!!?」
両目から血を吹き出して悶え苦しむ怪物を余所に女は指を眼窩に引っ掛け、そのまま怪物の頭上を飛び越え、後ろ首と背中を抑えて全体重をかけた。
「ぎぇっ!?」
ゴキリッ! と、鈍い音と共に言葉にならぬ声を発して動くことを止めた怪物。その様子は雄也の目に入ることはなかった。彼の視線は突然現れた女にのみ注がれる。
袖口にダンダラ模様を白く染め抜いた浅葱色の羽織と黒いマフラー、その下に丈の短い着物を身に着けたアイドルや女優など比べるまでもない程の美貌を持つ少女。日本人離れした新雪のように白い肌と夜風に舞う白桜色の髪は月光に照らされ、降り注ぐ桜の雨のように麗しい。
「危機は脱しました。お怪我はありませんか」
指に付着した血を振り払い、怪物を速攻で仕留めた苛烈さと強さを感じさせぬ朗らかな笑みを浮かべ手を差し伸べる少女。この時初めて雄也は自分が腰を抜かしていることに気が付いた。
「君は一体……?」
向けられる笑顔に心臓が早鐘を打ちながら、雄也は少女の正体を端的に問う。すると彼女は雄也の右手の甲を見てから顔を引き締め、高らかにその名を告げた。
「新選組一番隊隊長、沖田総司。此度の《聖杯戦争》においては
「いや……何の事か全く身に覚えないんですけど?」
「…………へ?」
現状から完全に置いてけぼりをくらった雄也の台詞はある意味当然だが、彼女……沖田総司(?)は大層意外だったらしい。キメ顔から一転、ポカンとした表情を浮かべる沖田さんと未だ頭の整理が追い付かず疑問符ばかり浮かべる雄也君。舞い散る桜吹雪の中で見つめあう2人、先に沈黙を破ったのは――――
「こふぅっ!?」
「ぎゃああああああああああっ!?」
沖田さんの喀血だった。そして吐き出された血の塊が雄也に向かって顔射される。
「何これ!? 何なのこれ!? 何か、何か目の前が一面ピンク色で何も見えないんだけど!?」
「す、すみません。……余りの動揺に……思わずかふっ!?」
「2回目!? また顔になんか掛かった!? あ!? やばい! 何か目が痛くなってきた! このままじゃ大佐になっちゃう!!」
再度口から血を雄也の顔に向かってリバースしてそのままパッタリ倒れる沖田さんと両目を抑えてゴロゴロ転がりながら無様なム○カと化す雄也君。間違いなく運命的な邂逅を果たした出会いのシリアスは台無しである。
「うぅ……英霊になっても病弱が治らないなんてぇ……どーせ私なんて……けふぅっ!?」
「目が!! 目がぁぁぁ~~~!!」
こんな緊張感のへったくれもない出会いが、神やドラゴン、天使やら悪魔やら堕天使やらを巻き込んだ英霊たちの殺し合い、聖杯戦争への序章であることを彼はまだ知らない。
《王の軍勢》は鬼強い! これは真理です。