昼過ぎ、再び総司の腹の虫が鳴いた事による昼食のカップ焼きそばをを食べながら雄二は問うた。
「そういや、俺を襲ったあの化け物は何だったんだ? あんなのがウロチョロしてたら安心して寝れないんだけど……?」
「さぁ? 魑魅魍魎の類か何かじゃないですか? 生前会ったことは無いですけど、人の見えない場所には居るみたいですよ」
「えぇー……なんか雑な知識……」
「私の人生もノーファンタジーでフィニッシュでしたからねー。でも大丈夫ですよマスター! 戦いになったら、この沖田さんにお任せください!」
同じく、カップうどんを食べながら胸を張る総司。確かにそれに関しては不安はない訳ではないが心強い。そこでふと思った。
「あの化け物といえばさ、俺はてっきり沖田さんは剣士だと思ってたんだけど、実は格闘家だったんだな!」
「……へ?」
多くの資料で沖田総司は天才剣士であると記述されていたが、当の本人は刀らしき物も持っておらず、その上素手で怪物を殺めて見せた。男と思われていた人物が女だったことといい、所詮は本人でも何でもない歴史家が予測したことでしかないと雄也は思う。
「でも剣士じゃないならなんでセイバーなんてクラスに………って、どうしたの? なんか飼い主の家具を割っちゃって居た堪れない犬みたいな顔してるけど」
「あぅ………その、言い難いのですが、実はその………しちゃったんです」
ゴニョゴニョと掠れた声で呟く総司。
「え? ゴメン、聞こえなかったんだけど……」
「……なくしちゃったんです」
「ひょ?」
「いえ、無くしたというか、獲られたといいますか……」
「???」
「より簡潔に言っちゃうと、刀を質に賭博で擦っちゃいました!」
今にも『てへっ♡』と言わんばかりにやけくその笑みを浮かべる剣の英霊。しばし呆然として、ようやく事態を呑み込んだ雄也は総司に掴み掛る勢いで問い詰めた。
「ちょっ!? な、なんで!!? だ、だって現界してからずっと一緒にいたよな!? 何時!? 何時博打なんてやったの!?」
「いや、召喚される前にやった博打ですよ。ほら、英霊の座って基本的に暇なんですよ。それで私によくちょっかいを掛けてくる同郷の英霊に唆される形で大富豪やってたんですけど……知ってます? 大富豪っていうトランプの遊びなんですけど」
「知ってるけど………いや、何やってんの英霊」
「最終的には森の緑茶さんとか日輪のサルとか反抗期の叛逆の騎士とか巻き込んで物を賭けるようになりまして。それでノッブ……あぁ、最初に言った同郷の英霊なんですけど、その英霊に持ってた愛刀二本を取られちゃいまして」
「本当に何やってんの英霊」
「それでいざ取り返そうと意気込んだ時に召喚されて、今に至ります。…………って、あぁ!? マスターの目がすごく冷ややかに!?」
『無いわー。武士道とか騎士道とかよく分からないけど仮にも剣の英霊が刀を質に出すとかホント無いわー』と言わんばかりに冷め切った失望の視線を総司に向ける雄也。フリーダム過ぎる英霊の座にも色々言いたいが、それよりも目の前の偉人(笑)の尊厳は最早0である。
「ち、違うんですよマスター! あそこで革命起こされなかったら私の勝ちだったんです! 次こそは勝ちますとも!」
「フォローになってない上にその理屈は競馬場のオッサンやガチャポンをハズした小学生の言い訳にしか聞こえないんだよ!! そういう奴は次も負ける!! 俺も小学生の頃に散々経験した!! 主に祭りのくじ引きとかで!!」
「くぅ……! よもや出会って半日ほどしか経っていないマスターにここまで冷ややかにされるなんて……! おのれノッブ……! 戻ったら相性差にものをいわせたワープからの三段突きで息の根を止めて見せます……!」
「それは逆恨みだろ」
ギャンブルの恐ろしさを身に染みて理解している2人はしばらくギャーギャーと言い合っていたが、やがて落ち着きを取り戻していく。
「はぁ……はぁ……まぁ、事情は分かりたくないけど分かった。武器に関しては一先ず置いておくとして、次の話題に移ろう」
「そ、そうですね。私もこれ以上醜態を晒して呆れられたくないですから――――」
「いや、多分また地雷踏み抜くことになると思うけど……ぶっちゃけ、何で事あるごとに血を吐くの?」
「うぐぅっ!!?」
胸を抑えて脂汗を掻きながら目をそらす総司。『あ、やっぱり地雷だったか』と諦念の思いを抱えながらゆっくりと息を吐く。
「ほら、今度は呆れないから話してみ」
「はい……まぁ、百聞は一見に如かずといいますし、まずは目を凝らして私を見てもらえませんか?」
「え? いいけど……」
総司の言葉に疑念を感じつつも、眉間に力を入れて自分のサーヴァントを凝視する。すると総司の周りに文字が浮かび始めた。
「うぉっ!? 何これ!? 沖田さんの周りに文字が!?」
「それは聖杯戦争のマスターの特権で、サーヴァントのステータスを視覚化することができるんです。Eが一番低くて、Aに近づくほど身体能力や魔力が高くなるんです」
「へー、こんな便利なのが……ん?」
属性:中立・中庸
ステータス
筋力:C
耐久:E
敏捷:A+
魔力:E
幸運:D
スキル
対魔力:E
騎乗:E
心眼(偽);A
病弱:A
縮地:A
ステータスは敏捷を除いて軒並み低い。これだけでも見逃せないが、一つだけどうしても気になるスキルがあった。
「このスキルって欄にある『病弱:A』って何?」
「サーヴァントは生前の逸話からスキルを得るんですけど、私の場合は最後は病死っていう逸話が有名なのでついたスキルですね。効果はまぁ…………何と言いますか……」
「……突発的に血を吐く?」
「いえ、正確には何時発動するか分からない上に行動不能になるスキルです」
「この令呪ってどうやったら外せるのかな? 病院には行けないから、とりあえず刺青の落とし方を検索しないと……」
「えええええええええええっ!!? ここに来てまさかの契約破棄こふぅっ!?」
本気で令呪を科学的に消そうとネットで検索している雄也の腰に涙目になり血を吐きながら必死にしがみ付く。
「聖杯戦争に参加できるなんて、こんな機会滅多にないんです!! お願いですから契約破棄は待ってください!!」
「えぇい、HA☆NA☆SE!! こんなピーキーサーヴァントと一緒に殺し合いとかもう逃げるしかねー!! どうかそのまま成仏してください!!」
「そんなこと言わずに!! ほら、沖田さんみたいな超絶美少女との契約ですよ? 思春期の男性ならワクワクドキドキしません? これを逃したらマスターにはもう一生女性と縁がないかも!」
「自分で言うか……確かにそうだけど、だからって命を掛けれるほど俺は強くないよ! ていうか何気に失礼だなオイ!! 本気で気にしてるんだからぁっ!!」
16歳男子にして正真正銘、まったく女性と縁がないという事実を突きつけられると本気で傷付く。このままでは本気で魔法使い(童貞)になりかねないのだ。
「ていうか、何でこんな致命的なスキルがあるのさ!? 要らないでしょどう考えても!!」
「い、要らないとか言わないでください! 私だって好きでつけてるわけじゃありません! 外したくても外せないんですよ! うぅ……どーせ私はいらない隊士ですよ。こんな幕末に誰がした……!」
「泣くなよ……むしろ俺も泣きたい」
何故か英雄同士の殺し合いに巻き込まれた素質だけの素人魔術師と刀を無くした病弱英霊。残念なだけでなく不憫な主従である。
「ていうか、聖杯ですよ? なんでも願いが叶うんですよ? 欲しいとは思いません?」
「いやだって胡散臭いし。俺は眼に見えたものと耳に聞こえたものしか基本信じないし。そういう沖田さんは何か願い事でもあるの? サーヴァントって個人的な理由があって聖杯戦争に出るんだろ?」
「私はまぁ、病弱が治ればいいかなーとは思いますけどそれは二の次といいますか……そのぉ」
「何? こっちは眼を見て分かるほど成熟していないんだ。言ってくれなきゃ分からん」
目の前で胡坐をかいて座りなおす雄也の前で、総司もまた正座をして姿勢を正す。
「知っているかもしれませんが、私は病が原因で新撰組の皆と最後まで戦えなかったんです」
慶応3年、西暦にして1867年の10月に時の将軍である徳川慶喜が行った大政奉還により新選組は旧幕府軍に従い戊辰戦争に参加するが、初戦の鳥羽・伏見の戦いで新政府軍に敗北。榎本武揚が率いる幕府所有の軍艦で江戸へ撤退する。この時期、戦局の不利を悟った隊士たちが相次いで脱走し、戦力が低下した。
その後、幕府から新政府軍の甲府進軍を阻止する任務を与えられ、甲陽鎮撫隊と名を改め甲州街道を甲府城へ進軍するが、その途中甲州勝沼の戦いにおいて新政府軍に敗退した。
「そんな大変な時に、私はずっと床に臥せていただけで何もできなかったんです。そうしている内に永倉さんや原田さんが隊と袂を分かって、近藤さんは新政府軍に捕まって打ち首になりました。私が死んだ後も土方さんは戦死するし、斉藤さんまで隊を離れ、遂に新選組はバラバラになっちゃって」
自分一人で大局が変えられたとは思えない。それでも、一隊士として仲間とともに戦場を共にしたかった。だが彼女の肺に巣食う忌々しい病魔はそれすらも許しはしなかった。布団の中で仲間の健闘を祈ることしかできなかった。
「後悔は尽きませんよ。こんな肺に出来た小さな瘤一つで動けなくなるなんて、隊士失格もいいところですから」
アハハと、乾いた自嘲の笑みを浮かべる。
この細い肩に背負う苦しみと後悔は、たかだか16歳の何の事情を知らない小僧に推し量れるものでは決してないだろう。それこそ化けて出るほどの後悔なのだ。雄也は黙って耳を傾けていた。
「既に終わったことはもう変えられません。それでも願える事があるのなら、戦いたいんです」
膝の上で拳を握り、総司は凛とした目で真っすぐに雄也を見据える。
「聖杯なんていらない。どんな戦いでもいい。最後の最後まで、戦い抜きたい。私の願いはただそれだけなんです」
それだけ言い切ると、表情に陰を落として俯いてしまった。
「ですが、そんな私の我が儘の為に未来のあるマスターまで危険を晒すなんてできませんよね……冷静に考えれば当たり前の事なのに、言葉にして気付くなんて。何を熱くなってたのか……あははは」
まただ。
またしても、彼女は己を嘲るように笑った。
初めに言っておくが、桜木雄也は困っている相手がいれば手を差し伸べるような善人でもなければ、フェミニストでもない。
「まぁ、確かに? 聖杯とか怪しさ満点だし、正直そんなおっかない戦いにそっちの事情で巻き込まれるなんて御免被る。何事も生きていてこその物種だしな」
「……」
「助けてもらった恩はあるけど、それの見返りだって限度がある。沖田さんの昔話も、時代風景やら価値観やら背負ってきたもんやらが違い過ぎて、同情も共感を一切できないし」
「……ですよねぇ」
「――――でも」
家の天井、縁側に広がる庭と竹林、開いた扉から見える廊下を見渡して雄也は呟いた。
「それでも、一人で住むのは寂しい」
「え?」
「だからこの家に住んでくれるんなら、寝床と飯の用意とか魔力供給とか、してもいいぞ。戦いに行くのは沖田さんの自由だし」
しばらくポカンとした表情を浮かべていた総司だったが、雄也の言葉の意味を完全に理解した時、思わず彼に掴み掛った。一般人よりもはるかに強靭な筋力が上半身と首をロデオボーイの如くガックンガックン揺らす
「ほ、本当ですか!? 契約切らなくてもいいんですか!?」
「ほ、本当!! 本当だから! だから揺らすなあがががっ!?」
「や、やったー! 沖田さん大勝利―!! 何ですかー、やっぱり美少女との暮らしを期待してたんじゃないですかー、このこの!」
「いやまぁ、無いとは言わないけど……どちらかというと」
「ん? 何ですか? ……はっ!? まさかマスター、私のことが……」
「自分より不憫で残念な奴を見ていると、なんか優越感に浸れて気分が良いってことに気がついちゃったんだよね」
「……あれー? おかしいなぁ。召喚されるマスター、間違えちゃいましたかねー? なんかサラッとゲスい事言いましたよね?」
「何より隠れ巨乳美少女」
「って、何で令呪見ながら厭らしい顔してるんですかー!? あれだけ注意したのに全く懲りてませんよね!? ていうか何時!? 何時私の胸を!!?」
「はっ!? しまった墓穴を……!! ……な、ななななな何を言ってるにょか分からにゃにゃにゃいにゃ」
「何でそんなに動揺してるんですかもー!! この思春期マスターやだー!」
静寂な竹林に響く暴れ音。この時、剣士のサーヴァントの聖杯戦争参戦が決定した。
作者である僕のが言うのもなんですが。
こ れ は ひ ど い!!
本当、何やってるんでしょうね。英霊の座。