Fate×Gate = Gate Order = 作:No.20_Blaz
ぶっちゃけ中身は短編のままです。
ですが、最後のほうはかなり弄って増量していますのでご安心を。
いわば追加場面って奴ですね。ハイ。
そんなワケで書くこともないので、プロローグをお楽しみください!
いつものこと。いつもの通り。いつもの如く。
斯くして、人類史と人類の存亡をかけた戦い、聖杯戦争の連戦。
人類史の歪である特異点を修正する、遥か永きに渡る旅
彼らはそれをこう呼ぶ
―――聖杯探索『グランドオーダー』と
◇
―――本当にいつもの事だった。
たった一人のマスターである青年、蒼夜は今回またドクターロマンから新たな特異点が見つかったという報告を聞き、相棒であり後輩であるマシュ・キリエライトと共にその特異点へと向かい、修正を行うため旅立とうとしていた。
数多の時代から呼び寄せられた英霊たちと共に、各時代の英霊たちと戦う儀式、聖杯戦争を生き残るため。
そして、その聖杯戦争の
なのに………
「―――今回の特異点は実に不思議でね。場所は現代の日本の首都、東京。その中にある銀座…なのは確かなんだけど、どうにも銀座に聖杯があるってワケでもなさそうなんだ。
こっちでも調査は続けるけど、何が起こるのか。何が起こっているのかは現状何一つとしてわかっちゃいない。いつもの事だけど、そこは気を付けて。
今回も事前情報が何もないレイシフトだ。けど、現代ってことだし過去の特異点よりかはマシなんじゃないかな?
うまく人の世を利用して情報入手に努めてくれ。それじゃ!」
…なーんてことを、ご存じ我らがドクターロマンが言い出したので、一抹の不安しか残っていなかった蒼夜たち一行。
その所為で、今回も案の定…否、今回はそれ以上に大変な目にあってしまっていたことを、またも毎度ながら通信状態が不安定なことでロマンたちカルデア側は遅く知ることとなる
◇
ふと。暗闇に暗転していた意識に感覚が着き始める。
触覚、嗅覚、聴覚。大部分の感覚が僅か数秒の間に回復し、神経が全身へと行き渡り始めた。
未だ視覚は戻り切っていないのか、目蓋を開けることにも少し苦労する。それに思考も殆ど動かず、何がどうなっているのかという混乱状態に近く、止まっていた感覚は少しずつだが復旧した神経感覚を頼りに情報を集めてくる。
「――――――。」
触覚。
全身の殆どが冷たく感じているが、一か所だけ妙に暖かい。場所は腹部。まるで、腹の中に暖かい食べ物を今し方流し込んだかのような暖かさだが、食べたときのような熱さはなく、ほんのりと柔らかさのあるゴツさという矛盾した感覚が感じられる。
嗅覚。
都市部のように鉄と少しのガソリン臭のある匂いなどではない。
優しくもどこか厳しい香り。例えるのならそう、木々が並んでいるところだ。
そして聴覚。
音はいくつかに分けられている。
一つは地面の草や枯葉が勢いよく飛ばされている音。
そして、それを蹴っている音。いや、それは足音だ。重く、しっかりと地面に足をつけ、それを勢いよく蹴り飛ばして駆け抜ける四つの足。人とは違う呼吸をしながら今も駆け続けているのは、恐らく一つだけ。
その生き物の背に跨り、手綱を持つものは今も定期的な呼吸を続けている。
駆け抜けていく風と、疾走する生き物。腹部からの感覚は誰かに抱えられている。
失っていた意識が、少しずつ動き出してくる頭の中と共に覚醒していき、全ての感覚と状況の把握ができた瞬間、彼の目蓋はゆっくりと開かれ、そこから光があふれ出した―――
「ッ――――――ぶはっ!?!?」
刹那。まるで水の中に溺れていたかのように苦しかった呼吸から解放され、蒼夜は閉じていた口を開き、新鮮な空気を目一杯吸い込んでいく。口を僅かに開けていたというのに呼吸が止まっていた彼の体内にはようやく空気が送られてきて、それを糧に思考と筋肉を再始動させた。
なにがどうして、どうなっている。ココにどこだ。俺はどうして。
頭の中で沸き上がる疑問に、また頭の中が混乱しそうになるが、それを今まで自分を担いでいた男が声を出して呼びかけた。
「おう、坊主! 気が付いたかッ!!」
「ッ……ライダー!?」
赤い髪と髭をしたマントを羽織る大男。サーヴァントクラス・ライダーの英霊は今まさに手綱を持ちつつもマスターである彼をかかえて愛馬を疾走させている最中だった。
走っていて声が聞こえにくくなってしまうというのに、彼の声は大きく、ハッキリと聞こえ善機能が回復するまえの頭に響いていく。そのお陰か、頭の中では今までの情報が呼び起こされていき、蒼夜は自分の状態を把握していく。
「俺は……いや……!?」
「話は後だ。今はしっかり掴まっとけッ!!!」
「えっ…?!」
気絶していて気づかなかったのか、蒼夜は地面を見ると、彼の愛馬が疾走しているので地面がルームランナーのように激しく後ろへと下がっている。厳密には彼らが前に進んでいるだけなのだが、宙ぶらりんの状態の彼には最初にそう見えてしまう。
「嘘っ…」
「先輩ッ!! そのままジッとしていてくださいッ!!」
「えっ…マシュッ!?」
混乱する彼に、動かないようにと呼びかけたのはライダーの後ろに座る一人のマシュだ。特異点の世界で着用する礼装の鎧をまとっており、現在は武器である盾はないが、その姿だけで彼に警戒心を持たせてくれる。
彼女の後ろには本来、馬に乗ることは不可能な三人目も乗っており、彼女の黒や紺色といった暗い目とは真逆の白拍子を着た少女のサーヴァントが座っていた。
薄い水色の髪を風になびかせ、心配そうな目でこちらを見るのは、その見た目と反したバーサーカーのクラスである清姫だ。
「マスター、今は彼女の言うことを聞いてジッとして下さい」
「清姫……っていうか俺、今抱えられてる!?」
ライダーに抱えられ、サーヴァント三人を乗せた彼の愛馬は現在、森の中を激走していた。一体どうしてこうなっているのかと、中から沸き上がって思い出してくる情報に頭を痛めながらも、記憶を手繰り寄せていく。だが、覚醒して間もないということでまだ本調子ではない彼を見て、もしかしてと察したマシュは、彼に分かるように簡潔な状況説明と言う名の現状の報告を叫んだ。
「今、私たちはドラゴンに追われているんですよ!!」
「ッ―――――!!」
マシュの言葉にようやく全てを把握した蒼夜。そして、その言葉に従って彼は首を後ろに向かせて顔を青空のある天へと見上げた。
突発的なエンカウントだった。
こちらに来てから、情報の一切が分からなかった彼らは一先ずは人里をと歩き出していた。
歩いて数時間。やっと見つけた村だったが、そこで思いもよらぬ出来事に遭遇してしまう。
言語が違うことに四苦八苦していた彼らは、突如制空権を取るように現れたドラゴンによる急襲を受けてしまう。既にオルレアンでの出来事を経験してドラゴンやワイバーンには慣れていたが、それとは違う「これぞドラゴン」というドラゴンが現れたのだ。
言葉が分からず、状況がつかめない彼らを棄てて、村人たちは襲って来たドラゴンと交戦。しかし武器がたった弓だけということから、戦力差は圧倒的だった。
その状況に見てはいられないと思った彼らは言葉が分からない事を承知で参戦。ドラゴン撃退戦を繰り広げる。
(そうだ……俺たちはドラゴンと戦って……それで……)
予想以上のしぶとさを持つドラゴンに、ついには村が全滅。それでも生き残っていた彼らは、あの世で呪われることを覚悟にして撤退していたと
「ッ………!! ライダー、他のみんなは!?」
「今、あのドラゴンの注意をお前から逸らすためにそこらを走っておる。なにせ、マスターであるお前が、途中で気絶してしまったんだからな」
「あっ………!」
―――そうだ。そういえば、俺は気を失っていたんだ。
呼び起こされた記憶に、ようやく辻褄があった蒼夜は脳裏で自分が覚えている最後の出来事を再生する。
ドラゴンと交戦していた蒼夜たちは一組の親子を助けるために守りに行った。だが、彼のサーヴァントたちではドラゴンと戦うだけで間に合わず、最終的に彼自身が父親と思われる人物に引っ張られていた少女を助けたのだ。
直後、彼ら三人に向かいドラゴンの尻尾の大鞭が飛ばされた。
彼女の父親は何処かに飛ばされてしまい、辛うじて守れた少女は蒼夜と共に飛ばされたが、当たり所が幸いしたのか一人井戸の奥底へ。
そして守った当人は井戸の淵に頭をぶつけて意識を失ったのだ。
「そうだ……俺たちは…………」
「感傷に浸るのは後にしろ。今はこの場を切り抜けることだけを考えい!!」
ライダーの檄に危うく自責の念に押しつぶされそうになった蒼夜は、辛うじて耐えきり、彼の言葉通り現状打破を優先する。
「くっ………!」
後ろには一体の巨大なドラゴンが、自分たちを追いかけて飛んでいる。赤い鱗を全身に纏い、ワイバーンのような手がないものではない。どちらかと言えばファヴニールのような手足のあるタイプで、短い脚は宙に浮いて、尖った爪を持った腕が伸びている。またそれとは別に羽にも爪のようなものがあり、その見た目から凶悪さも感じられた。
鋭い瞳は確実に彼らをロックオンしており、今にも口の中から紅蓮の業火を吐き出しそうな状態のまま追い続けていた。
だが、四方八方で攻撃されたりするドラゴンはなかなか彼らに意識を向けきることは出来ず、もどかしい状態のまま森での追走劇を繰り広げていた。
「なんとかランサーさんたちがこちらへの攻撃を防いでいるようですね」
「足に関してはサーヴァントの中でも群を抜いておるからな。連れてきて正解だったわい」
「それ俺のセリフ…でもないか…」
いつドラゴンの炎に焼かれるか分からないまま、デットチェイスを繰り広げていたが、手綱をもって馬を走らせていたライダーが、再び声を上げた。
「ッ…!! 森を抜けるぞ!!」
「なっ…!?」
次の瞬間、正面に向き直った時には既に遅く、彼の目の前には広い平原が広がっていた。
ライダーたちは止まることもなく駆け抜けて行き、平原へと飛び出したことで、今までは辛うじてと思っていた事が、森に置いて行かれてしまう。障害物などが多い森ではなく、だだっ広く遮蔽物が殆ど無い平原ではと、高まった危険性、襲われる可能性に汗を滲ませる。
「ッ…他の三人は!?」
「もう直ぐ…!!」
近づいて来る他の仲間サーヴァントの反応に早く来てくれと願いながらも、抱えられて逃げ続ける。このまま彼我の距離が詰められては、恐らく相手のドラゴンの思うつぼ、完全に向こうが有利になってしまう。
しかし次の瞬間、清姫は肌でなにかを感じ取ったのか、躊躇することなく声を荒げる。
「ッ…マスター、攻撃が来ますッ!!」
「何っ!?」
「この距離でですか?!」
ドラゴンとライダーたちの距離はざっと二百から三百メートル。これは先ほどの人里の森の木々の高さから取られた距離で、恐らく今まで詰めなかったのはドラゴンにとってそれだけの間は目で捉えられたからだろう。
遮蔽物が無くなった今、距離をつめておけば接近戦や他の攻撃は容易に当たる。だがドラゴンはあえてそれを選ばず、今までできなかった事を今行うつもりだ。
「しかし、今の状態で攻撃なんて…」
「竜の類となるなら、攻撃の方法は一つしかあるまいて……!」
離れた距離から攻撃する方法。それは、誰が考えても一つだけだ。
ドラゴンの口からは少しずつだが熱が漏れ出し、そこには赤く燃え上がった物が見えてくる。高温を肌で感じた蒼夜たちは、確実にその攻撃が来ることを確信した。
「ヤツの炎が来るぞッ!!!」
「守りますッ…!」
もはや直接戦闘は避けられない。戦う事を決めた彼らは、せめて炎の攻撃が来る前にと防御態勢に入る。とはいっても守りに使えるのはマシュの盾だけなので、彼女が降りて守りの体勢に入るという順序しかできない。馬に騎乗するライダーは仮に直ぐ馬を戻せたとしても、マシュとの若干の距離が置かれてしまい、その場合、確実にライダーたちが落とされる可能性も高くなってしまう。
「ッ…ダメだ、マシュ! それじゃあ確実にどっちかがやられる!!」
「…ですがッ…!!」
このままでは炎が吐かれてしまい、全員お陀仏になってしまう。しかし、現状で全員を守り切れる方法はほぼゼロに等しい。宝具も現在、魔力量から使う事はできない。
だからといって自分とマスターだけが助かるというのもマシュの精神に反してしまう。
このままではどの道誰かが落とされてしまうのだ。
万事休すかと思われた、その刹那。
「―――どこ見てやがる」
「――――――!!」
ドラゴンの後ろに、今まで気配を消していたランサーが、朱い槍を構えて姿を現した。
穿つは
朱き槍は、真っ直ぐとドラゴンを獲りに行った。
◇
―――視点を移そう。
蒼夜たち一行が村を脱出してドラゴンとの追走劇を繰り広げていた間、村の方には入れ替わりである者たちが、調査に訪れていた。
後に「緑の人」と呼ばれる、日本の自衛隊だ。彼らもドラゴンの襲撃を目の当たりにして、調査に来ていたのだか、その時には既に蒼夜たちはドラゴンとのチェイスを始めており、ほぼ入れ替わりだった。
彼らは廃墟となった村を調査し、村人のほほ全滅を確認。しかしただ一人の生存者が居たということでその少女を回収して、一旦近くにあったもう一つの村へと撤収、自体説明をする。
そのドラゴンが危険であるということから村人と共に、駐屯地へと帰還していた。
「結局、アレって何だったんですかね?」
「さぁな。少なくとも、ありゃ俺たちが首を突っ込むことじゃない」
整地されていない道をゴトゴトと揺られながら、先頭を進む自衛隊の車両。それを運転する隊員の倉田は、焼かれた村でのことに未練でもあったのか、ハンドルを握りながらぼやいていた。
しかし、その横の助手席で手で頬をつく男、伊丹耀司はあまり思い詰めるなと言うように気遣った言葉で返す。そもそも、彼らの目的は人命救助が主ではなく、実際言えば本来は二の次のことではあったが、現在はある理由からそれが最優先に変わっていた。
まず、彼らが何故、こんな所に居るのか。大よその詳細は省くが、事の始まりは少し前にさかのぼる。
ある日、彼らの住む世界に、突如謎の物体が銀座に姿を現した。
それは
そこから突如として押し寄せて来た謎の軍団。彼らは門の向こう側にある世界の国家「帝国」の軍勢だった。
当時、急襲を受けた銀座は大パニックとなり、多くの死傷者が出てしまった。
しかし「とある理由」から偶然居合わせた伊丹は、その場の指揮を執って多くの市民を守った。これが、後に今へと繋がる、始まりの事件だった。
その後、日本は門の向こう側に自衛隊を派遣することを決定。当然、多くの組織、国家からの陰謀、野心などもあったが、自衛隊は無事に向こう側の世界「特地」へと向かう事に成功。
そして、伊丹は現地での地理などの調査、そして可能ならば現地民との関係を築き、情報を得ることを目的に第三偵察隊の隊長に任命(された)。
斯くして、近くの村で最初の邂逅と交流を果たした彼らと、一度自衛隊の駐屯地へと戻るのだった。
「どの道、今はコダ村の人たちを安全な場所まで送る。それが俺たちの任務だ。焼かれた村の詳しい調査は、また次でも大丈夫だろ」
「…そうですね。今は、仕事仕事っと…」
「………。」
とは言ったものの。伊丹自身もあの村での出来事や惨状に気にならないワケはなかった。
突如現れたドラゴン。焼かれた村とその人たち。たった一人の生存者。
そして。
(後から…いや、恐らくは
これがまさか、自分も一度は聞いたことのある大英雄の愛馬の足跡だというのは、当人が知ることは後になる。しかし、今は自分で言った通り、近くの村の住人をドラゴンの居る場所から安全に逃がすことが、彼らにとって最重要事項だ。
(…この場合だと、帝国の可能性が大か。つっても、危険なんだし………ま。後でじっくりと調べりゃいいってね)
取りあえずはと頭の隅にその事を置いた伊丹は、後ろから付いて来る村人たちの馬車を誘導するために速度を落とし、ピクニック気分のような帰還を内心で楽しもうかと思っていた、が。
「………で。まだ座るの?」
「………。」
現在、彼の助手席と倉田の運転席で助手席よりに一人の少女が座っている。当然、同じ小隊の面々ではなく、彼らとは別に現地、というよりも今し方出会ったゴスロリ服の少女で、未だ完全には分かり切っていない特地での言語だが、村人たちの反応から、かなり名のある、それも敬われている人物であるのは確かだ。
尚、現在伊丹たちの車両には村の住人の他に一人、女性士官である黒川という人物が後部に座っている。時折、彼女からの視線を感じながら、地味に胃に穴が空きそうな彼は正面を見続けるしか選択肢は残されていなかった。
「このゴスロリ服の子…一体何者なんだ…?」
もう少し言葉が理解できれば、彼女のことも知る事が出来るだろう。ここに来て自然とできた必須条件に、伊丹は自然とそうしなければという感覚を持っていた。
すると。彼の視界にあった車のサイドミラーにあるものが映り込む。
それは帝国が使っていたのと似ているワイバーンだった。
最初は追手か何かだと思っていたが、背に誰も乗せていないことから野生なのは明らか。
だが。問題はその次。ワイバーンの後に現れた「捕食者」だった。
「ッ…!! 戦闘用意ッ!!」
「えっ!?」
「何かあったんですか?!」
突然戦闘準備を命じた彼に、なにがあったのかと訊ねる黒川。彼女の目線からでは捕食者の姿は見えなかったようで、彼女の場合は鳴き声でそれを把握した。
「ッ…何っ!?」
「ドラゴンだよ、ドラゴンッ!!」
「うえっ!! マジだ!!?」
後ろから現れた赤いドラゴン。それは先ほど、別の場所で蒼夜たちと追走劇を繰り広げていたドラゴンで、その姿と鳴き声を聞いた瞬間、後ろに居た馬車に乗る村人たちはひどく驚き、叫んでいた。
「あれは…!?」
「え、炎龍……! 本物の炎龍じゃ!!」
炎龍と呼ばれたドラゴンから逃げるワイバーンは、最期には腹から尖った牙で噛みつかれてしまい、一瞬にして真っ二つになってしまう。
捕食というよりも駆除といったほうが正しいようなアッサリさとした振る舞いは、特地での自然の摂理を見せつけるには十分な光景だ。
そこから炎龍は、続けざまに喉の奥から炎を吐き、近くにいた馬車や人々を手あたり次第に焼き始める。
「マジで出て来たのかよ!?」
「しかもブレス吐いてますよ!?」
未だ自分たちが距離を取って狙われていないからか、率直な感想を述べていた二人だが、当然そんなことで高みの見物をするという馬鹿な真似をする気はない。伊丹の指示通り、馬車の護衛を行っていた自衛隊の車両三台が、炎龍と交戦し村人たちを守るべく応戦に映る。
「本物の炎龍は初めてじゃ…!」
「………。」
その中を魔法を使い、重量過多になった馬車に乗って逃げる魔導師の師弟は後ろから追ってくる炎龍から逃げつつも、その姿を目に焼き付ける。猛々しい姿は、二人を消し炭に変えようとしつこく追ってくるが、魔導師である二人は得意の魔法を使い、逃げることに一心になる。
(…師匠は言っていた。炎龍には活動と休眠のサイクルがある。なのに、それが五十年も早く…)
その馬車を操る少女は逃げつつも追ってくる炎龍を時々横目で見ながら、別のことを考えていた。しかし今は逃げることで精一杯で、深く思考するには自体は逃げを選択させていた。
(…活動が早まった…?)
「怪獣と戦うのは自衛隊の伝統だけどよ…!!」
「それって俺ら全滅するみたいな言い方なんでやめてくださいッ!!?」
入れ替わりで伊丹たち自衛隊の車両隊が前に出て、狙いを村人たちの馬車から自分たちに変更させる。遠くへと逃げる馬車よりも、目の前で動き回っている車に注意がむいたドラゴンは、生意気とばかりに咆哮を上げて、彼らの車両を鉄くずに変える機会をうかがう。
伊丹たちも黙ってそれを待つ気はなく、装備の64式小銃で足止めを始めた。
「ッ…12.7mmでも効かないって!?」
「牽制だ! ダメージが見込めなくてもいい!!」
帝国の保有する小型の翼竜には効果があった重機関銃も、体格や能力が全て上回っている炎龍にとってはかすり傷にもならない。だが、それでも撃たないより、他に気が向けられるよりはマシだと、小銃の部品が崩れることを承知でひっきりなしに撃ち続ける。
炎龍も小銃程度の攻撃には最初は特に反応していなかったが、続けて攻撃を受けて嫌気がさしてきたのか、目を彼らに向けて再び喉の奥へと炎を集める。
「……!! ブレス、来るぞッ!!」
炎龍の口から吐かれた業火は勢いよく彼らの車両へと襲い掛かる。だが馬などとは違い、それ以上の速度を叩き出せる車両に当たることはなく、炎は辛うじてほぼ真横へと叩きつけられた。
真横の死の恐怖に必死にハンドルを握り、回避する各車両の運転手たち。横目だが、サイドミラーには土が焼け焦げて煙を舞い上げていた。
あんな攻撃を受ければ自分たちはこんがりとしたローストになってしまう。運転席で息を飲んだ倉田はそんな恐怖に抑圧されながらも、死にたくない一心でハンドルを握り炎龍に接近する。
「あんなの喰らったら終わりっスよ!! 俺たちローストになってしまいますッ!!」
「クッ………」
そんなことは分かっていると心の奥で叫びたい伊丹だが、正直現状を打破する方法が見当たらない。一応、他に残された武器として対戦車榴弾、所謂ロケットランチャーを持っているが、威力は見込めても何処に当てればいいのか分からない。
定石なら頭部ないし、足に当てるのがセオリーだが、頭の場合は頭蓋骨などの硬さで、それほどのダメージがあるとは思えない。足も当てればダメージもあるし、相手の姿勢を崩せるが、それがかえって炎龍の攻撃を増やすことになりかねない。
ならばいっそ、口の中ならどうだと思うが、それはそれで発射までの時間とブレスが吐かれるまで間隔から考えて針に糸を通すぐらいの難しさだ。
「クソッ…! どうすりゃ…!!?」
万事休すか、手立てのない状況に伊丹は思考をフル回転させた。このまま全員が生き残れる方法は。何か、手はないのか。
今か今かと狙いを定める炎龍の目に、軽く恨みを持った瞬間
彼らの前に一つの希望が舞い込んだ。
「ッ!! おーのッ!!」
「えっ!?」
後ろから聞きなれない声が聞こえ、誰が言っているのかと思った時に答えは姿を見せた。体温を確保するために毛布に包まれていたエルフの少女が、起き上がり、彼に向かいなにかを訴えかけていたのだ。
まだ言葉の理解ができていない伊丹は最初はどういう意味かと思っていたが、途中からそれを察したのかエルフの少女は自分の瞳に白い指をさした。
「いつの間に……」
同じことを二度繰り返す。同じ行動がもう一度、彼の目の前で行われる。金髪の髪を揺らし、自分の瞳に指をさした状態で叫ぶその姿に、ようやく気が付いた彼はもう一度窓の外から炎龍の顔を拝みに行く。
もし彼女のジェスチャーが正しければ、それがもし本当なら。
「ッ……!!」
逆転の手はあった。
少女のジェスチャーは「目」という意味。
つまり。いくら鱗で硬い炎龍、ドラゴンでも瞳まで硬い理由がない。現にもう一度炎龍の顔を見た時には、気づいてても気付けなかった
恐らく、エルフたちが応戦した際にたった一度だけ与えられた致命傷。それが彼らにこの場を変える手段に変わってくれた。
「全員、目を狙えッ!!!」
隊長からの命令にどういう意味かと思うこと瞬間があったが、他の面々もその言葉と炎龍の頭部を見て直ぐに納得する。
炎龍の頭部、その左目には真新しい傷と共に一本の矢が刺さっていた。
矢じりの強度でも刺さる目の柔らかさ。それが現状で炎龍にダメージを与えられる方法だ。
重機関銃が火を噴き、小銃が真っ直ぐと、今度は炎龍の頭部に向かって行く。
今度は当てるだけじゃない。ダメージを与えるための攻撃だ。
照準を合わせ、狙いを頭部の黄色い目へと向けて銃弾の雨を当てていく。その攻撃が瞳の周りまで近づいた刹那、少しずつ効果が表れダメージがあったのか、子どもが嫌がるように炎龍が両腕で銃弾から頭を守り始める。首を振るい、少しでも銃弾から頭を守ろうとするが、銃撃の雨は狙いを変えず、目標を目に集中させていく。
次第に、炎龍の動きは目への銃撃で止まり始め、足は完全に固定。頭部も直撃を避けたいのか下がってしまう。
しかしそれで充分。
「足が止まったッ!!」
「勝本ッ!!」
伊丹は隊員の勝本に本命の一撃である対戦車榴弾を使わせ、トドメを討たせる。いくら炎龍といえどこれをノーダメージなわけがないと、照準を再び頭部へと向け、最後の一撃を与えようとしたが。
「ッ…!! おっと。後方確認っと…」
ご丁寧に後方の安全確認をした彼は、間髪入れずに隊員たちから無線通信で突っ込みをいれられてしまう。別に後方に誰が居るわけでもないのだが、どうにもそれが身に染みていたせいで、確認を行ってしまったようだ。
これが災いし、自分たちが最大のチャンスを逃したと、気づいたのはその僅か数秒後だ。
「ッッ…!! 勝本ッ!!」
「えっ!?」
今度隊長ではない、壮年の隊員である桑原からの声に思わず正面を振り返った。
なんと、炎龍が最後のあがきとばかりに、自分のしっぽを地面へと叩きつけて地響きを起こしたのだ。
「うわっ!?」
「何ぃっ?!」
足を止められて
幸い、振られた尻尾は地面に叩きつけられただけで、勝本と彼が持つ対戦車榴弾も落とされることはなかった。だが、もう一度照準を合わせて攻撃するという工程がもう一度やり直しとなり、炎龍の怯みも、その瞬間に解けてしまった。
「マズッ…!!」
もう攻撃が襲ってこない。相手からの反撃が途絶えたとばかりに息を吹き返した炎龍は、今までのお返しとばかりに喉に炎を集める。
「勝本ッ、今ならまだ間に合う! 安全確認は後にして、早く撃てッ!!」
無線越しに叫んだ伊丹だが、正面に居た炎龍は既に炎の集束を終えて、今まさにその業火を吐き出させてようとしていた。
今度こそ終わった。伊丹の脳内では、既にゲームオーバーの如く、失敗のBGMが流れようとしていた。
「――――――ほう。矢張り、目が弱点か」
ポツリと呟いた
刹那。
炎龍は二度目の左目への攻撃を食らい、悲鳴ともいえる咆哮を炎の代わりに吐き出した。
「なっ…!?」
「ッ………!?」
突如叫び出した炎龍に一体何が起こったのかと、車両に乗る全員が戸惑っていたが、彼らを置いていくように、事態は次々と新たな乱入者を投入する。
「なら。残った目玉も潰しとくかね」
呆気に取られていた彼らの車両の後ろから、新たな人影が姿を現す。それは真っ直ぐと炎龍に向かい飛んでいき、獣の如く敏捷な足は止まることはなかった。
手には一本の槍を携え、狼や猟犬の如く爛々と光る眼は獲物たるドラゴンを捉えている。
後ろに束ねた髪を揺らし、蒼いタイツを纏った男は常人とは思えない足の速さで炎龍へと襲い掛かる。
「ッ!? 人ッ…!?」
「………!」
ようやく激痛がマシになったのか、炎龍は何が起こったのかと混乱しつつも正面へと向くが、そこには既に二撃の攻撃が飛び上がっており、朱い槍を持った男がその巨体を物ともせずに、弱点たる残りの目を潰すために槍を振るい、穿った。
咄嗟の恐怖に炎龍も怯えたのか、逃げるように顔を振るった所為で残る右目は槍の反対側へと消えて行ってしまう。代わりに現れたのは灰色になってしまった左目で、そこへと槍は更に刺さることなく、僅かにその近くの肌を掠り取るだけだった。
「チッ…!!」
そのままの勢いで背後を取り、地面へと着地した槍兵の男は、反転して炎龍の背後を視界に捉える。
そして目的の右目を獲れなかったことに苛立ち、一人愚痴を吐き出していた。
「コイツ、右目を隠しやがって…オマケに左目も取り損ねたじゃねぇか!」
『貴様の槍が甘かっただけだ。相変わらず詰めが甘いのだよ、ランサー』
「黙っとけ、似非弓兵がッ…」
「嘘ッ…槍もって…!?」
「ドラゴンの目、獲りに行ったぞ…」
「すげぇ…」
一瞬の出来事だが、その超人的な現象に驚いていた伊丹たち。だが、炎龍は一方的な攻撃を受けて怒りが爆発したのか、今度は彼らではなく、突如奇襲してきたランサーに向かい、顔を振り向かせ、炎を吐こうとする。
「ッ…マズイ!!」
「あのままじゃあの人がやられるッ!!」
「火炎ねぇ…いいぜ。面白いじゃねぇか…!!」
だが伊丹たちの反応とは裏腹に、ランサーはにやけた顔のまま再接近を試みる。どうせ彼の得物は手に持つ槍だけなので、接近するしか方法がない。だが、火炎攻撃が吐かれるというのに接近するのは、現代の伊丹たちにとっては正気なのかと疑うことだ。
「嘘っ!?」
「本気で死ぬ気ですか、あのタイツ!?」
ロケットダッシュで地面を強く蹴り、炎龍に向かい再び接近する。
もう一度、右目を獲ろうと突貫するランサーだが、それを遮るかのように弓兵からの念話が飛んでくる。
『っ…!! 貴様の後ろに人が居るッ!!』
「なっ…!?」
流石に自分の運がないとは自負していたが、それが自分だけでなくどこぞの人間にもあったとはと、一瞬だが後ろへとふり向くと、確かに逃げ遅れた姉と息子らしき二人が今から逃げ出そうとしていた。
当然、もう直ぐ炎龍の業火が吐かれるので、ランサーが避けられたとしても、射程距離的に姉弟共々、焼かれてしまう。
今更助けることも、助ける気もないランサーは舌打ちをして叫んだ。
「嬢ちゃん、後ろの任せたッ!!!」
刹那。それと同時に炎龍の業火が吐かれ、ランサーへと襲い掛かるが、正面からの攻撃というだけあって容易に跳んで避けたランサーは得物の槍を穿ちから放ち、すなわち投擲の構えに変えて攻撃のための魔力を充填する。
一方で吐かれた業火はそのまま止まることなく、後ろの二人へと襲い掛かる。そのままいけば焼死体が出来上がってしまうと思ったが、そこにもまた次なる乱入者が現れる。
白い服、銀色の鎧をまとい、金色の髪をなびかせる少女は、ランサーほどではないが到底人間とは思えない足で二人をかかえて業火から跳んで回避した。
「隊長ッ!! 今度は金髪、白騎士ッス!!!」
「嘘だろ!?」
(どっちについてだか…)
「…大丈夫ですか?」
「へっ…?」
突然死を覚悟していたというのに今度は宙を舞っていることに呆気に取られていた姉弟。それをしてくれたのは他でもない、白いドレスのような服と鎧をまとった少女のお陰だった。言葉は分からないが、気遣ってくれているというのは彼女の表情から察することができた、二人は大丈夫だという返事として首を縦に頷かせる。
柔和な笑顔で問いの返事を聞いた『セイバー』は出来るだけ遠くにと思い、もう二回はジャンプして離れた距離に彼らをおくことにした。
『セイバー。二人を安全圏に置いて、直ぐに援護に回ってくれ。ランサーだけでは到底信用できん』
『オイ、テメェ今なんつった、この弓兵風情ッ!!』
『アハハハハハ…お二人とも……』
「流石異世界……あんなの本当に居るとは…」
「…いや。多分…」
若干の余裕ができたからか、双眼鏡で村人たちの方を見る伊丹。被害が他に出ていないかという確認もあったが、本心では彼ら対する反応を確認したかったのだ。
もし彼らが知る人物であれば歓声の一つでも沸き上がりそうだが、現れてからは呆気に取られており、「あれは一体誰なんだ」という状態だった。
「それに。一瞬だけど、あの青タイツ、日本語らしき言葉言ってた気がする」
「ッ…日本人って事ですか?」
「いや…それにしちゃ人種が違い過ぎる。多分、欧州圏の人間じゃないか?」
「チッ…ならばッ………!!」
紅蓮の魔力の炎を纏った一撃。これならどうかと、ランサーは炎龍の頭に狙いを定める。
即死性の効果はないが、直接的ダメージと範囲は見込める攻撃だ。加えて、その一撃は現状の炎龍では絶対に防御は出来ても大ダメージは免れない。
「この一撃…手向けとして受け取れよ……!!」
「えっ…ちょっとランサーさん!?」
「あの馬鹿ッ…!!」
それは、ランサーが持つ、真名の宝具
刃に触れたものを死に至らしめるその一撃の名は―――
「
「いや、そんな所で宝具穿つなよ!!!!」
僅かコンマの差で、放たれようとしていた槍の投擲の前にマスターである蒼夜が令呪を使用して強制的に攻撃中止を命じた。
あまりに突然のことだったので、それはその場に居た全員、無論彼の陣営の面々も同じような反応をして驚く。そして、あとわずかなに早ければ投げられた攻撃が、正真正銘直前に止められてしまったランサーは霧散した魔力と共に地面へと落ちるしかなく、着地と同時に蒼夜へと怒声を出した。
「オイ! 止めるってどういうことだよ!?」
すると、炎龍は攻撃が止まって好機とみたのかランサーへ噛みつこうと肉薄。鋭い牙でかみ砕こうとするが、そんなこととばかりに気付いていた彼は、軽々と回避して数歩後ろへと後退する。
「どうもこうも…威力と範囲考えても他が巻き込まれるでしょうが!!」
「あん…?」
食い損ねた炎龍はもう一度とばかりに牙をむき出しにして再接近してくる。どうやら、ランサーは食い殺すと決めたようで、鋭い牙と瞳は確実に彼を捉えていた。
一方のランサーはマスターとの議論に夢中。このままいけば、炎龍に確実に食べられる。そして炎龍はランサーを食い殺せると思われていたが、彼に意識が向いてしまっていたことで、他のことに気が逸れてしまった。
「もう一度ッ!!!」
完全に隙とチャンスを取った伊丹たち。当然逃がす気はなく、今度は失敗しないと確実に狙いを定めて対戦車榴弾のトリガーを引いた。
狙いは当然頭なのだが、発射音に気付いた炎龍が何事かと思って顔と胴体を動かしてしまう。
「それでも…!!」
弾頭が胴体から逸れることはなかった。本命である頭部への直撃はならなかったものの、炎龍の左腕の直撃。構造的に弱かったのか、それとも弾頭の威力が高かったのか。大きな爆発と共に爆煙の中から左腕がもぎ取られ、地面へと叩き落されたのだった。
「おおっ」
「当たった…!」
「対戦車榴弾…パンツァーファウストか」
「ほほう…あれは良い物だのぉ…」
炎龍の腕を落とした攻撃に、それぞれの反応を見せるサーヴァントたち。別に当たってダメージがあるからといって先を越されたという気もなく、大ダメージが与えられ、苦しむ炎龍の姿を見て、それでどうするという顔をしていた。
現状、彼らも相手の一組として加えられているので、まだ襲ってくるのであれば、ランサーにとっては御の字。折角のドラゴン相手なのだ。最期まで楽しみたいというのが本心だ。
だが、今までそんな攻撃を受けた事も、深手を負ったこともなかった炎龍は今までにない壮絶なほどの咆哮を上げ、それが誰からも悲鳴のように聞こえたのは明らか。腕をもがれた炎龍は恐らく、彼らと出会わなければ一生感じる事の無かっただろう激痛と屈辱、そして喪失感を味わっているのだろう。
その結果、炎龍の中にはもはや抵抗する意思はなく、大きく羽を羽ばたかせると最初に現れた時とは違い、逃げるように飛び去って行った。
「…あーあ。逃げちまった」
「逃げちゃいましたね…後で大変なことにならないと良いですけど…」
そういってため息をつくランサーと、心配そうに逃げた炎龍の後ろ姿を眺めて呟くセイバー。どちらも理由は違うが、炎龍を討伐できなかったことに悔やんでおり、また戻ってこないかと考えていた。
斯くして。伊丹たち自衛隊と、蒼夜たちカルデア陣営たちの乱入による炎龍との攻防戦は多くの死傷者と引き換えに炎龍の左目の完全喪失と左腕の損傷という、特地の住人にとっては大きな功績を残したのだった。
―――ただし。
「…悪いけど、少し拘束っていうか…一緒に来てもらうよ?」
当然。完全な第三勢力である蒼夜たちは自衛隊の隊員たちに止められ、彼らの駐屯地に連れていかれることとなった。
「…まぁ…そうなるよなぁ…」
「先輩…」
「うふふふふ…旦那様に銃を向けるなんて………身の程を弁えて下さいな…」
「あーあ。ドラゴン獲り損ねちまった…」
「凄く根に持ってるというか…また見つければいいんですから、そう拗ねないでくださいよランサーさん…」
「ふむ…自衛隊というのも良い物をそろえておる。あれで旧式というなら、是非余が貰いたいわ!」
「………マスター。何なら、俺の言葉を借りてもいいのだが」
「………ああ」
「「………なんでさ………」」
◇
その後。炎龍が去って落ち着きを取り戻した村の住人たちは、自分たちの荷物の確認。けが人の応急治療などを行い、襲撃によって亡くなってしまった者たちをその場であるが弔っていた。
無論、それは蒼夜たちも同席と協力をし、夜にはなったものの無事に死者を全員埋葬する事ができた。
「…先輩」
「…なんだ」
「もし。もしですけど…」
「もう少し、自分たちが早くついていれば…か?」
「ッ………」
「そりゃ確かに死人は減ったかもしれないし、けが人も減っただろうし、あの人たちの荷物も多少は救えたかもしれない。
けど、あくまで…だ。絶対にゼロに出来る。そんな保障…残念だけど、俺には出来ないし、そんな力はない」
「………。」
Ifの話を持ちだしたマシュに、自分たちの非力さを思い出させる蒼夜。現に、かつての特異点でも、その世界の住人たちが死傷者ゼロであったことなど一度もない。戦うのであれば、何かしらの犠牲があるのだと、二人は長い旅の間に経験し、知っていた。
だけど、同時にマシュの思う気持ちがない理由ではない。出来るだけ死人を出さず、けが人を出さず。自分たちだけを犠牲にという精神。
それは、かつて誰かを犠牲にすることで多くを救った、一人の男から教わった言葉だった。
「…相当場数を踏んだようだな」
「ええ。それに、彼らの取り巻きの奴ら…」
未だ警戒心を持つ桑原はその視線をランサーと
特にランサーは炎龍との戦いであれだけの立ち振る舞いをしたのだ。警戒されるのは当然のこと。他の面々もそれぞれの反応や対応の仕方から警戒を持たれていた。
だが伊丹はそんな彼らよりもその元締めである彼と、彼を先輩と呼ぶマシュに興味があったようで、目線も彼ら二人をしっかりと捉えていた。
「…どうします?」
「一応、彼らは俺たちに付いて来てくれると約束してくれた。それに、あの少年の反応からして、俺たちが居ることも予想外だったんだろうに。同時に助け船でもあったらしいけど」
「では。予定通りに?」
「ああ。彼らもアルヌスに連れて行く。狭間陸将にはこっちから何とか言っとくよ」
「了解しました」
年上の桑原に変わらぬ軽い口調で指示を出した伊丹は、その後さてと、と表情と気持ちを一転させて蒼夜たちに近づく。彼らにも今後のことを話しておくべきだと、小銃から手を離して言葉を投げることにした伊丹は、気配に気づいて振り向いた彼とマシュに要件から話していく。
「俺たちは、このままこの世界にある俺たちの駐屯地に帰還する。無論、君たちには同行してもらいたいけど…いいかな?」
「はい。俺たちも今は自分の身を固めることが先決だって思いますので…」
「それに、自衛隊であるなら、信用できない理由もありません」
「…そっか。ありがとうな」
一応は信用してくれているという二人の様子に安堵した伊丹は、一先ず安心して帰路に着けると思い話を打ち切ろうとするが、今なら話せるかと機会を窺い、やっと聞くことができたという顔で訊ねてきたセイバーに今度は質問を返される。
「あのっ…聞いてもよろしいでしょうか」
「ん? なんだい?」
「…村の人たちはどうするんですか」
セイバーからの問いは彼ら自衛隊のような帰る場所のない者たちがこの後どうするのかということだった。生前から人を救う事を目的としてきた彼女にとって、目の前に居る弱き者とは助けねばならない者たちであり、当然、彼女が気にすることは自然的なものだった。
伊丹たち自衛隊も、精神的には人命を可能であれば助けることで若干似たりもしているので、戦う力のない村人たちをどうするべきかと決めあぐねていたそうだが、答えは向こうから現れたのだと言う。
「コダ村の住人の殆どはこのまま近くの村や、親族の所に避難するそうだ。その先をどうするのかは、残念だけど俺たちが首を突っ込むことじゃない」
「………。」
「それに。問題はまだ残ってるからな」
「…それは、どういう?」
マシュからの問いに伊丹は首を動かしてあっちを見てみなと彼らの視線を動かす。彼の刺した先には、数人の子どもと老人、そしてエルフが一人と水色の髪の少女、そしてゴスロリ服の少女が一人という集まりがあった。それには伊丹からではなく、顎に手を置いて考えるような仕草をしていたライダーが代わりに呟いた。
「…身寄りを失った女子供か」
「ああ。このままほっておくワケにもいかないから、こっちで保護するつもりだ。どの道、俺たちのところじゃ預ける村ってのが近くにないし。第一、それでハイ終わりっていうのもね…自衛隊としてどうかと思うからさ」
「…人命尊重は結構だが。自衛隊の基地に難民を置くのはどうかと思うぞ。せめて、彼らの居住区画は分けるべきだと思うがね」
「そりゃね…けど、そこは俺がどうこう言えることじゃないし。自衛隊も……そこまで馬鹿じゃない」
自信ありげに答える伊丹に、アーチャーはふんと息を吐くと肩をすくめて両手を組んだ。
怒ったりはしていないが、その自信に内心では呆れて何も言えなかったのだということを、彼はあとで聞くことになる。
兎も角、伊丹は蒼夜たちのサーヴァントたちを含め全員からの了解を確認すると、隊員たちに向かい指示を出す。
「全員乗車ッ!! これより、アルヌスに帰還するッ!!」
目的地はアルヌス。彼ら、自衛隊がこの世界での本拠地として定めた地だ。
そこに、今回の探索の手がかりがあることを信じ、蒼夜たちも今は静観するべきと彼らに従う。
マスターの指示に、サーヴァントたちも各々の反応を見せ、また始まる戦いや旅に期待を持っていた。
「さて。此度の遠征もまた…存分に心躍りそうだのぉ」
「ま、面白そうなのはいつもの事だ。俺ぁマスターについていくぜ」
「旦那様が生まれ育った世界…私も一度見てみたかったんです。願わくば、そこに新居を…」
「今までとは異なる世界…また新しい旅が始まりそうですね!」
「やれやれ…今回の聖杯探索は、今まで以上に骨が折れそうだな」
「…行きましょう、先輩。今回の聖杯探索に」
「………ああ」
不安がないと言えばウソになる。自衛隊、つまり今回は現代の日本が、そのバックとして存在している。
陰謀、計略、野心。表には出されることはない、裏の思惑が最も張り巡らされる世界だ。
どんな理由で、どういった経緯で、彼らを取り巻く事態が急変するか分からない。それが一体誰の思惑なのか、もしかしたら分からないことだってある筈だ。
それでも、今の彼らにはそれ以外の選択肢は見つからない。
それが最善の方法だと言うが、もしかすれば最悪の決断かもしれない。
自分たちが見落としていただけで、本当は、と。
だが。それでも、決断してしまったことを今更変える気はない。
決めた事を変える気は、彼には微塵もないのだから。
「―――行こうか。俺たちも」
◇
急に人数が増えたことで窮屈になっていた車内。
揺られ揺られて、その中で眠っていた蒼夜たちはやがて窓の向こうから差し込む光に目を開ける。
右隣には清姫が抱き着いているが、うっとおしそうな顔で彼女を引き離すと、未だ眠りから覚めない頭と真っ白な脳内に頭を抱える。
朝焼けの時間。携帯を持っていないので時刻までは解らないが、一先ずは目を開けて周囲の様子を確認する。
車内後部では彼以外にも何人かの避難民たちが眠っており、その中には自衛隊員である黒川も座りながら水飲み鳥のように目を閉じていた。
「―――――。」
みんな疲れて眠ってしまったのだろう。特に今回はドラゴンの急襲というトラブルが発生したので余計にそうであろうが、それ以上に残された子たちも親が急に居なくなったことで精神的な疲れもあったようで、中にはすすり泣きながら寝ていた子も居る。
「………。」
その子の姿を見て、蒼夜はマシュの言葉を、言いたかった言葉を思い出す。
もし。あと少し自分たちが早かったら。
その時、もしかすれば。
今更終わったことだというのに、彼の中には深い後悔の波が押し寄せてくる。
あの時ああしていれば、と自責の念がこみ上げてくる。
このまま後悔と自責に呑まれようとした時
「―――先輩」
「ッ………」
蒼夜の隣でセイバーと一緒に眠っていたマシュが、眠りの邪魔にならない程度の声で呼びかけてくれた。
それはまるで波の中で溺れかけていた自分を助けてくれたかのように暖かく、優しい言葉だった。
「…起きてたんですね」
「ああ…さっき、な」
まだ寝ぼけているのか、瞳はまどろんでいて声にもいつもようなハリがない。起きて全身がまだ動ききっていないのだ。
自分も似たようなものだが、彼の頭は既にある程度は動き始め、運動がてら軽く手の骨を鳴らす。
そろそろ他の面々も起きる時間だろう。朝の日差しで目覚めるだろうその様子を見ながら、蒼夜は顔を車の正面に向ける。
景色は山一色だが、なにか近づいているという感覚はあり、目的地には近づいていたように感じている。
あとはそろそろ他も起きるだろうと目を向けていたが
「―――先輩」
「なんだ…?」
「………大丈夫、ですよ」
「………え」
「私が…ついてますから…」
その一言。唐突に言われた、そのたった一言に、蒼夜はなにか救われたように思えた。
「――――マシュ…」
「みんな…ついてますから…」
「―――。」
「………。ふぁっ………」
助手席では仮眠をとっていた伊丹が欠伸をして体を伸ばす。隣では隊長が起きたことを確認した倉田が一瞬だが目を向ける。
欠伸をして眠気を飛ばした伊丹は、目の前の景色と見えて来たものにぽつりと呟いて、胸に着けられた無線機を使う。
「さてと……各車両。そろそろアルヌスに到着する。仮眠をとっているヤツをそろそろ起こしておけ」
『サンフタ了解』
「おはようございます、隊長」
「おはよ。何時間寝てた?」
「こっちの時計だと…六時間ってところですかね」
「健康的な睡眠時間だな」
眠気を飛ばすために他にも両手を合わせて前に伸ばすと、伊丹はルームミラーで車内の様子を確認しつつ後ろの方に鏡を向ける。
後ろには軽装甲車と通常の車両が列を組み、その後ろには残った馬車が付いて来ていた。向こうと速度を合わせるので本来はもう少し早く昨日の深夜には戻っていただろう。
だが帰ったら帰ったで色々と面倒事になるのは必須だと思った彼は、のんびりと帰りながら睡眠を取れたことに内心感謝していた。
「あの子たち、大人しくしてた?」
「ええ。他の娘も同様、眠ってましたよ」
「…そっか。なら、大丈夫かな」
すると。彼らの前に、目的地であるアルヌスが少しずつだが姿を見せてくる。
そこが自衛隊の駐屯地。異世界での彼らの前線基地であり、後に帝国との関係で重要な役割を担う場所だ。
「…先輩」
「…ああ。いよいよだ」
そこが、全ての始まりの地。そして蒼夜たちにとっても重要な場所だ。
二つの世界をつなぐ門。それが置かれた地は、今や自衛隊によって防衛陣地と化していた。
五稜郭の如く六芒星の形をした基地は全面コンクリートの防壁に守られている。
中世の世界に突如として現れた近代的な基地は、言えば異様そして見れば恐らく、特地の人間は不思議がり不安になるだろう。
それだけの技術を持つ者たちが現れたのだと。
蒼夜にとって、それは見慣れた世界。だが、今この世界に居るとどこか他人のようにも感じる。
異世界の中に作られた近代の基地。それが建てられている場所が
門が建てられし場所、アルヌスだ―――
オマケというか疑問というか。
GATEで「さんひと」「さんふた」って言いますけど、アレってカタカナであってるんですかね?
一応今回はカタカナにしていますが、多分後から変わる…かもしれないです。