Fate×Gate = Gate Order = 作:No.20_Blaz
いやぁ……リアルで色々と忙しかったり課題で死に掛けたり、なんか授業出たのが俺一人だったり、DDともふもふしてたり動物拉致してたり、人間拉致してたら遅れました。
……え? 後半違うだろって?
…………サテ、ナンノコトデゴザイマショウカ
皆さんお待ちかねの参考人招致の第二回。
今回はロウリィと蒼夜メインです。そして、次回からいよいよカルデア面子との真っ向勝負となります。
……個人的には嘉納さん(伊丹が閣下と呼んでた人)との審議をやりたいですけど、あれって立場上無理っぽいですよね……ま、その辺はいずれ。
それでは、今回もお楽しみください。
・追記
今回、後半から少し三点リーダーの数を増やしています。
前半と違うので若干読みにくいと思いますが、ご了承を。
……別に、手を抜いたわけではないんです。
いや、マジで。
世の中は、言ってしまえば嘘で成り立っている。
真実というが、それが果たして真実であるのかと疑い、その先で果てしない真偽を問うしかない。
「それが真実である」という絶対的に確定した証拠はない。人の中にあるそれを信じると言う気持ちと僅かな記憶、そして物的証拠があってこと「真実」は姿を現す。
◇
まず、伊丹たち特地の自衛隊たちと日本の政府との間にはある違いがあった。それは特地で知ったこと、カルチャーショック、そしてそこから生じた価値観の違いだ。
中世時代の特地と現代の日本とでは当然ながら文化も文明も違う。同時に思想や意識にも差があるのは、今の時代でも明らかなことだ。
「貴方たちの話を聞いていたけど、まず炎龍の恐ろしさを知らないようね。まぁ実際に貴方たちは、その目で見ても居ないんだから無理もないでしょうけど」
ペースを完全にロウリィに握られ、怒りを爆発しようにもタイミングがない幸原は挑発的な言い方をする彼女の喋り方に眉を動かす。
だが政治家たちが実際に炎龍を見ていないのは事実で聞くだけと見るのとでは、感じるものが圧倒的に違う。蒼夜や伊丹達の脳裏には、今もあの赤い鱗に覆われた炎龍の姿は鮮明に思い返せた。
「炎龍は私たちの世界に存在する龍種でも抜けた力をもつの。それこそ帝国が使役しているのなんかよりもずっと強いわよ」
始めて伊丹たちの前に現れた炎龍は、目の前を飛んでいた翼竜をいとも簡単に喰らった。体格の差もあったが、その容易さは空気でも食べていたかのようだった。
「そんな炎龍から五体満足に生還した。まずはそこを称賛するべきじゃないかしら?」
さも当たり前のことを言っているロウリィの言葉に何人かの議員たちは唇を強く締める。正論ではある、と分かっていたようだが全員がそうではなく、幸原のような青筋を浮かべている議員たちも中にはいた。分かっていたとしても、それが全て「当たり前のこと」として処理されていた。
「貴方たちもさっき聞いたでしょ。炎龍から犠牲者をゼロにしろ、というのがどれだけ無理難題か。それこそ、神でなければそんなことは不可能よ」
「ですが、あの場で唯一ドラゴンに対して有効な手段を持っているのは自衛隊だけだった。避難民を移送している中、現れたドラゴンに対して彼らは避難民を盾にして、応戦したのではないですか?」
「それは無いわね。
ロウリィが断じ、幸原の言葉を真っ向から否定する。幸原の言うことは、全て報告されてきたものから考えられる、いわば仮説的なものだ。直接彼女が現地に赴いたわけではなく、あくまでも報告されてきたデータから独自の解釈で考えたものに過ぎない。
対してロウリィはその一部始終を見ていたので、説得力で言えば彼女の方が断然上だ。しかも直後に紡がれた言葉がさらに彼女の言葉に信憑性を持たせる。
「そもそも、伊丹たちは武器をもつ人間よ。武器を持った人間が最初に考えることは二つ。「人を傷つける」か「人を守る」か。形や言い方がどうであれ、結果的に言えば武器を持つ人間の考えはそのどちらかに分かれるわ。
「人を傷つける」は他者、それも弱者に対して攻撃すること。革命や侵攻と言った者たちが考えるもの。「国を守るため」「悪を倒すため」「悪いものを滅ぼすため」だから率先して武器を握る。
けど「人を守る」のは違う。武器は持つけど武器を使わない。いえ、使う時を選ぶの。「敵から国を守るため」「悪人から人を守るため」「悪いものを近づけさせないため」。人を傷つけるのと確かに同じに見えるけど、そこには決定的に意思の差がある」
「…侵攻による正義と、守備による抑止」
ロウリィの言葉に蒼夜がポツリと呟く。それに反応し、孔明も小声で話だした。
「一見、「人を傷つけること」と「人を守ること」は似ているかもしれん。だが客観的に見れば違いは大きい。国を守るために他国を侵略し、自国を守る。防衛として大義を立てているが、結局は他国を攻めたという事実に変わりはない。それで自分たちの国を守ったかと言われれば、その間に自国を攻められもすれば意味をなさなくなる。
国を守りたいのなら自国に籠ればいい。自分たちの国の範囲で、自分たちの国を守り続ければいい。他国を攻めて自国を守るというのは、結果的に侵略論をいいように変えたにすぎない」
「伊丹たちは当然後者よ。彼らには守るべき避難民たちが存在した。守るべきものは、避難してきた人間だった。「守る」ために「守る目的」を態々危険にさらす意味なんてあるのかしら?」
「それは…ですが、彼らはドラゴンという初めての生物とエンカウントした。普通の人間なら誰だって恐れおののく。彼らだって例外ではないと思えます」
「だから避難民を盾にした?」
「人間、最後に望むのは自分の命です。命あっての物種、だからこそ人間は生存を優先する」
「…まるで伊丹たちも弱い人間みたいな言い方ね」
実際、精神的にビビっていたのは確かで、ロウリィの言葉に伊丹は耳の痛い話だと苦笑いをして目を逸らしていた。加えて、命が大切とまではいかないが彼も自分の人生の危機であれば真っ先に逃げてしまうので内心では何本もの槍が刺さっていた。
「勿論、自衛隊が応戦しなかったとは言いません。彼らだって戦いはしたでしょう。ですが実戦経験の浅い彼らが命惜しさに避難民を犠牲にしたのではないですか?」
「だからそれこそあり得ない話よ。貴方だって私たちの世界との技術、文明の差をわかっているでしょ? どちらが生存率が高いのか。どちらがあの炎龍の攻撃で生き残れるか。兵士という存在から考えれば、むしろ逃げるほうがおかしいわ。
逃走の成功率でいえば圧倒的に伊丹たちの車のほうが高いのは当然のことだ。加えて頭の回転が早い伊丹は自分たちの機動性の高さから、敵を引きつけつつ頃合いを見て逃走できるという根拠を持っている。車のスピードであれば馬車よりも速く逃げられるはずだ。
ならば避難民を盾にして戦ったり、犠牲にしてしまうという行動はそもそも考えられず、人を守る兵士ましてや自衛官としては失格でしかない。
「そりゃ自国でもない人間を彼らが見捨てて逃げれば助かるでしょうね。けど彼らは兵士。国を守り、その財である人を守るのがそもそもの役目。それでは本末転倒よ」
「…あくまでも犠牲は仕方ないものだと?」
「当然でしょうに」
炎龍とのエンカウントは突然のことだった。加えて炎龍という強大な存在を知らなかった伊丹たちにとってどう対処すればいいのかでさえも分からない相手だ。闇の中を手探りで探るのと同じ、であればそれで犠牲が出ないというのも不自然でしかない。
「第一、兵士であっても彼らは人間よ。貴方の言いたい弱い人間。ならば貴方の言う通り命を大切にするのは当たり前のことでしょ?」
「ッ…それは…」
「兵士であれば命を投げて、っていうのはよくある話よ。でも結局大体の人間は命を一番大切にしている。それは貴方たちが一番よく知っているんじゃなくて?」
言葉を返せない幸原は口元をゆがめる。不快な意思を露骨に見せている表情は現在生中継で放送されているが、彼女の頭にはもうそれは関係がない。
自分を馬鹿にした、「お嬢ちゃん」と見下したあの小娘を降すまでは絶対に。
「炎龍という強大な敵から、犠牲を出してでも彼らは生き残った。けが人がなかったというのは…伊丹の采配のお陰でもあるわね。
貴方たちはそんな彼らを罵り、批判する。私からすれば貴方たちの考えがちゃんちゃらおかしいわ」
(おーおー食って掛かる食って掛かる…)
できればこっちに飛び火しないでほしいと願う伊丹だが、すっかりとヒートアップしているこの場ではもうその願いは届かないだろう。
既に幸原の顔も青筋から真っ赤な火の手が上がり始めている。対してロウリィは平静を崩さない。
「普通の人間ならまず、炎龍に出会えば逃げるわ。それは当然のことだし無理もないことよ。けど伊丹たちは恐れずに避難民を守るために戦った。犠牲は出てしまったけど、多くの村人を助けた。それは事実であるし、それだけの人間を助けたという事実にもならない?」
「…ですが、その為に多くの村人の命が散った。四分の一という尊い命が、奪われたのです」
「…貴方たちがどれだけ人命を敬っているか。それは今までの話で分かったわ。けどね、人は死ぬものよ、いずれは。理不尽なもの、避けられないもの死は変わらない。犠牲というのは死が早まっただけよ」
「それが理不尽であるからこそ、納得がいかないのです。人命を貴方たちは敬わないというのですか」
「命は敬うわ。けど犠牲というものは仕方のないものよ。死はいずれ平等に訪れる。それが理不尽か運命か、ようやくなのか。それだけよ」
このロウリィの言葉に蒼夜や伊丹たちは一つの違いを知った。
ロウリィは犠牲に対しては仕方がないと言った。それは死ぬという確定したことをどうしても避けることができないからだ。炎龍の攻撃を受け、燃えカスとなった人間を果たして今の人類は、そして魔術師たちは蘇生できるだろうか。
そんな質問をすれば誰だって「不可能」の言葉が返ってくる。
命は大切にする。がそれは命が「生きている」間だけの話だ。死んでしまえばそれは「生きている命」ではない。
「貴方たちは死した命を大切にし過ぎてる。死んだ命は死んだのよ。それは何があっても覆らない。
だからこそ、生きている命を大切にするべきでしょ。伊丹たちが救ったのは死んだ命ではない。生きている人間の命よ」
死神、いやロウリィが常に人を殺め、罪の意識などを知っているからか伊丹にはその言葉は重く感じられた。エムロイの神官として罪人を処する彼女の語る「命」は政治家たちのいうものとは明らかに違う。それだけに彼女の語る言葉は強く、議員たちも反論することはできなかった。反論してしまえば何か敗北してしまうと気づいていたのだ。
「―――お分かりかしら。彼らが、伊丹たちがどれだけのことをしたのか。それを成し遂げたのかを。その小さな頭で理解できたかしら、
奥歯を強くかみしめる幸原の姿はもはや議員としてだけでなく、女性としても怒りを隠す気もない顔でロウリィを睨んでいた。挑発的な言い方も癪に障ったが、それ以上に自分を子ども呼ばわりして見下されているのが我慢ならず、今にもはじけ飛びそうな怒気がふつふつと煮えてあふれ出していた。
「…お嬢ちゃん…フッ…政界に入って間もない以来ね…」
既に幸原の沸点は臨界点を超し、自分でも表現しきれないほどの怒りが沸き起こっていた。あんなゴスロリの、しかも正装というものを知らない
「どうやら…相当田舎から来たようね、お嬢ちゃん」
「………。」
眉をひくつかせ、今にも爆発寸前の幸原の顔は顔に滲みでる我慢の汗で化粧が解けかけている。沸騰するやかんを想像した蒼夜は小さくため息をついてあきれ返っていた。
「礼儀作法は習わなかったのかしら?」
「…それって私のこと?」
さも不思議そうに首を傾げて尋ねるロウリィの表情は、自分のことかと指をさす。
これが最後の理性を切り、幸原の怒りを爆発させた。
「他に誰が居るの!? 私と話をしていたのは
(あーあ…)
(おっかね…)
我を忘れて怒り叫ぶ姿に蒼夜は目を閉じて視線を逸らし、扉からこっそりと見ていたランサーもそこまで怒るのかと、若干引いていた。
傍から見れば幸原が怒るのも無理はない。しかし、それが果たして正しいものかと言われれば伊丹からすれば筋違いのものだった。
「なにを怒ってるのかしら?」
「さぁ…」
突然怒り出したことに驚いたレレイは不思議そうにしているロウリィの隣で気圧されている。彼女たちからすれば幸原の怒りは暴走以外なにでもないのだ。
それを知らずに幸原はまだ怒りに任せた言葉を続ける。
「そもそも、私はそこの自衛隊たちが避難民を犠牲にしたでしょって聞いてるのよ! それが何? いきなり私を馬鹿呼ばわりしてお嬢ちゃんって!! どこからどう見ても貴方が年下でしょうに!!!」
「…あら。貴方、私よりも
「当たり前です!! そもそもここは貴方の居た世界とは違う! この国では年上は敬われる存在なんです!!」
「…だったら―――」
たった二人の議論という独り相撲で沸騰していた空気がさらに熱を帯びてきた。
伝染したように広がっていく熱気は周囲にも影響し、興奮が辺りに巻き散る。感化された議員たちの鼻息を荒くし、喉の奥からは何かが溢れかえろうとしている。
(マズイ…!!)
興奮の渦の中心にいるロウリィがただでは済まないのは分かっていた。彼女も反応して小さく舌を舐め回すと唇が紫に変色し眼差しも鋭くなる。一瞬にして捕食者の目になった彼女を後ろ姿と醸し出す雰囲気から察した伊丹は、考えるよりも先に体を動かした。
「い、委員長! すこし待ってください!!」
「………!」
挙手と同時に立ち上がった伊丹は彼女の間に割り込んで入り、無理やりにでもロウリィを後ろへと下げる。この後に何が起こるのかを直感的に想像してしまった彼の頬には汗がにじんでいた。
興奮が頂点に達しようとしていた時に、突然割り込まれたので当人は不満タップリの顔で伊丹の制服をつかむ。
「なんで邪魔するのよ!」
「いいからいいから…っていうかここで暴れちゃ駄目だって言っただろ!?」
「むぅ…それはそうだったけど…」
渋々と後ろに下がったロウリィに後で謝ると言い、伊丹は彼女の代わりに立つと説明をした。
「…えー…信じられない…というより信じられるわけがないと思いますが、彼女ことロウリィ・マーキュリーは、見た目はこの姿ですが、この会場にいる誰よりも年長者なのです」
「…はぁ?」
「まぁ信じられない…というのは当然だと思います。俺も聞いた時には信じられませんでしたし」
「ならその信じられない年齢とは、一体いくつなんですか?」
ロウリィの年齢が自分たちよりも年上だという事を信じられるわけがないというのは、その場にいた議員たちの一致した見解だ。どう見てもレレイやテュカと同い年か近い年齢に見える彼女が、まさか自分たちよりも年上なわけがない。まだ幼さのある顔をした彼女がまさか七十や八十なわけがない。
だがそもそも彼女たちの居る世界は魔法という概念が存在し、神秘的な、いわば非科学的な力がある世界だ。アンチエイジングのような外見だけを維持する方法があると言われても不思議ではない。
「ロウリィ。年齢、いくつだ」
「私? 今年で961歳よ」
「………は?」
が。直後に放たれた言葉に幸原だけでなく議員の何人かが口を開けてあんぐりとする。一瞬、聞き間違いかと思える年齢にまさかそんな訳がないと思えたが、ロウリィは更にダメ出しで事実を告げた。
「本当よ。私、死なないし」
「………え!?」
異世界、魔法の世界という事で年上の話も事実なのだろうと覚悟していた議員たちだが、度を超えた事実を聞いて思わず抜けた声を出す。それは伊丹の後ろにいた蒼夜たちも同じで、まさかそこまでの年齢とは思ってもいなかったらしい。キャスターも汗を滲ませて冷静さを失った顔をしていたが、そこまでは取り乱していない。
「…居るにはいるものもだな」
「せ、先生、あまり驚かないんだね…」
「…まぁな。私たちの世界にも、そんな不死の奴らが居る…などと時計塔で聞けばな」
「嘘でしょ…」
今の場では関係のない話だが、人間の常識を超えた年齢の生物がいることに蒼夜の顔は青ざめる。
一方で目の前にいる常識を超えた年齢の人物と相対している幸原は恐る恐る口を開く。
「…という事は…テュカさんは…」
「私ですか? 165歳ですよ」
「ひ、ひゃ…」
エルフということでファンタジーだと短命だったり長寿だったりするが、テュカの場合は後者で、しかもロウリィと同じく自分たちよりも遥かに年上だった。これで若者というのだから成人の年齢は容易に想像できない。
「まさか…!」
「…15歳」
この流れではもしかして三人とも自分たちよりも年上で見た目よりも長寿なのではと考えてしまった幸原は上ずった声でレレイに顔を向けた。
表情を変えないレレイは囁くような声で自分の年齢を明かし、十五歳という自分たちが想像する範囲の年齢にホッと胸をなでおろした。
「伊丹。変わって」
「あ。ああ」
“そもそも”の部分を忘れていた議員たち。彼女たちは異世界、いわゆるファンタジーの世界から来たのだ。自分たちの常識が向こうでも絶対に通じるという保証はない。
それを証明するようにレレイが再び前に立って、それぞれの
「私たちの世界にはいくつかの種族が存在する。私はその中の「ヒト種」。普通の人間。その寿命は平均で約六十年から七十年前後。今の私たちの世界の住人の大半はこれ」
(…エルフたち以外にも複数の種族がいるってことか)
「テュカは不老長命のエルフ族。その中でも更に希少な妖精種で寿命の概念はほぼ存在しない。
ロウリィは元は人間だけど、今は亜神となったことで肉体年齢は固定された。千年ほどで肉体を捨てて霊体の使徒に、その後は司る神になる。
ちなみにロウリィも殆ど死の概念は存在しない。だから「死なない」のニュアンスに間違いはない。あとロウリィの仕えているエムロイは死や断罪、戦争を司る神だから当人も武闘派」
次々と語られる特地の文明、そして現状。エルフが実在し、神という概念が崇拝や信仰だけでなく実在しその使徒が存在する。
ファンタジーというよりも魔的な概念が特地では当たり前となっているのだ。
そして何より、人間が欲する究極の願いのひとつともいえる不死が条件付きではあるが
しかしロウリィの仕える神、エムロイは死と断罪の神。やましい考えがあれば断罪されるかもしれないというのを彼らも思わないわけがない。
「か、神というのが実在すると…?」
現代からすれば馬鹿馬鹿しい話ではあるが、魔術師であるキャスターから言わせればその理由は科学の発展にこそ原因がある。人が科学技術を発達させるのに比例し魔術の神秘は薄れているのだ。
「私たちの世界では実在する。エムロイの他にもハーディ、ルナリューなどがいる。この世界にも複数の神が存在したと伊丹から聞いた」
神という存在をイマイチ納得ができず、居ないではないかと内心では決めつけたいが特地の世界の性質から捨てきることもできなかった。
下手を踏めば、本当に神が現れるかもしれないのだから。
一笑する議員も居たが、彼らも内心ではどこまで笑い飛ばせているのか分かったものではない。
「………。」
特地と自分たちの世界との違い。それを目の当たりにした幸原は話がやや脱線したこともあって、それ以上の追求をすることができない。彼女たちにとって信じられない話が平然と、そして次々と語られてきたのでそれを
『―――幸原議員。質問は?』
「…以上です」
オーバーロードした頭を抱え、俯いた幸原は全ての力をもう使い切ったかのように覇気を無くした声で質問を終えた。
結局、自分たちのプラスとなる要素を全くと言っていいほど聞き出すことが出来なかった議員たちは幸原に「何をしてるんだ」と蔑んだ目で見ていたが、果たして彼らが幸原よりもうまくできたかと言われれば、それはその時でなければ分からない。
「…結局、政府側は大惨敗か」
「だな。自衛隊の弱みを見つけてつけ込もうとしたが、相手が悪すぎた」
自分たちの常識が異なった常識を持つ者たち相手に自分たちの常套手段が通じるとは限らない。レレイに短く返答され、ロウリィに馬鹿にされたように彼女たちが日本の暗黙の了解ともいうべき常識を知らなかったことから、ペースをつかむことが出来ず結局は彼女たちを振り回すどころか振り回されてしまい、大敗を喫してしまった。
異世界だから、自分たちよりも文明が劣っているから。そんなことを何処かで考えてしまったせいで、幸原たちは逆に反撃を食らってしまったのだ。
「あの王女であれば、確かにペースはつかめただろう。だが、彼女たちは
「テュカの場合はペースどころの話でもなかったけどね」
「いずれにしても。スリーアウトで本来ならゲームセットだ。だが、今回は我々が居る」
「…ゲームセットじゃなくてチェンジってわけですか」
「では次は………
そう。
本来ならいる筈のない。予定にもなかった一人。
三人よりも謎を多く孕み、そして未知の力を持つ青年。
彼らは蒼夜が魔術師であることを知らない。同時に、彼が別世界の人間であることも知らない。
そして。蒼夜の世界が人理焼却という未曽有の危機により人類史が終焉を迎えようとしているという事態も、知る筈がない。
議員たちにとっては、ただの青年にしか見えない。ただの日本人、どこにでもいる普通の人間にしか見えていない。
彼らにとっては最後の希望。最高の獲物。自衛隊という存在を揺るがすだろう存在。ただの誇大妄想を持っている頭のおかしい青年にしか見えていないのだ。
(アメミヤ…それが蒼夜の本名か)
しかし、既に彼の力の一端ともいえるサーヴァントたちを知っている伊丹にとってはただの青年には見えていない。見た目は本当にどこにでもいる青年だが、彼の中に、そして彼に周りには自分でも想像がつかない何かがあるのだと、ゲーマーや自衛隊としての勘ではない、人としても直感がそう告げていた。
(本当に日本人ね…ということは、うまくいけば…)
日本人であることには間違いはない。既に気力が滅入っていた幸原は蒼夜の顔を見るや、希望を持ったかの様に息を吹き返していた。
彼が自分たちと
そうなれば彼らを揺さぶるものがやっと手に入る。使えるかどうかは別として、特地の自衛隊について知ることができるのだ。
(先輩、大丈夫でしょうか…)
(何。彼とてマスターだ。この位は問題なかろう)
「では、改めて名前を」
「
「……年齢は」
「今年で十九です」
十九なら既に高校を卒業し大学に入っている歳だ。あとで詳しく調べれば色々とボロが出るだろうと期待していたが、今はそんなことを頭の隅に置き、セオリー通りに質問を行う。
「…分かりました。貴方は自衛隊第三偵察隊がドラゴンと遭遇していたタイミングで邂逅したと聞いています。貴方の目から、自衛隊の行動になにか問題や不備、不満などは感じられませんでしたか?」
「…俺たちはほぼ途中からなんで、確証というか絶対にそうである、とは言えませんが自衛隊が炎龍襲撃の際に行った行為、行動に問題はなかったと思います」
自己紹介を終えてからだろうか、蒼夜の雰囲気が変わったことに伊丹や彼と同じ側に座ってる人間は気付いていた。彼の言葉づかいだけでなく、その表情や挙動がここに入ってきた時よりも滑らかで話し方にも緊張感というものがなかった。
彼は、本番で無意識に強くなるタイプだ。自分では本番は弱いと言っても、実際になれば練習通りかそれ以上の働きをする。緊張感が最初は強いが次第に弱くなる、
「むしろ、俺は炎龍が襲撃してきたあの場で冷静な判断を下した伊丹さんを尊敬しています」
(どこまで本気なんだか…)
明らかな嘘っぱちにも聞こえる蒼夜のセリフに苦笑する伊丹は時折、幸原の向こう側にいる議員たちの視線が気になり、逃げるように目の前の質疑に目線を動かす。
幸原はやっと自分たちのやり方が通じる相手になったので安堵したのか、蒼夜の前であからさまな安堵の息をついていた。今までは自分たちの
(やっとまともな
三人に振り回されっぱなしだった議員たちはここで体勢を立て直し、なんとしてでも批判のネタを一つでも手に入れたいところだ。既に三人を終えて残るは目の前にいる蒼夜だけ。あまり危機感は感じられないが、同時に後がないというのは幸原も承知していた。
「…そうですか。では、アルヌスでの自衛隊の難民に対する処置や待遇に不満、不安な点はないでしょうか」
「…ありません。というより、テレビで見るような自衛隊の活動そのまま…って言ったらいいんでしょうかね。アレをイメージしました」
言葉を詰めることなく淡々と答えていく蒼夜は目線を逸らさず、表情も固定されたように無情のような顔をしている。しかも模範的な回答をしていることもあって、議員たちは彼が本当に人間なのかと一瞬うたがってしまう。
またレレイと同じパターンになるのではないかと考えた幸原は、露骨に嫌な顔をして「もう少し感情を持ってくれ」と目で訴えかけるが、蒼夜が表情筋のひとつでも動かすことはない。
(このままいけば本当に無駄になる…というか、彼も知らぬ存ぜぬを決め込むわね…)
このままでは機械のような回答だけで質疑が終わってしまう。そうなれば、自分のやったこと叫んだことが全部無駄になってしまう。しかも自衛隊に対しての批判のネタが何一つ収穫できないという最悪の結果でだ。
(…本当なら使いたくないけど)
出し惜しみをしている場合ではない。ここで引き下がれば彼女の政治家生命もここまでになってしまう。今まで出す事を渋っていた幸原は、最後の手として
「………いいでしょう。では、最後の質問です。特地にて派遣された自衛隊が
「………!?」
(なっ…!?)
幸原の口から出てきた質問は蒼夜の表情を動かし、伊丹に余計な汗をにじませる。あまりに無茶苦茶なその質問は伊丹も驚くどころの話ではない。どうしたらそんな質問、仮説と結果が出てくるのかと聞きたくてならない。
しかし他の議員たちはざわめき、初耳であると同時に驚きを隠せず中には声が弾んだ者もいた。
(オイオイ…そんな嘘が通ると………いや、まさか…!)
「……どういう意味…いえ、それってどういうことなんですか?」
「言葉通りです。自衛隊は特地に派遣後、数回にわたって戦闘行為を行いました。その中で自衛隊に対しての死者はなく、代わりに特地の人民が多く死亡した…という報告をことらでは受けたのです」
(…イタリカでのことか)
「戦闘行為であるなら、死人はでなくても負傷者がでる筈です。ですが派遣された自衛隊からそのような報告は受けていません。これは、自衛隊が銃火器を用い一方的な虐殺行為ないしはそれに準ずる行為を行ったのではないか…という意味です」
荒唐無稽もここに極まれり、といった様子で呆れる伊丹だが、見方を変えればそれは確かに正論であり、正しい指摘ともいえる。
事実、自衛隊は銃火器を用いアルヌス、イタリカでの戦闘においては死者は出ていない。これは当然、近代文明の武器装備による技術差や練度の差などが理由だ。現代の日本が銃火器で戦っているが、特地の文明レベルではクロスボウ辺りがやっとだ。あとは弓矢や魔法といったもので補強され帝国は強大な軍事力を誇っていた。
「虐殺…ね」
しかし、実際に自衛隊の行った戦闘は全て自衛隊の組織で許可される範囲内でのこと。初戦のアルヌスは陣取ってはいたが戦闘そのものは帝国軍の攻撃に対しての反撃。イタリカに至ってはピニャからの正式な要請のもとで行った防衛行為だ。アルヌスでの行為がグレーゾーンだとしても、イタリカでの行動は自衛隊だけでなく憲法としても正当な行為だ。
(アルヌスでの行動のことを言ってるのか…? ってことは…)
少なくとも自衛隊にリークした人物がいるということ。それだけはこの場でハッキリとした。イタリカでの行動については、明確な報告はまだだからだ。
幸原の質問という暴露については正直伊丹たちの間でも確証めいたことは言えない。ただ自衛隊のアルヌスでの行動は前内閣が行ったことで、同時に法にのっとった行動をとったまで。彼らが違憲をしたという証拠にはならない。
しかし、それはあくまで彼らが違憲したかどうかでの話であって、幸原たち議員の狙いはそこではない。
(こすい方法だな…国民を出汁にするなんて)
「…孔明さん。これってどういう意味なんでしょうか…」
「見た通り…と言えばわかるか。議員たちの狙いは何も自衛隊が法を破ったか破ってないかは別に関係はない。法破りはこの国でも平気で行われていることだ。
議員たちの狙いは、最も単純なもの。「民衆の意識と考え」だ」
「民衆の…」
「民主主義国家である日本は国民を第一にした政治を敷いている。国民主権や人権の尊重といった政治の三本柱。国民にも政治への関与が投票などで可能となっている。だからニュースで今の政治に対しての民衆の意見も取り上げられる。取り上げ
国民の言葉を民主主義は大切にしなければならないのだからな」
「………それってつまり、先輩を利用して自衛隊への悪評を広めようと…?」
「要するにそういうことだ。そもそも自衛隊と憲法第九条をいまだに引きずっているこの国だ。足の引っ張り合いなんてものは日常茶飯事だろう。現に目の前で議員共は国を守ろうとしている、守ろうとした、守っている自衛隊の醜態をさらそうと躍起になってるからな」
「じゃあ、別にこの場で負けても…」
「自衛隊が特地の兵士、人間を一方的に殺した。この事実はまぁ言い方によっては確かだがこれが正当な行為であるかそうでないかはあの議員は一言も言っていない。そこは国民たちの想像力に任せるのだろう」
「けど、銀座事件という出来事があるんですから、自衛隊がやることに異議を唱えるなんて…」
「だとしても、自分たちは無傷で相手は蹂躙された。この事実はどう覆す? 自衛隊はイタリカであのやりたい放題を演じてしまった。バレればネタにされるのは確実だ。そして、大型兵器による圧倒的な戦力差での戦闘と完勝。第九条に対して未だにねちっこく言っている連中にとってはいい餌だ」
国民を盾にし、国民を人質にとり、国民という言葉を利用する。民主主義であるからこその考えだ。国民という
国民はニュースやネットでしか政治関係の情報は入手できない。だから、情報統制や情報管理といったシステムがあり、国民の意識を意のままに操れる。
この場合は国民に対し「自衛隊が一方的な虐殺をした」という言葉のみがインパクトを与えることができる。ガセでも捏造でも、政治という滅多に観ない場での出来事が彼らの記憶には残ってしまう。国民はその事実を見ていないので議員が語る言葉を信じるしかできないのだ。
「この場でマスターがそれを認めれば、自衛隊が一方的な蹂躙をしたということになる。逆に否定すれば「ならばどうして死者が少ない」と屁理屈を言う。向こうの思うがまま…だがな」
「…虐殺…ですか。伊丹さんたちが」
「ええ。もし答えにくいのであれば首を振るだけでも結構です」
そう。答えるだけでいいのだ。
「はい」と答えれば自衛隊が一方的に特地の人間を殺しているという事実に
「いいえ」と答えれば死人が少ないことについて追及ができ、特地の難民を見殺しにしたのではないかという
屁理屈であるのは幸原もわかっていた。だが、自衛隊が向こうで何をしているのか分からないというこの状況は、国民にとっては知りたい事であり答えによっては国民に対しての先入観が作られる。「自衛隊が虐殺したのではないか」という可能性と「難民を見殺しにする形で戦っていたのではないか」という可能性。特に難民を見殺しにしたという虚実が建てられれば真っ先に矛先が向けられるのは伊丹だ。
(さぁ…貴方はどっちを答える? 虐殺をしたと認めるのか。それとも認めないのか)
どちらにしても国民に対しての自衛隊への印象は悪くなる。
三人に対しての苛立ちや怒りを彼にぶつけているようにも思えるこの構図は、蒼夜がスケープゴートにされていた。どの道、彼に対しても色々と聞かなければいけない。彼も自衛隊ともども道連れにしてやるといった小悪党の考えで彼の答えを待っていた。
「―――――仕方ないんじゃないですかね?」
「……………は?」
だが次の瞬間。蒼夜が他人事かつ適当な物言いで口をひらいた、ぽんと投げた言葉にその場にいた全員は面食らった顔をしてしまう。
「はい」か「いいえ」かの話ではない。そのどちらかを答えろという空気だったのが、蒼夜はそれとは別の「仕方ない」という言葉を口から出した。
場の流れでは二者択一だったものが、突然第三の回答を言い放った蒼夜に引きつった顔で幸原が訊ねた。
「い、今…なんて…」
「いや、ですから「仕方がない」と」
「…それは肯定と受け取って」
「いいえ」
「えっ…!?」
では否定なのか、と言いたいが「仕方がない」という言葉を否定としてとらえるには無理がある。蒼夜がこの後に否定の理由などを言えば「仕方がない」は否定の言葉としてとらえられるが、そうすれば議員たちの思惑に当てはまってしまうのは蒼夜も理解していた。
当然、彼は否定の理由も言うつもりはなかった。そして肯定をする気もない。
であれば、蒼夜が最終的に答えるのは、その「仕方ない」という言葉の意味だ。
「わ、私は成否を問うただけで別にそれ以上の意味は…」
「その成否を問う所の時点で色々と間違ってるんですよ。議員さん」
蒼夜の目線が次第に冷たくなる。幸原だけを一点集中で見つめるその目は鋭く、見られた幸原は無意識のうちに息を飲んでいた。
「俺が言いたいのは、自衛隊が虐殺行為に似たようなことをしている、と思われても「仕方ない」という意味です。この意味には二つ、理由があります。
ひとつは自衛隊と帝国との軍事的な差。そしてもう一つは……貴方たちが
「そんな事は―――」
口を止める気がない蒼夜は淡々と話しを始める。解答の権利は自分にあるのだから、別に長くなってもいいだろうと言うような落ち着いた様子にまた自分たちのペースにはめることが出来なかったと議員たちは奥歯を強くかみしめた。自分たちのペース、自分たちのやり方でこの場を纏められる、どうにかできると考え切っていたが蒼夜は議会という空気や、その場での常識なんてものは知らない。答えるのは自分なのだからという一般的な常識のみで彼はその場に立っていた。
「…私たちはそれが事実か否かを聞いているだけです。別に、この場で貴方たちを糾弾しようなんて…」
「いや。別に俺がなんと言われようと、俺自身は構いません。ただ一辺倒にしか見て決めることのできない貴方たち議員さんに、俺は呆れるしかないって意味です」
「なっ…」
「言いましたよね。貴方たちは結果しか見ていないって。今までの会話がまさにそれです」
ロウリィが小馬鹿にしたように蒼夜も自分たちを蔑んでいる。しかも自分たちよりも確かに年下である彼が見下した言い方をしているというのには、幸原も我慢はできない。怒りに飲まれず、大人としての冷静さとプライドを保って今は耐えていた。
「まず、最初に伊丹さんに訊ねたコダ村の人たちの被害。貴方たちは真っ先に訊ねたのは自衛隊の不備とか行動とかについてじゃない。コダ村の住人がいったい何人亡くなったか。いわば結果です。結果としてコダ村の人たちはこれくらい亡くなった。これは全体的な結果ではなく、
伊丹さんたちが村の人たちを避難させ、炎龍に襲われ、攻撃を受け、そして撃退した。そこから生まれた結果のひとつ。全てじゃない」
実際、最初に伊丹に対して幸原は炎龍で出た死傷者について追及した。自衛隊が守って居ながら、なぜそれだけの被害を出し、自衛隊は負傷者でさえも居なかったのか。
彼らが最初に訊ねたのは、結果のひとつ。被害についてだけだ。その後のことや当時の行動などについては何一つとして聞いていない。
典型例だと、自衛隊は村人を避難させるのにどうしてそんな少人数しかださなかったのか。どうして自分たちだけで出来ると思ったのか。それぐらいの追求であればまだ分かった。だが、彼らが訊ねたのはあくまで「これだけの死人がでました」という事実だけだ。
「最初に訊いたことが、伊丹さんたちへの行動やその後についてだったら、俺も納得はしましたけど、真っ先に訊いたのが被害、それも死人についてでしたからね…正直、本気かって思いたくなりましたよ」
「それは自衛隊が守っていながら、それだけの人を死なせてしまったという意味で、貴方のいう結果そのものではないんですか?」
「違います。伊丹さんたちは確かに死人を
「ッ…それは、確かにそうです。けど、死人を出してしまったということについて、彼らに不備があったとは考えられませんか」
「それが俺の言った「仕方ない」のひとつです。相手は炎龍、今までの銀座で帝国が乗り回していた翼竜とは違う、強大な強さとどう猛さを持っていたヤツだ。伊丹さんも言ってたでしょ「機関砲でも効かない」って。それだけの相手なら、最悪のシナリオだってあり得た。けど、伊丹さんは俺というイレギュラーがあったとはいえ、その被害を最小限にして、尚且つ炎龍に深手を負わせた。ロウリィがさっき言ってた通り、まずはその勇敢さを認めるべきでしょ?」
あくまで幸原たちが言っているのは自衛隊が生んだ被害だけであって、彼らが炎龍という自分たちより、ましてや人類よりも強大な力に対して屈しなかった、そして撃退したという事実を無視していた。
逆にいえばそれだけの強大な存在であり、普通なら精神的にも屈してしまう、怯えてしまうハズだ。
「人間は自分たちの常識が通じない相手には絶対に臆病になる。恐怖を感じてしまう。自分たちが「非常識」「絶対にありえない」「常識というカテゴリーに受け入れられない」からだ。さっきのロウリィたちの年齢についてが、そのいい例です。貴方たちはロウリィが自分たちよりも年下だと決めつけていた。それはテュカも同じ、けど結果二人はこの場にいる誰よりも年上だった」
「そ、それはテュカさんがエルフであるからで、彼女もほぼ不死なんですから…」
「そう。だからそうやって自分たちの「常識」というカテゴリーに収める必要がある。テュカが年上なのが「エルフという長寿の種族だから」ロウリィが不死なのが「亜神だから」。それぞれ自分たちの知識としての範囲内で納得できる理由があって、初めて人はそれを受け入れられる。そして、時間を要して「常識」のひとつに加える」
たとえば今は当然のものとなっているが、タッチ式の画面というのも当時は信じられるものではなかった。誰もが最初は「本当に触れるだけで動かせるのか」と疑っていたが、今では当たり前のようにその機能を持つ携帯をもっている。
長い時間をかけることで浸透し、新たな常識が生まれるのだ。
「貴方たちは「炎龍=翼竜」という考えで話を進めていた。それは最初に質問した時にすぐにわかりました。貴方は炎龍が銀座を襲い、帝国が保有する翼竜と同等の力、人類の文明の利器というもので対処可能という範囲で考えていた。実際、たしかに榴弾で炎龍に手傷を負わせられだけど、それは榴弾での話。小銃についてはさっき伊丹さんが話した通りだ」
「―――大型のドラゴンというのなら、ライフルの攻撃が通じないというのはこちらでも大方予想はしていました。そして、彼は榴弾を使用してドラゴンを撃退した。それは咎める気はありません。
私が言いたいのはドラゴン撃退との釣り合いがとれているかです。自衛隊はドラゴン撃退のために約百五十の犠牲者を出した。自衛隊が迅速に対応していれば犠牲は最小限に抑えられたのではないか、そう聞いているのです」
「………それこそ、無理な話ですよ」
平静さを崩すことなく、蒼夜は小さく一笑すると議員らに向ける目を変える。
彼の目つきが変わったのを感じたランサーは、後ろの壁際にいたアーチャーへと振り向く。なにせ、蒼夜の目はアーチャーが他人を挑発するときの目つきそのもので、それを後ろから見ているだけでもランサーの気分は悪くなる。
まさにその目で、彼はアーチャーに「犬」を言われたのだ。
「常識的に考えてください。近代科学が跋扈するこの世界、神秘の塊であるドラゴンが現れると思いますか?
ファンタジーやゲーム、漫画で取り上げられる程度で、実際見るのは皆さん銀座事件が初めてだったでしょ。そんな「常識」の尺度の分からない相手に伊丹さんたちは挑んだ。尺度の定まっていない、まだ具体的な情報だってないっていうのに彼らはそれに挑み撃退した。
「常識」の範疇でしか行動ができない貴方たち肥え太った狸と狐が、はたして炎龍相手にまともでいられるかさえも…いや、そもそも無理か」
完全に小馬鹿にされている幸原の沸点は再び動き始め、怒りのラインへと上昇していく。だが今度はその後ろにいた議員たちにでさえも蒼夜は罵倒し、反感を買っていた。わかったつもりで話している小僧というのが、彼らにとっては我慢ならない事実だ。
(あまり煽り過ぎないでくれよ…俺にまで飛び火してるんだから…)
「「常識」っていうのはあくまで物事の平均的な尺度でしかない。そこには「絶対」の規定なんてないし保障もない。目安にきまりなんてあったら、それは「常識」っていうより決定事項だ」
「…哲学的なことを言ってますけど、要は自衛隊の事実を認めると?」
「認めたいのであればご勝手に。俺には関係のない話ですから」
「なっ…!?」
「そうですね。話が脱線しましたから、取りあえず質問の返事を具体的に言います。といってもさっきの答えに少し脚色するだけですけど。虐殺という事実はないですけど、虐殺ととれる行為を自衛隊は行っている。まぁ、それこそ俺がさっき言った理由のひとつである帝国と自衛隊との軍事力の差、というのが大きな理由です」
「確かに、帝国と我が国との技術的な差は雲泥のものと聞いています。ですが、だからといってそれが理由に―――」
「…長篠の戦い」
「…はい?」
だからこそ、その理由になるという例えを蒼夜はぽつりと呟く。なんの前触れもなく出てきた言葉に議員たちは何を言っているのかと妄言を聞いているように首をかしげる。
長篠の戦いといえば、織田信長と徳川家康が武田勝頼と戦った有名な一戦。それが、と聞こうとした刹那、蒼夜が言うまでもなく理由を説明する。
「知っていますよね? 約三千丁あまりの鉄砲隊を組織した織田軍が武田最強の騎馬隊を打ち破ったという有名な戦い。言ってしまえばこれと同じ。鉄砲…銃に対して帝国は騎馬、馬や翼竜。そして遠距離の武器といえば弓矢だ。当然、射程でいえば銃が圧倒的に有利だし、なにより銃は人を殺すために使う武器。殺傷の面では帝国のどの武器よりも秀でている。それが一丁だけならまだしも、百丁、千丁といけば…あとはわかりますよね?」
その面でいえばイタリカでの戦いは代表例だろう。ヘリ部隊が居たとはいえ、銃撃による掃討作戦で盗賊となった連合軍の残党は壊滅した。しかも自衛隊の被害は皆無で、その被害は伊丹たちが来る前まで戦っていたピニャの組織した民兵たちと残党がほとんどだ。
はたから見れば、自衛隊が一方的に残党軍を殲滅した、などと受け取ったり事実改ざんさせたりもできるだろう。
「だから、帝国との間にできたこの戦死者の差。これは技術的、文明的な面から見て当然のことと言える。それを蒸し返しても、文明の差はどうやっても埋めることはできない」
「…ですが、武器は使い方によっては抑止になり得る。別に全滅させなくてもよかったのではないですか?」
「―――それを最初に貴方が言っていれば、俺はこんな周りくどいことを言わないで済んだんですがね」
「あっ………」
自衛隊の結果しか見ていない。この言葉が形となったのを幸原は痛感する。ロウリィの時もそうだが、蒼夜も彼女たちが結果のみをみていなかったことを批判しその内容についても触れるべきだと指摘した。だが議員たちはそれは既に終わったことだからと気にもせず、ただその後である結果だけを見ていた。
それを今更になって気付いた幸原の表情に蒼夜は呆れるしかなかった。
「貴方たちは結果しか見なさすぎる。課程や意味、それを考えずにただ結果だけを見て、考えすぎている。課程やいきさつなんかを見れば、いくらでも彼らに投げかける質問もあったハズ。でも、貴方たちは最初に
「結果だけだとしても、結果は事実です。変えることのできない答えと現在。そして真実です。ならば、その真実を、結果を最初に受け止めるべきでしょ?」
「結果を受け止めることについては確かにそうでしょう。けど、課程を見落としていてはちゃんと真実を受け止めたことにはなりません」
「結果から課程は推測できます。それに、結果だけしか見ていないというわけではありません。私たちは課程も見ています」
「それなら、なぜ最初に伊丹さんにその課程の話をしなかったんですか」
「それは……」
忘れていたからだと言うのはどこか情けない。いや、情けないどころの話ではない。だが今の状態でなんと言い返すべきかと考えていた幸原は蒼夜の冷静な返しに思わず口籠ってしまう。別に最初から陥れるつもりではなかったが、口籠った隙を見て蒼夜は質疑の決着へと舵を向けた。
「―――……正直に言って、俺は日本のことはそんなに好きでもないんです」
「えっ……」
まさかの自国への嫌悪を口にした蒼夜に驚いたのは議員ではなく伊丹だった。まさか自分の生まれた国を嫌う人間が居るとは思ってもなかったが、それ以上に彼がそうやって断言することも驚くべきことだった。
無論、それに驚いたのは彼だけではない。目の前でそれを聞いた幸原や、その後ろに居た議員たちも気分のいい表情をする筈もなく顔色を変えない筈がない。自分たちの住む、自分たちの生まれた国を否定したのだ。彼らがもし、こうした公式の場ではなければ殴るかSPに撃たせていただろう。
「振るうだけの力。使われない金、動くことのない政治。停滞する経済。不景気というだけで、今のこの国は機能停止手前にまで向かっている。それはなぜか。
国を率いる筈の人間たちが、国を率いようと、よりよい国に導こうと
この国を救おうとしていないからだ」
否定できる言葉の筈だった。そんなわけはない、そこまで愚かではないと彼一人の考えを否定できた。まだ若く、世の中を知らない青二才の言葉。それを一笑して、世を知る大人たちは威厳を見せられた筈だ。
なのに、その場にいた議員たちは誰一人として彼の言葉に反論の意を示すことをしなかった。声を荒げ、立ち上がり、指をさして返すことをしなかった。心で叫ぼうとも、その言葉が口から出すことができない。
それは自分たちでも薄々と気づいていたからでもない。彼の言葉は自分には当てはまらないと思い込んでいる。しかし、彼の言葉が議員たちの心というものに槍のように穿たれたのだ。
「既に自国の発展と成長を望む人間は数えるだけになり、残るのは私腹を肥やすだけの貴方たちだけ。だからこそこの国は停滞をしている、他国に遅れをとっている。
進むことも退くこともない。ただ自分たちの今の地位を奪われたくないというだけで、その場にとどまり続ける」
自論ではあるが、嫌なところをついてくる蒼夜の言葉に大半の議員たちの表情が苦痛にも似たものになってきている。自分のことを言われているのかというのもあるが、未だに馬鹿にされていることや自分たちよりも世間を知らない彼が高説していることに我慢ならなかったのだ。
にもかかわらず、彼らは未だにそれを否定しようとしない、今まで討論をしていた幸原でさえも沈黙してしまっていた。
「分かり切った
征服王イスカンダルはまだ見ぬ地、オケアノスへと遠征を続けた。未だ分からず、未知の地である最果ての地へと彼は旅し、そして多くの臣下を率いた。結果は歴史の通りだが、それでも彼らがまだ見ぬものへの探求心から共に大地を駆け抜けたという事実は決して覆されるものではない。
「そんな結果だけしか見ていないからこそ、俺の口からは「仕方ない」の言葉しか出てこない……ってワケですよ」
国を愁いてや、嘆いて、思ってのことではないのは、誰の目からも明らかだ。彼はそんなことについて、微塵も思ってもいないし語る気もない。
まさに現代停滞地。
この世界、国の有様を見て英霊の王たちは何を思うのか。ふと自分の口から出てきた言葉に、蒼夜は横目で扉のほうを見た。
沈黙する征服王。彼が、この後一体なにを言うのか。この国をどう評するのか。
もはや彼にとって、議員たちからの質問や圧力は眼中にすらなかった。
◇
完全に言いたい放題に荒らされた議員たちは、もはや彼らの言葉に対して抵抗する気力すら無かった。最初の三人の回答が、どうやら堪えたらしく、特にロウリィと最後の蒼夜の言葉には怒りと動揺が混ざり、どちらを優先するべきか迷っていた。普通なら怒るところなのだろうが、場の状況が状況だ。生放送で世界にも中継されている、この場で怒りに任せて怒鳴り散らすことは果たして政治家として、大人として、世界の有数の国の一つとしていかがなものか。
……というのもあるが、やはり二人の回答が決定打だったのか、これ以上は無駄と見て議員たちは、露骨な疲労感を曝け出すと、審議を終わりへと向けた。
結局、特地から来た三人に振り回される形になり、トドメに油断していた蒼夜からの言葉に議員たちは、自衛隊の非難のネタをつかむことすらも出来ずに終わった。
「……大敗だな。こりゃあ」
「……ですね」
審議が終わり、伊丹たちがいったん退室すると、彼らの側に座っていた二人の議員が口を開く。
幸原たち野党議員の対極に位置する席に座るのは、現内閣総理大臣の
現内閣の大臣二人は、伊丹たちの審議について口を挟むことはなかったが、ただ傍観していたというわけではなく、惨敗した向かい側の席の様子を見て、ため息と一笑をしていた。
手痛い結果に終わった今回の審議は、嘉納としては見ものだったらしいが、総理大臣であり、小心である本位にとっては、胃痛の要因にしかならなかったようだ。
「まさか、政治のなんたるかも知らない娘っ子たちに、遊ばれるとは思ってもなかったですよ」
「私もです。しかし、これが原因で、特地での活動に支障がでなければいいのですが…」
頭を抱える本位の隣で、嘉納が満面の笑みを浮かべている。陰険な政治ではない、久しぶりに波乱万丈な審議であったことが、余程すかっとしたのだろう。加えて、彼の脳裏には鳩が豆鉄砲を食ったように、目を丸くしていた野党議員たちの顔が鮮明に記録されており、その顔が滑稽だったのか、更に笑いの種として頬を緩ませていた。
「ま。取りあえず、頭の固い連中にはいい薬だったでしょうに。特地の状況を聞いて、笑い飛ばしてた議員たちの顔、見ましたか? 親に説教をくらってた顔ですぜ!」
「……あまり大声にしないでくださいね。狙われるのは私なんですから……」
だが、本位が内心では嘉納の言葉に同感で、散々上から目線だったり偉そうな顔をしていた野党議員たちの呆けた顔は、彼から見ても「ざまぁみろ」と思えるものだった。
「ですが、確かにいい薬になったでしょう。議員の中には特地を見下していた者も多いですからね」
「文明、文化、技術、思想。あらゆる点で言えば、特地は確かに劣る。だからこそ、無意識に議員たちも見下していた。……が、それがあの審議でひっくり返った」
「……私たちが今の生活、文明や文化を手に入れるために棄てたものを。彼女たち…いえ、特地の人間は持っていたのですからね」
飽くなき欲求と発展のために、人間は多くものを棄てて来た。それは、思想だったり意識だったりと様々だ。が、それらが基本的に共通しているのは、人間の内面的なものが多いということ。つまり、精神的に言えば特地の人間、人々は現代の人間が棄てて来たものを、しっかりと持っていた。
「差別を乗り越えた共存。命の尊さ。確かに、私たちは死人しか見ていなかったのでしょうね」
「……でしょうね。けど、今の我々とは違い、何かが原因で直ぐに死んでしまう彼らは、必死に生にしがみ付いている。命の重さを、我々とは別の意味でよく知っている」
「死人という結果ではなく、生者というその後……分かっているつもりが、分かっていなかったのか……」
「それを考えるのは、我々の仕事ではないでしょうに。総理。我々がするのは、少しでもこの国をよりよくすること。その為に、若い奴らに多くのものを残す」
「……その肝心の若い者と対峙する、となると頭が痛いですけどね」
「ですなぁ……」
頭痛を抑え、ため息をつく本位の隣で、嘉納も自分の言った言葉に苦痛を感じたのか苦い顔をする。しかし、その割に声は明るく目線も逸らすどころか、ある場所を凝視していた。
伊丹、そして蒼夜たちが退出した方角。最初に彼らが現れ、今は閉じられた扉の向こう側だ。
(……ただの若造ってワケでも、なさそうだがな)
最初の審議は伊丹たち自衛隊の活動報告と、特地から参考人として連れて来た娘三人との審議。その後には、マスコミを全員下がらせ、各国代表と日本の議員たちだけの完全非公開で第二審議が行われる。
無論、それは蒼夜たちについて。そして彼らの処遇について、と言ってもいい。表立って、第一審議で普通に現れたが、立場上、彼は非常に不安定な立ち位置にいる。
特地から来た人間でありながら、日本語を使え、そして異能とも呼べる力を持つ
そして。何より、彼らが国連からの調査員というのだから、いよいよ本当かどうかも怪しい。そもそも、国連が彼のような若い日本人を所属させているという話自体、聞いたこともないのだ。
(さて。鬼が出るか蛇が出るか……丁半と行こうじゃねぇか)
嘉納の予想する「丁」か、それともその予想も超える「半」か。第二審議の用意は、マスコミの退席で、始められようとしていた。
「……さて。ここからが俺たちは本番だな」
「はい。次はいよいよ、私たちの番。第二審議です」
第二審議が始められるまで、蒼夜たちは一旦、退席し扉の向こう側、廊下にいた。次の審議が公には公開できないもので、マスコミも一切取材不可能という、傍から見れば政治家たちの悪だくみが行われるのでは、と思われるが、それが彼らの為だけに行われる、公開処刑のようなものであることに、ネタにしか興味のないマスコミは気付きもしなかった。
「ここからは、一気に俺たちに焦点があてられる。俺も出来る限り答えるけど、予定通りライダーと先生も話に加わってね」
「うむ。いよいよ、この征服王たる余の出番というわけだ」
「といっても、戦うわけではないんだ。途中でキレて剣を抜くなよ」
「……バーサーカーもね」
どうして唐突に自分も釘を刺されるのか、と不思議そうに驚いていたが、清姫の場合は彼が馬鹿にされた時点で炎を出すこと、変化スキルで龍になることは、蒼夜たちは身をもって知っているので、当然のことだった。
しかもバーサーカーのクラスは、ただでさえ意思疎通が不可能なクラスだ。口を開けば支離滅裂、なんてことはあり得るだろう。
「そんな……私は、旦那様のために……」
「その旦那に迷惑をかけるから、できるだけ口を閉じててくれという意味だ。君の言葉は、政治家たちから見れば、笑い話にしかならないからな」
「ああ……そんな方たちなら、いっそのこと」
「だからそれを止めろと言ってる」
既に炎が出かかり、髪の毛が揺らめいていた清姫に、アーチャーは冷や汗を滲ませる。この調子では、直ぐに彼女の怒りが頂点に達するだろうと、先行きの不安さに蒼夜とキャスター共々ため息をついた。
正直、蒼夜も内心ではうまくいくのかは、自分でも半信半疑で脳裏では既に失敗の結果が組み上げられていた。それを考えるだけで、腹が立ち、自分の不甲斐なさに頭が痛くなるが、それは可能性の一つにすぎないと考えをやめると、タイミングよくランサーが訪ねてきた。
「で。坊主の方は用意、出来てんのか?」
「取りあえず、あるもの使って何とか乗り越えないといけないからな。用意は……ま、一応は出来てるかな」
「大丈夫かよ」
「孤立無援の状態ってのは慣れてるし、今回はなにも戦ったりするわけじゃない。あるもの、ある事、全部使ってやりきるだけさ」
「口八丁が坊主の武器ってことか」
「そういうこと。困った時には先生もライダーもいるし」
「駆り出される私の身にもなれ……」
と、事あるごとに自分頼みにされているキャスターは、薄く青筋を浮かべながら頭を抱える。マスターからの指示であり、自分たちの立場も関わることなので、手を抜く気もないがこうした政治的な駆け引きとは、一時的には離れられると思っていた彼も、まさか現代に戻って来て、日本人の政治家たちとの
「き、キャスターさん、ファイトです!」
「今のろ……キャスターさんなら、乗り越えられると思います!」
どう声を掛ければいいのか分からない、リリィとマシュの声援を背で聞き、無いよりはマシと礼を言って受け止る。彼女たちも期待はしているのだ、なら、やるしかない。
諦めたキャスターは、憂鬱と苛立ち、そして不機嫌さを混ぜたいつもの表情に戻る。
最初に召喚された時、そして日常的な彼の顔は蒼夜も見慣れていたが、その顔が今日は何時になく頼りがいのある物に見えていた。
「……先に言っておく。さっきと同じで、私はフォローに回るだけだぞ」
「それでいいよ。あくまで、こっちの主力はライダーと俺だ。そりゃキャスターに全部任せたら万事解決しそうだけど、それじゃ俺がマスターだっていう証拠にはならない。
だから、どの道、キャスターはマシュと一緒にサブに回ってほしい」
「……ふむ、弁えは出来ているということか」
「あの議員たちをぶちのめす覚悟が出来てると言ってもいいですよ」
「そんな事をするヤツが実際に一人、ないし二人は心当たりがある。本当にしてくれるなよ」
「……そっちは善処します」
明らかに誰の事を言っているのか分かった蒼夜は、苦笑した顔で頬杖をかき、ちらりとバーサーカーとライダーの顔を見る。二人とも、自分たちのこととは気づいてない様で、その気楽な顔に彼も肩に重荷を感じ、ため息をついた。
こんな調子で、果たして審議を無事に終えることができるのだろうか?
急に不安になって来ていた蒼夜だが、時間は待ってくれなかったようで、再び会場への扉が開かれた。
「……先輩。いよいよです」
「ああ……ここからが、正念場だ」
第二戦目。いよいよ、次なる狙いは自分たちだ。
だが、ただ黙ってやられるほど蒼夜も愚かではない。彼も彼で、やれることを全てやりつくすだけ。真実を語り、言葉を操り、この場を乗り切るのだ。
言葉での戦いは、彼も初めてだが、彼の周りには頼もしい者たちがいる。
大英雄、征服王、魔術の君主、そして
―――大丈夫です、きっと。
不意に、横に立つ後輩の少女の顔を見て、蒼夜はホッと安堵する。言葉にはしなかったが、大丈夫だと語りかけてくる彼女の表情に、自然と勇気をもらった蒼夜は、その笑顔のおかげで大きく一歩を踏み出し、つい先ほどとは違い、笑みの表情で進む。
「んじゃ、行くとしますか……!」
今、第二審議が始まる。