Fate×Gate = Gate Order = 作:No.20_Blaz
いや、最後のは特に関係ないんですがね。
単なる語呂合わせっていいますか。
さてさて。暑さの影響で大分と更新が遅れましたが、やっと最新話投稿です。
取りあえず、もうしばらくはこの審議が続くと思います。
なにせ、こっちがメインみたいなヤツですので。
ですが、流石に七月は課題などが山積しているので、もう更新しないと思います。
次の更新は恐らく早くても九月ぐらいかと。
…まぁ、頑張って八月に一本でも出してみます。
それでは、最新話をお楽しみください。
…あと、例によって誤字脱字もよろしくです…まだあるみたいなので
第二審議では、蒼夜たちカルデアのメンバーに対しての質疑が行われ、彼らに対しての疑問、不満などが一斉に襲い掛かってくる。
最初の審議で、聞かれることのなかった質問、問いかけ、尋問まがいの脅し。彼らについて、根掘り葉掘り問われ訊かれ、政治家たちは、彼らから自分たちの有利かつ有益な情報を根こそぎ手に入れようとする。
そもそも、蒼夜の存在自体、その世界ではイレギュラーなもので、彼の存在は母国とされる日本でさえも、実体をつかめていない。彼が本当に日本人なのか、彼はどうして特地に居たのか。彼の周りに居る者たちは。本当に国連が送った人間なのか。
そもそも、カルデアとは何なのか。彼らは本当に、
それを全て知るために、彼の全てを丸裸にするために、そして、自分たちの有益な情報を手に入れるために。
政治家たち、そして蒼夜たちの思惑が交錯する中、第二審議が始まった。
◇
人と出会った時、こんなことは無かっただろうか。
ふと顔を見合わせただけ。後ろ姿を見ただけ。ばったりと出会い、すれ違っただけ。
そのほんの一瞬、刹那の瞬間に自分の第六感のようなものが働き、自身に対してこう告げる。
“──―
理由も不明確で、確かな根拠もない。たった一瞬、近くに近づいただけで、自分の中からそんな言葉が沸き上がってきただけだ。根拠や理由というのは、時間をかけて脳が整理し、導き出す答え。一瞬で現れる勘の言葉は、予想でしかない。
それは確かに予想なのだろう。だが、同時に予想は
「違うだろう」から「違うと思う」、他人事ではなく自身にも関係がある事として認識する。
人は、それをカリスマと呼んだり、素質と言ったりする。
「マスコミの退室は完了。議員も、彼についての報告を聞いていない者は退室したから、かなり人数が減りましたね」
「ここまで殺風景な審議など、過去にあったでしょうかね……」
「多分無かったでしょうね。今まで、こういった会議は公開されてきましたから」
そもそも、国民は政治に関与、介入をすることはできず、国民投票や民意というのが、精々耳を傾けられるだけ。最終的な判断や決議は、全て政治家たちが執り決めている。その彼らが、結果どんな結論、決断を下すのかというのを知るために、議会などの公開が義務付けられている。動画サイトでも、生放送が行われているのだ。
「世論がどんな反応をするか、考えるだけで頭が痛くなります……」
「本位さん、今更ですよ、それは。もう、国民の大半は政治に対して呆れ気味ですから」
それが自分に対しての言葉と分かったうえで、嘉納は国民の自分たちに対しての見方というものを認めていた。
議員たち含め会議室に残った政治家たちは、この殺風景な会場に新鮮さと不慣れさを感じていた。今まではマスコミが居て、多くの議員たちが居て、フラッシュライトの光が当たる中で行われていたが、今回は違う。
「叩かれるのは覚悟しておきましょうや。今回の一件、俺らにも飛び火は確実でしょうし」
「はぁ……頭が痛い……」
慣れていた空間が、少し変化しただけで、全く別の何かに見えてしまっていた。自分たちが何時も使っている、入っている筈の場所が変わり果てたように見え、嘉納たち以外の議員の中にも戸惑って周囲を見回す議員がちらほらと居る。周囲はSPがガードし、厳戒態勢が敷かれている。
その中で、いよいよ問題の第二審議が行われるのだ。
「それと、今回の審議にも伊丹を同席させます。アイツにも、色々と知っておいた方がいいでしょうしね」
「分かりました。……と」
ガタン、と重い扉が開かれる音が響き、議員たちの目は一瞬にして扉へと集まる。
反射的な無意識で、扉へと向くと、そこには先ほども現れた青年と少女、そして一人の男の姿があった。第二審議の主役、蒼夜たちの登場だ。最初の審議と違い、今度は先陣を切り、堂々とした足取りで入ってくる姿は、もう隠す気などないという意志のあらわれだろうか。
「来たか……ッ!」
刹那、肌から感じられた気配が、体中の毛を逆立て、議員たちの顔から汗を滲みださせる。突如、前触れもなく感じられた、異質な気配に誰もが恐怖をしていたが、それが次第に殺意などのものではないと気づくと、どよめきまでに落ち着く。それでも動揺は隠せないらしく、息を飲む議員たちは、現れる者たちを凝視していた。
「あれが……」
「報告にあったという人たち、ですか……」
蒼夜とマシュ、そして孔明。現代人ということをまだ知らないが、所詮はその程度だと見切っていた一部の議員たちは、その考えが間違いであることに気付く。
たった一歩、蒼夜の後ろから入ってきたサーヴァントたちが、踏み込んできただけだというのに、会場の空気は一変される。今まで、吸って来た会場内の空気が、時代を巻き戻されたかのような逆行の感覚。それは、ある意味で正解なのだろう。彼が連れているサーヴァントたち。その大半は、議員たちよりも過去の時代を生きた英雄たちなのだ。
「オイ……これ、俺たちが負けるんじゃねぇか?」
不意に嘉納がそう言い放ち、この審議の結末を予想した。
大義名分は第二審議だが、実際は裁判のようなもの。相手は青年、負ける要因もない。
なのに、彼らが現れた瞬間、どうしてその自信が揺らいでいるのだろうか。
その揺らぎを、嘉納は負けると自分たちが思っている、と予想していたが、これがどうなるのか、それはこれから分かる事だ。
(……改めて見ると、凄い違和感だな)
最後に入ってきた伊丹が、蒼夜の後ろを付いて入ってくるサーヴァントたちの姿を見て、その後ろ姿と周囲との風景に違和感を覚える。しかし、その違和感は「この場所には似合わない」と言う場違いではなく、「溶け込んでいる」という浸透、違和感の無さだ。特に、蒼夜の後ろを歩くキャスターとアーチャーは、空気から「居て当たり前」という馴染み加減だ。
(あのキャスターさんは、スーツ姿だし、まぁ違和感ないだろうなって思ってたけど……問題はあの
伊丹はアーチャーの正体について知らないからの違和感なのだろうが、彼の正体を知れば、自然とその違和感も消えるだろう。
まさか、彼が他の英霊たちとは違う、別の時間軸の人間であるとは。
(まぁ、それ以上に他のみんながここまで馴染んでるっていうのが驚きなんだよな……これってもしかして……
そう。実は、今回の参考人招致に当たって、サーヴァントたちも正装としてスーツに着替えていた。ランサーのタイツや、セイバーの鎧は、違和感以上に警戒心を抱きかねない。その警戒心を解き、少しでも審議が円滑に進むためにということで、今回ばかりは伊丹からも着替えてくれと頼まれていた。
着替えたのは、アーチャーとランサー、そしてセイバーの三人。ランサーは黒いスーツに蒼いネクタイをつけ、アーチャーはグレーのスーツにパーソナルカラーである赤のネクタイをつけている。
そして、セイバーはテュカと同じく女性用スーツを危なっかしく着ていた。どうやら、まだ年若い彼女にとって慣れない服装だったらしい。
なぜアーチャーまでも、という疑問があったが少なくともあの外套姿よりは警戒心は持たれないだろうと、伊丹も追及はしなかった。
「デカいな……二メートルはあるか?」
「今の時代、二メートル越えの人間なんていませんよ……」
三人と違い、スーツではなく本来の服装を纏いずんずんと歩くライダー。彼の姿が、この場で一番目立ち、そして議員たちの目を引いた。
体格もそうだが、その体を支える分厚過ぎる胸板と筋肉、太い腕。燃えるような赤い髪。そして、彼が相応の地位の人間である、ということを示す赤いマントをなびかせている。まさに王者そのもので、ここまで堂々とした、そして豪華な服装は見たことがない。議員の中には口を開けて呆気に取られているのも居た。
本物の王、いや、それとも見た目、格好だけか。後者であれば、どれだけ楽だろうかと考えるが、彼の真名を聞けばそんな浅慮な考えは霧散する。
「なんだ、あの大男……」
「まさか……帝国の王族なのでは……」
「……ふん、所詮は特地の人間だろ」
耳をすませば、議員たちの声が聞こえてくる。いくつか聞き取れない声もあったが、どうやらライダーの登場が予想以上の効果をもたらしたようで、議員たちの顔には余裕の色がない。強がりを言っている者もいるが、内心では彼が放つオーラ、覇気を受け止めるだけで精一杯なのだろう。
それが、これからしばらく続くというのだから、弱みを握る以前に自分がそれまで耐えなくてはならない。
「なんだ。期待していたよりも覇気のない。居るのは辛気臭い、陰険な奴らばかりではないか」
容赦なく、普段の太く低い声でライダーが思ったことを口にする。見渡してこちらを見てくる議員たちの姿に、彼も少しは期待していたのだろう。だが、見渡す限り怯え、肥え太った者ばかり。偶に睨む者も居たが、それが強がりであるのは見て分かった。
「坊主、お前の国の政をする者たちは情けないのぉ」
「それここで堂々と言わないでくれる……言うのは、また後で幾らでも言っていいから……」
蒼夜も、伊丹から見れば突っ込むところが違うと言いたいが、嫌悪感を持っていた彼の心情であれば、無理もないのだろう。
加えて、これから彼の言う通り、ライダーたちにも幾らでも話をすることができる。その機会が与えられているのだ。今から始めてしまっていては、後にもう言うことはないと言って終わられてしまってもどうすることもできない。
「しょっぱなから手厳しいな、オイ……」
(頼むぞ、蒼夜……こんなところで、トラブルだけは止めてくれよ……)
これがこれから続くとなると、嘉納でさえも何が起きるか予想はつかない。そして、伊丹も自分に飛び火どころか、大惨事になりかねないとして、キリキリと締め付けられる胃の痛みに手を当てていた。
『……それでは、第二審議を始めます』
「──―この第二審議で、質問等を担当させていただきます、幸原です」
(あ。さっきの議員さん)
引き続き自分との討論の相手が、先ほどの幸原であることに気付き、話しやすさを感じた蒼夜だが、当然、それは自分が相手しやすい、勝てる相手だということも含めての話しやすさだ。
「よろしくお願いします」
「はい。それでは、早速、議題に移させていただきます」
だが、最初の審議と違い、人が変わったかのように淡々と話を進めていく彼女の様子に意外さを感じ、後ろに座っているサーヴァントたちのことを思い浮かべる。どうやら、ライダーの存在感が、彼女たちの気を引き締めさせたらしい。
「……単刀直入に言わせていただきます。天宮さん。貴方には、現在国連から、ひいては日本政府から様々な容疑が掛けられていることを、言わせてもらいます」
「…………」
「政府は昨日、国連に対しあなたの所属する組織「フィニス・カルデア」について問い合わせましたが、国連からは「こちらが言うカルデアという組織は、国連公認、また確認されている国際組織には存在しない」と回答しました。また、PKO団体等も同様の回答をし、こちらが調べた限りでは、あなたの言う”カルデア”という組織は存在していません」
それはそうだろう。そもそも、カルデアは蒼夜たちの世界に存在する組織であり、彼らの世界の国連が、カルデアの存在を認めていた。どれだけ向こうで認められていると言われても、今の世界ではカルデアはおろか魔術に関する組織すらも存在しないのだ。
「この事は、国連についても報告される案件であり、回答次第では国際法で貴方は処分される可能性もあります。その事を承知していてください」
「……分かりました」
「更に二つ。一つは当然ながら、貴方が特地に居たという事実。これは、門自体が自衛隊の管理下にあり、一般には解放されていない門を潜ったこと。そして、その貴方が特地へと渡ったということ。密入国とも取れる行為です。
そして。貴方が日本人ということで、こちらから戸籍情報を調べさせて貰いました。ですが、「天宮蒼夜」という人物は、戸籍上の記録はなく、また同姓も
戸籍自体がどうなっているのかは分からなかったが、元の世界で、その事について話題が持ちあがらなかったことから、親がしっかりと戸籍登録をしてくれていたのだろうと考えていた。ただ、彼の中で一番以外だったのが、自分の姓である「天宮」が居ないということだ。探せばいるかもしれない程度に思っていたが、まさか完全に居ない、と言われた時には少しショックだったらしく、目線を無意識に下げていた。
「もう一度、訊かせて貰います。貴方の名前、それは本名ですね?」
「ええ。名前については本当です」
今更、本名が嘘だと偽る意味もない。加えて、清姫の居る前ということもあって、蒼夜は下手な嘘がつけないので、言葉選びも今まで以上に慎重だ。背筋が凍る殺気を時折感じながらも、そればっかりは嘘ではない、と言うように即答で返す。
「……分かりました。では、まず貴方が日本人である、という証拠のためにいくつか質問をさせていただきます」
さて、ここからが本番だ、と自分に言い聞かせた蒼夜は小さく息を整えると、頷いて答える。
「ではまず、貴方のご出身は──―」
蒼夜に対しての質問が粛々と始まり、後ろから彼の様子を見守るマシュは、小さく息を飲む。今までのように、これから始まるという明確な開始がないので、水のように滑らかに始まった審議に危機感を感じていた。
「……自然な始まり方です。本当に、いつの間にかという感じで……」
「こういった審議、会議は他の人間に自分たちとは反対、つまり反論を言わせる機会を与えないというのが基本だ。反論を言わせれば、他からも反論意見が出てしまい、自分たちの思惑通りに事を運べなくなる」
「なるほど……だから、自然な導入で不意をつき、反論者を出遅れさせると」
「この場合は無論、蒼夜が対象だ。だが、相手が一人であるのなら、この
「試している、というわけではないのですよね?」
「向こうにとって、我々は未だ謎の多い未知の勢力。いわば第三勢力だ。回りくどかったり、直接的すぎればかえって劣勢に立つと判断したのだろう。ならば、無難に、手堅く慎重な話運びにすれば、自ずと真実は見えてくる……という筋書きだろう」
その点で言えば、ある意味政府側の予定通りだと言える。幸原から投げられた質問に対し、蒼夜は数秒ほど考えては答える、というのを繰り返し審議は淡々と進んでいるかのように思えた。彼からすれば、進む道の足元を注意深く警戒しているのだろう。
逆に、こういった駆け引きを嫌というほど経験してきたキャスターから見れば、蒼夜はどこか誘導されているかのようにも見える。だが、それはあくまで、議員たちの予想通り、予定通りに進んでいればの話だ。
「だが、アイツの腹黒さは知っているだろう。アメリカに居た
「日本でなら、狸と言われてもおかしくないのだがね」
「むしろ
自衛隊に黙って、ピニャとの取引もまさにその一つだろう。彼女たちに自衛隊という一度切りの最強のカードを与える代わりに、自分たちの特地での活動の支援を求めた。そして、さらにその対価として、彼女たちがイタリカで必要としている
もし、自衛隊、ひいては日本と敵対ないしは協力関係が断ち切られても、最低限ピニャとの関係を続けていれば、蒼夜たちはとりあえず問題なく聖杯探索、特異点の調査を行える。
「ジェームズ・モリアーティでも居れば、彼をスカウトしていたかもしれんな」
「わからんぞ、アーチャー。逆にアイツが仲間にしているかもしれん……」
「お二人とも、マスターをどういう目で見ているのですか……」
既に、協力関係が断ち切られた時のことを考えての行動は、時期尚早ともいえるが、念のための保険、そしていざという時の糸口として確保している。
万が一、そうなった時というための対策は、蒼夜曰く、ゲームでもよくするらしい。
「全く……アイツの育った環境はどういう場所なんだ……」
サーヴァントたちが、マスターについて話をしている内に、幸原が蒼夜に対しての日本人である、という確証を確かめるための質問が終わったらしく、その区切りとして、結構です、という言葉がマシュ達の耳に入ってくる。
互いに平静のままということは、対した収穫も変化もなかったようだ。
「……回答から見て、貴方が日本人である、ということは間違いないようですね」
「一応、生まれて殆どは日本に居ましたから」
皮肉交じりに答える蒼夜だが、本人の顔は嘲笑ったり、馬鹿にしている様子はない。どうやら、事実を言ったが、それが皮肉に聞こえる言葉だったようだ。
「ですが、これであなたが日本の法で裁かれる可能性がある、というのも忘れないように。特地の人間であるなら、特別措置がなされますが、貴方がこちら側の人間であるということは、同時にこちらの法で裁かれるようになったということです」
「……ですよね」
容疑から考えるに、蒼夜がもし逮捕されるのであれば「詐欺」「管轄地への不法侵入」「密出国」などだろう。しかも彼には戸籍がないのだから、それも問題の種だ。ただでさえ容疑が多いというのに、国連まで引っ張りだしたのだ。国際法で裁かれるであれば、終身刑で果たして済むかも怪しい。
いずれにしても、蒼夜の周りにはもう、大量の爆薬ともいうべき問題があった。
「既に、密入国や自衛隊管轄地への無断侵入で、罪に問われています。さらに、これからの質問であなたに対しての、裁判での罪状、そして一部の証拠になることをご承知ください」
「物的証拠ではなく、証言証拠っていうことですね」
「ええ。本来、物的証拠であれば直ぐに裁判の証拠になりますが、今回はそれがなく、またあなたが戸籍、国籍を持っていないことから、それを捜索する手立てにもなりません。よって、これからあなたが答えること、話すことが全て、裁判や国連に対しての証拠であり、最悪、あなたの未来を決めるという事を覚えていてください」
「……わかりました」
言葉としては間違っていないが、やはり全て、向こうが決めるというのは納得がいかない事だ。少なくとも、彼は別に遊びに行ったり、スパイしに行ったりしていたわけではない。蒼夜たちは、蒼夜たちで人理修復という任務のために、特地へとやってきたのだ。しかも、その為に態々、並行世界という無理なレイシフトを行ってまで。それを今から説明する、ということになるのだが、果たしてどこからどこまでを話し、そして信じてもらえるか、というのが正直彼には心配だった。
(……さて。問題は向こうがどこまで、俺の話を信じるか、だな)
正直、蒼夜自身も直ぐに話を信じてもらえるとは思っていない。それは自分たちの話が飛躍して、馬鹿馬鹿しいものである、というのもあるが、現実しか見ず、見えているものしか見ていない彼ら議員が、果たして真面目に聞くかどうかさえも怪しい。
議員たちが、どこまで自分たちの話を信じるのか。それが、この場で最も重要な点だ。
「……では、まずカルデアについて、お話ししていきます」
正直、この場にロマニが居ないことは、蒼夜にとって痛手だった。彼が居れば、カルデアについて詳細に、かつ冷静に語れた筈だ。それについてはマシュも同様だが、彼女はまだこういった場の経験は浅い。
現時点でのカルデアの最高責任者、誰よりも組織について知っている
(どこまでできるかは、分からない……けど、やってみるか……)
──―人理継続保障機関フィニス・カルデア
魔術と科学が混合し、人類を強く尊命させるために設立された特務機関。
百年後までの人類史、魔術世界でいう「人理」を保証するため、各国から精鋭が集められ、カルデアはその活動を行っていた。
元々、魔術と科学はその性質、歴史的に相いれない存在として、時代の発展とともに関係は薄れていった。魔術は過去のものであり、神秘の薄れたこの世界では遺物となりつつある。科学は未来への道筋であり、人類の発展を促すが、それは時に過ちを犯すものにもなる。
魔術だけで見ず、科学をもってしても計れない人類の未来。それを観測し、人理の存続を目的とする。それがカルデアの目的だ。
「……ま。有体にいえば、人類の未来の保険屋……とでも言うんですかね」
この時点で既に、飛躍した話になっているのは蒼夜も自覚している。現に人類の未来を保証するという行為を、カルデアは行っているという話自体、子どもの妄想なのではないか、という顔で見ていた議員たちの視線を感じており、後ろに居たマシュと孔明もそうなることを予想し、ため息をついていた。
「つまり、人類の未来を観測し、その存続を保証する……ということですか?」
「そうです。といっても、俺はそこに所属している
現に。その為に自分はここにいるのだ。と
「哲学者や研究者たちが、提唱するようなものとは違う。明確な未来の観測と保障ができる組織、それがカルデアです」
「……ですが、それだけの事を可能にするのなら、それなりの設備や資金が必要の筈です。しかも、未来を観測……いえ、推測するだけでも現在の世界の科学技術を合わせても不可能なこと。そんなこと、夢物語としか……」
「俺も、最初はそう思ってました。けど、カルデアは事実、それを可能にした」
「それだけの設備とシステムを、そのカルデアは持っている……と?」
「そこについては、俺よりも彼女の方が詳しいと思います」
首を振り向き、後ろ座っていたマシュと目を合わせた蒼夜は、小声で彼女の名を呼ぶ。話から自分の出番があるのではないか、と考えていたマシュは既に用意は出来ていたようで、はい、と答えると立ち上がって、代わりに説明を始めた。
「初めまして。私は、彼、天宮蒼夜と同じく、カルデアに所属するマシュ・キリエライトと申します」
ここでマシュが登場し、カルデアの組織体について明確になっていく。彼女は元々蒼夜よりも長くカルデアに在籍しているので、説明でいえば彼女がこの場で適任だ。しかも、前の審議でマシュは結局、座って傍聴していただけなので、彼女についての情報は何一つとして存在しない。名前もこの場で彼女が初めて口にしたので、議員たちにとっては未知の相手だった。
「私は、先輩よりも長くカルデアに在籍していますので、ここからは私がカルデアの目的についてと、そのプロセスをお教えします」
「えっ……こ、公開してもいいのですか?」
「はい。本来は、NGなのですが、現状が現状です。ですが、こちらにも一定の秘匿権利がある、ということをご承知していただいて、且つその権利を許可してもらいたいのですが」
相手が全て、赤裸々に語っているのに、自分たちは隠すだけ隠すというのもフェアではない。マシュが一部の秘匿込みで、カルデアについて語るということに、何かあるのではないかという警戒心もあったが、謎に包まれていた組織が明らかになり、場合によっては何かに使えるのではないか、という野心を持った議員から、いいのではないか、という声が漏れ出ていた。
「……分かりました。マシュさん。貴方が話せる程度で構いませんので」
「ありがとうございます。それでは、先ず皆さんの疑問である「どうやって未来を観測するか」ですが、これにはいくつかの装置が必要で、それらを使用し私たちは未来を観測しています。
未来観測などに使用される超大型の疑似霊子演算器「トリスメギストス」。これは超高性能なCPU、ないしはAIと思って下さい。
そして、そのトリスメギストスを利用し、未来だけでなく、過去、現在などあらゆる時代を観測するものとして、小型の疑似天体、いわば小さな
他にも、そのカルデアスで観測するための装置として、近未来観測レンズ「シバ」があり、これらで私たちは未来の観測、という行為を行っているのです」
「ち、ちょっと待ってください!!」
「あ、はい……」
「マシュさん、今、貴方は未来だけでなく過去も観測できると仰いましたよね……!?」
「ええ……カルデアスは惑星、つまりこの地球が魂を持っていると定義し、それを複写することで観測を可能としています。よって、魂の過去、つまり人類史の過去もカルデアスは観測することができます」
それはつまり、今まで積み上げられた歴史、それすらもカルデアでは観測ができるということだ。事実、それら地球の過去である人類史の過去へと、蒼夜たちはこれまで何度もレイシフトしてきた。オルレアンを始め、ローマ、オケアノス、ロンドン、そしてアメリカ。全て未来でも、現代でもない過去の人類史、現代の人間でいえば歴史上の時代を彼らは見ることが出来るということだ。
それが、どれだけ馬鹿げた話であったとしても、果たしてそんな事が可能なのか、と誰もが疑ってしまい、中には嘘に決まっていると既に決めつける者もいた。
「ですが、当然、その為に莫大な資金と電力が必要で、カルデア内には大規模な自家発電装置がありますし、各装置を開発するために、それこそ国家予算並みの資金が投じられた、と聞いています」
「こ、国家予算!?」
魔術師たちの研究、魔術の探求はどのジャンルをとっても莫大な研究費用というものが必要になる。それは、その為の資材や資料、土地などが不可欠だからで、彼らの時代に生き残る魔術師とその家系は、大半が莫大な資金や土地を持つ貴族のような者たちばかりだ。
現に、魔術師たちの組織である魔術協会は、何代という世代にわたって研究や探求が続けられており、同時にその代数が魔術協会での
「はい。なにせ、これだけの事を行うための設備や施設、人員の確保等は並々ならぬ苦労があったと聞いています。現在のカルデア所長の父である先代所長も、主に資金面で苦労していたと」
後にカルデアでの運営、カルデアスの起動と維持のために莫大な資金が投資され、さらに膨大な電力が必要だと知った蒼夜。
その資金源と電力源が油田施設や原子力発電所だけでは足らない、ということから、先代所長が冬木の聖杯戦争に参加した理由だということを知るのは、今から大分後のことである。
「なら、それだけの資金運用を誤魔化すことだって、電力面でもそれだけ膨大であるなら、誰かが気付くハズ。ましてや、それを国連が承認している、いや、確認していれば何らかの処置や加盟国への通告がある筈です」
「それは……」
莫大な資金が動いているという面で言えば、痕跡だったり
が、これを視聴していたアメリカ大統領は、当然ながらカルデアはおろか、そんな資金の流れすら聞いたこともない。CIAなどがあえて教えていないという可能性もあるが、その
「莫大な資金は兎も角としても、電力はその為の発電施設が必要になります。ですが、発電施設は各国も管理、監視していますし、何より貴方たちの組織への電力の流れを関知している筈です。念のために訊きますが、発電施設は何処にあるのですか?」
「……フランスだと聞いています。原子力発電所らしいのですが、私も詳しい場所まではわかりません。所在地は所長が管理していましたので」
といっても、その所長が親子そろっていないのだから、詳しい説明のしようがない。その追求だけは避けたかったが、議員たちはそれを逃すまいと追撃する。
「では、後々貴方たちの所長にお聞きします。今はどちらに?」
「……すみません。現在、所長は不在……いえ、居ないのです」
「居ない? それはどういう意味で」
「実は、カルデアの現在の所長であるオルガマリー・アニムスフィアは
ある意味、この時オルガマリーが居ないということは蒼夜たちにとっては有難かった。所長の管理である原発について、彼らが知らないというのであれば、原発の件だけでも追及は避けられる。しかも、こういった資金面、しかも個人所有のものは当然彼女が管理するのが道理なのだから、どうやって資金を集めていたのか、電力はどうやって確保しているのかはスタッフも情報公開されている程度しか知らない。
「……では、カルデアの運営資金については、マシュさんたちは関知していないと」
「はい。カルデアの核であるカルデアスがどうやって起動したのか、またその為の資金はどうやったのはかまだ……」
「分かりました。その点での質問はここまでにします」
だが、それで終わったわけではない。まだ、カルデアという組織について、国連が絡んでいるかという重要な点がまだ残っているのだ。
幸原は息を整え、未だ整理のつかない頭を動かして次の質問へと移る。
「では、カルデアという組織が国連に認められている、その理由は先ほどの未来の観測……つまり、予知ということですね」
「予知というよりは、予想、と言った方が厳密です。カルデアの未来観測は極めて精度が高く、オルガマリー所長もカルデアスに映った百年後の状態こそ、未来の私たちの人類社会であると」
同時に、カルデアスに映ったものこそ、これから彼らの辿る現実、未来だと言える。だからこそ、彼らはカルデアスに映った
それを今、ここで話すべきなのかを迷っているマシュだが、少なくとも蒼夜は語るべきではないとして、小声でまだだ、と言った。
「……そんな組織であるのなら、国連が認めないのはあり得ませんね。ですが、実際に国連はカルデアという組織の存在について否定しています。これについては、どういう理由でなのか、お二方はご存知ですか?」
「…………」
非公式の公認組織、という肩書で言えば納得はするかもしれない。だが、その組織の資金の流れや電力について先に話してしまったことが仇になってしまった。電力に不明な流れはない。資金がどこで集められたのかも知らない。
そんな組織が果たして存在するのか。いや、そもそもカルデアという組織はないのではないか?
どうせそんな結末だろう、と既に審議の結果を見ていた議員たちは暇そうにしている。もう既に勝った、子どもの些末事に付き合っていた自分たちに苛立ち、彼らの罪状について考え始めていた、が
「──―そこからは私がご説明しよう」
ふと、後ろから聞こえてくる声にマシュは振り返ると、椅子から立ち上がるスーツの男、キャスターこと『ロード・エルメロイⅡ世』の姿があった。鋭く、不機嫌そうな目つきで腰を上げた彼の様子に、まさかと思ったマシュは隣にいたマスターに目で訊ねた。
「……そろそろ難しいと思って。あとお腹も痛くなって来たから……」
「……先輩……」
「俺たちは一度下がろう。しばらくはあの人のターンだ」
「……貴方は?」
「失礼。彼らと同じく、カルデアに所属している諸……まぁ、ロード・エルメロイⅡ世と呼んでくださって結構。外部からの監視員、ならびに顧問をしている」
「……ロード……エルメロイ?」
貴族のような名前だな、と見た目との不釣り合いさに眉を寄せる幸原の違和感は正しいものだろう。ロード・エルメロイは元々貴族の出である魔術師、ケイネス・エルメロイのこと指していたが、彼が聖杯戦争で死亡し、以後彼が当主を失ったエルメロイ家の再建に尽力、次期当主であるライネス・エルメロイから名を賜ったというのが、彼の名の経緯だ。
本名はウェイバー・ベルベット。魔術協会でも新参者であった家の人間だが、彼こそが協会に新たな派閥を生んだ中心人物だ。
そして、彼の本名を知るのは、カルデアの中でもただ一人。かつてケイネスと同じ聖杯戦争を参加し、彼を生き残らせたライダー、つまり征服王イスカンダルのみだ。
「し、失礼ですが、その名前はご本名で……?」
「いや。本名は別にあるが、この名前は通り名のようなものだ。それとも、この場では本名を使わなければいけない義務でもあるのか」
不機嫌そうな目つきだからか、高圧的な雰囲気に気圧される議員たち。だが、中にはその態度が気に入らないのか、嫌悪感をあらわにしている議員もいる。どうやら、自分よりも若いというだけで、若造であると決めつけているようで、露骨な強者のアピールにキャスターは小さくため息をつく。
「あとしばらく頼む」
「全く……丸投げの魂胆が見えすぎているぞ」
「あはははは……」
キャスターと選手交代を行い、代わりに彼が席に立ち質問への返答をする。今まで沈黙していた彼が、突如として口を開き、交代したということに驚きと焦りを感じている。実力未知数の相手、しかもこんな時に出てくるのだから、口での化かし合いについては強いのだろう。
実際、キャスターことロード・エルメロイⅡ世は確かに交渉術が優れている。魔術協会での、強者たちとの中での自分の立ち位置の確保と安定、そしてそれによって培われた胆力。
アルヌスでも狭間との交渉も主に彼のお陰で、彼のお陰であの場を乗り切れたのだと蒼夜は考えていた。
「だが、どの道この局面だ。今後のために、やるしかあるまい」
「……頼みます、ロード・エルメロイ……」
「……Ⅱ世だ。毎度のことだが、いい加減覚えろ」
だが拒否する気もなく、キャスターはバトンタッチされた出番に赴く。見えないように腰の辺りで乾いた音とともに受け取ったバトンは、思いのほか軽かった。
だからなのだろうか、とキャスターは目の前いる議員たちの姿に小さく笑みをこぼす。こんな場所、いや、こんな会議など
(あそこに比べれば問題でもないか)
ここからが、彼、ロード・エルメロイⅡ世の独壇場であることに、果たしてどれだけの人間が気付いていただろうか。
「さて。まずは先ほどの質問の答えだな」
「え……ええ……」
「カルデアが何故、国連から存在を否定されているのか。それは、今までの話からして実に簡単なことだ。
カルデアの設立目的は人類史の保証、そして観測。傍から見れば、それは今の科学技術では絶対に不可能な大偉業だ。なにせ、未来は見ることはできない、などという三文小説の言葉を軽く覆したのだからな」
──―未来はあやふやだから無敵なんだ。
かつて、そんな言葉を言った少女の言葉を思い返す。だが、カルデアの組織、そして彼らが持つカルデアスの前では、未来も未来視も、全てが白日の下にさらされてしまう。
無敵だった未来は、人類を守る為にその無敵さを失ってしまった。
それは、同時に誰の手にも届くものになってしまったという意味だった。
「だからこそ、カルデアという組織は
カルデアの行っている人理保障。それが悪用されないという保証どころか、できないわけがない。未来は結果であり、現在を変えれば未来は変わってしまう。都合のいい未来にするために、誰もが喉から手が出るほど欲しいものだ。
「そのためには、カルデアという組織は表立って存在してはならない。そんな組織があるのなら、人類はとうの昔に破滅してしまうからな。
そんな筈はない、と言い切れる
「た、確かに……」
一応、カルデアには厳重すぎるセキュリティが存在し、登録名に名前がなかったり、一致しなければ入館はできないが、それに反しなければ入館は可能だ。であれば、カルデアに入り、施設を占拠することだって
「大偉業ではあるが、同時にそれは偉業であればあるほど危うい。カルデアという組織、そしてその実態は、その危険性故に隠されなければならない。だからこそ、カルデアという組織について国連は知らぬ存ぜぬと決め込んでいる」
「で、ですが、それならこの場でそれを話してしまっては……!」
そんな重要なことをここで話したキャスターに、逆に幸原の声が上ずっているのは、彼が本来隠すべきことを暴露したということについて、改めて説明したからだ。
カルデアという組織は、本来、隠される組織でなければならない。
なのに、自分たちの立場が危うく、そして罪を負わされるということから止む無く彼らは、カルデアについて語ってしまった。
いつの間にか、自分たちはパンドラの箱を開けてしまっていたのではないか。という恐怖が、自然と彼らの中に現れていたのだ。
「さて。どうだろうな。この審議は他の国のトップたちも視聴しているのだろう? アメリカ、ロシア、中国、フランス、ドイツ、イタリア……ま、名だたる国々は見ているだろ」
事実、今回の審議二つはアメリカを始め、中国やロシアといった先進国はトップたちが見ている。特に、日本との関係が強く、カルデアが国連の組織ということで、その本部があるアメリカ、そして対立している中国や、情報を手に入れたいロシアは釘付けの状態だろう。
少なくとも、そういった大国、主要国家のトップはこの審議を現在進行形で視聴している。それはキャスターも事前に聞かされていたので分かっていた。
「そう。特にアメリカは特地に自衛隊を送り込む前、積極的な支援をすると言っていたな。なら、その見返りである今回の報告も見ているな。加えて、今回我々がこうして捕まり、容疑を問われている、となれば……あの大国も黙ってはいまい。折角、国連と口裏を合わせて黙っていたのだからな」
既にカルデアについて話してしまったという現状について、それが場合によってはマズイことなのではないか、という恐怖を強調させていた。
勿論、だからといってアメリカが悪いわけでも、怒るわけでもない。今回の彼らの審議やその議題に対し、アメリカは何一つとして関わっていないのだ。アメリカの方は自分たちが知っているどころか、聞いたことのない話を急に振られたせいで若干は戸惑っているだろう。
(口実は出来た。さて、後は……)
「ま、まさか……」
「別に、この話を聞いたからといって、アメリカが貴方たちを消すつもりなどはない。日本の一議員。しかも、他国が視聴している。こんな証人の多い場所で、そんな愚策をするわけもない」
命の危機など、ハナから意味もないことだ、と言わんばかりに呆れた様子で返したキャスターから、胸を撫で下ろしはしたが、どうにも馬鹿にされているのではないかと感じる幸原。実際、訳していうのであれば、「お前たちは取るに足らない」と言われているのだ。馬鹿にされているどころか、価値すらもないと言われていることに、まだ気づいていないのは、命の危機だったからか、それとも、と内心でため息をつく。
「仮にここに居る連中が全員記憶していたとしても、口裏を合わせるか、口封じをすればいい。無論、殺害、といった関与をにおわせるものでもない、生存ありきでのだがな。諜報の面でいえば、アメリカはこの国よりも数段上をいく。
いくら国内だろうと、世界だろうと、力を持っているといっても諜報、情報が全てである今の時代では、あの国に勝つことはできまい」
もっとも。自分たちの居た世界なら、さらに恐ろしい組織がいるのだが、と
「わ、分かりました……」
自分の命の危機がないということを知った幸原は、脂汗をハンカチでふき取ると、呼吸を整えて再び審議をするために、気持ちを切り替えた。
「一先ず、カルデアという組織ついては保留といたしましょう。ですが、後で所在地だけは聞かせてもらいます」
「それで結構。だが、聞いたからといって直ぐに行ける場所ではない、ということだけは承知してくれ。なにせ、組織が組織だからな」
「……坊主。カルデアの工房ってよ」
「ここでは言わないで、ランサー。カルデアの場所は」
「……あー……そういう事かよ」
「……では、次の質問です。あなた方が国連の指示で、動いていた。という前提にして、どうやって、こちらから特地へと赴いたのですか」
「シンプルな質問だな。無論、銀座にあるあの門から通らせてもらった。現在、特地への道はあそこだけだからな」
他国にも「門」が開いたのではないか、という可能性もあるが、それはそれで銀座事件と同じく大事になることは避けられない。であれば、キャスターの言う通り、彼らは銀座の「門」から、特地へと向かったということになる。
「ですが、貴方たちの姿はこちらでは確認されていません。これは、どう説明するのですか」
「当然だろう。私たちは、「門」が現在のような厳重な警備体制を敷かれる前に、特地に入っているのだ。警備システムの構築、その直前や事件後であれば、混乱に乗じて向こうに行ける……とは思えないか?」
「それはそうですが……」
話として筋は通っているが、どうにも釈然としない。これが弄ばれているからか、それても無意識のうちに、それが嘘なのではないか、と考えていたからというのもあったが、凝り固まっていた彼女たちの頭では、霧の中を手探りで探しているような感じになっていた。
時期的には、そんなやり方で特地へと向かったと言っても可笑しくはない。だが、実際はレイシフトで直接、特地へと向かったのだが、と真意を隠していた。
「清姫。今回だけは我慢してくれ」
「それは無理なご相談です、マスター。あとであの方を焼きます」
「焼くなって……仕方ないだろ、魔術のこととかサーヴァントのこと、ギリギリまで伏せとかないと……」
キャスターが語ったのは、あくまで可能性としての方法だ。実際には別のやり方で特地に入ったので、当然のごとく嘘としてカウントされる。
故に、蒼夜は隣で嘘に対しての怒りの炎を燃やす彼女に対し、必死の説得を試みていた。
嘘に関しては人一倍どころか百倍敏感な彼女だ。当然、キャスターの言葉が嘘であることは、無意識どころか自然と理解していた。
時には必要な嘘、誤解があるのだと言いたいが、嘘を極端に嫌う彼女を鎮めるのは至難の業だ。
(マスター。清姫は頼む)
(場合によっては令呪で鎮める……)
「……では、特地へは銀座の「門」を使ったということですが、あなた方は銀座にアレが現れることを知っていたのですか?」
「いや。こちらは別件での調査を行っていた。それが、偶然、あの場の出来事を聞いて調査に向かったというわけだ。が、向こうは通信環境などという都合のいいものはなかったからな。しばらくは組織と音信不通だった」
それが今でも続いていて、通信機が故障しているのだが。
ロマニとの通信は、この世界に来てからは一度も出来ていないが、マスターの蒼夜が平然としているということは、カルデアのほうで彼の存在証明が続けられているということ。つまり、カルデアとのパスはまだ繋がっているということだ。
どういうワケで通信だけが繋がらず、存在証明だけが続けられているのかは不明だが、これはまだ、彼らとの通信ができるという望みはあるということだ。
「その別件……というのは?」
「黙秘させてもらう。だが、少なくとも内偵のような国際法に違反することではないと言わせてもらおう」
動じるどころか、顔色ひとつ変えないキャスターは、淡々と質問に答え、返していく。まるで機械を相手にしているかのようだが、実際彼は投げかけられた質問を返しているだけにすぎない。
彼がここまで人ではないように思えるのは、恐らく彼に憑依した英霊が理由だろう。諸葛亮孔明。中国三国志でも有名な軍師であり、赤子でもない限り、知らない人間は殆どいないだろう。
「では、特地について調査をしていたというのですが、一体なにを調査していたのでしょうか」
「そちらと同じさ。文明がどれだけ発達しているのか、どんな文明か、どういった文化形態なのか。人口は、村の形態は、生活環境は、経済は。
未知の場所だったからな。取りあえず、小さな情報でも最初の調査では大きな成果にはなる」
「……銀座を襲撃した帝国、その国の実態を調査しようと?」
「場合によっては、未知のフロンティアだからな。アメリカ辺りは、黙示録よろしく帝国を火の海にして、奪うだけ奪うつもりだっただろう」
征服王よりも質の悪いやり方でな、と後ろでどっしりと構えながら沈黙するライダーの気配を背に感じていたキャスターだが、どうやらライダーはこの審議をつまらないものと見ていたのか、普段醸していたオーラが半分以上もでていない。
ほりの深い顔は俯いて、大きく開かれた目も今は閉じている。下手をすれば、つまらない、と断じて眠りにつくだろう。そうなってしまっては、蒼夜の計画も水の泡だ。
(出番までに寝てくれるなよ)
「では、貴方たちは自衛隊とは別に、既にコミュニティーと情報を得ていると」
「そういう事になるな。といっても、我々も自衛隊が特地に向かったのと時間的な大差はない。恐らく、知り得ている情報も差はない筈だ」
蒼夜たちカルデアのメンバーと自衛隊、両陣営が特地に入ったタイミングは実は自衛隊のほうがタッチの差で早かった。自衛隊がアルヌスで戦闘をしたのちに、彼らはレイシフトで特地へと訪れ、そしてテュカの居た村に来訪したのだ。
「……分かりました。ということは、あなた方がここに来たという事は、目的は果たせたと、いうことですか?」
「いや。我々は偶然の遭遇である自衛隊との合流、そしてそれによる日本政府が持つ我々への懸念、それを晴らすためにここにいる。目的はまだ果たしていない」
「果たせていない。それはつまり、特地の地理調査だけではない、と」
「無論だ。現地の仲介人や情報提供者を確保するため、その諜報活動をしていた。が、結局は無駄になったがな」
エルフたちの村は炎龍に焼かれ、その後まもなく自衛隊と邂逅。その後、狭間との交渉で保護下に置かれた彼らは、諜報活動は一時中断してはいたが、仲介人や情報提供者の確保を諦めていたわけではない。
聖杯の情報を手に入れるため、彼らは独自にピニャとの取引を行っており、自衛隊とは別のやり方でアプローチをかけていた。
国という制約があるが、軍事力がある自衛隊と日本。一方で人数こそは少ないが、同等の力を持ち、国の制約がないカルデアからの戦力はピニャにとって、帝国にとっても魅力的と言える。しかも、彼らの戦力が英霊、つまり英雄たちであるということならば、その実力から有用性はさらに跳ね上がる。
英霊という存在をフルに活用した、この方法で現在カルデアの面々はピニャに対しての関係は強い。
「では、貴方たちの最終的な目的は、特地の現地調査とその報告、ということですか?」
「そうだな。だが、現在はある理由から連絡はできない。特地に居た際、貴方たちがドラゴンと呼んでいた炎龍の襲撃にあってな。通信機材が使用不能となってしまった」
「まだ、国連には報告はできていないと」
「国際電話でもかけたいが、ここに来るまでが急なものだったのでな。残念ながら、まだ報告はできていない」
わざとらしい垂れ糸だな、とアーチャーは小さく笑う。キャスターの言う通り、報告という点ではまだ報告はできていない。現在、カルデアは
つまり、まだ国連への報告が終わっていない。これだけでも、議員たちにとっては安定剤のような役割を果たす。国連は今回の参考人招致については視聴していない。そして報告がまだなら、今の内に口裏を合して貰ったり、自分たちにとっての不都合をもみ消すこともできる。こちらでは彼らを保護
(しかし、既にこちらは拠点を確保し、ピニャと呼ばれた皇女とのつながりと取引を持っている。仮にこの時点で政府からの協力が得られなくなっても……)
蒼夜たちの活動に対してのマイナスは少ない。あるとすれば、カルデアとの連絡のための通信機の修理ができなくなるぐらいか。
「我々は、これからこの参考人招致後に国連に対しての報告がしたい。だが、その為には通信機器の修理が必要になる。こちらで使用しているのは、特殊な機器で傍受されにくいものだからな」
「それは私の一存では判断はできません。恐らく、自衛隊と総理からなんらかの便宜が図られると思いますので、詳しいことはいずれ」
「……了解した」
とはいっても、そもそも国連に報告すること自体がないので、キャスターの言葉は時間稼ぎに過ぎない。内閣と政府は、彼らが通信機器の修理を終えるまでに、何か手を打つか、修理自体に手を加えるかをして、こちらの情報をつかみつつ、何か対策を取るというのが蒼夜とキャスターの一致した見解だ。
「──―続いての質問です。カルデアの組織的目的が人類の未来の保障ということは理解し、その為の設備があることは、彼女のいう事を今は信じるとします。
ですが、その未来を観測する組織が、どうして日本に来たのか。そして、「門」の向こう側へと赴いたのか。それが未だに分かりません。貴方たちは、別件ということで黙秘していますが、それは我々日本政府にも秘匿するべきことなのですか?」
「そうだ。こちらは何せ、未来を預かる組織だからな。しかも、未来が絡んでいるとなると、出来る限り不安要素は排除しておきたい。そうだろ? でなければ、この日本が最悪の未来を迎えるかもしれないのだからな」
じりじりとだが外堀を埋めている議員たちに対し、キャスターは未だ焦りの色を見せない。これぐらいのことであれば、まだこちらが口八丁でだますことはできる。
しかし、サーヴァントたちのことについて触れられれば、少しは揺らぐかもしれない。もっとも、その前に平気で嘘をついているキャスターの身の危険が、いま現在後ろから感じられていた。当然、原因は清姫である。
「清姫、今はマジで我慢してくれ……! あとで叱りは受けるから!」
「それは無理な相談です旦那様。あと一回、いえ、一言、一単語、一語でも嘘をつけば私の口から火が噴きます」
「明らかな宝具発動だからマジでやめてくれッ!!!?」
小声ではあるが、今にも叫んで令呪を使いたい蒼夜。嘘の連続で、我慢してくれと主からの懇願で思いとどまっていたが限界点は近い。彼らの前では、キャスターが彼女をしっかりと抑えておいてくれと、悲願している後ろ姿があり、必死に冷静さを装っていた。彼にとって、焦りと危機は後ろからの不意打ちだ。
「では。次です。こちらの方から、調べさせて貰いましたが、あなた方が日本国内に入国した形跡、空港や港といった経路での姿が確認されていません。これは、あなた方が不法入国したか、それとも国内に居たかになりますが」
「…………」
平行線が続き、いよいよ小手先だけでの攻撃に変わってきた議員たちの質問にキャスターは後ろをちらりと振り向く。
前門の虎後門の狼というわけではないが、後ろには笑顔だが笑顔ではない顔で、チロチロと舌を出し、今にも炎を発火しそうなバーサーカーの姿があった。これにはキャスターも話が違うとばかりに怒りの表情をしていたが、蒼夜も手を抜いていたわけではない。
思えば、ここまで彼女が嘘を我慢していたということでさえも奇蹟なのだ。
(まずいな。これ以上、嘘を言えば確実に清姫が怒りを爆発させる。そうなれば、彼女の逸話から……)
清姫伝説の最後は、安珍を追っていった清姫が鐘の中に隠れた彼を蛇になって燃やしたというのが結末になっている。つまり、鐘はなくとも今のキャスターと蒼夜は鐘の中で、蒸し焼きにされるのを待つ安珍と同じになってしまっている。
彼女も、蒼夜との付き合いと絆のお陰で、自分たちにとって必要な物であると
どの道、爆発すればただ事ではないのだ。
(しかも、面倒な質問だな)
特地へと直接レイシフトしたということで、彼らは日本から「門」へ入ったわけではない。国内に入国の形跡が一切ないのは、当然といえる。だから、国内に居て、そのまま「門」に入ったというのが、この場で答えるべき回答なのだろう。
しかし、平行線が続くということは、それだけ嘘を重ねるということ。であれば、向こうも次第にこちらに対しての信憑性も薄れて行ってしまう。解答するにしても、その答えがありきたりであったり、秘密が多ければ劣勢になるのは目に見えている。
(このままダンマリ……いや、誤魔化しを決めるにしても、そろそろ清姫が限界だ。しかも、いくら最初のインパクトが強かったと言っても、隠し事が多いせいで向こうのこちらに対しての信憑性は薄れている)
ここでキャスターが執るべきなのは、信憑性の高い事実を告げるということ。そして、信憑性の高い嘘をつくということ。
この二つが、彼らの現状打破の方法であると考えられるが、後者は平行線が目に見えているので、あまり使えない策だ。
であれば、前者。事実を告げるということだが、レイシフトの話をこの場で出して、信じられるかと言われれば、誰もが笑い話として笑い飛ばす。しかも、その方法はタイムスリップであるのだから、今の時代では夢物語にしかならない。その他の話をするにしても、英霊召喚は最後まで隠しておきたい鬼札。人理焼却も飛躍し過ぎて信頼性が低すぎる。そして、その全てを繋ぐものとして聖杯もあるが、言えば言ったで、悪用と事態の混乱は先ず避けられない。必ず、他国の諜報機関が介入してくるだろう。
(……ライダーを投入する、か?)
征服王のカリスマはこの場では最強の手札だ。それを切る為には、それなりのお膳立てが必要。彼を出すには、こちらへの不信感を減らしておきたかったが、流石に今回はその為の材料が少なすぎた。
しかも魔術に対しての秘匿があるということで、無意識的に自分たちで自身の首をしめてしまっていた。これでは、八方ふさがりになるのも無理はないだろう。
だからといって、キャスターが諦めるかと言えば、当然そんな気は毛頭ない。彼も協会内の修羅場を潜り抜けて来た自負もあるし、彼に憑依している英霊の性分から言ってもここで終わる筈がない。むしろ、終われば何もかもがそれまでになってしまう。
意地もあるが、終われないという意思のあるキャスターは、次の手を打とうとするが
「──―なるほどな」
ふと。背中から、誰かの声が聞こえ無意識に耳を傾ける。目の前の審議に集中はしていたが、そこまで力んでもいなかったので、声は確かに、そしてしっかりと聞こえていた。その声は、彼が今まで聞いたことのない声で、低くも野太い声だがライダーのそれとは明らかに違っていた。
覇気がない、というわけではないが、鋭い声は自信に満ちていた。
(後ろ、誰だ?)
(今の声は……)
静観をしていた伊丹も、小声だがはっきりとした音量を聞き取れたので、目線だけでも動かして声の方へと動かす。
彼の場合はキャスターとは違い、声に聞き覚えがあった。それは、彼が昔から聞きなれた、この場で一番知っている人物であったからだ。だからこそ、その声は聞き逃すことはなく、記憶からも瞬時にすくい上げられた。
詰まりかけていたこの場を動かす存在。それが誰なのか、と予想した直後。状況から変化が起こった。
「──―少しいいか?」
「え……?」
今度は先ほどよりも音量のある、はっきりとした声がその場に響く。聞き逃しはする筈がない。キャスターは先ほどの小声の主が、その人物であると理解し、伊丹はどうしてこの場で動くのか、隣に居た
同時に、行き詰まりかけていたその場を打破するかのように、男が一人、何気ないような顔で挙手をした。
「えっと……どうしたのですか、嘉納議員」
「か、嘉納さん?」
唐突な挙手による審議の中断に、誰もが驚きを隠せなかった。キャスターとの問答をしていた幸原は、途中中断されたことと、その人物である嘉納が手を挙げて止めたことに、どうしたのかと目を丸くし、嘉納の隣にいた総理は一体どうしたのかと狼狽している。
議員たちも同じで、どうしてこのタイミングが審議を止めて手を挙げたのか、その行為が分からず、中には野次を飛ばして審議を中断させたことを批判する議員もいた。
が、それを気にすることなく、嘉納はのそりと体を立たせると、審議を止めた謝罪から話を切り出した。
「すまねぇな、審議を途中で止めてしまって。けど、どうしても聞きたいことがあってな」
「聞きたい事……? 嘉納議員、質問をしたいのは分かりますが、今は控えさせて……」
「分かってる。質問はひとつだけだ」
「…………」
年長者、それとも年の功なのか、幸原は嘉納の質問を止めることはしなかった。というのも、質問が自分たち、ないしは彼らに関係するものであって、何か手がかりになるのではないかという期待を彼女が持っていたからだ。
しかし、やはり法の中心ということもあり、言語道断と断じる議員もいないわけではない。
「内閣の一人だからといって、そんなこと、許されるわけがないだろう!!」
「お前のは後回しなんだよ!!」
この場での質問の優先権は、嘉納ではなく幸原なのだろう。それを邪魔したというもあるが、質問できる側ではないというのもあるのかもしれない。
審議自体は互いが向き合って行うもの。普通の会議であっても、そこは変わらないだろう。しかも、嘉納は一応、自分の側の人間に質問をしていることになっているのだ。
だが、それとは別に幸原の質問が自分たちの質問であるかのような言い方は、他人事であっても蒼夜も頭に来ていた。
「こちらは一向にかまわんがね。この場での質問は、極力回答しておきたい」
「それで、お前さんらのことを信じられるに値するから、か?」
「…………!」
返ってきた言葉に、キャスターは無表情ながら反応する。嘉納の返答は別段特別なものではなかったが、態度と雰囲気がどうやら感じるものがあったらしい。
打開策になるのではないか、という期待もあるが、どうやら彼自身にも興味を持ったらしく、内心では彼だけ評価を改める。
「……さて、それはそちらの考えにお任せするとしよう」
「そうかい。んじゃ、質問だ。ま、聞く事はぶっちゃけ大雑把なんだがよ」
嘉納という男。彼は、どうやら幸原の向こう側にいるような有象無象の議員たちとは違っていたようだ。日本の議員はどこも同じである、と思っていたが、彼の態度と鋭い目は確実にキャスター、そして蒼夜たちに食い込んでいた。
性格か、それとも経験か。どちらにしても、既に確信めいた様子で行動を起こしたという彼には、キャスターもちょっとした興味を持っていた。
(他の議員たちは、俺たちを
(自衛隊の関係者って、どうしてこう……有能そうなんだろ?)
(はい。なんといいますか、人材の傾きが凄まじいといいますか……)
狭間に嘉納。特に嘉納についてまだ知らない蒼夜とマシュだが、彼が自衛隊の関係者であるというのは、近くに座っている伊丹の顔で分かった。
つまり、彼もまた自衛隊、ひいては伊丹に関係を持つ人間だろう。
それがどうしてここまで有能そうに見えるのか。そして、どうしてそんな人間が自衛隊関係に多いのか。ただ、他の場所を見ていないからという可能性もあるが、どうにも二人の目からはそう見えてならない。
「──―お前ら、なんか隠してるだろ。それも、俺らに聞かれちゃまずい、いや聞いても信じられないだろうって奴か?」
臆することなく、嘉納は疑問をキャスターたちに投げかける。その迷いのない言い方は、核心を突かれたかのように蒼夜の背筋を振るえさせ、キャスターを小さくだが唸らせた。
そして。岩のように動くことすらなかった男の目を、静かに開かせる。