Fate×Gate = Gate Order =   作:No.20_Blaz

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お久しぶりです……久しぶりの更新です……

夏休みが終わってからいろいろと忙しく、十月には学費やら面接やらに追われてましたので、ようやく書き上げることができました……本当に遅れて申し訳ない……(汗

で。そんな今回の審議。正直言ってそろそろ自分も気力がなくなってきましたので、次回あたりで強引に終わろうかと思ってます。
つか終わらせたいです。ハイ。
なんで後半から少し強引かつ、しっちゃかめっちゃかになるのでご承知を。

それでは、今回前置きは短いと思いますが、お楽しみを……


チャプター3-5 「現代停滞地『日本』 =明かすか明かされるか=」

「―――確かに大雑把な質問内容だ。しかも、根拠もない」

 

 「まぁそうだな。根拠もねえし確証もねぇ。言っちまえば山勘だ」

 

 山勘という言葉に、キャスターは聞き覚えがあった。勘。つまり根拠もない「そうであるかもしれない」という第六感だけで結論付けた物事のこと。言うなれば「直感」と同じだ。

 

 (勘……直感だけでか。野生児でもあるまいし、そんな根拠もないやり方で政治が務まるというのか)

 

 無論、そんなことで政治が務まるわけもないというのは、キャスターも分かっていた。政治というのはいわば腹の探り合い、意地の悪さの張り所だ。相手の手口を知り、見極めるというのが鉄則の一つと言える。なのに、その政治の中を山勘でいくというのは、流石に政治を舐め切っているとしか言えない。現に彼の言葉に怒りをあらわにしている政治家の姿を見受けられた。

 

 (いや。時として直感による奇襲が、相手への不意を突く切り札になるというのは分かるが……まさか、その直感だけで私たちの不自然さに気付いたと?)

 

 だとすれば、なおの事あり得ない話だ。

 直感による行動、発言が無意味ではないというのはキャスターもよく理解している。そんな塊のような男と過去、苦楽共にしたのだ。だが、それだけで今の会話の中から「カルデアのメンバーは何かを隠している」という結論に至る理由が分からなかった。直感をするにしても、その直感に至る原因、理由があるはずだ。

 

「―――その直感から感じたことは?」

 

「まず、お前さんらの嘘についてだが、組織については嘘をついているとは思えねぇ。本当に嘘だとしたら話が凝り過ぎているからな。それに、さっきの嬢ちゃんが話した極秘事項。嘘ならひた隠しにするか、もう少し信用できるようなカードを切ってからだ。が、それを初っ端から出したってことは「初めからそれだけしか用意していなかった」か「本当に実在し、その存在を証明するため」のどちらかに絞られる。今のお前さんらの立場から、なりふりなかまってられないっていうのは見て明らかだ」

 

「なるほど。だが、もし前者だったらどうする。作家でも余計な部分だけの設定を凝らせて、他の部分が杜撰である、ということはよくある話だ」

 

「それも考えられるさ。けどな、仮に前者だとしても、それなら今度は国連の話に説明がつかねぇ。そして、その中のひとつである「門」を潜った話もな。

 お前さんらが仮に、前者を前提とした嘘つきであるとする。なら、あの混乱の最中、普通の人間が果たしてまともでいられるか? 非現実的な現実。誰もが逃げ怯えたあの状況を。

 そして、国連という巨大権力を出す意味。確かに嘘であっても国連という存在は、俺たちにとっては大きな存在だ。だがな、下手を踏めば俺たち政治家、特に総理からすれば直ぐに不審な点を見つけられる」

 

 国連のことに関しては、国際社会に立つ以上総理も耳ざとくしていなければならない。内包的であっても、鎖国をしているわけではないのだ。世界の国の一員であること。それを証明するためにも、国連という組織については敏感であるのは政治家誰もが同じことだ。

 そして何より国連のことは政治家たちが行っていることだ。政治家のテリトリーであるこの場では、ある事ない事、総理でなくても見抜くことは容易だろう。

 

「こういうのも難だが、今の人間ってのは自分たちで解釈できない現実には逃避的だ。なんせ、自分の考えでわかるものじゃないんだからな。分かる問題だけ、解釈できるものだけに縋りついて、その答えだけをもって生きている。だから、答えられないもの、解釈できない者には否定的だし、同時に逃避しちまう」

 

「同感だな。現にここに居る政治家たちは炎龍についての話、自衛隊の行動を自分たちの解釈だけで判断した。少し考えれば、他の解釈、仮説だってあり得たハズだ。それを考えずにいるというのは、意識的にその考えを、可能性を排除しているに他ならない」

 

 後ろからうっ、と唸る声が聞こえ蒼夜がキャスターの後ろを覗くと、幸原の口元がへの字に歪んでいた。どうやら図星だったらしい。

 

「だが、だからと言って、それがさっきの問いの意味になるとは思えない」

 

「ああ。話はまだ続くぜ。前者の可能性が排斥されれば、残るのはお前さんらが本当のことを言っているってことになるっていう可能性だ。だがさっきもそこの姉ちゃんが言った通り、お前さんらの大将の戸籍も、組織の存在もない。これをお前さんは「組織は非公式だ」って答えた。それは筋が通るさ。なんせ、未来を見るっつー大それたことをするんだ。そんな事すりゃ世界は大国、最悪は個人の思うがままだからな。が、ここでまた問題が出る」

 

 現在、政治家たちがカルデアに対しての疑問は幾つか在る。

 ひとつはカルデアの所在。これは並行世界であるため、実在すらしないが、こちらの世界でもその場所は容易に行くこともできない所だ。

 次にカルデアの資金源。これはマシュが説明した通りフランスの原発と、その他に虎の子の油田施設がある。しかし、調べれば両方の施設は公には存在しないことになるだろうし、何より電力についての問題も浮上する。これを蒼夜たちはオルガマリーたちが管理していて、知らないと本音を言って隠しているが、政治家からすればそれも嘘だと思える。

 さらに蒼夜の存在。名前や見た目から、日本人であることは間違いないが、彼は並行世界の人間のため、並行世界の同一人物がいるか、戸籍すらない、そもそも存在しない人間かのどちらかになり、結果は後者、存在しないと分かった。

 そして。なにより大きな問題が

 

「組織の所在、資金源はこの際後回しにするとしても、さっきの坊主の戸籍についてと、お前さんが入国した形跡がないっていうのが問題になる。お前さんらが国連の人間なら、堂々と空港から降りればいいのにその形跡もなく、密入国の可能性も浮上した。基本、この国は永住する国民は戸籍が必要だし、親が馬鹿じゃない限り戸籍は持っている。国内で生まれれば病院で自動的に登録されるだろうし国外でも同じだ。が、それがないってことは可能性は二つ。本名が別にあるのか、それとも、だ」

 

「………。」

 

「そして密入国。仮に坊主が日本人であれば問題もないし、国連の人間であればなおさらだ。が、お前さんらはあえてそれを選択せずに仮説として密入国をした。国連の非公式の組織であるなら、その実態を知られないために素性を隠す必要があるが、だからってそれが密入国の理由にはならねぇ。パスポートでっち上げれば問題ないんだからな」

 

 カルデアが国連の非公式組織として、存在しキャスターの話した通りある任務で日本にくる必要があったとする。なら、別に密入国をしなくともパスボード偽造をすればいいだけの話だ。それはそれで問題ではあるが、密入国をする必要もなくなる。

 しかし、その前提はあくまで彼らがこの世界の(・・・・・)国外から日本に来たという事での話だ。

 

「んじゃなんで密入国する必要があったのか。って話になるが、そもそも本当にお前ら密入国したのかって話にもならねぇか?」

 

「………何?」

 

「非公式組織なら、その存在は隠される。が、お前らはこうして公の場に姿を見せ、あまつさえ他国のトップにも姿をさらしている。それは別に姿をさらしても問題がないって意味だ。

 だが逆に密入国は姿を隠して他国に入ること。見つからない(・・・・・・)ことが前提だ。疚しいことをするためにゃあ見つかったら元も子もない。だから密入国と言える。

 するとどうだ。仮に密入国をしているのなら、どうしてこんな場に姿を現すかっつー矛盾が生じる。国連からの指示を受けて、態々こっそりと入って来たってのに、堂々とここに立っているっていう矛盾がな」

 

「……我々が囮だとは考えなかったのか?」

 

「ないね。囮が秘密を話しちゃ、囮の意味がねぇだろ」

 

「ふむ……」

 

 嘉納の返す言葉にキャスターは焦りはないが興味と感心を抱き、不満げだった顔に少しだが微笑みを作った。どうやら、嘉納の態度と推測に興味を持ったようだ。

 

「だが、囮である私たちが言った事。それらが全て嘘である可能性もあるのではないか?」

 

「そうだが、ならお前らを囮として、本命は何が目的だ。素性も行動も、組織すらも嘘だとしてもお前さんらが特地に居たという事実には変わりない。つまり、特地に対しての何等かの目的があるってことは囮も本命も共通している。攪乱のためとか言っても、見ず知らずの土地に堂々と上がり込んで、しかも姿も見せないんじゃ囮としての意味もねぇ。どっちにしても、お前さんらが特地に目的があるってのは確かなんだからよ」

 

「………。」

 

「お前さんらの組織は確かに存在する(・・・・)。けど、その内情については言えない(・・・・)。恐らく、その理由はお前さんらが特地に居たっていうのと、密入国の話の筋を通すだけには十分な理由だが、何らかの理由で話すことができない(・・・・)

 つまり。その隠し事は、お前さんらがここに居る理由。そして正体についての核心、つまり答えになる。違うか?」

 

「……なら、質問を返す形で問おう。なぜそう思うようになった?」

 

 答えは近づいてきた。キャスターの問いかけに、そう確信した嘉納は僅かだが目線を彼が背を向けている本来の質問者と、その傍観者たちの様子を窺う。そろそろブーイングの一つも飛んでくる頃合いだ。ならば、早々に結論を出す必要があるだろうと

 

「理由は二つ。ひとつは、短時間での回答者の入れ替わり。大将の坊主から始まり、そこの紫の髪の嬢ちゃんに移った。それは最初から予定していたことなんだろうよ。けど、直ぐに嬢ちゃんからお前さんに移った。これは計画はしていたが、行き詰まりが早くなったからっていうアドリブじゃねぇか?」

 

「うっ……」

 

 その言葉に呻いたのは蒼夜だった。彼の予想、考えに見事に図星だったようで心臓を穿たれたかのように苦痛の顔を見せていた彼にキャスターは小さなため息をつく。

 予想は当たりだった。嘉納の理由、そのもう一つが薄々だがキャスターも察することができた。

 

「で。もう一つは……隣にいるこの和服の嬢ちゃん(清姫)。話の途中からムッツリになってたから、もしかしてと思ってな。それにさっきの嬢ちゃんも、多分嘘をつくことが下手なんだろうな。途中、口籠ってた様子が後ろからでも分かったぜ」

 

「………なるほど。確かにレディ(マシュ)は嘘が下手だ。それに彼女(清姫)も嘘が極度に嫌いでね。これもカン(・・)というやつか?」

 

「それもあるが、事あるごとに和服の嬢ちゃんの様子が変わってったからな。もしかしてと思ったら……案の定だったようだな」

 

 ここでキャスターはバーサーカーこと清姫の性格、情報を知られたことに小さく舌打ちをする。別段、彼女の性格を知られたからといって何が悪いわけでも、知られてマズイわけでもない。しかし、極力英霊のことに関しては避けておきたいと考えていた彼にとっては小さくも手痛いものだ。英霊のことを話すのであれば、必然的に聖杯のことについて話す必要が生じてくる。聖杯の力と、それによって召喚される英霊たちは全ての国家にとって大きく利用できるものであり、聖杯の力も私欲に転用することなど容易だ。なので聖杯についてはなんとしてもここでの開示を避けたいのは、キャスターだけでなく蒼夜も同意見だった。

 

(英霊のことを話すまでにはいかないが、この状況は面白くない。聖杯のことを話せば、十中八九各国の首脳部が動くし、私利私欲で手に入れる者たちも現れて来る。国内だけで揉め事をする日本にとっては手に余る代物だが、それ以上に聖杯の存在は極めて厄介だ。しかも、英霊についても同様。兵器転用とプロパガンダは確実か。

 だからといって、英霊だけを話しても聖杯の情報開示は避けられなくなる。ここはどうするか……)

 

 清姫たちの正体について誤魔化すのにはそろそろ彼女自身の限界が見えてきているのでやりにくい。しかも、ここでまた正体をはぐらかせば嘉納が食いつくのは目に見えている。彼らが誤魔化しているという事実、それを示す証拠が偶然にも彼らの周りにあるのだ。

 キャスターにとって、英霊と聖杯、そして目的については極力避けたいと思っていたのだが、嘉納がここまで頭がキレる男であるとなれば、うまく誤魔化すことも難しいだろう。

 

(まったく……清姫の居るせいで、こちらの仕事がやりにくい。このまま誤魔化し続ければ、確実に彼女の沸点の方が先に到達するだろう。なら、いっそのこと本音を吐くか。が、それでは確実に今この審議を視聴している国家に知られるだろう。特に、アメリカ、中国、ロシアは確実にな。であるなら、鎌掛けは必要か……)

 

(清姫を連れて来たのは本当に失敗だったな……清姫の嘘嫌いは極端通り越してるし、この場での嘘と誤魔化しの言い合いの中じゃ確実に彼の仕事の邪魔になってしまう。なら、聖杯について……いや、けどどうする?)

 

 聖杯のこと。英霊のこと。人理のこと。今、蒼夜たちが隠している中で最も重要なことは人理修復と聖杯だ。だが、だからといって英霊に価値がないかと言われれば当然嘘にある。彼らの戦闘能力、一騎当千の力は言うまでもない。彼らが居たからこそ、蒼夜は今までの激戦を潜り抜けて来たのだ。

 であれば、英霊のことを語るしかないというのは自然と彼の脳裏にも浮かんでくる。しかし、その中で問題があるのも確かだ。

 

(英霊、サーヴァントのことを語る、というのは聖杯について誤魔化すことになるけど、そもそも英霊たちの存在を政治家の皆さんが受け入れてくれるとは到底思えない。英霊といえど結果的には死人であることに変わりはない……先輩もそこは承知しているはず)

 

 英霊について語れば、それをどうやって召喚したのかという過程を質問される可能性だってある。否、今キャスターが背を向けている議員たちよりも対峙している男のほうが的確に突いて来るだろう。

 英霊たち、サーヴァントを呼び出す方法といえば必然的に聖杯のバックアップが必要不可欠だ。聖杯の力、奇蹟があるからこそ、英霊たちはただでさえ不可能に近い召喚を可能として現界している。

 

(死人がいきなり目の前に現れたのなら、誰も信じないよな……俺だって多分その筈だ。だったら……)

 

 もはや英霊たちの事を話す事を前提にして考えを始める蒼夜の思考は、キャスターにとって努力の無駄に思えるのではないかと見えるが、実際清姫と嘉納の板挟みから、隠すこと自体に限界を感じ始めている。彼も自分の正体、英霊であることを明かすことにもはや否定はしない。

 それを前提にして次の手を考えるが、その考え自体が嘉納の言葉に対しての答えになっていない。英霊のことはあくまで自分たちの正体について。今、嘉納が聞いているのは自分たちがどうしてここに居るのか。それが語っても信じてもらえないことなのではないか、ということ。であれば、その理由を説明するために必要な言葉は二つ。

「聖杯」か「人理焼却」か。

 聖杯については、特地の性質上、語ればある程度信じてもらえるだろう。しかし仮に聖杯が本物であるなら確実に国が動き出す可能性が高く、聖杯探索に大きな障害が出来てしまう。聖杯の力は、それだけ彼ら科学(現代)の人間にとっては魅力的であり魔的でもある。

 対して人理焼却については語ることは容易い。が、話が壮大かつ飛躍しすぎており、誰もが子どもの妄想それであると思ってしまう。インパクトとしてはいいが、信憑性が皆無だろう。

 

(目的である聖杯に触れずに話す、ということは事実可能だ。なにせ、私たちの目的は人理修復であり、その為の目的に聖杯が含まれているというだけだ。なら、英霊のことを語り、人理修復の事情を話すというだけでも問題はないだろう)

 

(って言っても、問題はその瞬間に生じるサーヴァントたちに対しての各国の介入。特地のことを踏まえるとアメリカと中国は確実、そしてその中で一番介入の確率が高いのは……)

 

 欧州圏の英霊はリリィとランサー、征服王ことライダーは中東のマケドニア。そしてアーチャーと清姫は日本の英霊。となれば、残るのは一人。

 諸葛亮孔明を憑依させているキャスターだ。ただ、彼の身なりと姿が欧州圏の人間であるということから信憑性はコレもないと言っていい。

 

『聞こえる先生?』

 

『ああ。言うまでもないと思うが、構わないな?』

 

『ええ、もうこの状況で隠すのとだますのは無理っぽいですし、対等さを考えてもここで使うしかないですね』

 

『……計画が狂ったな。そこのプリンセスのせいで』

 

『清姫にはあとでしっかり言っておきます……』

 

 このまま隠すという案もあったが、嘉納のように頭の切れる人間が居るとは思ってもなかったキャスターは、これ以上隠すことはできないと自分たちの所でニコニコとしている確信犯を横目にため息をつく。

 

「……分かりました。全てお話ししよう。質問の回答に対してのみではあるが、構いませんね?」

 

「……ああ。質問した側はこっちなんだ。そこまで傲慢にはしねぇよ」

 

「ミス・幸原。貴方もそれでよろしいか」

 

「え、あ……はい……」

 

 すっかりと蚊帳の外だった幸原は、再び自分にも言葉が投げかけられてようやく我を取り戻す。それまで、嘉納に対して溜まっていた鬱憤や苛立ちは、二人の会話という駆け引きの中ですっかり消えてしまい、呆気に取られていたのだ。

 今まで気絶でもしていたかのように放心していたが、キャスターの言葉が自分に振られていると気づき、抜けた表情がレレイからの説明を聞いた後のように口を開ける。

 会話の空気が自分たちの方に戻って来たと感じて、政治家たちもせめて存在感を再認させようと野次を飛ばすが、彼らに発言の権利が与えられたわけではない。話の流れの通り、キャスターが真実を明かすだけであって、審議が再開されるわけではないのだ。

 

「ただし。私から一つ条件がある。これから私が話すこと、説明することは、この場にいる人間と傍聴、視聴している人間だけでそれ以外の人物、知人、マスコミには一切の他言無用を願いたい。一応、私が話すことはそれなりに重要かつ機密情報であるからな」

 

「……わかりました。こちらはあくまで質問をしている側です。この場にいる議員並びに警備員たちに対しての口止めは可能ですが、この審議を視聴している各国のトップの方々については、各国の判断を尊重します」

 

「……それであなた方がいいのなら、私は構わん。取りあえず、この場にいる全員については約束をしてくれるのだからな」

 

 逆にいえば他国からの干渉は十分にあり得ることで、日本からの干渉はないが向こうが律儀に約束を守らない限り、介入は起こると考えていい。敵を絞れたということと、足元から狙われることがないということだけは確認できたキャスターはひとまずは安堵し、介入への対策と対処はすべて蒼夜へと投げる。

 マスターである彼にも今回の責任は大なり小なりあるからだ。

 

(今後の介入については彼に任せるとして、どう初手をうつか……)

 

 なにを話すかは決まった。なにを語るべきかを決めた。

 なら、最初はどう切り出すか。会話ではそれが最も重要な点だ。

 話すべきことが二つと決まり、それをどの順番でどのように話すか。基本ではあるが、基本だからこそキャスターも慎重に進めなくてはならないと思考を巡らせる。

 

「―――では、質問に答えさせてもらおう」

 

 清姫はいわば嘘探知機だ。ならば、嘘をつかず(・・・・・)真実を語り(・・・・・)本音を隠す(・・・・・)。背後を取られている相手(嘉納)にはおそらくあまり効果がないのかもしれないが、目の前の議員や各国のトップたちを欺くことは容易だ。そもそも彼らの状況自体、この世界とは関係のない異世界での話なのだから。

 

「先ほど、嘉納議員が語った通り我々は今はまだ(・・・・)語れない(・・・・)理由で特地に赴き、そして行動していた。それは確かだ。密入国は、まぁ確かにしただろうな。が、それはあなたたちが思う密入国とは事情が大きく異なる」

 

「……と、いいますと?」

 

「まず。話を少しずらすが、私たちのことについてだ。最初に言っておくが、彼、蒼夜は間違いなく日本人だ。それは私も保証する」

 

「保証する、と言われましても、彼には戸籍がありません。国内で出生したのなら必ず国内のどこかに戸籍が記録されているはずです。

 その戸籍、記録がないというのに、保証できる根拠はなんですか?」

 

「あるさ。戸籍は。ただここにはない(・・・・・・)

 

「……ない? それは国外という意味ですか」

 

「……国内でも国外でもない。いや、厳密には国内だが……ここの国内ではない……いや、この世界ではないと言えばいいか」

 

「は……?」

 

 一体、なにを言っているんだと再び彼に対して冷たい目線を送る議員たち。当然の反応といえば当然だが、キャスターはなにもふざけてはいないし、馬鹿をしているわけではない。反応を見て、語るべき言葉を選び、キャスターは続ける。

 

「もう少し、この状況と現実を見れば考えたくもない、そもそも考え付かないような可能性が浮上するが、それは今の時代、誰だってすぐに信じろといえば無理な話だ。

 だが、在りもしないのに在る、という理由。この世界なら、容易にその夢想を現実にできる可能性、要素があるのではないか?」

 

「だから、一体どういう……」

 

「「門」。あれは本来交わることのない、世界同士を繋ぐという馬鹿げたことを実現する装置だ。それが今、銀座に現れて帝国による奇襲攻撃を受けた。そのせいで多くの死人が出たとともに、更なる被害を防いだという英雄が現れた……」

 

 その言葉に伊丹は苦虫を噛み潰したような顔になるが、内心ではキャスターが一体なにを言いたいのかをいち早く察した。

 

「わからないか? 「門」という非科学的かつ非現実的なことを実現する要素、つまり装置はそこにある。なら、その「門」の力で不可抗力が生じたとしても不思議ではあるまい」

 

「それはまるで、彼が異世界から来たかのような……」

 

 そう考えれば合点がいくのではないか?

 キャスターの小さな笑みに、幸原も察したようで「まさか」という表情になる。確かに蒼夜が異世界から来た、ということが事実であれば彼の戸籍がないことや入国の記録がないことには説明がつく。なにせ、同じ日本人とはいえ別世界から来た人間なのだ。

 だが、果たしてそれが真実なのか、そもそもあり得るのかという時点で既に考える間もなく否定する幸原の中では馬鹿げた言い訳、逃げ口上にも聞こえてくる。

 ……なのに。

 

(い、いえ……戸籍がないのも記録がないのも、彼が国内の、人が寄り付かないような場所や田舎だからで……)

 

 なら、彼のもつ一般知識はどう説明する?

 事前に行った蒼夜への質問、問題は模範的な正答率だった。つまり、彼は田舎であってもしっかりと一般知識を身に着け、社会に出ても問題はないような知識を持っている。

 それは一般的な知識を持つ人間に教わったからではないか。それなら、たとえ戸籍がないような場所でも彼が一般的な知識を持つことに理由はできるが。

 どうにもその考えが正しいとは思えない。信憑性でいえば残念だがキャスターの方がまだ上だった。

 

「そ、そんなことが現実にあり得るはずが……」

 

「現にこうして、異世界との繋がりは発生し、向こうからの襲撃を受けている。それがすべて嘘だと言いたいのか?」

 

「ッ……それは……」

 

 あの理解不明なできごとを忘れるなという方がむしろ無理な話だというのは、誰もが同じ。幸原も例外ではなかった。

 あの銀座での戦闘。一方的な殺戮や蹂躙、破壊活動。帝国にとっては戦争ともいえるあの出来事が嘘だったというのか。それは幸原にとっても嘘であってほしい、夢であってほしいと言えるような馬鹿馬鹿しくも偽ることのできない事件だった。

 だからなのだろうか。あの事件に関わるワード、「門」を出された瞬間に彼女のなかでその言葉の信憑性が高まってしまったのは。

 

「「門」、異世界……そんな空想の出来事を使って言われても言い逃れには―――」

 

「では、彼の戸籍がないこと、入国の記録がないのはなぜだ。仮に彼が国内の人間で、戸籍が取れない、ないような場所で育ったとして、誰がその知識を彼に授けた。そして、彼にそうさせることでなんの意味がある?」

 

 質問に質問で返されてしまい、思わず言葉が詰まってしまう幸原は、質問は自分たちがしているのではないかと指摘をしたかったが「門」の話を出された時から妙な信憑性を持ってしまい、頭の中で言い逃れへの追及と質問への答えに自分から勝手に追われてしまっていた。別に答える必要もないことのはずだが、すぐに返されることを知っているせいで変に考えてしまう。

 

「可能性としてはなくもないだろう? それに、この馬鹿げた言い訳(・・・)なら、話に合点がいくのはわかっているはずだ」

 

「ですが、それは都合のいい言い訳にしか聞こえません。「門」によって繋がっているのは特地のみ。いくら不可抗力とはいえ、そんな都合のいい話などあるはずがありません」

 

「なら。あなたは彼がどうして戸籍を持たず、入国の記録、形跡がないのか理由づけはできるのか?」

 

「無論です。彼の入国記録がないのは国内にいたから。戸籍がないのは彼個人の事情であると推察できます」

 

「ほう、確かに個人の事情であれば戸籍登録はしないもかもしれない。だが、それは同時に登録しないだけの疚しい理由があるということだ。でなければ、彼は偽名を使っているか、そもそも持っていないかだ。

 なら、それこそ「何故」という疑問に戻らないか。戸籍を持たないというのに、どうしてこうも堂々と公の場に姿を現しているのか」

 

「戸籍の在る無いは彼のプライバシーの問題ですからあえて踏み込みません。ですが、現に彼はここにいるのです。なら、戸籍がないにしても我が国の国民であることに変わりはないでしょ?」

 

「門」という要素が仮になければ、蒼夜がそうした理由でこの国の中で生きていたという理由と仮説の定義はできる。親、家庭の事情、特殊な環境によって偽名か、そもそも登録をしていないか。その理由については考えるだけ無駄であると判断したのか、彼女は堂々とその思考を捨て去っていた。

 しかし、結果として蒼夜はここにいるが、戸籍はない。「門」がなければ仮説は有力となるが、その仮説として「門」という要素を加えたキャスターの仮説。いや、真実があるのだ。

 

「かもしれないな。だが、戸籍というものはその国で生きていくため、そして国の国民として認められたという証明書だ。戸籍がないのであれば、そもそもあなた方の国民でもないはずだが?」

 

「それでも、親の存在や居場所が明らかであれば、自ずと彼の存在は明らかになります。こじつけもいい加減にしてもらいましょうか」

 

「こじつけ、か。果たして、どちらがこじつけなのだろうな」

 

 あくまで彼がこの世界、自分たちの国の人間であるという主張、考えを崩さない幸原に対して、キャスターは次の手を打つ。

 彼もここまでの平行線、反論は想定していたようで焦りはなく、淡々と次の手次の手を用意し組み立てていく。

 

「既存の現実のみでの仮説か、それとも非現実を混ぜた現実での仮説か。非現実を信じられない、受け入れられないというのは私も同意する。が、時として非現実的な出来事が現実となることもある」

 

「……では、あなたは未だに彼が異世界からの人間である、という主張を崩さないと」

 

「事実だからな。だが、確かにあなたのいう仮説も証拠さえあれば正しい。だから、私も「証拠」を出させてもらおう」

 

「証拠、ですか……?」

 

「そもそも、彼をこの世界の人間として考えられるのは、彼がこの国で通用する一般的な知識を持ち合わせていたからだ。

 だが、必ずしもそれがすべて正しいものではない。それは先ほど、そちらが行った簡易的な質問。その中で彼が回答したものの中で近しくも(・・・・)異なる回答(・・・・・)があったと思うが」

 

 最初に蒼夜に対して行った質問は、彼が日本人であるかどうかを知るために行った問題で、蒼夜はそれを殆ど考える間もなく答えていた。

 だが、その解答、答えには伊丹たちにとっては惜しいものであり、彼が答えたものに近しいものならば存在する、というのも幾つかあった。それを最初は彼の記憶違いだろうと考えもしなかったが、並行世界、この世界とは異なる世界であればそれが正しいことになる。

 

「並行世界である彼の日本での知識が必ずしもこちらと同一の言葉、意味、そして概念であるとは限らない。だからこそ、彼が自信満々げに答えた中にはそちらにとって笑い話になるような解答があったはずだ」

 

「確かにありはしましたが、それは彼の記憶違いではないのですか? 質問した問題の中には一般的に語彙の間違いが多いものもありました。なら、記憶違いであるという可能性も」

 

「にしてはその違いが大きすぎたと思うが?」

 

「うっ……」

 

 なまじ質問を投げた当人である幸原にとって、確かにそれは見過ごせない、すぐに忘れることのできない内容だ。彼への質問の中で大きく答えが違い、名称が異なるものがあった。

 しかも「それは「あれ」ではないか」と彼が自信げに答えた解答に対して自分も内心で笑っていたせいか、笑いの種、笑い話として頭の隅で残っていた。

 それでも、まだ信じられない、そんな馬鹿な話があるはずがないと論戦が続く。

 

「記憶違いというのは、大きく分けて二つだ。ひとつは、記憶として残っていない、ほとんど覚えていないことを自分の中で補塡、補正し「そうであったはずだ」と記憶すること。

 もうひとつは概要、概念、定義は正しく記憶していても、名称などの単語を正しく記憶していないこと。仮に内容が一致していたとしても、名称、意味を定義づけているものが異なっていれば、それは「違い」と言える」

 

「であれば、彼は後者のはずです。名前、名称を間違うのは人として当然のことです」

 

「名称の記憶違いは、覚えきっていない名称を脳内で補正し誤って記憶するということ。ならば名称に近しくも間違うというのがこの場合での「記憶違い」だ。だが彼の場合はそれが大きく異なっている。それはむしろ、「記憶違い」ではなく単なる「違い」だ」

 

 蒼夜の質問への回答は確かに自信ありげだったが、間違いはあった。本人はそれが正しいと思っていても幸原たちにとっては違っている名前、内容、答えは存在した。

 それが単なる記憶違いの程度であればよかったが、名称が異なったり事実が違っているものがあるせいで彼が本当に正しく記憶しているのか。本気で言っているのかと疑ってしまう。

 その疑心暗鬼がキャスターの可能性を信じてしまう要因になっている。

 

「「記憶」は視覚情報が認識したものを脳が記録することを指す。大抵、人間の記憶は特筆性がないものは抹消され、持続的に必要な情報だけを保持し続ける。だから、普段は必要のない情報。そもそも必要性のないものはすべて脳が判断して消去している。

 だが、それだけでなく最低限必要な情報、記録を正確に「記憶」できるかと言われれば無理な話だ。人間、時間が経過すれば記憶は摩耗し、詳細な部分から少しずつ脳が消去していく。残された情報が必要な時、人間はそれを様々な方法で補正し、修正する。

 その結果、記憶違いが生じることもあるが、記憶違いはあくまで元あったものを補正したものだ」

 

 それが決定的な言葉の意味の差で、記憶違いは「元ある物に対して」の相互であり、違いは「物が正しいか否か」。模範的な答えがあるが、記憶違いは具体的かつ絶対的。違いは具体的な答えはあるが、必ずしもその答えであるということにはなりにくい。

 

「それに、そもそもへと戻るが彼は戸籍上、存在しない人間だ。しかも家族、住所、経歴。そのすべてがどこの記録にも存在しない。存在しないのは誰かに消されたからか? それだけではないはずだ。

 彼という人間は今まで存在しなかった(・・・・・・・)。だが、彼は今、ここにいる。その理由は。本当に山奥の原始動物のようにひた隠しにされて育てられてきたとでも?」

 

 とはいうが、キャスター自身実際そうして育てられてきたという人間、いや魔術師を何人も目にしてきたことがある。

 魔術という神秘の一端、それを持つ人間である以上、現代社会から隔絶されなければならず、魔術師たちは文字通り奥地に潜んだり、現代社会に浸透しつつ魔術を秘匿している。

 とある封印指定の魔術師も、かつてはそうだったと言われている。

 

「……これでは埒があきません。いいでしょう、あなたの奇天烈な発言を前提として、あくまで百歩譲って、あなたの言う通り、彼がいうなれば「もう一つの世界」から来た人間だとします。では、あなたと、彼らが特地にやってきた目的は? 一体、何のために居たのですか?」

 

 敗北を認めず、むしろ平行線が続くと見た幸原は少しでも状況が進展してほしいと思ったのか、やむ得なく彼の話を前提とした次の質問へと切り替える。

 当然、まだ彼女だけでなく議員たちですら信じてはいないのであくまでも前提、仮説として負けを認めてやっているだけだ。もし、彼がボロを出せば、いつでも食らいつけるようにと。

 

「―――特異点。というのをご存じかな?」

 

 無論、キャスターもその気になれば平行線どころか負かすことはできるが、伏兵の多いこの状況と制約のある今では、思う様に立ち回れず難儀している。

 キャスターも本来の自分自身の能力がフルに発揮できないというもどかしさと窮屈さを感じていたが、それを素直に顔に出すほど彼の顔も晴れ晴れとしていない。

 

「我々は人類の未来を保障するため活動をしているが、その中で我々の進む未来に影響し、存続の危機に陥るような事態が稀に存在する。そういった事態は大抵、未来に影響することから現代、さらには過去に時間がさかのぼることも多い。

 自分たちの都合のいい結果に書き換えて、人類を滅亡の危機に瀕させる連中もいるかもしれんからな。そのせいで自分たちすら身を亡ぼす結果になってしまうと、気づく輩も少ない。

 そこで、我々はそういった場所、つまり未来に影響する時代、場所を特異点と認定し修正……具体的に言えば原因を取り除くことだな。そうすることで、未来を保障させている」

 

「分かりやすく言えば、未来に影響する原因をあなた達は取り除いている、と」

 

「そういうことだ。特異点は様々な理由で発生する。その原因を突き止め、修正することで、私たちは今まで人類の未来というのを保障してきた」

 

「……では、特地に赴いた理由というのは」

 

「その特異点。私たちの未来を脅かす原因がそこにあるからだ。私たちの未来に影響する、その根本たる原因がな」

 

 それが聖杯であるとはあえて言わず、取りあえず原因があるとだけ強調する。これは、特異点たらしめる原因が何か事件や、精神的なものであるのと思わせるためで、物質的な聖杯を話に出してしまえば、自衛隊を動かしてでも彼らは聖杯を手に入れようとするのがキャスターにも見え見えだった。

 特異点の原因はあくまで「何かが起こった(・・・・)」という精神的なものであると政府側に思わせることが狙いで、キャスター自身はその原因が聖杯という物質的なものであるとは言っていないので、情報量の少ない彼らは「自分たちが手に入れられないもの」「自分たちではできないもの」とミスリードしてしまい、それが物質であるという考えを自然と除外させる。

 清姫の反応が気になるところだが、彼自身は別に嘘はついていないので、特に問題はないと思っていたが

 

「嘘の気配……」

 

(駄目だ先生。清姫の嘘判定機能がエラーとオーバーヒート起こしてやがる)

 

 並べられた屁理屈と虚実、そして嘘や鎌掛けといった彼らの見えない戦いは、清姫にとって経験の少ないことで、しかもここまで難易度の高いものであれば狂戦士のクラスの影響で知能指数が低下した彼女の脳ではキャパシティーを優に超えてしまったようだ。

 おかげで彼女の眼をよく見ると虚ろな目がグルグルと回転しており、今にも許容越えで倒れてしまいそうになっていた。

 

(なんとかしろ。こちらは重要な所だ)

 

(はいはーい……)

 

 

「あまりにわかに信じられない話ですが……それがあなた達がここに来た理由だと?」

 

「信じる信じないの話はもうそれ以前の事だ。今は目の前の出来事がすべて真実だということだ」

 

(こちらが一歩引いたというのに、その態度は何よ……)

 

「少なくとも、その原因が特地にあるということはこちらも掴んでいる。が、その原因の証拠となるものはまだ見つかっていない」

 

「そのための調査で、あなた方は行動していた。そして、自衛隊と遭遇した、ということですか」

 

「そう言うことになる」

 

 具体的な場所や位置、どこにどうやってあるかなど、未だわからないことは多いが、少なくとも聖杯が特地にあるというのは、彼らも確信を持っていた。なにせ、カルデアでは特異点の反応があれば、過去であろうと観測することができるので、そのレイシフトの行先が日本ではなく特地であったことも加えると、向こう側に聖杯があるという可能性が極めて高い。

 特異点そのものは発生させるために膨大な魔力などのエネルギーが必要であり、それを容易に発生、確保するためには聖杯はうってつけの存在だ。

 特異点=聖杯ではないのだが、特異点を発生させるためのリソースとして、聖杯ほど適したものはない。

 

「……特異点と言いましたが、それは私たちの世界と特地が繋がったことが原因なのですか」

 

「いや。確かに、こちらの世界と向こうの世界が繋がるというのは本来あり得ないことであり、我々も過去に例を見たこともない。しかし、特異点の発生というのは大雑把に言えば世界の危機のようなもの。ざっくりとした例なら宇宙人が地球に攻めて来て、地球が滅ぶ、といった感じだ」

 

 事実、冗談なしに自分たちの地球人類が滅びかけているのだが、と知っている蒼夜たちにとって笑えない物の例えで、失笑するしかない。

 宇宙人ではなく、滅ぼそうとしているのは過去の偉人で、地球どころか歴史すら焼却しようとしているのだ。宇宙人の方がまだマシだと思える自分たちがいて、そう思えてしまうほどのことを経験しているせいか、自分たちの中では感覚が鈍ってしまっているように感じてしまう。

 

「なら、仮にその特異点というのが実在したのなら、我々の国に何等かの影響が及ぼされるのではないですか?」

 

「可能性としては無くもないだろう。だが、実際特異点となった原因がどれだけの規模で、どれだけの影響を及ぼすのかは我々にもわからない」

 

「分からない、というのはどういう意味ですか。あなた方は今までそうした特異点を解決しているかのような口ぶりですが」

 

「……特異点といっても、規模にも大小さまざまなものがある。ごく小規模のものが人類史に影響するパターンもあればそれが大きい場合もある。仮に小さければ、こちらへの被害はないと考えてもらって結構だ。だが、特異点の規模は毎回違っている。必ず安全であるという保障はない」

 

 各特異点の規模は基本的に大規模なものが多かったが、例外も無論存在する。羅生門やオガワハイム、さらに第一、第四特異点も規模的に言えば小さな特異点だ。

 逆に第二特異点はローマ帝国一帯。第三特異点もオケアノスと呼ばれた大海原。そして第五特異点は現在のアメリカそのもの。このように、特異点と言ってもキャスターの言う通り、規模の広さ、大きさ、危険度は毎度によって異なっている。なので、絶対に日本にも影響がない、とは言い切れず、逆に影響があるという絶対もない。

 

「現時点はまだ調査も進んでおらず、具体的な情報が一切ない。故に特異点である特地に何が起こっているのか。これから何が起こるのか。その予想規模は残念ながらここで言うことはできない」

 

「では、仮にこちらにも被害が出た場合、あなた方は責任を取らないと。言うわけですか?」

 

「ああ。我々と貴国との関係は稀薄だからな。自衛隊との協力関係を結んだとはいえ、我々はそちらになんの恩義もない。正直、知った話でもないのだ」

 

「……仮にも、仲間の一人の生まれ故郷だというのに、ですか?」

 

「それはどうかな。第一、さっき散々根掘り葉掘りしたではないか。彼の出自と戸籍についてを」

 

 直ぐに口をつぐみ、苦悶の色を示す幸原の顔。延々進まない平行線だったからこそ、こうして妥協して話を進めているのだ。自分からわざわざまたループに戻るような真似は彼女ももうしたくはない。

 キャスターとしては別にどちらでもいいのだが、恐らく彼らの屁理屈で永遠と続きそうな気がするので、彼自身も望みはしない。

 

「それに、逆に言えば彼以外の我々にとってこの国がどうなろうが、どうしようが勝手だ。なにせ、私はこの国の人間ですらないのだからな」

 

 挑発的に話を進めているのは、戦略のためと思いたいが、どこか本音を言っているように感じてしまう蒼夜は後ろ姿に白い目線を向ける。

 キャスターは元々かなり日本嫌いらしく、過去の出来事から日本人も好きか嫌いかで言えば即答で「嫌い」と答えるほどだ。彼が過去にそれほどまでの事を経験したのかと、その過酷さを想像させる。しかし、それに反して彼の趣味が日本製のゲームという謎のものだ。

 が、それを加えても彼の過去の経験と記憶から、日本嫌いが治ったり、プラスマイナスゼロになったりはしないようだ。

 

「別世界の国、ましてや自分の祖国でも生まれ故郷でもないんだ。責任がどうのと言われて、我々に責任を押し付けようとしても、関係のないモノの責任など知ったことではない。それでも押し付けるというのは、単に責任転換したい相手がほしいだけじゃないのか?」

 

 責任というのは誰だって嫌なものだ。だからその責任、面倒ごとを押し付けたいがためにキャスターたちにも連帯責任があると意識させようとしていたが、当然ながら彼にとってこの国には何の縁もない。縁もゆかりもないところの責任をばか真面目に請け負うほど、彼もお人よしではない。

 蒼夜以外にも日本出身のサーヴァントは居るが、彼らの場合はこの世界の人間でもないので、同じく関係のない話だ。ならば、自分たちに関係のないこの世界の責任を押し付けられても迷惑でしかない。

 

「それは違います。我々は立場上、あなた方を保護している側です。なら保護している側としてあなた達の責任をどれだけこちらで引き受けられるか、そうでないかを―――」

 

「とはいうが、後ろのメンツはその気はないと見えるが?」

 

「ッ……!」

 

 思わず振り向くと、自分のことと言われずとも気づいた議員たちが体をビクつかせ、目線を逸らした。何も言わずとも目を逸らしたということは、言うまでもなくキャスターの言葉に当てはまったということだ。

 

「それに。我々は別に特異点の原因を修正できるのであれば、正直どちらについてもいい。自衛隊、ひいては日本についているのは戦力、政治的にそちらの方が上だからだ。

 政府が我々を利用したり、捕らえることをしたりするのであれば、もしくは自衛隊との間で結んだ協力関係の条件。それを破ったのであれば、こちらはいつでもそちらの保護下から離れてもいい。別に、行先がないわけではないのだからな」

 

 この場合、政府の人間からすればその行先は帝国となるが、キャスターの言葉は帝国そのものを指しているわけではない。帝国の中にある町、イタリカに彼らは秘密裏に拠点を確保していて、しかもその町を実質的に統治しているピニャの下。帝国の講和派、穏健派の陣営に彼らは匿ってもらえばいいのだ。交渉の材料、カードがないわけでもなし、カルデアに滞在している一騎当千のサーヴァントたちの戦力は自衛隊よりも勝っているのだ、それをチラつかせて、尚且つ交渉できるのであれば、帝国は対等な立場に立てる。無論、その場合は主戦派が息を吹き返すハメになるが、その時はその時と蒼夜は若干楽観的に考えていた。

 

「ここに我々がいる理由。その一番の意味は、我々がそちら側の言葉を話しているということだ。別に先の三人と違って我々が特地の人間のサンプル(・・・・)として呼ばれたわけではないのだからな。それにプラスαとして、生身で炎龍と戦ったという戦闘力。

 そちらからすれば、自衛隊が逃げ腰だったと思っている(・・・・・)炎龍相手に生身で善戦し、しかも撃退したんだ。帝国に渡れば、もしかすればこちらに対しての危険因子になったかもしれない。あの場では隊長である(伊丹)がただ者ではないというだけで我々を拘束したが、それなら抑え込める戦力があり首脳部の壊滅がない特地に置いておけばよかったはずだ。だがその危険因子である我々をわざわざここに呼んだ」

 

 となれば答えは一つだ。危険な因子であるからこそ、確かに自分たちの下には置いておきたくないが、仮にも敵国の領地が近い場所なのだ。その気になれば敵国に逃げることもでき、キャスターの言う通り日本には義理立てする理由もないので、帝国につくこともできる。

 何より、保護した者たちは自分たちと同じ言葉を介する者たちなのだから、説得交渉をしてこちら側に着けさせればいい。敵国にこれほどの戦力を渡すのであれば、こちらでリスクを犯してでもこちらに呼んで交渉させることもできるのだ。

 

「我々カルデアという不確定要素、それを自分たちの下に置くことができれば、リスクはあるが戦力として組み込むことができる。帝国との軍事的な差は圧倒的だが、非科学的かつあなた方の言う常識では計り知れない要素が満ち満ちた世界だ。何が切っ掛けで軍事力、力のバランスが崩れるかわからない。それにこちらの言葉がわかる相手だ。うまくいけばこちらに引き込める可能性がある。そして、必要がなくなれば特地で消すなりなんなりすればいい。国内でやればことだが、敵国の、ましてやインフラのない場所だ。死体遺棄なぞ、容易なことだろうに」

 

 自分たちの言葉がわかるのだから、少なくとも自分たちの世界の人間であると決めつけていた議員たち。だからこそ、話は分かるだろうし必然としてこちら側だと思っていた。自分たちと同じ言葉を使い、同じ考えを持つ、同じ文明を生きる人間。であれば、考えも必然としてこちらに近しいはずだと。無意識のうちにそう決めつけてしまっていた。

 だが、だからと言って必ず自分たちの側に立つかと言われれば、彼ら議員たちにとっては国家権力という盾をしているだけ(・・)で目立った根拠はほぼ無いに等しい。

 小国とはいえ、世界に名を連ねる国家なのだ。その力は十分わかっているハズ、と決めつけているが、残念ながら彼らにとっては国家という力は大きく下に位置していた。

 

「……随分と自分たちのことを過大評価しているようですが、こちらにとってあなた方はハッキリと言えば犯罪者と何ら変わりはありません。あなた達は異世界から来たと言いますが、世間ではまだこちら側の人間となっているのですよ。確かにあなた達の目的、そして組織機能は国際的に考えても重要なものです。が、だからと言ってそれが戦力として大きく左右されるわけでもなく、それ以前に私たちは戦力というものを望んでいません。あなた達を保護し、ここに連れてきたのはあなた方の立場をはっきりとさせるためです」

 

「ほう……では、炎龍撃退はまぐれ(・・・)だと?」

 

「ええ。生体上、どんな生物であっても眼が弱点であるというのは当然のことです。自衛隊もそれを気づいていたと聞きますし、あなた方が後から介入したのであれば、それはいわば弱点を自衛隊の戦いを見て知ったからではないですか?」

 

「………。」

 

 実際は逆で、先にカルデアの面々が戦闘をしていたところを今度は自衛隊が相手になっていたというのだが、それを話していなかったせいか、自分事のように自分たちが先だと言い張っている。

 当然、彼らの前に更にテュカの居た村のエルフたちが戦い、そしてダメージを与え弱点を見つけたのだが、これもまた話していないことだ。

 

「……なら、彼が目撃したカルデアの関係者たちの身体能力はそちらにとっては平均的だと。なら、貴国の人間は随分と勇ましいのだな。まるで紀元前の人間だ」

 

 話題も流れも、いいころ合いと見たキャスターはこの審議の終わりが見えてきたと、一人勝手に考えていた。

 そろそろお膳立てもできたところで、次のカードを切る時か。と、キャスター、否、諸葛孔明ことエルメロイⅡ世は、今見せられる最後の一枚である自分たちの正体についてを語る。

 

「そんな原始人的なものではありません。貴方がたは特地の特異点調査のために訪れた者たち。そして帝国と何らかの関係を持っているというだけ。自衛能力は多少あるようですが、結局炎龍を撃退したのは自衛隊、こちら側です」

 

「……自分事のように言うな。さっきまで、その自衛隊を悉くけなしていたというのに」

 

「それは……」

 

 結果だけを頼っているからだ、と言いたい孔明は鋭い一言を突き付ける。ついさっきの第一審議で自衛隊に対して批判していたというのにと、余程今の話題に意識が向けられているのだと見ていた。自分にとって都合のいい物が果たしてずっと都合がいいモノかと言われればそうと限らない。

 イラつき(・・・・)始めていた(・・・・・)彼の頭の中では、さっきまで他愛にもなかったことを、少しずつ子どもが相手を負かしたかのように優越感を持ち始める。

 どうやら、彼にとって戦力の過大評価という言葉に憤りを感じたらしい。

 

「ま、それは身内の話だ。勝手にしてもらって結構。だがな。一つだけ間違いを訂正してもらおう。我々の戦力というものが―――」

 

 自分が過小評価されることについては反論しないが、彼にとってはどうしても全員、その中でたった一人だけは、そんな評価をされてはならないと、頭に血が上っていた。

 彼だけは、絶対にあってはあってはならない。その言葉だけは、と。

 その刹那。背から聞こえてきた重くハリのある声に思わず動きを止めた。

 

 

「坊主。その話、まだ続けるのか?」

 

「………ッ!」

 

 まるで大騒音の中をたった一言、聞こえるか否かの音量で制したかの如く。重く、そして威圧感と存在感を持った一言が重々しくもはっきりと放たれた。

 その声は今の今まで発されることのなかった声で、この会場に来てから彼は一度も言葉を発しなかった。それまでの言葉がすべて自分の言葉ではなかったかのように、放たれた声ことが彼の正真正銘の声であると示すように、今まで静寂を保っていた者たちを揺り起こした。

 蒼き槍兵は、関係はないと睡魔に捕らわれていた意思を呼び戻し。

 赤き弓兵は静観していたが小さく息をつく。

 白き姫は必死になっていた意識の糸が緩められた。

 

「そろそろ、この問答も飽きてきた(・・・・・)。ここまで進まぬのであれば、こちらから終わらせるしかあるまいて」

 

 眠りについていた者たちを起こし、今まで感じたことのない荒々しくも研ぎ澄まされた、砂漠の風のような声が会場を吹き抜ける。

 まだほんの二言、三言程度しか喋っていないにも関わらず、彼の下された命に従い誰もが一斉に沈黙してしまう。

 

「……ようやく動き出したか」

 

 静観を決め込んでいたアーチャーが響く声に対してポツリとつぶやく。彼がいつかは動くことはわかっていたが、そのタイミングは彼ですら予想することができず向こう次第だったので、それが今やっと場が動き出したのを実感していた。

 

「国の治める者たちの場と聞いて、少しは期待していたが……ま、この程度(・・・・)なのは仕方あるまいて。なんせ、ここの連中には揃って覇気というものがないからな」

 

「お前……」

 

「交代だ。坊主。ここからは……いや、幕引きは任せてもらおうか」

 

 まるで大山の如く、今まで動くことのなかった赤い大男こと、征服王。今まで政治家たちを見定めていた彼の評価はかなり辛辣で、この一言に眉を寄せる者も多く居た。しかし、今までのように彼に対して野次を飛ばす、という行為をする者は誰一人としていなく。皆揃って口を噤み、腹の底の本音を喉の辺りでせき止めていた。

 ライダーが政治家たちの主であり、何もしゃべるな、と命じられたかのように。視線を向けられていないにも関わらず、無言の圧ではなく無視の圧が彼らを抑えていたのだ。

 

「ライダー……いや……」

 

「つまらぬ問答かと思えたが、そこそこに楽しめた。この時代にもまだ威勢のいいのが居るからな」

 

「ッ……だがな」

 

「先生っ」

 

 孔明が何か言いたげにライダーの方へと振り向くが、既に自分に目を合わせていた蒼夜が何も言わずに制する。

 ―――言いたいことはわかっている。だが、ここは。

 せめてこれだけは言いたい、と頭に来ていたところを彼に呼び止められたせいで、頭の中は怒りと冷静さが複雑に混ざり合い、混沌とした状況になっていた。冷静な怒り、とでも言うのだろうか。目の前の男への侮辱を許さない彼にとって、それだけはどうしても言いたかった事であり、自分の名前以上に訂正してほしいと願うことだった。

 が。その願いの人物、彼が尊敬する人物が「自分に任せてくれ」と言っているのだ。これを嫌だと答えるのは、果たして傲慢か、それとも優しさか

 

「……………。わかった」

 

「……ありがとう、先生」

 

 本音は嫌だ、と言いたかったが。椅子に座りながらこちらに目を向ける王の眼差しに、彼は自分の意地が傲慢であると取られていることを知り、その場は彼の意思もあって引き下がることにした。

 

「ただし、ヘマやトラブルは起こすなよ。ただでさえ、お前はトラブルメーカーなんだ」

 

「分かっておるわい。なに……こやつらに戦士、というものを教えるだけよ」

 

 その一言が出た直後、彼の周りから放たれる覇気、いやオーラというべきか。纏う気配というものが一瞬にして強くなり、今までがほんの小手調べだったかのように王者はゆっくりと立ち上がった。

 赤い大山、その体格にふさわしい威厳と威圧感を持った男。あふれだす覇気は常に感じていた者たち以外を圧倒し、灼熱の風が室内に漂っているのかと疑ってしまうほど、体中から冷や汗が流れ出てくる。まだ何も、自分たちに対し喋っていないにも関わらず、既に政治家たちは口を開くどころか息を飲んで、彼の姿を凝視することしかできない。

 王の姿を見よ。誰かがそう言ったかのように。彼らは目の前にいる、本物の王に目が離せなかった。

 

「俺がついてる。ヤバイ時はフォローするし、説明しなきゃいけないところもあるから」

 

 その王の傍をついていくように蒼夜が立ち上がり、小声で孔明に告げる。トラブルメーカーであるライダーがこうして前に出てくるのだ。何がきっかけで本能のままにロクでもないことを言うかわからないので、補足や彼が説明できない、というよりもしないことを代わりに説明するためにマスターである彼がついていくことになる。

 その有様はまるで王の側近で、王であるライダーの雰囲気、覇気をより強く醸し出す一因となった。

 

「……たく。お前ときたら……」

 

「すまんな、坊主。だが」

 

 しかしその瞬間だけ。二人の間は他の誰にも、ましてやマスターである彼さえ入ることのできない空間を作り出していた。

 いや、自然と二人の距離が近くなり、互いに語り合う時にのみ、二人だけの世界というものが作り出される。無論それは比喩でも卑猥でもない。純粋に二人の間に言葉では到底語り切れぬ「何か」があったということ。それがやがて彼らの中にごく自然のものとして形成された。その証拠に、蒼夜にはその時の孔明の顔がどこか幼くも純粋な眼差しに見えた。それが自分ではなく彼が尊敬する王に対してのものだというのも、眼差しの先にある姿を予想できるほどに。鮮やかな瞳は確かに彼への敬意を表していた。

 

「ここからは、余の出番というやつよ」

 

 政治家のスーツ彩る重い(・・)空間の中を一人熱砂の如く呆気かけらと吹き飛ばす風があった。如何なる視線も、いかなる圧力も、まるで梃子や重石の如く動くことすらもない。だが決して干渉することもなく、ただ何人も寄せ付けることのできなかった風。それは熱砂に鍛えられ、渦巻く風は現代の都市に吹く陰険な薄い風とは違う。現れたからには存在感を示し、相対したからには決して退くことも無し。初めから「退く」ということを考えない、あるのはただ進むことのみ。

 

 

「で。坊主、ここでいいのか」

 

「うん。俺とか先生がやってたみたいに、ここで」

 

「ほう……改めて見ると小さいのぉ。こんな小さい台で民に聞かせるとは……」

 

「いや、現代にはマイクっつー便利な物があってですね……いやもう話すの面倒だからあえてもう突っ込まないけど……」

 

 ライダーの目で言えば、確かに小さいものだろう。それも見た目だけではない。台という借り物、それもこんな小さなものの上で、国のトップに立つ者たちが毎日小さなことをしつこく。誰もが気にすることを責任転換のたらい回しを繰り返しているのだ。彼の目からすれば、この台はその意味も含めてあまりに小さなものでしかない。

 台という借り物を使うことでしか話せられない者たち、それを台がなくとも腹から出した声一つで民衆を、臣下たちを夢見させ、忠義を誓わせた彼にとっては必要ないものだ。

 

「ま、どこであろうとこやつ等に聞かせるには関係ないからな。とっとと初めて、終わらせるか」

 

 長々と続いた審議に嫌気がさしていたのだろうか。普段と変わらない、ケロッとした顔のライダーだが、その様子は傍にいる彼でもわかるほど機嫌斜めだった。感情表現がわかりやすい彼のことなので、この嫌そうな顔をしてからそう時間は経っていないと考えて、どうやら彼がこの顔になったのはカルデアについて色々と聞かれていた時だろうと蒼夜は推測する。

 

 

「さーて。どこまで話していたかの。お前らの子飼い(・・・)の連中……自衛隊と言ったか。連中が我らよりも強い、という事だったか」

 

 仁王立ち。まさにこの言葉にふさわしく、征服王は政治家たちの前に立ちはだかった。台に手を付けることもない、両足を肩幅まで広げ、腕は腰に。もう片方は後頭部辺りをぽりぽりと太い指で掻いている。そして、燃えるような赤い髪とほりの深い顔の中にある鋭い眼差しはゆっくりと開くと目の前にいる有象無象に向けられた。マイクすらもいらない。ただ野太くも通った声が確かに相対した彼らの耳にも聞こえていた。

 いや、聞き届けられていたというべきか。本物の王者である彼の言葉を一言一句聞き逃さないために、耳が自然と意識して向けていたのだ。

 

「………。」

 

 だからこそ、その姿と雰囲気だけでその場にいた議員たちは瞬く間に察した。この男は私たちとは根本的に次元が違う。腹の黒さや威圧感、プレッシャー?

 否。王者としての佇まい。そして覇気。砂塵舞う世界を駆け抜けた威風堂々たる男。それ

 は神代の存在であるからや、まして神話の人物だからではない。

 男がそう在るべく(・・・・・・)して生まれたから(・・・・・・・・)。王となって生き抜いたから。彼が生涯をかけて作り上げた己、そして人生という己が生の結晶体。だからこそ、ライダーが、征服王イスカンダルが放つ覇気は相手を屈するだけにあるものではない。彼の臣下となったエルメロイⅡ世がそうであるように。誰もが彼に魅了される。その意志を征服されるのだ。

 

 

「―――で。それに対して我らは漁夫の利を得て、手柄を横取りしたと。そうでなくとも、お前さんたちは我らが弱い。自衛隊のおかげで勝てただけだろうと……簡単に言えばそういいたいのだろう」

 

 小難しい話というより面倒ごとを抜きにして何が言いたいのか、つまりはどういう意味なのか。それだけを知り、知らせたいがためライダーは端的に話の要点を纏めた。これ以上政治家たちの延々と長ったらしい話は彼も飽きてきたので、早い目にこの審議にケリをつけたかったのだろう。

 今までの小言、疑問点。向こう側が聞きたいことであり、問題提起していたことを彼は気にすることもなく「取りあえずこういうことだろ?」とまとめてしまったのだ。幸原たちにとっては唐突に現れてはつまりこういうことだろ、と勝手に話を進める彼の横暴は目に余ることだが、ライダーの放つオーラにしばらく気圧されてしまっていたことで、反応が出遅れてしまっていた。

 

「え……あ……」

 

「ふむ。ま、確かにそうだわな。連中は強い。なんせ己よりも何十倍もでかく、そして強大な竜に対し正面からやり合い、尚且つ手傷を負わせた。圧倒的という力の差、体格の差があったあの場であ奴らは臆することもなく立ち向かい、そして勝利した。それは余も称賛に価すると思っておる」

 

 それはつまり、自衛隊の功績を認めるということ。そして自分たちが漁夫の利を得て炎龍を撃退したのではないか。

 一人独演会のように語っているライダーの言葉に幸原の頭の中では既に言葉ができているが、それを今すぐに出そう、ということができない。ライダーの言葉を一言一句逃すこともなく聞き取り、それはつまりと頭の中は正常に回り、話題についていって反論意見をくみ上げていた。だが、その言葉をいざ口にしようとした瞬間。彼女の中で「それを今、口にしていいのか」という疑問が唐突に浮上してしまい、まるで口が塞がれてしまったかのように言葉が喉の奥から出ようとはしない。あと一歩、もう少しというところで、言葉は完全にせき止められてしまう。

 

「が、話からするに自衛隊が強いということは他の連中が弱いという事に結びつくわけでもあるまい。あくまで撃退の一因が奴らの攻撃であったというだけで、それがヤツを一撃で屠ったわけでも、ましてやこちらが何もせずに横取りをしたという理由にはならんだろう」

 

「そ……それはそうですが、事実、自衛隊が撃退したという報告をこちらでは受けています。そしてその時の状況証拠と証言も既に確認済みです。ならば、彼らがドラゴンを撃退した、その事実は何の変わりもないはずです!」

 

「……だから。坊主の話を聞いておったか。それはあくまで結果での話だ。一から十まで自衛隊が戦っていたというわけではなかろう。でなければ、我らの横槍という事実自体が無に帰してしまう。それではお前さんらが()評価していた自衛隊の話がまるっきり嘘になってしまうぞ?」

 

 と、ライダーの言葉にまたも言葉を詰まらせ、それは、と小声でつぶやいて沈黙してしまう。

 一体彼らは自衛隊のことが好きなのか嫌いなのかと、ライダーはどっちつかずな彼女たちの解答にイラついていたが一定の理解は持っていた。いつの時代にもそういう考えを持つ人間がいる。だからこそ、なのだと。

 政治家、特に国の運営をする人間というのは、ああいった自分の利益になるものは何でも利用する輩がいる。特に軍略の面で活躍できず、対人間での駆け引きが得意な人間であれば、自分のため、仕える君主のためであれば

 

「それは、そうなりますが……ですが、だからといってあなた方が自衛隊よりも強いという保障も確証もありません! イタリカで多少は戦闘行為をしたと言いますが、それは対人戦。自衛隊が苦労して撃退したドラゴンをあなた方が倒せると―――」

 

「できると言えばどうする?」

 

「………は?」

 

 意気揚々とようやく自分たちのペースを取り戻せた幸原の言葉を、さも当然の如く割って入り、またも彼女の言葉を途切れさせる。

 

「貴様らは我らがあの炎龍を倒せないのではないかと言っているのだろ? なら、我らがもし炎龍を倒せたらどうする。いや、そもそも倒せる力を持っているのではないか、という可能性をお前さんらは考えてないのか?」

 

 何言ってんだお前、と目を丸くして呆気にとられる議員たち。対しているライダーは目が細く座りはじめている様子から、もう話に飽き始めていたのが見てわかるほどだ。

 どうやら自衛隊の力量を基準として、しかも自衛隊の戦闘能力しか知らない彼らにとって自然とカルデアのサーヴァントたちを下に見ていたようだ。

 

「そんな可能性とは……まさか、あなた達がドラゴンを倒せると? 確かに身体能力はおありだと聞いていますが、そんな漫画のヒーローでもない限りは……」

 

「なるほどな。つまりその「ひーろー」とやらであれば、「征服王」たる余やここにいる強者たちよりも強い、ということか」

 

 

「……おい、今アイツ……」

 

 もう長引かせる意味もない。当てつけのように強引に幕引きへと持っていくライダーの口から語られた自身の異名。その言葉に真っ先に反応したのは、彼に心酔する孔明に食らいついた嘉納だった。

 

「征服王……征服だって?」

 

 伊丹も遅まきでその言葉を聞いて耳を疑った。今まで豪胆なだけの王だと思っていたが、なぜか、その言葉を聞いた瞬間に彼の姿に揺らぎを覚え、一瞬にしてその見方が変わってしまう。

 征服という言葉、その言葉を口にした彼の姿はどうしてかその言葉が似合っており、その言葉が彼の為にあるように思えてしまう。その言葉の為に彼が居て、彼がその言葉の為に居る。

 それもその筈だろう。征服王。それこそがライダー

 

「人理を賭けた我ら人類の戦い。未来という不可視の世界を守るためには、当然相応の力というものが必要だ。が、見た通りこの坊主は正直戦士としてはからっきしでな。代わりに肝の据わった精神と、何事にも屈しない根気を持っておる。それは余も買っておるわい。

 だからこそその精神に、何事にも屈せず、恐れをも受け止めるこの男の姿にかの英雄たちは参列へと加わる。余もその一人だ。

 人類の未来、そのための特異点への旅路。それは想像に余る宿命よ。だからこそ、その旅を征するため我らの世界ではある秘術が使われる。

 

 英霊召喚。我らサーヴァントの使役よ。

 

 過去に名を刻み、人類史に偉業として称えられた者たち。その英霊たちを召喚し、自らの使い魔、サーヴァントとして共に戦う。

 これぞ、我らの正体であり、その一人がこの征服王イスカンダルである」

 

 王者の一人、神代の砂漠を勇者たちとともに駆け抜けた男。ライダーことイスカンダルは名を隠すこともなく公然と真名を曝け出した。かつて、彼のマスターであり共に聖杯戦争を駆けた孔明は、脳裏にその時のことを無意識に思い返していたが、あの時とは状況がまるで違う。この場は聖杯戦争でもなければ、戦いの場ですらない。いや、そもそも政治的な面では戦いの場なのだろうが、彼のように剣を振るい、馬を駆けた武人たちの戦場ではない。

 それでも、イスカンダルにとってはここは戦場であることに変わりはない。彼もまた王であることから政治面にも一定の明るさは持ち合わせていた。

 

(……ま、それを抜きにしてもアイツはああするだろうがな)

 

 元マスターであり現臣下の孔明は流れるようにアッサリと自分の名前を名乗ったライダーの姿に表情は呆れつつも内心はまんざらでもないと言った様子で、彼の口上をもう少し眺めていたかったが、自分の役割は別であるとすぐに政治家たちの方へと視線を向ける。

 孔明の予想では恐らくあのあっけからんとした名乗りに一瞬は驚き、思考停止するのだろうが、すぐに思考再開すると凝り固まった頭で「そんなことはあり得ない」と真っ向から否定して笑い飛ばすハズだ。

 なにせ姿は「らしい」としても伝説上の英雄の名前を語って男は現れたのだ。服装、雰囲気などは確かにそれを納得させるだけの要因にもなるが、だからといって伝説上の人間の名前を出し、あまつさえ自分は同一人物だ、と言い張ったのだ。

 今までのおっかなびっくりと特地の特性を抜いても、伝説上しかも何千年と昔の人間がこうも堂々と生きていて目の前に立っているのだ。それを素直に受け入れろと言われてすぐに受け入れられる人間はそういないだろう。

 

「は……?」

 

「えっ……?」

 

「………。」

 

 座っている議員たちの様子は多様だが、共通しているのはライダーの名乗りに呆気に取られていること。そして、恐らく英霊召喚のことも聞いて脳が一時的にフリーズしている状態で、誰もが彼の名に驚愕を隠せていなかった。

 だがすぐに整理した脳が結論として一笑を選択してくるだろう。なにせ、それだけ確信めいたものがなければ意味のないビッグネームだ。しかも、現実的でしかない政治家の考えからすれば、あざ笑うのも無理はない。

 

(……ん?)

 

 だが、三十秒といったところで笑い声の一つでもあがっていいではないか、と思っていた孔明の予想とは違い、イスカンダルの名乗りの直後にわずかに驚愕を隠せないという声以外は声が一言も出てくる様子がない。

 まるで時が止まったかのように会場は沈黙しており、議員たちは本当に時が静止したのかと思えるほどの硬直だった。目の前でライダーの目を明かされた幸原は口を開けたまま棒立ちしており、後ろで今まで呑気にしていた議員たちも眼を見開いたり口を開けたりして動こうとしない。一応、ライダーの後ろに居た伊丹は開けた口を静かに閉ざしていき、冷静になりつつあったがどうやら未だ戸惑いを隠せないらしい。

 

「は……ははは……」

 

 現実というより非科学的な特地の特性を受け入れる気になれない議員たちの考えのおかげなのか、後ろの席に座っていた議員たちの中からまばらだが小さな声が絞り出され始める。未だ信じられない、混乱しているということでの音量なのだろう、おぼつかないその笑い声は現実逃避そのものだった。

 

「い、いやそんなことが……」

 

 それが段々と前に居た議員たちも同じように声を絞りだし、面食らって彼の言葉に驚愕していた幸原も小声で彼の言葉を必死に否定する。

 

「だってイスカンダルってアレでしょ、神話の人物であって……そう、そうよ、きっと名前が同じというだけであって―――」

 

「いや、そのイスカンダルで相違ないと思うぞ? なんなら、余の死因とか死ぬ前に何をしていたか答えてやろうか?」

 

「そ、そんな事を言ったってそんなあり得ない話があるはずないでしょう! イスカンダルと言えば神話の人間、それがここにこうしていること自体あり得ないことで」

 

 そう。あり得ないことだ。それは少し前の蒼夜自身もそうだった。最初に冬木の地に降り立ち、キャスターのクーフーリンと出会い、その後牛若丸やレオニダス、そして清姫たちと出会い、やがて孔明、そしてイスカンダルやリリィとも出会えた。

 彼らが歴史の偉人である、時代に名を遺した者たちであるという実感を改めてかんじられたのは皮肉にもそういう反応をした冬木の時だ。

 

「ええ。あり得ないでしょうね。けど、実際にそうすることができる事、そうする方法をカルデアは知っている」

 

 より厳密に言えば魔術師たちでも知っていること。広く、当たりまえのように広がっているが実際にしようとしても、彼らサーヴァントを呼び出すにはそれなりの苦労もいる。

 が、極端な話、その苦労さえ乗り越えればあとは召喚するのは簡単な話なのだ。

 

「彼がイスカンダル本人であるというのは俺が保証します。そして、その証拠としてかいつまんでではありますが、彼らがどうやって現れたのか、そのやり方もお教えします」

 

「は!? そ、そんな馬鹿げた話を信じられると―――」

 

「別に信じようが信じまいが関係ありません。俺はただ事実を話すだけ。それを信じる信じないはすべてあなた方の自由です。嫌なら信じなければいい、別にいいのなら別に信じようと信じまいと勝手ですから」

 

 冷たい言い方で意見を一蹴する蒼夜だが、事実彼は議員たちに対して信じてくれとは懇願もしていない。ただ在ること、真実を包み隠さずに話すと言っているだけであって、それが嘆願であるわけでもない。そして、これからも彼が議員たちの前でそうすることはない。

 

「先輩……もしかして怒ってます?」

 

「単に我慢の限界なんだろう。見ろ、表情筋のところがひくついている」

 

 と、他人事のように傍観するマシュと孔明。だが彼らも巻き込まれるかわからないので、その時が来てもいいようにと構えている。なにせライダーの行為は一度声高く叫ぶと、それは瞬く間に演説にもなってしまうのだ。途中で自分たちの名前を上げられ、巻き込まれると考えてまず間違いはない。

 

「英霊たちの召喚。それは極端な話、皆さんが思う召喚のやり方で間違いはないと思います。英霊ことサーヴァントたちの縁の品、いわゆる触媒を用意して召喚するための陣を書いて準備は完了。あとは召喚の為の呪文を唱えれば英霊は召喚されます」

 

 イスカンダルが動いたというだけで、会場の空気は一変した。孔明が現代人であったからか、よくある政治家たちのねちっこい議論の場でしかなかった会場と審議は彼に変わったとたんにその陰険さをかなぐり捨てられてしまう。

 彼にとって、そんないちいちしつこい政治的な追及や質問、執念というのは生前から縁のなかったことであり、彼も絶対に好むことはない。彼の表現で言うなら、いわば湿地帯を好むか砂漠を好むかで当然ながらイスカンダルは後者を選ぶだろう。

 

「英霊というのはかいつまんで言えば使い魔。人の姿をした従者です。ですから、マスターである俺が彼らに魔力を提供することでその存在を保持しているし、だからこそ必然的にマスターにサーヴァントは基本(・・)従います。マスターが死ねば、魔力の供給が断たれる。そうなれば自分たちは魔力が切れて消えてしまう、というわけです」

 

「まるでよくあるファンタジーものですね、そんなことで信じられると……」

 

「じゃ、少し生々しい話を。触媒を使って召喚しますけど、実はこれってかなり博打打ちなんですよ」

 

「サーヴァントの召喚は触媒と召喚に必要な陣があれば問題はない。だが、問題は触媒によって誰が召喚されるかだ。我らサーヴァントは触媒の縁によって召喚されるが、触媒の縁は様々だ。必ずしも「この英霊が召喚される」という保障はない」

 

 空っ風のようにシンプルな雰囲気、いやシンプルな内容でありながらその奥には深い「何か」がある。それがライダーの言葉であり、彼の性格そのものと言っていい。

 王の矜恃という言葉だけでは到底片付けられないもの、時の人たちによる教示と出会い。人との出会いによって人が形成されるのであれば、砂漠の大海とそこに生きる人々との出会いが彼の根本を作り上げたと言っても過言ではないだろう。

 

「余に縁のある触媒を使ったとしても、必ず余が召喚されるわけではないからな。もしかすれば余の軍師が召喚されるやもしれぬし、はたまた影武者が召喚されるやもしれん。ま、時の運というやつだな」

 

「最初から強い英霊を召喚できるなら、誰も苦労はしません。そういう意味では、召喚された英霊たちはそれだけの実力と名があるということにもなります」

 

 故に、彼の前では陰湿だった空気はどこ吹く風と飛び去って行き、乾いた風が湿り気を乾かしていく。現代の政治家たちの腹黒いだけの空気を吹き飛ばし、すべてを曝け出せと言わんばかりに砂塵の嵐となって。

 ぬめりのある水は乾かされ、湿気ていた空気は水はけよくなっていく。議員らの中にあるその水を、空気を、曝け出しては防いでしまう。

 

「そんな話をしたからと言って、それを信じられるとお思いですか……!?」

 

「無理だろうな。なんせ貴様らの頭は余から見ても破滅的に硬い。目の前の現実を自分の納得するようでしか納得できんからな。そんなのが国の、民の上に立っているというのだから、この国の民も大変だなぁ……」

 

「ッ……また……」

 

 また小馬鹿にされた言い方をされてしまい、しかもやれやれとジェスチャーをしながら呆れられているのだから、いくら体勢を立て直したとはいえ幸原にとっては傷を抉られているのと同じだ。ロゥリィに馬鹿にされ孔明にあしらわれた彼女の精神はもはやボロボロで、怒りの沸点がかなり下げられてしまっている。ようやく落ち着きを取り戻した矢先にこの態度と対応なのだ。

 

「……て。普通に信じられる話ではないというのは俺も承知しています。非現実的ですもんね?」

 

「ッ……大人をからかって……しかもその大の大人までもが子どもみたいに……」

 

「嘘だと思っても結構です。だから、最後には俺の勝手をさせてもらいます」

 

「まさか、今後ろに居る人たちも歴史人物の名前、とか言わないでくださいね?」

 

「……大正解です」

 

 普通なら口を噤み若干気圧されるところなのだろうが、蒼夜はそこを当てられてしまったと残念そうな笑みを浮かべて返答した。

 

「………は?」

 

「んじゃ順に先生から」

 

 そう。まさかと言って普通なら浅慮な自分の考えを見抜かれてしまい、何も言えなくなるというのがこの場での常識だろう。実際、幸原も脳裏には彼がぐうの音も言えず別の言い訳か何かをして時間を稼ぐと見ていた。

 だが、蒼夜の返事はそのまさか。肯定し、あくまでそれを前提にした話を展開してきたのだ。

 

「―――諸葛亮孔明」

 

「えっ!?」

 

 一人目、キャスターこと孔明が深いため息をつき眼鏡を動かす。

 

「あ、私は英霊ではないので違いますが、私の隣にいるのは……」

 

「清姫と申します」

 

 未だ混乱気味だが、マシュに紹介されるように一礼する清姫。

 

「おーい、ランサー?」

 

「聞いてたよ。ランサー、クーフーリンだ」

 

「ケルト神話の英雄だ……!」

 

 イスカンダル共々爆睡していたと思っていたが、どうやら目を瞑っていただけのランサー。これにはゲームで知ったのか伊丹も反応する。

 

「……ジャック・チャーチル」

 

「……どちらさん?」

 

 ※ジャック・チャーチル

 第二次大戦中(・・・・・・)に実在した人物。

 繰り返し言うが、大戦時に居た人である。わからない人はググるべし。

 

 と、真名ではない別の名前を明かすアーチャー。

 彼が真名ではないのは著名人物ではないということもあるが、それ以上に彼の経歴は一言では語り切れぬものということで、蒼夜が事前に調べてその名を名乗るように頼んでいた。無論、このことは清姫にも伝わっているのであとで制裁を加えられることになっているのだが、この場を切り抜けられるのならと制裁を受けることを覚悟している。

 なお、彼の語ったジャック・チャーチルは大戦時に実在した人物で彼の祖国でない限りはマイナーな部類と言える。

 

「そ、そんな著名者を並べれば納得できるとでも思ってるのですか! いくら名前を有名人にしたからと言ってそれを納得できるなどと……」

 

「当然だな。なにせ目の前には死んだ歴史上の人間がいるんだ。それを信じろと言われてすぐに信じられるほど現実味を帯びた話ではない」

 

 そんなことは百も承知、孔明も議員たちの心情を理解してないわけではないと、彼らの言い分に同意する。だが、目の前にいるのは正真正銘の英霊たちで、蒼夜自身それを偽るつもりは欠片もない。同時に歴史上の英雄であれば炎龍との戦いにおける立ち振る舞いも強引だが納得のいく話になる。伝説上の英雄、であれば多少一般常識を逸脱していても「伝説の人物だから」というこじつけで納得してしまう。

 

「では、特地で見せた彼らの身体能力。あれは嘘だったという気か?」

 

「あなた方がドラゴンとの戦いに介入したという事実は覆せないでしょう。ですが、身体能力については誤認だったという可能性も捨てきれないと思いますが?」

 

「真人間が十数メートル飛んで、攻撃をよけてをすると思っているのか」

 

「いいえ。ですが、現場の状態から見てまともに認識できたとは思えません。事態が事態であったために、そう見えて(・・・・・)しまった(・・・・)のではないか、と考えられませんか?」

 

「……つまり何か、俺は弱いってか」

 

 もはや審議ではなく一種の議論の場となった中で孔明と幸原の討論にランサーが目を細める。

 そろそろ言い訳も苦しいところだが、逆に幸原の態度は余裕さを取り戻している。いい加減なこじつけの理由をしているというのに、それが逆に冷静さを取り戻す要因となっているのだ。これには孔明もため息をつくしかなかったが、同じくこの議論を終わりにしたい蒼夜も半ば破れかぶれな気持ちで返す。

 

「じゃあ、一体なにをすれば彼らが本物の英雄たちであると信じてもらえますか」

 

「そもそも、その話自体が間違いです。貴方はそのこと自体をさも当然のように話していますが、歴史上の英雄、著名人たちがそんなありもしない魔法で生き返るわけがないでしょう。貴方の言葉は根本から間違っていますし、私たちの話を全く聞いていませんッ!」

 

「どっちが聞いてないんだか……」

 

「というか坊主。さっきの名乗りで二人ほど名乗ってないぞ」

 

「え。あ……そういえばリリィと……」

 

 と。ここで何を思いついたのか、蒼夜はライダーに耳打ちをする。

 どうやら彼の言葉で何か浮かんだようで、ライダーも耳打ちを聞きながら勝手に議員たちを信じさせる方法をつぶやいていた。

 

「さて。なんなら余の戦車でも出すかの。頭の固い連中でもアレを視れば……」

 

「いやそんなことはしなくてもいいっていうか戦車なんぞ出すなッ!」

 

 むしろそんなことをしなくてもいい。

 不敵な笑みを浮かべて余裕げな様子の蒼夜は、サーヴァントたちの席、その中で端に居た、まだ名乗っていない二人のサーヴァントの内、カチコチのまま必死に目を開けているリリィに声をかける。

 

「リリィ。大丈夫?」

 

「へっ……あ、は、はい! だ、だだだ大丈夫でです!」

 

「声が震えてるよ……」

 

 孔明たちの討論についていくのに必死で頭が追い付いていなかったのだろう、と申し訳なさそうな声の返事に苦笑いをする蒼夜。

 だが、むしろそれでいいのかもしれない、彼女の頭が追い付いていないのなら、名乗っても(・・・・・)状況把握が遅れるだけなのだから。

 

「まぁ……ともかく、後は二人だけ(・・・・)だから、早く自己紹介ね」

 

「え。でも……いいんですか?」

 

「いいのいいの。それで、いいの」

 

 目の前にいるのが実在した英雄たち。それを信じられないという気持ちは当然のこと。だからこそ、信じられないと頑なに否定するのも結構だが、存在を否定してもその力は否定できない。ライダーの戦車(チャリオット)の召喚も、正直言えば蒼夜自身出してもいいとさえ思ったが、これ以上の事態の混乱は彼の望むことではない。

 では。この事態を収拾し、なおかつ一定の信用を得られる方法とは。

 頑固に否定するしかできない議員たちを信用させるには?

 その方法の一端として、リリィの存在は蒼夜にとっては絶好のサーヴァントと言えたのだ。

 

 セイバーリリィ。真名、アルトリア・ペンドラゴン。その幼き時のIFの姿。

 聖剣エクスカリバーを持つとされる騎士の王。

 その伝説は、この世界には存在しない(・・・・・)のだ。

 

 

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