Fate×Gate = Gate Order = 作:No.20_Blaz
以前はやる気がまったくだったのですが、なぜかふとやる気が出てきたので再開しました。
このモチベーションが続く限り、書いて行こうかと思います。
……で。今回は会話パートですので少し、場面を多めに切り替えてますのでご了承を。
それでは久方ぶりのFate×Gate、お楽しみください。
・余談
ちと多機能フォームの操作をしてたので特に編集や修正はしてませんので。
──―現代、日本
とは言うが、その世界は蒼夜たちがいた2016年の世界ではない。
伊丹たちの居る世界の日本も時代的な見方からいえば現代なのだ。蒼夜たちの世界と伊丹たちの世界は時代、年代が極めて近いので「未来」とも「過去」ともいえない。同じ「現代」だ。
その現代の日本は今、前代未聞の事態に直面していた。これは過去に例のない、どの国も、ましてやあるはずのなかった事だ。
……と世間では騒がれているが、事実それは確かなことだろう。
異世界と自分たちの世界とが繋がり、そこから異世界の軍勢が現れ、さらには自衛隊が今その世界へと派遣されている。
自衛隊や日本でなくても、こんなことは
そもそも異世界と自分たちの世界が繋がる、ということ自体がファンタジーでしかありえないと誰もが決めつけていた。それは子どもだけでなく、その手のジャンルを書く作家や漫画家でさえも、それはあくまでフィクションでありフィクションだからこそ面白いのだ。と答える。つまり、ファンタジー的な要素、それこそ「門」というものは
「──―ところがどっこい、二次元だと言われていたことが現実になっちまった。異世界という架空が現実になり、その異世界から俺たちは侵略を受けた」
「それが銀座事件の幕開け、ですか」
「ああ。当時「門」の周辺は休日ってこともあって人だかりがそこそこあった。元々人口密集地だったからな、それが休日にもなりゃ自然と人の数は増える。おまけに昼時ともなりゃ」
予想被害は言うまでもない。
嘉納の言葉に蒼夜は当時の様子を容易に想像できた。
休日の昼時。しかも人口密集地である市街地で突如、襲撃を受けたのだ。完全な不意打ちで、しかもそれが空襲や計画されたものではなく、ましてや現代の人間では想像はできてもあり得ないと断じてしまう方法。
誰も異世界からの軍勢が市街地のど真ん中に現れる、などと予想することはできないだろう。
「政府も最初は何かの撮影かなんかだと思っていた。当然俺もな。だが、実際に現地の情報や被害が届くにつれてそれが嘘のような真であることを受け入れた。
その時にゃ既に銀座は帝国の侵攻を受けて大惨事だったらしい」
急襲という形で始まった銀座事件は、銀座を中心に攻撃する帝国軍によって蹂躙され多くの死傷者を出した。そして、完全に先手を取った帝国軍は態勢が整ってなかったとはいえ政治中枢機関の一つである議事堂まで侵攻。この時、議事堂内もかなり混乱したらしく、中には大の大人が逃げ出したり泣き出したりしていたという。無論、現実を受け入れられない、あるはずがないと否定する者もいた。同じく現実を受け入れられなかったが、絶体絶命であることからそれどころではないと死期を悟った議員も居た。
「今でもこれが現実なのかって受け入れられない議員は多い。なんせファンタジーものの作品が丸っと目の前に現れちまったんだからな。無意識の中で現実と架空とで線引きしていたところが、いつの間にか消えて一体化しちまった。なにが現実で、どこからが虚像なのか。俺も未だにその辺りの線引きはできていねぇんだ」
辺り一面を照らす街灯、照明の光が輝く都内の街道。冬の季節ということですっかりと葉を落とした木々を目に、嘉納は独り言のように淡々と語る。
今日という一日を終えて、帰宅する者やこれから友人、上司らと共に飲みに行く会社員。クリスマスに彩られた街道を、手を繋いで歩くカップル。そのカップルを横目に自己満足のためだけに騒ぎ立てる若者。
東京の街というだけではない、どこの街でも見られる極々ありふれた光景。
いつも目にする変わらない街並み。だが、そこに架空のような現実が一つ。
「「門」を受け入れている人は多いんですか?」
先頭を歩く嘉納にマシュが尋ねる。まぁな、と答えると
「と言っても、受け入れられないヤツも居るのも事実だ。銀座事件で親兄弟、子どもを殺された。自分の関係者は被害を受けてなくても、その被害者たちに同情する者。その被害者たちを理由に危険だとわめく奴ら。理由は様々だが、少なくともそういった反対する奴らは大勢いる」
何かに難癖をつけて他のことまで批判する、といった形で政府の非を突きつけるといった姿は蒼夜もSNSやテレビで目撃したことがあるが、今回はそんな余計が入る余地もなく「門」のことに関して集中した形での批判、デモが頻発しているのだという。
銀座事件の被害、帝国の行いも理由の内だが、それよりも「門」が持つ力、異世界と繋がるという可能性が国民たちの不安を募らせる原因にもなっていた。
「帝国のやったことを許せない者、その帝国が「門」を開きっぱなしにしていること。そして「門」が起こすかもしれない可能性に対しての批判。分けてみると理由も様々だ。が、それを放置するわけにもいかないし、ましてずっと守ってるだけってのも逆に国民の不安と恐怖の種だ。そこで」
「帝国のいる異世界、特地に自衛隊を派遣した……ということですね」
「……公ではな」
嘉納もこれが派遣という名と言葉を借りた侵攻であるかもしれないというのは分かっていた。事実、当時の内閣総理である
派遣とは聞こえはよく、戦闘もないと思われているが実際は自衛隊を特地からの脅威に対する抑止力として派兵しているだけ、と大臣の一人が言った。自衛隊はあくまで専守防衛、そして他国を支援することが大まかな存在意義なのだ、と。
無論、北条もそれは理解しており、これが見方によっては侵攻と言われてもおかしくないというのも承知の上だった。
「当時の内閣総理、北条がそれでも特地に自衛隊を派遣したのは国の安全ということもあるが、帝国がそれだけの文明を持つ国であるということ、やり様によってはこれ以上の戦争を回避できる、と考えたからだ。自衛隊と帝国の軍との戦力差は言うまでもないが、それ以上に向こうも馬鹿じゃない。軍を編成し竜を手懐け、怪物どもを従えていたんだ。それだけの知性、文明があるってことになるだろ?」
カルデアの面々はそこまでは目撃していないものの、帝国がワイバーンを手懐けて竜騎兵として利用しているという話は聞いていた。嘉納の言う通り、他の生物を調教しているのなら、彼らにはそれだけの知性と知識があるという意味にもなる。
無論、それだけで自分たちと対等な存在かと言われれば、文明や文化の違いはあり、帝国よりも日本のほうが文明では上回っている。しかし、帝国の実態と政治体制は十分に成熟しているので対話や講和をする余地は十分にある。
「とは言っても、結局は帝国と二度の交戦を行い、挙句の果てには連合諸国とその残党とも戦ったっていうじゃねぇか。無血どころかドロドロの戦争になっちまったがな」
「帝国にはこの国、否、この世界を支配しようとする気があり、この国は国を守る為に戦うことを受け入れた。元より戦が避けられんのは分かっていたのだろう」
ライダー、イスカンダルがいう言葉はもっともで嘉納もそれは分かっていることだった。帝国は元々異世界を侵略するために軍を動かした。一度目が銀座での事件。そしてその後、「門」の向こう側、特地へと退いたとはいえ自衛隊がやってくるとわかった上でアルヌスに兵を置いた。結果、自衛隊は嫌でも帝国との第二戦を行うことになりその後、一連の戦いに繋がった。
自衛隊と政府も、ただ「門」から出てくる敵を追い払うだけでは根本的な解決にならないのはわかっていた。その為に「門」の向こう側へと進み、特地に入りアルヌスを手に入れた。
「帝国はハナから戦うことでこの国を手に入れようとしていた。向こうが既に拳を振り上げて降ろしているのに、こちらはそれに応じないのは無礼極まりない。降りかかる火の粉は払うしか方法はない。そうであろう?」
「……まぁな。だから銀座でもアルヌスでも自衛隊は応戦した。専守防衛の大義名分もあったが、殴られたら殴り返さずに話し合おうって言うほど平和ボケもしてねぇさ。
事実、銀座で追い返したからって次は向こうも対話を持ちかけてくる、なんて馬鹿な考えをしてた奴なんて居なかったしな」
侵略しようとしている国があって、その国が日本へと進んでくるのだから、日本も既に戦闘する意思を示している帝国と剣を交えることは避けられないことでもあった。相手が戦おうとしているのに、自分たちは戦わないというのは傲慢ではないか。まるで自分たちが戦うまでもない、と言い彼らの尊厳や意思すらも否定することのよう。相手が戦おうとしているのに戦わないというのは、優しさでもあるが同時に自分の傲慢さを示しているのと同じだった。
加えて、帝国が銀座で攻めてきた時に既に自分たちの国を攻撃することに躊躇しないというのは分かっていた。ならば、もう二度と銀座事件のような惨劇や被害を出さない為には、帝国が攻めてくるのを諦めさせるには、自分たちも戦うしかない。人々を守るために、銃爪を引くしかないと
「結果。公の発表で自衛隊は二度にわたり帝国と交戦。どちらも圧勝という形で帝国の主力部隊を壊滅させた。無論、支援活動であるイタリカの戦いは伏せられているがな」
「伏せられているのですか?」
嘉納の言葉にマシュは問う。
「ああ。俺たちは報告で聞いているが、他の二つと違ってイタリカ戦は相手が帝国じゃないからな。盗賊崩れの残党、しかも構成員は帝国の属国の兵士だったて聞く。俺たちの相手は帝国なのに、属国の連中を倒したって話をしても「何故、どうして」と質問攻めにされるのがオチだ」
「……それは確かに。それにイタリカの戦いでは正規の軍人さんはごく僅かで民兵が戦ってましたから、そうせざる得ない状況だったとはいえ批判される可能性もなくはないですね」
「ま、やむを得ないっていう理由で納得する奴もいるだろうが、それでもそんなところに自衛隊が茶々入れるっていうのも国民がどこまで納得してくれるかわからないからな。結局はお蔵入りさせるか、タイミング待つか。とは言っても、この場合はほとんどが前者を考えるがな」
交差点の前に並び赤になった信号を眺めながら言う嘉納は深いため息をつく。夜も深くなりつつあるというのに車の往来は多く、どこかしこから聞こえてくるエンジン音は未だどこかで人々が働き、営みというものを続けていることを示していた。
「不都合な情報のもみ消し……か」
「常道の手段だろ? といっても威張れることでもねぇけどな。それでもイタリカの件はまだ明かすわけにはいかん。今回の参考人招致でもそうだが、ほとんどの人間は始まりと結果しか見ない連中が多い。過程は見ているといっても、それは所詮と言ってな。物事の大事なことっていうのは「結果に至った理由」、つまり過程だっていうのにな」
頷く蒼夜に嘉納が返す。彼の言う通り、イタリカの経緯は仕方のないこととはいえ事実は変わらないので、その部分しか知らされず誇張されるしかないのであれば、いっそその事実を時が来るまで伏せるか、最悪歴史の闇に葬るしかない。それは日本と言う国、そして国というシステムが成り立ってから国を動かす者たちが自然と行ってきた方法の一つだ。
「情報の隠蔽。真実の迷宮入り。この国が成り立ってからずっとやり続けてきたことだ。いずれは表に出てくることもあるんだろうが……自衛隊が他所でドンパチして人を撃ってるんだ。言われることは大体予想がつく」
何故、自衛隊はイタリカで帝国ではない盗賊を相手に戦っていたのか。
何故、たった数百人の村人たちを自衛隊は守れなかったのか。
何故、帝国との戦争の早期終結をしないのか。
何故、自衛隊はイタリカで戦いに参加していたのか。
戦いとは言え、盗賊崩れを壊滅させる必要はあったのか。
そもそも。自衛隊はただ戦争をしたいだけではないか。だからこそ、特地での活動報告を曖昧にして隠蔽しているのではないか。
その場で蒼夜がざっと考えただけでもイタリカを含め、自衛隊の特地での活動に対しての疑問と批判の意見の予想はこれだけ出てくる。もちろん、それだけではないもっと多くの疑問を国民は持っているだろう。
特に自衛隊が特地に行ってから向こうのことについての報告が曖昧である、と報道されており事情を知らない、早く終わってほしいと思う国民はその糸口として明確な報告というものを待ち望んでいる。同時に政治家たちも同じだ。特地では現地の自衛隊たちが様々なことに四苦八苦しているのに対し、日本にいる政治家、国民はその苦労を知らない。
「イタリカのことも含め、ドラゴン……炎龍つったっけか。そして帝国との水面下での交渉。そもそも帝国が俺たちと同じ知性を持つ人間たちが立てた国であるってことを国民は忘れている。向こうも知識を持ち、文明を持っているんだ。思想もありゃメンツもある」
「それでも二度の大敗という状況から、帝国は戦争を続けることができない。もしくは続けても無駄であると理解しているとみて降伏は時間の問題と考えている、かな?」
「そう簡単にいくとは誰も思っちゃいねえさ。それだけの大敗をしてもなお帝国は白旗を上げないんだ。敗北よりもひどい敗北をしたっていうのに、それでも帝国はあきらめていねぇ。
メンツなんてモンだけを理由に戦ってたら、知らないうちにどんどん屍の山を築くっていうのにな。この国の人間……特に失われつつある人間たちはそれを一番よく知っている」
特地の世界で覇権を握っていた帝国。それが異世界の日本、自衛隊によって圧倒的ともいえる軍事力を見せつけられて惨敗した。しかも銀座事件の後にアルヌスでの攻防戦が行われ、その時には銀座事件以上の損害を帝国が被ったというのだから、帝国のメンツだけでなく軍事力、威信ですらズタズタにされたと言ってもいい。それでも帝国は二度の敗北という状況を目の前にしても戦おうとする者たちが居た。虚勢を張り、それでもなお威信にかけて戦うと言う者たち。これまでの歴史、そして先人たちが己が人生と命、そして意思をかけて帝国という大国を作り上げたのだ。メンツだけでなく、そういった今の帝国を作り上げてきた人たちに対して申し訳ない。だからせめて一矢報いるまでは、と思う人間も居るだろう。
だからこそ。その末路を
「この国はかつて大戦によって大きすぎる被害を受けた。何百何千万という命と、その命すら気が付けば吸い上げてしまうほどの大地を作り出し、それでもなお幻想の勝利へと進もうとした歴史。
帝国は言ってみりゃこの国と同じ末路を辿ろうとしているのかもしれない。だから、それを止めるためには互いに納得のできる形で止める必要がある」
「帝国の降伏。もしくは終戦協定ですか」
「先に喧嘩を売ってきたのは帝国だからな。向こうが負けを認めてくりゃ良し。引き分けと言うのなら……ま、そこは俺たちでなんとかして纏めないとな」
歩行者用の信号が赤から青に変わり、嘉納と共に蒼夜たちも白と黒に分けられた歩道を渡り、彼の後をついていく。話も止まることはなく、嘉納は蒼夜たちに聞こえるか聞こえないかぐらいの音量で話を繋げた。
「今、国民が望んでいるのは帝国との和平。いや終戦だ。「門」ができてから国民も落ち着き始めているが、それでも戦争に関してはいい加減から真面目まで理由は様々だが終わってほしいという声が圧倒的だ。それに、自衛隊を特地に派遣しているっていうのも、政府としても国民としてもあまりいい気分になれないからな」
「あの、嘉納議員。自衛隊はそこまで国民に嫌われているのですか?」
「いや。嫌ってるっていうより立ち位置をはっきりして欲しいっていうのが本音だ。正直、自衛隊が居なけりゃ困るのは俺たちだけじゃない。国民だって困るのさ」
議事堂での審議での自衛隊に対する批判の嵐はマシュから見ても政治家たちにとって自衛隊があまりいい組織ではない、という印象を植え付けるのには十分なほどだった。といっても嘉納の言うことも事実で、実際政治家たちにとって自衛隊は居ないよりは居てほしい組織で、あれば便利程度にしか見られていない。しかし銀座での事件もあり近年では自衛隊の存在価値も高まっているので、政府としても自衛隊自身としても、そろそろ立ち位置というのをはっきりさせておきたいのが現実だった。
「──―そもそも、自衛隊という組織の理念が納得できん。専守防衛といい、戦う気があるのか?」
そこにイスカンダルが今まで気になっていたことを訊ねる。自衛隊のありようという、彼にとってはハッキリとしないそれはむず痒いものだったのだろう。その言葉には威圧とも我慢の限界ともいえる熱が混ざっている。
「戦う意思があるかどうかでいえば、ない、だな。だが近隣諸国の情勢の不安定さという点では自衛隊……いや、武力を司る組織は必要だったと言える」
「ならハッキリと言えばいいではないか。近隣諸国の脅威から守るための軍事組織。他国との差別化を計ればそれだけでも存在する意味はあると思うがな」
「それができればよかったんだけどな。この国は自衛隊っつー組織を持っていながら、戦争放棄……つまり戦争をしないことを謳っている。それが自衛隊の立場をあやふやにしてしまってるんだよ」
そもそも自衛隊という組織は軍隊ではない。というのが政府の見解であるが、他の国から見れば自衛隊の規模と装備は明らかに軍隊のソレとなんら変わりはない。陸海空とそれぞれに部隊を保有し、最新型ではないが多くの兵器をも有している。事情の知らない人間からすれば、自衛隊は立派な軍事組織に見えてしまうのも当然のことだろう。
だが、嘉納の言う通り自衛隊の現状は自分たちの居る国。つまり日本が制定した憲法によって立ち位置があやふやになっており、そこまで至ったのには歴史があった。
「大戦後、日本が元々有していた軍は解体されて日本には一時期だが軍というのが存在しなかった。警察は残ってたけどな。その間に政府はアメリカと決めた新憲法、今のこの国の憲法の基礎を作り、そして制定した。かつての帝国主義、過ちを繰り返さないように戦争放棄を明言し、世界で唯一の戦争に加担しない国家となった。
もう二度と戦争に巻き込まれることはない。国民は大いに喜んだんだろうよ。けど、問題はその後だった」
「戦争放棄によって自分たちが戦争に直接かかわることは無くなったけど、代わりに他の国の戦争に関わらざるえなくなった」
「……ってことはそっちとこっちの歴史は大して変わりはないってことか」
蒼夜の割り込みに嘉納もどこも同じだな、とつぶやく。
戦争放棄によって日本そのものが軍を持たず、戦争を直接行うことはなくなった。しかし、今度は戦争をする国の支援ということで間接的だが戦争に関わることになる。戦争によって何もかもを失われた国家は、こうして戦争によって失ったものを取り戻していった。
同時に自国を守るための武力も同様で、一度は手放した軍事力は再び手にすることとなり、その結果自衛隊という組織が生まれた。
「自分たちでもう二度と戦争はしない。その為の軍隊を持たない。と明言したはいいが、今度はよその国の戦争に巻き込まれちまって、挙句その為に守る力がまた必要となった」
「で、それでできたのが自衛隊か」
「昔は警察予備隊って言ってたがな。やってることの大よそ変わらねぇが」
斯くして警察予備隊から保安隊を経て今の自衛隊へと変化したのだが、問題は後付けの形で生まれた自衛隊と、その以前から存在していた戦争放棄に関する法律とが矛盾しているという問題が生じてしまう。
戦争放棄は戦争を起こすだけでなく、戦争をするための軍事力を廃するという意味もあり、日本が二度と戦争を起こさないように封じる、もしくは戦争をすることを未来永劫してはいけないという戒めでもあった。しかし、いくら近隣で戦争が起こり、その脅威から守るためとは言え軍事力を有するというのは本末転倒にもなってしまう。
なので、現在でも自衛隊の立場に関する論議はことあるごとに度々行われてきた。
イスカンダルの言う通り、自衛隊を軍と認めるか。それとも自衛隊を軍と呼ばれないほどに縮小させるか、解散させるか。あくまで一例、例えの話だが論議の内容はそんなものだ。
そして、現在伊丹たちの居る世界、そして蒼夜たちの世界の日本が共通して公表しているのは「自衛隊は守るための組織であり、軍ではない」ということ。
「結局、自衛隊という組織は未だにあやふやな立場に置かれてしまっている。国を守るための軍隊か、人を守るための組織か。その為の行動はずっと起こしてきたつもりだった……けどなぁ」
銀座事件、そして特地での戦闘。イタリカでの戦い。これら全てが自衛隊の今までの行動を一気に無に帰してしまうようなことになってしまったのは、嘉納にとっては痛い話だった。
「…………」
「リリィ? どうかしたの」
「えっ……ああ、いえ何も……」
嘉納たちの話を聞いている間、ずっと俯き何かを考え込んでいたリリィの表情がさらに暗くなったのを見て心配した蒼夜は我慢ならずに小声で呼びかける。当人は考え込んでいたようで、気づいた瞬間にマスターである彼が心配そうな顔をしているのを見て、力のない笑みを作った。
「リリィさん、大丈夫ですか? 思いつめたような顔をしてましたけど……」
「……はい。でも、大丈夫です。少し考えていただけなんで」
作り笑いで必死に誤魔化そうとしているリリィの様子に蒼夜とマシュは揃って目を合わせて何かあったのか、と気にするが今はと蒼夜はそれ以上突っ込むことをせず、相槌を打ったマシュも
「わかりました。でも、何かあれば言ってくださいね……その、目線のこととか」
と気を和ませることを言いリリィも面食らった顔をするがはい、と笑って答えた。
表通りを移動し、人気のない道に入ると今までよりも第三者の視線というものがより強く感じられた。
蒼夜はそれが恐らく嘉納の護衛をしている人間か、自分たちを監視、もしくは狙っている諜報員ではないかと見るが、気楽な様子で鼻歌を歌いながらイスカンダルと談笑している彼の様子から後者はないと見て、視線が護衛のものだと考える。
「痛い視線だな。見なくともわかるほどの気配だ」
「警戒されてる……ってことなんですかね」
「仮にも議員一人とこうしているんだ。警護なしということの方がおかしい」
普通なら警護数人をつけて初めて安心する、というのが政治家などの権威者たちの典型だが、嘉納はそれとは異なりSPが居ようがいまいが関係はない……とまではいかずともあまり気にしないタイプだと孔明は言い、そんな政治家がいるのかと素直に驚いている。
議事堂で見た議員たちはほとんどが典型例に当てはまる人間だったので、未だにこうしたタイプが年齢的にもいるのだというのは珍しいことだという。
「おかしいってことなら……俺は目の前の光景が少しおかしいかなって……」
「……ああ。それはもうこの場にいる全員がわかっていることだ」
目の前の光景。それは彼らの前を歩くイスカンダルと嘉納のことだ。現代の政治家と伝説に登場する大英雄。本来出会うどころかあり得ないだろうことが、こうして実現し、しかもかなり親しげに話をしている。他の政治家なら固まるか虚勢を張るかだが、嘉納の話し方はそんなものは微塵も見られず、様子から見てもその有様は蒼夜から見て酒を飲んで語り合う親父二人だ。
「すごいですね、嘉納議員……イスカンダルさんとあそこまで話せてるなんて……」
「あそこまで豪胆で大雑把なヤツはいないからな。そういう人間の扱いが慣れているのは自分が同じか、そういった人間を好むか。はたまただが、恐らく彼の場合は前者だろうな」
「まぁ……そうですよね。俺たちと一緒に帰って、しかも家に連れ込もうとしてるんだし」
もはや付き合いの長い友人二人のような光景にマシュとリリィも驚くしかなく、孔明は彼ら二人の様子を羨ましそうに眺める。蒼夜はその片方である嘉納の器や度胸に恐れるしかなかった。
「……俺ら、人理修復に来たんですよね」
「え、先輩?」
「もはや目的すら分からなくなってきているのかもしれないが、一応、この世界は特異点に関係しているんだ。間違いはない」
そもそもの目的すら分からなくなるような光景に蒼夜もついには思っているのかわからないことを口にしてしまい、自分たちが何のためにここに居るのか分からなくなってきていた。
孔明の言う通り、今彼らの居る世界が特異点である特地に関わっていることは確かで何かしらの鍵があるのかもしれないという可能性はあった。が、未だ特異点の原因すらわからないこの状況では目的を見失いかけるのも無理もない話だと孔明は言うが理由はそれだけではない。
「それとも、今更ホームシックにでもなったか?」
「…………」
それがどうやら
「……先輩?」
心配になってマシュが声をかけるが、蒼夜は答えない。
「今に始まった話でもないが、やはり原因は
笑みが消えて、孔明からの言葉に穿たれた蒼夜の顔は正面から地面へと俯いていく。歩くスピードも徐々に遅くなってきているが前を歩く二人を見失わないようにと必死に足を動かしていた。それが目の前にいる二人に追いつこうとするだけではなく、見失ってはいけないという最後の維持のようなものがあるおかげだというのはマシュにも容易に想像ができたが、蒼夜がその一言でここまで機嫌を変えてしまうのは、彼女では理解することはできなかった。
「……別に君の気持も理解できないわけではない。それに、それがおかしいとは思わない。むしろ普通。そう思うことは正しいことだ」
ホームシックというものは、誰だってあること。それは孔明も否定せず当然であると肯定する。それは人間として、
「以前、Dr.ロマンから話を聞いた。最初の頃は特異点修復のせいで余裕はなかったが、時折君の家のこと、家族のことを話していたとな。無論、それがホームシックだけじゃなく君の精神に対する一種の治療法であるというのは分かっている。人理修復などという馬鹿げた大偉業を担っているんだ。何の用意も覚悟もない君がそんなことを経験しないはずがない」
孔明の言葉を聞きながら蒼夜の表情は嫌悪感ではなく、的確に本音を突かれて何も言い返せない、いわゆる「ぐうの音もでない」というもので孔明の言葉を聞きたくないのではなく、むしろそれが図星だからこそ蒼夜は言い返すことも、嫌悪することもせずに沈黙していた。
「理由が幼稚だ、などというつもりもない。誰かを思うということ。それが利害や損益、合理的な意味ではない感情的な理由であるなら、それは間違いなくマスターがまともであるということの証明だ。魔術師であれば、そんなことは考えない」
「……俺は、魔術師ではないと」
「少なくとも君はそう自覚していると私は見ている。数多のサーヴァントたちを束ねる異端なるマスター。人類史最後にして例外中の例外。それはマスターとしてだけではない。そのサーヴァントたちを使役する人間としても君は十分に異端だ」
異端という言葉に蒼夜は聞きなれながらもその実感はないに等しいのだが、孔明、否ロード・エルメロイⅡ世から見ればその言葉は十分に当てはまる存在だという。
本来、聖杯戦争に参加するマスターは魔術師であることがほぼ常であると言っていたことを思い返す。聖杯戦争が魔術師たちが起こす儀式なのだから、当然参加するのも魔術師である。一応、例外的な事例もあるにはあるらしいがそれは彼も知るところではない。
「……話を戻そう。君がこの世界に色々な感情を抱くのも無理からぬことだ。なにせ、君がレイシフトした特異点の中では、この世界は一番君の時代に近い。いや、ほぼ大差はないと見ていいだろう。今までの中でここ以外に近い時代は私と言った平行世界の第四次聖杯戦争。そして、ミス・両義が居たあの塔……いや、ハイムか。そして冬木。だがあのハイムは、あの周りのみが特異点であり、冬木はそもそも壊滅していた。であれば、残るは第四次の冬木だが……ま、あの時は君にロクな支援をしてやらなかったのは謝罪する」
というのも、平行世界の冬木で起きた第四次聖杯戦争。それは特異点Fの2005年から更に十年ほどさかのぼった時に起こったもので、孔明もかつての名前「ウェイバー・ベルベット」として参加者に名を連ねていた。
そこに現代で疑似サーヴァントとなった彼が介入し、完全な第三勢力として聖杯戦争に参加。聖杯の回収を行った。
が。その時は聖杯回収のためと、基本行動の全てが彼任せであったということから、ライフスタイルは完全なロード・エルメロイⅡ世のそれだった。宿はビジネスホテル。夜に備えて二人は爆睡。しかし隣では葉巻を吸い、彼が何かを企み用意し時折それを手伝わされる。
結果。自分の時代よりも数年前の世界、というものを堪能できずほぼ疲労感といつ襲われるか分からないという危機感に襲われた日々であったというのを蒼夜も鮮明に覚えていた。
「辛うじてコンビニ周りとか、欲しがってたゲームソフト買うのに付き合わされたりとかしましたけどね……」
「……スマン。欲しかったのでな」
「孔明、日本嫌いとか言ってるけど割と日本のもの好きだよね」
「そういえばそうですね。前にお邪魔した時には日本のゲームらしきものが大量に……」
遠い記憶に思いをはせていたマシュと蒼夜に妙な罪悪感を覚えた孔明はああ、すまんかったと投げやり気味に返すが、次の瞬間ふと会話に割り込んできたリリィの発言に思考を停止させる。
「…………待て、セイバー。君は入ったのか。私の部屋に」
「え? ええ……」
「……冗談だろ。私の部屋は極力入らないようと
「ですが、あの時はキャスターさんご自身が入っていいと言ってくれましたよ?」
リリィの純粋かつ裏のない言葉に孔明は抱えていた頭を動かして、それらしい記憶がないかと探る……こと、二十秒前後。
「……ああ。そういえばそうだったな。二回ほどだったか」
「いえ、五回ほど……」
「…………」
◇
──―時を同じくして、都内のとある表街道。
蒼夜たちが入った閑静な住宅街とは異なり、未だ人の往来が多い表街道は目が疲れるほどの明るさで、暗い夜の月明りは人工的に作られた明かりの数々には微力でしかない。
立ち並ぶ店やテナントビルなどの光に照らされた道を行きかう人たちは疲れ切った顔をした者や、まだまだ元気な者、すっかりと出来上がっている者など様々だが、みな夜も更けてきたということで声量が極端になってきている。
「ったく。東京の街ってのは、なんでこう……」
だがあくまでも声が聞こえにくくなってきているだけで、道路には未だ車が途絶えることなくあちらこちらへと向かい、走らせ続けないための信号機が障害者用の音声を鳴らしている。まるで昼の肉声の代わりに夜は無機物の機械音が台頭して、未だ首都圏は眠らないことを見せつけているかのようだ。
当然、誰が望んだことでもなく、首都圏が経済の中心である事やそれが原因で夜遊びだけでなく人道を反した残業時間の会社員などがいるからこそ、この賑わいは成立している。
だから、よそ者でなくてもこの夜の騒音を好む人間というのはそうはいない。いるとすれば、それは恐らく
「五月蠅いったらありゃしねぇ。だから、俺は……」
「あら、もしかしてこの街が嫌いなの……?」
憂鬱げに俯いてぼやく声が聞こえたのだろうか。前で目を輝かせて楽しげに辺りを見回していた女性が、いつの間にか目の前に立っていた。
別段、目の前に現れたことに驚きはしなかったが、女性から投げかけられた質問にはため息をついて間を開けると嫌々ながらに答える。でなければ純粋さ100%の彼女にとっては無視ないし無言は罵倒と同義なのだから。
「別に。ただ夜は静かなほうが好きってだけ。第一、俺も都内に来たのは初めてだし来たからって特に嬉しくもない」
「都市部が苦手なの?」
「いや、俺も用があれば散歩がてら街には出たけど、だからってここまで目と耳が喧しい街じゃなかった。おかげで寝る気も失せた」
「……まぁ、貴方が言うことも一理あるわね……夜の街がここまで賑やかで明るいのはいいことだと思うけど、少し度が過ぎているというか……」
……ああ。話を合わせてるな。完全に。
どうやら彼女は五月蠅くても、活気のある街の街道というのは好きであるらしく自分の言葉に同意する時に見回していた目は言い訳を探すかのように必死そうにしていた。
返した解答は外れではなかったが、同時に当たりでもなかったらしい。一番中途半端な回答をしてしまったということになるが、それでどうなるという訳でもない様子なので何も言わずにまた歩き始める。
(はぁ……)
現実でのため息をつき終えて、今度は内心でもため息をついてしまう。その原因は周りの騒音、ではなく実は行動を共にしている女性が原因なのだが、その女性という原因もさらに辿っていけば全ての原因は自分の判断にあった。
が、今更後悔や思い返しをしても意味がない。本当なら適当にそこらの物に当たりたいが、生憎と人がいる前なので面倒ごとはゴメン。
自分でも性分に合わないことをしているな、と思いながらふと下げていた目線を持ち上げて電飾と街灯の先に広がる黒にもなれない夜空を眺めながら歩き続けた。
(我ながら慣れないことしてるよな。……こんなことならあの時、アイツの頼みを断ればよかった)
今さらでは自分の判断に文句をつけることしかできないが、それで気分が少しはマシになるのだからと、脳裏でひとしきり文句を言うと現実に戻ってきた意識によって周囲の変化に気づく。
「ん……?」
考え事をしていたので、気づくのが遅れてしまったが気が付けば自分の周りでゆったりとそれでも撫でまわすように辺りを見ていた女性の姿がない。
いや。厳密に言えば女性の気配はあった。が、その距離は先ほど話していた時よりも離れている気がした。
「どこに居るのかと思えば」
一応、連れ人であるため、居なくなっては自分にとって色々と困る。なので、彼女を探し右に左にと首を回していると自分のほぼ真後ろにいることに気が付き振り返る。
女性が自分のことなど気にせず、というよりそれ以上に興味を持ったものに夢中だったので、気づかせるためにやや音量を上げて呼びかけた。
「おい。そろそろ行くぞ」
「んー……ちょっと待ってー……」
聞こえてはいるが、返されたのは待ってほしいという頼みで、何をそれほどまで見るのに夢中になれるものなのかと進んできた道を少し戻って女性の眺めているショウウィンドウを見に行くと、そこには女性なら誰もが憧れる美しい白のドレスがガラスの向こう側の世界で顔無き女性たちに纏われており、その色白……というよりも白そのものであるはずの女性マネキンの上からも純白のドレスは耀きを放っていた。
「……ウェディングドレス?」
「綺麗よねぇ……本当に……」
話を聞いているのか、それともととれる言葉を呟きながらガラスの向こう側に着飾られたドレスをうっとりと眺めている。
その目はドレスと同じように耀き、美しい赤色で光の世界を見つめ子どもが欲しいものを見つめるそれと同じように向こう側の世界、そこにいる女性たちの纏う礼装を憧れる目であった。ショーケースの中にある蛍光灯の光にあてられ、煌びやかな光を放つ純白のウエディングドレス。女性であればだれでも一度は来てみたい、という淡い願いを抱くのだろうが、それを見るもう一つの目はそこまでのあこがれも、まして興味すら持たない。
……でも。
「……ああ。まぁ外の風景よりは、ずっと見やすい」
その意見には同意だ。と、小さく微笑む。
◇
とっぷりと夜の色が濃くなってきた空は目を凝らせば厚い雲がところどころに見えており、晴天だった空は闇に変わっている。星明りのない空の下は暗く、かろうじて空に浮かぶ白銀の月だけが夜闇を照らすが、それも一時であり僅かなもの。ひとたび雲に覆われれば視界は闇に覆われ、目の前どころか自分の姿すら侵されてしまい見えにくくなってしまう。
「だいぶ住宅街に入ってきましたね」
「うん。……っていうか歩くの長くないですか、嘉納さん」
だが、そんな夜闇の世界でも人間の科学の利器である街灯、そして家々の明かりが時折蒼夜たちを照らし、顔の表情や服、歩く姿を曝け出す。
閑静な住宅街に入ってからしばらく、暗く時折明るい夜道を歩く蒼夜は隣を並び歩くマシュの言葉に、そろそろ歩くだけもつらくなってきた蒼夜は嘉納にいつまで歩くのかと尋ねる。
「なんだ、もうヘバッたか?」
「いや、別にそういうわけではないんですけど、あんまりにも歩くの長いなって」
現に、彼の少し前を歩く孔明ことエルメロイⅡ世の顔は疲労感を見せており、後ろを歩くセイバーと清姫にいたってはサーヴァントであるにもかかわらず眠気が襲ってきているようでうとうとと微睡んだ顔になりつつあり、かろうじて残された意識で蒼夜とマシュの服を掴み後をついていた。
「……後方三名、既に限界間近です」
「なんだ。お嬢ちゃんらはともかくとして、そこの
……後に、孔明はこの時のことを「空気が悪いせいだ」と言い訳するが無論そんなことで通るわけもなく失笑で終わった。サーヴァントになったというのに体力があまり強化されていないという現実は、孔明としても受け入れがたいものだったのだと、失笑した蒼夜は思っていた。
「悪かったな……こちらはこうした長距離の移動は慣れてないんだ」
「長距離ねぇ……まぁいいさ。もうすぐ俺ん家だからな」
その言葉に内心孔明は安堵していたのか、ようやく一息つけると小さな溜息がこぼれ歩く足取りが若干だが回復したようで、ライダーの背を追っていく。
もうすぐ終わりだから、とラストスパートをかけて歩く姿は蒼夜にも見覚えがあり、ようやく終わると思い全力でゴールへと向かい走る少年……より詳しく言うなら中学生が長距離を走り終わる当たりの心境であると。
「二人とも、もうすぐだから頑張って」
「ん……はい……」
「んみゅぅ……」
なんとか眠気と戦いながら歩く清姫は、残された意識と力で答えるが、マシュを掴んでいるリリィはそろそろ限界なようで返事すらできてない。リリィとしてはこの時間は元々眠りの時間のようで、既に彼女の顔は夢の世界に旅立とうとしていた。
「おーい、リリィー寝るなら着いてからだぞー」
「……完全に熟睡モードですね」
「やれやれ……マシュ、ちょっと手伝って」
眠気に勝てなくなっていた二人を蒼夜はなんとか連れて行こうと、体勢を変えることにして清姫をおぶさり、リリィとは手をつなぐという父親のようなことをすることとなり、片手で清姫を支えながら歩く蒼夜の顔は動く前から疲労感が出ていた。
マシュは既に疲労感満載の彼の顔をみてすぐにフォローに入り、リリィの手をなんとか自分に握らせて蒼夜が清姫に気を配れるようにする。
「とと……ごめん、マシュ」
「いえ、先輩にすべてお任せするわけにはいきませんので」
もうすぐ嘉納の自宅だからといって蒼夜に任せるというのは理由にはならないと、マシュはリリィの手をしっかりと握り、それでいて蒼夜たちに遅れないように今までと同じスピードでついて行く。
マシュの気配りに蒼夜は素直に感謝し、両手で清姫を抱える蒼夜は前からの視線に気づかないまま、清姫をしっかりと抱える。
「まるで夫婦だな、ありゃ」
「ははははは。まぁ実際、あやつらの関係は友というよりは、その方が近いのかもしれんな。対等であり、敬いであり、慕いでもある。そしてその中に確かな信頼というものを持っておる。ま、確かにありゃ熟年夫婦だわな」
後ろからついてくる熟年夫婦顔負けの二人の仲の良さを前を歩く男三人は目にせずに聞こえてくる声だけで理解し、それを肴に話題に花開かせる。
話題は夫婦から連想され、嘉納やイスカンダルらの身の上話に変わる。
「ウチのカミさんも、ああやって俺のこと気遣ってくれりゃいいんだけど、これがまた手厳しくてよ……」
「ほほう。いつの時代も女とは一筋縄にはいかぬものだな。余の妻のロクサネもだな──―」
共に既婚者ということで話が盛り上がり、後方の静けさとは打って変わり明るい男たちの声が夜の住宅街に響き渡る。相当気が合ったのか、二人の話題は直ぐに盛り上がりを見せ、会話の内容は二人にしかわからない内容になっていく。
ついて行く孔明はそれを蚊帳の外から聞いているが、時代や国が異なる彼らがここまで話が合うことに違和感を覚えながらも、妙に合致する感覚に戸惑いを隠せない。
そして、傍観してた孔明は、なんの前触れもない奇襲攻撃に抵抗もできず面喰ってしまう。
「ところで兄ちゃん。お前さん、結婚してるのか?」
「……は?」
「結婚だよ。お前さんの歳なら、それくらいの話はあるだろ」
「い、いや……私は……」
「あ。そうか。諸葛亮孔明つったら既婚者だったよな」
「あ……ああ……」
ロード・エルメロイⅡ世がその身に宿し、憑依された英雄である孔明は既婚者。つまり結婚しているのだ。名は黄夫人といい、名前については諸説あるが彼女が孔明の妻となり知識を与えたという話もある。が、その辺りの真意は不明とされている。
だが彼の中にいる孔明はどうやら既婚者であることは間違いないらしく、エルメロイⅡ世もそこは否定しなかった。
「ほう。そうなのか、坊主」
「いや……まぁ……」
嘉納とライダーの言葉に歯切れの悪い声しか返せないエルメロイⅡ世は目を泳がせたくなるが、それを必死に抑えなんとかこの話を終わらせようと思考を巡らせ、会話を紡ぐ。
「……確かに、私の、妻……はいるが、誰もが思うような関係では……」
「へぇ、そうなのか? それはそれで聞いてみたくなるな」
「あ……」
ちなみに、依り代であるロード・エルメロイⅡ世は独身。結婚なんていう浮いた話とは無縁の生活を送っており、性格がこうでなければ捻くれた人生を送っていたという。
また結婚という話は一切なかったが、後に孔明はある時うっかり「子どもを作らされるところだった」と語ったとか。
(マズい……)
とはいえ、今は彼は孔明の名で通っているワケなので、話も相手はそれを基準にして、自分もそれを踏まえた上で話していかなければいけない。エルメロイⅡ世はそのことについては別段問題があるわけではなかったので、孔明のようにふるまうというのはできなくはなかった。しかし、さすがに身の上話については考えてなかったらしく、未知の領域である結婚生活の話を孔明はなんとか誤魔化して──―それも清姫の検知に引っかからないように──―話を進めて行くしかなかった。
「前はなんだか楽しそうですね。ライダーさん、嬉しそうです」
「そうだね。参考人招致の時、ライダー結構鬱屈してたから、ああやって話せる人が居て嬉しんだろうな」
陽気な前方の三人の会話風景を目に、蒼夜とマシュはその後をついて行き、あと少しである嘉納の家を目にすることを望み、歩いていく。月明りと住宅街にぽつぽつよ点在する街灯の光、そして住宅の明かりだけがあたりを照らすだけになった道を歩く二人は、あまり多くを語らず、そして話すこともしなかった。
蒼夜は単純に清姫の事を気にかけて、というのもあるが何より自分の隣を歩く少女の姿に、なんとなくそうするべきだ。と考えたのだ。
「それにしても嘉納さん、かなりフレンドリーにライダーさん……アレキサンダー大王と話してますけど、物怖じもなにもありませんね」
「多分、嘉納さんはその辺意識はしてるんだろうけど、頭の中の割合……っていうかプレッシャーよりも好奇心とかシンパシーが勝ってるんじゃないかな」
加えて、フレンドリーに話しかけてくれる彼の性格が嘉納とは相性がいいようで、政治家であるということを抜きにしても親しみやすい性格同士だったのがあるのだろう。
……それにしても、後ろから見れば飲み会帰りのリーマンに見えるな
と、ふと見た時に思ってしまった蒼夜だがそれは言わないでおこうと半笑いの顔を必死にこらえ、彼らの後へとついて行く。
そして。嘉納の足が徐々に遅く、やがていったん止まり方向転換したのを見てようやく目的地にたどり着いた蒼夜たちは顔を見上げ、目の前に現れた建物に目を向けた。
「………………」
見上げた顔が元の位置に戻らない。ただ一人、マシュだけが茫然と顔を見上げて口を開けるという、普段の彼女からはあまり思えないリアクションをするので蒼夜は思わず立ち止まり、マシュに声をかける。
「マシュ、どうかした?」
「え……あ、いえ別に……」
ふと聞こえてきた蒼夜の言葉に反応したマシュは一瞬きょとんとした目で彼を見るが、すぐに何を言っていたかを思い出し、それに対しての返答を返す。
珍しく呆気にとられた顔をしていたので、それを見た蒼夜は口にはしなかったがマシュが見ていた方角に何があるかを確かめると、なるほどと納得する。
一言でいえば、マシュにとってはイメージと一致しなかったのだろう、と。
この後、嘉納の家に無事にたどり着いた蒼夜たちだが、そこでもまた騒動があったのだが、それは後の話。
◇
そのころ──―
時を同じくして、夜の住宅街を歩く一団が先導者によって目的地に向かっていた。
師走の肌寒い風が肌をなで、思わず身震いしてしまうのは大半の者の衣類がやや薄着であるということだからか。それでも目的地があるのとないのとでは差は大きく、もうすぐ暖をとれると考えれるだけで彼らの足取りは緩まなかった。
だが、それも長くは続かない。特地からやってみた面々はともかくとして、元からこの世界に居る三人も寒さにはこたえ、冷たく感じていた頬の感触は次第に痛みを伴い始めていた。
「……で。もうずいぶん長いこと歩いてるんですけど、本当に目的地に向かってるんですか?」
「ああ。もうすぐだ」
「……本当なんでしょうね、これで秋葉原とかに着いたら……」
「しないしない。本当に別のとこだって」
先導者の行く先を信じていない栗林は背に向けて鋭い目線で警戒しており、先導者であり信用というものが薄れている伊丹にもはや警戒心に近しいものを持っていた。
これには先導する伊丹も視線に対し本気にならざるえなく、もうすぐだからと宥めて歩くことしかできなかった。
「すっかり警戒されてますね」
「まぁイメージからかけ離れてるっていうことからの気持ちはわからんくもないけど……」
とはいえ、この状況は伊丹にとっては複雑でしかなく、なんとか特地メンバーは談笑で若干時間を稼げているとはいえ、そろそろ目的地に着かなければ何をされるか分からない。不満げな顔をしているのは栗林だけであるが、それがかえって伊丹の胃を強く縛る原因にもなっていた。彼女の冷たく鋭い視線は心労を加速させるだけでなく、自分の信用のなさという証拠にもなっていたからだ。
「隊長、いつもこんな感じだったんですか?」
「まぁ、おおよそはね。一応公私わけてたつもりだけど」
富田はそんな目で見る事はなく、興味本位ともいえる言い方で質問をするので彼との会話が唯一、心労をやわらげる方法だった、が。ふと周りの景色に何か気づいた伊丹は歩を緩め顔を一方向に向ける。目的地にやっと着いたのだ。
「お。ここだ」
「ここ……ですか」
「ここは……アパート?」
伊丹の声に富田と栗林が続いて止まり彼と同じ方向に目を向ける。これには他の面々もつられ、足を止めて首を動かし、目を向けた。
見えてきたのは、どこにでもあると言えるほど普通などこにでもある二階建てのアパート。外装からして古く、何十年も前に作られた見るからに安アパートなそこは、思わず誰もが言葉を失ってしなう。
しかし、そこを何気なく、取り付けられた階段を上がりアパート二階の部屋に向かう伊丹の姿に、口を開けて呆然としていた面々は気づくと急いで後を追う。
どうやらここが伊丹の目的地らしいが、それにしてもこのアパートが、と思う面々はこの先に何があるのかという興味と警戒心を持ち、さびれた廊下を歩いていく。
──―まさかここが彼の自宅か?
最初に誰もが思ったのが伊丹の自宅だが、自衛隊という職からそこまで悪い生活をしているはずがないと、同じ自衛官である二人は頭の中で否定するが、そこに伊丹の趣味という要素が加わることで、その可能性が現実味を帯びていく。
趣味に大半、あと生活。傍から見ればありえなくもない。
「うわ、寒っ……」
二階の一室の前に立ち止まり、スーツの内ポケットから鍵を取り出した伊丹は慣れた手つきで鍵を開けると、ドアを開けて最初に吹き込んできた冷気に思わず身を震わせる。
外に出たわけではないというのに、なぜか肌寒いその理由は間違いなく部屋が暖められていないからだ。その証拠に、部屋に入ったというのにその向こう側は外の夜空よりも暗く、生活感どころか誰か住んでいるかすらわからないようなほどで、その部屋の光景を見た特地の面々はここは深淵か何かの入り口かと間違えるほどで、実際ある意味ではここは深淵のような場所、であるのには変わりなかった。
「こりゃまた……水道、ガス……電気、はまだ生きてるか。まったく……電気まだついてるならエアコンぐらいつけろよ」
と、部屋の寒さと暗さに文句を言う伊丹は電気のつかない部屋の中で靴を脱ぎ、短い廊下を歩き部屋の一室の戸を開く。
一連の動きはまるで明かりがある我が家のような動きだが、実際は部屋は外よりも暗く、我が家というわけではなかった。彼はまるでそこにもう一人、誰か住人がいることを知ってるかのような言い方で話しており、ここが伊丹の自宅ではないという可能性は彼の言葉によって霧散した。
「あの……二尉……」
「ああ。ごめんみんな。構わず入ってくれ。部屋暗いけど、何もないからさ」
次の瞬間。戸を開けた向こう側からがさがさと物音が鳴り、小さく淡い光とともに何やら黒い物体が伊丹に向かいうごめき、はいずり寄っていく。まるで黒い蟲かなにかを思わせる動きは見ただけで入る気を失せさせるが、それ以上に彼の足元でもぞもぞと動いているそれが何なのか聞きたい富田、栗林らは目を細めて黒い何かの姿を暴こうとする。
「ご・は・ん~あー~……あったか~……」
すると、うごめく黒いなにかは伊丹が持ってきた袋にしがみついたままつぶやき、むしゃぶりつくかのように袋に触れていた。そういえば、とここに来る前に牛丼チェーン店に行っていたので、黒いものがすがりつく袋の中身がテイクアウトした牛丼であることを思い出す一同は袋の中身が牛丼であることを察するが、それですべてが解決したわけではない。
最後に影が薄れ、目が慣れ始めた富田が伊丹に対し黒い物体について問いを投げた。
「あの……そちらの方は……」
「ん。ああ。これは………………
俺の”元”嫁さんだ」
──―直後、アパート一室の玄関口で一同の絶叫が響き渡る。
余談ではあるが、この時、栗林がとどめを受けたかのように打ちひしがれるのだが、それに気づいたのは近くで見ていたボーゼスだけで他の誰もは目の前の事実の驚愕していた。
「うえ……?」
そして、そのすべての元凶である伊丹の元妻はあたたかな牛丼によだれを垂らしながら、目の前の光景に目を丸くしていた。