Fate×Gate = Gate Order =   作:No.20_Blaz

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お久しぶりですー

急にやる気が出てきたんでひとまずは。
ただ最近はやる気のメーターや方向性が振れ幅激しいので、どうなるかは俺にも……
とりあえず続ける気がある限り気長に続けます。

ちなみに久しぶりの更新なので内容を若干忘れていますので、ご勘弁を。


それでは、どうぞ。


チャプター3-7 「現代停滞地『日本』 = 夜の幕間 =」

 

 

 

 

 

 伊丹が既婚者である、というのは実は知られているようであまり知られていない。というのも、彼の性格、人間性から「どうせロクでもない奴だ」という先入観があるせいで大体の自衛官が自分と同じ独身である、と思っているからだ。無論、そうでなくても他人の事にはノータッチという人もいるので知られない理由の一つでもある。

 だが、実際は―――

 

 

 

 「ったく……やっぱ案の定滞納してたか」

 

 「いやー……面目ない」

 

 ……と。牛丼をほおばりながら謝罪の意思が全く見えない顔で謝る伊丹の元妻こと葵梨沙(あおいりさ)。その表情に謝罪どころか反省の色というものが微塵もなく、牛丼を食べながら笑って言うとさらに説得力がない。むしろこれを当たり前か些末なことと切り捨てているかのような軽さで、これには伊丹も深いため息しかでなかった。

 

 「お前なぁ……これじゃぁ先の生活が思いやられるぞ。もう少し幅広げたらどうだ?」

 

 「おーこーとーわーりーでーすー。私の作品はそういう商売のためにしてるわけじゃないので」

 

 「がっつり即売会に出てるのにか?」

 

 「うぐっ……」

 

 同じ穴の狢ということでか二人の会話はかなりスムーズで、その話の内容は蚊帳の外にいるレレイやテュカらはもちろん、富田ですら何の話かと首をかしげる内容で一体なんのことか聞いても理解できずにいた。

 

 「まったく……腐女子だっつてるけど、こんなことしてたら本当に腐るぞ」

 

 「しれっと怖い事言わないでくださいよ……大丈夫ですって、今度は使いすぎないようにしますから……」

 

 「そう言って何度も金借りたとこ見てきたぞ」

 

 「うぐぐ……」

 

 直後。梨沙は伊丹の言葉から逃げるように目の前にある作業スペースことPCに向き直り、牛丼をほおばりながら作業を行う。彼女にとっては耳の痛い話なようで逃げるそぶりと縮こまった体からそれは明らかだった。

 現に富田から見ても梨沙の生活は決して余裕のある生活とは言えず、先ほども電気以外がすべて止められ、梨沙自身は餓死寸前だった。それを伊丹からお金を借りて生活してるというのはなんとも納得のいく話で、これには栗林も返す言葉がなかった。

 

 「しっかし、まさかこの人が隊長の元奥さんなんてね……」

 

 「不思議な格好をしているな。こっちでは流行りの服なのか?」

 

 レレイの質問にノーと言いたい伊丹だが、ある意味で梨沙の着ている服は流行っているというニュアンスが正しい。着脱可能で着心地もある程度保証され、しかも外出はそれを着たままで髪型を気にするだけでいい。そんなオタク系御用達の服装であるジャージ姿はオタク系や外出を好まない者、ファッションにあまり金をかけたくない者には好まれる傾向がある。無論、本来の使い道であるスポーツ選手も着ているが、そうでなくても着やすさと着心地を兼ね備えたこれに最終的に落ち着くのは道理でもある。

 

 「一部で……かな」

 

 「特に隊長みたいな趣味を持つ人に、ですよね」

 

 栗林の言葉を耳に入れつつも必死に無視をする伊丹は、話題の切り替わりを見て逃げから戻った梨沙と目を合わせ、何も聞かない彼女に対し問いの返答をする。

 

 「……テレビ見てたか?」

 

 「全然。でも動画生放送で見てましたよ」

 

 「そうか。まぁ……言ってしまえば、そう言うことだ」

 

 「…………。」

 

 詳しく何も言わない伊丹の言葉に梨沙はしばらく沈黙するが、牛丼を食べる口だけは動かし後ろに広がる光景をじっと眺める。

 梨沙の部屋をぐるりと見回すレレイ。あくびをするロウリィ。本棚を物色(許可はもらった)するテュカ。そして。

 

 「これは……なんと……」

 

 「素晴らしい……このような芸術(ゲイ術)がこの世界にあったとは……」

 

 「殿下、ここは異世界ですよ……」

 

 「―――そうだった」

 

 と。テュカが物色する本棚の中から出てきた梨沙の成果物を見て何やら驚愕を受け、食い入るように見るピニャとボーゼス。ちなみに物色した当人であるテュカはさして興味がないようで、開いて流し読みをしてはちゃんと戻すという妙に律儀なことをしていた。

 

 「―――なるほど。事情は大体わかりました。つまり、ここに今日泊まりたいと」

 

 「そう言うこと」

 

 と、察した梨沙に伊丹は了承を得たと確信するが、返ってきた言葉は普通に考えられる当たり前のものだった。

 なぜ。私の家なんだ、と。

 

 「……なんで私の家なんですか」

 

 その言葉に伊丹は今更だが罪悪感というものが突き刺さり、また口を閉ざしてしまう。なんで元妻の梨沙の家なのか。なぜ彼女の家で一夜を明かそうと決めたのか。理由はいくつかあるが、その理由の中には共通してあるものがあった。

 極端な話。それに巻き込まれるものの事を考えないということ。梨沙の気持ちを二の次、三の次にしているということだ。いくらピニャら特地の来客を守るためとはいえ、自分たちの家はマークされているからとはいえ、その虚を突くためにこうして元妻の家に上がり込んでいる。確かにここなら一夜を明かすことは問題ないが、それは彼女を巻き込んでしまうという事実に他ならない。

 

 「いや、話は分かりますよ。でもね、それで私を巻き込むのはどうかなと思うのですが。……二重の意味で」

 

 「自分もここで一夜を明かすのは少々……二尉の元奥様とはいえ民間人です。巻き込むわけには……」

 

 これには当然ながら富田も反論し、ここに泊まることに反対する。行く当てがない以上、こうして誰かの家に泊まることは致し方のないことだが、ここで戦闘にでもなれば確実に梨沙の身に危険が及ぶ。無論、それは伊丹も承知しており、言うまでもなくそれは想定している。

 だからこそ。

 

 「わかってるさ。巻き込まれることも。でもね、遅かれ早かれ梨沙が狙われる可能性はあったし、ほかに行く当てもない。俺の家なんてそれこそ罠に飛び込むのと同じだ。

 だったらその可能性がある場所、梨沙の家に泊まるなり確認に行くなりしないと」

 

 「……そのためにここに来たんですか?」

 

 「それもあるし、今言ったけど行く当て他にないしさ。あとはこうして滞納してるだろうなーって」

 

 再び伊丹が梨沙の方へと目を向けると、気まずい梨沙はまた目をそらして逃避する。結果は予想通りであったこともあり、しばらくは話題に入ることも反論をすることもできなかった。

 梨沙を説き伏せることに成功した伊丹は、それを彼女の了解として受け取り話を進める。

 

 「そういうわけで、今夜はここに泊まろうってことになったわけだ」

 

 「まぁ建前としては納得ですけど、本音であるなら少し考えすぎじゃありません?」

 

 今度は栗林が言葉を返し、伊丹の考えは考えすぎではないか、と言う。確かに伊丹の考えは考えすぎと言えばそうであり、本当にそうしてくる可能性も低いはずだ。

 が。これを伊丹はあえて肯定し、考えすぎな方が今回は丁度いいかもしれない。と返した。

 

 「まぁ栗林が言う通り俺の考えすぎかもしれない。でも今俺たちが守ってるメンバーを考えると、そうも言ってられなくなる」

 

 「……蒼夜くんらですね」

 

 「そ。それに今俺たちが守っているロウリィらも加えると、こっちは向こうさんにとっては宝の山を抱えているのと同じだ。特地の人々、本来ならありえざる存在。これで手を出すなっていう方が少ないはずだ」

 

 「まぁ現に二、三度こっちに仕掛けてきてますもんね」

 

 「最初のバスをデモンストレーションとして省いても既に二度。つまり向こうは十重二十重の策を余裕で練っているってことになる。だったら、少し考えすぎて意外な場所に行くってのも案外考えられるだろ」

 

 相手が既に立て続けに襲ってきた時点で伊丹たちに警告だけでなく実力までも見せているので、相当の大国、諜報能力がある国なのは明らかだ。そして、もし失敗してもすぐに次の作戦、方法を展開するあたりそういったことに慣れている、経験豊富な組織が行っているのもおおよそだが判明した。

 つまり、可能性として梨沙になんらかの危害が及ぶというのもまんざらあり得ない話ではないのだ。

 

 「だから、実は案外どっかから俺らのこと見張ってる、なーんてのもあり得るってわけだ」

 

 「うわぁ……隊長が隊長してる」

 

 「栗林。お前ホント俺を何だと思ってる」

 

 栗林の言葉に若干の怒りを覚えた伊丹はそう言いつつ、話がまとまったとみて全員に話を切り出す。

 

 「……はぁ。全員注目! 本日はここで一夜を明かします!」

 

 伊丹が全員に向け話を切り出すまで、レレイやテュカらは梨沙の部屋を興味ありげに見て触っていたが、彼の話に全員が目と耳を傾け、やや気だるげだったり軽い返答が帰ってくる。

 

 「ういー」

 

 「はぁい♪」

 

 「はーい」

 

 どこで覚えてきたのか、気だるげなレレイ。妙に引きつり何かから逃げる……という梨沙と似た表情で笑みを作るロウリィ。そして梨沙の成果物を何食わぬ顔で読んでは戻すテュカ。

 三者三様の返事が返ってきて、それぞれの反応に伊丹も苦笑いするが、それだけ彼女らも暇をしてないということにひとまず安堵する。

 ……ただし。

 

 「なんと……」

 

 「これは……!」

 

 変に深刻そうな顔で梨沙の成果物を読むピニャとボーゼス。

 何にそこまでショックを受けたのかと思うが、成果物の中身を知っている伊丹は脳裏に「まさか」と彼女らの脳裏に広がる光景を想像してしまう。

 

 「……まぁそうだよな。異世界だし、中世だし」

 

 「中世とか異世界は関係ないと思いますよ、隊長……」

 

 だが、趣味や性癖などに時代は関係ないので、こればかりは否定も阻止もできない。話そっちのけで食らいつく二人の後ろ姿に、伊丹は顔を引きつらせて失笑した。

 ―――二人の頭の中には今、本当の意味で薔薇が咲き乱れているのだろう。

 赤く美しく、そして魅惑あふれる赤いバラ。それがこの時代ではネットという電子の海でどう呼ばれているか。それを知る伊丹は、まさかだからなのか、と思いたくなるがそうであって欲しくない。なんだかそう思えてしまい、必死にその否定を自分自身に言い聞かせていた。

 

 

 

 すっかりと夜も更け、誰もが寝静まる深夜。澄んだ雲も夜の闇に溶け、辺りには必要最低限の光しか灯されていない住宅街の道を、富田は梨沙の部屋の窓から見下ろす。周囲に誰か不審な者はいないか、変化はないか探るためだ。とはいえ、普通に窓の外からでは一般人からも怪しまれるので、カーテンを閉めて、そこから僅かにめくり外を覗き込んでいる。

 

 「にしても、まさか本当に異世界の人間……それもエルフとかが居るとはね。新作ネタには困らないわ、これは」

 

 梨沙の部屋で一夜を過ごすということを決定した後、伊丹、栗林、そして富田の三人は交代で見張りと仮眠をとることとなり、今は富田が見張りをしつつ梨沙と気晴らしの会話を行っていた。とはいえ、その話相手である梨沙は明日締め切りだからということで満たされた腹から小さな吐息を吐きつつ、目の前の画面に釘付けになっている。彼女も一応、これが仕事のようなものなので、落とすワケにもいかない。なので会話も途切れ途切れになり、梨沙に返答の余裕がある時を窺いつつ、富田は質問を投げかける。

 

 「……隊長とは趣味の一致で?」

 

 「うん。まぁね。とはいえ、私は御覧の通り腐女子なわけだけど、あの人……先輩はそういうの知ってて受け入れてるから」

 

 「では、互いに知った上で……ですか」

 

 「若いころから互いに腹の中知ってるしね。私が先輩の趣味を理解してるように、先輩も私の趣味を理解していた」

 

 「だから結婚なさった……」

 

 「んだけど、まぁそれだけで上手くはいかなかったわけよ。これが」

 

 趣味を理解しているから、互いの腹の中がわかっているからと言って結婚生活がうまくいくか、と言われるとそうでもない。互いの事を理解していてもいつか理解できない、納得できないものが出てくる。

 梨沙にとってはつい最近起きたことで、そう思えたのはその時からだ。

 

 「人間、誰もが100%理解できたり分かり合えるわけじゃないように、私も先輩とはその辺がかみ合わなかった。他ではかみ合ってたのに、その部分だけがかみ合わなくってね。それが何故か全部かみ合わないみたいに感じて、ああ、これは違うんだなって思えて。だから、別れた」

 

 「……そんなアッサリと別れられるものなのですか」

 

 「意外とね。とはいえ、私らは世間一般の夫婦っていう感じじゃなかったし、そもそも互いを愛し合ってたかって言われれば、その辺もね。だから別れる時も特別哀しかったわけじゃない。現にこうして偶に会えるし、普通に会話もできるし」

 

 梨沙曰く、夫婦という関係からかつての先輩後輩、そして友人という間柄に戻りはしたが、これが思いのほか前よりもうまくいっているのだという。というのも、夫婦であることから互いのプライベートが犯される心配があったらしく、それが離婚によって無くなったのが実は互いに一番喜ばしいことだったらしい。考えるべき部分、喜ぶべき部分がそこであるということには富田も一言いいたくもあったが、彼女らにとっては重要な点はそこだったということに、なるほどと頷く。

 

 「結婚ってさ、凄い幸せではあるんだと思うよ。実際私も多少違ってたとはいえ、夫婦生活っていうのに楽しさも感じてたし。でもね、夫婦って言うことは常に互いを思い気遣うことが必要なんだって知ったのよ。自分だけじゃない、もう一人のパートナーって存在が自分と同じ家で、同じ時間を過ごし、同じご飯を食べて、同じテレビを見る。

 一人じゃないってだけで寂しくもならないけど、同時に窮屈に感じることもある。本当の一人の時間っていうのが少なくなるからね。

 けどあの人の、先輩との違いとか窮屈さっていうのはそこじゃあなかった」

 

 「喧嘩なさったんですか?」

 

 その言葉に梨沙は小さく一笑する。

 

 「まさか。趣味関連で喧嘩は多々やったけど、私生活での喧嘩はなかった。むしろ互いに互いが知る情報を交換して生活の役に立ててたし。互いを知ってるから譲歩や妥協点は見えてたから。

 ……でもそこじゃない。私が本当の意味で先輩と離れたのは、そこじゃないのよ」

 

 「……どういう意味ですか?」

 

 富田の問いに梨沙はしばらく言葉を詰まらせて沈黙する。その沈黙はなぜか聞いた富田にも重くのしかかり、まるで話すべきではないことを聞いてしまったかのように、その場の空気が暗いものに変わっていくのを肌で感じた。

 それでも。梨沙は意を決したのか、小さく息を吸いまるで腹をくくったかのように口を開いた……その時だ。

 

 「………! 失礼。電話です」

 

 携帯のバイブが骨を通じ感じられたので富田は会話を止めて携帯を手にする。

意を決して話そうとした梨沙は、その対応に拍子抜けし僅かに落胆したが、彼の見えない、見ないように視線を動かすと小さく息をついた。

 

 「もしもし……あ。蒼夜君?」

 

 「……蒼夜?」

 

 「今どこに――――――え? 嘉納大臣の家!?!?」

 

 富田のその言葉に、微睡みに落ちていくはずの伊丹の意識は突如引っ張り上げられ、裏返った声とともに彼の体は起き上がったのだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 「はい……はい……あ。ハイ」

 

 携帯を耳に引っ付かせ、短い返事だけを返す蒼夜は、最後に「わかりました。では予定通り、明日」と言うと、今まで上の空だった目を椅子に腰かける孔明に向け、また短い挨拶を交わして電話を切る。画面を弄り、スリープに切り替えた蒼夜は携帯を近くにあるテーブルに置くと、対面するように椅子に腰かけて溜息をつく。

 

 「どうだった?」

 

 「伊丹さんたちも今日は身を隠して一晩過ごすらしいです。互いに寝床の心配をしてたけど、これは大丈夫そうかな」

 

 「……となると、うまく撒けたか。あるいは、向こうも準備しているか、か」

 

 細めた目でさて、とつぶやく。今後の事や今の状況を推察する孔明に蒼夜は今の平穏が偶然のものなのかと問う。

 

 「この状況、今日が前哨戦ということで素直に退いたのもあるだろうが、あの自衛官……伊丹が予想とは若干異なる場を選んで隠れたことが功を奏したのだろう。人の住むアパート、それも人口密集地だ。異音やトラブルには臆病な日本人(ジャパニーズ)でもそれくらいは勘付く。

 そうなればどこから作戦が漏れても、行動が読まれてもおかしくはない」

 

 「臆病っていうより敏感というか。他人ごとだけど、そういうのを自分の目で確かめないと気が済まないっていう人が多いんだよね」

 

 「なるほど。だが、どちらにしても下手をすればバレてしまう」

 

 「だから今回はやめた……か。強硬策が来るって可能性が?」

 

 「ない。さっきも言ったがこういった人の多い場だ。少なくともそこで騒ぎを起こすとは考えなくてもいいだろう。誘拐にしろ拉致にしろ、この一件で警戒レベルが引き上げられているだろうから、それも皆無だ」

 

 ゆえに落ち着いていられるのか、とイスに腰掛ける孔明に相槌で返す蒼夜。

 今日だけで既に三度の襲撃があり、そのすべてが悉く失敗してしまった。一度目のバス、二度目の地下鉄、そして三度目は伊丹らの方の脅しまがいの窃盗もどき。それが立て続けに行われ、なおかつ失敗したことで相手はもう少し強引に出るか、と蒼夜は考えていたが、それは考えが浅いと孔明に指摘される。

 強硬策というのは、もうバレてもいい、後がない時やバレても問題ない時に行われる策であって、こういった場合に行う強硬策は無策の力技と同じ。相手は世界の大国であることから、そんな愚かなことは早々しないし、やるはずがないだろうということで、孔明は今夜の襲撃はないと言い切ったのだ。

 が、それは同時に後日に改めて何かしらの攻撃があるということ。今はその時ではなく準備を整えているだけだ。そのつかの間が今なのだ、と。

 

 「それよりも問題はあのゴーストだ。あれだけの数を出しておきながら動かすこともしないのはなぜか。地下鉄内で言ったこともありうるが、そもそもあれだけの数をこちらで出すメリットがない。いや、それ以前に生み出す理由、使役する意味は何か。そもそもアレを生み出したのは誰か」

 

 「自然発生じゃない、誰かによって生み出された幻霊……って言ってたよね。なら少なくともこの世界って可能性はない。だから……」

 

 「特地の魔術師か。確かに向こうの魔法と言われる魔術であればあるいは可能だろう。だが、そうならまた次の疑問が産まれる」

 

 地下鉄の線路内に出現したゴースト……幻霊は姿こそ見えていたものの動くことをしなかった。ただ線路内を彷徨い、動くだけのポルターガイストは蒼夜からすればC級映画やイラストなどで見る背景のそれと同じで、その無反応さは今も疑問点だ。

 彼らが特異点の旅でゴーストの類との戦闘があるというのも理由の一つだが、同時に誰かから教わった言葉が蒼夜の脳裏を駆け巡り、疑問へと繋げていた。

 ―――そこに在るということは何かしらの意味がある。それは有機物、無機物。生命、非生命。生命体、怨霊、幻霊。万物のものは在るだけで意味を持つ。

 それが誰かからの言葉か、読んだかは定かではないが、それが根拠の一つだ。

 

 「生み出したのは誰か。そして、何が目的でここに彷徨わせているか……か」

 

 「特地の人間の仕業であるなら、ある程度は目的は推測できるが、だからと言ってここに呼び出す根拠にはならない。わざわざこちらで呼び出すなら特地の自衛隊の基地でもいいはずだ」

 

 「ですよね。わざわざ地の利もない場所に呼び出すなんて……ホント、ただの偵察とか?」

 

 「幻霊まがいのゴーストでか? 夜はマナが高まりやすいとは言うが、だからと言って地下鉄線路内を中心に配置するというのは納得しがたい。単に地下だからという理由で呼び出すなど、向こうもそこまで馬鹿ではあるまい」

 

 「……ですよねぇ」

 

 実際、孔明曰くゴーストを召喚するのには他の使い魔同様、場所というのはさして関係はないらしい。必要なもの、魔力。そこにプラスアルファをするために場所を選ぶこともあるが、使い魔という召喚獣を呼び出すのに場所を選ぶ意味はない。

 ゆえに、極論を言えば必要ならいつでもどこでも好きな時に呼び出せばいい。

 

 「ゴーストを集中させていること、人気の少ない場での召喚。偵察というよりも何かしらの準備で呼び出したというのが妥当なところだが、それにしても誰が、どうやって呼び出したかだ」

 

 「門は自衛隊がおさえてますし、物理的にも封鎖されてた。人が出入りすれば気づくけど……魔法で姿を消したり、気配を消したとか」

 

 「連中、魔術についてはからっきしだが、我々がいた時点でそれらしい兆候は見当たらなかった。つまり、魔法使いというヤツに頼ることもなく門は閉ざされていた。そんな必要がなかったということだ」

 

 自衛隊の装備や規模、基地の事を考えれば当然と言える話に、蒼夜の口元が尖る。

 蒼夜ももしかすれば、という可能性を他幾つか上げるものの孔明が「もう少し調べなければ確証にすらならない」とアッサリ返している。

 魔法使いという存在がどんな存在かはわからず、魔法という力も未だ未知の部分が多いので確かなことが言えない。だが、例え優れた魔法使いとやらでも最新式の警備システムや探知機に引っかからず門を潜れるだろうか、という問いには蒼夜も同意している。

 

「自衛隊が占領し門を閉ざしているというのもあるが、そもそも門の存在が異質かつ未知数だ。異世界とをつなぐパスゲート。デメリットもなしに行き来できるという。しかも通行は有機物無機物、どれでも問題なく影響も皆無。

コレだけの物が存在していること自体があり得ない」

 

 「……そこまで?」

 

 「当たり前だ。並行世界への渡航。それになんのデメリットや代価がないのはあり得ない。我々の世界ですら魔法の域なのだぞ」

 

 傍から聞けば当たりまえの話だが、孔明ことロード・エルメロイⅡ世が言いたいのはそれだけではない。並行世界、パラレルワールドへの渡航、認識は近代科学でも机上の空論に等しいが、一方で魔術の世界においては不可能に近い理論とされている。

 その理由はロマニ曰く「数少ない魔法の一種」だからだそう。並行世界の認識はおろか、渡航という大それたことは魔術師でも到底不可能な話で、それを成しえた人物は一人だけだという。最も、その魔法も厳密には渡航や認識ではなく【運営】であるため、差はさらにあるのだが、これはロマニどころかエルメロイⅡ世ですら知らぬ話なので語ることもない。

 つまり、魔術師である彼らですら未だなしえない並行世界との接続、渡航、安定化を成功させている門はあまりにも優れており、同時に異質であると言える。魔法の域、おそらく永久に人類だけではなしえない事を、門はこなし、あまつさえノーリスクだというのだ。

 

 「カルデアのレイシフトでようやくなこの並行世界渡航、それを変換なし、危険性なし、安定性十分でこうして存在しているんだ。それがどれだけの存在でどれだけの旨味を持っているか、君にはわかるはずだ」

 

 「……まぁ。筆舌に尽くしがたいほどには」

 

 「……その辺は帰ってからだが、とりあえずわかっているならそれでいい。話を戻すが、それだけの代物ということ。逆を言えばそれだけの物であるなら何かしらのデメリットがあっても不思議でもない」

 

 全く魔術、魔法と言うものに対しての知識がない自衛隊がこうして門を閉鎖し、最大限の警備体勢を強いているというのは当然であり常道であると孔明は言う。原理も不明、内部も不明、デメリットも不明という存在をいつまでも野放しにしては置けない。その為に門の周囲を囲い、門を箱詰めにするというのは当然のこと。その一方で、今回のように門を不用意に使用するのはあまりいい方法ではないともいい、下手をすれば門をくぐる間に行方不明になることも、最悪別の場所に繋がることもありうる。

 もちろん、それは自衛隊だけでなく日本政府も分かっているところだろうが、それを聞けるほどの立場でもない。

 

 「特地の人間であるならある程度は門の危険性も承知のはず。それに加え向こうからすれば未知の技術を用いた防壁を築いている。全貌がつかめない相手に挑むのは蛮勇無策に他ならない」

 

 「でも、可能性としては特地の魔法使いがやったって確率が高い……か。この世界に魔術協会って組織みたいなのに近い組織があるって可能性は?」

 

 「さてな。だが、門が現界して幾日も経っているのにアクションがないのを見るに存在はしないだろう」

 

 ゴーストの出どころが特地である可能性が高いという仮説が真実味を帯びてきていることから、蒼夜は改めて今までの特異点とは違う世界、事情があることに実感する。以前の炎龍との戦いである程度特地の魔法事情を目にしていたが、これが事実なら厄介なことであり、同時に魔法という文明、技術の高さを示すこととなる。

 

 「孔明。ぶっちゃけ、特地の魔法ってレベル高い?」

 

 「まだ何とも言えん。だが、コトーと言われたあの老師やその弟子のレレイの実力を鑑みるに空想書物で描かれるような魔法、と言われる術式が一般的に流通、浸透しているのは確かだろう」

 

 「……なら魔法で気配が消せるのは」

 

 似た質問を投げかける蒼夜に孔明も溜息をつく。

 

 「……まったく……あり得ない話でもないが、門をくぐってその後は。君の言い分では仮に自衛隊の警備システムをかいくぐり、門を無事に抜けたとする。だが、その後。見ず知らずの異界で、帝国のために、とか言って行動を起こすと思うか。野心に目覚めるかもしれない、異界の地の文明、文化の相違に混乱するかもしれない。

 ……そもそも、常識という括りの違う世界で生きているかすら怪しい」

 

 説教気味に話す孔明は一つ一つ可能性を提示するとともに、その可能性、あり得る話を潰していく。

 確かに特地の魔法が空想作品のようにデメリットの少ないハイリターンな魔法が使えるとして、もしそうであるなら警備システムをかいくぐれるというのはまんざら不可能ではない。気配遮断。存在の希薄化。透過。そういった魔法という力でなら突破は容易だ。そして門は自分たちがまっすぐ進むことで銀座へとたどり着くことが一応ながら証明されている。構造、デメリットは未だ不明だが最低限は保証がされているのかもしれない。

 ―――だが。問題はその後だ。

 仮にこの二つを突破できたとして、銀座にたどり着いたとする。では、その後なぜゴーストを呼び出しておきながら何もしないのか。そもそも、なぜゴーストを人気の少ない場に集中的に集めているのか。その召喚者の意図も不明な点が多く、何を目的をしているか。その終着点が見えない。

 偵察か、野心か。はたまた破壊か。諜報か。それとも。

 

 

 『―――先輩。孔明さん。居ますでしょうか』

 

 ふとドアをノックする音と声に気づいた蒼夜と孔明はドアの方へ目を向け、声の主へと返答をおこなう。蒼夜が短く切り返すと、「失礼します」と言いながらドアが開き、風呂上りの少女が三人、部屋へと入ってくる。丁度湯上りなようで湯気を立たせ旅館で羽織る浴衣の奥の柔肌を見せるのは、別室に案内されて先に風呂に入っていたマシュ、清姫、リリィだ。

 

 「すみません。お風呂をお先にいただかせてもらいました」

 

 「ああ。嘉納さんの奥さんにも言っておいた?」

 

 「はい。奥様には先に。というより……」

 

 苦笑いをするマシュの顔を見て、蒼夜はフォウが居ないことに気づくが、同時に脳裏に「まさか」の文字とともに一階の様子が想像ではあるが浮かび上がった。

 

 「……一緒?」

 

 「フォウ君にべったりですよね……」

 

 「ええ。フォウさん、なかなか離してもらえないようで現在も……」

 

 同じく湯気を立たせているリリィもまた苦笑いを浮かべて答え、生還のできていないフォウの様子を暗に説明する。

 よくよく男二人も耳を済ませれば、一階からの笑い声に交じりフォウの鳴き声が聞こえてきていた。……文字通りの泣き(・・)声が。

 

 「あのぉ……先輩」

 

 「あ、うん。とりあえず俺も孔明もお風呂いただくから……その時に……」

 

 はたして自分が助け船になりうるか、と一抹の不安を感じながらも蒼夜は好意に甘える形で一階の浴室へと向かうこととした。

 

 

 「ではマスター、お背中は私が」

 

 「結構です。自分で洗えるから!!」

 

 

 ……などという会話もあったが、清姫の申し出を即断った蒼夜は、その後孔明に感知用の陣の展開を頼む。清姫が諦めるわけないからと、当人の前で堂々と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……むこうはむこうで凄い事なってるな」

 

 電話を終えた富田に対し、確認するかのように伊丹が上半身を起き上がらせて呟く。

 

 「まさか嘉納大臣のご自宅に招かれるとは……」

 

 「かっ……大臣、参考人招致の時にイスカンダル大王にえらく興味持ってたからな。それに蒼夜君らの説明を一人まんざら嘘でもないって顔で見てたし」

 

 「大臣は蒼夜君らの言葉を信じたんでしょうか?」

 

 富田の問いに伊丹は一瞬口をふさぎ、沈黙する。

 あの場では、参考人招致の場では誰もが蒼夜たちの言葉を信じようとはしなかった。疑い、一笑し、真意を探ろうと、彼らの後ろにいる―――はずもない―――であろう国家を探り当てようとした。それはあの場に居た政治家だけではなく、視聴していた誰もがまともに取り合うなどしなかっただろう。イスカンダルの【カリスマ】のスキルである程度は信じ込ませたが、それでもわずかな変化でしかない。

 そんな場所でただ一人、嘉納大臣だけが果たして信じていたのだろうか。

誰もが信じるわけのない話を。あり得ない話をつらつらと並べ、荒唐無稽とも聞こえる彼らの言葉を、事実と受け止めて信じたのだろうか。もしくは、嘘を言っていないという根拠を持って、彼らが嘘を言っていないと思ったのだろうか。

 

 「……難しいところだな」

 

 夜中の頭で思考する伊丹はどこか引っ掛かることろがあると思いつつも考えがまとまらないために考えをやめ、どちらでもないと言葉を絞り出した。

 

 「……素直には信じられませんよね」

 

 「ああ。特地の出来事よりも信じられないよ」

 

 ……とはいえ、伊丹はそれでも一つだけ確証を得ており、それはまだ誰にも告げていない、根拠のない確証だった。

 その確証とは蒼夜たちが別の世界からやって来たということ。より突っ込んで言うなら、伊丹が好む二次元小説よろしく並行世界からやってきたということだ。

 理由としてはいくつかあり、一つは質疑の時に幸原議員が言った通り蒼夜という人物がそもそも居ないこと。これは戸籍がないだけという話かもしれないが、彼の年齢からそれはない。

そしてもう一つに門について。伊丹の考えでは蒼夜たちは本当に門をくぐって(・・・・)いない(・・・)。門をくぐるためには銀座側を占拠していた自衛隊の警備を突破する必要があるが、蒼夜たちが門をくぐらずに特地に来たのだとすれば、そもそも門を使う必要すらない。別の方法で来られるのだから、介することをしないのだ。

 

 (……もし蒼夜君の言うことが本当なら、彼は別の地球の人間になる。でも、そうなら目的は? サーヴァントなんてのを連れて特地に来た理由……単なる放浪(迷子)じゃない、明確な目的をもって行動してる。ってことは……)

 

 ―――何かしらの目的、理由があって彼らは特地に降り立った。そして偶然(・・)にも自分たち(並行世界の自衛隊)と遭遇してしまった。

 ということになる。

 

 「……考えてたら眠くなった」

 

 「ご無理をせずに休息を取ってください。もう少しすれば自分と栗林が交代しますので」

 

 「スマンが、そうさせてもらうよ……くあっ……めっちゃ疲れた……」

 

 思考するのも限界に達してきた伊丹はそういって起こしていた上半身を倒し、再び横になる。すぐ隣には丸くなって眠っていたレレイがいるが、彼女も伊丹同様に疲れたようで起きることなく寝息を立てている。

 

 「んじゃ、富田。先に寝させてもらうわー……おやすみー……」

 

 「おやすみなさい、二尉」

 

 枕もない部屋で、伊丹は自分の腕を枕代わりにすると瞼を閉じて微睡みの中へ落ちていく。意識も目を閉じればすぐに浮遊感とともに遠のいていき、彼の意識は一分とかからずに眠りへと誘われた。

 

 「奥さん見たいだね、アナタ」

 

 「いや、それは……」

 

 デスクにむかって作業を進めていた梨沙が画面から目を離すことなく茶化してくるので、富田は背に向かい否定をする。

 

 「というかさ、そういう話をここでしていいワケ? 一応私、一般人なんですけど」

 

 「確かに問題ではありますが、特地のことについては公と大差はありません。それに今話した事を聞いても、梨沙さんにとっては……」

 

 「まぁ……なんのこっちゃってヤツね。だーから先輩も止めなかったってわけか」

 

 加えて、梨沙にとっては今目の前の作業が重要な事項であって、彼らが話す特地の出来事、蒼夜のことなどはほぼ眼中にない。むしろ厄介ごとは彼女としても御免こうむるので関わろうとしない。元々自衛隊の妻をしていたので、そう言った線引きをしていたのだろう。と後に伊丹は語っている。

 

 「ところでさ。あの人、さっきからずーっと私の本棚の成果物物色してますけど……どちらさま?」

 

 その話題になったので気になっていたことを話す梨沙はいったん作業の手を止めて後ろを振り返る。富田や熟睡している者たちの向こう側、部屋のほぼ対面では梨沙の成果物である同人誌の本を読んでは棚に戻すピニャの姿があり、その横には既に限界がきていたのがボーゼスも寝転がり眠っている。

 富田はピニャのことについて説明をするべきか、迷ったがひとまずは彼女もまた特地からの来訪者であるとだけ答える。

 

 「……彼女たちも特地から……」

 

 「……ふーん」

 

 横目でしばらくピニャの背を見ていた梨沙は作業に戻り、再び沈黙。目の前の脱稿目前の原稿を仕上げようとペンに力を入れる。

 作業に入り集中する梨沙に富田は邪魔すまいと再びわずかに開いたカーテンを目を向ける……が、静寂は刹那に終わりを告げた。

 

 

 「……ふー……」

 

 後ろの本棚の前でピニャが一息つく。どうやらすべての同人誌を読み終えたようで、ぽつりと「良き……」とつぶやいていたがそれを聞いていた富田はなんのことやらと首を傾げ、梨沙は我が事とにやける。

 

 「どう。よかったでしょ?」

 

 「ん……?」

 

 窓の外を見ていた富田が梨沙の言葉を翻訳する。

 

 「面白かったでしょう、と」

 

 「……ああ。実に素晴らしい。よい芸術だった」

 

 芸術、という言葉に富田はそんなに芸術的なのか、と作画の良さを想像したが実際は彼のような男がという作品であるのを知らない。

 

 「どれも素晴らしい。話の作りも、絵も、いずれも我が帝国の……いや、我々の世界のどんな芸術よりも繊細で、優雅で、それでいて魅惑的だ。一つ二つの話だけではない。この棚にあるすべての本が芸術的で、我らの世界の上を行く」

 

 おもむろに顔を上げ、目の前に陳列する同人誌とそれを納めた本棚を見上るピニャはさらに言葉を紡ぐ。

 

 「芸術においてもだが、この国……いやこの世界はなにをとっても我らの世界の文明や文化を大きく上回っている。食もそう、政治も。衣類、交通、情報。そして軍事力。どれも敵わないどころか足元にも及ばない。この圧倒的な大差は、見ているだけで心が痛む」

 

 同時に後悔する。

 帝国はそんな国と戦争を始め、敗戦してもなお戦うのをやめようとしない。国の威信、プライド。そう言ったいつの間にかできていた見栄のために多くの人の骸を特地では作り上げている。負けて負けて、それでもなお立ち上がる。それだけを聞けば聞こえはいいが、実際はただ敗北を認めたくないだけ。諦めればプライドが、威信が傷つき地に落ちると考えているから。だから戦うのをやめない。

 

 「先ほどのあなた方の会話もそうだ。おそらく今回の元老院(政府)との話を話しているのだろう」

 

 日本語を完全に理解してなくても、伊丹や富田の会話、そしてすぐに口を開いた梨沙の様子からおおよその内容をピニャなりにも理解していたらしい。

その言葉に富田は肯定も否定もしなかった。

 

「一国民に対し政治の情報を開示する。我らの国、世界であれば貴族と民草とは決定的に隔絶され政治の情報も殆ど開示されない、する必要がないとしている。だが、この国では一国民が政治を目にし、考えることができる。関わることを許されている。国民もまた政治の関係者であると」

 

 とはいえ、国民が政治に参加できる政治、いわゆる民主主義にも脆弱性はある。それは国の行く末、運営を決める政治家に対し自分たちの言葉を一々挟むことだ。国民の声を聴き、それを政治に反映するという点では効率的ではるが、同時に国民の意見が多ければ多いほど、政治の方針はそちらへと引っ張られ決定に時間がかかり、答えが中途半端にもなりえてしまう。

 国民のためというが、政治に参加できるという意識、自意識の過剰さが傲慢を生み、政治に悪影響を及ぼすことも少なくない。何より、大衆は大衆であるからこそ声を高らかに叫び続ける。

 一方で帝国の政治も実のところ間違いでもない。貴族や王族が政治を行い、軍事を司り、国民はそれぞれの営みを行う。政治がわからず国民が混乱するという可能性もなくはないが、彼らにわかりやすく説明し、それを打ち出すことは(トップ)としての言い切りの良さにもつながる。

王族や貴族の独裁ともいえるが、逆を言えば互いに仕切り、区切って役割を果たしているのにそれをしない、自分たちにしか益のない事をすれば当然反感を買う。

 ……結論を言うなら日本の政治も帝国の政治も根本的には間違いではない。ただどちたが長所か、短所かの違いなのだ、と後に孔明ことエルメロイⅡ世は告げる。

 

 「帝国は戦だけでなく、文化文明でもこうして負けている。それでもなお戦争を続けようとする。あれだけの犠牲を出してなお、まだ意味のない勝利を得ようと骸の山を積み上げる。

 もう、戦いたくない者も多いと知っているのに……」

 

 イタリカでの出来事がピニャの脳裏をよぎる。アルヌス戦で敗戦し、逃げてきた敗残兵。狂気と怒り、やり場のない悲しみに暮れ野党と化し、街を襲った者たち。そして、その敗残兵と戦うために武器を取ったイタリカの街の人々。

 敗北を知り、やり場のない怒りを募らせ、死の恐怖と生への執着から弱者を襲う。

 負けたくない。死にたくない。なんでこうなった。どうしてこうなってしまった。そんな目の人々を幼き騎士はあの日、嫌というほど目にした。

 

 「帝国にも日本との戦争は無意味であると説く者は多い。だがそのほとんどは帝国の惨敗を知って考えを変えた者たち。初めから融和や和平、調査のみで済まそうと言った者、考えた者は果たして何人いたか」

 

 「……殿下以外にも和平を望む者が?」

 

 「和平という名の妥協だがな。軍事で負けを知ったから今度は政治で勝とうとする。もしくは保身のために走っているだけだ。まぁそれなら崩すのも容易だが」

 

 ピニャの口ぶりは帝国の講和を肯定するというよりもあざ笑っているのに近い。彼女としてはすぐ手のひらを返し講和だなんだと言い出す者たちが我慢できないのだろう。保身に走るのは人の常道。とはいえ、それでもなお自分たちが優位であるや勝っていると思うその考えが怒りの根源の一つだ。

 だからこそ、富田は伊丹の寝顔を横目に言葉を絞り出す。

 

 

 「……ピニャ殿下。殿下は……本気で我が国と講和をすることをお望みですか?」

 

 

 その問いかけにピニャの返事はすぐには出なかった。それどころか彼女の背はピタリと硬直し、動くことをやめていた。

 動かず、振り返ろうともしない彼女の背に富田は息を飲んだ。

 

 「―――終わってない」

 

 静寂を破ったのは、ピニャ……ではなく画面から顔を離さない梨沙だ。

 

 「……え?」

 

 「多分さ。その人はまだあきらめてないよ。何度も何度も負けても、倒されても、はいつくばってでも立ち上がって、自分なりの勝ちをもぎ取ろうって意志をさ、持っているんだと思うんだよな。私は」

 

 「あの……梨沙さん……」

 

 無論、梨沙もまた特地の言葉を理解していない。ピニャの独白、そのすべては特地の言葉。梨沙にとっては英語や中国語に等しく、一単語わかれば上々。わからない。わかるわけがない。

 ……でも、言葉から発せられる気持ちだけはなんとなくわかる。

 

 「女はしぶといよ。男以上にね」

 

 顔を振り向かせない梨沙に富田は口を開けて呆けてしまうが、気を取りもどすと彼は自分らに向けられていた視線に気づき本棚の方へと振り返る。

 赤い髪と赤い瞳の少女がこちらへと体を向けていた。

 

 「―――講和は望んでいる。もう無益な血を流さないために。帝国を、私の祖国を亡国としないためにも。

その為であればこの身をやつすことも厭わない」

 

 赤い瞳は富田の姿を捉え、富田はその瞳に吸い込まれそうな感覚と、途方もない何かを感じ取った。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 そのころ。金色の瞳は眉間にしわを寄せ、デスクを指でたたきながら目の前の投影式ディスプレイを眺めていた。

 目は若干細め、反対の手は頬杖を突き、姿勢をわずかに右に偏らせディスプレイに映る存在証明のデータに唸り声をあげていたが……

 

 「だああああああああああ!!!」

 

 柄にもなく声を上げて立ち上がり、自分の薄い桃色の髪を強くつかんでかき回す。

 突然の出来事に周りにいたスタッフの面々も背をビクつかせ驚いていたが、子どものように困り顔を浮かべる男の顔を見て驚愕と緊張の表情が和らぎ、やれやれと苦笑を浮かべる。中にはクスクスと笑う者もいるが、それは余裕というより彼の仕草によるものだ。

 かくにもそんな絶叫を上げた男の姿に和やかな雰囲気が流れるのは―――

 

蒼夜とマシュ、そして多くのサーヴァントらが属する人類最後の砦、天文台にして観測所。

人理継続保証機関フィニス・カルデアの所長代理、ロマニ・アーキマン。

 現在、意味不明の状況に絶賛お悩み中である。

 

 「何がどうなっているんだ! っていうかいつになったら蒼夜君やマシュは連絡してくるんだ!! もう半日(・・)だぞ!! 僕が頼りないからってそろそろ連絡あってもいいんじゃないかなぁ!!」

 

 というのも、レイシフトをした蒼夜とマシュたちから一向に連絡がないのが彼の悩みの種の根幹だ。向こうでは通信機修復のために動いてはいるのだが、それを伝えようにも連絡手段はその有様である。修復も容易なはず、と考えてはいるがレイシフト地である特地にそんな技術があるわけがない。

結果、存在証明はできているのになぜか連絡がこないことに加え、目的地が銀座であるなら連絡ができるはずと考えていること。そして蒼夜の経歴や場所が銀座ということで、という過保護からの勝手な想像から現在ロマニの精神は発狂寸前、【狂化 E】判定が入っていた。

 

 「はーいはい、落ち着けってロマニ。そんなダレイオス三世みたいな声上げても連絡が来るわけじゃないんだから」

 

 ロマニの後ろから肩を叩き、落ち着けと制するのは誰もが認めるほどに整った顔と実りのあるボディ、そして奇抜ともとれる服装をしたブラウンの長髪の女性。カルデアの技術顧問を務めるサーヴァント、レオナルド・ダ・ヴィンチその人だ。

 

 「存在証明は確実に行われている。向こうとの通信が繋がらないのは向こうで何かしらのトラブルがあったと考えるのが妥当だ。しかも、ただの銀座じゃないっていうのは事前の観測で分かっていたことだろ。予期せぬこと、想定外の自体は当たり前なんだ。それを対応して蒼夜くんたちは今どうにかして、こちらと連絡を取ろうとしているって考えるのが前向きじゃないか? ここは彼らを信じて気長に待とうぜ」

 

 ダ・ヴィンチに制されたおかげである程度落ち着きを取りもどしたロマニは管制室の階段を下りていく後ろ姿を見て小さく息をつく。

 

 「でも、流石に半日何も音沙汰無しはおかしいだろ。おまけにこちらからの観測はほぼ不可能。肝心な部分が霧散するかのように消えているのに厳重に防御されている。そこにないはずが、そこに在るかのようになっている」

 

 「シュレディンガーの猫みたいな状態なのは私も疑問さ。しかも、それが一直線にそっているならなおさらね。でも、それはただそう在るだけで、こちらへの干渉も蒼夜くんたちの方への影響も皆無。楽観的に考えるなら、ソレはそうするだけの何かで、あって特異点認定をされた世界への直接的な悪影響を及ぼす存在ではない、と考えるのが自然だ」

 

 「楽観的なら、ね。もう少し考えるなら、それが今から特異点に干渉することも、あるいは元から特異点のある世界に存在する特殊なものであるとも考えられる。もしそうなら、彼らの戦力だけでは……」

 

 最悪絶望的な状況かもしれない。そう考えるとロマニの顔は下を向き、暗くなる。

 だが、その一方でダ・ヴィンチの顔は前を向き、明るさを絶やさない。

 

 「だからこそ、蒼夜くんは戦力増強を図っている。カルデアに駐屯しているサーヴァントたちが呼び出されているのはその為とみるべきだ。加えて今のところ呼び出されたのはアサシンだけ。即戦力のクラスとは言えない、斥候、偵察などに向いているクラスだ。

 彼らを呼ぶということはまだ蒼夜くんたちはそこまで絶望的な状況に追い込まれていない、と言えるだろ」

 

 「……確かに。呼び出された三騎はどれも即戦力とはいいがたい。でも彼らを呼ぶということは」

 

 「ま、確実に面倒ごとになっているのは確かだろうさ。あの人選は下手すりゃ一国そのものだからね」

 

 アサシンという縁の下を呼んだということは事態は厄介ごとの方面に進んでいる。敵がいるから倒して終わり、という話ではないのだということは他の特異点同様に何かしら複雑な事情というのが絡んでいるに違いない。それはアサシンが呼び出された時にロマニも考えてはいた。

しかし、逆に彼らを呼び出すという選択肢を取れるという状況なのだともいえる。カルデアには特地に赴き、マスターである蒼夜と行動を共にする者たち以外にも多くのサーヴァントがここに腰を下ろしている。その中でアサシンという直接の戦闘に向かない、対人(・・)重視のサーヴァントである彼らを抜擢したということは、まだそこまで絶望的ではない。

 

 「しかもその後詰めで彼女らだろ? 人選としてはおかしいが、戦力としては申し分ない。特に保護対象である彼女は、ね」

 

 「第二特異点同様に国家勢力が絡んでいる……おまけのこの人選ってことは……」

 

 「蒼夜くん、確実に向こうの政府と厄介ごとを起こしてるね」

 

 ダ・ヴィンチの予想にロマニも肩の荷が余計に重くなり、立つこともできないのか落ちる形で椅子に座り込む。

 

 「やれやれ……向こうの政府とは極力関わらないで欲しかったんだけどなぁ……」

 

 「遅かれ早かれ、おそらくいずれは関わることになってたさ。それが今ってだけだ」

 

 「えらく向こうの状況を知った風な口ぶりだね、ダ・ヴィンチちゃん。何か予想が?」

 

 「うーん……まだ憶測の域を出ないけど、おおよそは……ね。どうやらこの特異点、思ってたよりも面倒なもんを抱えているようだ」

 

 ダ・ヴィンチのセリフにスタッフたちは慣れができてきたせいであまり取り合わなかったが、振り返る彼女の目にロマニは彼女の意思を感じ取る。椅子に座り直し、制服と白衣を整えたロマニはいったん呼吸を整えると管制室一杯に聞こえる声を出す。

 

 

 「所長代理の権限で第二次非常事態警報を発令。カルデア内に居るサーヴァント全員にスタンバイを呼び掛けてくれ。それと、キャスタークラスを別で編成。人選はレオ……ダ・ヴィンチちゃん、君に任せる」

 

 「第二を出すか。まぁそうかもしれないね。オッケー。サーヴァントたちには私から伝える、ロマニ、君は引き続きコッチを頼むよ」

 

 「ああ」

 

 ロマニが口にした警報に管制室のスタッフらの表情が一気に変わり、和やかだった空気は一気に引き締まって慌ただしさを見せ始める。

 彼がおいそれと出すことのない警報であるからというのもあるが、二人の会話からスタッフらもただならぬ何かを感じ、そして理解した。自分たちが思っているよりも、何か起こっている。

 ―――嫌な予感がする。

 ロマニは自分の中で激しく動悸する心臓の鼓動を握りしめ、目の前に映るモニターを注視した。

 




あとがき

俺はGateはアニメのみなんで嘉納さんの家族構成は分からなかったんですよね……なんで今回はオリジナル要素ということで結婚しているということにしました。
奥さんについてはとりあえず「嘉納さんの意気にホレた」とだけ。
大丈夫。この後でないはずだから(オイ)
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