Fate×Gate = Gate Order =   作:No.20_Blaz

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さてさて。人気に後押しされて投稿したコレなんですが…
相変わらずタグは調整中です。

それとアニメに準拠しているので場面変化が今回は激しく、それとカルデアメンバーが今回はメインとなってます。

なんで今回でコケる可能性大です。いやマジで。


今回はイタリカ攻防戦までの経緯とかをメインに。お風呂もありますよ。
そして以前の短編でも他のサーヴァントが出ないのかと言われてましたが今回のイタリカでの話では現時点二人は確定しています。
…ま。一人は皆さんの予想通り…というやつです。

そんなワケで絶対コケると思いますが、それでも良いという人はお楽しみ下さい。

2021 6/20 一部加筆修正を行いました


チャプター1 「イタリカ攻防戦 = 前日談 =」

 ──―敗残兵となった兵士にはいくつかの選択肢が用意されている。

 

 

 一つ。地元への即時撤退。つまり、戦いに負けて自分は生き残ったということで地元の同士たちと共に直ぐに元の村や町に戻ること。

 中世の時代、農民などを兵士として使うことから、近代の徴兵制が制定されるまではこれが一般的なことだった。

 

 二つ。仮に一つ目が出来るが、その地元が遠い場合はそれまでを凌ぐか、別の方法を考えるか。その別の方法は様々だが、一番手っ取り早いものもある。

 地元が遠ければ、最悪餓死などもありえた。だが、場合によっては近くの村に用心棒などとして住み着いたり、変に住み心地に慣れてしまえば、そこに永住することも考えられる。

 現代に言い直せば、再就職というやつだろう。

 

 三つ。これは二つ目と似ていることだが、厳密には一つ目にも言えた話である。

 敗残兵となり、地元へと逃げる兵士たち。その中でも特に装備の整った正規兵や騎士(いわゆる武士)など、経済的に潤沢していると見て分かる者たちは、大抵襲われる(・・・・)。火事場泥棒。敗残兵狩りだ。

 敗残兵を狩って、身ぐるみを剥がし金品を獲るという行い。これによって有名な武将が死亡したというのは日本人にとってはそこそこ知られていることだ。

 

 

 

 ──―だが。それら全ての選択肢は、あくまで敗残兵という者たちの基本的な行動かららとられていることだ。

 

 

 

 

 正規兵が敗残兵となる理由。それは大半の理由が「所属する軍の瓦解」、「軍大将の死亡」、「戦闘の実質的敗北」などがあげられる。いずれも、事実として自分の所属する軍が敗北し、再起が不能となることで兵士たちは戦意を失い、逃げることを選択する。

 それが結果として正規兵たちが敗残兵となる理由だ。

 敗残兵となった者たちに統率というものはなく、各自散り散りになって地元へと逃げるのが当然のこと。纏める者がいなくなれば、結果として誰の言う事も聞くことはない。なのであとは全て自分のことは自分でする。

 

 そして、敗残兵に与えられる上記三つの選択。これはそういった少数となったこと、纏める人物が居なくなったことで初めて該当する選択肢となっているのだ。

 

 

 

 

 だが。

 もし、敗残兵を纏められる人物が居れば?

 もし、敗残兵が少数で散り散りにならず、纏まっていれば?

 

 

 

 

 全ては「絶対にそうなる」ということにはならない。常識や教科書のような基本にならないこともあるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「門」をくぐった向こう側の世界。そこにも聖地と呼ばれる場所があった。

 それがアルヌスだ。

 そこには異世界へと渡れる「門」が存在し、そこから多くの種族が流れ、現在の特地の世界観へと変化していった。

 故に、ヒト種を入れた多くの種族はアルヌスを聖地として定めていたということだ。

 しかし、あの日を境にアルヌスに取り巻く環境は一変する。

 

 

「帝国」の異世界への侵攻。それによって現代の日本の銀座に、突如として現れ攻め入ったのだが、時代の差、技術の差などで帝国の侵攻軍は敗退。

 更にその後、日本の自衛隊が特地のアルヌスに派遣され、実質的統治下に置かれる。帝国はアルヌスと門の奪還、そして属国とのパワーバランスの調整のために再度侵攻するも、再び敗退。諸外国の軍はその大半の兵力を失ったのだ。

 

 アルヌスに陣を敷き、基地を建設した自衛隊は特地の調査という名目で偵察隊を派遣する。そこで、第三偵察隊は複数のトラブルに見舞われる。

 一つは、見つけた村であるコダ村の住人との邂逅後、近くのエルフの村へと向かう途中にドラゴンを発見。エルフの村は全滅し、生存者一人を救出。それを村に引き返して説明した彼らはコダ村の住人を安全圏まで護衛することを決断する。

 二つ。近くを飛び回っていたドラゴンこと「炎龍」とのエンカウント。村一つを焼き払ったということでその力は強大なもの。しかも見境ない攻撃でコダ村の村人たちにも被害が及んだ。

 

 

 そして三つめ。

 その炎龍と第三偵察隊が交戦する前に交戦していた者たちとの邂逅。

 

 

 

 彼らは後に、自らをこう名乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 ──―人理継続保障機関「カルデア」と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「──―」

 

「…………」

 

 アルヌスに作られた自衛隊基地。その中の廊下では、その場に似合わない面々が誰かを待っているかのように立ち並んでいた。

 白いドレスと銀色の鎧をまとった少女。

 赤いマントを付け、屈強な肉体を晒す赤髭の大男。

 青いタイツを着た、長い髪を一つにまとめた男と、白髪の浅黒い肌に赤い外套を纏った男。

 

 個性豊かともいえる四人は、実はある一人の主に使えるサーヴァントたちだ。

 

 

 

 

「──―長い……ですね」

 

「そんなもんだろ。けど、流石にこうも長いと暇にならぁな」

 

 ぽつりと呟いた少女「セイバー」の言葉に、面倒そうに体を伸ばす青タイツの男「ランサー」は遠回しにもう少し待てと、なにかしたいという我慢の限界さをぼやいていた。

 既に彼らの主が一室に入り十分以上が経過し、主と護衛のサーヴァントが居る部屋からは物音すらもしなかった。

 ただ聞こえるのとは淡々と流れてくる双方の声だけで、その静かさからセイバーは心配さも感じてしまう。

 

「……余も外の兵器をみていきたかったわい」

 

「随分と、『自衛隊』の武器に興味があるんですね、ライダーさんは」

 

 おうともよ、と豪とした声を発した赤髭の男こと、ライダーは迷いない笑みを見せて夢のように語り出す。

 

「あの鋼鉄の鎧。圧倒的火力ッ。そして敵を寄せ付けぬ威力ッ!

 戦争は変わったというが、まさにその通りッ!! 余も使ってみたいし、それを手に入れてみたいわ!!」

 

「…………確実に近隣諸国に戦争を吹っかける独裁者だな」

 

 夢のように語るのはいいが、ライダーの場合それを実際にしていまいそうで困るとため息をつく、朱い外套の男「アーチャー」は彼の語ることが理想だけであってほしいと願うばかりだった。

 もしライダーにその機会があるのなら、確実に彼はその銃を使い、軍を作り、整えて戦争してしまいそうだと。

 その場合、確実に世界のバランスが崩壊して数世紀前にまで戻ってしまいそうだと。

 後先考えないことに巻き込まれた者たちはたまったものではない。

 

「それで戦争を吹っかけられた国はたまった物ではないな」

 

「何を言うか、アーチャーよ。それが戦争、戦いというものではないか」

 

「……やるにしても宣戦布告はしておけということだよ」

 

 

 

 ガチャ、と扉が開かれる音が聞こえると四人の視線は一斉に扉のほうに向いた。

 ようやく終わったのかと状況の変化を受け入れた彼らは、奥から姿を現した四人(・・)の様子に内心笑いをこらえてもいた。

 なにせ、若干一名の状態が他の三人と全く違っていたのだ。

 

「──―ありがとうございました」

 

「ああ。また、何かあればな」

 

 

 扉のところで一礼したシールダーことマシュは、挨拶を終えるとしっかりと扉を閉じる。一応の礼儀は弁えており、最後までキッチリと扉を閉めるのは恐らく彼女の性格ゆえもある。

 一方で彼女よりも先に外に出た三人、その内一人はマスターで現在もう一人のサーヴァントであるバーサーカーの清姫が心配そうに体を揺すっている。大丈夫ですかと心配そうに訊ねるが、マスターからは返事がない。

 

「……終わったのか?」

 

「ああ。一応はな。纏められるだけのことはしておいたし、こちらが動くことについて問題になるのも避けられた。あとは、向こうの出方と反応だけだ」

 

 マスターをよそに結果がどうなったのか尋ねてくるアーチャーに、もう一人の新たに呼び出されたサーヴァントことキャスターは黒いスーツと長い黒髪を揺らし、内心では疲れていたのか安堵の息を吐いて答えた。

 

 

「……ところで」

 

「……ああ。今回の会談、そりゃ疲れるだろうな。なにせ自衛隊陸将と直々のだったからな」

 

 

 二人の後ろで少女たちに揺らされているマスターこと蒼夜は、魂が抜けたかのように棒立ちの状態で口から湯気を出していた。会談相手が自衛隊の陸将であったこともあるが、どうやらキャスターが色々と策を張り巡らしたりして余計な神経を使い、心配になったことで彼以上に疲れと緊張からの反動が襲い掛かり、現在絶賛オーバーヒート中だった。

 まさか、自衛隊の陸将相手にあそこまで食い掛かるとはと、予想もしていなかった会談の場の空気の重さに下手をすれば倒れていそうだが、それを頑張って食い止めているといった状態だ。

 

 

「仕方ないっていうか……そもそも孔明さんがあそこまで食い掛かるから、先輩も変に心配してしまったんですよ。一応、行動の判断は先輩が一任されているんですから」

 

「失礼、レディ。だが、どの道は俺たちというイレギュラーが現れ、それが協力を求めて来たんだ。それなりにと制約がないようにしてみたんだが……どうして中々……」

 

 興味深そうに、面白い相手か、と訊ねるライダーに小さく笑うキャスター。彼曰く、納得の地位と能力の人間らしく、若干だが嬉しそうな顔をする。

 

「向こうも伊達に陸将を名乗ってなかった。こちらの手札を読んだのか、幾つか先手を打たれはしたし、こちらの事を知ろうと罠を張り巡らせていた。お陰で少し、こちらの手の内を読まれたが、誤差修正の範囲内。結果は重畳と言えるだろう」

 

「読まれた……ということは、こちらの素性を?」

 

「いや。辛うじて、こちらが国連の組織であることぐらいだ。他にも何度か鎌をかけられたりしたが、反応からして予想はされても可能性の海に呑まれてるだろう」

 

 キャスターから見て、自衛隊陸将である狭間は馬鹿ではなかった。それどころか、彼がその地位に居ることを納得できる強かさと度量の良さを持ち合わせており、まさに理想の上官と言える人物だと後に語る。何度か会話に鎌をかけたりと蒼夜たちから情報を引き出そうとしたが、相手がキャスターであった所為か向こうの成果は芳しくないだろう。それだけの諜報戦をあの部屋では行っていたのだ。

 しかし、狭間陸将の交渉の技量と性格から「悪い人」というのには当てはまらないと考え、その場での協議の結果、蒼夜やキャスターも時間が経っていくにつれて少しずつ自分たちの素性を明かしていこうという結論に至った。ただし。サーヴァントシステムのことなど重要なことについては現状何があっても明かさないということ。つまり話せるのはよくてサーヴァントという存在についてや真名、そして場合によっては笑われることを承知で自分たちの目的を話すつもりだという事を、室内にいた面々が同時並行で決めた。

 

「で。こちらへの要求はなんだ?」

 

 ライダーの問いにああ、と頷いたキャスターは会談で取り決められたことについて四人に話していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 炎龍を無事に撃退した蒼夜たちカルデア陣営と、伊丹耀司率いる第三偵察隊。

 しかし突然現れた第三勢力として警戒された蒼夜たちは、その場で伊丹たちに拘束され、一部サーヴァント(主に清姫)によってあわや再度戦闘になりかけたが、マスターである彼の命令ということでその場は丸く収まる。

 第三偵察隊はコダ村の住人の大部分を送り届け、残された老人や身寄りのない子どもたちを引き取り、蒼夜たちと共にアルヌスに帰還。

 だが、報告になかった蒼夜たちについて隊長である伊丹は上官の檜垣の激怒を受け、更には陸将に呼び出されるなど、精神がすり減るような思いを受けた。

 尚、彼らが連れて来た避難民は第三偵察隊の面々が預かることとなり、蒼夜たちが陸将と会談していた時には既に仮設テント建設が始まっていた。

 

 

 その間を仮設基地で待たされていた蒼夜たちだが、陸将が直接会いたいということから間を置かずに会談に臨むこととなる。

 それまで彼らが何もしていないと言われればそうではなく、アルヌスの地が霊脈として整っていることからマシュがそこに仮設の召喚陣を作成。そこからキャスターである「ロード・エルメロイ二世」を追加で招集する。

 政治的な意味ではカエサルなどよりも彼のほうが現代知識なども持ち合わせているのでというのが大きな理由だが、その側面にはライダーからの指名というのもあった。

 そして臨んだ陸将との会談。自衛隊側も錚々たる面々が揃い、ただの会話とは呼べるものではなかった。なにせ自衛隊側にとって彼らは帝国とも違う、意思疎通の可能な謎の集団となっているのだ。そして、その中に居る数人の戦闘能力。自衛隊が束になってやっと相手が出来そうな者たちに、狭間もそれに見合ったメンバーをということで、特地に派遣された中でも階級の高い者たちが集まったのだと言う。

 あとはキャスターの言う通り鎌の掛け合いだったが、どうにか話は纏まり、彼らにも一定の自由が与えられることとなる。

 直後、今後の事を話すべく、一度仮設基地の人気の少ない場に集まった蒼夜とサーヴァントたちは孔明からの条件を聞き、意見を交わす。

 

 

「狭間陸将からの条件は

 

 ・比較的自由な行動は許すが、その場合誰か自衛隊隊員が付いていること

 ・活動範囲は帝国内のみ。これは原則として自衛隊も同じ

 ・無用な戦闘は禁止。無論、駐屯地だけでなく村や町でも。

 ・アルヌス帰還後は必ず報告。

 ・現場では基本監視を担当する部隊長の言う事を聞くこと。ただし隊長側はそこまで厳密な命令権は持っておらず、あくまで「頼み」という形でなので拒否権もある。

 

 この以下五つが、今のところ我々に課せられた条件……というよりも鎖だな」

 

 会談での結果、双方表面上では大人しくその場を引き下がったが互いに腹の底を出し切っておらず、しかも蒼夜たちのサーヴァントの実力、その彼らを統率する人物ということで狭間自身も並々ならぬ警戒心を内心では隠していた。それは会談で直接相手取ったキャスターは身に染みて理解したことで、組織的な意味などから今は彼らに従い国の力を使うべきと思って、それを承知したうえで今の五つの条件を飲むこととした。

 

「……で。まさかこっちに条件を押し付けるだけ押し付けて……なワケはないだろうな?」

 

 ライダーからの言葉に、まさか、と軽く笑い飛ばすキャスター。彼とてそこまで弱腰でもなく、当然、自由に動くために色々と要求を狭間に突きつけた。とはいっても、あくまで蒼夜たちが動きやすいようにというだけで、傍から見れば本当にそれだけでいいのかというような要求の数々だ。

 

 

「こちらからは

 

 ・自由行動の権利(監視付き)

 ・特地で入手した物の所有と管理を自分たちで行えること

 ・必要な物がある場合(車など)出来る限り優先して回すこと

 ・無用な詮索の禁止(特にサーヴァントについて)

 ・衣食住の保証

 

 といった、まぁ普通に動ける程度にというぐらいだ」

 

 

 特に目立った要求というのはなく自分たちが無理なく行動できるぐらいにという程度のもので、特に車などの物資の要請は必要最低限だけでいいと言う要求。自分らが安全に聖杯探索を行えるような環境の作成、それがキャスターの提示した要求だ。へたに平等過ぎず、かといって下手に出すぎず。これだけあれば十分というだけのものを求めたので、警戒こそされたが狭間たちは特に議論することなく承諾する。

 

「その他に突きつけられたらどうする気だ」

 

「その時はその時だ。それに向こうも安易にこちらに条件を突きつけるのもできないだろうさ。今は最低限こちらが動ける程度、向こうが監視できる程度であればいいということだ」

 

 戦力未知数、しかも増員可能でバックには国連があるのだ(実際はないのだが)。迂闊に手を出せば例えパラレルワールドと言えど、日本の信頼と国際的立ち位置が危ぶまれる可能性だってなくはない。カルデアの現状と実体を知らない彼らにとって、そうホイホイと要求してしまえば、迂闊に手を出した愚か者として後世語り継がれてしまうかもしれない。逆に要求を呑むのもそれはそれで裏があるかもしれない。

 それがなくても、国連という組織が相手となればそう簡単に「これをするな」「あれをしないでくれ」と要求することも難しい。

 結果、最低限という自由を獲得したカルデアは特地を動ける保証を手に入れる。

 

「まさか国連の名前をあそこで使うとは思ってませんでした」

 

「実際、国連以前の問題なんだがな。ま、向こうには国連があるということで通させてもらう」

 

「一応、カルデアは魔術の世界でも例外的に国連に認められている組織ですから、問題はありません。魔術については……」

 

「ここの性質、基盤によるな。とはいえ、現代社会で魔術があるというのが我々の世界だ。今はそうしておこう」

 

 今は動けるだけの保証と地盤を確保する。その為に現在消失中の国連を使うという策にマシュはバレはしまいかと内心いまだにハラハラしているが、それを巧く隠し場合によっては出すのがキャスターの仕事だ。あとは、自分たちのことをどうやって、いつ説明し、通していくかは彼と蒼夜の判断による。

 

 

 

 

 

「……ところで皆様方。旦那様をどうするんですか?」

 

「…………」

 

 が、その蒼夜は動かない。

 その後。しばらくは魂の抜けた蒼夜を看護するべく、清姫とマシュは自衛隊から借りた宿舎に籠り切りになったという……

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 翌朝。

 

 

「うむ。やはり現代の軍は装備が違うのぉ」

 

「仮にも、世界の国でも上位に入る軍事力を保持している国だ。ある意味、彼らがこの世界に来たことは、この世界にとって正解だったかもしれないな」

 

 

 そういって自衛隊の戦車や装甲車、ヘリなどが並ぶ光景を子供のように目を輝かせていたライダーにキャスターは逆に興味なさげに答える。仮にも世界でも上位に入る軍事力を誇る国だ。その軍の車両や兵器が大量に並べられていると壮観の一言に尽きる。だが、キャスターにとってはただの兵器、人殺しのものでしかなく、その他日本の事情も踏まえてあまりいい気分にはならなかった。

 

「なんだ。自衛隊がこの世界に居ることが不満か」

 

「そりゃな。だが、米国とかよりはマシだと思ってる。アイツらがこの世界に来たら最後。国という国は完膚なきまでに滅ぼされるだろうからな」

 

「そうなりゃ骸の山と死の海か。まぁ……そりゃそうだわな」

 

「アイツら、戦争となれば徹底的だからな。民主主義なんて焦土と化した後にするだろうさ」

 

 

 蒼夜が昨日の出来事で深寝をしていることから、自由行動を許されたサーヴァントたちはそれぞれバラバラになって駐屯地の中を散策していた。あくまで戦闘などが禁止で、自衛隊員が監視出来ていれば問題ないことなので、彼らに見える場所でライダーとキャスターも重機が動く光景を眺めていた。

 他のサーヴァントたちも同じで、彼らにも自衛隊員たちに見える場所で動くようにと、唸り声を出していた蒼夜の命令を意外と素直に聞いていた。

 唸り声の中にあったので信じることはないと思われたが、マシュは素直に従った彼らもマスターである彼を信頼しているのだと思った。

 

 

 

 

 

「言語……ですか」

 

「ああ。やはり、言語に関してはこちらのとは全く違う言語らしくてな。そこで、後でマスターに渡す予定だがコレをな」

 

 一方でアーチャーはセイバーに連れられて避難民が居る地域に足を運んでいた。だが、入る前にと彼から渡された一つの手帳にセイバーは目を丸くする。

 そもそも特地と日本とでは言語が違うらしく、伊丹たちもそれには四苦八苦しているらしい。その彼らがコダ村での交流によってできた翻訳を他の偵察隊のものと合わせ、整理。翻訳手帳が一応の完成をしたのだ。

 それを第三偵察隊の隊員から貰っていたアーチャーは、セイバーに実際に使えるかどうかを試してほしいと頼んだ。

 

「……私が……ですか?」

 

「態の良い実験台とは思ってないさ。けど、君もいくつかは知っておきたいだろ?」

 

「まぁ……それはそうですけど……」

 

 どの道、特地の人間と関わりたいのであれば避けられないこと。それに異文化を知り、それを物にするのも未来の王としての務めだと前向きに考えたセイバーは、沈黙ののちに半分ほど顔を上げて答える。

 

「…………分かりました。やってみます」

 

「すまない。こちらも出来るだけフォローはしてみるさ」

 

 やらなければいけない。という感情より、やるべきであるという感情が沸き起こったセイバーは、小さな拳を握り、精一杯ということを体で示してアーチャーに応えた。手帳を預かり、二人は避難民たちの元に足を運ぶ。

 その後、彼らに小さな出会いがあるのは、必然のことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「──―で、だ」

 

 近くの森で休んでいたランサーは木の上に背を預けていたが、風のように現れた来訪者にぽつりと呟く。

 

「なんか用か。お嬢ちゃん……いや、神官様よ」

 

 彼の足元には一人の少女……もとい神官と呼ばれていたゴスロリ服を着た少女が居た。彼女が神官であるということには彼らも後から知った事で、難民たちからも敬われている存在らしい。

 最初はサーヴァントたちも半信半疑だったが、ふと彼女が見せた気配に自然と納得がいってしまう。僅かだが、彼女から殺気のようなものが漏れていたのだ。

 怯えるほどではないが、かなりの手練であるということはその時に確かめたので、力量も含めて彼女が神官であるという認識を加えることにしたのだった。

 

 

「…………」

 

 

「ダンマリかよ……」

 

 

 無言のままにやけた顔で見つめる姿に、嫌味を感じたランサーは直ぐにでも目を離したかったが、直後に脳裏から自然と沸き上がった記憶を思い出して半分ほど彼女を視界にとらえた状態で、また呟くように話を始める。

 

「そういや、あの炎龍っつードラゴンとの戦いの時。俺を見てたな。

 

 

 …………いや。俺の槍か」

 

 

 炎龍との交戦の時、時折だが誰かから視線を受けているという感覚はあった。最初は自衛隊員たちのものだと思っていたランサーだったが、それとは別に、本当に近くから見られているという感覚があったので、一体誰なのかと思っていたのだが、それが今になって彼は知る事となった。その視線を向けていた相手が、他でもない彼女だったのだ。

 

 

 

 

「──―死の槍」

 

 

「…………!」

 

 ぽつりと呟いた少女にランサーは目の色を変える。出会って数日というのに、彼女は日本語らしき言葉を話していたのだ。まだおぼつかなく、ハッキリとしたものではないが、それは確かに蒼夜たちの言う日本語に近しい言葉だった。

 

 

「……どうやって話せてる」

 

「──―私はエムロイの神官。死を司る神にとって、貴方たちという存在に興味があってね。悪いけど、少し貴方たちの力の流れを借りて話せるようにしたの」

 

「……死……なるほど。どうやらお前の言う神様とやらは、俺たちサーヴァントの構造をある程度は理解してるってことか」

 

 サーヴァント。英霊は名の通り死した者たちが使い魔として現界した存在だ。故に、サーヴァントたちの基本条件は「死んでいる」という事。例外はあるにしても基本、ほぼ全英霊がこれに倣った(ならった)存在なため、死ということを司る神にとって許しがたい存在なのかもしれない。

 死した者は冥界にいく。そして輪廻転生をする。しかし、英霊たちは死した時に「英霊の座」に登録され、召喚されることもある。つまり、死した魂が転生することなく、死した魂をもう一度呼び出しているのだ。

 

「だがどうやってだ。俺たちの力の流れったって……座にたどり着くまでには……」

 

「そこまでは私も分からない。けど、この言葉を話せる人間は……貴方たちの近くにいるでしょ?」

 

「…………!」

 

 

 

 サーヴァントの原理。それは使い魔として呼び出された彼らはマスターから魔力を供給して貰っている。そうしなければ彼らは現界するだけの魔力もなく、霧散してしまうからだ。

 主と契約を交わし、仕える代わりに魔力を貰う。こうして彼らは現界を保っている。

 つまり彼女の言う力の流れとは魔力のこと。蒼夜たちの世界で魔力は「魔術回路」によって成り立っている。

 

 つまり。サーヴァントたちの魔力の流れを辿り、そこから蒼夜たちの使う言語を知った。というのが妥当な考えだ。

 

 

「……けど私が見たのはそれだけ。奪いもしないし取ることもできない。ただ見ただけ。あとは自前よ」

 

「それでそれだけ話せりゃ上出来だ。で。ただそれを見せびらかすために、俺の所に来たワケでもないだろ」

 

「ええ。私が興味があるのは貴方という存在ではない。その槍よ」

 

 

 木から降りて来たランサーは自身の得物である槍を構えて少女と同じ目線に立つ。

 どこから取り出したのか、彼女も手には身の丈よりも大きなハルバードを持っており、その全身武器という見た目には、ランサーも思わず自分の槍を見てしまう。

 

「その槍には呪いが見える」

 

「…………」

 

「触れれば死に至る呪いの槍……心臓に刺せば……その命は絶対に死ぬ」

 

「……正解だ。お嬢ちゃん」

 

 

 

 穿つは心臓、狙いは必中。

 それが、ランサーの持つ槍「ゲイ・ボルグ」の正体だ。

 稲妻のような動きで幾千の敵を穿ち、その一撃で相手の心臓を討つ。その槍に討たれた者は最後、運に恵まれし者でない限りは命を奪われる武器。

 

 

「で。その槍がどうしたって言うんだ。確かに俺の槍は簡単に相手の心臓を獲る事が出来るが、それとこれとは関係ねぇだろ?」

 

「……そうね」

 

 だが実際「それがどうした」という話だ。ランサーの槍の性質は分かった。そうではないかという少女の考えも当たった。では一体なにを言いたいのだろうか。

 彼の持つ槍に興味があることは理解したが、それだけでここに来たという訳でもあるまい。

 不敵な笑みを浮かべている少女に対し、本音は何なのかと目で訴えかけた刹那、彼女の口から意外な言葉が出てくる。

 

 

 

「──―興味が湧いたのよ」

 

「あ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 ──―数日後

 

「……え。俺たちの監視を?」

 

「はい。第三偵察隊……つまり、あの伊丹という人の部隊と共に行動するらしいです」

 

 

 数日が経ち、魔力もようやく安定してきた蒼夜はマシュ、清姫、キャスターの四人で食事を取っていた。その中で、キャスターから改めて自分たちの身の振る舞い方、双方から出された条件を聞き、誰が自分たちの監視をするのかという議題になると、それをマシュが答えたので、豚汁を食べていた蒼夜はへぇ、と頷くように反応する。

 

「……反応が薄いですね、先輩」

 

「そうかな。俺は妥当だなって思ったけど」

 

「だな。見ず知らずの相手より、彼らのほうがある程度はこちらについて理解は出来ている」

 

「物理的に……というか、視覚的に?」

 

 なにせ超人大戦さながら、炎龍相手に槍と剣と弓で挑んだ相手なのだ。小銃がまるで効果がなかったのにも関わらず、それよりも旧式の武器で炎龍を弄んでいたのだ。それを間近で目撃した彼らのほうが、警戒心も持つだろうし、なによりそれを踏まえての会話が出来る筈だからだ。

 

「特に、あのランサー様と、アーチャー様には警戒していましたね」

 

「無理もありません。あの二人は炎龍と呼ばれたドラゴンに更にダメージを負わせた。ライフルで効かなかった相手に槍と弓でダメ押しをしたんですから」

 

「それだけじゃない。そうやって軽々と相手取って、しかも無傷なんだ。そしてその彼らを統率するマスターである君……警戒されないワケもない」

 

 改めてキャスターから言われ、自分たち、特にサーヴァントたちがどれだけ特異なのか。どれだけ強力なのかを知ることとなった蒼夜。今まではサーヴァントたちが居る世界がほとんどで、何時の間にか「それが当たり前だ」という感覚が身に染みてしまっていた。常人とサーヴァント、英霊との違いが、今になって彼の前に現れ、その差を自衛隊員以上に見せつけていた。

 

 

「それと。今回の炎龍襲撃は、彼らの世界の日本にも知れ渡ったそうで隊員たちがその事を聞いて少し騒いでいました」

 

「ああ……それで今日は自衛隊員の人たちが……」

 

 正式な報告なのか、それとも何処からかリークされたのか不明だが、数日前に起こった第三偵察隊と蒼夜たちカルデア陣営との共同戦線での炎龍撃退。それが気が付けば門の向こう側の日本にも知れ渡っていたようで、向こう側ではちょっとした騒ぎなっていた。

 特地が異世界、所謂ファンタジー世界ということで人類以外の魔物や亜人が居るということは覚悟していたらしいが、ドラゴンがまさかここまで堂々と現れるとは思っても無かったらしく、それを取り上げたようで、更にはそこから炎龍襲撃時に死傷者が出たということを知ったマスコミはそこを重点的に取り上げ、政府を批判。死人が出たことに追及するという典型的な行動に出ていた。

 

 

「全く……日本はこういう所があるから嫌いなんだ」

 

「キャスターさん、何もそこまで言わなくても……」

 

「別に間違ってもないだろ。事実がどうであれ、彼らは失態があれば確実にそこに食いつく。そして政治家たちや主犯格たちに詰め寄り、自分たちにとって格好のネタを引っ張りださせる。そしてそこから誇張し、肥大化させ、根も葉もない噂で更に批判を続ける。

 これのどこが間違ってると?」

 

「ついでに捏造や独自解釈だけを押し付けるっていうのもありますよ」

 

「先輩……」

 

 気分を悪くするかと思っていたマシュだが、蒼夜はそれとは違いキャスターの言葉に更にいくつか付け加えをした。それには彼女も少し面食らってしまい、戸惑って言葉を絞り出すことも出来なかった。

 

「…………」

 

 正直なところ。実は、彼こと蒼夜はそこまで日本に対していい感情を持っていなかったのだ。マシュも以前何度か聞き出そうとしたが、はぐらかしたりしてしまい清姫を投入するものの令呪によって「その事は絶対に聞かないこと」と命じられてしまっていた。

 故に誰も聞くことは出来ず、本音というべき確信に近づく事が出来ない状態だ。

 なぜ彼がそこまで言いたがらないのか。それは恐らく、彼しか知らず、彼が話せない事情なのだろう。今はマシュも清姫も、彼の周りに居るサーヴァントたちはそれで納得するしかなかった。

 

「……先輩……」

 

「……ごめん。ちょっと悪い空気にしちゃったな」

 

「いや。言いたがらないのであれば無理強いはしない。君が話したい時に話せばいい」

 

「嘘でなければいつでもOKです♪」

 

(……清姫に先手(令呪)打っといてよかった……)

 

 蒼夜が申し訳なさそうにしたことで空気が少し明るくなった四人は、のんびりと食事をとしようとしたが、そこに一人の来訪者が姿を見せた。

 水色の髪に魔導師のような杖を持った少女、炎龍撃退の時に駐屯地にやってきたあの少女だ。

 

「ん……?」

 

「あらッ」

 

「あの。訊きたい、ひとつ」

 

「……えっと……君は?」

 

 直接会える機会がなかった蒼夜は一度姿は見ていたが面と向かって話すことがなかったので、少し狼狽えた様子で少女に応える。すると、少女はまだおぼつかない日本語で返答を返した。

 

「私、レレイ・ラ・レレーナ。人、探してる」

 

「あ。俺は蒼夜。こっちがマシュ」

 

「マシュ・キリエライトです」

 

「……蒼夜……マシュ」

 

 まるで子どもに言葉を覚えさせているような風景に妙に和んでしまう面々だが、表情を変えないレレイという少女に蒼夜は失笑するしかなかった。

 なにせ、向こうはまだ言葉を覚えてないのだ、と思っていたがどうやらアレが素らしく、微動だにしないその顔にはキャスターでさえも関心してしまう。

 そんな奇妙な空気の中で、蒼夜はまだ慣れていない言葉で話すレレイに対し誰を探しているのかを訊ねた。

 

「で。誰を探しているの?」

 

「……探す、人…………リリィ」

 

「…………リリィって……」

 

「セイバーさん……のこと、ですか?」

 

「セイバー……うん。そう」

 

 探していたのが特地の人間ではなく、セイバーであることに耳と目を疑った四人は一度顔を見合わせるが、一先ずは彼女の問いに答えようとキャスターが返事をした。

 

「彼女はここには来ていないぞ」

 

「……来ていない」

 

「ああ。今日はべつの所に居ると……」

 

 

 すると。

 

 

 

「あ。レレイさーん!」

 

「あ」

 

「え?」

 

「今の声は……」

 

 後ろから聞こえてくる声に振り向いたレレイ。そこには駆け寄ってくるセイバーと後ろから保護者のように歩いて来るアーチャーの姿があった。明るい爛漫な笑顔と共に駆け寄ってくる彼女の姿に、蒼夜たちの疑問はますます増えるばかりだ。

 当人であるセイバーも、なんの疑いもなく真っ直ぐとレレイのところへと向かい、そこから何気なく話をし始める始末だ。

 

「探した」

 

「すみません。ちょっとアーチャーさんのについて行ってましたので」

 

 

「…………アーチャー。どういう事だ、コレ?」

 

「私に聞くな……と言いたいが、この場合は私が説明せねばなるまいか……」

 

 

 話は数日前。セイバーが特地の言語を翻訳した手帳を片手に避難民たちと交流を始めたのが切っ掛けで、炎龍を相手に立ち振る舞い挑んだという少女に避難民たちも興味を示していた。その中でレレイはある理由から彼女たち、というよりもマスターである蒼夜に興味が湧いたようで、彼に接触するための布石としてセイバーに近づいたらしい。だが、セイバーと妙に気が合ったのか、今ではこうした関係になってしまっているという。

 当人たちもなにが理由で気が合ったのかは不明で、今はこうしてただ友人であるということに前向きだ。特にセイバーは異世界の友人ということで少し嬉しいらしく、異様ともいえるほどテンションが上がってしまっている。

 

 

 

 

「……で。コレか」

 

「らしいな。ま、二人ともいい傾向になっているとは思うぞ」

 

「どういう意味ですか?」

 

 そもそもレレイが近づいた理由は蒼夜に興味を持ったから。セイバーは言語が使えるかどうがを調べるためだ。レレイが蒼夜に近づくにはまずそういった言語の壁が立ちはだかってしまう。当然、特地と日本との言語の違いは言うまでもないが、その為にはやはり実際に使ってみるということが第一だ。

 なので、セイバーにとって、レレイにとっても二人の邂逅はある意味で都合がよかったと言える。

 

「……なるほど」

 

「本人たちがそれに気づいているかは分からないが……関係が良好なのは良しととるべきだろう」

 

「…………」

 

 アーチャーの言葉に面々もまだ慣れていない会話をする二人の様子を眺める。一応はレレイが日本語を話し、それをセイバーが教えつつも話をしているといった感じであり、その光景には微笑ましさを感じてしまう。

 年若い二人だからか、それとも言葉を覚えようと必死な姿だからか、その姿には蒼夜も口元も無意識の内に上がり、笑みとなっていた。

 

「そっか…………俺も、覚えないとな」

 

「言語獲得は急務ですね。今は特地の皆さんとの交流も大切ですし」

 

 マシュの言葉通り、今の蒼夜たちにも言語の習得は急務。特に聖杯が特地にあるのであればなおさら、情報収集のためには必要不可欠だ。今はセイバーが言語を教えているが、いずれは自分たちも特地の世界を回って聖杯について調査しなければならないのだ。

 

「……後でセイバーに聞くかな」

 

「アーチャーさんに聞くというのはどうでしょうか」

 

「私もそこまでは出来ないぞ。セイバーの方が覚えはいいからな」

 

 斯くにも、特地の言葉を覚えることが先決であると定めた蒼夜は、後でセイバーに教えてもらおうと声のかけ方を考えていた。

 

 

「それとマスター。今日から仮設だが浴場が出来るそうだ。偶には日ごろのアカを落としにいったらどうだね」

 

「……臭う……?」

 

「……さてな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方になり、日も暮れて来た頃になると、アルヌスの駐屯地の一角ではちょっとした賑わいが起こっていた。

 アーチャーの言う通り、本日から駐屯地の中で浴場が解禁となったのだ。

 仮設住宅やその他の施設が優先だったことから今まではまともに体を洗える機会もなかったが、ようやく作られた浴場に避難民だけでなく自衛隊員たちの中でも話題になっており、既に何人かの非番の隊員たちが先んじて入ったという。

 

 

「……ふと思ったのですが。サーヴァントにも体のアカはあるのでしょうか……?」

 

「どうなんでしょう? この体になってから、そういうのは思ったこともないですね」

 

 女湯の中でふとした疑問を口にするマシュ。それには英霊となったセイバーと清姫も改めてどうなのかと思ってしまう。今まではそんな事を気にせずに体を洗ったりしていたので、セイバーたちも今の今まで疑問にも思っていなかったらしく、特に生真面目なセイバーは唸るように考え込んでしまう。

 

「ふとした疑問ですね」

 

「はい。英霊ということでお腹もすきませんし、体力に至っても問題はありません。ですが、外面的にはどうかと思ってしまって……」

 

「なるほど……でも、私はやっぱりお風呂には入っておくべきだと思います!」

 

 両手に小さな拳をつくり、頑張っているというような姿で訴えるセイバー。それにはマシュも自然とそれに同意し、清姫も微笑んでいた。

 

「そうですね。我ら英霊といえど生きとし生ける……なら、衛生不衛生もある筈です」

 

「……そうですね。見た目が汚くては先輩にも、周りの人にも迷惑ですからね」

 

 

「…………」

 

「……セイバーさん?」

 

 ふとマシュは自分に対し強い眼差しを向けているセイバーに気づき、彼女の視線がどこに向かっているのかを逆算する。視線はかなり近いところに向いているので、意外と近くなのだと思っていたが……

 

「…………」

 

「…………あの……」

 

 

 

 

「……なんでそんなに大きいのですか?」

 

 

 ──―一説では聖剣のせいらしいという原因に直視していたセイバーは、その後しばらく自爆して無言となっていた。

 

※ちなみに清姫もそれなりの持ち主。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今頃嬢ちゃんたちは三人仲良くか」

 

「セクハラ行為とは、相当死にたがりのようだな、ランサー」

 

「うるせぇ。俺だってその後の結末は分かるんだよ」

 

 

「…………マスター」

 

「なに」

 

「……一つ。言ってもいいか」

 

「……多分、俺も同じこと思ってるから大丈夫」

 

「…………なら一つ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…………狭いな」」

 

 尚、同時刻に入っていた蒼夜たち野郎は全五人ということで非常に窮屈だった。

 原因は言うまでもなく面々の体格とライダーである。特にライダーは男五人の中でも特に体格があるので、余計に範囲が広く更に豪快なこともあって蒼夜はもみくちゃな状態になっていた。

 

「ああ。確かに狭いな」

 

「そりゃライダーがデカいからでしょうに……」

 

「そうか? 余はこの風呂釜が小さいと思っていたが」

 

「お前なぁ……」

 

 体格からしてライダー一人でも十分な大きさなので、そこに更に大人三人と青年一人という状態から既に中は満杯の状態。しかも三分の一をライダー一人で征服しているのだ。

 これには一番体格の小さい蒼夜には肩身が狭いとしか言えない状況で、しかも彼らが入った時には既にかなりのお湯が排水されてしまった。

 大半のお湯はそのまま地面へと落ちていき、今風呂の周りではふやけた地面のニオイがしてくる。

 

「お陰で野郎四人は現在もみくちゃですよい」

 

「だからといって出ることもな……」

 

 反対側に退避していたランサーたちもその被害にあっており、出ようにもまだ数分足らずということで出たくもなかった。英霊だと言えばそれまでだが、彼らも湯船につかりたいというのは同じだ。

 いつの間にかライダーに制圧されていた風呂に深くため息をつく蒼夜は、気落ちしたまま淵に片腕をだらけさせる。久しぶりにのんびりと入浴できると思っていたが、まさかここまで窮屈なことになるとは思ってもおらず、残された範囲で湯船につかり体を温めようと努力していた。

 

 

「女三人は広くていいよね……」

 

「セクハラというよりも別の理由を感じるのだが……」

 

 女性陣の風呂場というよりその人数に愁いていた蒼夜にアーチャーは遠目で気遣うことしかできなかった。その目があまりに叶いそうにない夢を語っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「──―時に坊主。これからどうするつもりなんだ」

 

「どうするって……なにが?」

 

「どうするもない。聖杯探索のために来たとは言え、情報どころか行動の一つさえもしておらんのだぞ。このまま呑気にする気でもあるまい」

 

 唐突なライダーの問いに、湯につかって体を癒していた蒼夜は今は聞きたくなかったと言うような暗い表情で振り向いたが、目で「どうなんだ」と訊ねてくるライダーに一拍置いて、淡々と話しだした。

 

「取り合えず、この世界の首都……いやこの国、帝国の首都である帝都を見ておきたい。もしかしたら、あそこに何らかの情報があるかもしれないからな」

 

「帝都か。そういえばここは帝国の領土内だったな」

 

「でも、俺たちはコダの村からアルヌスまでの道のりしか知らない。だから、まずは各地の地理の情報と軍事について知っておきたい。可能なら戦いたくはないし無駄な戦闘も避けておきたいから」

 

 現状、アルヌスからコダの村とエルフたちが居た村までしか知らない彼らにとって地理情報の獲得と理解は聖杯探索において重要なことだった。勿論、帝都までの道のりを見つけることも重要だがそれ以外にも重要なことは多く存在する。

 

「それに帝国内で帝都までに続く町や村も調べておかないと、いざって時に隠れたり食料調達ができない。それにもしかすればこの世界での協力者だって得られる可能性もあるんだ。兵站じゃなくてもそれくらいは確保しておかないと」

 

「…………」

 

「えっ……俺、何かマズいコト言った……?」

 

 いや。と答えるライダーだが、その様子はなにか面白そうなものを見ているようで、それには蒼夜も変に気にしてしまう。

 

(なるほど。拠点の確認と確保、食料についても安定しておけるように内部での協力者を探すか……)

 

 

「だが、相手は帝国の人間だ。向こうは大国ということもあってこちらに靡くとも思えんぞ」

 

 すると今度はアーチャーが反論し協力者が居ない時はどうするのだと遠回しに問うてきた。だが、それは蒼夜も想定済みだったらしく

 

「どうかな。セイバー経由でレレイって子から聞いたけど、帝国の実態は既に老体だ。権力争いもあるし、なにより体制に反感を持つ者だって少なからずいる筈だ。加えて、こっちには圧倒的な戦力が存在する。自衛隊と俺たちカルデア。英霊たちの実力が知れてなくても、自衛隊の名を出せば多少怯みもするし考えもする。なにせ、この事態じゃ力と権力が全てだ」

 

「…………」

 

「加えて今回の自衛隊による手ひどい反撃。帝国はかなりの数を失ったって聞くし、自衛隊の圧勝には少なくとも向こう側に影響を与えているハズだ。特に、権力に縋る人間だとその傾向は強い」

 

「──その根拠は」

 

「権力闘争に明け暮れるのは自分自身の物理的な力が無力であるということを知っているからだ。ならば、この弱点である力で脅かせば……少なくとも権力っていう実態のないものに縋ることもできない。権力はあくまで組織内での力だからね」

 

 

 つまり。今回の自衛隊と帝国の戦争で少なからず帝国側でも意見分裂が起こっているはず。そこにつけ込み、帝国よりも力に優れて物理的に安全が確保される自衛隊側に協力を仰ぐ人間も居る。身の危険に晒されることを承知の人間も居るだろうが、最終的に自分たちがどうなるのか、その結末を予想できる者もいるはずだ。仮に力で脅かさなくても、既に自衛隊によって怯えている状態なのだから。

 

 

「だから協力者は自然と現れる筈だ。あとはその為に自分たちが行動しやすい町や近隣地域を調べておけば戦いの時や逃げる時にはいざって時に役立つでしょ? それに食料だって重要だ。特に特地……帝国は広いんだからね」

 

「…………なるほどな。では、お前は明日からどうする?」

 

 ライダーは改めて、蒼夜が今後どうするのかを訊ねる。それには少し考え込んでいた彼だが、既にある程度はまとまっていたのか小声でぶつぶつと呟いたのちに返答を出した。

 

「まず、自衛隊の人たちの監視してもらいながら近隣の町を調べていく。当然、自衛隊でも地図の作製は始まってると思うから、それは後で照らし合わせて精度はよくしていくさ。

 けど、あくまで自分たちで調べないと分からないことだってある筈だし、明日から……取り合えず目下の目的はアルヌス以外での拠点探しかな」

 

 

 今後は帝都に至るまでの道のりとそれまでの休憩地である町の探索。最終的には帝都にたどり着いて聖杯を見つける手がかりを探すというのが蒼夜の立てた目標だ。当然、ほぼゼロからの探索だが、今回はそうまで苦労することでもない。自衛隊という組織があるので、それ利用し探し出すのだ。

 それには聞いていた面々も思わず黙ってしまい、視線も揃って彼に集まっていた。

 

「…………どうかした?」

 

「いや……」

 

「マスターらしいな……とな」

 

「……?……??」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 ──―更に後日

 

 

 

 

 

 

「これ、ぜーんぶ翼竜の死体?」

 

「帝国と諸王国が自衛隊と戦ったあと。ここの翼竜の鱗を獲っていいと伊丹が」

 

「えっ?! 翼竜の鱗は高く売れるわよ!?」

 

 かつて戦地だった場所にはいくつもの死体の代わりに個性豊かな服装の五人が焦げた大地に立っていた。

 賢者カトーの弟子のレレイ。ゴスロリ服という神官の正装を纏う亜神ロゥリィ・マーキュリー。そして希少種のエルフと言われているテュカ・ルナ・マルソー。

 そして、セイバーとアーチャーだ。

 

「自衛隊はここの物には興味がないらしい。身売りするよりよっぽどいい」

 

「…………」

 

 

「翼竜の鱗はそこまで高価な品なんですか?」

 

「そうねぇ……翼竜自体、ふつうは帝国のとかの様に兵器として使われる。そして寿命が来たりすれば鱗をはぎ取る。そもそも翼竜自体持っているのは軍隊だから希少価値が高いのよ」

 

 レレイの言葉に自分の覚悟が軽く崩れたような音が何処かから聞こえて来たテュカ。その隣では鱗を拾い上げて訊ねるセイバーにロウリィが答えていた。

 

 事の始まりはレレイが伊丹から翼竜の鱗を獲っていいかと訊ねたことから始まったらしく、この世界での鱗の価値を知らない彼らはそれを許可した。一方で自衛隊に保護されて生活していたテュカは今までの生活よりも充実していることから、何時かは自活せねばという理由から身売りをしようかと考えていた。

 だがレレイからこの話を持ち出され、今に至るという。

 

「これを少女たちでというのも時間が掛かり過ぎるな」

 

「だから貴方にも来てもらったのよ?」

 

「……なるほど」

 

 男手も必要なことに納得したアーチャーは軽く息を吐いて観念し、セイバーたちと共に鱗集めを始める。手分けしてということで作業も幾分かはかどるだろうと思い、レレイも作業に取り掛かろうとするが、その直前にテュカに訊ねられる。

 

「……そういえば、あの人たちは?」

 

「あの人……リリィのこと?」

 

「ええ。見た目は何処かの騎士みたいだけど……」

 

「……リリィは異世界の騎士。アーチャーは……戦士らしい」

 

「へぇ……」

 

 実際はアーチャーのことを本人から聞けなかったレレイはその場で誤魔化すように答える。一応、彼が戦士であるということは当人からの言葉なのでまず間違いはないのだろう。身なりは兎も角としてもその能力は彼女たちも目の前で確認済みだ。

 

「人手は多いほうがいい。それに……」

 

「……それに?」

 

「……暇してたから」

 

「…………」

 

 ちなみに二人が呼ばれたのは手が足りないということで、レレイのぼやいた事は訊ねたテュカ以外は知らず、聞かれることもなかったという。

 

 

 

 

 

 

「……え。一緒に来ないかってことですか?」

 

「ああ。この鱗を売りに、近くの町まで行くつもりだ」

 

 その後、剥がされた鱗は革袋の中に詰め込まれ近くの町で売られることになる。未だ特地での通貨を持たない自衛隊には都合がいいが、物価を知らない彼らにとって袋二つでどこまでの値が付くのか分からない。だが、それでも特地での資金獲得のために、伊丹たちが抜擢された。当然、理由はその物価などを知る者たちを彼らが連れ帰って来たからだ。

 だが、そこに伊丹は蒼夜たちを連れて行っていいかという話を持ち出し、上官である檜垣に呆れられたりはしたが監視を怠らないことを条件に同行を許してもらった。

 

 そしてその話が現在、彼の前に持ちだされた。

 伊丹は頼みごとのように付いて行くか、と訊ねたので蒼夜とマシュはしばらく顔を合わせて沈黙していたが、彼らは直ぐに二つ返事で了承した。

 

「お邪魔にならないのでしたら、私たちも同行します」

 

「俺たちも同行、させて下さい」

 

「オッケー。流石に全員……ってワケにはいかないと思うけど……平気かな?」

 

「ええっと……」

 

 

「余は馬で行くから問題ないぞ」

 

「俺もだ。馬ねぇけど足には自信はあるぜ」

 

「ついでにキャスターのヤツも余の馬で乗せていく」

 

「なっ!?」

 

 

「よし。アーチャーは?」

 

「軽装甲車に乗せてもらう」

 

「いやなんでだ!?」

 

 狼狽するキャスターをよそに話を進める蒼夜と伊丹。一応、伊丹は大丈夫なのかと心配していたが最後にはキャスターが折れてライダーの馬であるブケファラスに乗ることとなった。そして、アーチャーは軽装甲車の()に。残る蒼夜、マシュ、清姫、セイバーは伊丹の乗る車に同乗することになった。

 

「見れば見るほど白騎士ですね……」

 

「倉田。途中で見惚れて運転怠るなよ。でないとそのまま昇天だからな」

 

「いくらなんでもそこまではしないッス……」

 

 と言って苦笑する倉田だが、伊丹は時折彼から目を離さないでおこうと、時々セイバーをチラ見する彼の姿にそう決心した。でなければ、最悪自分までも身の危険に晒されかねない、と。

 そして、伊丹たちは少女三人(?)も同乗させ、こうして翼竜の鱗を売り、資金を獲得するため、伊丹たち第三偵察隊は出発したのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初の町、城塞都市イタリカへ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──―これで立ち上る煙を見るのは二回目だぞ」

 

 

「…………」

 

「……ライダー?」

 

「…………坊主。

 

 

 

 

 

 戦支度をせい」

 

「えっ……」

 

「見て分からんか。

 

 

 ──―戦だよ。戦ッ」

 

 心躍る。子どものような笑みを浮かべ、ライダーは手綱を持つ手に力を入れていた。

 

「……マジかよ」

 

「……マジらしいです」

 

 一難去ってまた一難。伊丹と蒼夜は戦意高揚するライダーにその事実が嘘であってほしいと願うばかりだったが、目の前の煙と遠くから聞こえてくる音に、その儚い願いは潰えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──―後編に続く

 

 




オマケ。


「…ところでロマン。私たちの出番ってないのかな?」

「あるんじゃないかな。特にボクってオペレーターだし?」


「…実際。無かったりするのですがね、お二方は」


「「………え?」」


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