Fate×Gate = Gate Order =   作:No.20_Blaz

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おまたせしました…(汗
なにせ暑くてやる気が中々起きず、色々と忙しいこともあって完成までに時間が掛かりました…申し訳ないです…

さて。チャプター2に入ったのですが、中身としては日本に行くかぐらいまでをチャプター2としています。なんでそこそこ長いかと…
今回はイタリカ攻防戦終了まで。
その後とか騎士のアレとかは残念ですが次回をお待ちを…

八月でも暑い日が続きますので、皆さん水分管理にはご注意を


それで、お楽しみ下さい。


チャプター2 「二つの世界 = 戦士と死神と女神と =」

 

 

 

 

 

 

イタリカの戦況は最悪の一言に尽きる。

兵力、士気、指揮系統、軍の群がり、配置された者たちの行動。

そして末路。

幾ら相手が手練の元正規兵だからといって、誰がここまでの酷さを予想しただろうか。

 

辺りから聞こえてくるのは民兵たちの断末魔や叫び、そして残党たちの狂気の声だ。

勇敢に戦う者たちも居るが、そうした者たちは自ら死地に赴いてしまい、直ぐに命を落とす。矢に討たれ、剣で切られ、槍で突きさされて倒れていく。

まともな装備がない彼らにとって、抵抗も僅かな間だけ。直ぐに競り合いに負けるか、後ろや横からやられるかだ。

防御の鎧や甲冑も正直なところただの気休めでしかない。当たり所が悪ければいくら防御力があっても死は免れない。

 

 

 

―――斯くして、最悪の状態から、第二次のイタリカ攻防戦が幕を開けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「東門だとッ!?」

 

イタリカの中心、フォルマル家の屋敷の外では守備隊の指揮を執っていたピニャの声がその場に響いた。東門の守備隊が襲撃を受け、現在交戦しているという報告を兵士から受け、自分の予想と外れたところへの攻撃に、それ以上の言葉が出なかった彼女は口を半開きにしたまま報告に来た兵士の言葉を聞き続ける。

 

「はっ。現在、騎士ノーマ率いる隊が交戦中。敵は盾を使って接近し、城壁から乗り込もうとしています」

 

「西の守備隊は向かわせたのか!」

 

「指示通りに。ですが、戦況が混乱、更に敵が既に城壁を制圧しかけているので…」

 

「ッ………!!」

 

思えばすぐにわかることだったハズだ。四方全てに門が存在するイタリカだが、北には小高い山、南は既に襲撃を受けた後。であれば、敵が攻めてくるのは西か東か。それはピニャにでも薄々と予想はついていた。

だが相手は盗賊に成り下がった連中。しかも馬鹿正直に南門を正面から攻めて来た。であればまともな指揮系統はないと読んだが、それが間違いだった。

南門を攻めたと言っても、だからといってもう一度攻めてくる保障があるわけではない。

イタリカには他二か所も同様の攻撃が出来るように平原になっているのだ。であれば南門に絶対に攻めてくるという理由にはならず、西と東に来るかもしれないという仮説が浮上するハズだ。

なのにピニャは盗賊だからという理由でそれを脳裏で捨てて、もう一度南門に攻めてくると予想した。南門の防御機能はすでになく、攻めるにしては絶好の場所。そしてそこに捨て駒である自衛隊を配置すればいよいよ向こうにとっての餌の完成。

 

しかし。現実はそう簡単にいかなかったのだ。

一つは伊丹達の行動。そしてもう一つは自分の慢心。この二つが決定的な原因であり、彼女が払う犠牲への通行料だ。

 

 

「何故だ……何故敵が南門ではなく東門に……」

 

「………まさか」

 

「グレイ?」

 

「殿下、アレを」

 

グレイの言葉にピニャたちは南の方角を見る。すると、そこにはピニャたちにとっては信じられない光景が広がっていたのだ。

 

「ッ……どういうことだ!?」

 

「あ、明かりが……一つもない!?」

 

そう。伊丹たちは夜戦を想定してある装備を用意していた。暗視装置、つまり夜間で明かりが無くても戦える装備を使っていたのだ。火のあるところでは暗視装置は邪魔でしかないので、伊丹たちは前もって篝火は要らないと言っていた。それが今になって東門を攻める大きな理由となっていた。

 

「アイツら……!!」

 

「どうやら、南門に火の手が無いことに残党も罠だと踏んだのでしょう。だから――」

 

「残る二か所である東と西に絞り、東門に攻めて来た……」

 

中世の時代である特地であれば夜の戦闘で篝火をつけるのは当然のこと。だが伊丹たち現代人にとっては篝火がなくても夜に活動できる装備を持っている。この常識の違いが、もう一つの原因だ。

これを伊丹は知っているのか知らないのか。それは本人しか分からないが、少なくとも、この時ピニャの心中は分からなかっただろう。

 

「クッ……西門の守備隊はそのまま東門守備隊を援護ッ! 何があってもこの町を陥落させるなぁ!!」

 

 

 

だが、そこにピニャへさらなる追い打ちがかけられる。

それは今の彼女の中に沸き起こった激情を一気に冷やす冷水のような出来事だった。

 

 

 

「き……騎士ノーマ、討ち死にしましたぁ!!」

 

 

 

「なっ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――どうやら、騎士が一人戦死したようだ」

 

弓兵自慢の視力を使い、東門の様子を見るアーチャー。彼の目には、胴部に剣で串刺しにされた騎士のノーマが、残党の首領らしき人物に釣り上げられ、見世物の様になっているのが見えていた。

 

「確か、ノーマって言ったっけ。若そうな人だったな」

 

「ああ。胴体に数か所、あれは致命傷だな」

 

冷静に分析する伊丹とアーチャーの様子に、近くにいた栗林は若干顔を引きつっている。一応人ひとりが死んでるというのにあそこまで冷静かつ他人事のように話しているのだ。当然、常人としての意識が彼女の中で嫌悪感と異常さを感じさせ、伊丹に質問を投げさせる後押しをした。

 

「…隊長。随分と冷静ですね」

 

「……どうだろうね。実際、俺もそこまで冷静だとは自分でも思ってないよ」

 

「えっ…?」

 

外見から冷静な顔をしている伊丹を見て首をかしげるが、そこに後ろから桑原が近づき、彼女の肩を叩く。何事かと思えば桑原は何も言わずにある場所に指だけを刺した。

そこを見ろ。そのしぐさに栗林は後ろを向かない伊丹の姿に小さく口を開けた。

双眼鏡は片手で持ち、もう片方の手は近くの城壁に置かれている。しかしその置かれた手は今すぐにでもあの場所に行きたいという願望が強く表れ、彼の意志そのものを示していた。

今すぐにでもあの場所、東門へと行きたいという彼の気持ちが。

 

 

「―――が、今の我らはあの娘っ子の配下。本意ではないが、あ奴が命を下さん限りは動くに動けん」

 

だがライダーの言うことも事実で、現在伊丹たち第三偵察隊と蒼夜たちカルデアの面々はピニャの指揮下にいる。彼らが離れれば命令違反となってしまうのは確実。だがだからといって東門を棄てるわけにもいかない。そうなってしまえば町は焼かれ、多くの犠牲者が出てくるのだ。

 

「ですが、このままでは東門は陥落します…!」

 

マシュの訴えにも他の隊員や蒼夜たちも分かっているという顔をする。このまま民兵たちだけで戦えば確実に南門は陥落する。西門から援軍が来るとしても時間稼ぎにしかならない筈だ。

 

「…どうします、隊長」

 

「……救援要請は……来ないか」

 

「来ないでしょ。この状況じゃ」

 

冷たい言い方をする倉田だが、それは事実であると誰もが理解し流す。今から救援の要請が来るかと言われれば戦況が混乱のみであるその場では来るハズがない。

 

「このままでは城下町にまで敵が来ます。ならいっそのこと……」

 

「城下の避難民を助ける…か。それが常套手段だけど…」

 

「我々は今日イタリカに来たばかりだ。下手をすれば道に迷って敵に囲まれる可能性もある」

 

黒川の意見も分からなくもないと言う伊丹だが、キャスターがすかさず鋭い一言を突き刺す。

 

「小銃程度なら、あんな鎧簡単ですよ?」

 

「お前は撃ちたいだけだろ…」

 

「確かに彼女なら殲滅しそうですけど…」

 

「……あの、黒川さん?」

 

小銃をもって言う栗林に呆れる富田だが、隣ではさっきとは纏っているオーラが微妙に違う黒川が笑っており、蒼夜とリリィ、マシュにはどうにもそれが笑っているように見えなかった。

すると、今度はどこからか少女の喘ぎ声が彼らの城壁から響き渡る。

 

「って今度はなんだ!?」

 

「伊丹さん……なんかロゥリィが急に……」

 

石壁にへたり込み、両足の間に手を入れるロゥリィ。その姿は流石に蒼夜には直視は難しく、僅かに目を逸らしていた。どうやら急に喘ぎ声を出し始めたらしく、伊丹もその異様な光景に何があったと聞くに聞けなかった。

 

 

「戦場で死した兵士の魂は彼女の肉体を通してエムロイの下へと召される。多分、それが彼女に媚薬のような効果をもたらしているのだと思う……」

 

異様なほど冷静なレレイの説明に、はぁと言うしかない一同。兎も角、現在ロゥリィは一種の興奮状態で、それを抑えきれてないらしい。

 

「で。どうすれば?」

 

「単純な事。戦えばいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆殺しだぜ……ってやつ」

 

 

「…レレイ。随分と楽しそうだな」

 

「………。」

 

「と、ともかくどうするんですか?!」

 

妙に気まずい空気だったのをリリィが声を出して元の状態に戻す。それにはどこからか誰かの安堵した息を吐くのが聞こえていたが、今はそれよりも先決するべきことがあるということで、全員がリリィの話題に乗った。

 

「…今は黒川の言う通り住人の避難も重要だが、東門を落とされたらそれ以前の問題になる。だから―――」

 

「同時展開……ですね」

 

蒼夜の先回りしたかのような言葉にああ、と頷く伊丹は直ぐに各隊員たちに指示を出す。今は東門の防衛と避難民の避難が優先だ。特に戦場が東門から広がって逃げる人の声が大きくなりつつあるので、彼らでも住人に被害が出ているというのは聞くだけでわかることだ。

 

「俺と富田、栗林は東門へ。黒川は勝本と倉田を連れて前線から逃げる避難民の安全を確保。場所は……」

 

「今なら屋敷の辺りが安全だろうな」

 

偵察から戻って来たランサーは避難民をどこに集めるか、考えていた伊丹に提案を持ちかける。イタリカの中心地であるフォルマル家の屋敷であれば守りのこともあるので、集める分にも問題はなさそうだ。加えて、避難民を集めるだけであれば向こうも文句は言うまいと思った伊丹はランサーの案を採用する。

 

「黒川、避難民は出来るだけ屋敷の近くに。確かあの辺りには広場みたいなのがあったハズだ」

 

「分かりました」

 

 

「……よし。リリィ、キャスター」

 

「あ、はいッ!」

 

「私か?」

 

非戦闘員というわけではないが、物理戦闘が苦手なキャスターとその護衛としてリリィを選んだ蒼夜は二人に付いて行くようにと指示をする。

 

「二人は黒川さんたちと一緒に住人の避難の手伝いを。今の状態だと何時敵が民間人襲うかわかったものじゃないから……!」

 

「ッ……分かりましたッ!」

 

「キャスターとして戦えんのは自負しているが……仕方ない。時間稼ぎはしてみるさ」

 

 

「他のサーヴァントたちは移動用意。アーチャーは狙撃ポイント確保後すぐに民兵の援護に回ってくれ。こっちはランサーとライダーたちを連れて正面から援護に入る」

 

「了解した。うっかりこちらの射線に入るなよ」

 

「そん時はランサーで守るから」

 

「俺は肉壁かッ!!!」

 

和気藹々とした雰囲気だが、蒼夜の適格な指示に彼らも疑うことなく従っている。皮肉を言いながらも了解したと言う顔のアーチャー。マスターのジョークに自分を盾に使われることに声を張り上げるランサー。やれやれと、どんちゃん騒ぎしている彼らを外から眺めて溜息をつくマシュ。

これが、今から死地に赴く者たちの態度と雰囲気だろうか。少なくとも、ある程度戦闘を経験した伊丹たちにとってもその様子は不自然にしか見えなかった。

 

「……場数を踏んでいるというより、慣れているという雰囲気ですね」

 

「だね…ホント、今までどんなことしてきたんだろ」

 

 

戦闘中だというのに和やかだった彼らだが、いざ戦闘という時になるとその空気は一変する。自衛隊員たちは銃の安全装置を外し、隊長である伊丹から下された指示に従って動き出す。

蒼夜たちも同じく、アーチャーは先行して狙撃ポイントの確保に向かい、リリィとキャスターはそれぞれ黒川たちの後についていく。残ったマシュやランサーたちは自前の武器を持ち、戦闘準備を整える。

 

「マシュと清姫は俺と一緒に前線から逃げてくる避難民の援護。出来る限り安全に逃がすんだ」

 

「分かりました、マスター」

 

「では、矛が私、盾がマシュですね」

 

 

「坊主、俺たちはどうする」

 

「基本遊撃。ランサーは兎も角としてライダーも原則門の中で戦ってくれ。多分、もうかなり入り込まれてると思うから」

 

「であるか。ならば一番槍はいただこうではないか…!」

 

 

 

「――――――よし。各自、行動開始ッ!!」

 

 

 

桑原達数名を守備に残し、伊丹と蒼夜たちは東門へと向かう。目的は東門守備の援護。そして避難民の退避を助けること。

戦闘開始から既に数十分が経過し、戦火も広がりつつある。

守備の命令を守りつつ、東門の援護をするには少数で向かうしかない。

小隊を三つに分けて行動を始めた彼らは、急いた足で現地へと向かう。

 

 

「ほらっ、ロゥリィ行くよ―――」

 

栗林がロゥリィを立たせようとした瞬間、ロゥリィは自分から立ちあがり、わき目もくれずに城壁から飛び降りた。

 

「うわっ!?」

 

「ロゥリィッ!?」

 

亜神だからか、城壁から降りたロゥリィは何事も無かったかのように着地。そして、まるで獣のように人では到底出来ないほどの速さで走り出した。まるで忍者か何かのように足早に走り去っていくその姿には栗林も唖然として、富田も足の速さに一言ぼやくことしかできなかった。

 

「速っ……」

 

「嘘ぉ…」

 

「関心してる場合か、二人とも。行くぞッ!」

 

 

ロゥリィが先行していくのに気を取られていた二人も、伊丹の声に我を取り戻して階段を駆け下りていく。下に留めていた車に乗り込むのは、彼らだけでなく同行する蒼夜たちもで、マシュは一旦得物の盾を戻すと後部から乗車する。

 

「よしっ。こっちも全員乗りましたッ!」

 

「あの男二人は足で大丈夫か?」

 

「ええ。片や馬が居ますし、もう一人は伊達に槍兵してませんから…!」

 

そう。ランサーもライダーもかつて歴史に名を刻んだ大英雄。特にランサーは槍兵であるがゆえに敏捷さには自信はあった。

蒼夜の自信ありげな言葉に従い、伊丹は運転席の富田に発車を命じた。

 

 

 

 

 

 

「―――チッ…もうかなり入り込まれているな」

 

先行して狙撃ポイントを見つけたアーチャーは、火の手が至る所から上がる東門の様子に舌打ちをする。騎士のノーマがやられたことで士気は最低なものとなり、民兵の守備隊は混乱の一途をたどっていた。戦う者、怯える者、ただ叫ぶ者。もはや誰がまとめるというような戦況に、倒れていく民兵の姿を見てアーチャーは呟いた。

 

「これでは陥落も時間の問題―――」

 

…いや、もう既に落ちていたか。

彼の見る先には既に開かれた門と、そこから押し寄せてくる残党軍の姿があり、一方的な蹂躙が既に東門の大半で行われていた。

元正規兵ということで向かってくる民兵を軽々と倒しているというのが至る所で行われている。こうも簡単に死んでいくその有様に、彼の表情は曇るだけだ。

 

「避難民は彼に任せるとして、さて…」

 

顔を上げて城壁を見ると、そこには指揮官らしき男が一人立っている。あれが残党を指揮する者か、と見たアーチャーは黒い弓を投影。更に剣の様に鋭い矢を数本、周りの地面に突き刺した。これで射るまでの間に余計な動作をせずに済む。

 

「頭を落とせば総崩れはする…」

 

黒い弓を構え、矢を持つ。弦を絞ったアーチャーは狙いを城壁の上の指揮官に絞って狙撃しようとするが

 

「…あれは」

 

良く見れば指揮官の隣には人ではないファンタジーによく居そうなハーピィらしき少女が居た。それだけであれば別に気にしないのだが、問題はその少女が行っている行動にあった。

どうやら彼女が残党軍をより有利にする戦況を作り出したようで、手を前に出して何かを唱えている姿は魔術師などが良くする詠唱のそれだった。

 

「なるほど。あの娘が風の魔術…魔法を使って守備隊の矢を跳ね返していたのか」

 

だが、それがどうだというのだ。

アーチャーの矢が外れることでもないし、風に呑まれてあらぬ方へ行くわけでもない。英霊である彼の矢はタダの弓兵のものとは違うのだ。

弦を絞り直したアーチャーはどちらに狙いを定めるかと矢を向ける。

 

「この場合なら頭領を倒すか、あの娘かだが…」

 

今は頭を潰すのが先だ。

アーチャーはその狙いを少女ではなく指揮官に向け、魔力を込めた矢を放った。

 

「ひひひっ…」

 

「なっ!?」

 

だが、魔力を帯びた矢は指揮官の心臓に当たることはなかった。直線コース、直撃は確実だった。しかし指揮官の前に思わぬ妨害が割って入って来た。

錯乱した敵兵士が指揮官の目の前に立ち、彼の心臓に矢が刺さったのだ。

この予想外の出来事にワンショットキルが出来なかったアーチャーは心臓を討たれて城壁から落ちていく兵士の姿に冷や汗を流す。

肉壁一人が出てきてしまったせいで指揮官を討てなかったのだ。

 

「ッ……うっ……」

 

「―――先端は掠ったか」

 

どうやら矢が貫通して心臓の辺りの肌に触れたようで、指揮官は心臓のあたりに手で鷲掴みにして痛みを抑えていた。

一撃での撃破はできなかったが、当たりはした。だがそれは彼にとっても望んだ結果ではない。

先制の狙撃でもし失敗すれば、相手に位置を教えてしまうことになる。ここに来て自分の運の悪さに邪魔されたことに今は目を向けてくる残党兵の姿を視界にとらえて狙撃することにした。

 

「あッ、あそこだ!!」

 

「頭領を討った弓へ―――」

 

一人。彼に指をさしていた兵士の眉間を撃ち抜き、画鋲で壁に飾るように民家の壁に突き刺す。

壁に刺された味方の姿に、思わず残党兵たちは今まで上げなかった悲鳴のような声を出す。

 

「こうなれば時間稼ぎするしかないか」

 

指揮官を討つ機会を待ちつつ、残党兵を狙撃していくアーチャー。

気が付けば彼の側面からは朝日が昇り始めており、照り付ける日光が彼の姿をさらしていた。

赤い外套を纏った黒い弓を持つ、浅黒い肌の男。その鋭い目は、次の獲物をしっかりと捉え、弦を引き離した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日が昇って来ましたね…」

 

「そろそろ四時だ。日付回ったな」

 

その頃、車で東門に直行する伊丹たちは立ち並ぶ家々の上から差し込んでくる朝日と青空に夜明けの時間であることに気付く。

襲撃してきたのが夜中三時過ぎなので、既に一時間は経過している。

 

「あの先行した弓兵から、何か報告は?」

 

「一応、頭領らしき人物が居て狙撃しようとしたらしいですけど失敗。戦況は最悪らしいです」

 

「でしょうね。ここまでも悲鳴が聞こえてきますし…」

 

ミラーなどで外の様子を見る富田は、時折自分たちが向かう方から逃げてくる民間人の姿に事故を起こさないかと慎重になる。

彼らの時代には馬車しかなく、しかもその馬車も今は使えない。しかも逃げるのに精一杯の彼らにとってもはや交通ルールなど守っている暇もない。

 

「どうやら、向こうの戦況は思ったより悪いらしいな」

 

「逃げてくる人の中にも民兵らしき姿がちらほら居ますからね…」

 

「指揮官の討ち死にで総崩れしている…ですか?」

 

「そして各個小隊レベルに分かれて戦闘、その小隊も壊滅すると逃げてくる…大筋こんなものだろ」

 

メットの上を弄りながら富田とマシュの言葉に返す伊丹。何をしているのかと思っていたが、どうやらメットに着けていた暗視装置を外していたらしい。

 

「栗林、今の内に暗視装置外しとけ」

 

「え…なんでですか?」

 

「なんでって…お前、直ぐに壊すだろ」

 

富田からの容赦ない一言にカチンと来たのか、栗林は大声でそんな事はないと否定するが、前の二人がそれ以上追い打ちをかけず、栗林も言い訳しないところを見ると事実のようだと同乗していた蒼夜たちも苦笑いをする。

 

「それにしても、車の速度に付いて来る奴らが多いね…」

 

呟く伊丹の後ろ隣りには愛馬に跨り走るライダーの姿。そしてそのうえの民家の屋根の上ではランサーがロゥリィの後を追っている。

そして、ついさっきアサシンも戻って来て、現在彼らの右隣を同じ速度で走っている。

 

 

「―――ついて来られよ」

 

そういってアサシンは唐突に彼らの隣に現れて道案内をした。

それには伊丹たち三人も驚いていたが、既に慣れていたマシュも若干びくついていた。

 

「…ランサー。ロゥリィは?」

 

『真っ直ぐ東に向かってるぜ。一応、坊主たちと足合わせてるが、どうする。あの嬢ちゃん、抜いていくか?』

 

「そのまま後を追ってくれ。そろそろ前線だろうから……!」

 

『あいよ……!』

 

 

 

 

火の手は消えていた。だが、今度は変わりに黒い黒煙が辺りで立ち上り、鼻を曲げるようなにおいを出していた。死臭、異臭、硝煙、焼け焦げた跡。様々なものが入り交じったニオイはまだ前線にたどり着いていない蒼夜の鼻にも届いており、思わず腕で鼻を塞ぐほどだ。

 

「ッ……オルレアンとかで慣れてるけど……」

 

「酷いにおいですね…ここからでも届くなんて…」

 

「ニオイに充てられて興奮するな。俺たちの任務は避難民の安全確保が優先だ」

 

「了解です」

 

「分かってます…うっ」

 

流石の栗林にもニオイがきつかったようで、袖口で鼻を塞ぐ。その前の助手席では伊丹も鼻を塞いではないが、苦い顔をしており、慣れたくはないなと内心でぼやく。

その為に、早く戦闘を終わらせるためにはと助手席の窓から半身を出すと、左手に持っていた信号弾を天高くに打ち上げた。

 

「信号弾…ですか?」

 

「そっ。一応、そろそろだと思ってね」

 

「そろそろ…?」

 

 

 

 

 

 

「―――――――戦女神の到着…がね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃。伊丹と蒼夜たちが動き出したころ、屋敷で指揮をとっていたピニャは茫然と立ち尽くしていた。

目の前に広がる死屍累々の地獄絵図。それは殆どが自軍の死体で築き上げられたもので、そこら中から悲鳴と断末魔、泣き叫ぶ声や怯える声が聞こえていた。だが、その中でやはり今も聞こえるのが

 

 

―――――緑の服の人はこないのか

 

 

という彼女らではない、彼ら自衛隊へのすがるような声だった。

 

 

「殿下……このままでは……!」

 

「………。」

 

西の守備隊は既に東門に到着した。だが、その守備隊も、今はあそこで大半が骸になっているだろう。増援を東門に当てたとしても、結果は変わらない。死体が増えるだけだった。

何をしても。どう手を打っても。その結果だけは変わらなかった。

優位にならなかった。

勝機が見えなかった。

 

 

いや、勝機は、最初からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――は………はははははは………」

 

 

「…ぴ、ピニャ様……」

 

茫然としていたピニャの口から、小さな笑い声が漏れる。口元はつり上がり、次第に声は大きくなり笑い声は響きだした。

大粒の涙と共に流れていく笑い声。それは従者二人から見ても異常としかいえない様子で、錯乱しはじめたピニャの肩を揺さぶってグレイが叫んだ。

 

「ッ……お気を確かにッ!!」

 

錯乱しはじめたピニャに声をかけて正気を取り戻させようとするグレイ。その隣では主の異常さに言葉もでないハミルトンが、恐ろしい光景を見ているように怯えていた。

 

「ぴ、ピニャ様……」

 

 

 

 

 

 

「チッ……!!」

 

それに勘付いたのか、舌打ちをするアーチャーは門をくぐって現れる()を次々と撃ち抜いていく。正確や攻撃はいずれも一撃で倒せているが、敵の数が多く、とてもではないが彼だけで対処できる状態ではなかった。

 

「……偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)では範囲がデカい…下手をすれば東門が消滅するか」

 

彼一人で戦線が持つはずもない。今は援軍として来る蒼夜たちを待ち、狙撃をするだけだと思っていたが、戦況はそう待ってもくれず劣勢へのスピードは今まで以上に加速した。

 

「何っ…?!」

 

第二次防衛線。といっても単に広い場所に柵を埋めただけの簡易陣地であり、そこから町の方には残された守備隊が、反対側には侵攻軍である残党の姿があるが、柵の前に立つのは一人の大男。彼一人に前線が崩されたのかと思っていたが、原因は大男だけではなかった。

周辺の守備隊は既に全滅しており、残ったのは僅かに柵の外側に居る民兵と内側の兵力だけだ。

つまり。残存する守備隊を倒すことなど、彼一人で十分という残党軍の余裕と慢心、油断と挑発のあらわれだ。

 

「仕方あるまい……!」

 

黒弓を大男に向けたアーチャーは弦から矢を放とうとする。後ろからはそろそろ自分たちも我慢できないと残党軍の兵士たちも戦いに加わろうとしており、前線守備は不可能だと思われた。

 

 

 

 

ロゥリィが屋根から飛び降りてくるその瞬間までは。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

 

 

黒い服に、黒い長髪。紫のハルバードを構え、死神の少女が天から舞い降りた。

死神と言われた亜神、ロゥリィの登場。それは民兵たちだけでなく、残党軍の兵士たちにも少なからず衝撃を与える。

なにせ、自分たちは彼女が仕える神であるエムロイへの賛歌であると散々言っていたのだ。

神のみ心のままに。これが神に対して自分たちが行う礼儀だ。

神、エムロイはこの行為に喜んでいるだろうと。

 

なのに。神は、どうして我らの邪魔をするのか。

それは簡単なこと。シンプルな理由だ。

エムロイの採決は下された。

幸運か不幸か。彼らは彼女と共に戦場に立つことができたのだ。

ただし。彼らの味方にはならず、滅せられる者として。

 

 

 

 

 

「一番乗りはあの娘か………ん?」

 

先に現れたロゥリィを見て援護するかと弓を構えるアーチャー。死神と言われ戦闘力が強くても多勢に無勢であることに変わりはない。次は誰を射るかと弓を構えた刹那、彼の耳にどこからか音楽(・・)が響いて来るのが聞こえてくる。

 

「……音楽?」

 

一体どこの馬鹿が鳴らしているのかと辺りを見回すアーチャー。民兵や残党兵たちにもようやく聞こえ始めて来たようで、全員どこから聞こえているのかと空を見上げる。

戦闘の手はその時からピタリと止み、全員が空を見上げて音楽のなる方を探す。どこから聞こえてくるのかと辺りを見回し、棒立ちになる中で

 

 

 

「………これは……!」

 

一発のミサイルが、城壁に着弾する。

 

 

 

 

「なっ――――」

 

刹那。アーチャーが東門へと目を向けると、そこには何十機と隊列を組んだヘリ群が城壁の上から姿を現しており、鉄の砲火を残党兵へと向けていた。

そこからは先ほどの音楽が大音量で流れ、その中で楽器を演奏するように、ミサイルと機銃の嵐を吹かせていたその光景は、どこか現実ではない映画のようなものだと錯覚を感じてしまう。

 

「自衛隊のヘリ部隊か……!」

 

神の採決は下された。

それは皮肉にも神からではなく、死神と女神からの宣告だった。

現れた女神からは冷たい鉄の砲火を。

舞い降りた死神からは凍てつく笑みの殺戮を。

己が理想を失った戦士たちへ、神と死神と女神は罰を下す。

無為な殺戮は神への怒りに触れた。

 

 

 

 

「―――――――?」

 

気付けば、大男と民兵の間に居たロゥリィの姿は無く、大男は一体どこに行ったのかと辺りを見回す。あれだけ巨大なハルバードを持っているのでそう見つけることに苦労はしない筈だが、右に左にと顔を動かしてもロゥリィどころか彼女の武器さえも見つからない。

もしかして上に行ったのかと思って見上げても上には通り過ぎるヘリだけ。

では一体どこに? 疑問に思ったその時、彼のももを誰かが指で突いた。

 

「―――――――――。」

 

「………。」

 

すると。そこには黒いゴスロリ服を着た少女が、巨大なハルバードを()に持って立っていた。視界からしてそう簡単に見つけられないほど近くにいたので、ああ、なんだそこに居たのかと、大男は柄にもなくホッと胸を撫で下ろした。

 

 

 

 

 

 

なら気は済んだ。と問うように、少女(ロゥリィ)は笑う。

ああ。気は済んだ。と返す大男。だが、そこである事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

―――アレ。自分が敵だと思ってた神官はどこだっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那。その神官から渾身の一撃を食らい、大男の頭部の骨は損壊。まるでボールのように投げ上げられて、テニスのように地面へと打ち込まれた。

地面へと叩きつけられた大男はその後、僅かに動くと静かに動きを止めて絶命した。

 

 

 

「始まったか…!!」

 

「今のは、自衛隊のヘリ!?」

 

やっとの思いで現地に到着した伊丹たち。するとそこには先ほどの悲鳴や狂い声は全て消え去り、一曲の音楽と銃撃音、そしてヘリのローターで占められていた。

そしてその地を制するのは残党でも守備隊でもない、自衛隊のヘリ部隊で、彼らは制空権を抑えて一方的ともいえる攻撃を開始していた。

車から降りた蒼夜たちは、外で鳴り響く音が近代的になったのに驚き、マシュは飛び去って行く三機編隊のヘリに目を見開いた。

 

「伊丹さん、これって!?」

 

「いやぁ…イタリカ守らないとってワケで、檜垣さんたちに航空支援要請したんだけど……まさかここまで手が込んでてオーバーキルだとはね……」

 

どうやら伊丹でもここまでの支援が来るとは思ってなかったようで、苦笑いをしながら言い訳のように頬をひきつっていた。支援といっても精々戦闘ヘリ一機か二機と人員輸送なども行えるヘリが数機、小隊を組んでと思っていたらしいが、実際はそれを超した規模の部隊が現れ、残党軍を蹂躙していた。

それにはまさかここまでと伊丹は言い訳も何もできなかった。

 

「ところで旦那様(マスター)この流れてる音楽は…?」

 

「えっと……確か「ワルキューレ騎行」…だっけ?」

 

「ワルキューレ……そしてこの状況……あー……健軍一佐だ。多分」

 

今回の作戦の指揮官が誰か思いついた伊丹は頭を抱える。どうやら見知った人だったらしく、「あの人は…」とぼやく声が蒼夜たちにも聞こえていた。

 

「け、健軍一佐って…あの…」

 

「そ。第四戦闘団の。あの人、かなりの「地獄の黙示録」好きでさ。部下にも何人か布教してたって話」

 

「伊丹さん、それ布教というより洗脳なんでは…」

 

 

「ふむ。最近の軍隊は音楽鳴らすのか?」

 

「全力で否定しよう。鳴らさないから」

 

突っ込みが追いつかないカルデアメンバーはとにかく今はと、前線である東門に振り向くが、咄嗟にライダーがあることに気付き、伊丹たちに訊ねた。

 

「―――――ところで、伊丹」

 

「え、俺っすか?」

 

「ああ。お前の部下の女。居ないぞ」

 

「え゛っ」

 

「ああ。あの姉ちゃんなら、今その階段駆け下りてったぞ」

 

いつの間にか居た、ランサーが指さした方向。そこは前線である東門で、よく見れば今現在、着剣した銃をもって駆け下りている栗林の姿があった。

何時の間にやら降りていたことに数秒茫然としていた伊丹は、真っ白になった頭が再起動した瞬間、冷や汗を大量に滲ませて驚いた。

 

「なにっ?!」

 

「あの馬鹿ッ…!」

 

最早戦闘のことにしか考えが向いていない栗林に、伊丹は直ぐに援護に向かうと階段を駆け下りていく。あのまま行けば、彼女が前線で武器を壊しながら暴れるのは二人とも目に見えて分かっていたことで、急いで後を追う。

 

「マスター、私たちも」

 

「よし。ランサー、ライダー、先鋒任せたッ!」

 

「おうよっ!!」

 

「一番槍は獲られたが……我が疾走が止まるわけではない……!」

 

剣を構えるライダー。槍を持つランサー。不敵な笑みで扇子を広げる清姫。そして盾を持ったマシュはマスターである蒼夜の隣に立つ。

 

「―――――――行くぞッ!!」

 

 

そして、蒼夜たちも伊丹たちに追いつき、更には追い越すように戦場へと飛び込んで行った。

 

 

「おっ…?」

 

「なんだ、アイツら…?」

 

前線から漏れ出て町へと入ろうとしていた残党兵。彼らは不幸にも最初の餌食になってしまう。突如として現れた彼らがまさか敵であると知らず、茫然と立ち尽くしていたせいで、折角銃の砲火から逃れられた彼らも命を散らすことになった。

 

「でえぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

戦いに高揚する笑みを浮かべたランサー。その足は止まらず、真っ直ぐに階段下へと駆け下りる。そして、目の前に居た雑兵を、朱い呪いの槍で突きさした。

 

「おらよっ!!」

 

槍に刺された兵士たちはそのまま何処かへと吹き飛ばされていく。まるで人であったのにいつの間にか物にでもなってしまったかのように簡単に吹き飛ばされた光景は、残党の兵士だけでなく民兵たちにも目に写り、言葉を失わせた。

突如として現れた青い槍兵がいとも簡単に兵士二人を吹き飛ばしたのだ。

武器が大型であったり吹き飛ばしたのが普通の人間であればいざ知らず、ランサーは二人の元正規兵を軽々とその槍一本で飛ばしてしまった。そして、その瞬間、残党たちの間でもアレがただの槍兵ではないと認識されるのは時間の問題だった。

 

「さて。次はどいつだ?」

 

 

 

そして。そのランサーの上を愛馬と共に駆け、飛び出す男。手には一本の剣を持ち、愛馬と共に戦場を駆けるのは久方ぶりだと言う。

だがその衰えは見えることなく、ライダーは喉の奥、腹から盛大な掛け声と共に敵の密集する場所へと突撃していく。

 

 

「AAAAAALaLaLaLaLaLaLaLaie!!!」

 

 

聞いたことのない掛け声とともに降りてくるライダーの姿に、残党兵たちの視線は一気に釘づけとなり、動くこともなくいい的になってしまった。

当然、ライダーがそれを見逃すワケもなく、容赦のない剣の一撃が振り下ろされ、一人、首を根元から切り裂かれた。

そのまま止まることはなく、ライダーは剣を振るい、次々と敵を討ち取っていく。

 

「さぁ、余と戦いたい勇者はおらんのかぁ!!!」

 

「なんだコイツッ!?」

 

「き、騎馬隊長がやられたぞ?!」

 

 

二人の英霊たちも参加し、東門内部はいよいよ逆転と混乱を極める。民兵たちに変わり、ロゥリィ、栗林、ランサー、ライダーとたった四人で優勢だったハズの残党兵が次々と倒されていき、前線が押し返されていた。

死神は巨大なハルバードを振るい笑い。緑の人と呼ばれた者はその時代にはない鉄の武器で鉛玉を打ち込んでいく。神話の英雄は朱い槍で死の呪いを与え。最果ての海を目指した征服王は愛馬と共に駆け巡る。

時代が混ざり合った世界。それがごく小さな規模で実現してしまったのだ。

 

 

 

「あーあ…」

 

「ランサーさんたち、もう暴れてますね…」

 

「あの中で平然と暴れてる栗林さんもどうかと思うけど…」

 

「過去の戦闘狂でも憑依しているのでしょうか?」

 

そんなボケをかましている少女二人を後ろにつかせた蒼夜は、四人による逆転劇が行われている前線に到着。視界に入ったアーチャーから彼に対し魔力を使った念話通信が入った。

 

『無事に到着したようだな、蒼夜』

 

「アーチャー、今どこ?」

 

『君の右後ろだ。それより、私たちはどうする?』

 

目の前で暴れている四人が居るので、援護に関しては差ほど問題ではない。

ただ、やはり未だ敵の数は多く、銃撃の砲火から逃げようと門の中に逃げ込んでいる者も居るので民間人に被害は出したくないと考えの変わらない蒼夜は、近くに突き刺さっていた剣を抜くと、その刀身に魔力を流し強度を補強・強化する。アーチャーの魔術を真似て習得した強化魔術だ。

 

「勿論っ、残った避難民の避難と敵の撃退だ…!」

 

『…だろうと思ったよ。背中とサイドは任せろ。君はやると決めたことをやればいい』

 

「そうさせてもらうよ。マシュ、清姫ッ!」

 

 

「了解ッ。避難民の救出援護を開始します!」

 

「分かりました。貴方様のご命令であるのなら……」

 

武装を纏い、武器である盾を手にするマシュ。その隣では清姫が自身の持つ扇子を広げ、辺りに炎を出現させる。曰く、これは彼女の執念によって成せる技らしく、それが結果として炎になったらしい。

既にほかのサーヴァントたちは前線に出て戦い、アーチャーは後方支援。キャスターとリリィは南門に置いてきた。

なので残ったのはマシュと清姫といういつも(・・・)と変わりないメンバーの陣形と動きだ。

 

「武装完了……行きます、先輩ッ!」

 

 

 

「ったく…もうドンパチ始まってるのかよ!!」

 

「ですが、お陰で城門の中の敵も粗方片が付き始めてますね」

 

遅れて到着した伊丹たちは城門の内外で暴れる英霊と自衛隊の光景に、彼らの喧嘩っ早さと容赦のなさに内心呆れる。自分の居る職場ながら、まさかここまで過激だとは思っても無かったので、支援をしたことに若干後悔していた。

 

「……仕方ない。富田、必要ないと思うけど、背後を守るぞ」

 

「了解です。が、こうも暴れてると誤射してしまいそうで怖いですね…」

 

眼の前で起こっている光景に思わず銃爪から指を離しそうになる富田。なにせ、門の周辺では戦闘狂ともいえる四人が暴れに暴れて敵を次々と文字通りなぎ倒していたのだ。しかもその中でひときわ異常ともいえるのがロゥリィで、この上ないほどの笑い声と共に何人もの残党兵たちを相手に無傷で、かつ踊るように倒している。止まらない笑い声と、まるでダンスをするように踊る姿はダンサーにも思えるが、あまりに場違いな舞台と演出、そして演技のせいで、辛うじてその幻覚は見えないでいた。

 

 

「おーおー流石にやるねぇ」

 

その様子にランサーは余裕そうに見ており、負けてられないかと内心で競争心を燃やし敵をなぎ倒していく。

自慢の槍だけでなく、足技も使い柔軟な動きで倒す。更に、同じ得物ならと槍兵の小隊が襲い掛かるが、真面目に相手などする気はなく、一斉の突きを軽くジャンプして回避。槍の束の上に乗ると槍兵たちの首を根こそぎ切り取った。

 

「こりゃ大分とられるな。大将首は諦める…か?」

 

体の主をなくし倒れる兵士を蹴り飛ばすと、ランサーはふと第二防衛陣の柵の辺りに目を向けた。伊丹や蒼夜たちが避難民の避難をしていたのだが、彼が目を向けたのはそこから更に前線に近い辺り。そこで一人、現代兵器を使っていた栗林だ。どうやら持っていた小銃は剣を防いだ時に折れてしまい、銃剣も見事に真っ二つ。残った9mmと手榴弾。ナイフで応戦していたらしいが、そろそろ弾切れになってきたのか限界が見えてきていた。

伊丹たちもそれは分かっていた様子で、可能な限り彼女に近づく敵を撃ってもいた。だが、やはり敵の数が予想より多く残っていたり入ってきていたので、完全にシャットアウトはできなかった。

 

 

「こなくそっ!!」

 

「あの馬鹿…あれじゃあ9mmもおじゃんですよ」

 

「ああ。このままじゃ…」

 

 

「………。」

 

後ろから突き刺そうとしていた兵士を槍で薙ぎ払うと、ランサーは高所から援護しているアーチャーに声をかける。

 

(おい、アーチャー)

 

(なんだ…?)

 

 

 

 

 

 

元々、自衛隊は戦闘を想定した組織ではない。あくまで自衛。守りのための組織だ。

そのため武器や装備も整ってはいるが、最小限と言っても過言ではない。

 

「これでラストッ……!」

 

9mmの空マガジンを排出し、最後のマガジンをセット。スライドを引き、瞬時に迫っていた兵士の眉間を撃ち抜いた栗林は、肩で息をしながら襲い掛かる敵を倒していく。

しかし小銃が使えなくなり、9mmもラスト一つだけになってしまい、あとは自分の身一つとなった彼女は、誰も気づいていないが劣勢に追い込まれていた。

残党兵たちは弾が有限であることに気付いておらず、マガジンは入れ替える必要はあると分かっていたがそれだけだ。栗林がもう弾がないと思っていても、彼らは隙を見つけるために肉薄し続ける。

それをナイフと9mmで応戦していくが、それもあとどのくらい持つだろうか。

 

 

「あーもー……!」

 

苛立ったまま銃爪を引き続けると、少しずつだが銃が軽くなっていくのを感じられる。撃てば撃つほど弾が消えていき、残りどれだけで自分が危機に追い込まれるか伝わってくる重さと肌で感じ取る。

もしこのまま弾を全て使い切ればどうなるか。あとは身一つになるのは確実だ。そうなった場合は伊丹か富田に予備マガジンを貰えばいいのだが、相手をするので精一杯な彼女の状態では仮にできたとしても拾えるか怪しく、更に今はそこまで考えられるほど頭が回っていなかった。

 

「ッ…まずいな。栗林のヤツ、戦意高揚し始めてるぞ」

 

「元々、特地で銃撃ちたいってひっきりなしに言ってましたからね。あの分だと、そろそろ9mmも怪しいですよ」

 

「ああ。多分、栗林が小銃壊してからずっとなら…」

 

 

 

起こる筈のないアクシデントが起こる。伊丹がそう言った刹那、それが現実となった。

ガキン、と鉄が強く当てられた音が響き、同時に擦れた音が混ざっている。剣と剣のつばぜり合いなどの音ではない。小さな一か所からの強い音。それは伊丹が予想していた彼女ならあり得るアクシデントだった。

 

「えっ嘘ッ!?」

 

 

「ジャムりやがった!!」

 

「やっぱりか!」

 

リボルバーとオートマチックで、現代で多様されているのは後者、オートマチックだ。

弾数と携行性、連射性などでリボルバーを大きく上回るが、同時にリボルバーにはない二つの欠点を持ち合わせていた。

一つは整備性。これはリボルバーより複雑な構造なためだ。

そしてもう一つ。オートマチックは一発撃つごとに排莢が行われる。そこでもし連射が続けば、偶に排莢される薬莢により詰まることがある。

これが所謂ジャム。弾詰まりだ。

 

 

「こんな時に…!」

 

「ヤバい、アイツもうナイフしかないですよ!」

 

「くそっ…下がれ、栗林ッ!!」

 

もう9mmは使いものにならない。伊丹は変わりに自分の9mmを使わせようと一瞬の内に用意するが、当人は聞こえていないのか弾詰まりした9mmから無理にでも薬莢を取り出そうと必死だ。

どうやら伊丹が懸念していたことが現実になり、直面してしまったようだ。

栗林のことだから銃を壊す。戦闘に夢中になる。

そして、実戦経験のない彼女のことだから頭が戦い以外真っ白になる。

今は援護しているが、それももうもたない。伊丹たちの弾幕を潜り抜け、残党兵が突っ立っている栗林へと剣を向けた。

 

 

「マズッ……!」

 

直ぐに援護しようとする伊丹だが、ここに来て小銃の弾が切れてしまう。隣に居た富田は少し遅れて弾切れになり、二人そろって肝心な時に弾を切らしてしまった。

タクティカルロードであれば問題なかっただろうが、栗林のことに意識を向け過ぎていた二人はそれをする暇もなかった。

 

 

「うわあああああああああああああああああ!!」

 

「―――――――――!」

 

やっと届いた。残党兵が奇声をあげて剣を振り上げる。目指すは散々自分の仲間たちを倒してきた緑の女兵士。武器に夢中で立ち止まっている今なら、恐らく攻撃は届かない。

遅れて彼女も奇声に気付き顔を向けると、もうすぐそこまで近づいていた兵士にようやく気付き、応戦しようとするが、肝心の銃が使えなくなり最後の武器がなくなったと頭が白く塗りつぶされてしまう。

左手にはナイフがあるというのに気づかず、銃だけに意識していたせいで応戦出来ることを忘れてしまっていた。

近づく残党兵に、戦えないと思った彼女は、ついに足を止めてしまう。

 

もう遅い。このまま俺の勝ちだ。

あとは振り上げた剣を下ろすだけと勝機を確信した残党兵。頭から振り下ろして真っ二つにしてやると、残る全ての力と意識を集中させて振り下ろす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――が。

 

 

 

 

「ッ………!」

 

 

 

一瞬。誰かが叫んだ。

もうだめだと思った時だった。

死を覚悟した。

ああ、何やってるんだろと。僅かに後悔した。

 

 

けど。それは無意味だった。なぜなら、彼女は生きているのだから。

 

 

 

 

 

 

「――――え?」

 

 

眼の前では迫っていた残党兵は、青い槍兵により得物の朱い槍に頭から突き刺されていた。

その穿ちに迷いはなく、頭から串刺しにされた男の意識は、そこで途切れた。

 

 

「―――――――邪魔だぁぁぁぁ!!!」

 

ランサーは叫ぶと、串刺しにされた兵士諸共、他の兵士たちを薙ぎ払う。

死体を飛ばされた兵士たちは上手く受け止められずに倒れてしまい、一瞬だが彼女の間に安全圏が作られた。

 

どうして助けてくれたのか。不思議に思う栗林は槍を回して、振り返ったランサーの顔を見ていた。助けた本人は、なんだかあきれ返った顔をしており、への字に曲げた口のまま槍を持っていない左手を振り上げ、コツンとヘルメットを叩いた。

 

「ッ……」

 

「はしゃぎ過ぎだっつーの。もうちっと周りを見とけ。それと、常に戦うことだけを考えんな」

 

「えっ……」

 

「一瞬でもいいから周り見ることも頭に入れとけ。そうすりゃ、アンタは一人前だ」

 

これが大英雄からの激励であることに、この時気付けなかった彼女だったが、それでも彼の言葉を聞いて、白く染まっていた頭の中で少しずつだが色が取り戻されていた。

戦闘で次の相手と考えていたせいで回り切ってなかった頭が、少しクールダウンされた瞬間だった。

 

「筋は悪くはねぇぜ。ただ脆いとはいえ武器折るのはどうかと思うけどよ」

 

「ッ……それは武器が脆いだけで……」

 

「脆いなら脆いなりに戦い方考えろっつーの。ま、流石にこの脆さは俺も脱帽だわ」

 

 

なんで。と言ってランサーは、後ろに突き刺さった武器をまるで知っていたかのように抜く。それは本来、アーチャーが使う武器で、彼がこの事を見越して用意させた短剣だ。

銘を「莫耶」。中国の伝説の夫婦剣で、干将と共に語られる名剣だ。

 

「おお………お?」

 

「それ使っとけ。アーチャーの野郎が使ってたのを俺がパチって来た」

 

(パチリ物と言うより、コピーしただけの剣なのだがな…)

 

 

贋作とはいえ、伝説として語られる剣を受け取った栗林は、その剣を見ていると再び口元を釣り上げて不適な笑みにした。

もう大丈夫。すっかりとクールダウンが出来たとばかりに剣を握ると、ランサーも安心し、互いに後ろに居た兵士を突き刺した。

 

 

「うわぁ…」

 

「あの人たち。火に油を…」

 

「というかエンジンに加速装置つけさせたっていうか…」

 

再び戦意を高揚させ、残党兵に向かう彼女の姿は、もう現代の自衛隊員とは思えないものだった。

が、彼女が無事であるこということには変わりなく、まぁいいかとその場の考えで何も言わなかった伊丹は、もう終わりに差し掛かっていた戦闘の中に舞い戻ろうとするランサーに目を向けた。ランサーもそれに気づいていたらしく、小さく笑っていた。

 

「……ま。いいか」

 

「隊長…?」

 

「富田。栗林の援護を続ける。それと、蒼夜君たちがやってるけど敵に柵を越えさせるなよ」

 

「……了解ッ」

 

 

 

朝日が昇った時。戦況は完全にひっくり返っていた。

突如現れた自衛隊ヘリ部隊と、第三偵察隊とカルデアの英霊たち。そして、更に死神ロゥリィという最悪の組み合わせによって、数で勝っていたはずの残党軍は秒読みのように数を減らしていく。城壁の外に居た兵士たちは粗方壊滅し、城門を突破した兵士たちも第三偵察隊を主軸に次々と倒れて行った。

勝てるはずだった戦いがこうも簡単に覆されたことに、残党軍の誰もが信じられなかった。

 

 

 

「ば……馬鹿な……」

 

 

全てが裏目、そして予想外の連続だった。帝国の軍勢を敗退させ、炎龍を撃退した緑の人こと自衛隊。謎の勢力カルデアとその英霊たち。

未知の勢力がこれでもかというほど居るというのに、そこに更に彼らの期待を大きく裏切った出来事がある。

エムロイの神官であるロゥリィが自分たちでなく相手の側についたことだ。ある程度予想はしていたが、それがまさかアッサリと起こってしまうと、もはや言葉すらも出ない。

さっきまでエムロイ云々を言っていたにも関わらず、当の使徒が敵になったのだ。戦の神でその強さは大陸全てに及んでいるので当然実力は理解済み。

そこにダメ押しで未知の勢力である自衛隊とカルデアが入った結果。

今まで散々やりたい放題、エムロイの名を借りて略奪や死に場所を求めていたというのに、結果がコレだ。

城外の戦力はほぼ全滅。門を越えた兵士たちもほどなく全滅するだろう。

 

 

 

「こ、こんなことが……」

 

こんな結末を私は望んでいない、と言おうとした刹那。迫りくる音に気付き、後ろを振り向くとミサイルが一発、指揮官のもとに向かって迫っていた。

中には大量の火薬が詰められていると先ほどから嫌というほど知っていた彼は、直ぐに逃げようとするが、弾速が早く逃げる前にミサイルは城壁へと当たった。

 

「うっ……うあああああああああああああ?!!?!?!」

 

直撃は避けられたが、爆風によって吹き飛ばされた指揮官はそのまま下の戦場へと落ちていく。下では既に大半の残党兵が絶命しており、無残に辺りに散らばって倒れている。その光景を目の当たりにした指揮官は酷く絶望した顔になるが、その所為で自分もその一人になるという実感が湧くまで、気づくことはなかった。

下ではロゥリィがハルバードを構え、次の獲物を探していたが、彼女が望んでいない獲物が代わりにハルバードに突き刺さった。

 

 

「………?」

 

一体何か、と思い上を見上げると、そこには顔の知らない指揮官の男が彼女のハルバードの先端の槍に刺さっていた。何時の間にそんなところに居たの、と目を丸くしていたが、まだ息があったようで男は斧の刃の反対側にある剣の部分に手で握り、かすれ気味の声を血と共に吐いた。

 

「あ………ああ………」

 

「………。」

 

「み……認める……か……認め、るか……こん、な……たた…か、い……」

 

「――――――。」

 

「そ、う……ろ………エ…ムロ、イ…の……神……官」

 

 

 

 

 

 

 

 

だが。これはお前たちが始めた戦いだ。であれば死の覚悟はできている筈だ。

まるでそう答えたかのように、ロゥリィは刺さっていた男を地面へと叩き落すと、刺さっていたハルバードで、そのまま肉を抉り切り裂いた。

 

 

「し、首領が……!」

 

「エムロイの神官にやられたぞ…!」

 

 

 

「あーあ。大将とられちまった」

 

指揮官である男が絶命したと同時に、今まで残っていた彼らの戦意が一気に地へと叩き落される。それは、昨日までの民兵と同じ指揮官が殺されたことによる敗北感からで、もうその場には誰も残党軍を指揮するものはいなかった。

指揮官は目の前でやられ、副隊長的人物である騎馬隊の隊長もライダーに討ち取られた。あとに残ったのは有象無象の兵士たちだけだ。

が。如何せん、数だけは予想以上で、しかも城門の中に逃げ込んだ兵士も多く戦力としてはまだ十分だ。

 

「大将首がとられちまったな、ライダー」

 

「うむ。あとは残った連中がどうするか…だが」

 

もうヤケクソになった兵士も多く未だ戦闘は終わらない。やれやれと呆れたライダーは剣と手綱をもって応戦しようとするが

 

 

『3レコン。こちらハンター1』

 

「えっ…」

 

『これより、カウント10で門内の残党を掃討する。至急退避されたし。繰り返す―――』

 

「うそっ?!」

 

伊丹が上を見上げると、上には先ほどまで辺りを飛んでいた戦闘ヘリのコブラが上空に待機しており、残り十秒で門内部の敵を一掃すると言った。これに驚いた伊丹は目の前に居る味方全員に退避しろと叫び、自分から絶対に逃げないだろうロゥリィを抱えて逃げ始めた。

 

「全員退避ッ!! ハチの巣にされるぞッ!!」

 

「うん?」

 

「あ?」

 

「なっ…!?」

 

「まさかヘリで…!?」

 

伊丹の言葉にどういう意味か、と疑問符を浮かべるライダーとランサー。しかし蒼夜とマシュは上に居るヘリからの攻撃だと瞬時に気付き、二人に戻るように言う。

 

「………?」

 

「うえっ…隊長、今なんて…?」

 

ロゥリィはどうして逃げるのかと首をかしげており、近くでは聞こえなかったのか、栗林が伊丹のほうへと顔を振り向かせた。

 

「ライダー、ランサー、柵の向こう側まで下がってッ!!」

 

「マジかよッ!?」

 

蒼夜の指示と待機しているヘリに気付き、柄にもないマズイといった顔で退避するランサーと、ライダーは愛馬を打って反転する。

伊丹はロゥリィを回収してダッシュで柵の向こう側に逃げ、富田は聞こえなかった様子の栗林を無理やり俵のように抱えて退避する。途中、彼女が自分から逃げられると言っていたがカウントが始まって今更降ろすことはできないので、そのまま逃げた。

 

 

『7…6…5…4…3』

 

 

一体どうしたというのだと残党兵たちが顔を見合わせたりしていたが、彼らは伊丹が何と言っていたのか、これからどうなるかも気付けず、その場で宙を舞うヘリに呆気に取られていた。

 

『2…1……』

 

 

 

 

次の瞬間、カウントゼロと同時にコブラの機関砲が火を吹き、フラッシュと共に弾丸の嵐を巻き起こした。鉄の嵐から逃げることも守ることも出来ず、門内に居た残党兵たちは次々と機関砲の餌食となり、一人の残らず殲滅されていく。機関砲が止まり、砂煙がはれた頃には、そこには残党兵だった肉片だけが散らばっていた。

 

 

 

 

「……あれだけの残党が……全滅……」

 

 

鉄の天馬、そう称したピニャは覆された結果と、それを現実にした者たち。そして彼らが駆る見たことのない存在に、ただ言葉を奪われ口を開ける。敗北か撃退かを覚悟していたはずの戦いが、こうも簡単にひっくり返り、残党軍の壊滅と言う形で終わった。

それを誰が予想したかと言われれば、実際この場に居た誰も、その結果を想像はしなかった。ただ、残ったのは戦いの形がどうであれイタリカが守られたということ。

その功労者は他でもない、彼ら自衛隊だということ。

そして。彼らによって、残党軍が簡単につぶされたということだ。

 

 

「鉄の天馬……彼らは……ジエイタイとは一体…」

 

 

 

後にピニャは自身の日記でこう語る。

「帝国はその日、グリフォンの尾を踏んでしまった。私たちは、もしかしたらあの日。門を開くべきではなかったのかもしれない」と。

それが彼女が最初に思い知らされた、異世界との違いと現実だった。

 

 

 

 

 

 

「こちら用賀。敵勢力は壊滅。周辺に残敵および抵抗勢力は無し。終わり」

 

 

「…終わりましたね」

 

「ああ…ナパーム撃ち込まれるかと思った…」

 

 

「流石は自衛隊でしたね」

 

「というより、過剰というか…オーバーキルというか…」

 

「何にせよ、これで終わりだな」

 

「お疲れさまです、アーチャーさん」

 

 

 

 

 

 

 

残された避難民の避難を終えたリリィたち。しかし彼女たちは今、まさに戦いが終わった前線が見える場所に居ており、そこには彼女とキャスターだけでなく、レレイとテュカ。そして彼女たちを追って黒川も居た。

レレイが見に行きたいと言い出し、それについて行くことにしたリリィ。そしてそこからテュカ、キャスター、そして黒川という順番で付いて行き、現在に至る。

 

「終わった…?」

 

「盗賊…残党が全滅…」

 

 

「…ファック…これだから日本人は…」

 

「全滅だなんて…」

 

 

残党に勝利したという事実に驚く少女たち。だが一人、キャスターだけは反応が違い、まるで吐き捨てるようにその場を見ると、ふらりとその場から姿を消した。その光景を見て、彼が何を思っていたのかは、隣で僅かに聞こえていたリリィやアサシンも分からずにいた。

アサシンは何となく察していてあえて考えなかっただけで、リリィのように根本的に分からないというわけではなかった。

彼も、目の前に映る光景が、自分にとっても中々見てて良い物ではないと分かっていたからだ。

 

「ふむ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――なんて…無慈悲な…」

 

ふと。小さく呟いたピニャは、目の前に現れた一機のヘリを見て、その力に頼もしさを感じたが、反面恐怖が肌から伝わってきた。

全てをねじ伏せる暴力。地位も名誉も誇りも何もない、ただ力だけが支配する戦い。

これを戦いと呼べるのかと彼女は言う。

だが彼らの時代の戦う者たちは答えるだろう。

戦いに誇りも名誉もない。あるのは生か死か。勝利か、敗北か。

そして、それら全てをまとめた言葉こそ

 

勝利か。さもなくば死しかない。

 

 

「これが……彼らの戦いなのか……?」

 

「で、あれば……我らは―――」

 

 

 

 

 

 

「ああ。決して、起こしてはいけない存在(もの)たちを起こしてしまったらしい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日目の朝。イタリカ攻防戦は結果としてピニャが率いた守備隊が勝利した。

だがそれはあくまで形式的な物であり、彼女たちはその勝利は自衛隊あってのことだと信じ、揺らぐことはなかった。自衛隊の助けがあったからこそ、盗賊に成り下がった残党に勝てた。彼らのお陰で、私たちは救われたのだと。

影で努力した者たちをよそに、人々は天高くを舞う彼らを崇め、祝福し、称賛する。

 

だが。同時にこの日より、自衛隊の実力を目の当たりにしたピニャは主戦派の路線から外れ、徐々に講和への道を歩み始めたことは、まだ本人でさえも知らないことだが、歯車はゆっくりと回り、彼女の道を示していた。




後書きという名の雑談

変にアニキだけが存在感出ていたな…もう少し頑張らなくては…
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