Fate×Gate = Gate Order =   作:No.20_Blaz

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さて。チャプター2の二回目です。

感想欄で色々とご感想っていうより「あれ、これ可笑しくね?」っていう疑問が山っつーかハサンとかの如く出て来たので、今回そのことについて一斉に後書きと、活動報告では出来ればですが書こうかなって思ってます。

今回は復興するイタリカで蒼夜たちがどうするかっていうことで。今回は蒼夜たちが出番多めです。
…うん。リリィとかエミヤたちは出番ちょっと少ないよ。どうしよう。
ですが、このあと少しは彼らも出番は増えると思います……多分。


それでも。今回もお楽しみ下さい。


チャプター2-2 「二つの世界 = 復興する町で =」

 

 

 

人生最大の決断を貴方は経験したことがあるだろうか。

 

恋愛、出世、進路、活動、生活。

 

人によって様々なこと、大きさはあるが一度は人生最大の決断、と思える時はあるハズだ。そして、もし失敗すればどうなるか。その点ではある意味の共通点がある。

最悪。世界崩壊、などという大規模な結末にはならない事が多いということだ。

 

 

が。もし、それが最悪世界崩壊なんてものに直結した場合にはどうなるだろうか。

 

もしその決断を迫られた人物が居れば?

その人物の背中には大きな使命があったら?

それを自負し、考えたうえでその決断をしなければならない時は?

 

 

 

 

もし。そんな時に直面すればどうなるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうオシマイだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

…まぁ、直面した人物が居るのだが。

 

どうしてこうなってしまったのか。話は少し前にさかのぼる―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イタリカ攻防戦は実質的防衛側、ピニャの陣営が勝利した。

しかし実際のところ、最後に全てを持って行ったのは他でもない自衛隊だった。近代兵器の塊であるヘリ部隊による強襲と殲滅。もはや過剰としか言えないような攻撃に、敵味方問わず戦慄した。

しかし同時にその圧倒的武力と軍事力が示されたのもまた事実で、理由や状態がどうであれイタリカが守られた、そして守ってくれたのは自衛隊だ、ということからイタリカの民は彼等に称賛の声を上げて讃えた。

 

が。戦いが終わった後であれば色々思うところもあるのもまた事実だ。

実際、自衛隊がもっと早くに来ていればイタリカの被害は最小限にとどめられたハズ。そして彼等の力があれば、残党は殲滅できたはず。

なのに彼らは結果として遅れて来た。そしてその遅れを取り返すように敵を撲滅していった。

そんな力があるのなら、どうしてもっと早くに来なかったのか。どうして早くここに来なかったのだろうか。

不満がないと言われれば嘘になる。現に、そう思っている人物は少なからずいる筈だ。

そして。そこから遠く、更に薄い道を辿れば一つの結論にたどり着く。

自衛隊が来るそれまで。一体誰のお陰で町は守れただろうか。誰が取り仕切ってくれたから、彼等が来るまで耐えられただろうか。

 

そんなことが町の中でも聞こえはした。だが、その当人たちはそれ以上に目の前の現実と向き合わなければならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ふむ。交渉は無事に終了したか。だが…」

 

「不満はここでは言うなよ、ライダー。どうあっても奴らは自衛隊だ。民主主義の国を守る組織だ。だから、そういうのは影で叩くしかない。もしくは、そういっても良い奴の前とかでな」

 

イタリカ攻防戦の直後。様々なことがあったが、要点を纏め戦後の交渉終了までの経緯を語ると

 

 

東門の戦闘後、ヘリ部隊から歩兵が順次降下し各所を制圧。残存した残党兵は全員降伏した。また、中には医療関係に精通する人物もいたので、彼等によってけが人は治療。死体は運び出された。

自衛隊はその後、破壊された城門の外壁などの岩の撤去作業などを行い、その間ピニャたちは戦死したノーマを弔った。

死体や瓦礫の撤去。けが人の収容と治療。そして集結。斯くして事故処理は進められていき、イタリカの安全はこうして確保された。

 

さて。その間蒼夜たちこと存在感が薄かった「うるさいよ、そこ」カルデアと、第三偵察隊だが、隊長伊丹が二度目のげんこつを食らったらしく、その後は足止めされていた。また、増えたサーヴァントたちについて追及されはしたが、そこは孔明ことキャスターが上手く誤魔化した。一度集結し、さてどうするかと考えていたが、一先ずは各地への情報収集などの足掛かりとしてイタリカに残るかというのが彼等の中での専らの意見だった。

その後。イタリカのフォルマル家の屋敷にて、自衛隊の健軍一佐たちによるイタリカ及びピニャたちの間での協定が結ばれた。

何気に特地に来てからの初めての協定で、文化の違いなどに苦心していたが、いくつかの条件のもとで協定は締結。しかし捕虜に関しては人道的とこれまた中世と現代の入り交じったような協定内容となった。

 

 

 

 

「しかし。本当に民主主義なだけはあるな」

 

キャスター曰く。気持ちの切り替えがハッキリとし過ぎてるらしい。

協定の内容の一部は捕虜の扱いについては人道的に。

使節往来の無事と諸経費について。そして、アルヌスの中で作られた避難民たちによる共同組合との貿易とその特権の収得。その他多数。

これで特地での資金については解決し、捕虜については自衛隊のほうで選ぶことも出来るようになったらしい。

だが、そのキッチリさがキャスターにとっては気に入らなかったようだ。

 

 

「まぁそういうな。何時の世にもそういった輩、国王はおるものだ。余も似たようなものだっただろうに」

 

「お前の場合、征服して諸国ほっといて最果ての海目指していたから、ある意味まだマシだ。文明とかは除いてな」

 

実際にライダーが善人であったかと言われれば難しいだろう。占領した町などについてほっておいたが、それがかえって国が崩壊する原因となり、彼も自国の文化を強調するなど、典型的な王の一人だったと言える。

 

「仕方なかろう。それが王の特権ではないか」

 

「…だからってなぁ…もう少し相手への配慮とか……」

 

「………どうした、坊主?」

 

「………いや。なんでもない」

 

途中で言葉が止まってしまった孔明に対し、首をかしげるライダー。その後、彼がため息をついてそっぽを向いたので、結局はその場ではその反応について聞けずじまいになった。

 

 

 

 

 

 

その頃。マスターである蒼夜たちはある事を行っていた。

特地にある聖杯を見つけるため、情報収集と地形把握のためにその手の達人ともいえるサーヴァントを呼び寄せることにしたのだ。

召喚サークルは既にアルヌスに配置されているが、それを孔明たちの力で遠隔的に呼び出すことが可能になったのだ。ただし、霊脈が強く、魔力を大量に消費するというデメリットが存在するので多用はしないようにと念押しされて。

 

 

「…で。やはり、彼等ですね」

 

「うん。その手に関しては他のサーヴァントの中でも群を抜いてるし、彼ら…いや彼女ら以外にこの仕事をより確実なものにするってことでは適役は居ないだろうし」

 

「了解です。それでは…」

 

 

蒼夜からの了解と指示に従い、マシュは召喚サークルを起動。遠隔のサーヴァント呼び出しを行う。

聖杯戦争に参加するサーヴァントの中で、特に情報収集に特化したサーヴァントはクラスだけで言えば二つ存在する。

一つはキャスター。陣地作成によるアジトの構築により、安定したシステムを構築できるからだ。アーチャーが言うに、五度目の聖杯戦争と呼ばれる戦いに参加した神代の魔術師メディアは地方都市広域に網を張っていたという。

そしてもう一つがアサシン。気配遮断と元々のクラスの名の元であるハサンから、その手に関してはキャスター以上の働きが出来る。気配遮断と高い機動力。特に機動力は槍兵のランサー、騎兵ライダーと並びトップクラスだ。

 

キャスターのような陣地作成型はここに置くにもあくまで中継地点としてなので長居する気はない。なので結果として選ばれるのはアサシン。そしてその語源の元になった者たち、ハサン・サッバーハの一人。

 

 

「霊器……安定……サーヴァント……指定完了。召喚………実行ッ!!!」

 

 

 

 

 

かつて数代にわたって存在したとされるハサン。イタリカの戦いの中で姿を見せたハサンもその一人だ。呪腕のハサンと呼ばれる彼の他にも、そういった者たちは各代に存在した。

その中で、情報収集などに最も優れた者は、一人…いやその者しかいない。

 

 

 

 

 

「――――――ふむ。ようやく呼び出しか。待ちくたびれたぞ、マスターよ」

 

 

「―――久しいな。百の貌」

 

 

その者はあらゆる貌に成れたという。

通称、百の貌のハサン。その宝具は個にして群。群にして個。つまり個体の分裂。そして分身された意識たちによる自意識の行動だ。

 

「ふん。最初は貴様が呼ばれたと聞いて、聞き間違いかと思ったぞ。呪腕の」

 

「そういうな。これも魔術師殿の采配だ。我らはそれに従うだけ。違うか?」

 

 

「…相変わらず百の貌のハサンさんの前では格好がついてますね。呪腕のハサンさんは」

 

「だな。先輩風って奴か?」

 

いつの間にか後ろに居た呪腕のハサンが百の貌のハサンと話している間、小声で話すマシュと蒼夜。呪腕のハサンは今はそうして仕事人というような風格だが、実際はかなりフレンドリーであり、人として接するのであれば彼ほどの善人も居ないと言えるほどだ。

ちなみにアーチャーとランサーは彼の性格を知って驚いていたが、それは蒼夜たちがどうしてなのかと未だ疑問に思っているらしい。

 

「………で。改めて、我らに用があってのことだな。主よ」

 

「当然。正直、百の貌のハサン以外にこういった情報収集に関しては得意なサーヴァントは少ない。その中で複数体になって大量の情報収集が可能となれば…」

 

「なるほど。それで私たちか」

 

 

ハサンたちの宝具は全て「ザバーニーヤ」に統一されているが、それはハサンたちが信仰するが故のことである。一口に「ザバーニーヤ」と言っても、その代によって彼らハサンが使う宝具には違いがあった。

呪腕のハサンは呪われた右腕による心臓をつかみ破壊するもの。

その他「静謐」と呼ばれたハサンには毒の使い手であったことから毒の宝具。

そして彼女たちこと、百の貌のハサンはいわば多重人格。それが宝具へと昇華されたものだ。

 

 

「我ら個にして群。群にして個……」

 

女性の姿が基本的な纏めとなっているが、実際は百の貌が女性であるという保証はない。男性であるか。子どもであるか。老人であるか。それとも。

その幾つもの人格が作られ、人として形成されたことによって彼女たちの宝具はその力を得た。

多重人格による意識の確立。それぞれが自己の判断で活動する宝具。

それが彼女たちの宝具「ザバーニーヤ」だ。

 

 

「取り合えず、現状では二十人は出来る。で、我らはこれからどうするか?」

 

女性のアサシンの後ろには既に僅かな顔や姿、いで立ちなどの違うアサシンたちが立っており、それら全てがいわば彼女であり彼らでもあった。

個にして群。群にして個とはこういう意味なのだ。

蒼夜は一先ず特地での情報を彼ら全員に説明し、事の状況と現状を更に説明。そしてそこから今に至るまでの話をして彼女たちにも、自分たちが何をするのかを把握させる。

 

「―――以上から、現状、この特地の町の一つであるイタリカから帝都に至るまでの道のりと拠点となる町の確認。そして帝都に侵入して内情把握などをしてほしい」

 

「……ふむ。つまりその帝都に入り、そこから情報収集をしてもいいということだな」

 

「可能であれば…できれば聖杯がどこにあるかだけでもつかみたいけど…現状は道筋確保を優先したい」

 

堅実なことを言っている蒼夜だが、実際は情報がほとんどない状態で敵の本丸を見つけ、逐一報告してほしいと言っているのだ。未だ世界を知らない彼らにとって、それは暗闇の中で足場を探すのに等しい。帝都を見つけられるか、そして無事にそこから情報を集められるか。普通ならそこを問題視するが、蒼夜にはハサンであるというだけで十分な理由になっていた。

 

「こっちで経路の確保ができたら、次に地形と内部構造。それと軍の状態なんかを調べて欲しい。出来るだけ向こうの内情も知りたいし、聖杯に関する情報も欲しいからな」

 

「分かった。では…」

 

「あ、待った」

 

ハサンたちが解散する直前。蒼夜が彼らを止めて全員の目をもう一度自分に向けさせる。一体なにごとかと思って止まった彼らに、蒼夜はある条件を言い渡した。

 

「ごめん。数人は残ってくれないか?」

 

「何…?」

 

「ちょっと別の場所を調べたいために…ね。出来ればその為の人員は確保しておきたいから」

 

他になんの探索をするのだろうかと、気になった百の貌たちだが、マスターの指示であることに変わりはなく、しばらく目を合わせるとその後二人のアサシンを残し、他のアサシンたちは全て影となって消えて行った。

残ったのは男性のアサシンと腰に布切れを巻いたアサシンだけだ。

 

「魔術師殿。何故二人を残した?」

 

「ん……いや、ちょっと日本でのことについて調べて欲しいってね……」

 

ほぼほぼ静観するだけの蒼夜だったが、少しずつその本性を見せ行動を始める。それがサーヴァントたちに教わり、学んだことからの判断であるか、それはマシュや呪腕のハサンでも分からないことだ。

 

現状。蒼夜たちカルデアは自衛隊と協力を結んでいるが、それも互いが互いの腹の内を読めないからだ。自衛隊は突如として現れた蒼夜と、彼が従えるサーヴァントたち。そして彼らが現れた理由などまだ知らない事が多く、未知の部分も多い。大して蒼夜たちはいくらサーヴァントの力があっても国家レベルの相手に対抗するということ自体が無謀であることに違いはない。

今までは大抵、軍に参加してもらっていたからこそ国家レベルの相手に対抗できたわけなのだが、今回はその国家も正直信じられるかも怪しいものだ。

日本内閣、与党の思惑。そしてその日本を支援する国々の本音。

現代であればその位警戒するべきことだ。

帝国の間では自分たちも自衛隊の仲間とされているが、実際は互いに牽制している仲で協力関係ではあるというだけであることを彼女たちはまだ知らない。

 

なので、蒼夜たちはその関係と見た目を崩さないように、外堀から埋めるのではなく、調べることとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で。結果、向こうからの要求は?」

 

場所は変わり、応接間ではピニャが一仕事を終えて戻って来ており、騎士のグレイと先ほど自衛隊と結んだ協定について話し合っていた。

正直、語る口であるピニャにとって、未だその協定の内容は疑わしい事ばかりだった。

 

「…知りたいか」

 

「………はい」

 

「―――捕虜数名の受け渡し。費用は我らが持つことによる使節往来の無事と保障。アルヌスに立てられた共同組合に対しての交易租税免除。一部、イタリカでの住居の租借。その他、要請あった場合のみに食料などの受け渡し」

 

「…足元を固めるという点では分かる話ですな」

 

「ああ。だが…」

 

問題はここから。その先が、ピニャにとって信じられないというべきところであり、彼女たちと現代、自衛隊との決定的な差だった。

 

「自衛隊は、このイタリカを占領せずに即時撤退するらしい」

 

「なっ…!?」

 

普通、大戦時であっても足場となる町を自軍で奪還したり奪ったりすれば当然自分たちが居座ることは出来る。自軍の休息と補給。情報整理、中継地点としての拠点構築。出来ることや意味は色々とある筈。なのに自衛隊はその利点全てを放棄して即時撤退すると言って来たのだ。それは奪還したり奪ったりすればドンと居座れるということが常識であった彼らにとって信じられないことだった。

 

「信じられるか? あれだけの軍事力をもっているにも関わらず、即刻アルヌスに撤退すると言って来たのだ。このイタリカは交易としての重要拠点。それを奪わず荷物を纏めて帰ると、彼ら自衛隊は言い切ったのだ」

 

「まさか……」

 

「私も未だに信じられん。勝者として…全てを圧倒的に勝った者としての権利全てを放棄したのだからな」

 

これが自衛隊。これが異世界の軍隊。

あれだけの力を持っておきながら、勝者としてのふるまいを一切行わない者たち。一体彼らはどうして、そんな事をするのだろうか。

疑問や信じられないことは多く、ピニャは本当にそれだけでいいのかと、それだけなのかと疑って仕方がない。軍であれば、勝者であれば当然のことだと、そう信じて来たハズのことが彼らの前では無意味となったのだ。

戦いに勝てば貰える当然の権利と報酬。彼ら自衛隊はその全てを捨ててまで自分たちの理念を貫いた。

 

 

「…こんなことがあり得るか? 勝者としての全てを棄てて…」

 

「………。」

 

 

すると。

 

 

「それが奴ら、自衛隊だ」

 

「………ッ!」

 

扉の向こうからキャスターとライダーが姿を現し、二人の話に割って入る。特に一度は日本に訪れたことのある彼にとっても自衛隊という組織は未だにワケの解らない組織であるのは確かだ。

 

「彼らの国は帝国のような帝国主義ではない。彼らはその反対である民衆のための政治、民主主義を貫いている」

 

「民主主義…?」

 

「そう。民が政治に関わり、国の方針を決める。指導者だけでなく、民もその方針に賛成するか否かを決定する事が出来る」

 

「そんな国が……」

 

「あるんだよ。門の向こう側にはな」

 

民主主義の代表的な特徴は人民が政治に参加できること。一番わかりやすいものだと選挙がそれに該当し、人々は政治に大なり小なり関わることができるのだ。今であっては至極当たり前な主義ではあるが、時代の差や価値観の差から帝国主義を貫く帝国にとって、その民にとっては信じられないことだと言える。

国の方針。国の政治は政治家がすると決めて、自分たちは自分たちの役割を果たす。農民であれば農業を。商人であれば商いを。

現代であれば人民には多数の自由と選択肢があるのに対し、帝国などの中世時代には自由などはなく、生まれから定められた生き方しか認められないケースが多い。だが、それは裏を返せば将来は絶対的に約束されているということでもある。

 

 

「まさか…それがニッポンの?」

 

「そう。貴方たち帝国が掲げている主義があるように、彼らも人民を大切に扱うという義務を持つ主義を貫いている。それが民主主義だ」

 

キャスターからの言葉にしばらく目線を外していたピニャは、やがて息を吐くと言葉を返す。

 

「…なるほど。それで人道的と」

 

「そうだ。ま、言ってることとやってることは逆さまな気もするがな」

 

「……だが。生き残った捕虜について人道的…人として扱えということには納得がいった。

 彼らは、ああいった輩でも、それを人と扱うという義務と…縛りがあるのだと」

 

「そういうことだ。彼らのいう人道的はどこまでが本当なのかは俺も知らん。というか知りたくもない」

 

それもその筈だ。民主主義。民のために政治をすると言っておきながら他国だからか容赦なく敵として残党を殲滅したのだ。そもそもの自己防衛として最小限の反撃しか行わない組織のハズが、過剰ともいえる戦闘をして多くの死者を出した。

もし彼らのいう民主主義が民を大切にするのであれば、それとやり方とでは矛盾があるのではないか。と。

少しだけだが敵国のことを知ったピニャは小さく、不思議な国だな。と呟くと再び目の前に立つキャスターとライダーにややいやそうに眼を向ける。

 

「―――で。お前たちは何をしに来た?」

 

「はははッ…なに。元一国の王として色々と助言にな」

 

用はキャスターではなくライダーのほうだったようで、数歩歩いてピニャの前に立つと悠然した態度で話題を切り出した。

 

「さて。これで経緯と形式はどうであれ、お前さんは一応この町の主となったワケだ」

 

「…形式上はな。実際はまだミュイ殿がこの町の主だ」

 

「だな。で、あの娘が成人するまでの間、お前さんがこの町を守ることになった。それは相違ないな?」

 

「無論だ。イタリカは貿易拠点としては重要な場所。加えて今さっき襲撃を受けて、しかも防衛設備の回復もままならん。それに、アルヌスからも最も近い場所に位置してる」

 

「で、あればお前さんはこの町の重要さをよく理解している。そして、その為にまず、お前はなにをする?」

 

態度は変わらない。ライダーはそう言ってピニャを試すように問い、彼女にこの場合どうするのかという方針を考えさせる。当然それもあるのだが、ライダーの本心はそこではない。

 

「…まずは混乱した町の状況確認だ。死人、けが人。避難民の確認と残った市民の人数確認。血縁関係者の生死確認。戦いの後で、しかもあれだけ騒いだのだ。まずは中の状態を確認して整理しなければ始まらない」

 

「ほうっ……それで?」

 

「……今、妾の騎士団がこちらに向かっている。予定では今日の昼には到着するはずだ。到着後、再編した民兵隊から騎士団に警備などを引き継がせ、民兵隊は解体とする。元々有志とはいえ市民だ。これ以上戦いに巻き込ませるわけにもいくまい。

 その後。時間をかけて防衛設備の回復と復旧……といったところか」

 

取りあえず思いつく限りの事を話すピニャにライダーは見定めたかのような表情で聞いていく。まるで彼がピニャのことを評価しているようだというようなその場の様子に、グレイは無表情ながらもライダーを警戒し、キャスターはただ彼の結果を待っていた。

 

「町そのものが混乱しているから、今は治安維持と内情把握が必須だ。でなければ民は混乱して二次の災害を招くやもしれんからな」

 

「まぁな。戦いが終わったとはいえ、未だ興奮冷めぬのも事実。で、あれば戦いの終結を示し、民を安堵させる。常道といえば常道だな」

 

「お気に召したかな?」

 

まるで気遣うように挑発するピニャの態度に、彼女が途中からライダーの意図に気付き始めていたことを知る。変に聞かれた辺りで不審に思ったらしく、それが今までの言葉でようやくつながったらしい。

ライダーが自分のことを見て、大将としてどうなのか評価している。その上からの態度に内心では怒りを燃やしているのか、結果彼女はそういった態度で返したのだ。

 

「さぁてな……」

 

だが。ライダーはそれを承知していた。いや、分かっていてあえてそうしたのだ。

だから、今度は彼からの反撃が来るとは、彼女も予測していなかった。

 

 

「で。それだけか?」

 

「ッ………」

 

「治安維持、内情把握。戦の後のやり方としては常道なものだ。それは褒めようぞ。だが、お前さんは一つ。大きなことを見落としている」

 

「見落とし……だと?」

 

「そうだ。お前の行動。それをよく思い出してみろ」

 

別にピニャの行動が間違っているかと言われればそうでもない。状況把握といち早く情報を回して民を安心させること。そしてその間に火事場泥棒のようなことが起こらないように治安維持に目を光らせること。どちらもやることとして間違っているわけでもない。

だが、問題はその後だ。

治安維持をして内部が落ち着くと、後は騎士団にしばらく居座らせて更に治安を守らせる。その後、防衛設備を回復させて全ては元通り

 

 

「だが。元通りにしてどうする」

 

「は……?」

 

「…なるほど。そういうことか」

 

ポツリと一人納得したように呟くグレイは、ライダーの言いたい事にいち早く気付いたらしい。が、ピニャは自分の行動の何処が間違っているのだと、未だ態度を強くして彼に問いかけていた。

 

「元に戻しては、全てが二の舞ぞ。そんな事をすればこの町は確実に滅びる」

 

「馬鹿な事を……治安維持と防衛のために妾の騎士団を配置する。それの何が悪い」

 

「悪くはないさ。ただ、余が言っているのは騎士団だけで、お前の軍だけで本当にここを守れるかという話だ」

 

「何っ……」

 

考えてもみろと、ライダーは彼女の脳裏に今のイタリカの様子を想像させる。

多くの犠牲者が出たイタリカの治安維持と内情把握。そしてその沈静化。彼女のその行動に間違いはない。混乱した町の人々を落ち着かせ、安心させることは当然の配慮と采配だ。

だが問題はその点ではなく、防衛設備を復旧させた直後。

騎士団を配置して復旧までの守りにつかせる事や、そこを拠点とすることも悪くはない。しかし、騎士団の本拠はそもそもイタリカではなく、その騎士団もピニャの部隊。つまり、彼女の私兵隊だ。彼女や皇帝の指示があれば動くこともある。

では。問題はその時のイタリカの状況だ。

 

「仮に町の守りをお前の騎士団が請け負ったとして、もしその騎士団が何等かの理由で不在となればどうなる?」

 

「………。」

 

「残ったのはやっとの思いで直った城壁と、その中に籠る民草たち。そして場合によっては僅かな騎士たちのみ。それで、もう一度この町を守れると?」

 

「ッ………!」

 

その言葉にやっと気づく。騎士団はあくまで帝国から派遣された部隊で、ピニャたちの指示があればどこへなりと行くしかない。その場合、イタリカに残るのはこれまでと同じく民間人がほとんど。防衛の設備などは直っても守れる兵士たちが実質いなければ、タダの壁だ。

もし今回の盗賊崩れの残党でないにしろ襲撃があれば、守備隊すら居ないイタリカに再び大きな被害が出ることは明白。ライダーはその場合についてを話していたのだと、彼女はようやく気付いたのだ。

 

 

「その場合、騎士団を置くにしてもそれとは別の守備だけを専門とする自警組織が必要となろう。騎士団不在であっても最低限町を守れるだけの、治安維持を出来るだけの部隊をな」

 

「…話は分からなくもない。だがその為の部隊をどう用意する。今のイタリカにはそれだけの民兵はもう居ないし、そもそも民兵は一時的なもの。皆、本来の生業があるのだぞ」

 

「分かっておるわ。だったら、その守りをするために出来ることがあるだろうに」

 

「出来ること、だと?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――例えば、今の民兵から自警団を結成するため、有志で集めるとか。だな」

 

 

扉の向こう側から蒼夜とマシュ、清姫たちといったカルデアの面々が姿を現す。蒼夜たちも別件でその場には居なかったが、ひと段落したようなのでライダーと合流したのだ。

 

「おう、坊主。そっちは終わったのか」

 

「うん。一先ずはね」

 

一仕事という名のアサシンたちへの偵察を言い渡した蒼夜は、それを隠してやる事は終わったと言う。これが帝国や日本への内情偵察だと知られれば双方から不審がられることは避けられない。

 

「……話を戻すぞ。幾らお前さんの騎士団が強くとも、騎士団は王の命令に、主の命に従わなければならない。その場合、この町に残るのは壁とその内側の民草だけだ。守るための組織。坊主が言った通り、自警団のようなものが必要となろうに」

 

「それを有志で集める、か。だがそれでも頭数が絶対に足りなくなるのは目に見えている。第一、先の攻防戦で勇敢な者たちは大半が死んだ。残ったのは大半が嫌々で参加した者たちだぞ」

 

今回の戦いでないにしろ、死を恐れない者たちは絶対に先陣を切る。そしてその結果、今回の攻防戦では多くの死者を出し、自ら志願した者たちは殆どが倒されてしまった。残ったのは臆病に後ろから震えながらも守っていた者たちだけ。そんな者たちで守れるのか、そもそも志願してくれるのかと、当然ながら出来る筈のないことをピニャは指摘する。

しかし、そこもライダーには読まれており、方法はある。と断言した。

 

 

「だったら集めればいいのではないか。この町だけで守れる兵士が出来ないのであれば、守れるだけの組織を他のところから集めて作ればいい」

 

「ッ……それは……」

 

 

「傭兵……ですな」

 

しばらく沈黙していたグレイが口を開き、ピニャが考えていたことを代弁する。イタリカからの志願者だけで町を守れないのであれば、他のところから頭数をそろえて守りを固めるしかない。

その為に他の町の人間を使うのかと言われればそうはいかないだろう。であれば、残るは一つ。特定の町に止まらず、私情を挟まず。金や報酬があれば確実に食いつく者たち、そうして生きている者たちで残りを埋めればいい。

つまり。残る人数を傭兵などで募集し、組織すればいいとライダーは言うのだ。

 

 

(…とても征服王が考える事とは思えんな)

 

(まぁ…確かに)

 

小声でぼそぼそと話す蒼夜とアーチャーは、ライダーの提案に彼らしくもないのでは、と思ってしまうが。その当人が話しているのであれば、当人がそれを良しとしているのだろうと、納得はしていた。

 

 

「傭兵であれば、使い捨ても構わん。奴らは報酬のために参加するのだからな。しかも、それがただの町の警備などであれば容易いものよ」

 

「待て待て! 仮に傭兵を雇うにしても、この町には今、金がない! それに傭兵風情に町を守らせては、治安悪化が懸念される。傭兵に町を守らせるなど言語道断だ!」

 

傭兵たちを使うということに反対するピニャの意見は蒼夜たちからでも納得がいく。傭兵というのは究極的に言えば報酬が全てだ。実力の見返りとして相応の報酬を用意する。そのため傭兵は力が無くては意味がないとされているが、それを十分に備えられれば生計事態に問題もないだろう。しかし傭兵はあくまで自分が雇われるということで一定の自由権を持っている。報酬の上げ下げや変更。条件の設定。雇われるうえでの設備などの租借や必要なものの提供。一部は雇う側が用意することもあるが、大抵は雇われる側から用意を申し出ることも多い。

つまり。彼らは条件にあったからこそ雇われるのであって、条件が悪くでも雇われるということは報酬額などの理由がない限りは絶対にありえない。彼らはあくまで手を貸すのであって、慈善団体ではないのだから。

その為、寝返ったりすることもあれば情報をリークすることだってある。

そして報酬が高いほうにつくこともあり得る。

メリットとしては報酬額の設定によっては確かに強力な傭兵が雇えるだろうが、デメリットはその分あまりに多すぎる。

 

 

 

「この際、仕方なかろうて。頭数が足りなければ二の舞は明らか。であれば、最低限の兵力を整える必要も必須。ならば、傭兵使うしかあるまい」

 

「断るッ。傭兵に雇わせるくらいなら他の要塞や砦から兵を回したほうが…」

 

「それが二の舞の原因だって言ってるんだよ。お姫様よ」

 

そこにランサーも割って入り、彼女に対して論破をする。

 

「そりゃ馬鹿にデカい国なら、兵士に余裕はあるってのは納得いくぜ。けど、結果としてそいつらは国の兵隊だ。王の命令がありゃ動かなきゃならねぇ。そうなれば最低限の兵士しか残されなくて、最悪守れるぐらいっていう人数も居なくなっちまう。なら、自由に動かせる奴らを作っておいたほうがよっぽど良いってわけだ」

 

「国の命で動くしかないのは分かっている。だが、町の防衛という命と大義があれば、最低限の兵力は残せるはずだろ」

 

「のわりにココには兵士が居らんかったではないか」

 

最低限の兵士は確かに居た。だがその兵士はあまりに少なく、守るにしても一日以前に一時間もつかもわからないほどの人数だった。

ならば、その反省点を活かして今度は最低限守れるだけの兵力を別に確保しておくべきではないか。もし、何らかの理由で部隊を動かす時があれば、その時に本拠地を守備できるだけの兵力があれば最悪襲撃時には時間稼ぎも可能だ。

加えて、イタリカが重要拠点であるならば守備隊を編成することに矛盾もないだろう。

 

「ピニャさん。貴方がこの町をどれだけ重要視しているかは俺たちでも話から分かっている。だったら、その為の守りを強くするっていうのは当然のことなんじゃないか?」

 

「………それは」

 

「ライダーたちが言いたいのは、直して元に戻せばいいってワケじゃない。もう同じ理由でもう一度直さないために、反省点を活かすことが大切だって話だ」

 

「それは解ってる。分かってるのだが…」

 

「流石に、私も傭兵を雇う…ということには抵抗感はありますな」

 

ピニャもその為守備隊、自警団の結成に反対なわけではない。問題はその為の人数と、それを合わせるために傭兵を雇うということ。部外者である蒼夜たちは実際に傭兵というものを見た事がないから言えるのかもしれないが、傭兵は自分にとって最適な条件と報酬があれば雇われる者たち。つまり、それが好条件であるなら、雇われるのだが、その分野党側としては雇われる傭兵たちについてとやかくいうことができないのだ。

あくまで自分たちは雇っている側ということで上下関係としては上だが、それも彼らが雇われているから成立している話だ。報酬目当てや仕事内容を知れば、そういったことを理由に盾にして来る者たちも居るということを彼女は懸念していた。

 

「お前たちは知らないだろうが、傭兵というのは金と条件があれば雇われる連中だ。だが、その分何をするか分かったものではないヤツがゴマンと居る。だからといって性格だなんだまで細かく言えば、ずうずうしくて雇われるヤツすら現れない。雇うにしても、それなりに工夫が必要なんだ」

 

「……だろうな。だが、この際贅沢は言えんだろ」

 

「………。」

 

 

話題に膠着が見え始めた。自警団結成という点では双方納得はしているが、実際その為の人数不足補いのためにどうするかという点では、ピニャの雇わないという意見に孔明もやれやれと呆れていた。さすがにそこは頑として譲らないらしく、彼女の正論的な言い方もあってかなかなか話にまとまりが見えなかった。

これではどうにもならないと思い、ほぼ口だししていない主に対し孔明が念話で訊ねる。

 

 

(…蒼夜。お前、このままどうする気だ。一応はライダーの提案とはいえ、お前も納得したんだろ)

 

(まぁそうなんだけど…ここまで頑なだとはね……困ったなぁ……)

 

 

さてどうするかと考える蒼夜は、ピニャの意見も交えて現在最も望ましいことが一つであることに、その打開策を考えた。

イタリカの守備と、治安維持のために自警団を結成する。この点では彼女も同意し、有志募集も納得していた。だが、先の攻防戦で大半の優秀な、勇敢な男たちは戦死しており、残った者たちをかき集めても戦力的に足らないことは明らかだ。

そこで、この際に傭兵を雇うのはどうか、というのがライダーたちの意見なのだが、これをピニャは反対し、容認できないとしていた。特地での、傭兵などのことついては、流石に彼女のほうが現地のことについて詳しく一歩ほど先を行っているので否定もできない。ライダーもあくまで個人の経験談から知ってはいるが、万国全て同じというわけでもないだろう。

つまり。この点でピニャが希望しているのは傭兵のような金銭などで容易に敵味方が変わる奴らより信頼に足る者たちであれば良いということで、それさえ可能であれば後は話も通りやすいと、蒼夜は考えていた。

 

 

(この場で信頼できる者たち。そして戦力として見込める者。傭兵を除けば当然、町の人たちだけど、頭数とかを考えると限界がある。ならば……)

 

 

言い合いでにらみ合っているライダーとピニャをよそに、蒼夜は彼女の隣で張り詰めた状況に、ため息をついていたグレイに目を向けて彼に一つあることを訊ねた。

 

「……えっと…グレイさん…でしたよね?」

 

「うん…?」

 

「グレイさんなら、この場合はどういった人を希望するんですか?」

 

まさか自分に訊ねてくるとは思ってなかったグレイは、声にしなかったが驚いた表情をして、ジェスチャーで「自分が?」と問い返す。首を縦に振って答えた蒼夜に、困る様子ではないグレイは答えていいのかと主の方に顔を動かす。

 

「………。」

 

「…参考までに聞かせてくれ」

 

ピニャも、彼を騎士として一人の戦士としてその腕を認めている。であれば、実戦での経験などからそう言ったことを自然と知って身に着けているのではないか。

そんなことを期待しつつ、蒼夜たちは主の許可を得たグレイから参考までの意見を貰えた。

 

「確かに、今の状況で贅沢は言えません。ですから傭兵という選択肢も無くはないでしょう」

 

「ッ……」

 

辛いことだが、それは事実だ。ピニャは苦しそうな顔をしてグレイの言葉を受け止めた。

 

「ですが今のイタリカの情勢を考えて、傭兵を受け入れるというのが絶対に正しいとも言えない。治安悪化、火事場泥棒もあり得るかと」

 

「守れる力もイタリカにはありませんからね…」

 

「そうです。仮に騎士団が到着したとしても、先ほど言われた通り皇帝陛下の命などで動く場合もある。その場合、どうしてもイタリカに守備の兵力はほぼゼロになる筈です」

 

「あの、今更聞くのも難なのですが、騎士の人を何人か残すというのは…」

 

「それこそ二の舞ですぞ」

 

マシュの問いにグレイは素早く返す。結果として少数の騎士を残しても今回のように恐らく守れずに戦死者を出す可能性もある。

 

「私としては、矢張り信頼にたる者たちとして正規兵をここに配置するというのが良いと判断しています。が、それにも矢張り問題があります」

 

「兵士たちだから…ですか?」

 

「守備隊という大義名分があれば残すこと自体は可能でしょう。ですが、ここ等一帯であれば守備ための兵力を呼ぶまでに時間が掛かりますし、何より正規兵であれば場合によっては派兵の対象になる。アルヌスが自衛隊に獲られた現在、その為の兵力再編や練度の回復のために回せるものも少ないでしょう」

 

「それでも守れる分には…」

 

「ええ。ですが、イタリカ一帯の兵力をかき集めるに関しても、今回のような盗賊くずれになった残党の件もあります。正規兵を回すにしても、今回の一件で早々に動かすのも難しいでしょう」

 

なるほど、とグレイの意見に関心を持つリリィは、歴戦の戦士としての言葉を必死に頭の中に刻み込む。

 

「今回は残党に統率者が居るからの件だったので異例中の異例だと言えます。本来、残党というのは盗賊崩れになるのがほとんど。その場合、大人数にしても大体十数人かそこいら。統率者というよりもボスが居るだけの連中です。が、問題はそこではなく、その盗賊の総数がハッキリとしないことです。アルヌス攻略戦で敗退した諸王国の連合軍の残存兵力がどれだけ残っているのか。どこにどう散らばったのか、どれだけのグループになったのかとハッキリとしない点が多すぎます」

 

「確かにな…今回の襲撃は諸王国軍のもと指揮官が居たからの例であって、本来纏める者といっても小物だ。加えて、われら帝国も敗退した連合軍の残存兵力は確認できていない」

 

「そうです。そのため、自然と各村や町では恐らく盗賊襲撃のために警戒しているところが多いハズ。動かせる者も結果としては…」

 

やはり傭兵を雇うべきなのか、と部下の意見に押され気味になるピニャ。ライダーは不本意だがそれで決着になるかと思いもう少し彼女に意見させてみようと揺さぶりを考えていた。しかし、そこにまだ話は終わってないとグレイが続けた。

 

「ですが。たった一つだけ。もしかすればこの話を受ける者たちが居ます」

 

「………!」

 

「それは…?」

 

 

 

 

 

「―――お分かりでしょうに。この状況で兵力を回す事が可能で、命令があって仮に町に居ないとしても直ぐに戻ってこれる。速力、兵力、戦闘能力。どれをとっても現状、彼ら以上の者たちはこの帝国には存在しない。

 いえ。そもそも、帝国の者たちではない」

 

 

「………ッ!」

 

 

足はヘリと車。兵力は少数だが、現代兵器の能力は彼女も知っている。そして、それが守りの話であるなら乗らない訳もなく、市民を守るためなら猶更。

恐らく。貸しを作れるという点で乗ってこないわけでもない。現在、使節の無事は保障されており万が一道中に襲われても十分に応戦も出来る。

組織的に動くことができ、治安維持にも手を貸してくれるだろう者たちと言えば

 

 

「自衛隊か…」

 

「ええ。彼らであればこの状況、最も都合のいいものでしょう」

 

仮に自衛隊に守備を任せれば、ピニャたちの方には貸しを作らされることになり、その貸しで何かを求められるだろう。しかしそれは逆に彼女たちに一度だけ自衛隊との関係を動かすことや、彼らを使うことができるという意味にもなり、使いようによっては強力なカードにもなる。

 

「だが…向こうがそう話に乗ってくるか?」

 

「乗ってくる…と俺たちは思ってます」

 

ピニャの疑問に即答で返す蒼夜には、自衛隊がこの話を出せば十中八九乗ってくるという根拠があった。

 

「自衛隊は現在、この世界…特地での交渉パイプを求めています。その間でもし、パイプが途切れてしまうことは何としても現状避けたいはずです。加えて、その交渉への糸口がピニャさんのような皇女…それも話のわかる人であれば、是が非でもこのパイプ維持のために関係を持たせるハズです」

 

「マシュ…俺のセリフ取らないで…」

 

「それに、この世界で自衛隊が動くにしても、最低限帝国との良好な関係だけでなく、資金源などにも問題が発生する場合もある。そのことも含めて、向こうは早々に帝国…ピニャ殿下との関係を切るつもりはサラサラないハズだ」

 

「いやだからアーチャーまで取らないで!?」

 

 

「向こうは戦争の継続を望んでいない…か」

 

「ええ。日本もそこまで戦争を継続させる余裕というのが、政治的に難しい。それに、アルヌスなどでの戦いで帝国は自衛隊…日本との戦力差を知りました。であれば、帝国も日本も早期に戦争を終わらせたいハズです。帝国にしては勝ち目のない戦いになるでしょうし、日本は日本でその国家体制から戦争継続を言うこともできない。

 どの道、戦争はそろそろ沈静化して水面下での交渉になる…というのが私たちの見解です」

 

「…だからマシュ、セリフ…」

 

完全にサーヴァントたちにセリフを取られた蒼夜は、それ以上を言うに言えず、結果その場で縮こまっていじけていた。それをリリィと清姫が気遣っていたが、当分メンタル回復は難しいだろうと、しばらくは孔明たちが変わりに話すこととなった。

 

「今現在、自衛隊が帝国との間で最も強い繋がり…交渉への糸口はピニャ殿下。貴方だ。その貴方が自衛隊との関係をより強くするには、今回の自警団の一件では自衛隊の協力を仰ぐ…というのが最も理想的だと言えるな」

 

「その根拠は…?」

 

「さっきも彼らが言ったが、自衛隊の統括である政府組織…ひいては日本は、その国家主義から戦争を長く続けられる国ではない。くわえて、それだけの兵力を投入できるという自由さは存在せず、彼らには多くの縛りも存在している。

 しかし、自衛隊は本来攻め込むことが目的の組織ではない。あくまで守りがメインの連中だ。最低限の守備でその間に交渉で戦争終結をさせる。彼らは戦うにしてもあくまで戦意喪失が目的なだけで、国家滅亡をもくろむ馬鹿な国とは違う」

 

「日本が長く戦争を続けられないのであれば、帝国が戦争継続を望まなければ…」

 

「早期終結は出来る。ただ帝国にもこの世界での大規模な国家、帝国としての威信がある。早期の終結が難しい現状、その為の工作や根回しを向こうも行ってくるはずだ」

 

「…つまり、自衛隊のそのうえ…日本という国は」

 

「ええ。長く戦争する気はない。これまでの戦いでの貴方たちの自衛隊の見方を考えれば、向こうもそろそろ交渉に移り始めるでしょうし。その為のパイプである貴方との関係を失いたくない。

 もっとも。帝国で、まだ交戦する気があるのであればそれを削ぐ工作はあると考えていい」

 

自衛隊の実力は彼女も目にした。ヘリによる圧倒的な蹂躙によって何千いた残党は一瞬にして壊滅したのだ。なのに彼らには、国としての縛り、制約が存在し、その力を存分に振るうことは難しい。それは裏を返せば縛りさえなければ容赦なく帝国を潰せるというだけの力があるということにもなる。

帝国の元老院でも既に主戦派と講和派の二つに分裂し自衛隊、日本と戦うのを続けるか意見が別れている。どの道、このまま戦っても自衛隊に対して勝ち目はない。帝国との戦力差や技術差からその結果は歴然だ。このままでは帝国は絶対に負けると、彼女はあのヘリの姿を見て確信した。

 

「……では、向こう…自衛隊はこの話に乗ってくると?」

 

「向こうのやり方からするに。もしここでこの話を断れば、それだけ交渉までの道のりも遠くなるだろうし、貸しを作ることも出来なくなる。いくらこの町を守ったという事実があっても、二度目もそうやって助けて英雄視されるかと言われればNOだ。一度目に助けたことが忘れられず、人は贅沢な考えをするんだからな。一度目は遅かったが、二度目は早く…と。彼らは知らないうちに「次は早く助けてもらえる」という期待に応えなければならなくなる」

 

孔明は確実に乗ってくるという自信のもと、小さく笑みを作る。そういった決まりを作ったのだから、その中で上手く立ち回るにはその決まり事を理解しなくてはならない。

 

「だが自衛隊には専守防衛のジンクスがある。もしこの場合に断れば、専守防衛の精神のもとでもう一度遅めの登場をすることになる。

 向こうには攻撃されてから反撃という選択肢しかないのだからな」

 

「つまり。もし今回の自警団への協力の話を断れば…」

 

「二度目の遅い登場に、イタリカの民は不満を持つ…か」

 

「一度目だから許された手だ。二度目はない」

 

 

これが絶対の孔明の言う根拠。もし、ピニャに対して交渉の糸口があると見れば、出来る限り関係を保ちたいハズだ。そして、その切欠として今回の自警団結成の協力というのはまたとない話。更に、自衛隊をイタリカに配置して情報収集も可能になる。貸しという点でもこの話を逃す理由はないと、彼は見ていたのだ。

 

「難儀な国だな、日本とは」

 

「その分軍事力は世界上位だけどね」

 

ライダーが面倒そうにぼやき、それにようやく立ち直ったのか蒼夜が答えた。そして、蒼夜はピニャに対し改めて、その提案はどうかと問いただす。

 

「話を戻しましょう。傭兵を諦めるのであれば…どうですか?」

 

「自衛隊にイタリカに入らせる…か」

 

蒼夜たちの提案に少し考えさせてくれとばかりに姿勢を低くし沈黙するピニャだったが、考える時間はそう長くもなく、決断は直ぐに出た。

 

「…その方が、傭兵を雇うよりは数倍はマシか」

 

「では、殿下……」

 

「ああ。その話、実行しよう」

 

 

ピニャの決断は下った。ココに自警団結成の案は纏まり、用意ができ次第、自衛隊にも協力を仰ぐこととなった。彼女の考えはしたが、結局後の事を考えると敵に回すことは良い策ではないとして、明け渡すのと同義ではないのかという不安を抑えて、今は最善の策と思い口にした。

 

「ありがとうございます、ピニャ殿下」

 

「…蒼夜、といったな。お前も、その仲間も……中々の頭の持ち主だ。さぞ名のある軍師だったのだろうて」

 

「いやぁ……」

 

(名のある軍師…そのものなんですけどね…)

 

 

これで話は一つ纏まった。と思ったが、そこに隙を突いたとばかりに蒼夜がまた一つ、今度は自分たちの目的である提案を出してくる。

 

「まぁ…それはそれとして…実は、俺もお願いがあってきたんです」

 

「なんだ…この後に及んで何を頼むというのだ」

 

流石に連続の話に疲れると思っていたが、彼の提案はそれ以上にシンプルなもので、その為の代価も彼はキッチリと用意していた。

 

「実は、イタリカを俺たちの拠点として使わせて貰いたいんだ」

 

「…それは、つまり…」

 

「難しい話ではありません。単にこの町で俺たちが居られる住居を貸してほしいというだけですから」

 

「………。」

 

イタリカは蒼夜たちにとって各地の情報を知るための重要な橋頭保だ。そのイタリカに彼らが住める場所を貸してもらいたい。内容としてはシンプルだが、先ほどの話が終わった直後もあってかピニャはまた何かあるのではと、考えなく口にして訊ねた。

 

「何かあるのではないか?」

 

「まぁ…そうなんですけど…」

 

「まさか、この屋敷を貰う…なんて…」

 

グレイがまさかということを言い出すが、蒼夜もそこまで強情ではない。本当にただの一軒家を貸してほしいだけだと、下手に出て返す。

 

「いやまさか。普通に住居一つを貰えればそれで―――」

 

「ついでに私とマスターが二人で寝られるツインベッドを」

 

「はいはい、きよひーは少し黙ってようね」

 

清姫を手で遠ざけると、蒼夜はまた話がもつれ込む前とその頼みの理由とその為の代価を先に話しておいた。

 

「俺たちは、自衛隊とは別にこの世界のことについてを知っておきたい。だから、その為の自分たちの自由に使える場所として貸してほしいというだけです。もちろん、タダで貸してくれとは言いません。こっちにもそれなりの見合った()を出します」

 

「………いいだろう。で、その見合ったものとは?」

 

 

 

 

 

「…今この町に必要な人材です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で。ライダー、お前があれだけ傭兵を押した理由は?」

 

「んー? そりゃあこの世界での余の部下をだな…」

 

とぼけるな。と復興が進む町の様子を見つつ、孔明がライダーの言葉に異議を言う。そんなことが彼の本音の理由がない。それは孔明が誰よりも、彼のことを知っていたからこそ、今ここで訊ねて問いただしていた。

それにはライダーも態とそう答えたかのように笑うと、遠くから作業の様子とそこで聞こえる声に耳を傾けつつ、孔明の言葉に答えた。

 

「面白いからだな。うむ」

 

「…面白い?」

 

「ああ。あの娘、ピニャとか言ったか。あ奴がどうするか、見てて面白くなったのでな。少し鎌をかけさせてもらったわ」

 

「………なるほど。狙いはそこか」

 

ピニャというよりも、ライダーの狙いは彼女の地位。そしてその地位に彼女がどう動くかというのに興味を持ったらしく、耽るように一人語りだす。

 

「まぁ久しぶりに一国を預かる者の姿、というのを見たように思えての」

 

「……彼女は皇女…姫だぞ?」

 

「であっても、あの年ならああやって国を思うことに不思議もあるまい。国を思い、いかに行動するか。それを見たくなったのでな」

 

「……リリィじゃ不満か?」

 

「不満だな。あ奴の未来は既に見ている」

 

ライダーと孔明。いや、ロード・エルメロイと呼ばれた男。ウェイバー・ベルベットはかつて、セイバーリリィと呼ばれた少女の未来の姿を目にしたことがある。

いや、共に戦い、競い合ったと言えばいいか。後の騎士王、アルトリア・ペンドラゴンと聖杯戦争で剣を交えた二人。そして、彼らはあることで互いの事を知ったつもりだった。

 

聖杯問答。セイバー(騎士王)アーチャー(英雄王)ライダー(征服王)の三人が、それぞれの意思と願いを話した。

騎士王は当時、故国救済を願った。そして、王は民を救うためにあるのだと言った。

英雄王は、聖杯に群がる者として各英雄たちを成敗すると言った。王とはすなわち自分であると言った。

そして征服王は再び現世に根を下ろす事。受肉を願った。そして王とは民を導くためにあるのだと言った。

三者の答えはそれぞれバラバラだった。

 

 

「あ奴も結局は同じだ。救うことだけをして導くことをしない。未来という救いを、あの娘は考えなかった」

 

「………。」

 

「救うだけが全てではない。道が解らない者に、導く道筋を示す。それが王ではないか」

 

「………そう、かもな」

 

 

だが。実際は違ったのかもれしない。孔明は、少女リリィに一度だけ訊ねたことがある。

 

 

―――君はそうやって救うことに精を出す。だが、それでは導くことはできないのではないか?

 

 

するとリリィは笑ってこう答えた。

 

 

 

「そうですね…救うというのは現状を打破することでしかない、と。私はマスターたちとの旅で知らされました。ただ救うだけで、ただ助けるだけで人は前には進めない。折角救ったというのに、彼らを導かなければ本当に助けた事にはなりません」

 

「…では。君はどうする?」

 

「…分かりません。私は、それしか出来ないから。救うことしかできない。騎士として、王として、人として。

 私はあまりに未熟すぎます。だから……

 

 

 

 

 

 

――――――私は見つけたい。王としてではなく。人として。誰かを助けて、そして導いてあげたい。それがどんなに苦しくても、辛くても。一緒に行ってあげられるように。導いてあげられるように」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼下がりになり、町の復興はひと段落し始めた。自衛隊は本業がこちらの様なものなので、手際よく作業は進み、その間に様々なことが行われていた。

まず、ピニャの指示でグレイが自警団結成のために有志での希望者の募集を始め、少なからずだが希望者が彼の前に募っていた。

その一方で、伊丹たちは復興作業がほぼ終わり、捕虜を数名選び出していたが、どうにもその捕虜が伊丹の趣味に思えてならないと女性隊員二人がジト目で睨んでいた。

そして、自警団結成にあたってもう一つの準備が、蒼夜たちカルデアメンバー主体で行われていた。

 

「ひと、ふた、みぃ、よ…」

 

「よっと…これが補修行きの分。こっちがそのまま使用可能な分ですね」

 

「補修分は後でランサーたちにこっちに回させる。今は兎も角、集めるだけ集めよう」

 

本来はピニャも反対しただろうことだが、背に腹は代えられぬということで渋々と承諾。残党戦死者から武器装備をはぎ取り、その一部を自警団装備の支給品として流用しようということから、マシュ達がはぎ取った装備を一か所に集めていた。

はぎ取った装備はその大半が自衛隊の発砲した弾によって穴ぼこになっており、殆どが補修行き。残るごくわずかな物が、そのまま流用可能として現在清姫によって数えられていた。

ちなみに、これだけの数を全て補修するのだが、その大半はアーチャーが請け負うというのだから、物好きだなとマスターだけでなく生き残った鍛冶職人たちからも関心させられていた。

 

「ゴロゴロと集まるなぁ…全部集める気か、坊主」

 

「まぁね。兎も角、集められるだけ集めて、補修した分と流用分で自警団へと支給して、残りはいざって時に保存しておいたり、他所に売ったり…利用価値は色々だろ?」

 

「ふーん……ところで、コレ(モーニングスター)要るか?」

 

「いや流石に要らんよ」

 

 

 

当然。サーヴァントたちの間にも不満が無かったと言われれば嘘になる。特に騎士の精神を持つリリィにはとてもではないが容認できたことではないので、かなり否定されはしたが、最終的に合理的判断ということでアーチャーが彼に与したのでリリィも渋々ながらそれを認めた。だが、流石に武器集めを手伝わせるまではせずに彼女だけはべつの場所に居た。

 

「リリィの方…大丈夫かな…」

 

「向こうにはハサン…じゃなかった。アサシンさんが居ますから、問題はないと思います。意外にもあの人、ああいった事には詳しいといいますか…」

 

「うん………意外だったな。アサシンが反対するなんて」

 

「いや…ありゃどっちかっつーと細かい奴だったぞ」

 

というのも、やれ埋葬の仕方はどうか。やれ死体の装備の脱がし方はこうだと、なぜか細かくそう言った埋葬の仕方にこだわっていたアサシン。反対派というより埋葬の仕方がなってないという変なところで細かくしつこかった。

ので、最終的に蒼夜はアサシンに根負けして全部一任(と言う名の押しつけ)をしたとか。

 

「変なところ細かかったなぁ…」

 

「アサシンさん、なにかあったのでしょうか…?」

 

「俺に聞かれてもな。さすがにあのアサシンが本音を語るとも思えんし。アイツの性分なんじゃねぇか?」

 

 

 

 

 

 

最終的に、可能な限りの武器装備が全て集まったのは昼になって太陽が少しずつ傾き始めたころだった。

ほとんどがアーチャーたちによって補修されることになったが、一部運よく使えるものだったりはそのまま自警団などの支給品装備として転用され、多くの剣や槍、弓が彼らに支給されることとなった。

 

「取り合えず、支給品は渡しておいたが…補修分が何分多いのでな。まぁ人数分はあるとみていいだろう」

 

「鍛冶職人たちからの見積もりは?」

 

「予定ではフル稼働して二か月。長くて四か月だそうだ」

 

近くに居た鍛冶職人たちと会話していたアーチャーから、ざっとどのくらいかかるか聞くと、下手をすれば半年になるだろう時間が必要であることを知り、蒼夜は頭を掻いて結果を重く受け止めた。

 

「フル稼働は流石に無茶だから…時間をかけてやるしかないね…」

 

「だな。それに、私たちがここに長居出来るわけでもない。見積もりもあくまで見た感じだからな。それ以上はかかるだろうに」

 

「…直したかったの?」

 

「欲を言えばな。色々と投影に使える武器もあったからな…」

 

アーチャーの武器である干将莫耶は投影品。彼が投影魔術を用いることで、側だけを完璧に模倣した武器が作れる。だが流石に本来の能力まではコピーすることは出来ず、更に聖剣などの神造兵装などは外側だけでも投影することが難しい。

だがそういった物でなければ投影は可能で、しかもストックすることも可能。

また、彼の起源は「剣」であることから剣の投影品とは相性が良く、武器もそれにちなんだものが多く投影される。

なので、今回の戦闘ではぎ取られた武器の中から剣だけを構造解析すれば、後は投影品として作ることができるのだ。

 

「アーチャーも剣に関しては欲があるんだな」

 

「否定はしない。それに、武器の手数は多い方がいいのでな」

 

 

ひとしきりだが収拾と部類分け、そして支給を終えた蒼夜たちは自警団の設立を行っていたグレイから武器装備の支給と共に集まった人数についての報告を聞いた。

総数は数える程度しかいないが、グレイ曰く予想していたよりも多い方だという。恐らく、彼もそこまで人数が集まるとは思ってなかったようで、それなりの人が声を出して寄って来た時、否定は反対意見が多いかと思われたが、どうやら今回の攻防戦で自分たちにも守れるだけの力が必要だと思った者が居たようで、参加する者の意見の大半はそれだった。

 

「それじゃあ人数はそこそこ集まったってことですか?」

 

「総勢で十二名。集まったと言えば集まった…といえばいいのでしょうか。だが、まさかここまでとは思ってもなかったですがね」

 

「それでも、楽観できる状態ではありませんね…」

 

マシュの言う通り、十二名という人数は流石にイタリカを守るためには不十分。しかも、それが全員戦闘の素人であるなら猶更言えた事で、更に補強できる戦力が自前で補充できないという事態には楽観視はできない。実際、そこに戦力補強として自衛隊に協力を仰ぐので、実際はほぼ彼ら任せになっている。

訓練が必要にしても、結果的に防衛に関しては自衛隊任せなのはどちらにしても変わらない。

 

「…で。装備の方はどうでしょうか?」

 

「武器装備は、人数分は支給できると思います。一応、増員された時のためにいくつか置いてありますし、残りは少しずつ時間をかけて補修していけばいいかって思ってるので」

 

「人数分は用意できるということですね…」

 

ふむ、と考えるように言うグレイだが、その表情は明らかに暗く、とてもではないが大丈夫だと言えるものではない。

彼も正直この方法に異はあったのだろう。だが主の命令、そして下した決断に思う所への感情を全ての見込み、その指示に従っていた。その様子に納得がいかないのも無理はないと気遣うように二人は言葉を選んで話を進める。

騎士道という精神を持つのは彼だけではない、リリィのこともあって騎士道というのを感覚的に知っていた蒼夜たちは自然とその避け方などを知り、どうしたらいいのかなどを分かっていた。

 

「馬とかは流石に無理ですが、武器に関してはこれからも集まるでしょうし、余った武器は売ればいい。使い道はピニャさんに任せています」

 

「…分かりました。取りあえず、今ここで用意できる兵力は整うことになりますが…」

 

「自衛隊について…ですね。話には乗ってくるとは思いますけど……問題は向こうがどれだけ送り込んでくるかですね」

 

今回のイタリカでの戦いのこともあり、もしかすれば相応の兵力と装備などが送られて来る可能性もある。加えて、イタリカの様子、状況、戦略的価値を考えると黙って普通科の部隊を一個小隊か二個小隊だけ送るとは考えにくい。下手をすれば彼らはヘリを使い制空権を確保する可能性もある。

 

「向こうはこちらに送れるだけの戦力があると、お考えですか」

 

「一個人としての予想ですがね。けど、自衛隊の今の戦力と消耗から考えるとそれなりの数が来るってのは考えられます。向こうはあくまで人道的支援が目的ですからね」

 

「加えて、イタリカの政治的、戦略的価値を考えると…武力での圧力ではありませんが、イタリカを守備するために、それなりの数を送り込むのではないかと思います」

 

蒼夜とマシュの意見に、まだそれだけの戦力があるのかと言葉が出なくなる。自衛隊も今までの戦闘で死傷者はゼロのハズ。加えて消費が弾薬や燃料だけとなると精神的にもまだ余裕はあるだろうし、自衛隊の本来の活動から考えると小隊レベルの人数で済むとも思えない。

こうはいっているが、実際彼らは武力制圧を目的としていないのだから、それはそれでなお、納得がいかない話だ。

 

「どちらにしても、向こうの出方次第ですね。自衛隊はあくまで防衛が本来の責務ですし」

 

「だな。こっちはそれまでに打てるだけの手を打っておく…しかないからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斯くして、自警団結成の中に乗じて拠点を自分たちの拠点を手に入れた蒼夜たち。実際は借り物だが、仮に自衛隊の居るアルヌスなどに居られない時には使えるもので、借りることとなった住居を確認すると、普通に生活するだけでも十分なものだ。

万が一、自衛隊、ひいては日本とトラブルを起こした時や非常時にはココを使えるたり、アサシンたちの報告もここで聞くことができる。

そんな良物件を貰えたのだから、当然相応に応えることも必然。

約束である自警団の人員補強のため、蒼夜たちはピニャにその助っ人を会わせようと準備を始める。

しかし、先に彼らが帰らなくてはならないという事態に、蒼夜はそれを聞いた刹那背筋を冷たく凍らせた。

 

「…マジですか」

 

「マジらしいです」

 

「ゴメン…なんか用事してた?」

 

申し訳なさそうに言う伊丹は片手だが謝罪の意を見せており、苦笑の顔にマシュと二人顔を合わせる。

 

(どうします、先輩。あとはピニャさんの約束を果たすだけですけど…)

 

(住居については不審がられるよな。まるでこっちを信用してないって)

 

(ええ…それに。もし私たちがここに残ると言えば確実に誰か監視の目が付きます。その場合をどうするか…)

 

(監視を誤魔化したら完全に怪しまれるよな…)

 

 

それでなくても極め付けに帰還後には何をどうしていたのかという報告をしなければならないなど、彼らの行動はどの道筒抜けになってしまう。

かといって蒼夜にはそれをだましきれるだけの自信も話術もないので、正直大半その辺りは孔明頼りだ。

兎も角。今は話を濁して出来るだけ離れやすくしようと、蒼夜とマシュは同意し理由は会話中にマシュが作ることにした。

 

「―――――用事っていうより戦後処理の手伝いですけど……というか、随分と長引きましたね?」

 

「ああ。レレイたちが商人さんらと鱗の商談をしていたからな。あの数だから結構の値がついたらしくって」

 

その他、足りない分を割り引いて為替についての情報だったりと彼女も負けずに商談をしていたらしく、結果金貨、銀貨が大量に手に入ったのだという。商談というよりも交渉に長けているのかと、蒼夜もそこには純粋な驚きを見せていた。

 

「魔導師…ですよね。あの子」

 

「なんだけど…どうにもその手の話は得意らしくって」

 

「へぇ…」

 

正直、まだ彼女たちについてあまり知らない蒼夜は、レレイのその交渉のうまさになにか秘訣はないのかと、彼女の話術について知りたいと興味を持った。

すると、隣のマシュが念話だが話かけてきてどうやら言いわけの用意ができたらしいので報告するかのように話に割って入ってくる。

 

(先輩。取りあえずは……)

 

 

「取り合えず、俺たちもやること終わったし。これで帰るんだけど…」

 

「そういや、証人審問もあったな…」

 

「あったのよ。お陰でさっきどやされたよ…」

 

と、嘆く伊丹に、マシュが頭の中で言葉を纏めて会話に入り込む。

 

「あの……伊丹さん。そのことなんですが…」

 

「うん…?」

 

「実は、私たちピニャさんに呼び止められてまして…」

 

「えっ…」

 

マシュの言い訳。というか、言い逃れは実にシンプルだった。それは伊丹だからこそより効果がある言葉で、その状況を知る彼にとっては納得できる話でもあった。

そこに今回隠れて彼らが行っていたことを連結し、話は一つの壁になって現れた。

 

「どうやら、ライダーさんたちに興味を持ったらしく、向こうから今日一日泊まらないか、と勧められて…」

 

「………やっぱライダーか…」

 

「へぇ…あの殿下さまがね……」

 

伊丹もライダーとピニャの悶着は記憶に残っており、ピニャに対し上からの目線で意見をズバズバと言っていたライダーに、流石にどこの馬の骨と彼女も怒りを覚えていたのだろう。だがそれで居残る理由にはならない。だからこそ、マシュは更に言葉を並べた。

 

「というより、完全に向こうは返さない…というつもりで、恐らくもう直ぐ来るだろう騎士団で脅したりするのではないかと…」

 

「…それなら猶更帰った方がよくないか?」

 

「そうなんですけど…」

 

「尻尾撒いて逃げる性分でもないおっさんだから…」

 

そう。ライダーの頭の中に敗走の二文字はなかった。実際、逃げというより移動して戦地を変えているといったほうが正しいのか、彼の動きや判断、言葉に後ろ向きなものは見えなかったのだ。

 

「で…ライダーさんも帰る気なしで完全にやる気満々で…」

 

「…マスターなんだから命令すりゃいいんじゃないの?」

 

「といって素直に聞くヤツでもないのですよ…あのゴリ…王様は」

 

令呪を使用する、という手もあるが、正直それで素直に聞くとも思えない。対魔力に関係なく、ライダーなら自分の考え優先でとんぼ返りも可能だからだ。

 

「それと。今、このイタリカで自警団が結成されてて、その手伝いもあって途中では帰れないんです」

 

「自警団って…この状況でか?」

 

「この状況だからこそです。それに、今後もし戦力がないって時になればその為の守る力も必要でしょ。それの手伝いをって思って手伝いしたんですけど」

 

「結果、ライダーさんが強引にここに残ると言い出して、その他ほぼ全員が同意…辛うじてアサシンさんが保留、清姫さんがマスターに従うという形になったので…」

 

「多数決で残るしかなかったと…」

 

「強制命令もそう何度も使えるものじゃないんで…しかも一人につき一回までが限界なんです」

 

 

 

と、それらしい言い訳を並べるが、これがまさか本当のことだと知ったのは、この日の夜のこと、屋敷の中でだった。

 

 

「………なんとか出来ないか? 今回のは政府からの指示だし。断ると色々と面倒…っていうかマズイでしょ」

 

「話してはみますけど、多分遅れることは必須だと思います…まぁそこまで話が分からないヤツらじゃないんで……早くて明日の朝。遅くても昼には戻ります」

 

「えっ…でも先輩。人数は…」

 

(ライダーの戦車に乗せてもらうよ)

 

(ああ…ぎゅう詰めですね…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後。

 

 

 

 

「―――結果、どうなったんだ」

 

「一応はOKもらえた。それに監視のために数人置いて行ってくれるって」

 

蒼夜の意思か、それとも歳を尊重してなのか。最後には伊丹が折れて、彼らを残すことに同意したが、彼らとの間で約束されたことを守ることも優先となり、伊丹の隊から数名がイタリカに残ることとなり、後日の夜明け前には彼らから迎えに来てくれるということで話は纏まった。彼らを納得させるということに四苦八苦はしたが、蒼夜たちが先に色々としていたお陰で、無事に丸く収まったらしい。

報告を聞いた孔明は顔をニヤつかせ、彼らの成果に評価していた。

「ほう。話術は得意ではないと言っていたが、そこそこに出来ているじゃないか」

 

「どうかな。あの隊長さんも俺たちの言う事、まだ半信半疑だったようだから、こっちが何か裏方やってるの、読んでると思うよ」

 

「そう…でしょうか? どうにも私はあの人…伊丹さんがそういう風に見ていたとは…」

 

伊丹がそういった策士的な人物ではない。それには蒼夜も確かにそうかもしれないと、マシュの意見に首を縦に頷かせるが、実際本当にただの抜けたオタクであるとは言い切れないと、ほめていたはずの孔明の顔はまた直ぐに仏頂面に変わっていた。

 

「確かにあの男。見た目はズブというか馬鹿にしか見えないが、あの炎龍とかいうドラゴンとの戦いの後や、基地内での振る舞い方からして、早々にそういって捨てきれるヤツでもない」

 

「それによくある話だろ。策士っていうのは一番そうでなさそうなヤツが本当は策士なんだ。ヘクトールのオッサンが言ってただろ?」

 

「オッサン…ですが、そうですね。ヘクトールさんが言ってました」

 

トロイア戦争の大英雄、ヘクトールの言葉となればそうそう信じられないというわけもないだろう。神々の戦争を戦った男。そして戦況不利だったところを守り切った英雄だからこそ、普段はのらりくらりとしているが、その英雄、指揮官としての顔も持っている。

最近では普段のスタメンではないが、時に同行して戦術を授けてくれたりと二人とも仲が良い。

 

「大英雄のお墨付きじゃないか。だが、それでなくても私は彼を警戒するがね」

 

「それは…少し過大評価では?」

 

「なんだと思ったのだけどね。どうにも、彼は他の隊員と違って戦術眼を持っている。観察力もそれなりだ。それにあの場での冷静な判断もあるから胆力もあるだろうに」

 

流石に絶対に敵にしたくない、腹の中は黒いというわけではないが、彼がただの自衛隊員という話ですまないのも確かで、孔明曰く、もしかすれば何処か特殊な部隊に居たのではというのが彼の考えだった。

自衛隊にもそれなりに特殊部隊は存在する。レンジャーなどもその代表例で、一般的な自衛隊員と呼ばれている普通科の人間よりも更に上をいく者たちだ。

 

「兎も角。あの人は確かに頼れるけど、だからって完全に信用できるわけでもない。それに、俺たちの状況からしてそう堂々言って信じてもらえるかも怪しいからね…」

 

「それには同感だ。聖杯探して、並行世界から来ました。なんてことを信じてもらえるとは思えん。それに我々サーヴァントや魔術のこともある。迂闊に言えばなにが原因でデメリットになるか分からん」

 

「当面慎重に…ってワケだ。まぁ…そうだよなぁ…」

 

「一応、議会で話すことも考えないといけませんね」

 

次にやることも決定した蒼夜たちはさっさとピニャとの約束を果たし、その事について注力しようと、疲れた体を伸ばして眠気と疲れを飛ばしていく。軽く体操をして骨を鳴らし、筋肉を目覚めさせた彼に、マシュと孔明もさて手伝いを続けるかと後についていく

 

 

 

が。その次の瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイ、そこのお前ッ」

 

 

「えっ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那。次の瞬間、彼が振り向いたと同時に顔面にめがけて一発の拳が撃ち込まれた。

その突然の攻撃に防ぐこともできなかった蒼夜は、そのままそこで意識を手放してしまった。どうしてマシュたちが反応しなかったのかと気にはなったが、兎も角彼の最後に見えた光景、それは

 

 

 

 

(………馬と………女…………リリィ?)

 

 

リリィのように鎧をまとった女騎士。それが馬に跨り、鉄拳をくらわせた。

そして後ろには同じような騎士たちと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緑のオタク(伊丹)が居たような気がした。

 




後書き。と言う名の番外編。

感想欄での疑問答についての一斉(ではないけど)回答

・鯖たち弱すぎだろ。
 うん。確かに弱すぎた。けど、流石に無双しまくるのもどうにも面白くないと思ったので少し弱体化…したハズだったのがかなり弱くなってたので、次からは本来のステータスに近いものになるかな。

・FGOメンバー存在薄すぎ
 ですよねー!!?
…ってことで次からも頑張って存在感増やす所存……つーか…アレ。主役って彼らだよな…

・現代兵器なら屁でもないだろ
 まぁそうだけど…正直、現代兵器について神秘云々でどうしようかと思った。
兎も角「現代兵器? そんなの軽い軽い」って感じで「避けさせます」



「避けさせます」←ランサーを見て


・オリ鯖って出る?
 出ない…と思う。だって作るの面倒…もとい、コレジャナイ感で失敗しそうなんで…

・他の鯖orボンクラ作者が持ってない鯖が出るかどうか。
 持ってない鯖…出してもいいよね?


出してもいいよね!!!!!!(血涙で皆さんに突撃していく)
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