Fate×Gate = Gate Order = 作:No.20_Blaz
が、イマイチモチベーションが上がらず書ける時間も少ないので今回は少な目になっています。
あと一話ほどでチャプター3として日本での話に突入する…と思いたいです
また誤字とかがあると思いますので、よろしくお願いします(汗
サーヴァントは、使い魔の中で最高位に位置する存在だ。
過去の英雄、名将たちが現代に召喚され、魔術師と共に戦う。いや、代わりに戦わせる最強の兵器と言ってもいいだろう。
そのサーヴァントたちには、一部の例外を除きある特性が備わっている。
英霊、つまり霊の類であれば誰もが持っている『霊体化』の能力だ。
この霊体化の能力は一見ただの姿を消すだけの能力だが、その能力だからこそ実体化時には出来ないことができる。
そもそもサーヴァントは決まって聖杯戦争で呼び出されるので霊体化をすれば人間に視認されることはない。それはマスターも同様だが、基本その時はマスターに随伴しているのがほとんどだ。これによって夜間や撤退時には他人や相手に見つかりにくいという長所がある。
また、霊体になることで物理的な物などによる防御がほぼ無意味になる。これは分かりやすく言うと閉じられたドアを開けられない時には霊体化することで通過が可能になり、更に手錠を掛けられていても同じく消えれば手錠は外されると同じく落ちていく。
この能力を使い、サーヴァントとマスターは聖杯戦争を上手く勝ち抜くことも重要なポイントだ。
◇
「偶にはこういう休暇も悪くはあるまい。痛覚抑制の処置を施されてるとはいえ、君の体は今ガタがきているんだからな」
と皮肉をいう様な挑発的な態度で言うエミヤに、蒼夜は返す言葉もないのか目を逸らしてふくれっ面で小さくぼやいた。
それが精々の彼の反抗だからだ。
「はいはい…大人しくさせてもらいましたよ」
「……やれやれ」
一応は気遣ったつもりだが、言い方に皮肉の色が強かったせいでいじけた様になる蒼夜に、アーチャーは悪気があったのと共に反抗的な返しに強情さを感じて呆れていた。それはキャスターこと孔明も同じで、子どものような態度を取らなくてもいいのではないかと内心頭を抱えていた。
「意地を張るのはいいが、だからといって無理をするなと言っている。君は人類史最後のマスターなんだ。その君が無理をして潰れてしまっては人類史の未来どころではないのだぞ」
「………。」
人類史最後のマスター。蒼夜たちの世界では既に先の未来が焼失してしまい、人という種が根絶やしになってしまっている。残された時間、そして人類。カルデアはその未来を救うために過去へとレイシフトして特異点を修正する。
それは、蒼夜たちの時代、時間ではもはや彼自身しかできないことだ。
「マスターとして、先陣を切ることに異論を唱える気はない。もう慣れたことだからな。だが、だからといって、君の代わりが居るわけではないんだ。命であれ何であれ、君が死ねば全てが終わる。人類史だけではない。これまでの努力、全てもだ」
「それは…」
「だからこそ、君には常に最善の状態でなければならない。どんな時でも、如何なる場合でもだ。それを君は受け入れたはずだ、マスター」
駄目押しの孔明からの言葉に押し黙るのは、それを当人自身が一番身に染みて理解しているから。カルデアの設備も電力も、殆どがその為に割かれているのは当然だが、更に彼のメンタル、バイタルを確認するためのことや体調管理なども徹底している。
全ては彼を万全の状態にして任務を遂行させ、成功させるためだ。
「…説教じみた言い方になったが、君に無理をしてほしくはない。マスターとして、君には生き残ってもらいたいこともあるが、私たちとは違い君は人間なんだ。マスターだからといって、誰も君に私たち以上の結果を求めているわけではない。君には君にしかできない事がある。私たちはそれを導き出せるためにサポートをしていることを忘れないでくれ」
「……それってつまりもう少し努力しろっていう遠回しの言い方だよね、孔明?」
「………。」
「そこは否定してほしかったな、エルメロイⅡ世」
答えることのない孔明に対し、アーチャーと蒼夜は無言のまま目だけを逸らして葉巻を吸い始めたので、これには説教のようなことを言われていた蒼夜も態度を変えたことに不満でしかなかった。言いたい事だけを言って図星を突かれて目線を逸らされたのでは蒼夜も令呪を使わざる―――
「…使うなよ?」
「………チッ」
あからさまに使おうとしていた蒼夜に、軽い怒りを覚えた孔明はそれ以上に勝っていた呆れのお陰でそれ以上は怒りを爆発させることはなく話題をそこで一旦区切りにした。
そして、一拍ついた蒼夜は話題を変えて別の話を持ち出した。
「ところでアーチャー。ランサーとライダーは?」
「
「ピニャさんのところか…」
ライダーもかなり自分勝手な性格だが、だからと言ってマスターを放り出して東へ西へと行くほど身勝手ではない。一応、マスターへの信頼はあるので、負傷した蒼夜がイタリカにいる間は町から出ていくことはない。なので、ライダーが行く場所はそこぐらいだとアーチャーでも分かり、蒼夜も納得がいった。
王として未来の国を背負う彼女の姿に、興味が湧いたらしい。
「…随分と征服王はご執心だな。彼女に」
「一国の姫だからな。いずれは国を背負う身ってことで親近感を感じているんだろう。それに、統率者としてもそこそこ買ってはいたから、興味本位で見てみたいというのが本音だな。アイツは王という存在にはかなり五月蠅い。それに王という存在に誇りを持っている」
「へぇ…」
かつて騎士王たちと共に剣を交えたからか、それとも生前から『王』というものに何か強い信念のようなものを持っていたからか、ライダーの『王』に対しての意気込みは曲がることも揺らぐこともなかった。
民を率い、民を導き、民を先導する存在。自分勝手で、他人を振り回し、誰かを巻き込む。
だが王として、その気品が失われることはなかった。むしろその王としての在り方によって彼は民に慕われたのだ。
「罵倒しに行っただけかもしれんぞ?」
「かもしれんな。だが、それでもあの娘には何か魅かれるものがあると、アイツは言っていた。欲望に忠実なヤツだからな、ライダーは」
「…孔明。前々から、思ってたんだけど…なんでそんなにライダーのこと詳しいの?」
ふと延々と語るように頷いていた孔明に対し、思い切って問いを投げた蒼夜。これにはアーチャーも同調し何も言わなかったが、そこは興味があると言った目で同じ視線を向けていた。
不意を突かれたようにぶっちゃけた事を聞かれた孔明は、平行線を進んでいた自分のペースに乱れが出て、いつもの態度は何処へといったのか、狼狽したように目を二人から逸らした。
「え゛っ……それは…その…なんだ。前にセプテムでアイツの子どもの頃のと出会って(FGO第二章、参照)興味が湧いたのでな…一人黙々と調べていたというか…」
「………調べていた…ね」
(確かあの時…)
「けど、なんか初見って雰囲気じゃなかったよね?」
「………!」
しかし相手が悪かった。蒼夜は当然だが、エミヤは第二特異点であるセプテムの時に出会ったサーヴァントでこの時には既に彼のパーティのエースとして前線に出ていた。しかも、出会った時のアレキサンダーの顔が妙に記憶に残っていたのか、二人ともその会話の内容をほぼ大体は記憶していた。
戦場のど真ん中でセイバーことネロ・クラウディウスと会話をしようとしていた後の征服王。そして、その後ろに随伴していた葉巻を吸った目つきの悪いキャスター。その言い方、雰囲気、周りの状況に対しての反応が何となしに慣れていた感じであったことを頼りに、二人はそうだよね?と問うように食らいつく。
「いや…」
「それはアレだ、マスター。彼にとってアレキサンダーは…いや、征服王にはデジャブを感じるからだ」
「そ、そうだ…だから…」
「だから彼と征服王は生前に何等かの関係を持つか、憑依前に関係を作っていたということで追及したほうが良いぞ」
「あーそういう!」
フォローかと思った一瞬、気を緩めて彼が助け船が出たと思った自分が馬鹿らしいと思った孔明は怒りで葉巻を握りつぶし、手に魔力を溜めてあふれ出た怒り声を爆発させた。
「貴様ら、帰ったら覚えてろよ!! このジャパニーズどもがぁぁぁ!!!」
これだから日本人はと怒声を上げる孔明の脳裏には教え子の一人である日本人の少女の姿があったが、彼女の周りでの出来事を思い出したことで更に怒りの熱が燃え上がり本人も思っていたのかそうでないのか分からない言葉を叫んでいた。
それほどの怒りをすると思っていなかった蒼夜は孔明から遠ざけるようにベッドの上で退いていたが、端にまで追いやられてしまいその怒りだけでベッドという領土を奪われたように思えた。
「日本人は悪くないっての…」
「そこまで怒ることもないだろう…事実を述べただけで―――」
「その事実で孔明がキレたんでしょうが!」
こりないアーチャーに怒りを向け、それ以上の余計な口出しを封じさせる。これ以上なにかを言えば、確実にその場の空気が最悪になっていくのは目に見えている。火に油を注いだアーチャーもそれは分かっているのだろうが、その本人の普段からの話し方もある意味の原因だ。下手に口を開けばまた孔明が怒るだろうと蒼夜も全力阻止に必死だ。
「………。」
それを一言で理解したアーチャーは、マスターである蒼夜からも怒鳴られたので自分の言葉も原因であると察したのか、やれやれとため息をついて口を閉じた。
口は禍の元。それが自分の口であることを理解したようだ。
「やれやれ…いつもの事だけど、ほんと足並み悪いな…」
戦闘についてもそうだが、個性豊か過ぎる彼の陣営のサーヴァントは大抵が揉め事を起こすことが多いのでその後始末にはいつもマスターである彼とマシュが苦労して行っていた。最近までアーチャーとリリィも入っていたが、バカ真面目なリリィのお節介とアーチャーの女難と皮肉などからの挑発態度。これが原因で最近は二人も巻き起こす側だ。
ランサーが現地の女性に手を出し、清姫が妄想で暴走する。孔明はライダーに連れられてライダーは何処だろうとなんだろうと全力で暴れまわる。
「―――アレ。そういや、このタイミングでライダーがあそこに行くの、マズくね?」
「「………あ。」」
思い出した時にはもう遅い。この時、ライダーは既に応接間の扉を開いていた。
◇
特地にも魔法の概念は存在している。しかし、蒼夜たちの世界とは概要的に異なっており、魔力を通し行使されるものは総じて『魔法』と呼ばれていた。
唖然としていたピニャのたちの脳裏にもそれを元にした可能性と仮説が浮かび上がっているのも確かで、目の前で起こっている説明できない状況に彼女は不意にそれを口走った。
「…魔法の類か」
「魔法…まぁ、魔術の類ではあるわな」
突如として現れたライダーに対し、警戒を隠せないピニャに頭を掻いて答える。
一定の知識を持っているので、どう説明するかと考えていたライダーは小難しい話をするのが面倒なのか率直に事実だけを述べる。
魔法、ではなく魔術。確かに突然現れるのであれば魔法と呼べるのだろうが、ライダーは霊体化してここにやって来たので、厳密には魔術というべきだと。
「魔術……それがお前たちの世界の魔法の総称か」
「いや。坊主の話では、『魔法』と『魔術』は異なっているようだ。余にはそこまでの難しい話を説明する気はないのでな。ま、お前たちがそう思うのであれば、そう思ってくれればよい」
魔術と魔法の違いはシンプルなもので、魔力を通して行使するのは同じだが無から有、有から有をするかによって違ってくる。前者を何もないところから何かを作ることを『魔法』。有る物から有る存在を作るのを『魔術』と呼ぶ。
魔術は空気中の酸素と結合させて魔力を使うことで発火させる。
しかし魔法は宇宙でも発火できる。極端な話を言えばそれが魔術と魔法の違いだ。
「………?」
「余もそういった小難しいのには興味がないのでな。残念だが、聞くのは坊主たちにしてくれい」
扉の前にいたライダーは喋りつつ、暗闇だった廊下から明かりのある応接間へと入る。ぬっとあらわれた巨体と赤いマント、そして蓄えられた髭は確かに彼だ。太い足を地面に打ち付け、入ってくる姿にその確信を得たピニャだが、だからこそ逆にその姿を見て沸き起こった矛盾への衝動に彼女の口は意識せずに開かれる。
その場にいるからこそ
「―――…どうやって地下牢から脱走した。兵にも、誰にも気づかれずもぬけの殻のように、どうやって貴様たちはあそこからここに来ることができた…!」
彼をまだ霊体でないことを知らないのであれば当然の疑問、そして問いかけだ。ライダーたちの脱走方法はあまりに信じられないほど鮮やかで、なおかつ滑らかと言える。誰にも気づかれず、警備をしていた兵士でさえもそのことに気付けなかった。しかも穴を掘った形跡もなく、かといってどこかに細工された形跡もない。
全て彼らが入る前と同じ。しいて違う点があるとすれば、彼らが抜け出した証拠として落ちていた木製の手錠三つがあるだけ。まさに完全密室を彼らは気付かぬうちにやってしまっていたのだ。
「あそこには私の兵士たちが居た。鍵も奪われないように遠ざけていた。土の質は硬く、掘ることでさえも難しい。なのに、お前たちはどうして何もせず…いや、何もしてないかのようにあの場から出ることができた?!」
「だから言ったであろう。魔術の類だと」
「それだけで済むと思うか。第一、そんなことができるのであれば大魔法クラスのものだぞ」
今はまだ霊体化について口にしないようにと言われているので霊体などについて話すことは出来ない。しかし実際自分たちがそうして出て来たのだから、そう説明すれば簡単なことだ。が、今後のことやサーヴァントとしてのアドバンテージを出来るだけ維持しておきたいという考えから、蒼夜はあえて霊体化については話さないようにと言っていた。
であれは、あとは口八丁手八丁で納得させるしかない。
「この世界では…ではないのか? しかし余や、あの坊主が居た世界ではそれほどのものでもなかったがの」
「………。」
「忘れたか? 余たちが異世界から来たということを。であれば、定義も考えも違うのは必然ではないか」
今更なことに気付くピニャは目の前にいる男が異世界の王であることを忘れかけて、すっかりと馴染んでいた彼の存在感と信用してしまう言葉に気おされていた。
ライダーの存在感、そして言動。彼の立ち振る舞いは特地の世界においても何ら変哲もないだろうもので、彼が一国の王であるというのも信じられるように思えてしまい。そして、その言葉はひとつひとつが心に響き、彼女たちに根拠のない信用を持たせてしまうのは、彼の『カリスマ』所以だろう。
王やそれに匹敵する者たちであれば所有するスキル『カリスマ』は裁定者であれば他者を信用させるが、生憎と彼はそんな優しい男ではない。
「それは…たしかにそうだが…だが、だからといってそれが魔法であれ、その魔術であれ、並大抵のことでないのは確かなハズだ」
「………まぁ、そうだわな」
僅かな間だけ沈黙したライダーだが、その態度と調子が狂うことはなくはぐらかす様な彼の言い方はピニャの言葉を軽く受け流した。
マスターから霊体化についてはまだ話してはならない。これを厳命されていたライダーはまだその時ではないのだろうと察していたようで、それに従い彼女を試してもいたのだ。
「それだけの大魔法…いや、魔術か。それを行使できるお前たちは…一体何者なんだ?」
霊体化を知らない彼女は、それでもそれ自体が魔法であっても簡単にできないことであり、またそれを平然と行える彼らの異常さに食いついて来る。あの場からなんの痕跡もなく姿を消せるということは転移などの空間系、姿を消す透明化などが考えられるが、当然そんな事は何処の世界でも並大抵にできることではない。蒼夜たちの世界では令呪によるサーヴァント転移がその最もな例だ。令呪のような膨大な魔力とバックアップがあってこそ、初めて空間転移という馬鹿気たことが可能になる。一応、それに近しいことができる者たちが居たという記録もあるらしいが、ここでは語ることではないだろう。
「さて。今はまだ教えられんな。なにせ余はあの坊主の仲間であり、あ奴はああ見えて我らの主なのだからな。だが、それよりもいいのか?」
話題を逸らすようにライダーは自分がこの場にいることに対しての疑問、問題を投げかける。すっかりと彼が現れたことに関しての疑問と驚きに意識が向けられていたが、そもそもライダーはその場にいてはおかしいのだ。
彼は他の二人と共に牢に捕らえられていたのに、それがこうして平然と立って会話をしている。大前提がすっかりと抜けていたことに気付きはしたが、もう既に遅いと本能的に察していたのか、さして驚くことをしなかった。
「…もし、お前が敵将であるなら、既に妾の首をとっていた…とでも言いたいのだろう」
「かもしれんな。今のこの町の戦力では余一人でも落とす事は容易だ」
「だからといって、ただそれだけを言うためにここに来たワケでもあるまい。もう秘術や魔法のことについて、お前がここに居ることについて問い詰める気はない」
諦めというより完全に詰みになった現状に、驚くことにすら気も失せてしまったピニャはため息をついて玉座に座り込んだ。
そもそもライダーとこうして会話している時点で、彼女は心を許してしまい警戒こそしていたが相手がいつ襲ってくるかというのを考えていなかった。
「で。そんなお前が何の用でここに来た。悪いが、見ての通り少し立て込んでいるのでな」
「わかっておる。まぁ、少し様子見にな。花の姫君が今頃、此度の件で狼狽しておるかと思っていたが…存外、冷静だな」
実際ライダーの目的はその程度だ。特に深い意味も目的もない、裏もなくただその言葉通り様子を見に来ただけ。興味と好奇心からの勝手な行動だが、それだけに一応本人は自重しているというが、それを本当に自重と呼べるのかというのが蒼夜たちから見た『自重』だった。
「…妾が狼狽えていないとでも? こうみえて頭の中は今にも暴発しそうなのだがな。騎士たちの不始末、それの謝罪、間違えて捕らえられた者たちの解放と治療。そして来るだろう自衛隊の、伊丹殿の兵士たちの案内。そして今のイタリカの安定化。辛うじて治安回復は出来たが、未だ余念を許さないのは見て分かるだろう」
「ほう…」
憂鬱な顔で頬杖をつき自分の今の忙しさや苦労しているというのを言葉で並べていく。労わりの言葉でも欲しいかのような言い方は度重なる不始末やアクシデントに対しての欲求なのか、心労のたえない彼女の目は本当にそれを求めていた。
「協定の違反に関してはどうする気だ。お前の騎士たちが謝罪しただけで済む話ではないのは、お前さんも分かってるだろうに」
「当然だ。今回の不始末、情報が伝わっていなかったこともあるが、だからといって今回の騒動を引き起こしたのは他でもない妾の騎士団だ。であれば、指揮官である妾が直接謝罪するのもまた……致し方ないことだ」
「…姫が頭を下げるか」
小さく舌打ちをして歪めた顔には、納得と怒りが混じった顔になっている彼女の顔があった。姫としての威厳があったが、それが今回の一件で汚れるハメになった。騎士団の面々が協定を知らなかったり、その独断を許してしまったことに対して騎士団のまとめ役としてそれくらいしなければならないという気は、確かに彼女にもあった。しかしやはり姫としての気品、権威、威厳を知らないうちに高く持っていたからか、グレイにも謝罪の話を切り出された刻には彼女もそこまではしたくないと拒絶していた。
が、今は劣勢である自分の立場ではもうそんな贅沢も言えないだろうと、必死に理性で怒りを抑え込んでいた。
「であれば、それ相応の言葉と行為をするということだな」
「……無論だ。今回の一件で伊丹殿に対して直接の暴力と違反を行った騎士たちには厳罰の処分を下す。特に、女であるならやることは一つしかない」
「体を売るか。仮にも騎士、しかもあの身なりは位の高い娘なのだろう」
「その前に一人の女だ。女は女のやり方で謝罪をする。男は男のやり方で罪を償う。それがこの世界のやり方だ。残念だが、言葉を並べただけで許されるほど、この世界も甘くはない」
もしこの時、伊丹や蒼夜たちが居れば耳の痛い話と思って目を逸らしたりしていただろう。今でこそ、大抵のことは謝罪などで済まされたり売春以外の方法で治まったりするが、ピニャの世界、特地では当然そんなことで済むほど謝罪の意味は軽くもなく違いも出てくる。
今回のような大きな罪の場合は、女性として謝罪をしてもらうというのが、この世界での習わし。つまり、体を売って謝るしか方法はないのだ。
「そんなことで
「協定を結び休戦をしたハズが手のひらを返され、捕虜になったか。まぁ、言い様によっては口実になるな。が、相手が人道的という理念を基本にしているのを忘れてはいまいか?」
「人道的であっても、彼らにも限度がある。今回のはあまりに一方的すぎた。向こうからの抗議を受けるのも当然のこと。最悪、それが理由で向こうの過激派が戦端を開く可能性だってある。絶対に彼らが何かの反応を起こすことを考慮すれば、それぐらいの可能性だって考えられる」
「…ふむ。確かにそうかもしれんな。で、お前はその前に戦端を開く口実の芽を潰そうとするか」
なるほどなと首を傾げるライダーに、ピニャは彼の反応が自分の考えを読んでいたかのように思え、いぶかしく思ったが一先ずは顔に出さずに沈黙を通した。
体で払うということは、彼女はそうすることで戦端を開く口実を裏から潰そうとしている。女を抱くのであれば異性として拒絶できるものではないだろう。性癖が違っていたりすれば話は別だが、幸いか伊丹は典型的性癖だと言える。
「今回の戦い。その一部始終を見て、私は理解した。だから今回のようなトラブルは早期に摘むべきこと。特にそれが妾の騎士団の起こしたことであるなら猶更だ。失態云々ではなく、両方の関係を維持するために必要な処置だ」
「お主は、戦う気はないと申すか」
「………。」
ピニャの腹の底。その根源にある自衛隊に対しての印象は二つあった。
一つは自分たちと技術・文明面では圧倒的な差があること。鉄の馬車と称した車や銃などがそれだ。
そしてその銃を用いた、まだ帝国でさえも行きついてない技術と軍事力による戦力の差。戦法、戦術の違いもあるが、一番の違いは戦い方そのものだ。歩兵と騎兵、槍兵を使った今までの戦いとは違う。鉄の武器を使い、弓などのように遠くの敵を撃ち抜く、そして鉄の天馬こと戦闘ヘリによる蹂躙。
地位も名誉も、尊厳すらもない戦い。唯々圧倒されるだけの戦いをこれ以上つづける意味が果たしてあるだろうか。
「無理だな。今の帝国の総戦力全てを出しても。そして、仮にかつてのような強力な軍があったとしても。我らの戦力では彼らの兵器には到底勝てない。それどころか、かすり傷ひとつを負わせるのが精々だ。そんな相手に何度も戦いを挑むのは無謀としか言えん」
「……正論だな。だが、魔法やこの世界の生物を使えばあるいは勝てるのではないか?」
「それこそ無理な話だ。炎龍を見ただろ。アレを手懐けるなど亜神でない限りはできないこと。加えて神がこんな戦いに手を貸すはずがない。彼らは気まぐれなのだからな」
確かに炎龍は伊丹たちの標準装備である六四式小銃や重機関銃では炎龍の鱗に対してダメージすらなかった。マトモにダメージがあったのは目だけで、それ以外は対戦車榴弾を使わない限り効果もなかったのだ。
戦力としては申し分ないどころかケチの付け所もないだろう。ただ一つ。炎龍の自由意識などを除けば。
魔法の手もあるが、それはそれ魔導師たちが応じるとも思えない。では、亜神ではどうかと聞かれればピニャの言葉通り、その性質はほぼ気まぐれなものと言ってもいい。ロウリィがその典型例だ。彼女にも一定のルールと基準があるが、その基準さえ当てはまれば相手が誰であろうと問答無用だ。
「つまり。最後は人の手でどうにかしろという。だがその人の手も無理であるなら…答えは一つしかない」
「自衛隊の大元…そことの停戦条約か」
「いや…和平だ。形どうであれ、これ以上戦えば負けるのは確実。なら、向こうがこれ以上の戦う意志のないうちにこの戦争を止めるのが上策だ」
大局と大よその結末は見えた。不確定要素がコレ以上ないのであれば、あとはその結果にたどり着く前に戦いを終わらせるだけ。既に敗北濃厚となった帝国対日本の戦いにピニャはこれ以上の戦いは無駄と判断したのだ。戦っても兵を無駄に死なせるだけ。ならばできるだけ良い形で和平を結び戦いを終えるのが一番の策である。これが彼女の考えだ。
「当然、この事を受け入れられない輩が多いのも確かだ。武闘派、好戦的、野心、保守。上げれば多いが、みな面子を持っている。そのためだったり、単に帝国のためにという者がいたりするが、結局は慢心と野心、そして国内での権威の争いがほぼ大半だ」
「つまり、自分の面子と立場を守り、更に上へと昇り詰めるためにあえて戦うか。愚考でしかないわな。」
「実際、彼らは自衛隊の戦力を知らない。ただ一方的にやられたという事実だけしか報告はなく、彼らはそれでも意味のない無謀な戦いをするだろう。そうなれば帝国は遅かれ早かれ確実に滅んでしまう」
「だからこその和平か」
大局的な勝敗は事実決しているといっても過言ではない。というのも自衛隊でなくても技術的、軍事力などからしても日本と帝国の技術力の差は目に見えたもの。ひどく言えば月と鼈の差だ。それでもなお戦い続けるのは軍人としては納得がいくがだからとって希望も対策もない負け戦を続けるなど屍を増やすだけ。それを間近で見て感じたピニャは、既にその意を固めていた。
ライダーは顎髭をなぞり話を聞いていると興味を示したのか、ふとある事を言い出した。
「ふむ…では、こういうのはどうだ?」
◇
「この度の件…本当に申し訳ありませんでした…」
蒼夜の寝ていた部屋にボーゼスの謝罪の言葉が空しく響いた。
時を同じくして騎士団からの疑いが晴れた蒼夜たちの部屋では、ピニャの前に居た三人の女騎士たちが頭を下げて謝罪していた。というのも、三人を呼びに行ったグレイからの提案で、面前だけでなく一人の人として先に謝っておくべきであるという事からの行いで相互に誤解や問題があったとはいえ、先に手を出してしまった彼女たちに非があるということからだ。独断ではあるが、彼女たちも自分たちの行いが一方的なものであることから、自分たちに非があるということで、真っ先に頭を下げたのだ。
「あ…いや…別に俺は…というか俺にも今回、非もあるし…」
まさか彼女たちがここまで誠心誠意な謝罪をしてくると思わなかった蒼夜は、まるで自分が悪人であるかのような状況に気まずさを感じ、自分にも非はあると弁護するように返す。事実、蒼夜にも罪はあるのだ。彼女たちだけが悪いというのはない、と。
「ですが、町を守った貴方たちを私たちは敵としてしか見ずにとらえてしまった。あまつさえ貴方を殴り倒したのですから…」
「それこそ俺に対しての罰ですよ。話を聞いてなかったっていう典型的な失敗をした。気付かなかった俺に罪はあるんだ」
そもそも普通に聞いていれば話しかける声は聞こえていたハズだ。なのに、それが聞こえていないかそのフリをしていたというだけでも蒼夜に責任はある。
「加えて、彼は少し体調不良と過労気味だったからな。いい治療と休息になった」
「アーチャー…」
結果オーライではないが、そのお陰で蒼夜はこうして休息をとることができた。が、結局は彼にも責任があるのは変わりなく、自責の念とそれに反した休息による体力回復に彼の心境は複雑なものだった。
「否定はできないだろ? 結果と事情はどうであれ、休息は必要だった。それに君は正直無理をし過ぎてる。こうでもしない限り君は傷を隠すだろうからな」
皮肉のように事実を口にするアーチャーにぐうの音も出ない蒼夜は小さく唸り、開けない口の中に言葉を押し込めた。
言い方に難こそあるが、彼のいう言葉は事実だ。連戦に続く連戦で疲労感は確実に蓄積されている。特に今回だと蒼夜たちは少し前まで特異点一歩手前の鬼ヶ島と呼ばれていた場所に行っていた。そこで聖杯を手に入れていた源頼光によって作り出された鬼と頼光の中に居た丑御前との戦い。
「それに、彼の言う通り今回の一件には彼にも責任はある。それを自分から取ると言っているのだから素直に受け取ってもいいとは思うぞ?」
「それは…ですが、私たちにも…」
「君たちは君たちで自分に責任があると感じている。それを顔に表しているのであれば、彼はこれ以上なにも言わないさ」
経緯やいきさつ、事情を知らないので、だからといって自分たちの立場から素直に引くことも出来ないと引き下がることもできない。
アーチャーの言葉だけでは流石に納得してれないと思ったのか、そこで蒼夜は小さく笑みを作ってボーゼスと目を合わせた。
「ボーゼスさんたちの気持ちはありがたいですけど、今はこれ以上のものを望みません。それにこうやって謝ってくれるだけでも俺は十分満足してますから」
「………。」
「…わかりました。今回は、貴方のご厚意を受け取りましょう。感謝します」
「だな。変に強請るのも騎士以前の問題だ」
一度目を合わせた三人はどうするか迷ったようだが、無理に彼らに何かをさせてくれというのも、かえって厚かましいと思ったのか沈黙していたパナシュは、今回は一歩退いて彼の好意を受け取ることにした。このままでは話が硬直することもあって、どちらかが退かなければと思っていたようで、その引き下がり方はかなり自然なものだった。
「助かる。こいつは変に優しすぎるからな。それに多少強情にもなる、そちらから引いてくれない限りはこいつは意地でもそれを受け入れない」
「…キャスター、それはないと思うよ? だって、今回は俺も―――」
「分かったから、お前は寝ておけ。この被虐体質」
それでも自分の責任を言おうとする蒼夜にキャスターは若干怒気を交えた声で無理やり抑え込んだ。このままだと自分もと言って聞かないだろうからと、多少きつめに言い放ち、それが影響したのかそれ以上は口を噤んで黙り込んでいた。
「被虐体質はないと思うけどなぁ…」
…と、自覚していないことをつぶやいて。
これにはキャスターもため息をつくしかなかったが、彼の性格上それは仕方のないことと殆ど割り切っていた。
他人優先。これが彼の基本だから。
『―――先輩、入ってもいいでしょうか?』
ドアを二回軽くたたき、向こう側から聞きなれた声がしてくる。丁寧な言葉遣いと彼のことを「先輩」と呼ぶのは今のカルデアの中では一人だけ。マシュだ。
やんわりとした声に蒼夜は間を開けずに返事をする。
「どうぞ、入って」
「失礼しま……あれ?」
蒼夜からの返事を聞いてドアを開けて入ったマシュは、ゆっくりと開けたドアの向こう側に居た騎士たちに目を丸くした。白い鎧をまとった彼女たちが三人、並んで自分のマスターと向き合っていたのだ。何だか少し重苦しい雰囲気ではないかと思っていたマシュはどうして彼女たちが居るのかを最初に蒼夜に訊ねた。
「先輩、これは…?」
「ああ…これは」
簡潔だがこの状況について説明をする蒼夜。ボーゼスたちがどうしているのかなど疑問があったが、説明と本人らへの確認をしたマシュは小さく頷いた。
「―――なるほど。ということは、今回はボーゼスさん…でしたっけ。皆さんが自ら、今回の件について謝罪しに来たと」
「今回、我々は一方的に貴方たちを拘束しました。本来なら騎士の名に泥を塗ったことで重罪にもなりますが…」
「そこまでしなくても…それに先輩…マスターが言った通り、皆さんが誠意をもってこうしてくれたのですから、私たちはそれだけでも十分伝わりました。それにこうして謝ってくださってるのですから」
それだけでも十分ですというマシュに、そうなのかと訊ねたくなるボーゼスとパナシュ。隣にはヴィフィータが居るが、彼女はマシュの笑みに素直に受け入れていた。
騎士たちの世界であれば形で何かを示して謝罪や贖罪と言えるだろう。だが、マシュ達の間、今の時代だとこういった軽いイザコザは頭を下げて謝罪するだけでも十分意味を持つ。時代や価値観の差だがやはり彼女たちにも罪悪感はあったらしい。それが完全に出し切っていないという不完全燃焼のような感覚に苦しい表情だ。
「でも私はピニャ様が不在の間、騎士団を任されていた身…罰を受けることにはなる」
「そう…なんですか」
「ええ。聞けば、あの緑の人たちは往来を約束されたと聞きます。だから…」
それに手を出したから協定違反だ。か。
今回の話題の根幹であり原因であることを掘り返したアーチャーの言葉にボーゼスは苦の表情をすることなく小さく頷く。確かに安全を約束されたのに危害を加えれば立派な違反になるだろう。それを行ってしまった騎士団、その指揮をしていたボーゼスたちに処罰が下されるのも不思議ではない。
「加えて、俺はアンタらのマスターって奴を殴っちまったからな…」
「あー…いやその事については、もう…」
「…あの、キャスターさん。何か…?」
「ああ。あのレディが殴ったことの謝罪を最初にしたのだが…
すさまじく潔い土下座だったよ」
これを最初に出されては蒼夜もキャスターも何も言えない。しかもかなり本気であったこともあって、しばらくの間、部屋には嫌な沈黙と空気が流れていた。
まるで蒼夜が全て悪い、そんな雰囲気だ。
が。もしかすれば今後、この直後にそれが現実になるのではないかという懸念がまだ残っていた事を、緩んでいた蒼夜はすっかりと忘れていた。
そう。解放されたのはマシュだけではないのだ…
「まぁ。土下座ぐらいはして貰いましょうと思っていましたが…騎士というのもまた…侍と同じ潔さを持っているのですね。私としては腹を切ってほしかったのですが」
「………。」
「あ…」
「……そういえば」
刹那。声と共に乗せられてくる冷たい冷気のような寒気とプレッシャーが重く部屋の中に圧し掛かる。重圧で潰されそうになるような威圧感と悪寒はまるで蒼夜の頬を撫でるようにゆらりと漂っている。しかしそれ以上に辺りの気配がのし掛かり、全員の体は硬直してしまい、重圧感に息を飲むだけでも重労働のようになってしまう。
「こ、この殺気とも…嫉妬ともいえるような気配は…?!」
「あー……俺の仲間だ………ッ!?」
冷たい悪寒。その中でまるで舌で舐められているかのような感覚と視線が蒼夜に刺され、その瞬間に彼の行動は金縛りにあったかのように止まってしまう。
寸分も外すことがないだろう視線に動くことすらできない状態で小刻みな震えすらも起こってしまう。しかしその中で伝わってくるのは冷たい嫉妬などの中にある暖かな…いや、暖かいだろう愛情の熱。しかしそれは何故かぬるま湯のように思えてしまい、湯冷めでもしたかのような彼の体は更に震えていた。
「あ……えっと…その…」
「ああ。ですが腹を切ってしまっては中の汚物が出てしまいますね…では、どうしましょうか…
………やはり、ここは汚物すらも出さず、塵すらも残らない滅却のほうが良いですよね。
旦那様?」
鋭く文字通り釘付けにされたかのように動くことのできない蛇睨み。チロチロと小さく細い舌が頬のあたりを舐め回し体には白いうろこのついた銅が巻き付くような感覚がある。
体中が縛られ、動けなくなったところを鋭い牙を使い噛みつくのだろう。
が、果たして彼女に牙というべき歯があるかは分からないが。
しかしだからといってその姿形が実際に自分の目の前にあるわけでなし。それでも彼にはそうされていると錯覚するほどの感覚が感じられてしまうのは彼女の性質が原因か。
「マシュ…」
「ずっと黙り込んでましたけど……いえ、小声でなんかボソボソと言ってました」
「だよなぁ…」
小さくテケテケと音を立てて歩いて来る足音。そして近づいて来る人物の目は人というよりも蛇か竜の目だ。怒りと悲しみに暮れていた瞳、しかし今あるのは嫉妬と怒り。
溺愛と狂乱の声が一室の中に響いた。
「ふふふふふふふふふ…
―――――覚悟は…よろしいですか?」
この直後、蒼夜が瞬時に令呪を使用したことは言うまでもない。
◇
清姫の発言と宝具発動の気配の魔力増大に、回復したばかりの令呪を直ぐに使ってしまった蒼夜。貴重な令呪がまたすぐに消えてしまったことと、回復したのがついさっきの数分前であることが彼へと更に悲しさを上乗せしていた。
貴重な魔力源でありサーヴァントたちを律する絶対命令権。それがまた一画、しかも早々と消えてしまったので、正面に向いていた彼の顔は暗く自分の下半身のあるベッドへと俯いていた。
「あらあら…旦那様が悲しそう…一体誰がこんなことを…」
と言って、静かな声とは裏腹に殺気立った目でボーゼスたちを見る清姫。だが、当然これが言われないことであるのは確かなので
「清姫。鏡に向かって言ってみ?」
「スマンがここは言わせてもらう。悪いが、今回は君が悪い。清姫」
「令呪がこうも早々と消えるのは私も初めてだよ…」
隠せない怒気を纏った静かな声で頭を抱える蒼夜と、やれやれとため息をつくアーチャー。そしてまたすぐに減ってしまった聖痕のあとにキャスターは同情の念を隠せなかった。バーサーカーである彼女が怒ればどうなるか。それは分かっていたが、まさかここまでのことをしなければならないと思っても無かった蒼夜は深くため息を吐き出した。
「な、なんだったんだ…」
「スミマセン、私たちのところの清姫さんが…」
怒りの静まった清姫と悲観する蒼夜たちの光景に状況がイマイチつかめない騎士たちに、マシュは頭を下げて謝罪をする。このまま訳の分からないうちにイタリカの町が業火に焼かれるところだったが、それが未遂に終わったので一先ずは危機は去った。
「あのご令嬢は魔法を使えるのか?」
「ええ…まぁ…本来は使える筈がないのですが…その…愛の力というらしく…」
「あ、愛の…か」
「はい…愛らしいです…」
その愛だけで炎を出せたり蛇か竜かに化けられる清姫の執念さはクラスの特性も相まって異常なものだ。しかも彼女の伝説の内容が内容なので、その執念さに拍車をかけているのだろう。
いずれにしても、今回のようなことが今後も起こるだろうと予想したマシュが先の思いやられると蒼夜と同じく深いため息をついた。
「あの令嬢、彼に対してのことで私たちに怒りをあらわにしていたということは、二人は夫婦…」
「ではないです、決して!」
マシュの強い言い方に若干たじろいだボーゼスは、どうやらマシュたちの間にも何か色々と混みあった事情があるのだろうと、それ以上は聞くに聞けなかった。
「そ、そうなのですか…」
「はい! 決して!!」
何やら複雑になってきた室内の雰囲気。すると、外で見張りをしていたグレイが扉を叩き坩堝の中へと入ってくる。なにか報告があるらしく、真っ先にその報告をするべき相手である蒼夜に目を合わせた。
「失礼…蒼夜殿。ご知人がお見えです」
「知人…?」
「あ。先輩、もしかして…」
扉の向こう側である廊下の暗闇から現れたのは薄暗い月明りに僅かに照らされていた白いドレスと銀色の鎧。それが明かりのある室内に入ると純白の白と眩い銀色を反射させる。
金色の髪を揺らし、そよ風のように柔らかな空気が舞い込んだ室内は先ほどの混沌としていた空気がどこへやら、換気されたかのように一変する。
揺らめく花びらの如く輝く顔は真っ直ぐと蒼夜へと向かっていく。
「マスターッ!!」
「リリィッ!!」
「リリィさん!」
幼い声を響かせたリリィが一直線に蒼夜へと向かってとびかかる。よほど心配していたのか今にも泣きだしそうな表情であったリリィを蒼夜は上半身に力を入れて受け止めた。騎士とは思えない細い体が蒼夜の腕の中に抱えられ、清楚な香りが辺りに広がる。
心配の全てをぶつけた彼女を受け止めた蒼夜は子供をあやすように背を撫でるとぽろぽろと涙をこぼすリリィと目を合わせる。
「心配かけてごめんな。けど、もう大丈夫だから」
「ふぁい…ご心配しましたマスター…私、一日千秋の思いで…マスターのことを…」
「……リリィ。意味違うぞ」
※一日千秋
意味 : 待ち遠しいこと。人や物事が早く来てほしいと思う事。つまり待つこと。
「え!? 違うんですか!?」
「覚えたてなのはわかりますがしっかりと意味を確認してください…」
なぜ彼女がそんなことを言い出したりするのかという疑問もあったが、それが蒼夜とマシュとの間で解決されていると、すっかりと蚊帳の外だったパナシュはキャスターに彼女について訊ねた。
「彼女は貴方たちの仲間…いや、騎士なのか」
「まぁ…騎士、ではあるし我々の仲間でもあるな」
そして、ひいては後に一国の王となる伝説の人物である。というのは蛇足だと思ったキャスターはそこはあえて口にせず、一先ず彼女の質問だけに答えた。
「では、貴方たちの世界には彼女のような騎士が他にも?」
「いや。あれはあくまで彼女の出自が関係しているだけで、我々の居る世界に「騎士」の概念は思想などでしか存在しない」
「…では、騎士自体がいないという事か」
「そうなるな。彼女の場合は今いった通り、彼女の出自、土地柄が関係している。彼女の生まれた場所は、この世界…君たちと同じく騎士の概念が存在した地だ。時代の変化と共に騎士は居なくなったが、騎士道の精神は残っている」
実際、騎士道の精神が欧州の価値観に影響したことも事実だ。よく言われるレディファーストもこれに当たる。確かに騎士道は既に存在せず精神も無きに等しいと言ってもいい。時代が進むにつれて騎士道精神は薄れていったが、今なおもその精神は細々と継承されてはいるのかもしれない。
これは伊丹たちに対しての言い訳として使うもので、自分たちがサーヴァントであるということを伏せるための言い訳の一つだ。
「だからこそ、彼は彼女を同行させたのだろうな」
混沌としていた空気が少しずつ軟化されて温和になってきた部屋の中、空気が緩んで話しやすいようになったので、リリィを交えて蒼夜たちはボーゼスとヴィフィータを加えて談笑をする。いつの間にか和やかかつ親しげになっていた彼女たちの間の空気にはキャスターとパナシュも声には出さなかったが順応の速さに口を開けてしまっていた。
が、それも長く続くことはなく、水を差すようなタイミングと承知でグレイが割り込んだ。
「…蒼夜殿。そろそろ我々はお暇させてもらってもよろしいか」
「えっ…この後に何か?」
「ええ。実は彼女たちは殿下に呼ばれていますので」
(やべっ…忘れてた…)
(ヴィフィータさん…)
天然気味に思い出した仕草に本来の目的がすり替わっていたことから、なんだかピニャの存在が適当に思われていると胃痛の彼女の姿を想像するマシュは、ボーゼスの顔色から明るさが消えて暗くなっていくことに、薄々は察しているが問いを投げた。
「あの、グレイさん。もしかして…」
「今回の件。その処遇を下すためです」
一瞬、グレイの言葉に清姫が反応したのを察知して蒼夜は制止させる。令呪が効いているとはいえ、バーサーカーなので何をしでかすか分からない。
しかしそれ以上に今回のことについての対処をするということに自分にも罪はあるということで弁護できないかと情状酌量の余地を求めた。だが、あくまで今回のことが騎士たちの独断であることや統括者であるピニャの不行き届きなどもあって、判断は全て彼女によって決められることから弁護などを行うことは出来ないと言われてしまう。
「此度の件、先に手を出したのはこちらです。しかもあまりに一方的で、かつ協定をも違反した。弁明して下さるのは有難いのですが、今回は身内が起こしたことということで、外部の人間である貴方がたからの言葉は残念ですが…」
「そんな…」
「が。仕方のないことであるのは事実だ。協定違反を行ったのが自分の部下であるのなら、その統括者である彼女が厳正な処分を下す。これは誰が行うことでもない、組織の上に立つものがするべきことだよ、セイバー」
冷たい言い方ではあるが事実を述べるアーチャーにキャスターも同意見ということか沈黙する。組織の頂点、指揮するものが部下の処分をしないというのは道理ではない。自分の組織、自分の部下であるのならその始末は統括者である自分がすること。今回の場合はピニャがそれに当たる。誰からの意見でもない、自分が厳正な処分を下すことが出来なければ、組織としてはあまりにいい加減かつ矛盾することになる。
一定の秩序と統率があってこその組織なのだ。
「さ、流石に騎士の称号剥奪とかは…」
「そこまではしませんが協定違反は重罪ですからな。彼女たちにもそれなりのを覚悟してもらうとしか言えません」
既にボーゼスたちへの処分を聞いていたグレイは内心腸が煮えくり返るような思いだが、違反は違反でありそのために適切な処分をしなければならないのも事実ということで反論も意見もすることはしなかった。それが組織の秩序を守るため、適切な処置であるということで割り切るしかないのだ。
(…なるほど。大方、中世特有の処分なのだろうな)
平静を装っていたグレイに口を閉ざしていたアーチャーは彼の表情と言葉から大体の結果を読み取った。
「ですが…」
それでも何か言いたげなセイバーにボーゼスは慰めるように彼女の手を取った。
「それでも私たちが罪を犯したのは事実です。騎士として、罰は受けなければならない…それは貴方も分かっている筈でしょ」
「ッ……」
騎士であるなら。王になる身であるなら。騎士としての償いも心構えも分かっているからこそ、セイバーはそれ以上なにも言うことができなかった。それが騎士の精神、背いてはならない鉄則なのだから。
「心配しないで。私たちだけで罪が済むのであれば、この身をささげるまで。これ以上の罪や自衛隊との関係を保つためにも―――」
…と。言っておきながら、この数分後。この言葉は直ぐに破られることになるのを蒼夜たちカルデアメンバーはまだしも、言い出した本人であるボーゼスすらも、この時はまだ知らなかった。
◇
再び室内は静寂に満ちた。ただし、先ほどのような気まずい雰囲気はなく息苦しさもないのは先ほどとは違い、トラブルの要素が跳ねのけられたからか。清姫もすっかりと大人しくなり暴走の危険性が無くなったと見た彼らは最初に誰が口を開くのかを無意識に待ち望んでいた。
ボーゼスたち騎士が退室し一度はシンと静まり返った室内だったが、未だ誰もが口を開かないその場で、見かねたアーチャーが小さく息をつくと一拍置いて話題を切り出す。
「……さて。これからどうする?」
「どうする…と言いましても」
抽象的な話題の切り出しに釣られたマシュは具体的にどういう意味かというのもあったが、それだけに雲をつかむような現状に対して自分たちがどうするべきなのか下手に受け答えをすることができなかった。それは他の面々も同じでアーチャーも話題を切り出したはいいが停滞する様子にマスターの顔を窺った。
こういう時こそ空気が読めないように切り出すのが蒼夜なのだが、その顔はどちらかというと既に方針が決まったかのようなものだった。
「色々と布石は打ってるけど、とりあえず今は流れに任せようと思う」
「…というと?」
蒼夜の言う布石、それはこの世界、特地に来てから配置したもので自衛隊にも知られていない数々の『コネ』というべきもので自衛隊に、ひいては日本政府に知られないように水面下で進められているものの数々だ。自衛隊にも知られない布石が今後彼らの行動に役立つだろうということから幾つか行われていた。
「アサシンたちによる特地の情報収集。そして今回取り付けたピニャ殿下との秘密裏の取引。結論から言って、これだけで十分俺たちは帝国に食らいついていると思う。二つだけだけど、どちらも帝国と日本にとって感知されにくいことだし迂闊に手を出すこともできない事だ」
「…確かに、アサシンたちは問題ないだろう。それに情報収集といった諜報戦で言えば、アイツら以上の適任者は居ない。だが、もう一つの姫との取引は彼女が口を滑らせれば意味をなさないだろう」
現在、蒼夜たちは自衛隊に隠れて二つのことを行っている。一つはアサシンたちによる特地での情報収集と帝国の首都である帝都の偵察。そしてもう一つはピニャとの取引で自衛隊からではなく彼女から提供されたイタリカ内での拠点の確保とその見返りの受け渡し。
既にアサシンたちはその大半が各地へと散り散りになり情報収集を開始しているだろう。ピニャとの取引はイタリカの状況が落ち着くまでは完全な成立にはならないが、一応彼女から提供される拠点についての話はついている。そして彼女に対してのその見返り。それも蒼夜たちは既に彼女に話をしていた。
「まぁ…ピニャさんはあくまでも和平の路線に近い人だから、余計な戦力の出し合いで相手を刺激したくないって気はあるだろうね。けど、今回はイタリカの防衛という大義名分があるんだ。その名目であれば戦力を配置しても理由としては正当性があって通ると思う」
百の貌のアサシンたちは自衛隊に隠れて呼び出したサーヴァントであり、しかも既に各地へと分散されていることから蒼夜たちが口を割らない限り彼らの存在がバレることはない。
が、もう一つのピニャとの取引は下手をすればバレる可能性があるのではとキャスターは指摘する。
「そもそもピニャ殿下はあくまで日本との戦いを望んでいないのであって、こういった防衛での名目なら乗ってくれるハズだ。加えて、俺たちのことを日本の側だと思っているのなら、下手にこっちの素性を明かさずとも向こうに話を合わせておけば不信感を持たれることだってない」
「だが、今の立場ではいずれ日本側から俺たちが仲間ではないことを知られてしまう。そうなってしまえば、最悪両側から俺たちは追われることだってあるぞ」
「その前に聖杯を手に入れる…っていうのが極論だけど、今の日本の政治家に俺たちの裏を探るだけの度胸があるとは思えない。そもそも俺たちについては陸将との会談でしか得られた情報しかないんだ。それを鑑みれば向こうからの俺たちの立場は国連の組織、その人間であるということ。つまり、ほとんど情報のない俺たちに対しての貴重な手がかりでありそれが正しいか否かを決める不安要素でもある。でも何百という国が加盟している国際組織においそれと聞くこともできないと思う。
仮に気付かれたとしても迂闊に敵対する…そんな度胸と決断を出来るか」
仮に蒼夜たちが国連の人間でなかったと気づかれたとしても、サーヴァントたちの能力は脅威であることに変わりはない。未だ片鱗だけしか見せていないところや余裕であること、更に戦力として未知数であったりと不安要素が多いことから即決で敵対すると決められるわけがない。もしそうしたのであれば、後悔ないし絶望するのは明らかなこと。目の前のことだけが現実、現状であると決めつけていた自分が悪いのだからと。
「サーヴァントという存在自体を盾にする気か」
「でなければ異世界メンバーの寄り合い所帯みたいな感じになりますからね……軽蔑視されるより距離を取られているほうが何かと動きやすくもある」
どちらにしても第三勢力的立場である蒼夜たちであれば、行動範囲はかなり広いものになる。一通りの手を打って自衛隊の監視がある現状は迂闊に動けないが、同時に日本からの監視があるということの裏返しとして安全が約束される。
今の蒼夜たちにこれ以上の独自行動ができないのであれば、残った選択肢はもう一度独自に動くことができるようになるまで静観し流れに身を任せるしかない。無論、全て
「だから当面は情報収集と現状が動くまで静観するしかない…っていうのが俺の考え」
「正気か? 静観するのはいいが、流れに身を任せるのであれは基本後手に回ることになるんだぞ」
しかめっ面のキャスターの考えを先に言うアーチャーはまるで彼の考えを呼んでいたかのように代弁する。
蒼夜の言う通り流れるままということは行き当たりばったりと同義。つまり下手をすれば先手先手を打たれて自分たちが劣勢になることもあり得る。そんなその場の思いつきのような行動を行うことは当然得策ではない。
「分かってるさ。特地や今までの特異点なら目の前の敵に集中する事が出来たけど、今回は敵になる相手が多すぎる。国やその組織が俺たちを狙ってくる可能性だってあるんだからな。だから、俺はあることをここに提案する」
「…提案…ですか?」
「うん。別動隊、つまり…
『彼女』を呼ぶ」