Fate×Gate = Gate Order = 作:No.20_Blaz
…が。少し怠け気味だったのでグダってます。かなりグダってます。
なんでそれを承知でお願いします。
あ。あと多分少し短いと思います。
FGOも巌窟王の復刻が終了して次はバレンタインかな。
皆さんはエドもんは当たったでしょうか。
自分は石が大変だったし、邪ンヌ居たので問題な…
…え。ちょっとエドモンさんなにをって(焼却)
それでは、お楽しみください(ぷすぷす)
「…ボーゼス。今日一日の出来事をお前はどう思った」
「どう…といいますと?」
唐突なピニャからの質問に、整理すらまだのボーゼスは頭の中に今日一日のことを加えた今までのことを思い返す。彼ら日本が自分たちにどういう事を言って、どう対応し、どうしたのか。
そこから弾き出された言葉はシンプルであり、同時に全てだった。ただ一言。
「―――…好意的、でしょうか」
「………そうか」
上っ面だけの接待。席を外し、目線が外れると直ぐに裏の顔が出る。
それはどちらでも同じだろう。少なくとも、彼女たちが思っていること。常識と思っていることも少なからず当てはまることもある。
だが。それでも
「私たちへの対応。接待が好意的だった…というより本当に善意で行っているという感じでした。私たちが敵である、しかもその中で上の地位であるというのに」
「…そうだな」
実際、自衛隊が彼女たちに対して行った接待は善意的な
それをもし命令だからということで従うのであれば、機械的であり仕方なく従うという感情が顔に現れるだろう。だが、彼らはそんな表情を一切することはなかったらしい。
「…まさか。こうして私たちを油断させることが目的では…」
「かもしれない。だが、だとすればもう少し不自然に丁重に扱う。私たち二人を個室に分けてという手だってある」
「それは確かにそうですが…」
「それに。蒼夜からの情報もある。仮に日本が、アイツの言う通りの国であるなら。長期的な戦争は行わない。早急な和平、条約の為に私たちを受け入れたことも頷ける」
ピニャの言う通り、現在帝国と日本との間に少なくとも敵対的関係をもって顔を見合わせているのは彼女たちだけだ。しかも、そのピニャが皇女であるというなら、最初に出会った三人よりもある意味、戦争の終結という目的のための最短コースであると言える。
「私たち…いえ、殿下が帝国と彼らとの講和の糸口として重宝しているということ、ですか」
「アイツらから話は聞いただろ。今、帝国と日本の双方に少なからず関係を持っているのは私たちだけ。であれば、その最短の距離にある私を無碍に扱ったり、そもそも受け入れを拒否することはしない」
「講和の為の糸口をなんとしても確保する…それなら、今回の接待も」
「おのずと頷ける…ということだ」
彼女たちの予想はある意味では正解と言える。だが、同時に半分は外れているともいえる。確かにピニャたちは講和のための大切な糸口で、早期終結のためには必要不可欠な人物だ。
彼女の地位、立場。どれも現状の中では最適な人物。それをみすみす離すわけにはいかない。
だが、ただそれだけで好意的と取れるような接待を果たして出来るだろうか。
それでは上っ面の面々、帝国の中にひしめいている者たちと何ら変わりはない。
だからこそ。後に伊丹が言う言葉が当てはまる。
「…それでも、今の彼らが何を目的として和平を目指しているのか。それが分からない。ただ守るべきであると判断したからか。何か必要なことを成したからか。それとも…」
帝国は今まで国の繁栄のために戦い、その力と土地を広げて来た。圧倒的な武力、軍事力。それをもって国を強くし、勢力を拡大してきた。
しかし今度は帝国が日本に負けているという状況。今まで勢力を広げていた側が、今度は広げられてしまう側になってしまった。
帝国は前哨戦としてアルヌスから日本へと侵攻した。だが、これも奇襲という形で失敗し、帝国軍は敗退の道を進んで行く。
またいつ来るか分からない敵に対し、日本は自衛隊を特地に派遣。帝国が日本に来るために使った「門」のあるアルヌスを占領した。
「帝国をも圧倒する武力があるのですから…彼らが本気を出せば帝国は…」
「三日と持たずに帝都は終わっていただろうな」
事実、それだけの軍事力、技術の差はある。剣や槍、弓が主流の帝国に対し、日本はその更に先を行く銃と大砲を武器にしている。その時点で既に差は歴然としている。
「なら、帝国は本来、攻め滅ぼされてもおかしくない…」
「そうだ。だが、日本にはそれが出来ない理由がある」
ここまでの国が、これだけの技術と文明の差があるというのに何故、本腰を入れて攻めてこないのか。それは日本の「専守防衛」と「自衛隊の存在意義」が大きな理由だ。
専守防衛は守ることが前提の戦い。自衛隊は元々その為に創設された組織。守ることが絶対の使命であり、それしか許されない者たち
「守る戦いを是としている自衛隊は、自分たちから敷いたその縛りによって「攻め」に転じることが出来ない」
攻められないというより、攻めることが許されない組織というのが自衛隊の実体だ。
そもそも自衛隊の前身である警察予備隊の理念は、防衛力と治安維持の兵力確保が目的。敗戦国である日本がもう一度戦うなどという事の為に作られた組織だ。それは今も続く自衛隊の組織そのものの存在意義でもある。
「では。彼らの目的は一体…」
「…さてな。文化も文明も、思想も理想すら違う国。異なる世界だ。彼らが一体何のために、どういう理由で動いているか…私にも見当がつかん」
日本と帝国。その両国がどれだけ違うのか。それは言うまでもない。
何もかもが違う彼らが何を理由に戦うのか。何を目指しているのか。その理由は。あらゆる疑問が、あらゆる理由が彼女たちの脳裏を駆け巡っていた。
だからこそ。
「―――だから、確かめるのだ。私たちが、自分たちの目で」
◇
イタリカでの出来事から翌日。無事にアルヌスに帰還した伊丹たちには新たな任務が待っていた。参考人招致、つまり特地から数人を連れてきて特地の現状や自衛隊保護下での現状についてなどを話してもらうというもの。
今回の場合は自衛隊保護下である今について、その調査という所だ。
「―――というわけで。諸君。おはよう!」
気楽な挨拶から始まった軽い今日一日のスケジュール説明。それを行うのは当然、事の始まりであり原因でもある人物である伊丹だ。
彼の服装は普段着ているようなものではなく自衛隊の礼装。式典などで使用するそれは、普段のと色合いは似ていても礼節さがある。
「えー本日はお日柄もよくとかは置いておいて。本日は参考人招致ってワケで、日本に行きます。こっちと違って向こうは冬なので、皆さん風邪をひかないように」
「隊長ー出張費用はいくらでしょうかー?」
「正直言ってしょぼいでーす。期待はしないようにー」
まるで遠足当日の光景であるかの様に呑気にしている一行。今回はただの参考人招致ということで、トラブルさえなければ穏便に済むことだ。
が、それでもやはり今回は面子が面子なので、伊丹もそれで済む筈はないと、内心ない物ねだりをしているように思えて馬鹿馬鹿しく思えた。
参考人招致。本来なら質問をして返してでハイ終わり。だが今回その呼ばれた面々は現代の世界からすれば文字通り宝にも等しい。
希少種のエルフ、頭脳明晰な魔導師、不死の亜神。どれも現代の日本では居ない存在ばかり。
「今回は俺と富田。んで栗林が護衛だ。しっかり頼むぞ」
「了解です」
「参考人招致だけでしょ。議事堂もガード厚いでしょうし、そこまで気にすることもないと思いますよ」
今回の人選は伊丹によるもの。本当ならベテランである桑原を連れて行きたいところだが、所用につき参加できない。そこで謎の人選というわけではないが、この二人が選ばれた。
若干個性のある偵察隊の中で堅実な性格の富田。逆に飛んだ性格をしているが、格闘戦などの戦闘能力は高い栗林。腕っぷしなら、彼女は素手で大の男を殴り倒せる。
(お前の場合は…)
(栗林の場合、それでもトリガーハッピーが起きそうで…)
しかし最大の問題点として、栗林の好戦的な性格。常に銃を携帯しているというアメリカ人も驚きそうなそれは、トリガーハッピーとまではいかないが銃を問答無用で撃ちそうでならない。現にイタリカでの戦いでは我先にと蒼夜たちよりも先に戦場に飛び込んで、銃を乱発。最終的に持っていた小銃を廃銃にしてしまった。
流石に自重はするだろうが、伊丹は今回の参考人招致で絶対に銃撃沙汰はあると予想しつつも、願わくばそこまで発展しないよう願うばかりだった。
「今回はあくまで、可能性を考慮して俺たちに銃の携行が許されてるんだから、無闇に抜いたりするなよ」
「なんで隊長は私にむかって言うんですか。まるで私が戦闘狂みたいじゃないですか。自重しますよ。絶対」
(お前の場合、それでも撃ちそうだから怖いんだっての…)
一抹の不安を頭の隅に置いた伊丹は、ぞろぞろと集まって来た彩り豊かな服装をする面々に目を向ける。赤い外套、蒼いタイツ。銀色の鎧と白いドレス。その他エトセトラ。
性格の個性もさることながら服装も豊かな彼らは、現在自衛隊、ひいては日本と協力関係を持つカルデアのメンバー。人類史最後のマスター蒼夜と、そのサーヴァントたちだ。
その中で、伊丹の目に真っ先に飛び込んできたのは
「昨日は…まぁ、色々あったようで…」
「はい。特に先輩は睡魔と色々とがあって…」
気楽そうな様子の伊丹とは違い、彼の目の前に立っているマスターの蒼夜は魂が抜けている状態のまま棒立ちしていた。生気の抜けた空の状態になっている彼の姿は、誰もがどうかしたのかと訊ねたいところだったが、目を逸らすサーヴァントたちとただ一人目を逸らしている清姫から、大体の推測は出来た。
「現在、疲労感よりも生気の低下によってこういう状態ですので、もう少しすれば多分戻るかと」
「ま、まぁ…議事堂に着くまでに戻ってね。でないと色々と面倒っていうか…大変なことになるから」
大方、着物の彼女が夜這いでもしたんだろうと適当に考えていたが、それがまさかあながち間違ってもいないことだと知らない伊丹は、逃げるように蒼夜から目を外す。
「他のメンバーは準備はいいのか」
「ああ。私たちは問題ない」
黒のスーツを着こなす長髪の男、キャスターは眼鏡の奥から細い目で伊丹と目を合わせて答える。サーヴァントたち全員に対しての質問だったが、それに真っ先に答えたのは常に仏頂面をした彼だ。
予想ではキャスターではなくランサーが先に答えると思っていたが、結果は外れてその後に続けてランサーが答えた。
「俺たちよりも問題はウチの大将のほうだがな。全く…」
「…こりゃ議事堂行く前に軽く休ませないと、流石にダメか」
生気は一応戻ったが、蒼夜の目の下にはクマが薄っすらと出来ている。肩は垂れ下がり、髪の毛も少し跳ねているという典型的な寝不足の姿に、伊丹は議事堂に着く前に仮眠させる必要があると考え、蒼夜を気遣うマシュに若干だが予定の変更を提案する。
彼が寝不足の状態では答えられるものも答えられないだろう。
「マシュちゃん…でいいよな。議事堂行く前に少し彼を寝かせて上げよう。日本についたらバスでの移動だから、車内になっちゃうけど」
「それで構いません。流石にこの有様では先輩もただの寝不足の同人誌作家にしか見えませんし…」
「例えが現代的だね…」
オタクとしてその表現に痛烈なものを感じた伊丹は少し顔を引きつかせる。同情というよりも皮肉が混じっているかのように、その時は聞こえたのだ。
「悪いけど、バスの前にゲートの移動は徒歩だ。彼に歩かせるか誰か背負うかだけど…」
「…ライダー」
「ん。なんだ」
「とぼけるな。彼を運んでやれ。小脇に抱えるくらいで十分だろう」
「…ま。仕方ないわな。ホレ、坊主」
「あ…ありがと、ライダー…」
寝不足で目が疲れているのか、頭を抱える蒼夜はフラフラとままならない歩き方でライダーのもとへと近づく。ここから日本までの間、ライダーに抱えられるか、彼の馬に抱えられるか、そのどちらかで運ばれるというマスターとしては情けない他ない移動方法になる。
だが今の蒼夜の状態ではそんな贅沢を言っていられる状態ではない。
「全く…昨晩は寝られなかったようだな」
「ええ。なにせ昨日、清姫さんが居たものですから…」
あまりの酷い有様にアーチャーは横目でマシュに呟く。伊丹の考え通り清姫が昨晩に襲い掛かったせいで、彼はまともに睡眠がとられなかった。マシュ曰く、睡眠時間は一時間弱。
その後は全て「ストーカー」スキルで夜這いしてきた清姫との牽制と警戒のせいで寝るに寝られず朝日を見たらしい。
デミではあるが、サーヴァントであるマシュはまだしも蒼夜は人間だ。
「酷いですわ。まるで私が諸悪の根源のような言い方で」
「諸悪も何も、今回のは清姫さんが悪いと私も思いますよ…」
これには流石に全員一致の清姫有罪判決。リリィさえも弁明は出来ないと拒否した。
「…ところで、ひとつ質問をしてもいいか」
「ん。なに?」
「この世界、特地と繋ぐゲートの中を通って日本に行くというのは最初に聞いたが、移動時間はどのくらいだ。その間に危険性は」
改めて質問してきたのはゲート内についてのことだった。アーチャーからの質問に伊丹は、これまでのことや調べた結果を元に、取りあえず今の状態での結果を伝える。
「車で約十分。歩きで二十分ってとこかな。その間、ずっと薄暗い道を歩くけど、真っ直ぐ歩いたらちゃんと日本につくよ」
「道を外せばどうなる」
「さてね。道を外そうなんて思ったこともないし」
そもそもそんな危険なことをする気にもなれない。伊丹の返答に内心ではそれもそうかと納得するアーチャーは、それ以上はその場で口を開かなかった。最低限、マスターの安全だけでも確保しておきたかったのだろう。
「そもそも、道中に何かあれば、アルヌスに大部隊を置くことなんてできないでしょ」
「…確かにな。だが常に安全である、なんて保障できるものでもあるまい。念のための確認をさせてもらっただけだ」
「………ねぇねぇマシュちゃん」
「ハイ。なんでしょうか、栗林さん…」
「あのアーチャーって人。いつもああなの?」
身を少し屈めてマシュに近づき、耳打ちのようなトーンで話しかける栗林は嫌味を影で叩く言い方で訊ねてくる。どうやら、彼の上からの目線が彼女にとっては気に入らなかったのだろう。
その質問を聞き、マシュは小さく唸ると頭の中から情報をひねり出すように言葉を絞り出す。
「ええっと…まぁ探索などの時はああであることは多いですね…ですが普段はもう少し優しい人…のハズです」
「ええ~…あの人の優しいところなんて想像できないなぁ…」
「アーチャーさんは皮肉を言ったりすることは多いですけど、根はやさしい人ですよ。私たちによく手料理を振る舞ってくれます」
「男料理ってやつ? それって結構脂っこいヤツでしょ、大丈夫なの?」
「いえ男料理というより、三ツ星料理というか…」
「………ハイ?」
ちなみに、カルデアの食事事情を聞くと、若干数名による豪華な料理を毎日三食振る舞われていると聞き、栗林は思わずアーチャーを何度か見直した。一度目は姿を、二度目は性格を、三度目は
「………あのゴツイのが?」
と事実であるかと確かめるように。
「…ところで隊長。今、我々は何を待ってるのですか?」
「柳田が
「柳田二尉が…?」
一体なにがあるのかと、待たされる理由に内心で首を傾げる富田。伊丹も事情は聞いてない様で、しょうもない理由であるならさっさと行きたいと内心は参考人招致以外の目的にひっそりと炎を燃やしていた。
昨晩、とある人物から届いたメール。それはある意味定期報告のようなイベントのお知らせだ。
(冬の
まだ先のことだというのに既に参考人招致が終わった気でいる伊丹の耳に、重低音のエンジンが鎮まりブレーキの音が聞こえてくる。聞きなれた音だが、この特地においては最近はその回数が減っている。
エンジン音を鳴らしていた黒い車は自衛隊が要人などを送るために使っている専用車だ。
「悪ぃ、遅れちまった」
「柳田。遅いぞ」
降りて来た柳田の姿を見て、文句を言う伊丹。しかしそれを軽くあしらった柳田は目を合わせることもなく、後部座席のドアを開ける。その奥に座っていた人物たちを連れてくるのに時間が掛かったのだろう。その姿を見た瞬間。伊丹の顔は驚愕の隠せないほどになり、大きく口を開けた。
まさか、彼女たちが乗っているとは思いもしなかったのだ。
「って……ええっ!?」
「悪いな伊丹。だが、あの人たちが行きたい。と願い出て来たんでな。こっちとしても皇女の願いを叶えない理由もない」
車から降りて来たピニャとボーゼスの姿に驚きを隠せなかったのは、何も伊丹だけではない。彼の隣に立っていた富田も半開きにして呆気にとられていた。そもそも二人とも彼女たちが来ることなど一言も聞いていなかったのだから。
「いや、それは分かるけど、せめて事前通告とかをだな…」
「お前が寝落ちしていた時に決められたことなんだ。それに、俺たちも今朝聞かされたんでな。ここはあいこにしてくれ」
「…大丈夫なのか?」
「向こうにも話は通している。それに、殿下は講和のために行くんだ。断る理由もないだろ。
それに殿下たちに俺たちの世界について文化交流ができる機会だ。上手くいけば、講和のいい材料になるかもしれないぜ」
ポケットの中を探りながら話す柳田が他人事のように話すので、伊丹はその一瞬だけ恨んだ目で彼を見ていた。
「これは嬢ちゃんたちの慰労に使えって。それと殿下は今回お忍びだから、降りる場所はお前らと少し違う。講和のために補佐官と色々と準備をするらしい」
「なるほどね…」
手から抜き取るように慰労を受け取った伊丹は、和気藹々と話している少女たちやピニャたちを眺める。同行するということを聞いて向こう側への期待を膨らませている彼女たちは緊張感から胸に手を当てている。
「…アイツらとは、仲良さそうだな」
「そんなに警戒しなくてもいいんじゃない? 少なくとも、女の子たちは本心で楽しんでそうだし、恐らく頭を使ってるのはあのスーツの人とマスターである蒼夜君ぐらいでしょ」
「かもしれないな。けど気を付けておけ。その少女にも、助けられたんだからな」
「そういえばテュカさん。そのセーターは…」
「ああ。コレ? 向こうは寒いから着ておけって言われてね」
クリーム色の暖かそうなセーターの袖を回しながら、マシュの質問に答えるテュカ。セーターの着心地はいいのか気に入っているようだ。
そんなテュカの服装を見て、そういえばと呟くマシュは少し深刻そうな顔になる。
「…どうしたんだ。マシュ」
「あ。いえ…」
気付いたアーチャーが訊ねるが、答えにくいのかマシュはなかなか言葉にできない。だが意を決した彼女は、その問題の難題さに頭を抱えながら悩みを打ち明けた。
「……私たち、このままの服装で行くことになるんですよね…」
「………。」
青タイツ、銀色の鎧。赤いマント。白い着物。
黒いスーツを着たキャスターは兎も角として、蒼夜のサーヴァントの大半は薄着といっていいような服装をしている。特に、リリィと清姫、そしてライダーは見ているだけで寒く感じてしまう。
「征服王は生まれが生まれだからな。それに、バーサーカーの彼女は、まぁ…なんとかするだろう。問題はリリィだ。彼女の服装は、あの花の魔術師のせいでロクなものがない」
「随分とリリィさんにだけ熱心といいますか…」
「…いや、ほかの連中がたくましいだけで、彼女はその…」
リリィのことについて触れた途端、アーチャーはなったのか目線を逸らした。生前になにかあったのか、アーチャーはセイバーリリィのことに関すると嫌に突っかかる。どうやら何か理由があるらしいのだが、当人は答える気はないとはぐらかす。
ランサーと、カルデアにもう一人のライダークラスのサーヴァントは薄々と勘付いていた。
「ふむ…確かに、街中をこの姿で動くのは不自然極まるか」
アーチャーの意見に、キャスターも自分の服でも少し不自然かと自分の服を見下ろす。サーヴァントは霊体なので、現実世界の影響は少ない。特に病原菌の類は付着するところがないので皆無だ。もっとも、英霊が憑依したサーヴァントは肉体があるのでその辺は人間と同じだ。キャスターとマシュがその例に当てはまるのだが、彼は平気な顔をしている。逆にマシュも少し肌寒いようで口から白い息を出していた。
「向こうに行く前に何か、向こうの環境に似合ったものを用意しないといけませんね」
「そうだな。特に、私とレディは急務だな」
「アロハシャツはダメなのか」
「論外だ。ランサー」
「ふむ…それだけの厚着をするということは、ニホンは雪国なのか?」
「いや。日本だけの話ではないが、向こう側には季節があってな。年月ごとに季節が緩やかに変化している」
テュカの服装を見て雪国なのかと推測するが、実際は当たりでありハズレであるとアーチャーが答える。
「そうなのか…?」
「ええ。我が国日本はその中でも数少ない、季節が四つある国です。三月から五月が春、六月から八月が夏となって、今は十二月で寒い冬の季節です」
「なんと…周期ごとに季節が変化するのか」
「この世界では季節はあまり変化しないので温暖ですが、向こうは寒いですのでできるだけ暖かいものをと」
替わるように富田が答え、その一つ一つに興味津々なピニャはなるほどとうなずく。門の向こうの世界について少しでも知っておくことは、損な事ではない。むしろ講和相手である彼らのことを知ることは、上に立つ者として当然のことだ。
「十二月か…年末だな」
「伊丹さん。日本の今日の気温は聞いていますか?」
「ん。今日は確か、最低で六度だったかな」
最低気温が六度という寒さに、マシュも自分の服装である装備に目を落とす。特地に来てから装備で過ごしているので、傍から見れば肌寒さを感じられる者も居るだろう。
幾ら鎧であるといっても、叛逆の騎士のような重装備さはなく、むしろ動きをよくするために軽装になっている。
これでは、流石に傍からも寒いと思われ、自分も寒くて仕方ないだろう。
「………なるほど。寒いですね」
「真冬だからねぇ…」
「――――これよりゲートを開放する。開けたらさっさと入ってくれよ。何が起こるか分からんからな」
用意を終えて全員出発の準備が整うと柳田が、何処かに連絡を入れつつゲートを開けさせた。恐らく門を覆っているゲートを管理しているところに連絡していたのだろう。
神殿の様な建物を覆い隠すように作られたゲートは常に解放状態である門に蓋をするために作られた。
それが今、大きな音ともに再び開かれようとしていた。
「この門の向こうが、伊丹たちが居た世界…」
「んふふっ楽しみねぇ♪」
「私たちは遊びに行くわけではない。だが…」
未知の世界。そこに期待し興奮を隠せない者たちが居て
「やれやれ…面倒にならなければいいのだがな」
「無駄なことだ。キャスター」
一抹の不安を抱え、震える音に頭を抱える者
「いざ、再び彼の地に赴くことになろうとはな」
「ま、退屈しなきゃそれでいいけどな」
再び、その地に行くことを心待ちにする者。
「…先輩。いよいよですね」
「………。」
「この向こうが…」
「やっと帰れる…」
向こう側、まだ見ぬ世界に息を飲むピニャの隣には、やっと懐かしい景色を拝めると伊丹が深く息を吐いた。
(そうだ。戻るんだ……………あのクソッたれな世界に)
そして。その地にまた足を踏み入れることになると思った青年の顔は苦痛に歪み、手には赤い血が激しく通っていた。
今また、あの世界に、あの場所に戻るのだ。
彼が嫌悪する彼の地に
―――日本に。
(―――ああ。吐き気がする))
脳裏から呼び覚まされた記憶からの嫌悪感は、ふと言葉を重ねる。
その言葉は彼のであり、同時にもう一人の誰かの言葉。
二人の言葉は偶然にも重なり、そして同じ言葉を過らせる。
それがなぜ同じだったのか。その理由が果たして同じなのか。
それは、この瞬間であっても誰も知る事はない。
◇
―――当たり前の世界だった。
文化があり、歴史があり、停滞があり、平和がある世界。
違いがあるとすれば、四大文明と呼ばれた世界よりも遅く、そして異なる文明を築き上げたということだけ。その歴史は、たったの約二千年。その後はぐるりぐるりと回るだけ。
それが平和であるなら、私たちはそれを受け入れていただろう。
怯えるものはなく、人はただ当たり前の日々を過ごすだけの世界。
ありていに言えば平和。しかして実態は進むことのない停滞と循環の国。
見えない明日、無限の可能性、変化の兆しを棄てた代わりに、彼らは永遠の平和を手に入れる。
もしかすれば、そうして終わる筈だったのかもしれないそこは、望まない変化を起こす。
「…伊丹さん。実は昨日、向こう…日本で起こった事件について聞いたのですが…」
「…マシュちゃん。悪いんだけど、今は話さないでくれないかな」
「………!」
ぽつり、と寂し気な声で返す。歩いている彼の顔は何処か遠くを眺め、そして何かを思い返していた。
聞かれることに拒絶感があるではない。ただ、それを思い出すことが悲痛なだけで、どうしてもそんな顔になってしまう。
その姿に、小さく息を飲んだ。
「今、殿下にそれを聞かれると講和どころじゃなくなっちゃう。それに、あまりいい話でもないからさ。今はね」
「………。」
今でも脳裏に焼き付いている光景。それは彼の中ではある種の戒めとして残っていた。
いつも最後に現れる少女。彼女の服が水色から黒に変わり、無情の目で彼を見つめる。
伊丹が悪いわけではない。彼に非がある筈もない。
ただ、その姿は、その顔は確かに彼を見ていた。
(英雄って…こんな理不尽をいつも感じてたのかなぁ…)
英雄はいつも理不尽に殺される。後世から英雄として讃えられる替わりに、その生涯は同じ時を生きていた者たちにとっては様々な見方をされる。
ある時は善人。ある時は悪人。そしてある時は変わり者。
世捨て人になった英雄はその時その時にあらゆる見方をされ、そして決めつけられる。
(俺は英雄って柄じゃないし、そもそもその考え自体が間違ってる。人助けをしたけど、結果として多くの人たちを救えたってだけだ。その為に、俺は…)
彼もまたその一人。世捨て人になってはいないが、人々から一辺倒な見方を押し付けられている。多くの市民を救った英雄、優秀な自衛隊員。
しかしその実態は真逆。そしてその行動理由を聞かされれば、いよいよ彼を英雄とは呼べなくなる。
それでも、彼らはその先入観からは離れられないだろう。
(俺って、一体なにやってんだろ…)
自己矛盾に陥りそうになった刹那、彼らの目の前に光が差し込んでくる。
「ッ…そろそろ向こうに着くぞ」
「車だと直ぐでしたけど、歩きだと長いッスねぇ…」
向こう側の世界、少し前まで自分たちが当たり前のように生活していた場所が見えてくる。
やっと戻れるという気持ちもあったが、またすぐに特地に戻ることになると分かっているお陰で伊丹たちの内心はやや複雑だ。
「オイ、坊主。そろそろだぜ」
ライダーの隣を歩いていたランサーは担がれた蒼夜に声をかけるが、どうやら寝不足のせいで熟睡していた。
だらりと下がった四肢は死人のように思えるが、僅かに聞こえてくる寝息で彼が今は夢の中に落ちているのだと気づけた。
「よく寝てるなぁ…このまま一日寝て終わるなんてことはねぇよな」
「安心せい。いざという時は、余が叩き起こしてやる」
「力加減はほどほどにしておけよ」
大方デコピンで起こすのだろうと予想したキャスターは、力加減についてだけ注意をすると広がり始めた光に目を細める。
「この先に…先輩の住んでいた世界が」
もう間もなく、神秘に満ちていた世界から科学が支配する世界へと移る。かつては神秘が満ちていた、自分たちが居た世界とよく似た世界。
蒼夜やキャスター、アーチャーにとっては見慣れた世界が、そこにあるのだ。
◇
特地の世界において、初めて日本の地を踏んだのは帝国の侵略部隊だ。
しかしそれは表沙汰にはならず、歴史の影に消えて行った。その代わりに、その後に足を踏み入れた彼女が、その最初の人物として歴史に名を刻む。
帝国皇女、ピニャ・コ・ラーダは戦争状態であった日本との講和のため、密かに日本に渡る。
その時のことを記した日記は、後に特地で書籍化されることになった。
彼女が日本に渡るときのことを、そこにはこう記されている。
『我が世界と、彼の地「日本」を結ぶ門。それを潜ると白い吐息と共に、私の目の前には見たことのない世界が広がっていた。
石の世界。摩天楼が広がっていたのだ』―――と。
◇
暖かな光があった。しかし、その先へと潜ると、待っていたのは暖かな熱ではなく冷気。肌寒い冷たさが、門をくぐった者たちの肌へと伝わる。ぬくもりを予想していた皮膚と頭は少し驚き、誰もが身を縮み込ませ、白い吐息を吐いた。
「ッ…さむっ!?」
と思わず声を出したのは、やや暖かい服装をしている筈の栗林。それにつられて、テュカやピニャたちも自分たちの体をさすり摩擦熱で体温を保たせようとする。
「栗林…その服装で一番最初に寒いって言うか…」
「仕方ないでしょ…向こうが暖かかったせいで寒さに慣れてないんですから」
「…ま。無理もないか」
温暖だった特地と違い、冬の日本の最高気温は当然低い。極度の温度差であると体がその温度を過剰に感じる。感覚的な意味では彼女の意見はもっともな事だ。
「寒い…」
「本当に冷たいな」
「ねぇ。お肌が心配だわ」
「二人とも、平気なの?」
セーターだけではやはり完全に寒気をシャットアウトできないようで、テュカは寒そうにしているが、隣で首を上げているレレイとロゥリィはやけに平然としていた。
震える唇を動かし、寒くないのかと聞くが
「私はそんなに? まぁしいて言うならお肌が心配ってだけよ」
とロゥリィは平気そうに返す。亜神だからか、それとも元々寒いのに慣れているのかと考えていた時
「へくちっ!」
「………。」
小さくくしゃみをするレレイ。これには二人も思わず彼女の顔を直視する。
それを座った目で鼻水を垂らしながらレレイは
「………問題ない」
そう言って、自分の周りに暖かめの炎の魔法を使い防寒代わりのバリアにした。
「ず、ずるい…」
「レディ。魔法を使ってる時点でバレバレだ。正直に寒いのなら寒いと言ったらどうだ」
「―――すごいな。これだけの建築物を作る技術があるとは…」
一方で、白い吐息を出しつつも目の前の光景に寒さを感じる暇もないピニャは、ボーゼスと周りのビル街の風景に圧倒され目を大きく開いた。
中世の時代真っ盛りの彼女たちの世界にとって、現代の建築物は未来的だ。
特に宮殿や城が石材で作られ、一般家庭は木材のワラの時代。まだコンクリート自体知らなければ作ることも出来ない彼女たちにとって、見上げた建物は興味を魅かれた。
「壁…いや、壁に見えるほど密集している…?」
「物凄い数ですね…これは一体…」
「…! アレを見ろ、中に人が居るぞ」
ビルのガラス壁から人の姿が見えたことに驚き、指をさすピニャは、瞬時にこの壁のような建築物が建物の類であることを直ぐに察した。しかも、よく観察すれば他の建物にも人影がちらほらと見えている。
「あれは…施設なのか?」
「そんなところですね。元々は民間…つまり一般人の商人が使っていたのですが、門が開いて以降は自衛隊が管理しています」
「ッ! あの建物を商人が使っているのか!?」
「ええ。といっても個人だけでアレ一つを持っているというわけではなく、いわゆる商業組織がその中の階層一つや建物一つを借りたりしているのです」
商人と言えば、金にがめついというのが共通意識だ。それは特地でも似たようなもので、金勘定に関しては五月蠅いのも居たりする。
そんな彼らが組合のような組織をつくり、ああいった建物一つを使っている。と言えば、彼女たちの考えでは到底あり得ないことだろう。
逆に、説明をした富田、そしてほぼ同じ時代に居た蒼夜たちにとってはむしろ普通、平凡であるのだ。
「一か所に縦に高い建築物を並べる…限られた土地の中で、多くの人が生活できるように活用している」
「そんなのがこんなに並んでるってことは、伊丹の国って狭いのかしら?」
ビルを分析して呟くレレイの言葉に、ロゥリィはそれだけ手狭な国なのではないかと推測する。実際、当たらずも遠からずということで富田も大きくは表情を変えなかったが内心、驚いている。
「これでも、島国としてはそこそこに大きい国だけどね」
「ッ…日本とは島国なのか!?」
「ええ。ただし殿下たちが考えるような小島ではなく、どちらかというと複数の島がある諸島といった方が適切だと思います」
「ちなみに、この世界の地図を見ると多分腰を抜かすと思うがね。なにせ、国の面積は恐らく帝国以下だからな」
「なっ………!?」
ダメ押しとばかりにアーチャーが余計な一言を付け足し、衝撃を隠せないピニャはその真意を確かめるように富田に詰め寄った。
「本当なのか?!」
「え、ええ…まぁ…」
「…確かに、日本は島国で国の面積も近隣諸国と比べて小さい方だ。だが、経済発展のための首都には多くの人口が密集している。そこは帝国の首都と同じだ。首都圏が経済、政治の中心地なのだからな」
人口が多くなり、一か所に多くの人が集まる。そうすれば、自然と街になり大都市になってそこにはシステムが生まれる。
首都圏である東京も当然、首都としての機能はしっかりと持っている。
経済の中心地でもあるので人口は自然と増加。その為、大手企業のビルが立ち並ぶ場所も当然存在する。
少ない土地を有効に活用するというのは日本よりも先に外国で実施され、それを採用した。
縦に伸びた建物を作ることで、より多くの人をそこに集めることが出来る。
「なるほど…首都というのは常に文化、文明の最先端の地。であるなら、これだけの建造物が作れるのも当然のことか…」
(…ま。地方に行けば一軒家、他県に行けば、それ以下だがビルなどが立ち並んでいるが…それは言わない方が吉か)
「建築物、経済、政治…どれをとっても、我が帝国と日本との差か歴然だ…しかも島国であるというのに、それでも差は変わらない。それだけの国、いや世界に帝国は戦争を始めたのだな…」
隣国の経済、技術、文明の情報が分かるからといって全てが同じ要領で解決するハズがない。
いくら辺境でも、いくら未知の世界でも。もしかすれば、自分たち以上の何かを持ち合わせているのかもしれない。もしかすれば、自分たちの力が全く及ばない世界かもしれない。
だというのに、たった少し慢心、傲慢が、こうして多くの血肉を流す結果となる。
帝国は門をくぐり、他所の世界にも勢力を広げようとした。自分たちの国が、一番進んでいる国なのだから。そういった油断が、今回の結果なのだ。
「そういえば、マシュちゃんの服、いつの間にか変わってるわね」
「え、ええ…まぁ…」
今更なことに気が付いた栗林はマシュの服装をジロジロと眺める。彼女の服装は、特地の時の鎧とは違い、カルデアの館内で身に着けている制服だ。
ゆったりとしたパーカー、女性用のスカート。白い制服は彼女の清楚さにはよく似合っている。しかしその中に締められたネクタイは眼鏡と合わせると真面目さも持たせる。
「へぇ、結構似合ってるじゃない」
「ありがとうございます。制服姿で、少し恥ずかしいですけど…」
「別に変じゃないって。むしろ…」
「…栗林さん?」
「…いや。何でもない。制服で嫌な記憶を思い出しただけ」
その時の顔が何か触れてはいけない、思い出したくないという辛いのだがどこかしょうもない記憶で思い出しても別に苦しくはない、という記憶を思い出している顔だというのをマシュは後に蒼夜から聞かされるのだが、それはまた後の事だ。
「っていうか。いつの間に服を着替え―――」
栗林の質問に思わず内心、胸に槍が刺さったかのような痛みに襲われたマシュだが、その瞬間彼女の後ろに真意をカモフラージュするために頑張っている一人の男の姿があった。
赤い外套を着た彼は、得意げな顔で自分と同じぐらいの大きさの布を振るい「フッ…」と小さく笑みを浮かべていた。
「………。」
よく執事の漫画やドラマ、昔やってたドラマでもそんなことしてたなぁ…と彼の姿を見て思っていた栗林は、それ以上は口が動くことも無ければ追求することすらしなかった。
知ってしまえば何か崩れそうになる、この後のことに耐えられない気がする、という第六感の忠告を素直に受け入れたのだ。
「いや、何でもない…」
「………?」
「お前…嬢ちゃんの為ならなんでもするんだな」
「五月蠅い。その場で不審がられるのが不利益なだけだ」
サーヴァントたちを交えて一行が門の前で談笑している間、伊丹は手続きを行い参考人招致のため手配などを進める。
門をくぐった後は、バスでの移動になる。大型乗用車の手もあるが交通や移動手段からしてバスの方が有効だ。加えてコレからの事を考えると尚、そうせざるをえないと言ってもいい。
なにせ、ここからはドラマさながら、要人警護も行わなければいけないのだ。
これからの事を考えると気が重たくなる伊丹は、鼻の奥から重く感じられるような息を吐き出す。
すると、その鼻息を聞いてなのか彼の後ろからくつくつと笑うような声が聞こえてくる。まるでその鼻息となったため息を嘲笑う声に、伊丹は無表情で振り向く。
「伊丹二尉…ですね?」
「…ええ。おたくは?」
「情報本部より参りました。皆さんのエスコートを仰せつかった駒門と申します」
一言で言えば、伊丹はその男、駒門の所属と性格を大体察した。
陰険、他人の傷の抉るのが得意。くつくつとした笑い方が板についているのでそこは間違いない。そして、その声が出る顔と目つき、そして
昔の探偵か何かに似たような顔が居た気がするが、それよりも先に彼の口は動く。
「公安の人? もしかして」
「フッフッフッ…分かりますか? 流石は英雄…いや二尉だ。鋭い洞察をしてらっしゃる」
ほめているが全然嬉しくないと感じられる。それもその筈だ。伊丹にとって自分の階級よりも前に言われた「英雄」という言葉が、正直誉め言葉にはならなかったのだ。
眉を寄せた伊丹は「英雄は余計だ」とばかりに少し苛立った。
「…たまたまだよ」
「偶々…ねぇ。まぁそうしておきましょうか」
「………。」
「…何者だ。あの男」
「公安の人。一応、アレでも警察の公安部って部署の人らしいけど」
「諜報専門の連中か…」
恐らくは警察関係の人間であろうというのは分かっていたが、公安がどういう組織か分からないキャスターは一応、近くに居た栗林に訊ねる。
ただ彼でも、伊丹と同じく駒門からはただの刑事などではないというのは直ぐに察せていた。彼の雰囲気、そして目つきが直ぐに只者ではないと理解したのだ。
「悪いが、アンタの事を色々と調べさせてもらったよ。いやはや、波乱万丈な自衛隊人生送ってるねぇ」
「…それなりにね」
「一般幹部候補生の課程を受け、成績は同期の中にけが人が出たお陰でブービー。任官し、その評価は「不可にならない程度に可。」候補生時代のこともあり、業を煮やした上官に幹部レンジャーに放り込まれるが、これをなんとか終了」
「…あの男、自ら入ったわけではないんだな」
「そりゃそうでしょ。隊長、自分からレンジャー入るって顔でもないし」
「…きっぱり言い切るな。君は」
「その後、なぜか習志野に異動。理由は不明。素行に難ありとして三尉に留められていた。理由は…まぁアンタが一番よく知ってるな」
「………。」
「お前がこの時代、この世界に居たら同じ道を進んでいただろうな」
「それはないな。なぜなら、それを帳消しにするだけの働きをすればいいのだからな」
「………。」
「しかし、
「よく調べてるなぁ…」
唐突に始まった伊丹の自衛隊の履歴を聞きながら、彼の性格からレンジャーはあり得ないと拒絶していた栗林は、その事を聞いて何か安心したかのようにうんうんと強く頷いていた。どうやら、伊丹がレンジャーに「放り込まれた」という事実に安心があったらしい。
もし彼が志願して入ったのなら、それこそ彼女はまた倒れていただろう。
「安心しなよ。アンタのそれ以前の事はノータッチだからな、フッフッフッ…」
「………頼むよ。本当に」
だが調べられた方は当然いい気持はしていない。失笑していたが、内心ではあまり知られたくない出来事の数々なので、怒りや羞恥、そして懐かしさもあれば僅かだが喜びもあった。
そんな複雑な心境をしまい込み、伊丹はその来歴を改めて自分の口で読み上げた駒門に一言だけ警告した。
「「月給泥棒」「オタク」、隊内じゃ散々ボロクソに言われてるねぇ。
あ。あと最近、バラ疑惑も」
「オイ、駒門さん。後でそれ話したヤツとっ捕まえておいてね」
「ハハハ。まぁその内にな。けど、そんなアンタがなんで「S」なんぞに」
その刹那。駒門の一言を聞いた瞬間に、頷いていた栗林はそのまま硬直。
そして。風に吹かれたかのようにまた倒れたのだった。
「嬢ちゃんが倒れたぞ」
「お前…隊長がレンジャー持ちだって聞いた時にもソレしてたが…現実逃避か?」
そんな栗林が逃避したくなるような事実である「S」とは「特殊作戦群」と言われる陸上自衛隊内に存在する特殊部隊のこと。米陸軍のデルタやグリーンベレーといった特殊部隊と言えば必ず名が挙がる組織を範として編成された部隊。
つまり。自衛隊の持つ特殊部隊の一つで、その実態は多くが謎に包まれているほどの秘匿性を持っている。
「富田さん、「S」とは…?」
「特殊作戦群。いわゆる特殊部隊で、その英語訳が「Special」で始まるから「S」って呼ばれる。けど、ふつうに「特戦」って呼ばれもする」
「つまり伊丹さんは…」
上下反復が激しいとは言えるが、まさか彼が特戦に入っていたという事には栗林にとっては完全トドメのようなものだったらしく、冷たい地面に顔を打ち付けて倒れていた。
面白半分にランサーが突いているが、余程のショックだったようで立ち上がる様子どころか気配すらもない。
「元レンジャーで特戦群。しかもその運の良さは折り紙付きだな」
「運の良さで地獄の訓練に二度も放り込まれるかよ…」
「だが、自衛隊の中では異常ともいえる経歴だがな」
アーチャーがからかい半分に彼の経歴を纏める。ただでさえレンジャーでも色々と可笑しいのにも関わらず、そこに更に特殊作戦群に入っていたという経歴が足されている。
自衛隊でもこれだけの経歴を持つ人間はそうは居ないだろう。
「しかし本当によく調べてるねぇ…」
「別にこれくらいは当然だ。が、私も知った時には驚いたよ。まさか特戦に居たとは」
「…ま、色々とな。それに、知ってるか? 働きアリの中で怠けてる個体を取り除くと、また新たに怠けるアリが出てくるそうだ」
「怠け者…つまり、少しでも違いがあるヤツが必要だと?」
「さぁね。ただ、当時の上官にこの話をしたら…結果はその通りさ」
ちなみに、伊丹の話は「働きアリの法則」といい、八割の働きアリは懸命に働くが、残りの二割はサボってしまう。それを取り除くと、また別の二割が怠けるというものだ。
ちなみに怠けていた者同士が集まると、その中からまた八割が懸命に働くらしい。
これは何度やっても結果は同じ。八割は必ず働くが、残り二割は怠ける。
その二割が伊丹だということだ。
「屁理屈のハズが上官の逆鱗に触れた…か。ま、けどその法則も確かに一理ある。それに、アンタがそうしているっていうのもある意味いいことなのかもな」
常に全力、同じであってはもしもの時に対応できない。本人は望んで怠け者になったのだろうが、それを続けるのには意外と根気や精神が必要だ。
働きアリの法則の続きだが、実は二割の怠け者は本当に働かないあり以外は何も怠けているだけではない。仮に八割の働きアリの中で疲労感によって働けなくなったアリが居れば、そのアリの仕事が回って来て怠け者が今度は仕事をするのだ。
「一辺倒な連中っていうのはまぁ組織としてはいいんだろうが、それはそれで面白みがないからなぁ」
「自衛隊のギャグ担当かよ、俺は…」
「かもな。けど、アンタはただ怠けてるだけじゃない。そうだろ?」
でなければあの日、銀座で起きた時の出来事で、ああも的確な指示や行動が出来る筈がない。伊丹は普段は怠けているだけで、必要な時は自衛隊としての洞察や能力を発揮するというだけ。
能ある鷹は爪を隠す。という言葉にある意味で彼も当てはまっているのだ。
「働きアリとして。その中で怠け者を演じ続けられるアンタの精神を尊敬するよ」
駒門はそういって敬礼をするが、伊丹にはそれがどこか嫌味のように思えてしまう。働きアリである自分が、少なくとも伊丹という働きアリよりも誇れる。
彼にそんな気がないというのは分かっているが、さっきまでの話題がまだ尾を引いているせいでマイナスな考えを起こしてしまう。いや。常に考えてしまうのだ。
「―――ところでだ。報告に聞いていた、日本語を話せるヤツってのは?」
大雑把な言い方だが、それが蒼夜のことを指していることを彼らは直ぐに察する。
この場で日本語を話せるというのは他の面々でも言えたことだが、日本人である伊丹たちを除けば、自然とあとはサーヴァントたちと彼だけになる。
「ああ。坊主のことだよな?」
「坊主? そいつは何処に…」
ふとランサーの指さした方へと目を向けた駒門はライダーに担がれた青年を目にする。強盗された袋詰めのもののような状態で担がれているものが、まさか「者」であることに気付いた駒門は全員に対し「これが?」と訊ねる様に指をさして顔を見合わせていた。
「スミマセン…寝不足だったので…」
「………ああ」
◇
伊丹の手配したバスが到着し、乗り込んだ一行。すると蒼夜とは別にまるで干された洗濯物のようになっていた栗林が追加されていたのを見て、ライダーが彼女を指さして尋ねる。
「あの娘も寝てないのか?」
「いや…アイツは気にしないでください。ほっといてもその内、大丈夫なので」
「そうか。ならいいのだがな」
見放された言い方で富田に言われ、放置されることになった
その隣には介抱されるように後部の座席に寝かされている蒼夜の姿があり、青ざめた顔だがそれでも落ち着いて眠りにつけた様子で、次第に顔色も元に戻った。
「つかよ。なんであの嬢ちゃん、あそこまで錯乱してんだ?」
「アイツ隊長がレンジャーと特戦群であることを信じたくない様ですから。無理もないといえば確かですけど…」
「その「レンジャー」って奴にアイツが入ってるのがそんなにおかしいのか」
「信じたくない…というか信じられないという気持ちは分からなくもないと思います。けど、実際隊長はそれを全て経験しましたし記録だってある。それでも…」
「ガラじゃないってか」
そういうことです。
未だ目覚めない、というよりしばらくは戻ってこないだろう彼女の姿を眺めつつ富田はランサーに説明をした。イタリカでも彼女は同様の反応と拒絶を起こしたことから、どうやら本当に伊丹がレンジャーと特戦群を出たことを受け入れたくなかったらしい。
簡潔に言えば、どちらも地獄そのものというほど過酷な訓練を行うらしく、それを突破した人物がああいったオタクであることに納得も理解もできなかった。というより、それでオタクであること自体も納得できないらしいが。
「そこまで拒絶されると俺も傷つくんだけど…」
「ま。現実を知ってくれたと思って、前向きに捉えるのだな」
「………。」
未だ信じられないという状態の彼女に、そろそろ立ち直ってほしいと思う伊丹だが、当分気持ちの整理がつくまでは無理だろうとアーチャーに断じられる。
その言葉通り、しばらくは布団干しの状態だろう。
「…仕方ない。出してくれ」
小さなため息をついた伊丹は、運転手に頼んでバスを発車させた。
目指すは国会議事堂だ。
「…マスター。大丈夫…ですよね?」
と、同じ最後尾の座席に座りマスターである彼の様子を窺うマシュ。
心なしか彼の顔色はあまり優れず、されど熟睡しているという状態。その睡眠状態は決して悪いものでも、まして良い物でもない。特にこの状況、直ぐに大事事が控えている今は。
「…これって…完全熟睡モード…というか深寝ですよね…」
果たして。蒼夜は無事に起きる…のか。
「では私が目覚めの接吻を」
「そろそろ本当に清姫さんは自重してください。昨晩それで寝れなかったんですよ!?」
「え。そうなのですか」
「………。」
ロマンが聞けば、確実に胃にドリルどころか虹霓剣で抉られる案件である。
その後、マシュとリリィが付き添い、しばらくは車内で落ち着いて眠っていたという。ただし、清姫にずっと直視され続けるという本人が後で知れば背筋が凍り付く状態だったようだが。