朝、いつもの様に目覚める。何時なのかわからないが、勝手にある時間に目覚める様に調整されているので問題は無い。
ネチョネチョの流動食のようなと言うか、流動食を胃袋に流し込み自身の部屋に帰ろうと足を進める。基本的に自由はないが、立ち入り禁止の部屋以外はどこでもいける。手錠や首輪をしても物理的に意味がないから、施設そのものを檻として俺を管理している様だ。
ここに収容されている子供達も俺と変わらない生活をしている。血液を抜かれ、薬を投薬される。年齢の高い子供は戦闘訓練も行う。ただ俺と違うのは、戦闘、血液、薬などの成績、特に戦闘の成績が悪いと体の一部を持っていかれる。施設で時々聞こえる悲鳴はつまりそう言う事だ。その血液や人体を使ってホムンクルスを作る実験を行っている。俺は今まで何人、何千人の犠牲の上で産まれた存在だそうだ。だから、研究により貢献すれば犠牲者が減るそうだ。また、俺が唯一の成功例と言う訳で体をバラバラにされずに済んでいる。
話が逸れたがここの子供達はついてだが、子供達は何処もに何人かのグループで群れている。幼い子供程その傾向は顕著だ。子供が友達を作るのは、日本もここも同じ様だが、年齢が上がるとここでの心と体の傷からか1人の子供が多い。
今日も子供の補充があったそうだ。今回はかなり素質がある子供なのか研究員達が朝から色めき立っている。俺はすれ違う研究員や子供達を避けて自身の部屋に向かって歩く。
俺が部屋の前まで来て、戸を開こうとした時
「おはようございます!私新入りなんですけど、よろしくお願いします!」
耳鳴りがする様な大きな声が響いて来た。ついでに聞きなれない言葉だと思ったが、確か日本語と呼ばれている言語だった様な...
声のした方を見ると短髪で黒髪の少女が、肩を震わせてこちらを見つめていた。
「ああ、よろしく。」
俺は適当に挨拶をしてすぐに部屋に入ろうとしたが、彼女に止められる。
「あ、あの!私、神崎美優って言います!あなたは?」
「トレーノ。じゃあ、もういい?」
「ま、待って!」
「何?」
「私と友達になってください!」
「..........は?」
「だから、友達になってください。」
「お前、俺の事をここの奴らに聞いてないのか?」
「聞きましたよ。あいつは僕達とは違うから、関わらない方がいいって。」
「じゃあ、なんで?」
「既に出来てる人の輪に入るのは、勇気がいるじゃないですか。」
もしかして、こいつ....
「まさか、俺が1人だからとか?」
「はい!私人見知りなんで!」
これのどこが人見知りなんだよ。しかもとんでも無く失礼な奴だな。
でも、偶には誰かとつるむのも経験か...
「友達になってもいいけど、一つ条件がある。」
「はい」
「まず、その鬱陶しい敬語をやめろ。」
「はい!あ、じゃなかった!うん!」
「それから...」
「あれ?一つじゃなかったの?」
「あー、いいから、これが一番大切な事だから」
「俺は産まれた時から何でも知っている。でも、経験がない。経験がないと分からない事もこの世の中いっぱいある事も知っている。だから、教えてくれ」
俺は彼女の顔を見る。これからの俺の発言で彼女が忌避感を感じるなら友人の誘いは断るべきだ。
なぜ、こんな事をだらだら考えているのか俺にも分からないが、直感で友人になるならやっておかなければならない問答だと思った。
「俺は昨日、初めて人を殺したんだ。」
「..........」
「その時は体が熱く感じたんだけど、後はずっと、体が怠くて、頭の中がモヤモヤするし、胸が時折チクチク刺すような痛みを感じるんだ。これは一体なんなんだ?俺の知識にもこんな病状は無いから、経験しないと分からない事なんじゃないかと思ってるんだ。」
美優は一度目を見開いたが、すぐに真剣な表情になり、またすぐに微笑みを浮かべた。全く、良く表情の変わる奴だ。
「体が熱く感じるのは生物としての闘争本能。頭のモヤモヤは嫌悪感。胸の痛みは罪悪感。.........たぶん、そんなところじゃないかな?」
「..........俺が罪悪感を感じてる?」
「トレーノ君は優しいんだよ。」
俺が優しい?そんなこと考えた事もなかった。それに今考えてもそれは違うんじゃないかと思う。あのおっさんを殺す時も面倒臭くなって早く終わらせようと思って殺したのだから........
「ねえねえ。それより、あとは何もない?」
「あ、ああ。.........じゃあな。」
美優の声で意識が浮上する。俺はそのまま自分の部屋に入る。
俺は他の奴らとは違って個室が与えられている。とは言っても鉄パイプで出来た簡易ベッドしかないコンクリートむき出しの殺風景な部屋だ。
それでもまだベッドがあるだけ俺は恵まれているのだろう。俺以外は皆冷たいコンクリートの上で寄り添って寝ているのだから。
「はあ....。」
ベッドに転がりため息をつく。
正直こんな部屋はいらなかった。1人で使うには広すぎるし寒い。こんな冷たい部屋なんか......
「あ〜あ!ベッドある!いいなぁ。」
またもや、耳鳴りがする様な声が反響する。こいつ勝手に入ってきてるんじゃねぇ!
「何勝手に入って来てるんだよ。出ていけよ。」
「えへへぇ」
勝手に入って来た美優は俺の言葉を無視してベッドに腰掛ける。会ってまだ数分しか経っていないが、大体はこいつの性格も分かってきた。これ以上何を言っても話を聞かないなら、無視して眠ろう。
「はあ......」
再びため息をつくが、今度は余り嫌な感じはしなかった。
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「トレーノ、起きろ。訓練の時間だ。」
研究員の声で眼が覚める。どうやらあの煩い馬鹿は大人しくしてたらしい。まあ、ちゃっかり研究員が来る前に帰ってるあたり、意外と抜け目がない様ではあるが。
部屋を出て冷たいタイルの床を裸足で歩く。研究員の背中を眺め歩きながら、昨日の出来事を思い出す。
今日は一体、誰を殺す事になるのか。研究員も昨日は単なる慣らしと言っていたしな。
俺は扉の取っ手を掴みながら考える。
だが、俺の考えは思わぬ形で裏切られる。
なぜなら、扉の向こうに居たのは人間ではなかったからだ。
「グルルル.....」
「.………….」
なるほどね。
今回の相手はライオンだそうだ。
鋭い牙と爪。そして巨体。何よりも全身から放って来る圧倒的プレッシャー。そこには肉食獣として獲物を狩る準備のできた、敵が居た。黄金の鋭い眼で俺に狙いをつける。
とりあえずは昨日の反省を踏まえて、攻撃を避ける練習をしようと思う。それが慣れて来たら、カウンターの練習もしようかな。
「ガアアアア!」
そんなことを考えている間にライオンが飛びかかって来た。
俺はそれを横に飛び退いて避ける。
避ける。避ける。避ける...........
さすがに飽きてきたな。確かに動きもそれなりに速くて、人間よりも動きに躊躇いが無いのはいいけど、直線的すぎる。まあ、カウンターの練習にはもってこいなのかな?
というわけで、俺はライオンの牙を自分の左腕に噛ませて、右手で思いっきり殴る。って、あれ?これじゃあ、攻撃を受けてしまってるではないか!俺の皮膚にはライオンの牙なんて通らないけど。
何はともあれ、ライオンは吹っ飛び壁に激突。自身の出鱈目っぷりに呆れるばかりである。
ライオンは倒れたまま動かなくなった。おそらく失神しているのだろう。結局、一撃で終わってしまったな。
そんなことを考えてたら奥の扉が開かれ、そこから7匹のハイエナが出て来る。
今度は多対一の戦闘ってところかな。
先程と同じ様に攻撃を避けては、蹴りやパンチを放とうするが、上手く連携して妨害して来る。
めんどくさいな。より効率良く、敵を無力化できればいいんだけど。
俺はハイエナの攻撃を避けながら、考える。その間にもハイエナの爪や牙が掠る。それでも無傷ではあるが。
!?.....いや、いい方法あるじゃん。
掠る爪を見て、俺は殴る攻撃から指を揃えて放つ、突き攻撃に移行する。一匹のハイエナが俺に向かって飛び込んで来る。それを交差法の要領で交わし、相手の腹めがけて突く。
「ギャアアアアアアア」
突き出した腕はハイエナの腹を破り、そのまま背中まで貫通。ハイエナ一体を即死に追い込む。
一度コツを掴むと後は早くて、ハイエナの飛び込みを避けながら突き、又は脳天目掛けてハンマーの様に腕を振り下ろす。蹴りも敵を吹っ飛ばす事を考えるか、殺傷力重視で蹴るかでも効率が変わる。その様な作業で七匹のハイエナは肉塊となった。