カメラを持った飛行場姫さんが各地を転々とする話 作:灯火011
カメラを片手に、旅をする人外がおったそうじゃ。
『皆様御存知の通り、深海棲艦との戦いが終わってから数年たった今日では、艦娘と呼ばれた女性達の大半は陸に上がって各々平和な日常を送っている。
例えば、戦艦長門と呼ばれた艦娘は今は保母さんであるし、その姉妹艦であった陸奥と呼ばれた艦娘は、某企業の社長秘書である。空母であった赤城は小料理屋の店長であるし、その片割れの加賀は名門の弓道の師範となって生活をしている。
一部は海軍に残り、自分の経験を後世に伝えようとしている艦娘も、数隻存在している。名前を上げるのであれば、呉の金剛・鳳翔、横須賀の菊月、舞鶴の阿武隈、大湊の潮といったところである。彼女らは軍に残り、未だに海上護衛から訓練へと、忙しい日々を過ごしているようだ。
他にも数十、数百の艦娘がいるが、ここで全ての艦娘の全ての経歴を紹介すると、時間が足りなくなるので割愛とさせていただこう。概ねの艦娘は自分の好きなように生き、残りの艦齢を費やしている。戦いだけしかしてこなかった彼女らが、このように自分の意志で自由に生活できる時代になったというのは、実に有意義だと、素晴らしいと私は思う。
さて、もう一つ、皆様が気になっている存在「深海棲艦」はどうなったのか。最近公開された情報によると、彼女らの生き残りは存在するらしい。ただ、敵意はなく、静かに艦齢を費やしたいということであるから、最低限の物資の支援をしつつ、その動向を海軍がしっかりと見守っているということであった。
だがしかし、何事にも例外は存在する。
そう、皆様御存知の通り、深海棲艦との決着が付くより前に、艦娘と共同戦線を張った深海棲艦が居たのである。彼女らは海軍に協力することで、深海棲艦に対し、少なくない打撃を与えたのだ。その功績は口では言い表せない程度に大きく、彼女らの支援があったからこそ、人類と艦娘は深海棲艦に打ち勝ったと言ってもいいぐらいだ。
・・・そう、艦娘に協力した深海棲艦は、他の生き残った深海棲艦と同じ扱いをされるわけがない。それでは、海軍の公開した資料から、協力した艦種の名前と簡単なプロフィール、そして現在の所在をご紹介しよう。』
◆
京都、朝9時。一人の女性が、京都駅近くのビジネスホテルのホテルベットに腰掛け、終戦記念日特番をのんびりと見続けていた。
「もう終戦からそんなにたっていたの。時間というのは、早く進むものね。」
テレビのテロップの表示を改めて見つめつつ、彼女は水を一口、口に入れる。そして、少しだけ笑みを浮かべたあたり、美味しかったのであろう。このホテルのチェックインの時に無料で配られるミネラルウォーターであったが、どうやら良いものであるらしい。そして彼女は首を左右に振りながら、ビジネスホテルの内装を確認していく。
特徴的なのは50インチの巨大なテレビ。部屋の大きさは6畳程度。ハンガーは4つあり、その脇にスプレー式の消臭剤が置いてある。実に一般的なホテルの部屋だ。
「うん、ま普通よね。ベッドは・・・鎮守府の布団よりは、柔らかくていいかしらね。あと、隣の声が聞こえない当たりは部屋の防音性もしっかりしてるわね。」
彼女は頭のなかで、自分の居た鎮守府の部屋を思い出していた。そう、鎮守府の部屋は酷いものだった。少し大きな物音を立てれば上下左右に響き渡るし、その布団は大抵が煎餅布団だ。しかも、大規模作戦時には誰も清掃をしなくなるため、鎮守府はそれこそゴミ屋敷と化すのだ。それから考えれば、このビジネスホテルは天国だろう。
「さて、と、今日はどうしようかしら。」
部屋の観察をやめて、彼女は今日の予定を頭のなかで組み立てているようである。その手の中にあるのは、「京都観光お勧めベスト10」というWebページが開かれたスマートフォンだ。
「やっぱりまずは有名所からかしらね。清水寺、八坂神社、貴船神社、平安神宮、金閣寺に銀閣寺、あとは・・・稲荷大社もいいわね。・・・よし」
彼女はそう呟きながら、机に置いてあったカメラ一式をTENBAと書かれたカメラバッグに詰め込んでいた。カメラを詰め込むその手は、人間にしては真っ白すぎなのだが、きめ細やかな肌が美しい。そして、その顔を見てみれば、赤い瞳に白い肌、そして真白の髪の毛に2本の角という、彼女は明らかに人間でない姿をしていた。
彼女が扱うカメラはPENTAX:K-S2。そしてDA★16-50 f2.8レンズが装着されたカメラの一部には、海軍のマークと小さく
「ま、悩んでいても仕方ないわね。」
彼女はそう言いながら部屋のカードキーを手に取ると、カメラバッグを肩にかけて、部屋のドアを開けるのであった。
◆
ホテルを出て彼女が最初に向かったのは、有名所である清水寺であった。京都駅からバスで約30分という好立地であり、清水寺に向かう坂には多数のお土産屋が立ち並ぶ有数の観光スポットである。
「人出が凄いわね・・・。」
彼女は清水寺の参道である清水坂をゆっくりと登りながら、呟いていた。何せ制海権が戻ってからココ数年、日本への観光客は鰻登りで増えていた。
---世界を救った島国---
事実上、たった1国の島国の活躍により、太平洋の海は深海棲艦から開放されたのだ。そんな国に訪れてみたいと思うのは、当然の帰結である。そして、彼らが日本を訪れる理由は、それだけではない。
---日本に来れば、救世主「艦娘」に、そして救世主である「
これに尽きるのである。船の記憶を持つ、美しき女性。そして、対ではあるが不思議な美しさを誇る深海棲艦。この2種類の英雄に合うために、人々は日本へとやってくるのである。
そして、それを証明するように、カメラを持ちながら清水坂を登る彼女の周りには、人だかりが出来ていた。次々に焚かれるフラッシュ、シャッター音を気にせずに、彼女は歩みを続ける。時折サービスのように腰に手をやったり、店の物を手にとったりするたびに、また多数のフラッシュが焚かれ、彼女は流石に苦笑いを浮かべていた。
それに同情するように、お土産店の店員が彼女に言葉をかけていた。
「大変ですね。」
「・・・ま、慣れたものよ。別に何をしてくるというわけでもないですから。それにしても御免なさいね。私のせいでこんなに人だかりが出来ちゃって。」
「とんでもない。貴女に来ていただいて此方としてはすごく嬉しいんです。どうぞ、ゆっくりと御覧ください。」
「そう?ありがとう。それじゃあゆっくりと見させていただきますね。」
「はい。あ!
店員はそう言うと、どこから取り出したのか色紙とペンを取り出し、期待を膨らませた満面の笑みを浮かべていた。
「構わないわ。」
彼女、リコリス・・・
そう。元、深海棲艦。現、世界を救った英雄。そしてカメラが趣味の旅行人。それが彼女である。
◆
『・・・人類側に付いた深海棲艦の中で最も強力な個体は現在、日本を点々としながら悠々自適にカメラを片手に旅をしているとのことです。そう、恐らく皆様ご存知だとは思いますが、彼女の識別名は「飛行場姫」。個体名はリコリス。過去ソロモン海域を支配していた彼女と、その部下が人類側に付いたことにより、戦争の終結が早まったのであります。』
人外は美しく、優しいお方だったそうじゃ。