カメラを持った飛行場姫さんが各地を転々とする話 作:灯火011
飛行場姫「リコリス」は、外国人と少しの日本人に囲まれたまま清水坂を登り切り、清水寺の正門へとその身を置いていた。そして、リコリスは自分を囲み、スマートフォンや一眼レフで撮影を続ける人間たちを見ながら、苦笑を浮かべる。
(注目されるのにも慣れたけれど、彼ら人間も飽きないものね。)
若干呆れ気味のリコリスであったが、彼女が街に出て囲まれる原因の多くは、彼女にあるのだ。まず、容姿を完全に一般公開していることである。テレビでも、新聞でも、インターネットでも「深海棲艦」といえば彼女、という具合に毎日メディアに映像や画像が流れ続けているのである。そして更に言えば、彼女は変装もせずに、深海棲艦時代の服装・髪型のままで街に繰り出すのだ。
それはもう、注目されるのは致し方ないのである。
(ま、そうされるようにしているのだけどね。下手に隠すよりもおおっぴらにしたほうが楽しいしね。)
そう、リコリスは自覚して、目立つ格好をしているのだ。街に出れば「リコリスだ!」と声をかけられ、レンズを向けられる。店に入れば「リコリスさんだ!」とサインと写真と握手を求められる。それでいて話をすれば、地元の美味しい料理や観光地を知ることが出来るのだ。旅好きである彼女は、この状況を利用しながらも楽しんでいるのであった。
「リコリスさん、私と一枚記念写真を!」
「ええ、良いわよ。それじゃあ、彼女のカメラと私のカメラ、2台分のシャッターを誰かお願いできるかしら?」
「俺がやりますー!」
「お願いするわね」
リコリスはそういいながら、少女のEOS Kissと、自身のDA★16-50mm F2.8を取り付けたPENTAX K-S2を、名乗り出た男性に手渡しながら声をかけてきたであろう少女の隣へと立つ。そして、男性がkissのファインダーを覗きシャッターを切ろうとした瞬間、リコリスから待ったがかかる。
「ただ撮影するというのももったいないわね。折角だから仁王門を背に一枚どうかしら?殿方も協力願えます?」
「えぇ、俺はかまいませんよ!」
「ぜひ!うわぁ、いい記念になります!」
リコリスの気遣いに興奮した少女は、リコリスの手を掴み、早足で仁王門へと向かう。
「慌てなくても大丈夫よ。私も仁王門も逃げはしないわ。」
リコリスは興奮する少女に、やわらかな笑みを浮かべながら言葉を発していた。そして、表情の変化に合わせるようにシャッター音が鳴り響く。リコリスが一つ行動をする、一つ表情を変えるだけでコレである。
だが、仁王門にたどり着いた瞬間、少女とリコリスの記念の一枚を邪魔しないためか、リコリスを囲っていた集団は統率の取れた軍隊のように、サァっとリコリスから自然と距離を取る。それを確認したリコリスは、カメラを持った男性へと声をかけた。
「ここでいいかしらね。じゃあ、お願いするわね。」
リコリスのセリフと共に、男性がまず少女のカメラで写真を撮影する。
「はい、それじゃあ撮影しますね!はい、チーズ!」
フラッシュが炊かれ、少女のカメラのシャッターが切られる。それと同時に、カメラのモニターにはリコリスと少女のツーショットが映しだされていた。そして、出来を確認した男性が、今度はリコリスのK-S2を構え始めたその時、リコリスが口を開いていた。
「あ、殿方。絞りを11ぐらいにして頂ける?今絞り優先にしてあるから、親指側のダイヤルを回せば設定が変わるはずよ。」
男性はリコリスに言われたとおりにダイヤルを回し、絞りをF11まで絞る。そして、改めてファインダーを覗き、リコリスへと声をかける。
「絞りオーケーです。それじゃあ撮りますよー!」
男性がそういった瞬間である。リコリスは少女へとさり気なく近づき、肩へと腕を回していた。驚く少女に、リコリスは優しく笑みを浮かべる。
「ほら、カメラのレンズをみないと。」
「は、はいっ。」
やわらかな笑みを浮かべるリコリスに、少女は顔を赤らめながらも笑みを浮かべていた。その瞬間を逃さないように、男性も声を出しながら、ファインダーを覗く。
「3,2,1、はい、チーズ!」
ガシャリ!
PENTAX独特のシャッター音が切られると共に、カメラのモニターに少女とリコリスのツーショットが表示されていた。
ただのツーショットではなく、リコリスが少女の肩に手を回し、顔がほぼ密着していて、親友同士の写真のようである。そして、後方には赤色が鮮やかな仁王門がしっかりとアングルとして入っているあたり、男性の撮影技術も素晴しい。
「殿方、ありがとうね。」
「お兄さん、ありがとうー!」
「いえいえ、お役に立てたのならば!」
リコリスと少女は、男性からカメラを返してもらえながら笑顔を浮かべていた。そしてリコリスは、スマートフォンを取り出しながら、少女へと言葉をかける。
「お嬢さん、今の写真、ツイッターに上げてもいいかしら?」
そういったリコリスのスマートフォンには、先ほどK-S2で撮影された少女とリコリスの写真が表示されていた。
実はPENTAXのK-S2という一眼レフは、本体にWiFiが搭載されているため、専用のアプリを使うことでカメラ本体とスマホ間の画像のやりとりが可能になるのだ。一眼でいい写真を撮り、ツイッターやラインに流すという、旅をする人にとっては便利なカメラなのでもある。
「あっ・・はい!もちろんです!」
「ありがとう。」
リコリスは少女に笑顔を浮かべながら、少し不慣れな指使いでツイッターへ画像と文章を打ち込み、送信のボタンを押す。・・・もちろん、その姿も一般人から撮影され、ツイッターに挙げられていたりするのはご愛嬌といったとろだ。
そして、リコリスのツイッターには、次の文章と共に少女との写真が掲載されるのであった。
---京都 清水寺 正門にて。
かわいい女の子とツーショット---
◆
清水寺の奥、清水の舞台までたどり着いた彼女は、清水の舞台の手摺から身を乗り出し、真下を覗き込んでいた。そんな彼女の気持ちを一言で代弁するならば、次の言葉で事足りる。
『清水の舞台から飛び降りてみたい』
そう、K-S2で清水寺の景色を撮る内に、ことわざにある通りに彼女はこの舞台から飛び降りたくなったのだ。一応付け加えておけば、体が船である彼女にとって、数十メートルの高さから飛び降りるのは造作も無い事であるある。が、彼女の中にある「姫」としての一般常識が彼女の行動を制限していた。
とはいえ、深海棲艦を裏切って人類と艦娘の味方になった彼女は既に、清水の舞台から飛び降りる事以上のことをしているのは誰の目にも明らかである。
「危ないですよ!リコリスさん!」
そう声をかけるのは、先ほど写真撮影を行った少女だ。なんやかんやで、一緒に清水寺を回っているのである。
「そうかしら。私はこのぐらいの高さから落ちても怪我もなにもしないわよ?」
「そういうことじゃないです!」
頬を膨らませて怒る少女に、リコリスは苦笑を浮かべていた。そして、名残惜しそうに手摺から身を離し、口を開く。
「わかったわ。これでいいかしら?」
「はい!じゃあ、そろそろ移動しましょう!」
少女は満足したのか、笑顔でリコリスの手を握っていた。そして、そのまま勢い良く歩き出そうとする少女を、リコリスは頭をなでながら止める。
「待ちなさい。私は別に急いでいるわけじゃないの。貴女も時間があるのなら、もう少しゆっくりと古から続く人類の文化を見なさいな。」
「え、でもー。」
少女は不満そうである。だが、リコリスは特に気にせずに言葉を続けていた。
「・・・そうねぇ。例えば、皆は舞台しか見ないけど、この屋根をささえる柱や梁の古さ、その釘を使わず全て木組みの継ぎ勝手、とかを見てみなさい。
当時からあるものなのに、どこも隙間もなく組んであるでしょう?これは凄いことよ。こういう細かいところまで観察して、昔の人達がどれだけ良い技術を持っていたのか、どんなふうにこの清水寺を作り上げたのか、考えるのもまた楽しいのよ?
あぁ、あと、私に着いて来ている貴方達も私ばっかり見てないで、ちゃんと清水寺と京都の姿を見てあげないとね?」
リコリスはそう言いながら、右手は垂らしたまま、左手を腰に当ててる。そして少しだけ右足を前に出し、体を斜めにする。
リコリスにしてみれば、部下を諭す時の癖のようなポーズなのであるが、このポーズの破壊力は大きい。腰に手を当てたことにより、その姿勢が正されて魅力的な体のラインが浮き出し、脚を前にだしたことにより、体が少し斜めになり、通常では見れない脇や首筋が少しだけ顕になる。意識したわけではないが、一般人からしてみれば、絶好のモデルポーズである。
「リコリスさんかっこいい・・・!」
その言動と姿を目に入れてしまった少女は羨望の眼差しでリコリスを見上げ、リコリスを囲む人々の指は自然とシャッターへと伸びる。
(・・・誰も話をきいちゃいないわね。)
そして、少しだけ呆れるリコリスを尻目に、多数のフラッシュが彼女を包むのであった。
そして、深海の姫君は、とてもとてもおちゃめ(天然)なお方じゃ。