カメラを持った飛行場姫さんが各地を転々とする話   作:灯火011

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昼間は清水寺で観光をした飛行場姫は、夜、一人で夜の京都へと繰り出していた。

夏の京都の風物詩の一つである、とある祭を見に来たようである。


3話 京都の夜と、御手洗と。

「賀茂御祖神社」

 

 京阪電車に乗り、終点である出町柳駅から徒歩5分にあり、通称「下鴨神社」と呼ばれ、世界遺産「古都京都の文化財」にも登録されている神社である。

 賀茂氏の氏神を祀る神社であり、特に八賀茂建角身命は日本神話に登場する神で、八咫烏に化身し神武天皇を先導したとも言われている。

 

 そんな由緒正しき神社に、元人類の敵、今人類の味方である飛行場姫、リコリスは立っていた。時間にして20時である。普段であれば、この時間に神社に訪れる人間はほとんど居ない。

 だが、今日は7月の土用の丑の日である。本日は賀茂御祖神社の祭事である「御手洗祭り」が行われているのだ。

 

 土用の丑の日の前後5日(例外はある)に行われるこの祭事は、「足つけ神事」とも呼ばれ、境内の御手洗池(みたらしいけ)の湧き水に足を膝まで浸して、蝋燭の灯明を持ったまま社までゆっくり歩いて、ろうそくを献灯し、人々は年に一回、罪やけがれを祓って無病息災を祈るのである。

 そして、お祭りの開催中、朝は5時30分、夜は10時00分まで御手洗池が開放されているため、朝に訪れれば清涼な空気を、昼に訪れれば涼しい御池を、夜に訪れれば蝋燭の灯火が美しい御池を見れるのである。それ故に、飛行場姫は夜の美しい蝋燭の灯火を撮影し、ついでにこれからも旅行を続けられるようにと無病息災を祈る魂胆である。

 

 だが、そこは京都のお祭りである。夜の20時を過ぎたというのに、御池へと続く列は境内の外へと続き、更には追加の参拝客でその列がどんどんと長くなっているのである。

 

「人、多すぎない?」

 

 カメラを首から下げ、肩掛けタイプのTENBAのカメラバッグを自身の右側に垂らし、一つため息をつきつつも飛行場姫は大人しく列に並んでいた。その手にはもちろん、PENTAXのカメラであるK-S2、そしてDA★レンズの16-50ミリが装着してあった。

 なお、カメラバッグの中には「もしかしたら使うかもしれない」と、メッツのストロボ52AFと、DA★50-135、そして広角フィッシュアイレンズの10-17FISHEYEの1ストロボ・2レンズがしっかりと入っていた。

 

 

 彼女がしばらく列に並んでいると、やはり、というべきか、彼女の周りに人だかりが出来ていた。何せ彼女は深海棲艦ながら人間の味方をした「英雄」の一人である。サインを彼女にねだるもの、記念写真を要求するもの、握手を要求するもの、遠くから写真を撮るだけのもの、などなど様々な人間が彼女を囲んでいた。

 ただ、飛行場姫リコリスも、今はプライベートで旅行中である。横須賀鎮守府にいたころならまだしも、旅行に来た京都で彼ら人間の期待に答える義理は全く無い、のだが、そこは彼女の人の良さが出てしまっていた。

 一人ひとりの要求に、丁寧に応える彼女の姿が、そこにはあったのだ。サインに答え、一緒に写真を撮影し、握手をし、遠くのカメラに目線を合わせ・・・。ある意味、彼女は今でも人間のために存在しているようなものである。

 

 「私を撮影しても面白く無いでしょうに。ここからなら舞鶴にいって軽巡棲姫でも撮影すればいいじゃない。もっとサービスいいわよ?」

 

 ツーショットを撮ったカップルに向けて言葉を掛ければ

 

 「いいえ!リコリスさんと一緒に写真に写れて最高です!」

 

 と、満面の笑みで答えられてしまっては、飛行場姫も苦笑を浮かべるしか無い。

 

(・・・早く列進まないかしらね?)

 

 飛行場姫は、次から次へと来るサインと写真撮影を上手に熟しながらも、列の後を追従するのであった。

 

 

 飛行場姫が列に並んでいるその頃、同じ境内に一人の女性が訪れていた。茶色のストレートヘアーをそのままに、錨のマークがかかれたTシャツとジーパンを履いたその女性は、飛行場姫と同じメーカーのカメラであるK-1にfa43mm f1.9 limitedのシルバーを右肩に掛けて、同じように列に並んでいた。

 

 「ムゥ・・・夜なら空いていると思ったんデースが・・・。こんなに人気だったとは思わなかったデース」

 

 彼女の名前は、現在では○○○○という、平凡な日本人の名前である。

 

 「・・・それにしても、前の方の人だかりは何でショウか?もしかして、だれか有名人でもいるのデースかね?」

 

 そう呟く彼女の隣を、参拝を終えた一人の女性が、電話をしながら通り過ぎていった。

 

 『本物見ちゃった!本物!うん、うん、そう!深海棲艦の飛行場姫さん!すっごい綺麗だったよ!TVといっしょ!写真も一緒にとってもらえたんだ!帰ったら見せるよ!うん!うん!早く帰るね!」

 

 電話の会話を聞いた○○○○は、次の瞬間、目の色を変えて列の前方へとダッシュしていた。そして、人だかりを掻き分けて、彼女は笑みを浮かべながら、大きな声で叫んでいた。

 

 「飛行場姫!!」

 

 「・・・あら?金剛じゃない。こんな所で会うなんて、奇遇ね。」

 

 「奇遇どころじゃないデースよ!ずーっと連絡もなしに!どこにいってたんデース!?」

 

 「日本全国、津々浦々よ。せっかく陸に上がれたんだもの。楽しまなければ損でしょう?」

 

 「そうデースが!生存の証が銀行の引き落とし履歴だけでは寂しすぎマース・・・。」

 

 「別にいいじゃない。今、会えたわけだし。それに、そちらにはレ級がいるのでしょう?」

 

 「それとこれとは話が別デースよ!もう!」

 

 飛行場姫は、どうやら海軍との連絡を取らずに旅行をしていたようだ。とはいえ、海軍としては飛行場姫はタダでは死ぬわけがないし、殺しても死なないという節があるため、全く心配はしていないようである。ただ、過去に口座に金を振り込み忘れていた際、横須賀に殴り込みに来たため、金銭のやり取りだけはしっかりとしているのが、現在の海軍と飛行場姫との関係だ。

 だが、飛行場姫が現役当時、仲のよかった連中はそうも行かない。金剛を筆頭とした海軍の上位艦娘達は特にそうだ。飛行場姫と戦ったこともあり、飛行場姫を助けたことも有り、飛行場姫に助けられたことも有り、そして、飛行場姫と同じ釜の飯を食った彼女たちの結束は並大抵のものではない。

 

 「本当心配してたんデースからね!?未だに居る深海棲艦否定派や、離反した深海棲艦にいつ危害を加えられるかわからないデースからね!?」

 

 「・・・そんな連中に負けるほど私はやわじゃない・・・」

 

 「そういう問題じゃネーデース!心配だと、言っているんデースヨ!」

 

 「・・・悪かったわね。これからは月一で連絡するわよ。」

 

 「それでいいのデース。それに、時折には飛行場姫と旅行もしたいと、海軍の中から声も上がっていますシ。」

 

 「あら、そうなの?」

 

 「知らないのデースか?飛行場姫。今や艦娘たちの中で貴女の人気はかなり高いのデース。元々は敵であるのに、今や人間に紳士に対応する飛行場姫。そんな貴女と交流をしたいという元艦娘や、海軍関係者は多いのデスよ。」

 

 「ふぅん・・・。ま、確かに交流があったと言っても金剛達一部艦娘だけだったものねぇ。ま、それはそうとして。」

 

 飛行場姫は金剛の手を引いて自身の横に金剛を立たせると、肩を組み、カメラやスマホ片手に先程からこちらをみている一般人達を見つめると、笑みを浮かべて口を開いた。

 

 「紳士淑女の皆様。こちらは元同僚の艦娘、金剛です。ま、撮影したいなら列を邪魔しない程度に、ご自由に。・・・ほら、金剛も何か一言。」

 

 「ファッツ・・・?あ、あー・・・。ンンッ!横須賀鎮守府所属の金剛デース!とはいっても今は第一線を退いていますので、元デースけどね!」

 

 金剛がそう言うと同時に、カメラとスマホのフラッシュの花が開いていた。終戦から数年たった今でも、艦娘と深海棲艦の人気は、高い。

 

 

 少々の騒ぎの後、飛行場姫と金剛は特例措置として列を無視して、御池の前に立っていた。何せ人気が高い彼女らが来ていると判ったのだ。神社側も無下には出来ないという判断なのであろう。それに、彼女らが居るおかげで列が乱れ、とてもとても列形成ができなくなっていたのである。

 そして、金剛は飛行場姫と共に、蝋燭代金を払うと、早速御池へと足を進めていた。

 

 「ムー。飛行場姫。その姿はどうにかならないのデースか?」

 

 その姿、というのは、深海棲艦の姿だ。飛行場姫は未だに現役当時の飛行場姫の格好をしているため、嫌でも目立つのである。

 

 「・・・隠すものでもないわよ。それに、この方が人間受けが良いでしょう?」

 

 「それはそうデースが。今日みたいに混乱が起きてしまっては仕方がないと思うのデース。」

 

 金剛は気を使って、というわけではないが、海軍のマークこそ入って入るものの私服である。一般人からみても、綺麗なハーフのお姉さんといったところであろうか。

 

 「その御蔭で列に並ばずに御池に入れたのでしょう。良いことよ。」

 

 そういう飛行場姫は、白い水着に黒の縁取りを入れたようなレオタードに、白いブーツと手袋である。頭の角も赤い目もそのままに、白い肌、白い髪すら隠さずに街を闊歩しまくっているのだ。

 控えめに言っても情緒的である格好の飛行場姫は、常に人の目を集める存在と言っても過言ではないだろう。

 

 「むー、その点に関しては感謝しますガ。ただ、その格好だと色々と注目されるんじゃないデース?」

 

 「ふふ。確かに下心まる出しで見てくる殿方も多いし、盗撮も多いわ。インターネットを見るとえげつない私の写真も多数あるようだしね。本当、いつ撮影されたのかしら?」

 

 「・・・尚更その格好をやめたほうがいいのデハ?」

 

 「悪い気はしないわよ。どれも魅力的に撮影されているもの。写真を撮影する者としての気持ちは判るし」

 

 「そんなものデースかねぇ。私は今盗撮されたらすぐに艤装を持ち出したいデースが・・・!」

 

 「まぁまぁ、世の中それだけ平和になったということよ。元敵である私が言うのも、変だけどね。」

 

 飛行場姫と金剛はそう会話をしながら、御池へと歩みを進める。夏の夜でありながら、地下水を利用したお池の水はとても冷たく、2隻ともに思わず「冷たッ!」と口から出てしまうほどだ。

 

 「・・・これはなかなか冷たいわね。それに、膝上まで水が来るなんて。」

 

 「デースねぇ。でも、熱い体が冷えて気持ちいいデース。」

 

 先程までの会話を忘れ、彼女たちは御池の奥へと、冷たい水の中で歩みを進める。途中、蝋燭に火をつける灯籠がいくつか点在している御池は、蝋燭を持つ多数の人と相まって非常に幻想的だ。

 

 飛行場姫は自身の蝋燭に火をつける前に、一枚、カメラを構えてシャッターを切る。

 

 カメラのディスプレイには、名も知らない少女が、灯籠から蝋燭へと火をつける瞬間が記録されていた。浴衣姿で、蝋燭の灯りだけに灯された少女の横顔が美しい一枚だ。

 

 それを確認した飛行場姫は、自分の蝋燭を灯籠へと近づけ、火をつける。とその瞬間、彼女の左側から「カシャリ」としっとりとしたシャッター音が響いていた。

 

 「・・・金剛、撮影するときは言いなさいよ」

 

 「飛行場姫も見知らぬ人を撮影してたじゃないデースか」

 

 そういいながら、笑みを浮かべる金剛のカメラ、K-1のディスプレイには、少しだけ微笑み、優しいまなざして蝋燭の先を見つめる飛行場姫の姿が写し出されていた。

 

 「・・・あら、いいじゃない。腕を上げたわね。」

 

 「普段、私の近くにはレ級がいますからネー。」

 

 金剛はそういいながら、今度は自身の蝋燭を灯籠へと近づける。もちろん、飛行場姫はその瞬間を逃さない。

 カメラを縦に構え、ファインダーを覗き、絞りを開放しながら露出を一気に-3EVまで下げてシャッターを切る。するとどうだろう。飛行場姫のカメラのディスプレイには、蝋燭の灯りが御池の湖面へと反射し、そして金剛の顔が少しだけ蝋燭の灯りで浮き出す、なんとも幻想的な写真が表示されていた。

 

 「ムー。流石デースね・・・。御池の雰囲気、すごく出ていまーす・・・!」

 

 金剛は飛行場姫のカメラのディスプレイを覗き込むと、思わずため息を付いていた。

 

 「ふふ。元レ級の上司としては、このぐらいの写真は撮らないと、ね。ま、それはそうとして、後ろが詰まっているし、先に進んで蝋燭を捧げましょう」

 

 「デースね。この先が綺麗という話なんデスが。どんな光景なんでしょう」 

 

 金剛と飛行場姫は、笑顔を浮かべて、自分の順番を待つ。京都の夜の一幕である。

 

 




お久方ぶりです。なんとか少しづつですが時間が取れるように相成りました。のんびりと更新して参ります。
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