カメラを持った飛行場姫さんが各地を転々とする話   作:灯火011

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自由気ままに旅を続ける飛行場姫であるが、彼女だけが生き残ったわけではない。

その他の船ものんびりと、余生を過ごしているようだ。


閑話休題:戦後のそれぞれ No1

 深海棲艦を裏切り、人類の味方となった深海棲艦の一人、飛行場姫。通称「リコリス・ヘンダーソン」は先の番組でお伝えした通り、日本全国を自由気ままに楽しみながら旅をしています。

 その片手にはカメラを携え、行く先々では自由気ままに写真を撮影しながらも、我々の要望、例えば「一緒に写真に写ってくれ」「握手をしてくれ」「サインをくれ」といった要望に一つ一つ丁寧に答えていくその様は、元々敵とは思えないほどの淑女ぶりであることは皆様ご存知のとおりです。

 更に近年では、北方棲姫に続いて出版業界にも進出し、飛行場姫リコリスの出版した旅行記「写真で見る日本(第一巻~)」が写真集ながらも、10万部を超えるベストセラーを記録したことも、皆様の記憶に新しいと思います。

 

 さて、ここまで説明したところで飛行場姫の特集、と思われました視聴者の皆様。残念ながら今回はそうではないのです。

 

 というのも今回、我々が取材したのは、なかなかスポットが当たらない姫級以外の深海棲艦や、元艦娘達だからです。

 

 平和な世の中で彼女たちが過ごす日常を、少しだけ覗いてみたいと思います。

 

 「・・・これとはライバルです」

 

 「・・・こいつとはライバルです」

 

 海上で激しく目線の火花を散らすのは、一人の駆逐艦と一人の艦娘である。

 

 「今日もこれから競争するんですよ」

 

 そういうのは、深海棲艦の駆逐艦、駆逐イ級である。ただ、「彼」・・・駆逐イ級がそ呼んでんで欲しいとのことである・・・が言うには、これから荷物の宅配を行うそうだ。というのも、彼女たちが所属するのは軍隊ではない。○○海運という、国の運営する海運業者だ。

 

 普段は大型船で運搬を行うのだが、速度を必要とする運搬の時に、彼女らが大活躍するのである。

 

 今現在、戦が終わったとは言え、鉄道や空路、陸路が完全に復活したわけではなく、未だに復旧を続けているのはご存知のとおりだ。鉄道東京からは北は宇都宮、南は静岡で止まり、陸路も各地で寸断され、空路は未だに空港の修復がままならない場所が多い。

 そこで活躍するのが彼女たちである。特に緊急を要する手紙荷物は、彼女たちの手に委ねられることが多い。そして今日も、忙しく日常を過ごしているようだ。

 

 「今日は小包を5個づつ。横須賀から仙台港まで、頼むわね?島風、イ級」

 

 「「了解ッ!抜錨!主機全速力!」」

 

 「まっけねぇえぞおおお島風エエエ!」

 「今日は勝つんだからぁああ!」

 

 彼女たちは叫びながら、とんでもない速力で海の彼方へと消えていった。

 

 「お恥ずかしい限りです。元気いっぱいでいいことなんですが・・・。」

 

 そういうのは海運業者の担当者である元艦娘の明石である。現在の名前は佐藤とのことだ。

 

 「島風もイ級も主機が特殊なんです。ですから、私ぐらいしか彼女たちを整備することができないんですよね。そこがちょっと悩みですけど。」

 

 彼女曰く、海軍に残る選択肢もあったそうなのだが、せっかくなら民間で働きたいと島風が言い出し、それに明石と駆逐イ級がくっついていったそうだ。

 

 「ま、やりがいのある仕事ですから、少なくとも私たちは満足していますよ。あ、そうそう。速達はぜひ○○運輸へ。艦娘と深海棲艦があなたの荷物を迅速に運びます。」

 

 

「これが飛行場姫の艤装です。で、あちあらにあるのが北方棲姫の艤装。それで中央にあるのが港湾棲姫の艤装です。」

 

 そう我々に話している人物は、深海棲艦の艤装を管理する元艦娘の夕張だ。現在の名前は明かせないが、現在は横須賀鎮守府にて整備主任として働いている。

 

「軽巡棲姫の艤装は現在修復中です。・・・えぇ、そうです。この間の演習の時のダメージで大破しているんですよ。」

 

 この取材を行ったのは○月○日。横須賀フェスタにおいて元戦艦霧島と、軽巡棲姫が演習を行った直後であった。模擬演習とはいいながらも実弾を使ったそれは苛烈を極め、お互いに大破をしながらも最後は肉弾戦でドローというとんでもない試合であったことは、皆様の記憶に新しいであろう。

 

「本当はすぐにでも直したいんですけど、昔のように資材が潤沢には回ってきませんからね。他の深海棲艦の艤装も同じように修復中のものもある始末です。ま、駆逐イ級は別として、他の皆はもう戦うことはないので「破棄していいよ」と言っているんですけどね。」

 

 夕張はため息を人ひとつつくと、飛行場姫の艤装を撫でながらポツリと呟き始める。

 

「・・・破棄は出来ないんです。私達人間と艦娘の命を多く奪い、そして人間と艦娘の多くを救った彼女達の艤装を、破棄なんてとても出来ません。本当は私達の艤装と同じように記念館で展示したいところなんです。でも、本人たちは私達は裏切り者だと、人殺しだからそんなところに一緒に並べられるのは違う、と固辞しちゃうものですから。」

 

 苦笑を浮かべる夕張。確かに一部には深海棲艦を毛嫌いするものもいる。やはり過去の事を忘れられないのも我々人間である。だが、今現在の平和な世は彼女たちの功績であるが故に、戦後7年、もうあと3年で10年となるこの時に、感情を整理することが必要ではないかと思う次第だ。

 

 

 「はいそこぉ!顎を引いて!もっとペースを上げて!・・・笑ってるそこ!10周追加ぁ!」

 

 女性の声が響くグラウンドは、横須賀の呉鎮守府である。彼女の声にしたがって、海軍に入隊したばかりの若者たちがグラウンドを駆け巡っていた。

 

 「だーかーらー顎を引いて!言うこと聞いて!全く、女の私に負けて恥ずかしくないのかなぁ・・・?」

 

 笑顔でそういいながら、彼らの先頭を走る彼女は、海軍の中では通称「鬼教官」と呼ばれる艦娘の阿武隈だ。彼女は未だに現役であり、各鎮守府において新人の訓練に当たっている。

 

 「ま・・・け・・・ま・・・・せええええええん!」

 

 彼女の言葉を受けた新人は、おそらく最後の力で顎を引き、全力で駆け出し始めていた。その姿をみて、阿武隈は笑顔を浮かべる。

 

 「やればできるじゃない。それじゃあ、ラスト1周いくわよ!あっ、そうそう、私を抜けたら日曜日デートしてあげる。なんてね」

 

 「っしゃああああああ!」「抜かすうううううう!」「うおああああ!」

 

 艦娘とデートが出来る。その言葉に阿武隈の後ろを走っていた新人たちは気合を入れる。彼女の動きを見ていると、飴と鞭の使い所が旨いと感じられた。

 

 「ふふ。良い気合よ!でも。甘く見ないでね!」

 

 彼女とて艦娘といいながら、海の上ではないためその体力は人間並だ。既にグラウンドを数十周しているため、彼女自身の体力もきついはずだが、体は一切ブレず、その顔には余裕さえ伺えていた。

 そして、新人たちが彼女を抜かそうとしたその瞬間、彼女は短距離走かと思う加速を見せ、ぶっちぎりのトップでゴールをしたのである。

 

 「昔にレ級と出会ってから、基礎体力を重視するようになったんです」

 

 とは阿武隈の言葉だ。

 

 「戦時中、私達の切り札である金剛さんと対等に渡り合えたレ級が、陸上でも全く息を切らさずに走っている姿を見て、私もあれに追いつかなきゃな、と。」

 

 実は阿武隈は、深海棲艦が公式に味方になる前から深海棲艦と交流があった船であり、その時間は戦艦金剛と並ぶ。

 

 「その御蔭で今も陸上ではありますけど、軍属に属せています。彼らを海に送り出し、無事にその責務を果たせるようにする教官という役割では有りますけどね」

 

 役立ってるかはわかりませんが、といいつつ苦笑を浮かべる阿武隈であったが、彼女の評価は総じて高い。訓練では一人ひとりの限界を見極め、尻を叩き、知識面では必須事項だけではなく、応用から彼女の実際の体験談を交えた教科書にない知識を訓練生に与えるのだ。

 阿武隈の教育を受けた訓練生の中からは、戦後の軍隊において有名な提督や艦長が多数いることからも、実力は間違いない事が伺われる。

 

 「艦娘と深海棲艦の時代が終わった今、後進に私が伝えられる事は私達が過ごした海軍の精神ぐらいです。そして、私の艦齢が尽きてからもその精神が残れば本望かなって」

 

 彼女はそう言いながらも、満面の笑みを私たちに向けてきていた。

 

 

 カシャリ。

 

 気持ちのよいカメラのシャッター音が響く部屋に、一人の女性が椅子に座ってカメラのメンテナンスを行っていた。

 

 壁には「日本帝国軍 自由入館証」という文字の入ったドックタグが掛けられ、彼女がそれ相応の立場にいることは明白である。

 

 「おっ。話に聞いてた取材ってやつ?私んとこ取材来るなんてめっずらしいなー!」

 

 我々に気づいた彼女は椅子から立つと素早く我々の前に移動し、見事な敬礼を決めていた。そして、艶やかな唇から、艶やかな声と共に言葉が発せられた。

 

 「元ソロモン方面攻略部隊、飛行場姫傘下の深海棲艦『戦艦レ級』。艦種は『エリート改』。ま、通称はカメラのレ級で「カメコ」だ。今日は宜しくな!」

 

 戦艦レ級エリート改。公式に『最初に味方』となった深海棲艦の一人だ。だが、最初の会見以来表に姿を見せることはなく、今回、アポを取ることが出来たのは奇跡に近い。

 そして、何より彼女は「深海棲艦が味方になる」きっかけを作った最も偉大な深海棲艦であることは、あまり知られていない。

 

 「んぉ?表に出なかった理由?いやぁー、私会見とか苦手でさ。自分で写真を撮影する分にはいいんだけど、撮られるのは苦手なんだ」

 

 にしし、と苦笑をしながら言葉を続けるレ級の手には、最近発売された新型一眼レフである「キヤノン EOS-1D X Mark II」、ただし海軍の特別仕様ではあるが。が握られていた。

 

 そう、彼女は言葉でも、砲弾でもなく、写真という手段を使って深海棲艦の心を動かしたのだ。

 

 「いいだろいいだろ?提督・・・あー、今じゃ宇都宮駐屯地の長か、に頼んで作ってもらったんだぜ。水没しても大丈夫な海軍仕様ってな!あ、私の写真見るか?見るよな!」

 

 彼女はそう言いながら、ipad proを取り出すと、今まで撮影してきた写真を我々に見せてくれた。

 

 「これが最初の写真だな。私がカメラを持って初めて撮った奴。ん?あぁ、そうだぜ。最初は普通に艦娘の敵だったんだぜ。その日も物資補給路を絶とうって命令うけててさぁ。そしたら襲撃したタンカーにカメラが積んであったんだ。なんじゃろこれーって思ってシャッター切ったら、あれよあれよと、気づけば写真ばっか撮るようになってさ」

 

 タブレットに次々と映し出される写真はとても魅力的である。最初のうちは艦娘との戦闘が多いのであるが、途中から艦娘と一緒の写真や、笑顔を浮かべる我ら人類との写真が増えていき、最終的には今の日本の写真や現在の鎮守府の写真が彼女のタブレットを占めるようになっていた。

 

 「ま、なんだろうなー。写真撮ってたら艦娘と戦うっていうよりも、きれいな彼女達を撮影したくなっちゃってさー。で私の写真をみた北方とか飛行場姫とかが一緒になってカメラ持ってきてね。そしたらさ、お前たち人間と仲良くなっちゃったり。なんか不思議な縁だよ。ま、ヨッパには負けるけど」

 

 彼女の言っていることは事実である。彼女の公式記録に、殺人、艦娘の撃破は存在していない。(駆逐イ級や戦艦ル級などの撃破記録はあるあたり、彼女の立場が判るであろう)

 

 「ま、そんな感じで私は今日本中を旅してるんだー。戦時中は海の上で艦娘だけ撮影してたけど、陸の上でいろんなものを撮影するのもまた楽しい、ってな!」

 

 レ級はそう言いながら、屈託のない笑みを浮かべていた。あぁ、なるほど。彼女の撮影した写真を見せられた後に、この笑みを向けられてしまっては戦いなど無粋と思うのも、仕方がないと言えよう。

 

補足:「ヨッパ」とはカメラのレ級と親交のある「別個体の戦艦レ級」である。一般的にレ級といえばここでいう「ヨッパ」を指し、日本全国の繁華街に出没するレ級である。番組をご覧の方の中でも、彼女と呑み明かした人も多いのではないだろうか。

 

補足2:カメラのレ級の特徴として「尻尾がない」ことがあげられる。キス島撤退作戦の時に破損したらしい。曰く「全く注目されず、人間として生活できるから無くて便利。写真も自由に撮影できるしな!」とのことだ。

 

 

 




基本世界は「カメコ レ級」の流れです。
私の中の艦隊これくしょんの世界観とは一体・・・。と若干悩みましたが、いややっぱりこの位がいいのかななどと思いつつ描いております。
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