カメラを持った飛行場姫さんが各地を転々とする話 作:灯火011
※完全なるカメラ回
ヨドゥバシカメラは新宿で開業したカメラ専門店であった。今現在はカメラのみならず、白物家電からスポーツ用品、はては自転車などなど、多岐にわたる商品を扱う大型の百貨店である。
飛行場姫は酔っぱらいのレ級と出会った翌日、同じ街にあるヨドゥバシカメラへと足を運んでいた。というのも、飛行場姫にはどうしても気になるカメラがあったのだ。
(・・・金剛のあれ、PENTAXのフルフレームだったわよね。気になる。気になるわ。フルサイズの写りってどういうものなのかしら・・・!)
彼女は意気揚々とカメラコーナーへと歩みを進め、PENTAXのフルフレーム機であるK-1を早速試写してみたのである。
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ここで補足をいれておくと、世の中のデジタルカメラには、光を感知するセンサーが必ず入っている。そのセンサーが働くことにより、レンズから入った光を画像として保存することができるのだ。そして、飛行場姫が気にしているのはこのセンサーサイズのことなのだ。
センサーの大きさも多岐にわたる。例えばスマートフォンや安いコンパクトデジタルカメラは、センサーのサイズは6.2mm×4.3mm程度の小さな物が多い。中には8.8mm×6.6mmという大きなセンサーサイズもある。
そして、飛行場姫が使うPENTAXのK-S2という機種は、23.6mm×15.8mmという大きさのセンサーサイズを採用している。コンパクトデジタルカメラや、スマートフォンより相当大きいセンサーである。
さて、このセンサーサイズの大きさによって何が変わるのか、というと、光の取り入れる面積である。例えば同じ10画素でも、スマートフォンのカメラではコンマいくつの世界でしか光を感知できない。対して一眼レフであれば、1画素を1mm2以上の面積で受けられるのである。そうすることによって、センサーに無理をさせずにデータを保存することが出来るため、安定した画像を残すことが出来るのだ。
---画素数が前のカメラより2倍になったのに、画質がなんかもやっとしてる---
---白飛びとか黒つぶれがひどい!まともに見れる写真じゃない!---
などという場合は、明らかに画素数に対してのセンサー面の受光面積が小さい可能性があるのでセンサーサイズを気にしてみるといいのかもしれない。
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飛行場姫がPENTAX K-1に抱いた最初の感想は、意外とコンパクトだな、という事あでった。重さは1キロを超えるものの、他社の一眼レフと比べれば明らかに小さい。
「ファインダーも見やすいわね。それに・・・電子ファインダーがいい味だしてるじゃない」
彼女が覗くK-1のファインダーには、様々な情報が表示することができる。水平から始まりグリット、そしてAPS-C用のレンズを装着した時に表示されるクロップ時の枠など、昔であれば部品を交換しなくてはいけない部分が、全てボタン一つで解決できる機能である。
「K-S2のときは部品交換で苦労したけど・・・埃が入っちゃって大変だったのよねぇ。それに比べれば・・・」
そして彼女は呟きながら、シャッターを半押しする。すると、ピピッという電子音とともに、ピントが合う。そして、そのままシャッターを押し込めば、シャッター音が響き一枚の写真が吐き出される。のだが、このk-1というカメラは少しだけシャッターに工夫がされていた。
一眼レフというカメラは、カメラの内部に「レフ」(ドイツ語:シュピーゲル・レフレックス)つまり鏡をもっている。普段は鏡がシャッターの前に鎮座しており、カメラのファインダーへと光を送っている。
そして、シャッターを押した瞬間にミラーが跳ね上げられ、直後にシャッター幕が開きフィルムもしくはセンサーへと光が通る仕組みである。その為、シャッターを押した瞬間、光が送られなくなるためにファインダーは真っ暗になるのだ。
そう、一眼レフがどうして巨大なのか、というと、このレフの機械的な仕組みを維持するためである。ある程度の大きさが無ければ、鏡をどかして光を通すことができない。
だが、PENTAXのK-1はそれにしてもボディが小さい。なぜか。それは、レフの跳ね上げ方に工夫がある。普通の一眼レフであればミラーを跳ね上げるだけなのだが、K-1の場合はミラーを跳ね上げながら引き込むのだ。これによってミラーがコンパクトに仕舞われるため、最低限の大きさのボディが誕生したのである。なお、補足としてミラーレスという一眼であれば、レフ(鏡)が存在しないため小さいボディが多い。
「シャッターの音はどんなものかしらねぇ?K-S2の大きなシャッター音も好きだったのだけれど」
飛行場姫はそう言いながら、シャッターの半分を押し込む。すると、カシャリ・・・という音ではなく「ボスンッ」という小さな音と、少しだけ押されるような衝撃が飛行場姫の両手に伝わっていた。
「へぇ・・・面白いわね」
飛行場姫は思わずニヤける。どうやら、お気に召したようだ。
◆
K-1を十分堪能した飛行場姫は、そのまま横にあったレンズコーナーへと体をずらしていた。そして、飛行場姫はとある3本のレンズを前にすると、にんまりとした笑みを浮かべていた。
「・・・そうそう、これも捨てがたいのよ」
飛行場姫の目の前にあるレンズ、それは、PENTAXが誇る至高の単焦点だ。と、その時、飛行場姫の背後に忍び寄る影があった。
「31mm F1.8。広角レンズに近い標準レンズ。43mmF1.9。標準レンズど真ん中。77mmF1.8、中望遠レンズ。どれもこれも、色乗りといい解像度といい、後ろのボケ具合といい最高よ。」
「知っているわよ。それに加えて味がある。なんていうのかしらね、空気感というのかしら?」
「ふふ、判ってるじゃない。それで、買うのかしら?」
「いいえ、今日はまだ様子見よ。そうねぇ、買うとしたらK-1と一緒に、かしらね?」
飛行場姫はそう言うと、声のしたほうに顔を向けていた。そこには、髪を降ろしジーンズ姿の見慣れた艦娘が一人立っていた。
「そう。それで、久しぶりね。飛行場姫」
「えぇ、そうね。キス島撤退以来じゃないの。加賀」
加賀。キス島撤退作戦において飛行場姫と共に敵本体を叩いた艦娘である。戦艦ル級の砲弾を素手で掴み、艦攻にてカウンターアタックを決めた彼女の武勇伝は未だに伝説だ。
「本当に。全く連絡をよこさないんですから。横須賀のみんながどれだけ心配したと?」
「いいじゃない。旅をしたかったの。それに私が鎮守府に常駐していいことなんて何もないわよ?」
「そうですか、とりあえずは無事でなによりです」
「それにしても加賀が内地へねぇ。今日は何かあったのかしら?」
「金剛が提督になるのは知っているわね?それを含めた報告を元提督に、とね。」
「あら、貴女が?本来なら金剛が挨拶をするのが筋じゃない?」
「本来ならそうなのだけれど。引き継ぎや手続きで大忙しなの」
「なるほど、それで代役、というわけね。・・・しかも貴女、そのカメラは」
「・・・影響されて、ついつい。」
加賀の首からは最新型の一眼レフであるキヤノンの5Dmk4と24-70mmF2.8通しのレンズが垂れ下がっていた。もちろん、EOS 5D mark 4 というストラップである。飛行場姫は恨めしそうにため息を吐くと、ゆっくりと口を開いていた。
「いいわねぇ。軍属はお金があって・・・」
「飛行場姫も軍から生活費を支給してもらっているんだから、軍属よ」
「そうなんだけれどねぇ。旅費、旅館代、もろもろ引いたら赤字よ」
「自業自得。使いすぎです。」
加賀はばっさりと飛行場姫の言葉を切る。あっけに取られた飛行場姫は、悔しげな顔をすると絞り出すように言葉を発した。
「・・・相変わらず容赦ないわね」
「そう?別に普通よ」
加賀は涼しい顔で、少しだけ笑みを浮かべて言葉を返していた。
◆
「あぁ、そう言えば貴方には一つ聞かなければならないことがあるのでした」
「何かしら?」
「神通は軽巡棲姫、赤城さんは中間棲姫、私は空母棲鬼。私達艦娘には対になる深海棲艦が多く存在したわ。港湾棲姫は例外的に湾岸施設でしたけれど」
「そうね。確かに私たち深海棲艦は艦娘や現存施設に関連して生まれるから、そうなるのも仕方ないと思うわ」
「そこで一つ貴女に質問があるの。飛行場姫。貴女、本当にヘンダーソン基地そのものなのかしら?」
「難しい話を降ってくるわね」
「どうしても気になってしまうの。だって、ヘンダーソン基地は米英の基地よ。本来名乗るのであれば『ルンガ飛行場』と名乗るのが通りでなくて?」
「そうねぇ。そう名乗るべきなのかもしれないわ。でも、私の中にあるモノは『両方』なのよ。それに、希望に溢れていたルンガ飛行場と名乗るより、絶望が多かったヘンダーソンと名乗ったほうが、深海棲艦らしいでしょう?」
「たしかに。それに、リコリス・ルンガだとゴロが合わないわね」
「でしょう?」
「あとついでに一つ。なぜリコリス、彼岸花と名乗っているのかしら?」
飛行場姫は少し顔を上げ、顎に手を当てて考える。
「・・・『あきらめ』『悲しい思い出』『再会』『情熱』『独立』」
「彼岸花の花言葉ね」
「諦めにも似た戦争の記憶、恨み辛みを引き受けた我ら深海棲艦が、艦娘と人類に再会し交流をもったことによって、内に秘めた情熱を爆発させて今に至る。そしてこれからは人類、艦娘、深海棲艦と独立して己の足で歩んでいく。
ま、それだけのことよ。それに、貴方達と出会えたからね。また会う日を楽しみに日々をゆるやかに過ごすわけ」
「そう。・・・まさにリコリスというわけね。花言葉通りね」
「加賀も花言葉に詳しいのね。・・・ま、いいじゃないのかっこつけたって。平和なんだから」
そう言う白いリコリスは、加賀に笑顔を向ける。その様は、白い可憐な、それでいて儚い彼岸の華そのものであった。
「・・・そういえば飛行場姫」
「なによ、まだあるの?」
「いえ、彼岸花の花言葉といえばあと一つ『思うはあなた一人』というものがあったと記憶しているのだけれど」
飛行場姫は怪訝な表情をうかべ、加賀を見つめていた。すると加賀は、飛行場姫に向かって親指を静かに立てる。
「・・・あぁ、そのこと。もちろん居るわよ。何年日本を旅していると思って?」
加賀は飛行場姫の答えに満足したのか、親指を降ろし、少しだけ笑みを浮かべて口を開く。
「そう」
「そういう加賀はどうなの?金剛みたいにまだ独身だったりするのかしら」
「いえ、既に2人ほど。娘と息子が」
加賀がさらりと言った事実に、飛行場姫は思わず全身を硬直させていた。そう、加賀は現役の艦娘でありながらも2児の母になっていたのである。終戦から7年という年月は、一人の女性を母親にするには十分すぎる時間であるようだ。
「・・・ハァッ!?子持ちっ!?・・・加賀、この後昼飯の時間ぐらいはとれるわよね?詳しく聞かせなさい」
「構いませんよ。ただ、控えめに言って惚気話になると思いますが」
「ええ、ええ、いいわよ。・・・参考にしたいし」
「恋する乙女ですね、飛行場姫。昔の貴女から想像できません」
「煩いわね。いいからさっさと聴かせなさい。昼飯代は出すから」
「・・・全力で食べても?」
「いいわよ」
「・・・判りました。では、さっそく行きましょう。気分が高揚します」
◆
「日本初の一眼レフカメラはPENTAXで生まれました。CANONやNIKONの発明品じゃありません。我が社のオリジナルです。しばし遅れを取りましたが、今や巻き返しの時です」
「PENTAXは好きよ」
「PENTAXがお好き? 結構。ではますます好きになりますよ。さあさどうぞ。フルフレームのニューモデルです。」
「最高でしょう?んああ仰らないで。マウントが変わらずKマウント、でも新しいマウントなんて見かけだけで過去のレンズは使えないわ技術の蓄積がないから相性問題が出るわ有るわで、ろくな事はない。グリップもしっかりしていますよ、どんなに手が大きい方でも、小さい手の方でも大丈夫。どうぞシャッターを切ってみてください、いい音でしょう。そしてファインダーを覗いてみてください、明るいでしょう?他社とは視野が違いますよ」
「そうねぇ・・・でも私が一番気に入ってるのは・・・」
「何です?」
「頑丈さよ。まったく呆れ返るわね。模擬弾とはいえ、大和の弾を弾いたんだから」
「・・・すいません、その話詳しく教えていただいてもよろしいですか?」
とあるカメラ屋にて 赤目の特徴的な深海棲艦と店員の会話