「…………こっちを覚えてないのが幸い、なのかな……」
「どうしたんだ、明久、吉井が入ってきてからちょっと変だぞ?」
明久の会いたくなかった人物はこっちに視線を送ってきたが、明久と目があったにも関わらず、気がつかないような雰囲気であった。
それをありがたいと思いつつも、悔しげに思う明久……意識しているのは結局明久だけなのだろう。
「なんでもないよ、うん……こっちが意識しすぎてるだけだから」
「そうか……まあ、顔色が戻っているし何も問題は無いんだろうが……」
そうして吉井と坂本の下へと土屋と木下が集まり始める……島田も近づいているようであり、その面々が1年の頃からよくつるんでるグループなのだろう。
非常に楽しそうではあるのだが、明久は、どうにも居場所を奪われたような感じしかしない……なぜそう思ったのかは明久自身も分からないが。
すると、教室の扉が開き、教師が入ってきたのだが―――
『総員、席につきたまえ……そろそろHRの時間だぞ』
「ぶは!?」
入ってきた先生が問題だった……何を隠そう、明久の義父である氷室先生であった……教室中の生徒が全員唖然としている。
クラスによって担任の先生が異なるのだが……上位のクラスであるほど人気で優秀な先生が担当する……氷室先生は学園で並ぶものがいない文武両道の傑者である。
Aクラスならまだしも最低クラスに配属されるような人物ではないのだ。
「ちょ……なんで義父さんが!!?」
「このクラスの担任となった氷室雷二だ……それとここでは先生だ氷室、公私は分けておくように」
明久が驚きのあまり更に立ち上がって問うように大声を上げるが、氷室先生は多少苦笑したあとで明久に注意する。
公私の分別は明久もできているのだが、まさかこのクラスに父親がくるとは思ってなかったらしく、ついつい忘れてしまったのだ。
「あ、すいません氷室先生」
「さて、私が来た原因なのだが――単純にFクラスの担任はくじ引きで決まるのだよ、立候補も推薦も禁止で単純に運次第だな」
『『『『どれだけ嫌がられてるんだよ!!!!?』』』』
それなら理由は納得であるのだが……なぜだか、明久には義父が望んでこのクラスに来たように感じ取れた。
確かにくじ引きは本当かもしれないのに、だ。
「さて、先ほど連絡があり生徒が1人遅れている、が……時間を考えれば流石にHRを進めなければならないな……まずは備品についてだが卓袱台、座布団は行き渡っているかね?」
『先生、俺の卓袱台の足が若干壊れてます』
ここで備品に不満があるのか、生徒の1人が手を挙げて堂々と発言する……机や椅子じゃないのが不満であれば我慢してくださいという回答が出てくるのだろうが、逆にそういう事であれば―――
「ふむ、後ほど修理の申請をしておくとしよう、今はこの木工用ボンドと添える為の木材で我慢してくれ」
『先生、座布団にワタがあまり入ってません』
「―――(ふむ、おかしいな。確か全てに入れるよう業者に頼んでおいた筈だが)今は少し我慢してくれ、後で詰め込み用のワタを持ってくるとしよう」
一瞬、何か考え事をしていたのだろう……明久には何を考えたのか理解できた……本来、座布団全てにワタが敷き詰められていたのだろう、と。
なんらかの思惑があるに違いないと思いつつも……明久にはその思惑までは読めなかった。
とはいえ、畳、天井、窓には特に支障がなく、卓袱台と座布団だけに異常があっただけのようだ。
『『『先生、俺に彼女がいません』』』
「それは自分でどうにかしたまえ」
―――大半の男子生徒の不満に氷室先生は呆れるしかなかった……とはいえ、明久から見れば好ましく見ていると受け取れたが。
「では級友の事を知るためにも自己紹介をしてもらうとしようか、廊下側から」
氷室先生の指名を受けて、廊下側に座っていた生徒の1人が立ち上がり、自己紹介をはじめる。
1年間過ごす仲間たちなのだから明久も覚えておくとしようと、自己紹介に耳を傾け始めた。
「木下秀吉じゃ、演劇部に所属しておる」
木下秀吉、女子生徒に見間違える外見の男子生徒、去年はいくら男子生徒であると言っても誰も信じなかったそうだが。
明久からすればいくら演劇とはいえ女子の役ばかりやってたらそういう認識にしかならないだろうというツッコミがあった。
しかも、本人も疑問に思わないどころか若干ノリノリであったらしい…………本当に男子生徒に見て貰いたいのだろうか、
という疑問が湧いて出てくるしかない……その証拠にこのクラスの男子生徒の大半は「美少女キタ━(゚∀゚)━!」と言いたげな視線を送っているのである。
「―――土屋康太」
小柄であるが、引き締まった体付きをしている男子生徒の自己紹介を聞く……目立ちたくないのか、小声で言うだけ言ってすぐに座っていた。
何らかのおまけ要素でもつけておけばいいのに、と明久は思っていたが、他人の自己紹介にケチをつけるのはダメだろうと思い、他の人の特徴を掴んでいると。
「島田美波です海外育ちで、日本語は会話ができますが読み書きが苦手です」
島田美波、ドイツに留学していた帰国子女、と言ってもいいこのクラスに存在する2人いる女子の内の1人だ。
なぜ、2人なのかというと、あと1人、試験中に熱で退席した生徒が居ると亮が話していた事を明久は思い出して、島田は除外したので、遅れている1人が該当していると思ったのだ。
「趣味は―――氷室明久を殴ることです☆」
『どうして俺じゃないんだ!!?』
島田の言うことに明久は怯え、なぜか、島田の言う事を聞いて血涙を流す男子生徒がいる…………どういう状況なのだろうか、これは。
その後は、淡々と名前を告げる作業だけが行われていた……何もないのだろうか?と思ったが実際に自己紹介なんてこんなものなのだろうと諦めた、が。
「私はMです、間違えた……俺は
島田に熱い視線を送るまさに変態の鏡(?)の存在、木戸……ここまで暴露されるといっそ清々しい。
島田が鬱陶しそうに睨んでいるのだが……残念ながらその男にはご褒美にしkならない……あまりにもインパクトの強い自己紹介に、明久は他のクラスメイトの名前を頭に入れそびれた。
「俺は須川亮だ、中華料理同好会に所属している、放課後に来てくれれば簡単な点心を用意してるからそれを食べて感想を聞かせて欲しい」
明久はその意見を聞いて今日の放課後はいつもの事の前に、食べに行こうと心に誓った。
順番が来たので明久が立ち上がり自己紹介をする。
「氷室明久です、1年間よろしくお願いします」
何か趣味でも言えばよかったのだろうが、特に言えることも無かったので明久は座り込んだ……結局他の人とあまり代わり映えしないじゃないか、と自己苦笑しつつ。
そうして座ると同時に教室の戸が開かれ、1人の女子生徒が入り込んできた―――
―――残念イケメンだがな!無理強いはしていないのでマシな人物かもしれない