「来たか、現在自己紹介中であるので卿も自己紹介をするといい」
「は、はい……姫路瑞希です、皆さんよろしくお願いします」
小柄な体を更に小さく縮こめるようにして声を上げる人物こそ、このクラスにおける2人の女子の最後の1人である姫路瑞希だった。
亮の話が確かなら熱で倒れてこのクラスに来てしまったのだろうと思いつつ、確かに体が弱いという話でも有名なので該当者は彼女なのだろうと明久は思う。
『あ、あの……なんでここに来たんですか?』
聞き用によっては失礼に当たる言葉でもあるが、確かに何も知らない状況であれば5本の指に入る程の成績である姫路がこのクラスに何故くるのかと疑問に思うのだろう。
「そ……その……振り分け試験の最中に高熱を出してしまって……」
亮が言ってたとおり……というか亮が聞いてた話の通りであった。
振り分け試験では、欠席したり中途退出したりすると0点扱いとなり、再試験すら存在しないという厳しいものだ。
というのも、体調管理も社会に出る上で必要だと言う事を大事な局面であるということも踏まえてそのように厳しくしているそうだ。
厳しいようだが、これも試験校であるこの学園の特色でもあるのだろう。
そのような姫路の言い分を聞いてか、クラス中の人間が口々に何かを言い出した。
『俺も熱(の問題)が出てFクラスになったんだよな~』
『あぁ、化学だろ?アレは難しかったよなあ』
”も”とは言っているが、そっちの熱ではない……姫路と一緒の事でFクラス入りした扱いになりたかったのだろうが、近くにいた別の生徒に普通に見破られていた。
『俺は弟が事故にあったと聞いて実力を出しきれなくて……』
『いや、お前のところ、双子の妹じゃねーか……俺の隣で普通に試験を受けてたぞ』
妹の性別を間違える&そもそも普通に試験を受けているという明後日の方向の言い訳に別の生徒が突っ込む。
『前の晩、画面の向こうの30人の彼女が寝かせてくれなくてさ』
『何個ゲームを消化してたんだお前は!?』
1つのゲームに約6人だと仮定しても5本近くゲームを攻略していたことになる……普通にFクラスに入って当然だろう。
復習も普段の勉強も睡眠も足りていないのだから……やはりバカばかりである。
その中でも成績上位であるはずの姫路と、ある生徒は異質すぎるのだが。
「で、では……よろしくお願いします」
そんな中、逃げるように姫路は坂本と明久の苦手な人物――吉井――にあった卓袱台へと座り込んでいた。
『――です。特技はトライアスロンです』
『お前、そんな特技なかっただろ!?』
そうして自己紹介が姫路を意識しつつ格好を付けるようなものが多くなり始めたが、おそらく気のせいだろう。
そして、明久にとって苦手な人物の自己紹介がようやく始まる。
と言っても明久が認識されていないのでバカバカしい一方通行な思いなのだが。
「吉井明斗だ、気軽に『ダ~リン』って呼んでくれ」
『『『『ダ~~~リィイイイイイイン!!!!!』』』』
明久は卓袱台に頭を突っ込んだ……クラスの8割以上の大合唱に気分が悪くなったのと自分の知ってる人物が何かおかしい点に頭を抱えつつ。
ちなみに姫路はびっくりしており、クラス中を目が点になっているような顔できょろきょろと見渡していた。
……やはり色々と頭が弱い生徒が多いのだろう……明久自身も馬鹿なので「人の事は言えないよねー」と心の中で自嘲していたが。
「坂本雄二だ」
そうしているうちに自己紹介は全て終わったらしい。
氷室先生は出席簿を見比べつつ確認し終えた後で――
「元気がよくて何よりではあるが、一応他にも自己紹介をしているので短くしてもらいたかったな」
大声の野太い大合唱を聞いても微動だにせず優雅に余裕を持っている氷室先生……流石は元――ほとんど現在も、ではあるが――黄金の獣であり死者の軍勢を率いた男である。
「そして、吉井明斗はクラス代表でもある……本人が忘れてて発表し損ねてようだがな」
(調整したのかな?何の為に……?)
吉井の頭脳をもってすれば確かにそういうふうな点数配分にする事は確かに余裕であろう……ただ、姫路のようなイレギュラーがあったのに、どうして普通にFクラスの代表として君臨できたのかが疑問ではあるのだが。
「では、吉井よ、代表として何か一言言ってもらおうか」
「はい」
そう言って教卓に近づき、クラス中を見渡す吉井……明久の記憶以上に圧倒する気配がある。
――とはいえ、明久の義父のお陰で大軽減されているのだが。
「クラス代表の吉井だ……代表とでも吉井とでも好きに読んでくれて構わないぜ」
そう言って不敵に笑っていた……クラスの人間の顔をひとりひとり見渡し、教室中に視線を送る。
明久、氷室先生以外の人間がその光景につられながら同じように教室内を見渡していた。
「古臭い木造の教室、卓袱台に座布団な環境……それに対してAクラスは冷暖房完備で冷蔵庫などもあるんだが――」
そう言って言葉を止める―――ひと呼吸をおいて更に言葉をつなげる、間の取り方が非常にうまく、全員が次の言葉を聞く気になっていた。
「―――不満はないか?」
『『『『大アリじゃああああああ!!!!!!!』』』』
2年F組男子生徒―――明久を除いた全員の魂の奥からの叫び……木下や土屋ですらも知らず知らず叫んでいた。
明久も同じように叫びそうになったが……口パクだけに留まった。
「そうだろう?俺だってこの現状は大いに不満である。確かに最低限度の設備とは言えこれはあんまりだろう!」
不満であるなら何故このクラスに来たのだろう?と明久は思ったが、口に出すほど無粋ではなかった。
戦争を仕掛けるような空気が充満しており、明久としては戦争は望むところでもあるからだ。
……この際、何故吉井がここに居るのかを考えるのはやめにしようと決意し、会話を見守る。
『Aクラスとは学費がおんなじなんだよ!この差は不公平だ!!』
『改善を要求する!馬鹿だからって決め付けてこの設備にするなんてあんまりだ!』
士気が高まっていく……上位クラスには努力して入ったのが多く、このクラスに落ちてしまったのは勉学を疎かにした自分達の自業自得なのだが、それを納得できるほど、頭が良くない……ただただAクラスを1度見て豪華な設備を満喫しているであろうAクラスの生徒への嫉妬という心があるだけだ。
「皆の意見はもっともだ……そこで代表としての提案だ―――Aクラスに試験召喚戦争を仕掛けようじゃないか」
戦争の引き金を引いた――思惑がどのようなものなのかを明久は理解できていないが……それでも戦争に期待していたが故に―――
―――――――心が踊っていた
いよいよ戦争の引き金を引くFクラスの代表吉井明斗
転生者はほとんどかませにしない予定……かませじゃないんだハイドリヒ卿が
ぶっ飛んでるだけなんだ……という状況になればいいなあと思いつつ努力しなくては……