3年経った今でも忘れもしない。
あの日の出会いのことを。
・・・
【アメリカ ニューヨーク州】
ベンツに乗り窓から景色を眺める。さっき締めたネクタイが妙にキツくて喉元が苦しい。いや、ネクタイは丁度いいはずだ。この感覚は緊張しているのだろう。さっきから胸の鼓動がいつもより早く刻み、暑くもないのに額に汗が浮かんでくる。いつの間にかぎゅっと力を入れた握りこぶしを見て、なに緊張してんだと自分でも呆れてくる。
気分転換にと車の窓を開け景色を眺める。今、この車が向かっている小原リゾートホテルは海沿いの道を通るので窓を開けると潮風が吹き込んでくる。運転手が潮風で新品のスーツがベタベタになるから閉めなさいと注意をうけてしまった。
自分が着ている黒のスーツは思っていたよりもずっと格好良いはずなのに、着た姿を鏡で見た瞬間に頼りなさそうな男だなと情けない感想を抱いた。いや、今から先はそんな気持ちを持ってはいけない。なぜなら僕は一人の少女のための執事にならなければいけないのだから。いざという時には守るべき相手のために。僕は強くなければ。
青葉光一郎は胸に手を当て最初に掲げた志を思い出す。小原家と青葉家は親密な関係、もとい青葉家は小原家に仕える執事やメイドと昔からの関係だった。僕はこの年15歳に執事として小原家に仕えることになった。そこになんら不平不満は無く、ただただ当たり前の事として受け取り、僕の主となるお方に命を捧げるつもりでいる。今時に執事やメイドなんかがいるのかと疑問を持たれる場合も多いが、僕は疑問に思ったことがない。幼い頃からお前は小原家に仕えるべき執事なのだからと。そのためだけに生きなさいと。お前は執事として死になさいと。そう教わってきたから。
未だ顔すら知らない主の元へ。青葉光一郎を乗せた車は海岸線を走り続ける。
・・・
〈小原リゾートホテル〉
電飾で飾られた看板が色鮮やかに光っている。日はもう落ち始めて夕日がなんともいえない綺麗さだ。潮風が吹くたびにヤシの木が揺れ、波の音が心地よく辺りに広がる。さすが一級品のリゾート地と呼ばれている場所であり、景色の良さは計り知れないところがある。きっと夜になれば一つ一つ輝く星々が空いっぱいに広がり、さらにロマンティックな場所となるだろう。
ベンツから降りてホテルのエントランスルームに入ると、僕を待っていたのだろう。綺麗に整えられ白い髭を生やした人の良さそうな老人が笑顔で出迎えてくれた。
「青葉光一郎さんですね。待っていました。お嬢様がお待ちしています。さあ、どうぞこちらへ」
老人について行きエレベーターの中に入る。エレベーターといえば小さいのが当たり前だが、ここはその常識はないらしい。アメリカというのは何でもかんでも規模が段違いなものなのだろうか。
「青葉くん。お嬢様を頼みましたよ。お嬢様は本当に明るくて…太陽のようなお方です。きっと一緒にいて心が安らぐかと。」
「そうなんですか?それは会うのが楽しみです。お嬢様ということは僕が仕えるのは女性なんですね。」
そう。僕はまだ主の性別すら知らなかった。
「ええ。会ってみれば青葉くんも元気をもらえる相手です。」
本当に明るいお嬢様なのだろう。老人は目を輝かせて話をしているところをみると、この人も元気をもらっているに違いない。
エレベーターが開き、廊下をしばらく歩くと7000号室や7001号室と書かれた表札がついているドアがあるのがホテルだと思っていたが、どうやら違うらしい。ここはVIPルームなのだろう。廊下の一番奥に他のドアの色とは違う場所についた。なるほど。ここに僕が仕えるべき主が住んでいる部屋なのか。
「お嬢様。青葉くんを連れてきました。」
「入ってイイわよ」
車の中で起きた胸の鼓動の高鳴りよりも一層激しさを増している。心という自分でもコントロールする事ができないものは、僕の中でさらに暴れ始めていた。落ち着け…まだ始まってもいないじゃないか。こんなところで怖気づいてどうする。
「失礼します。」
僕はドアを開けた。この先、どうなるかわかるわけがない。もしかしたら大変な苦労を伴うかもしれない。でも僕は自分で、自分の手でドアを開けた。
目の前に広がったのは豪華な装飾がされてある部屋。多分、僕が一生かかっても買う事ができないであろう高価な絵画、綺麗な壺が置かれている。それよりも先に目を奪われたのは一人の少女の姿だった。
白いワンピースを着た少女。ブロンドの髪はセミロングヘアーの左側頭部を6の形に結い、頭頂部に三つ編みカチューシャを作っている。風が窓から吹き込んでくると艶やかな金髪がふわりと揺れた。タレ目がかった大きな金眼は吸い込まれるような輝きを放っている。
綺麗だ…。どんな宝石よりも、どんな豪華なものよりも。目の前に映る少女はそれほどまでの美しさだった。
「初めまして。これから先、お嬢様の執事として仕えることになりました。青葉光一郎です。よろしくお願いします。」
「oh!堅苦しい挨拶は抜きよ!私は小原鞠莉。マリーって呼んでね♪ん〜じゃあコウちゃんって呼んでいい?」
「え?」
「そっちの方がフレンドリーでいいでしょ!うん、決まり♪」
「お嬢様?」
「No!お嬢様じゃなくて"マリー"よ!」
「ですが」
「ですがじゃないの!"マリー"って呼ばなきゃ私の執事じゃないんだから!」
「…わかりました。ですがマリーお嬢様と呼ばせて下さい。」
「う〜ん…分かったわ!じゃあ改めてヨロシクね、私の執事さん♪」
「…はい、わかりました。よろしくお願いします。マリーお嬢様。」
「ファンタスティック!これからヨロシクねコウちゃん♪」
どうやら老人がおっしゃっていたことは本当のようだ。太陽のような明るさで、笑顔はまるで夏の向日葵が咲いたみたいに笑う。僕は少し、今までとは違う胸の高揚を感じてしまった。
鞠莉の言葉遣いがまだ曖昧なのでご了承を。
基本は原作に沿わせるつもりですが、オリジナル要素を強くしたいとおもってます。