ライバル!   作:杜若菖蒲

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2 野生のポケモン

 新たなポケモンをゲットしたあと、ユウキとポッチャマは永遠に続く草原を歩いていた。

 

「暇だな……」

 

 ポツリとこぼす。

 

「なんかもっとこう、強そうなやつが勝負を仕掛けてくるって展開ないのかよ? なあ!? ポッチャマ」

 

 威圧するようにペンギンポケモンを見るユウキだったが、相手はまったく反応を返してくれない。

 したがって、一人で今後の方針を考えることにする。

 まず自分の目的はポケモンリーグで優勝することだ。そのためには最低一〇体のポケモンが必要と思われる。なお、一度に持ち歩けるポケモンの量は六体だ。ゆえにわざわざそれ以上のポケモンを手に入れる必要はないと思われるが、実はアケボノリーグのルールは特別で開会式前の手続きで使用するポケモンを一〇体登録しなければならない。ユウキはこのことをしっかりと頭に入れていた。もっとも、どのような行動を取ったら出場権を得られるのかについては分かっていないのだが。

 

「あー! なんか考えてたらわけわかんなくなってきた。とにかく、ポケモンゲットすりゃあいんだろ。そうだよな?」

 

 だんまりを決め込むパートナーに対して半ば怒り気味に繰り出すユウキ。

 

「最初のポケモンはポッチャマで水タイプだろ。だったら次にゲットするのは弱点を補えるやつだよな。ってことは炎か電気か」

 

 アゴに手を添えてユウキは考えこむ。

 そうして歩いていると一人と一匹は川辺にたどり着く。釣り竿を入手していた場合、釣りをして水ポケモンをゲットできるのだが今は持っていない。されども周辺を水ポケモンが徘徊している可能性もある。

 

「どれどれ」

 

 キャップの上から手をかざして遠くまで見渡す。すると視界に入ったのは桃色のウミウシポケモンだった。すかさずユウキはポケモン図鑑を向ける。

 

『カラナクシ ウミウシポケモン 住む 場所の 環境に よって 体の 形や 色が 変化しやすい ポケモンだ』

 

 ユウキの(低レベルな)知識によるとまだ育てきっていないうちから強力な技を覚えるポケモンだ。現在のパートナーがポッチャマでさえなければ迷わずゲットしていただろう。されども今のパーティに水タイプは二体も要らない。

 

「チクショウ、なんてったって俺はポッチャマにしちまったんだ」

 

 当人(ポケモン)の隣で頭を抱えるユウキ。それに対してポッチャマは頬をふくらませながら相手を睨む。

 

「なんだよ文句あるのか?」

 

 負けじとユウキも睨み返す。

 そのような態度がますます逆鱗に触れたようで、ポッチャマは彼に襲いかかる。

 

「ちょっと待てって早ますな」

 

 たちまち顔をガードするユウキに対し、くちばしは容赦なく彼をつつく。

 そうしている間にカラナクシが逃げ出さないか心配するが、相手は悠長に水辺を進んでいた。

 

「こうなりゃゲットするしかねえよ。さあポッチャマ、行け」

 

 ユウキが指示を出す。されどもポッチャマはそっぽを向いたまま動かない。

 

「だったら出てこい、ポッポ」

 

 仕方なく繰り出されたのはボロボロの羽で精一杯の闘志を燃やす鳥ポケモンだった。

 

「あれ、なんで……って、ああそうか。まだ回復してなかったんだっけ? じゃあ、戻れ」

 

 ポッポをこれ以上消耗させるわけにはいかない。即座にユウキはモンスターボールに戻す。正直、自分でもなにがしたいのか分からない。

 とにもかくにも今はカラナクシのゲットを優先させたいところだが、現在がポッチャマがいうことを聞かない。こうなれば最後の手段だ。トレーナー自らが戦いの場に出よう――そう思った矢先、カラナクシがいつの間にか姿を消していた。

 

「お前のせいだぞ? なんであんた俺のパートナーのくせに指示聞かないんだよ?」

 

 たまらずポッチャマに文句を言うユウキだったが、相手はポケモンの言葉で話すばかりでなにを言っているのかさっぱり分からない。それでもなにやら不満をこぼしていることは分かる。

 

「こうなりゃもう仕方ない。俺は一人でポケモンゲットしてやるからな。それまでお前は戻ってろ」

 

 いままでは少しでも仲良くなるためにモンスターボールから出していたのだが、それも今日で終わりだ。おそらく今後彼(ポッチャマ)を外へ出すことはないだろう。

 そうしてユウキはそのまま一人で草原を歩き出す。

 周囲には変わらず爽やかな風が吹き、旅人を優しくもてなす。されども彼はそのようなことは気にもとめず、ポケモン図鑑を開く。

 

「狙い目はコリンクとポニータだな」

 

 図鑑の画面に表示されているのはポケモンの分布だ。ユウキとしてはなんとしてでも二体をゲットしたい。されども生身の人間が相手になるポケモンなど限られている。勝てるとしたらせいぜいコイキング程度だろう。

 

「って、なんでまた水タイプなんだよ」

 

 ユウキは自分で自分にツッコミを入れる。現在は一人であるため、当然反応を示す者はいない。もっとも、ポッチャマを出していたころとなにも変わらないわけだが。

 

「ちくしょうレイのやつ、今頃三体くらい集めてるんじゃないのか?」

 

 タウンマップによるとあとすこしで街が見えていくる。それまでにユウキはなんとしてでもポケモンをゲットしなければならない。足を一歩進めるたび、心がはやる。

 

 その後、何度かポケモンとは出くわした。ユウキはその度に勝負を仕掛けるのだが、当然生身の人間ではどうしようもない。一方的にボコボコにされて終わりだ。

 最初はワクワクしていたポケモンリーグへ出場するための旅だったが、こうもうまくいかないことばかりだとつまらなくなってくる。こうしている間にもレイが着実に仲間を増やしていると思うと、唇を噛み締めてしまう。

 

「でもなんか気に食わないな。負けるってのは」

 

 草原の上で腰掛けながら、空を眺める。視界には相変わらず透き通った青色が広がっているがユウキの心情は、それのように爽やかではない。

 こうなれば意地だ。いままで敗北してきた分、きっちり一人でも勝利を収めなければならない。かくしてユウキは走りだす。

 舗装された草原を突っ切り、木々が生い茂る森の中へ突入する。

 

「俺は未来のチャンピオンだ。こんなところで終わってたまるか」

 

 ユウキは森の中で叫ぶ。それを聞いているのはいままで隠れていた虫ポケモンたちだ。ケムッソ・キャタピー・コロボーシ……普段の戦闘では邪険に扱われるものだろう。されども今のユウキにとっては巨大な壁に見える。

 とはいえ彼は近所のケンカでは負けなしだった。さらに覚悟を決めた今の自分なら、ポケモンにも届くだろう。

 

「勝負だ」

 

 ユウキの声が森の木々をざわめかす。たちまち虫ポケモンたちの間に戦慄が走る。いよいよ戦闘が始まろうかというとき――

――虫ポケモンたちは逃げ出した。

 

「は?」

 

 勢い良く宣戦布告をしたのはよかったものの、怖がらせてしまったようだ。

 途端にユウキが抱いていた感情が爆発し、彼は近くにあった木を蹴り飛ばす。

 

「なんだよ、結局一人じゃなにもできないっていうのかよ?」

 

 小さなころからポケモン以外のことでは敗けたことがなかったし、ポケモンだってレイが現れるまでは自分が一番になれると思っていた。今でもまだ彼女に追いつける。頑張ればアケボノ地方のチャンピオンにだって届くだろう。確信していたが、現実はうまくいかない。

 

 そのとき、モンスターボールから勝手にポッチャマが飛び出した。

 

「なんだよお前、いまさらになってなんの用だよ? 俺、絶対にお前を外に出さないって言ったんだぜ?」

 

 ユウキはモンスターボールを構える。

 彼は意地でも一人でやれるということを証明したかった。されどもポッチャマはそれを拒否する。こちらがモンスターボールのボタンを押しても、見事に回避してしまうのだ。

 

「なんなんだよ、お前」

 

 怒鳴りつけると、ポッチャマはくちばしを動かしこちらになにかを訴える。

 

「は? 自分を、使えって?」

 

 ポケモンの言葉は分からないけれど、なんとなくそう言っているような気がした。

――本当は分かっていたのだ。悪いのは自分なのだと。けれどもプライドが邪魔して認められなかった。そしてポッチャマはモンスターボールに出していた間、黙って自分についてきてくれた。本当に嫌っているのなら、すぐに遠くへ行ってもよかったはずだ。

 

「ああ、分かってる。一人でもやれるなんて誇大妄想だよ」

 

 ユウキは今一度キャップをかぶり直す。

 

「分かったよ。お前を使ってやる。いままでのことだって謝るからさ、だから、ちゃんと俺の指示を聞いてくれるか?」

 

 尋ねると、ポッチャマは胸を張って頷いた。

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