魔法戦記リリカルなのはIS 高町なのはのIS学園見聞録 作:ピロッチ
それからお待ちかね、なのはの挨拶回りを始めます。
近接戦至上主義者達を叩き伏せ、力づくで夏休みを奪い返したなのは。
その規格外の実力と今までの所業に恐れをなした日本政府は
近接戦至上主義者の首魁だった代表監督倉林美也子と
現代表操縦者の1人飯田奈緒を解任し、
なのはを後任の日本国代表操縦者として指名したのであった。
そして、この後の経過を記すとこの様になる。
米田防衛相から報告を受けた日本国首相、
防衛軍最高司令官の権限で倉林美也子の軍部IS教官解任を承認。
『アラスカ条約制定最大の功労者』と称される
律子達にしょっ引かれた近接戦至上主義者の回し者一派だが、
取り調べの結果、一派のドンの綿貫支局長と倉林に関し
とんでもない事実が発覚した。それと言うのも何とこの2人、
束の言う通り本当は日本人ではなかったのだ。
この不届き者は本当の母国にあたるさる国から
「日本の操縦者とIIC日本支部を近接戦至上主義に染め、
わざと偏った訓練を施して遠距離武装にも正面突撃しかできない
弱い操縦者しか育たない環境にしろ」と命じられていたのだ。
彼等はその命令通り防衛軍上層部に防衛軍一の剣士として高名だった
真宮寺一馬をISでの剣技確立の為のデータ構築に協力して貰う様に提言し、
彼が体を壊して死亡した事も近接戦至上主義への抗議に対し
「先人の犠牲を踏みにじる悪党」として糾弾する為の口実に利用していたのだ。
この事実を知った山口首相と米田防衛相は大激怒。この2人は元自衛官で、
定年後に国会議員を経て今の地位に就いた身である為、
かつての職場(の後身)と元部下の一馬を汚された怒りは凄まじく、
綿貫と倉林は余罪を洗い出されて裁判に掛けられた。
最終的な判決は翌年にずれ込むだろう。
また、IIC日本支局にも花小路理事長のOKの下公安警察を送り込み、
綿貫達のシンパを片っ端からしょっ引くや、
これら回し者連中の親玉である某国に対し問答無用の国交断絶を通告。
IICもこれらの行為は不正と断じ、某国に対し
来年度以降3年間の予算支給停止処分を下したのであった。
勿論、山田真耶を初め倉林の被害者達へのあらゆる処分は撤回され、
希望者は元の地位に復する事となり、真耶は晴れて代表候補生に再任。
軍を追われた律子も免職前の最終階級である防衛空軍少佐として軍に復帰し、
防衛軍のIS第2中隊長 兼 代表監督代行に任じられた。
尚、律子が抜けた警視庁のIS小隊だが、
律子の後任の小隊長はあずさが警部補に昇進して就任。
減った人数も、新しく操縦者を雇う算段が付いているという。
そして、倉林に従っていた奈緒達軍の操縦者はどうなったかと言うと、
実はそこまで厳罰を受けなかった。それと言うのも、
軍部のIS操縦者は訓練に際し、代表監督の管理に従う義務がある
と規定されているし、IS学園に踏み込んだのも建前では
「倉林の命令に従って生徒に稽古をつける為」で、
命令通りに動いていただけなのだから、その分を酌量する必要が有ったのだ。
勿論、そう規定したのは他ならぬ防衛省である。
第一首にしたが最後、今回の決定を逆恨みして他国に逃げ、
軍部の機密をばらす恐れがあり、
そうなった際、穴を埋める為の操縦者の目途が立っていない。
結局防衛省は悩んだ末、全員の今年一杯の停職と、
来年度丸1年間代表監督代行である律子の下で
近接戦至上主義からの脱却の為の再訓練を行う事を決定した。
また、奈緒のみこれに加えて国家代表操縦者解任が正式に決定した。
しかし、これ以上の処罰は無く、彼女は今後も
防衛空軍の軍籍と少佐の階級を維持し、専用機「撫子虎」を以て
防衛軍IS第1中隊の隊長職を続ける事となる。
かくて当座の処置は終了した。だが、この結果一馬を良く知る者達、
特に実子のさくらが所属するICPO-ICD一同は
一馬の犠牲と苦労を踏み躙るに等しい今回の決定が下った事で、
なのはと束、そしてこの二人の肩を持つ行為を働いた
山口内閣に不信感を抱く事に成る…。
さて、なのはに話を戻そう。
「ここがパリ!思えばパリは初めてなの!!」
代表操縦者就任が正式に決まった翌日、
なのはとヤマトはフランスはパリ、シャルル・ド・ゴール空港にいた。
「まさかコンコルドがリメイクされたとは驚いたの!!
良い時代になった物なの!!」
かつて一世を風靡した超音速旅客機コンコルド。
色々あって2003年に引退したが、ISの台頭により技術が進歩し、
この度40年の時を越えて次世代版コンコルドが就役。
旧版の欠点を改善し、充分実用に耐える航続距離と輸送量を実現しながら、
最高速度マッハ2.5+まで向上したその性能は、
まさに「20世紀半ばに想像された21世紀の旅客機」その物だった。
どれくらい早いかと言うと、直線距離で1万km弱離れた東京-パリ間を
僅か4時間足らずで結ぶ程だ。
「でも、ヤマトなら1秒かからないんだけどね…」
確かにヤマトワープなら1秒足らずでパリ所かリオにだって行ける。
しかし代表操縦者として赴く手前、その様な密入国は出来ない。
「さて、この辺りでシャルが待っているはずなんだけど…」
と、ここでシャルの声が。
「おーい、なのはさーん!!!」
「やあ、待たせたの!!」
出迎えに来ていたシャルの装いはIS学園男子の夏服であった。
何故ならシャルは未だに表向き
「欧州初の男性IS操縦者」という扱いになっているからだ。
その為フランスに帰ったシャルは、人前では男装をする必要があるのだ。
「聞きましたよ、日本代表就任、おめでとうございます!!
と言うか、日本の代表監督って…とんでもない人だったんですね…。」
「まあね。きっちり〆たからまず大丈夫なの。今頃は留置場の中なの!!
それにしてもまさか代表操縦者の座が貰えるとは思っても見なかったの!!」
「はははは…(苦笑」
なのはがフランスにやって来た理由。
それは翌日にデュノア社のパリ支社試験場で行われる
束謹製のデュノア社向け第3世代機「タイフーン」の
デモンストレーションに立ち会う為だ。
そして、その際タイフーンを操縦するのは
他ならぬデュノア社CEOロベルトの「御曹司」シャルその人である。
そんな訳で、なのはは挨拶回りの1番手にフランスを選ぶ事となった。
「さて…明日のデュノア社でのデモンストレーションに備えて、
まずはパリ観光なの!!!」
「それなら、案内は任せて下さい!!」
「大丈夫なの?シャルって確かリヨン生まれだよね?」
「大丈夫!僕は父に拾われて以来パリ支社にいたから、
パリの名所はある程度解るんです!」
「なら良いの!!早速お願いするの!!」
「それじゃ、まずはパリの象徴、エッフェル塔に行きましょう!!」
こうして、なのはとシャルは空港を後にした。
「…………?」
ふと、なのはは視線を感じて振り返る。
「どうかしましたか?」
「うーん…背後から視線を感じたの!でももういないの!」
「ええ?全く気づきませんでした!誰かが後を追っていたのかな?」
「だとしたら、亡国機業か、あるいは
どちらかは判らないが、もう既に逃げた後だろう。
だが、どっちが来ようがやる事は同じだ。
全力を以て叩き潰す。暴走核弾頭の武威からは誰一人逃げられはしないのだ。
「(あれが我等の本部を吹き飛ばし、
ICDのIS隊とドイツ代表を一纏めに叩き潰した『暴走核弾頭』
ナノハ・タカマチか…早くも尾行に感づくとは恐ろしい奴だ。)
なのはの予想通り、2人は尾行されていた。
尾行しているのはフランス国防省傘下の諜報機関、
その名はロムスカ・ラピュタ。階級は大佐で、通称ムスカ大佐と称される。
彼はDGSE内では「フランスの007」の異名を持つトップエースであり、
なのはの訪仏を知ったフランス国防省の密命により、
同国一の諜報員である彼自ら、こうして尾行を行っているのだ。
「(しかしシャルロット・デュノアめ、スパイ任務は失敗した様だな。
早い内に処理するべきなのだろうが、
あの様な怪物が近くにいたのでは手出し出来んな。)」
流石は「フランスの007」。
早くもシャルロットが女だとバレたことを看破してしまった。
「(それにしても、
3都市同時爆破テロ事件の実行犯がのうのうとパリに来いてるにも関わらず、
こうして遠巻きに見ているのが精一杯で手出し一つ出来ぬとは!
そこに持ってきて、最近は『アレ』の事もある…
おかげでパリの観光客は例年の半分以下だ!
全く、我が共和国の不幸続きにはウンザリさせられる…!)」
そう心中で愚痴るムスカの手に握られた新聞には、この様な見出しがあった。
「連続切り裂き魔『怪人ハサミ兎』再び!
パリ市警、3000人体制で市内の警戒強化!!」
そして、パリ市街地に到着した2人が真っ先に向かったのは、
パリの象徴エッフェル塔。
「おお、あれが彼のエッフェル塔!!」
「でしょでしょ?もっと近くで見て下さい、何か気付きませんか?」
「何か…?おや、何か違和感があるの…ああ、色が違うの!!
しかも、何か高くなってる気がするの!!」
その通り、エッフェル塔は錆び止めの為、7年に一度塗装を塗り直すのだが、
そのカラーリングは決まってエッフェルブラウンと呼ばれる茶一色であった。
だが、なのはの目の前にあるエッフェル塔は
フランス国旗と同じ鮮やかなトリコロール塗装だ。
「そうです!実はエッフェル塔は老朽化や安全上の問題で、
4年前完成150周年を期に解体され、今あるのは最新技術で建て直されて、
この春オープンした、『新エッフェル塔』なんですよ!!」
無理もない。旧エッフェル塔が完成したのは1889年。
日本では京都であの伝説の花札屋が創業し、
大日本帝国憲法が発布された年の事である。
構造材は当時の技術の関係上、鋼鉄より強度の低い錬鉄で、
おまけに展望台は柵あるいは金網が設置されているだけの吹きさらし。
これに加えて2020年代からは老朽化が問題視され、
流石に危ないと言う事でパリ市議会は5年前、
エッフェル塔解体の上建て直しを決定。
その翌年の3月末日、エッフェル塔は完成150周年を期に閉鎖され、
その年の内に解体された。
その際費用と人員は現大統領が率いる名門「フランスのロスチャイルド」こと
あのドニエール一族が用意し、作業はトラブルも無く進み、
旧版同様一人の犠牲者も出さず、
今年の3月末に晴れて新エッフェル塔は完成した。
その最大の特徴は、本業である電波塔としての機能を高める為、
高さを旧版の324mからジャスト400mまで大きく高めた事だ。
当然、その分増えた重量をきっちり支える為構造材も鋼鉄に替わり、
展望台も念願の壁と屋根の付いた密閉式に。
「より高く、より安全に、より充実した」新エッフェル塔は
パリの目玉となる…筈だった。
そうこうしている内に、二人は新エッフェル塔の展望台に到着。
かつての吹きさらしとは違い、
ちゃんと壁、床、天井のある新エッフェル塔の展望台の眺めは…
「おお、これは絶景なの!!」
地上324m、旧エッフェル塔の頂点と同じ高さに備えられた
展望台からパリの景観を一望して、思わず感嘆の声が出るなのは。
「スカイツリーも言った事が有るけど、
こっちはこっちで良い眺めなの!!…一部は除くけど。」
なのはの言う一部が何を指すのかは、今更言う事ではないだろう。
「気に入って貰えました?良かったぁ…。」
シャルもなのはに喜んで貰えて一入だ。
「この眺めを皆が見たら何て言うかな?一夏君と箒ちゃんは…
『スカイツリー』とどっちが良いかで揉めるんだろうなぁ…」
「確かに…日本のスカイツリー展望台は
新エッフェル塔の天辺より高いですからね。」
「セシリアは…英国貴族のプライドと英仏のライバル意識を考えると、
『こんな高いだけの塔より
ロンドン名所の方が見所があるに決まってますわ!!』位言うんだろうな。」
「ああ、それ解ります!!」
「鈴音は…普通に喜ぶだろうね。特に空の綺麗さを…」
「大気汚染、シャレにならないみたいですからね…中国…。」
「ラウラは…職業柄
『よく整備されてはいるが、いざと言う時、
多方向から攻められて容易に制圧されるだろうな』とか言い出すかもね。」
「100年前、本当にされましたからね…」
「ねえ、シャル…一つ聞いていい?」
「どうしました?」
「こんな新しい名所があるのに、どうして観光客が疎らなのかなぁ?」
その通り。今は夏休み、パリは観光客で書き入れ時の筈。
それなのに、この新エッフェル塔の展望台にいる人数はなのはとシャルの他、
観光客の数は両手でも数えられる程度。想像よりずっと少ないのだ。
「うーん、やっぱりあの噂かなぁ…?」
「噂?」
「それがですね…僕が学園に編入してから1月くらい経った頃から、
パリ中で『妖怪ハサミ兎』とかいう都市伝説が広まってるそうです。」
「妖怪ハサミ兎?」
「はい、これは社員から聞いた話なんですけど、
そいつはシルクハットに赤いアスコットタイを締め、
顔を兎の被り物とサングラスで隠し、両手に大きな枝切りバサミを持っていて、
夜な夜なパリの街に現れては、通りかかった人をハサミで切りつけるそうです。
もう何人も被害者が出ていて、警察も何千人と投入して行方を追ってるとか…」
「What?!」
「うひぃ?!」
「それは危険なの!!早速見つけ出して成敗するの!!」
「せ、成敗って…止めましょうよ、そう言うのは警察に任せて…」
「⌒*(○∀○)*⌒どうして?」
なのはに思いとどまってもらおうとするシャルに、
ヤマトがどアップで理由を問い詰める。
「どうしてって…危ないよ!」
「あぶないの?⌒*(○∀○)*⌒=⌒*(○∀○)*⌒でもなんで?」
そのまま左右にシャカシャカと反復運動。これは怖い。
「ヒイ、動きが怖い!
と、とにかく、僕が言いたいのはなのはさんが危ないんじゃなくて、
パリが危ないって意味で言ったんだよ!
もしなのはさんがパリのど真ん中で本気で暴れだしたら…」
その日の内に、「パリは燃えているか?」が現実となるだろう。
だが、なのはにはあの力が有るのだ。
「かっさつじざーい。」
「あっ…(察し」
そうだった。ヤマトの単一仕様能力は
物体への破壊と非破壊を意のままに切り替える活殺自在。
例え流れ弾が出ても、周辺にダメージは絶対に入らない。そういう能力なのだ。
「そう言う訳なの!!私が動く事に何の問題も無いの!!だから、
シャルは安心して明日のデモンストレーションの操縦役に専念するの!!」
うん、やっぱり止めるだけ無駄だった。
シャルは開き直ってなのはに全部丸投げする事にした。
「は、はぁ…それじゃ、もしもハサミ兎が出てきた時はお任せします。」
「任せるの!!…おっと、もうこんな時間なの。それじゃ、昼食に行こうか。」
「あ、はい!!それならこの塔の中にある『ジュールベルヌ』とかどうですか?
ミシュランで星を取ったお店で、
僕も一度行った事ありますけど、ホントお勧めですよ!!」
「それは期待できるの!!じゃ、そこへ行くの!!」
「はい!」
かくして、なのはとシャルは展望台を降り、腹ごしらえに向かった。
パリを戦慄させる怪奇、妖怪ハサミ兎の脅威に一抹の不安を覚えながら…
回し者連中への罰が甘い?いやいや、今後の出番の為の布石です。
心配無用。この不届き者達には
きっちりインガオホーの原理が魂に刻まれます。ご安心を。
さて次回、謎の都市伝説「妖怪ハサミ兎」の真実が明らかとなる…!