魔法戦記リリカルなのはIS 高町なのはのIS学園見聞録 作:ピロッチ
さて、9月下旬のある日の授業の事、
今回合同で授業を行う1、2、4組が第6アリーナに集合していた。
「えー、それでは皆さん!今日の授業は高速機動についてです!」
この第6アリーナは高速機動の実習の為のアリーナであり、
高速機動が得意な生徒はよく此処を使って自習をしているのだとか。
「と言う訳で、早速専用機持ちに実演して貰おう。
オ…セシリアと、織…一夏は前へ出て専用機を展開しろ。」
「「はい。」」
千冬の声で一夏とセシリアが前へ出る。
「まず、セシリアのB・ティアーズだが
高速機動用に追加パッケージ、ストライクガンナーを装備している。
BT兵器の砲口を封じ、
腰周りにスカート状に連結して推進力に回す事で高速・高機動化した装備だ。
次に一夏だが、白式は追加装備を付けられないので、
代わりにスラスターに全出力を調整して仮想高速機動装備にした。
また、2人は高速機動時に備え、補助バイザーを装着しているのが解るな?
まずはこの2人がアリーナを周回するので、良く見ておく様に。
その前に、質問のある者はいるか?」
と、ここで生徒が一人手を挙げた。
「あの!暴走核…じゃなくて、高町さんは高速機動実演はしないんですか?」
「うむ。実はだな…高…なのはのヤマトは
最高速度が僅か500km/hでな。とても高速機動出来る機体ではない。
奴が俊敏に見えるのは特殊技能のヤマトワープで速度を補っているからだ。
更に言えば、ヤマトは瞬時加速も出来ん。火力と装甲に特化した機体なのだ。」
あの完全無欠の怪物にも弱点があった。千冬の言葉に騒然となる一同。
一方その背後では…
「一夏さん、どうなさいました?」
「なあセシリア…このバイザー、何処でモードを切り替えるんだ?」
「一夏さん、それでしたらここをこうすればハイスピードモードになりますわ。
そして、各スラスターをこうすれば連動監視モードになりますの。」
「ああ、こうするんだな…出来た!これで良いんだな?」
「はい、そうですわ。」
「やったぜ、助かったよ。ありがとな。」
「よし、準備が整った様だな…では始めよう。3、2、1…行け!!」
千冬の号令で一夏とセシリアはスラスター全開にして上昇。
B・ティアーズも白式もたちまち超音速に達し、
アリーナに繋がるタワーに突入する。
すると、2人に差がつき始めた。一夏は高速機動をやった事はないが、
セシリアは英国で訓練を受けた事がある。この差がそのまま現れたのだ。
セシリアはカーブの手前で然程速度を落とさずに曲がったが
一夏は大分速度を落とす羽目になった。
「ちょっ、セシリア速い速い!」
「逆ですわ、一夏さんが遅すぎるのですよ!!」
「畜生!やった事ねぇから勝手が解らねぇ!
もうちょっと手加減とかねぇのか?」
「無理言わないで下さいまし!」
一方その様子を地上で見ていた他の生徒と教員達は…
「うーん、やっぱり織斑君が遅れてますねぇ…。」
「まぁな…初めてならこんな物か。
高町が高速機動を教えられれば、まだ何とかなっただろうが…。」
「無い物強請りですよねぇ…。」
そうこうしている内に、セシリアがタワーの頂上から折り返して、
一夏も1,2秒ほど遅れて後に続く。一夏は何とか追い縋ろうとするが、
やはりカーブでのスピード調整がうまく行かない様で、少しずつ差が開き。
終わってみれば、セシリアに2秒半以上の差を付けられてしまっていた。
「はい、お疲れ様でした!2人共上手でしたよ!!」
「おいおい、そう褒められた物ではなかろうに…
と言いたい所だが、まあ初めてだ、大目に見よう。
と言う訳でご苦労だった、2人は戻って良いぞ。」
「「はい。」」
「うへぇ…出力で勝ってるのに負けちまったぜ…。」
「気にするな一夏。初めてならそんな物だ。
何度も繰り返して慣れろ。それで何とかなる。」
以前なら遅いだの何だのと小言をぶつけていたが、
なのはの「小言を言う位なら模擬戦で〆ろ」の教えを思い出し、
逆に宥める事を覚えた千冬であった。
「………………?」
「どうした?何を驚いている?」
「い、いや…小言でもくらうのかと思ったら、意外な一言が出たから…」
「わ、悪かったな…良いから早く戻れ!」
「うっす。」
「ああ、それと…そこの元生徒会長、自分の授業に戻れ。」
千冬が誰もいない場所に呼びかけると、いつの間に隠れていたのか、
楯無が飛び出してきた。まさかばれるとは思っていなかったらしい。
「そ、そんなぁ!せめて専用機を完成させた簪ちゃんの勇姿を
カメラに収めさせて下さい!」
「だーめ。」
ヤマトが物質転送器を起動させ、楯無を校舎に転送させた。
「全く人騒がせな先輩なの!!後で〆るの!!
放課後に束さんに連絡しておくの!!」
「…………高…なのはよ、何をする積もりだ?」
「山田先生に聞けば分かるの!!後でこっそり訊くと良いの!!」
「はぁ…お姉ちゃんの馬鹿…。」
なのはが悪企みをしている後ろで、簪は姉の醜態に溜息を吐くのであった。
そして、その日の昼休みの事、なのはが生徒会室に向かうと…
「おや…?」
生徒会室のドアが開き、中から一夏が出てきた。
「あっ、なのはさん。ちょっと聞いて下さいよ。実は…」
一夏によると、楯無にIS戦を挑まれたらしい。
一夏が勝てば特に何もないが、負けた場合、楯無が教導役をやると言うのだ。
「なのはさんがいるから良いと思って断ったんだけど…楯無さんが
『彼女の教え方には偏りがある。このままだとそれ以上上には行けない。』
って言うから…」
そこまで言われたらとつい乗ってしまったというらしい。
だが、なのはが極端に性能の偏ったISに乗っているというのは事実であり、
高機動型の白式を駆る一夏を教える点で不都合が有るのもまた事実だ。
楯無が全く事実無根の言い掛かりをつけているとはとても言えない。
そして、なのはは盾無が何をしたいのかも予想がついた。
「(一夏君を引き込んで、芋蔓式に他の娘も手先にする気なのかな?)」
確かに一夏を引き込めば、そこから専用機持ちを芋蔓式に味方に引き込める。
そしうすれば、なのはの情報を探って弱みを握る事も容易いだろう。
「無謀なの…。」
「…は?」
「残念だけど、今の一夏君は一国の代表を相手にするレベルではないの。」
「なっ!」
「例えISだろうと、生身だろうと、一夏君の勝算は少ないの。」
何たって、相手は先祖代々暗部対策を司っている一族の長である。
言い換えれば、スパイ狩り専門のスパイの長と言う事だ。
事と次第によっては、手ずから人を殺した事が有るやも知れない。
なのはは本業での経験上知っている。技量が互角なら、殺人経験者の方が強い。
それは、身内を見ただけでも明白だった。
かつて用心棒だった父の後を継いだ兄は任務中、
護衛対象に迫る刺客を斬った事が有るという。
一方、稽古では同等の技量を持つ姉は人を斬った事は無い。
どっちの剣なら無刀取りが出来るかと聞かれれば、迷わず姉と答えるだろう。
更に言えば、なのはは剣道の段位で親兄弟を凌ぐ人間は見てきたが、
例え最高位である八段の位を持っていても、人を斬った事のない者の剣は軽い。
はっきり言って簡単に見切れるし、無刀取りだって容易く出来る。
だが、兄の剣だけは目で追えない。まして無刀取りを決めるなど到底叶わない。
これに国家代表を務めるISの技量が加われば、学園生徒が敵う道理はない。
IS操縦だろうと、生身の戦闘だろうと、今の一夏よりも実力は上のはずだ。
「今の一夏君はブランクを取り戻すので手一杯なの!
去年まで学園最強だった彼女に敵う道理はないの!!
戦えば、向こうの勝ちは間違いないの!!」
「………やっぱりかぁ…。」
生身でも結果は同じだろう。
楯無はなのは以外の1年の専用機持ちの中で生身で最強のラウラと同等以上。
ラウラに白兵戦で勝てない一夏が勝てる相手ではない。
尚、なのはは一騎打ちなら生身でもISなど難なく蹂躙できる。
但し、全盛期の千冬が乗っていなければの話だが。
「こんな事なら、早々に剣道部に入っておくべきだったのかもなぁ…。
あー、ホントにどうしよう…。」
「……………仕方ないか。」
「?」
「それなら、私に名案が有るの!」
「ホントに?!」
「ホントなの!!まあ見てるの!!まあ、それは置いといて…」
「何ですか?」
「溜まってる書類の決裁なの!!前任者の怠慢のせいでまだ終わらないの!!
一段落ついたら思いっきり〆てやるの!!」
「…………………………。」
そして、その日の放課後の第1アリーナでは
恒例の練習を行っていた専用機持ちだが、
途中で模擬戦があるからと楯無が乱入してきた。
「あの、先輩?模擬戦って、誰とやるんですか?」
「ああ、一夏君とね…あの人の教え方には偏りがあるから、
私が勝ったら教導役を引き受けると言う条件でね。」
「あ、あの人って…なのはさんの事ですよね?
良いんですか?そんな事言っちゃって…。」
「そうですわ!入学してちょっと経った頃に鍛えて貰っていた時、
山田先生が『なのはさんがワタクシ達に真面な助言をした事』に
心の中で驚いただけで〆られた程ですから…」
「そうですって、千冬さん相手でも向かっていく暴走核弾頭ですよ?
聞いてたら何をされるか…」
「………。」
「まぁ、今更言っても仕方ないんですけどね。」
「あら、どういう事かしら?」
「だって、もう来てますから…。」
「え…?」
その時、楯無のM・レイディのハイパーセンサーがミサイルを検知。
振り返り、蒼流旋の機銃で撃ち落とした。その先にいたのは…。
「か、簪ちゃん…?」
打鉄弐式に乗った妹の姿が。そして、その後ろにはなのはもいた。
「最低だよ、お姉ちゃん……
ズルい手段で人の弱みを握ろうとしてたなんて思わなかった。
身内で唯一人会話できたお姉ちゃんが、そんな事に手を染めてたなんて…」
「……………!」
「なのはさんが言ってたの。なのはさんはお姉ちゃんが自分の事を嗅ぎ回って、
弱みを握ろうとしているんじゃないかって疑ってる事。
来年のモンド・グロッソをモスクワでやるって話だから、モスクワの手先として
なのはさんが出られない様に何か裏工作をするんじゃないかって…。」
「そ、そんなの当たり前よ!彼女が今までして来た事を考えれば、
何処の国だって同じ事をするに決まってるじゃない!!何が悪いのよ!!」
「悪いよ!!裏工作で出場を止めさせようなんてズルなんかしたら、
お姉ちゃんはロシアごとICPOの人達と同じ目に遭っちゃうんだよ!!
なのはさんがあの日暴れたのは、向こうが濡れ衣なんてズルしたからだよ!!」
「…………くっ!」
楯無が殺意の篭った目でなのはを睨みつけてきた。
「高町さん、貴女、よくも簪ちゃんに入れ知恵を…」
「悪いのは狡い手を使うモスクワなの!!文句はそっちに言うの!!
それと、余計な事をしたソウルと、
ついでに私を代表にした東京にも言えば良いのっ!!」
なのはに向かっていこうとも思ったが、
7月になのはとのタイマンで酷い目に遭わされている以上、
とても立ち向かう度胸も勝算もない。と、ここで簪が夢現を展開した。
「お姉ちゃん…そんなに任務が大事なら、彼と戦う前に、私とISで戦って!」
「簪ちゃん?!」
「私に勝てたら、お姉ちゃんの好きにすれば良い。
でも私が勝ったら、お姉ちゃんがしようとした事を学園中にばらすから。」
「簪ちゃん…それは、私が一国の代表だと知っての事なんだよね?」
「うん…もう、私はお姉ちゃんのおまけなんかじゃないもん。
周りから蔑まれるだけの過去を切り捨てて、今日から立ち上がるの。」
「……そう。なら、相手してあげる。」
楯無も蒼流旋を構える。かくして放課後の鍛錬は姉妹対決の場となった。
早く原作イベントから脱出して、オリジナル展開に話を持っていかなければ…
暴走核弾頭の名を貶める前に、何とかしないと…。
尚、なのはの経験として語った地の文の
「技量が同じなら殺人経験者の方が強い」は、
本作でのみ通用する全くの憶測です。鵜呑みにしてはいけない、イイネ?