魔法戦記リリカルなのはIS 高町なのはのIS学園見聞録 作:ピロッチ
9月下旬のIS学園。
打鉄弐式を完成させた日本代表候補生、更織簪は
実姉でロシア代表の更織楯無こと更織刀奈に対し姉妹対決を仕掛けた。
事の発端は来年のモンド・グロッソ開催国のロシアがなのはを恐れ、
万一なのはが出場可能となれば大会が出来レースと化してしまうと危惧した末、
ロシア代表である楯無に情報収集を命じ、弱みを握ってのロシアへの引き込み、
若しくは暗殺も含めた出場妨害を図ったのだ。
しかし、なのはは楯無の接触をロシアの裏工作と疑い、
簪にそれとなくその事を話してしまう。
簪は姉が姑息な手段に手を染めるのを止めさせる為、
専用機が完成次第、姉に戦いを挑む事を決意。
そして、その決意が実現する時が来た。
放課後の第1アリーナでは、専用機M・レイディを展開した楯無と、
打鉄弐式を展開した簪の更織姉妹が向かい合っていた。
「簪ちゃん…どうなっても責任は取れないからね。」
「良いよ…もう、出来損ないなんて言わせない!」
楯無もガンランス蒼流旋とアクア・クリスタルを展開。
簪も夢現と春雷を展開し、準備は整った。
『試合開始!』
真耶の合図と共に、簪が春雷を連射。楯無は回避しながらも、
ビームの威力を落とそうと、水のヴェールを水蒸気に変換して周囲に展開。
同時に、蒼流旋の機銃で撃ち返す。
「この連射、見た目以上に危険ね…。」
何とか避けた楯無だったが、何発か被弾したらしくSEが減少していた。
「近距離からの射撃か…あの似非日本人共の『近接バカ化計画』の呪縛は
まだ抜けきっていない様ね…」
妹が自分と相容れない者達の間違った教えの下で歪められている。
それが嫌だった。堪らなく屈辱だった。
だから当主の座を継ぐや、自由国籍を取得して近場のロシアに逃げた。
立ち向かうという選択肢は無かった。幾ら暗部の一族の長と言えども、
日本IICを牛耳っていた奴等に立ち向かうには非力過ぎたからだ。
「でも、彼女が全て片づけてしまった。」
本当なら、妹が打鉄弐式を完成させるのだって手伝いたかった。
簪さえ助けを求めてくれれば手伝うつもりだった。でも…
「それも、彼女が全て片づけてしまった。」
だが、それも仕方ないのかも知れない。
「(あの時、あの様な事を言わなければ、今こうなる事も無かったかもね…。)
簪ちゃん…まさかとは思うけど、昔のあの言葉を根に持ってたりするの?」
「………うん…だって、信じてたんだもん。
お姉ちゃんなら、親身になって助けてくれると思ってたのに…。
みんなから出来損ない、不肖の子と蔑まれるばかりだった私が助けを求めても、
『無能でいればいい』って突き放すばかりで、何もしてくれなかったから…。」
「そう…なら、戦いの後であの言葉の真意を教えてあげても良いわよ。
簪ちゃんに、それだけの実力が有ればね。」
「それが答えなら…やって見せる!マルチロックオンシステム起動!!」
マルチロックオンシステムを立ち上げ、M・レイディに多重ロックオン。
「これに耐えられる?!山嵐全門斉射!!!」
八連装八基64発のミサイルが斉射され、楯無を全方位から追いかける。
「全方位からの多重ロックオン…!!それなら!!」
楯無は水蒸気で自分を前方に集中させ、
ミサイルを
「(前方のミサイルだけ墜として、そのまま正面突破を図る!!)」
「そうはさせない!!」
だが、簪は半数だけミサイルの標的を楯無が収束させた水蒸気に変更。
ミサイルが集中するや起爆させて水蒸気を吹き飛ばす。
「!! これはあの時の…!!まさか!!」
楯無より先に起爆させて水蒸気を散らす。
以前なのはが見せた
「まずい、
残りのミサイルを防ぐ手立てが無い。
慌てて回避する楯無だが、全てを回避しきれず被弾が増える。
気付けば残りSEは半分を割り込んでいた。
「今なら行ける…このまま畳みかける!!」
簪はそのまま夢現で追い打ちをかけるが、蒼流旋で止められる。
「させない!!」
しかも、蒼流旋はガンランスなので…
「隙を見せたわね!」
内蔵された機銃から弾丸が放たれ、打鉄弐式を捉える。
打鉄弐式のあちこちから火花が飛び散り、SEを一気に削っていく。
「ンアァッー!!」
更に追い打ちで
「背後からミサイルの撃ち漏らし…?!」
ハイパーセンサーが背後から何発かミサイルが迫るのを感知。
逃げようとした瞬間…。
「今だ!!」
簪が打鉄弐式で激突。楯無はバランスを崩して回避が遅れる。
「しまっ…」
ドガァッ!!
「ぶわ!!」「あ、ぐっ!」
楯無にミサイルが直撃。そして、捨て身の行為の代償に
簪も爆風に巻き込まれ、SEに大ダメージを受ける。
「くっ…まさかここまで無茶な事をするなんて…。」
M・レイディの残りSEは200を切ってしまった。
機体もあちこちにガタが。これ以上被弾すると本当に負けかねない。
だが、打鉄弐式も蒼流旋の銃撃と捨て身の残りSEは300程度になった。
「くっ…これ以上長引かせると拙い!! アレを使うしか無いわね…。」
M・レイディの全身に覆われていた水が急速に引いて一箇所に集中していく。
まさか、アレの正体は…
「ミストルティンの槍?!拙い!!」
簪は春雷でトドメを刺しにかかるが…
「!! え?春雷が動かない?!!何で、ナンデ?!」
春雷の各部から火花が。どうやらエラーが発生した様だ。
さっき爆風に巻き込まれた際、配線を一部損傷したのか?
「これじゃ、お姉ちゃんを止められない!!」
相手は一族きっての天才。エネルギー充填を早めるコツも熟知している。
「(何かトラブったのかしら…?今の内に片を付ける!)
これで終わりよ、貫け、ミストルティンの槍よ!」
M・レイディの切り札、ミストルティンの槍が発動。
超振動を与えられたナノマシンの水が一直線に打鉄弐式に迫る。
「そ、そんな…っ! 天岩戸よ!!」
簪は咄嗟に天岩戸を展開。防御を固めてやり過ごす構えだ。
「あああああああああっ?!!」
そして、ミストルティンの槍が直撃。
爆発と衝撃で大きく揺さぶられ、悲鳴をあげる簪。幸い何とか耐えはしたが、
この一撃で打鉄弐式の残りSEは70程度まで減ってしまった。
機体から火花が散り、正に満身創痍。
「天岩戸か…勝ったと思ったのに…でも、もう終わりよ!!」
蒼流旋が暫く使えないので、
代わりに
だが、簪はまだ諦めてはいなかった。
「まだだよ…」
「?!」
「まだ、まだ動ける!!私は、まだ動けるんだから!」
唯一つ残った武器である夢現を最大出力にして最後の突撃を仕掛ける。
「くっ、しつこい!!…こっちだって!!」
蛇腹剣を鞭の様に目一杯伸ばして突き刺し攻撃を仕掛ける。
この長さなら、夢現は届かない。間合いの差で押し切れる筈。
「その位で…その位でぇぇっ!!」
しかし、ここで楯無の予想外の出来事が起こった。
何と簪が最大出力の夢現で蛇腹剣の刃を切り飛ばしたのだ。
「なっ…見切られた?!」
簪はそのままの勢いで1回転しながら楯無に斬りかかる。
「これで…これで決めてやる!!」
「それは、こっちのセリフよ!!」
夢現を振る簪と、折れた蛇腹剣を振る楯無。
お互いの死力を尽くした一撃。その決着の行方は…
「「きゃああああああああああっ!!」」
強烈な火花が飛び散り、弾き飛ばされる両者。
蛇腹剣と夢現の刃先が同時に直撃し、突き刺さったのであった。
これが意味するのは…
『そこまで!!両者SEエンプティ、勝負なし!!』
「………引き…分け………?」
「終わった…。」
真耶のアナウンスがアリーナに響き渡る。姉妹対決はまさかのドロー。
両者のSEが無くなったのは同時であり、勝敗は無し。
それが、姉妹対決の結末だった。
パチ、パチ、パチ、パチ、パチ…
「2人共、ナイスファイトだったよ!!」
「ああ、久々に名勝負を見られて何よりだ!!」
「凄いよ!!先輩相手にあそこまで戦えるなんて!!」
地上に降りた2人を他の専用機持ちが拍手で出迎えた。
今までなのはが見せたワンサイドゲームばかり見てきた彼女達には、
今回の様な互角の攻防戦は感動すら覚える名勝負に映ったからだ。
「まさかこうなるなんて…勝ったと思ったのになぁ…。」
「何だ…やっぱり勝てなかったか…。アハッ、アハハハハハ!」
急に笑い出す簪。一体どうしたのか?
「……簪ちゃん?」
「私、嬉しいの。だってお姉ちゃんと互角に戦えたんだよ。
今までお姉ちゃんには追いつけないって思ってたけど、
私…お姉ちゃんに追いつけたんだよ。だから、嬉しいの。」
今までの簪は楯無の次いで、不肖の妹と蔑まれる人生を過ごしてきた。
姉に助けを求めても、「無能でいればいい」と突き放され、
それでも諦めきれずに、頑張って国家代表候補生にまで成れたと思ったら、
姉は国家代表になっていた。このまま姉に追いつけずに終わるのかと思うと、
自分に自信を持てず、臆病になっていた。
だが、同じ境遇と自称するなのはが助けてくれた。
ヤマトが専用機を組み立てるのを手伝ってくれたおかげで、
今日、こうして楯無と相討ちでドローに追い込むまで渡り合えた。
学園で初めて在学中に国家代表に上り詰めた天才を相手に、
凡人、不肖の妹でしかない自分が対等の戦いをして見せた。
「ねぇお姉ちゃん。結局、勝負はつかなかったけど、あの約束はどうするの?」
「うーん…引き分けなんて想定してなかったし…現状維持で良いんじゃない?」
「お姉ちゃん…真面目に答えて。嫌いになるよ?」
「そ、それは! それは勘弁してー!!」
「ならお願い。お姉ちゃんがなのはさんに何をしようとしてるのか、
正直に白状してあげて。
それと、あの時どうして私を突き放したのか、教えて貰うから…。」
「はぁ、分かったわよ…。」
次回、姉が語るあの日の真実。そして…
「第10話 姉妹対決 急」
果たして、真実を知った簪が出した答えは…?
そして作者は、今年中に姉妹対決の形を付けられるだろうか?