魔法戦記リリカルなのはIS 高町なのはのIS学園見聞録 作:ピロッチ
それを文にするのに思いの他手間取りました。
尚、今話のなのはさんは前話ラストに続き、
「CV:ちよ父」でお楽しみ下さい。
「「「「「…………………………………………………………………。」」」」」
窓を指差して告げたなのはの一言に、一瞬で会議室は沈黙した。
「その方、今何と言った?!」
出口はあそこだ!
青筋を立てて問い返す剣之介に全く動じず、
なのはは窓を指差したまま、有無を言わさず繰り返した。
その恐ろしさに、律子他IS操縦者は勿論、
米田防衛相以下出席者全員が震え上がった。
「き、君!!先生に向かって、何て失礼な態度を…」
「ゴメス、口をつぐめ。話はこれの片を付けてからだ。」
「アッハイ…」
「け、警視正を…呼び捨て…。」「先生を、これ呼ばわりだぞ…。」
屯田警視正を一言で黙らせるや、なのはは剣之介への難詰を続けた。
「貴方方はISへの知識の欠如、人間の対等の付き合いを許さない
歪曲された儒教精神、そしてもしかしたら単純な女尊男卑への対抗心から、
1人の代表候補生の人生を壊そうとしている。これは認められる事ではない。
こんな事も平和的に解決できないのなら、貴方方抜きで決めるだけだ。」
管理局員としては比較的温厚ななのはが、
まるでザンギエフ露大統領も畏敬するロシアの陰の実力者「長老」の様な口調で
他人を難詰している。それも相手は学生などではない。
日本一の武道の名家の長であり、日本で唯一人本来の最高位である八段を超え、
特例で十段の名誉称号を与えられた第一人者である。
当然礼儀や作法には人一倍厳しく、
間違っても一介の学生が自分にこんな態度を取る事等許す筈がない。
だが、なのはにはそんな事はどうでも良い。
「子供は親の言う事を聞く。こんな当たり前のことが出来ない
恥ずかしい人間を庇って、情けないと思わないか!!」
「彼女は成人だ。よって親とは対等だ。
何様のつもりかと問うのなら、余所様と答えよう。」
「誠意を以て頭を下げた人間をあざ笑う奴は地獄に行くぞ!!」
「親を大事にしない者は誰も大事にせず、
結果誰からも相手にされない孤独地獄を見る事に…」
「お伽噺に本気で期待してはいけない。
誰も私達を助けてはくれない。
神も、天皇も、英雄も。私達はいつでも、
自らの手で事をやり遂げなければならない。」
「自分を他人に優先する事は許されない!!
自分だけ良ければいいと、公言して憚らない非常識な行為だ!!」
人より我が、尚良かれ。」
「嘘つきは泥棒の始まりだ!!
死んでも嘘はついてはならぬと言うのが解らんのか!!」
「己の心のままに相手を動かし、
これを打つのが剣ではないのか?
ならば身を守る為の嘘は兵法の基本だろう。
剣の基本はどこへ行った、どこだ?
柳生の教えは私でも知っている事ではないか。」
他の武道関係者が口々に非難するが、なのはは悉く切り返した。
「言わせておけば…素人が柳生の名を借りて聞いた風な口を利くか!」
なのはに剣之介が凄んだ次の瞬間、
なのはは細長い何かを剣之介の眼前の机に突き刺した。
それは、抜き身の日本刀だった。
「だったら刀で語るのっ!!!」
「な、な、な…」「真剣…だと…」
「私の言葉に少しでも文句が有るなら、
自慢の武芸で私の首を取ってみろと言った筈だが?…出来ないなら…。」
なのはは何かの文書をペンごと机に叩き付けた。
「この合意文書に署名しろ。話はそれからだ。」
その合意文書の内容を意訳すると、
「日本国に属する全ての武道関係の連盟及びその関係者は、
今後二度とISに関わらない事を明言し、IS道構想も永遠に破棄する」
という内容になる。
「何をふざけた事を!貴様、どこまで非礼を重ねれば…」
「親父、そんな奴の言う事など聞いてたらキリが無いぞ!!」
「誰か、奴を摘み出さないのか?!」
「そうです!それ以上父に無礼を働くなら許しません!!」
磯鷲四兄妹や他の武道連盟の代表者達もいきり立つ。
「控えよ、倅共!」
しかし、剣之介が一喝して押し留めた。
「お、親父?!」「良いのか?」
「構わん、言わせておけい!」
「お、応…」
「で、返答は?」
「斯様な物に署名する謂れは無い…これがワシの答えだ!」
あっさり捨てられてしまった。まあ、当然と言えば当然だ。だが…
「磯鷲流には門下が家元の定めた禁忌を犯しても大目に見る風習があるのか?」
「何…?」
「真宮寺一馬を知っている?」
「知らぬ筈がなかろう!あ奴がISにもたらした刀法が
織斑千冬を優勝へと導き、以て剣道の競技人口増加に繋がった。
あ奴は剣に多大な貢献が有る。あ奴が何だと言うのだ!!」
「私の師、篠ノ之束の評価は違う。
あれはISを汚した屑の中の屑。それが彼女の評価。」
「な、何だと!!」
今度は米田防衛相が激昂した。
だが、そんなのお構いなしになのはは言葉を続ける。
「私もそう思う。本人にあった事は無いが、
彼の死は家元を蔑にしたISの運用に手を貸した当然の報いと解釈している。
織斑千冬すら、死に際に罵倒したと明言したのだから。」
「………私も、確かに聞きました。
織斑教諭は、彼に凄まじい恨みを感じていた事をはっきり明言しました。」
あの時その場に居合わせた律子も同調し、
他の警視庁IS小隊の隊員も無言で頷く。
「何故そうなったと思う?ISの家元篠ノ之束は
宇宙開発ツールとしてISを創造し、そして自らの意志で
兵器としても如何に有用であるかを白騎士事件を以て証明した。
だから兵器として使われる事は最早致し方ないとしても、
まずは次世代宇宙開発ツールという
本分への回帰は果たさなければならない。
そしてその発信地はこの国を置いて他ならない。
なぜならこの日本こそIS発祥国だから。
よってIS道構想や代表候補生受験資格の武道有段者への限定等という発想は
ISへの冒涜も甚だしい。ISは武道の稽古道具でも御為倒しの道具でもない。
家元である篠ノ之束の意に背く使い方は…例え今上が土下座して頼み込もうが、
篠ノ之束唯一の直弟子であるこの私が許さない!!!」
先人が創造した極意を会得できない程、
技量と精神が堕落したのか?
IS抜きでも出来る事にISを巻き込むんじゃねーのっ!!!
なのはの大喝で一同は完全に沈黙。誰も反論出来無い様だ。
「お前等はISが無いと先人同様の稽古も出来ない上、
門外漢の癖に家元の定めた理念に逆らうのか?」
と言うのが武道関係者にとって何よりの殺し文句だった。
「た、確かに…。家元の意向に背くなど武道にあるまじき行為…でしょうな…」
と、屯田署長がビビりながら同調していると…
「旦那様。」
穂之華夫人が口を開いた。
「当家の総意としての返答は私が行っても?」
「…好きにせい。」
「では。高町なのは…当家の総意をお答えします。
『極めて残念』…これが我等の答えです。」
「残念?何が?」
嫌な予感を覚えつつも、なのはがそれを顔に出さずに返すと、
この様に言葉を続けた。
「なまじ突出した才能が有るばかりに傲り昂ぶり、
『己は誰に対しても対等以上』と思い上がっての暴言非礼の数々、
果ては女尊男卑に染まり、肉親はおろか周囲の隣人、
更には警察にまで二枚舌を使う性悪娘をかばい立てするとは言語道断。
本来人の心には天意、神意と言う物が宿っていて然るべき。
それを根っから捨て去り、己自身を神と崇めるかの如き所業、
見苦しいにも程があります。最早国際社会に申し訳が立ちません。」
「ほーん。で、何が言いた…」
表 へ 出 ま せ い !
裂帛の気迫と共に、会議室に響き渡る穂之華夫人の喝。
「磯鷲の武芸はその様な輩を打ち据え、戒め、
改心させる為に磨かれてきました。故に高町なのは!!
磯鷲の総力を挙げ、これより折檻を下します!!」
剣之介以下、一族全員と他の武道関係者も一斉に無言で頷いた。
何たるインガオホーか、なのはは今まで自分が仕掛ける側だった
「高町流交渉術」を仕掛けられる側に回ってしまった。
そして、警視庁本庁の道場で相対するなのはと
磯鷲一族率いる武道関係者達。だが…
「「「「「……………………。」」」」」
始めから気合充分の磯鷲一族を始め、
見届け人の他の操縦者や軍、警察関係者一同全員が沈黙していた。
その原因はと言うと…
なのはの出で立ちだった。全身から殺意の波動を放ち、
普段ISスーツと称して使っているアグレッサーモードでは無く、
本気で叩き潰す気のブラスターモードである。しかも、リミッター全解除だ。
「な、何なんだあの格好は…」
「さ、さあ…」
尚、この折檻と言う名の決闘だが、やる事は一体多の組手である。
但し、多の側は全員その道の第一人者達であり、
そんな人間が本気で掛かって来るのは充分な折檻である。
当然、磯鷲会長は竹刀に防具姿だし、
穂之華夫人も弓に代わり木製の薙刀で完全武装している。
「逃げずにここまで来た事は褒めて差し上げます。
今ならまだ間に合います。ISから永劫に手を引くと明言なさい。
さもなくば、本気で打ち据えます。」
「『良く吠えた、挑戦を許可する。』これが答えです。」
「何処までも傲慢な…
嘘は拳で戒める磯鷲の家訓、その身で思い知れい!!」
「良く吠えた、挑戦を許可する。」
「貴様…その思い上がり、断じて許さん!」
「ああもう、キリが無いので始めますよ!では…」
折檻と言う名の組手の審判を務める事になった律子が
双方の準備が整った事を確認し…
「始め!」
旗を振り下ろして号令した瞬間。
ドッパアアアアアアアアァァァァァァァァン!!!
「「「「「「アバッババッババババーッ!!!」」」」」」
竹刀、薙刀、拳に蹴りがなのは目掛けて迫るよりも早く、
なのはは指先からアクセルシューターを発射。
一斉に武道関係者達に着弾し、壁に叩き付けた。
「な、何だァーッ!!!」「指先から光線?!」
「アイエエエ?!ビーム?!ビームナンデ?!」
騒然となる道場。なのはは追い打ちの為レイジングハートを展開し、
アクセルシューターを連射する。
何しろ束のナノマシンの実験台となった結果、後遺症が完治して
SSランク相当まで成長した全力のアクセルシューターだ。
物理破壊設定をオフにしているから傷こそ付かないが、
もしオンだったら難なく初弾で武道家達を皆殺しに出来ただろう。
「貴様…何をした?!!」
「武道の経験は皆無と言ったな。あれは嘘だ。」
「き…貴様!!本性を現したな外ど…」
しかし次の瞬間には
なのはが剣之介の顔面にアクセルシューターをぶちかましていた。
「ぶわっ!」
「私は百歩神拳の使い手。何か質問は?」
「「「「「ひゃ、百歩神拳?!」」」」」
百歩神拳。中国武術に伝わる伝説の拳である。
「気」や「頸」を用いて拳の届かない所の敵を打ち、
文字通り百歩先の蝋燭の火をも掻き消す恐るべき拳法だ。
正直に魔法と言う義理も理由もないなのはは、
武道家に最も通じやすいであろう
ビッグネームを持ち出す事でどちらが上か示す構えだ。
「馬鹿なーッ!!中国武術最大の伝説の拳法だと!!」
「何でこんな奴がそんな物を使えるんだ?!」
「そもそも実在していたのか?!」
当然、武道家達は仰天して震え上がる。
目の前で起きた現象はどう考えても現実。
それなら、目の前のなのはは本物の百歩神拳使いであり、
それだけで自分達より圧倒的に格上の武道家であると言う事になる。
「ええい黙れ黙れ!!そんなハッタリには騙されんぞ!!」
「Chain-bind!」
「な、ナンダ、カンダ、ハンダ?!」
チェーンバインドで全員を纏めて縛り上げ、ブラスタービットを展開。
スターライト・ブレイカーの発射体勢に入った。
「さっきの降伏勧告、そのまま返してやるの。
さもないと、一番の奥義で吹っ飛ばす。」
「や、止めろ!!」
「ま、参った!!降参する!!」
一部の武道家がギブアップを宣言。だが、時すでに遅し。
「ならば降伏の証に…
黙って吹っ飛べ。
「や、ヤメロー!!ヤメロー!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
気合と共にチャージを加速するなのは。そして魔力の集束が完了した。
「これで終わりなの!!Lyrical magical…家無しになれぇ!
Star-Light Breaker-Ex-FB…FIRE!!!!!」
言うなり、レイジングハートとビットから極大光線を発射。
「「「「「ギィヤアアアアアアアアアアァァァァァァァァーッ!!!」」」」」
まるで核爆弾でも起爆したかの様な閃光と爆風に武道家達は呑み込まれ、
壁を貫通して遥か彼方に吹き飛ばされた。
「しょ、勝負…あり…」
当然の結果だった。いくら武道の第一人者でも、
ISに乗った千冬すら生身で破るなのはに試合形式で挑めば負けて当然。
なのはに本気で勝ちたかったら、彼女の親兄弟の様に
人斬りの経験を積むべきだったのだ。
「たかが剣道十段の分際で、私に生身の戦いを挑むからこうなるの!!
それで?何か質問のある人はいるの?!!」
事ここに至って、ようやく地の声で喋りだしたなのは。
だが、この状況で質問が有るとなぜ言えようか?
「い、いえいえいえ!!見事な…その…百歩神拳でございました!!」
首を横に振る屯田署長。軍、警察関係者と操縦者もそれに倣う。
「まあね。知らない人に言っておくけど、私は生身の方がずっと強いんだよ。」
そう言い残して、道場を後にするなのは。と、ふと足を止め振り返った。
「ああそうだ!!実は私、もう一つ嘘をついてたの!!!」
ここでまさかのカミングアウト。
「え゛?!!」
「まだあったんですか?で、一体何なんです?!」
「それはね…」
呆れた声で聞き返す律子に答えたなのはが自分の顔を掴むと…
バリバリバリ!!
何と顔の皮を毟り取った。その下から現れたのは…
何と束の顔が現れた。
警視庁にやって来たのはなのはに化けた束だったのだ。
「し、篠ノ之博士ーっ?!!!」
「アイエエエエエ?!篠ノ之博士?!!篠ノ之博士ナンデ?!!」
「ほ、本人…だったのね…。」
ISの母堂々の降臨に全員驚愕。
つまり、IS道構想に開発者直々のノーが突きつけられたと言う事だ。
「そう言う事だよ。この束さんはISを宇宙開発ツールとして創ったのに、
その目的も果たしていない内から勝手に別の使い方を決めないでくれる?
これ以上文句言うと、日本中のISを使えなくするよ?冗談抜きで。」
「「「「「………………。(開いた口が塞がらない)」」」」」
ISの母直々にノーを突きつけられては最早なす術はなかった。
かくして、悠々と道場から去っていく束であった。
そして、束は道場を出るなり本庁のトイレに入ると…
「全く、国家代表も楽じゃないの。」
何と束が顔を再びはぎ取る。その下から現れたのはなのはの顔。
なのはは会議室に乗り込む前に束に連絡した所、束の考案で
「高町なのはに化けた篠ノ之束」に変装して乗り込む様に指示されていた。
こうすれば、いざとなれば束の顔を出してISの母の名の下に
磯鷲一家を黙らせられるし、万一突っかかってきたら
なのはが魔導で返り討ちに出来るからと言うのが束の説明だった。
それなら束本人が行けばもっと簡単に片付くのだが、束は束で
山口首相にIS道構想を破棄させる事を同意させる為
今も首相官邸にいるので、警視庁の側はなのはが片づけるしかない。
「(さて、山口首相は束さんが説得してる頃だし、
後は今来た風を装って正面玄関から入り直すだけなの。)」
なのははヤマトワープで人目のない所にワープすると、
何食わぬ顔で道場に入り直した。
「あの!皆道場にいるって聞いて来たんですけど、
会議はどうなったんですか?」
「ああ、高町さん!来てたんですか?!!実は…」
この後、日本政府は「ISの本来の開発目的からの逸脱」を理由に
IS道構想の完全放棄を決定した事は言うまでもない。
その日の夜、○HKのニュース番組ではこの様なニュースが流された。
「パリ、ベルリンに続き、遂にここ日本でも同時多発爆弾テロが発生しました。
本日13時過ぎ、全剣連、全日本剣道連盟の会長、
磯鷲剣之介氏の自宅が突如爆発し、完全に倒壊しました。
それに前後して、日本各地の柔道、空手道、弓道など武道の連盟本部が
次々と破壊され、甚大な被害が出たとの報道が入っています。
現在警察が原因を調査中ですが、
爆発物らしき物は未だ発見されていないとの事です。この事故により…」
結局、何を迷っていたかと言うと、
武道関係者に食って掛からせるか、
大人しく引き下がらせるかの2択だったんです。
高位の有段者なら、相応の精神修養を積んでるから
「家元に背くのか?」が殺し文句になって
引き下がる公算が高いんですが、それだと暴走核弾頭が暴走しないので、
「余りにも礼儀を弁えない態度に堪忍袋の緒が切れた」
という解釈を採り、食って掛かったという結果に至りました。
剣之介が「嘘つき絶対懲らしめるマン」じゃなかったら、
あのトドメの一喝で引き下がっていたんでしょうけど…
次回、第17話「Mリポート」。
話は9月末に遡り、拘束されたマドカに焦点が当てられます。
果たして、姉妹の会話でマドカは何を語るのか?