あれから幾度となく剣を打ち合わせ、どのくらいの時間が経ったのかもわからない。三十分?一時間?それともまだ十分も立っていないのか。ただただ剣を打ち合わせるだけで、一向に終わる気配がない。
《はあああ!》
「ちっ」
剣が当たる寸前のところで鷲は体を半身にしてよける。そして、そこから反撃する。
《くっ》
今の二人の力量は互角だった。身長が低い鷲は、間合いは短いがその分小回りが効く。対して黒竜は身長が高い分、間合いが長い。ここからは体力と運の勝負になりそうだ。
「いい加減諦めろ!」
《貴様こそさっさと倒れろ!》
言い合いながらも剣を打ち合わせ続ける。
それからしばらくして、二人の疲れが目立ち始める。鷲の左腕は甲冑で殴られて既に折れていた。対する黒竜も左足を切られてまともに動かせる状態ではなかった。
「はあ、はあ、はあ」
《ぐっ、貴様、本当に、人間、か》
「ああ?てめえの力の、一部だろうが」
《確かに、俺の力で身体能力が上がっているだろうが、それを抜きにしても、その動きは・・・》
「てめえなら、知ってるんじゃないのか」
《今回、俺が目覚めたのは、貴様がこちらの世界に来る直前だ》
「・・・暴走した時か」
《そうだ、それ以前は知らん》
「そうか、俺はお前が呑気に寝てる間に、マジで死ぬ思いしたんだよ」
《・・・そうか、ならばその力、俺に見せてみろ》
「いいぜ、次で決めてやる」
《ならば、こちらも次で決めるとしよう》
二人は構えたまま、止まった。
「はあああ!」
《うおおお!》
二人は一気に距離を詰め、剣を力の限りぶつけ合った。
―ガキンッ!
金属が折れる音、それは互いの剣が折れた音だった。
「ッ」
《っ》
剣が折れたと同時に、二人は剣を捨てて鷲は蹴り、黒竜は拳を突き出した。
―バキッ
殴られた音が響き、二人の動きが止まった。
「ぐっ」
《・・・やるな、小僧》
勝負は鷲の勝ちだった。黒竜の拳は鷲に受け止められ、鷲の蹴りもまた黒竜に受け止められていた。では何の音だったのか。
それは鷲が頭突きをした音だった。その証拠に、彼の額からは血が流れており、黒竜の甲冑にヒビが入っていた。
《この勝負、貴様の勝ちだ》
黒竜がそう宣言すると黒騎士は消えた。
「ああ、頭が割れる」
《当然だ、俺の甲冑に頭突きをしてその出血だけで済んだことを幸運だと思え》
「うう」
よほど痛かったようで鷲まだ頭を抑えながら唸っている。
《まったく、あの甲冑にヒビを入れたのは貴様で二人目だ》
「なんだ、初めてじゃねえのか」
《魔法を使わず、ヒビを入れたのは貴様が始めてた》
「おお」
その言葉に満足したのか、感嘆の声を上げる。
《約束通り、貴様に呪文と力をやろう》
「おう、さっさと寄こせ」
《・・・貴様のその図々しい態度はどうにかならんのか》
「ならん」
《まあいい、敗者は何も言うまい》
「なら、早く教えろ」
《慌てるな、表に戻れば使えるようになっている》
「そうか、ついでに真紅を解放する方法を教えやがれ」
《それは条件に入っていない》
「そうかよ、なら自分で探すさ」
そして、鷲の体が透け始める。
《そうしろ。あと言っておくが、俺は隙があればいつでも貴様を殺して表に出るからな》
「ハッ、やってみな」
その言葉とともに鷲は表に戻った。
「・・・・・・」
目を覚ますと目の前にはユークリウッドの顔があった。そして後頭部が柔らかい。
『平気?』
鷲にそう書いた紙を見せる。
「ああ」
鷲はユークリウッドに膝枕をされているのだと理解した。そして、返事をすると上半身をお越した。
「アイツは?」
『飲み物を買いに行った』
「そうか」
『良い身分だったな、シュウ』
そう言って目の前に、見るからに不機嫌な真紅が現れた。ちなみに真紅は半透明になってなれたのか、出たり消えたりできる。消えているあいだは本人曰く、眠っているような感覚らしい。
『なんだよ、出てきたらいきなり倒れてるし、心配したら眠ってるだけだし、その子に膝枕されてるし』
《おいおい、こっちは大変だったんだぞ?》
『むー』
そうやって話していると、リアが戻ってきた。
「大丈夫、シュウ君!」
「ああ、寝てただけだろ?」
真紅が言っていたのでそう答えた。
「そんなことないよ!寝てるだけなら体が傷ついたりしないよ!」
「は?」
『なんだって!?』
体が傷つくと言われて自分の身体を見てみるが、傷らしい傷は見渡らない。真紅もホッとして、勘違いじゃないのかと言おうと思ったとき、鷲の行動を見てリアは言った。
「傷がないのはユーちゃんが治してくれてたからだよ!」
そう言われてユークリウッドを見る。額にはうっすらとだが汗をかいていた。それだけだと治して疲れただけだと思うが、鷲は気づいてしまった。
ユークリウッドは左腕を動かしていないことに。それに気づいた鷲は目を見開いた。おそらく、鷲が最初に怪我をしてから起きるまで、常に治癒していたんだろう。でなければ、途中から見ている真紅も気づくはずだ。
「お前・・・」
『平気』
鷲の反応で気づいたのか、それ以上言わせないように自分が平気だと伝える。
「なわけあるか!バカが!」
『どうした、シュウ』
「えっと、どうしたの?」
「こいつが俺の怪我を治したんだったな」
「うん、そうだよ。自分が治すから私に飲み物とか買ってきてって」
鷲はリアの反応を見て、ユークリウッドのことに気づいていないと悟った。だから言った。
「こいつは他人の怪我を自分に移せるんだよ」
「え、どういうこと?」
「だから、俺の代わりにこいつが怪我をしてるってことだ」
「ええ!?大丈夫なの、ユーちゃん!」
『平気』
「平気なわけあるか!左腕は折れてたし、切り傷も結構あったはずだ!疲れもねえってことは疲れも取ったんだろ!」
平気と書いた紙を奪い取って捨てる。
「ええ!大変!病院に行かなきゃ!」
「それは良い、俺が治す」
「ええ!?できるの!?」
「さすがに疲れは取れねえがな、駄バイス」
<むー>
「うなってないでいくぞ、セットアップ」
本当は呪文でやりたかったが、初めてなので何が起こるかわからない。こっちの魔法ならラピスが何とかしてくれるし、大丈夫だろう。
そして、ユークリウッドに治癒魔法をかける。
「これで、怪我は大丈夫だろう」
『ありがとう』
「よかったー」
「でも、立てねえだろ?」
『平気』
「なわけあるか、俺だって立つのがやっとだったんだ」
そう言うと、ユークリウッドの前にかがんだ。
「今日はもう帰るぞ、早く乗れ、ユークリウッド」
「・・・・・・」
「えっ?」
初めて名前を呼ばれたユークリウッドは驚きに目を見開いた。リアも突然のことで驚いている。
「早くしろ」
鷲に急かされて少し迷った挙句、おんぶしてもらうことにしたユークリウッドは鷲の背に乗った。
「いいなあ、ユーちゃん」
そして、三人は家へと帰った。あと、帰り道に鷲が怪我をしていた理由を聞かれたので、真紅のこと以外は話しておいた。よかったねとリアには頭を撫でられたあと、また心配していた。
戦闘描写がむずかしいです。