―放課後―
四人は翠屋に来た。
「ただいまー」
「「こんにちはー」」
「ちわー」
店に入ると、士郎と若い男女の従業員がいた。
「おかえり、なのは」
「おかえり」
「おかえりなさい」
「ただいまー」
「おや、今日は鷲君も来たのかい?」
「拉致られてきた」
「はは、相変わらずだね」
「お父さん、その子は?」
眼鏡を掛けた女性と若い男性が来た。
「ああ、この子が鷲君だよ」
「この子があの時の?私、なのはの姉の美由希です。よろしくね」
「高町恭也だ」
「・・・・・・」
「二人共、自己紹介しても多分、無駄だよ」
「なんで?」
士郎にいきなりそんなことを言われて首を傾げる眼鏡。
「彼は人の名前は自分が認めない限り覚えないんだ」
「え、覚えないの?」
そう、言わないのではなく、覚えない。
「いくらなんでもそれはないんじゃないかな」
「ああ、耳に入れば名前は覚えるだろう」
「まあ、そこは彼に聞いてくれ」
「士郎、そこで俺に振るな」
「えっと、私の名前は?」
鷲に自分を指差して聞く眼鏡。
「眼鏡」
「・・・冗談だよね?」
「・・・・・・」
「えっと、ほんとに?」
正確には鷲は人の名前を聞いてもすぐに忘れる。人は興味がないことはすぐ忘れる。鷲の場合、それが一瞬なだけなのだ。
「美由希さん、無駄ですよ。アタシらだって今だに名前どころか苗字すら呼ばれたことがないんですから」
うろたえる眼鏡にお転婆がフォローを入れる。
「うん、名前じゃなくて変なあだ名で呼ぶの」
「でも、さっきお父さんのこと名前で呼んでたよね?」
「おとうさんだけじゃなくておかあさんもなの」
「それは認めてるってこと?」
「えっと、コーヒーを入れるのとケーキが美味しいからだそうです」
お嬢様が、鷲が二人の名前を呼んでいる理由を言う。
「付け足すなら、士郎は強そうだからだ」
「「!?」」
A兄(恭也のこと)、眼鏡は驚いた。
「前会った時に気づいてたけど、やっぱり君は只者じゃないね」
「お前は何者だ」
士郎は驚きもせずに言い、A兄は殺気を飛ばしながら威嚇する。
「何者って、小学生以外に見えるのか?」
「・・・・・・」
さらに無言で威圧するA兄。
「士郎は自分の子供を子供相手に殺気を飛ばすように育てたのか?」
「そんな育て方はしてないけどね、恭也の殺気で平然としてる君も君だよ」
「そんなことないぞ。こう見えて、生まれたての子鹿みたいに震えるのを必死に我慢してるんだ」
「随分、余裕そうだな。なら、一度手合わせをしてみるか」
余裕そうに見えたのが勘に触ったのか、A兄が提案してきた。
「おいA、お前の兄貴が子供を虐待しようとしてるぞ」
「ふえっ?」
「私も君に興味があるから試しに手合わせしてもらえないか?軽くでいいから」
Aに話を振って逃れようとしたが、士郎に退路を絶たれた。
「俺は高いぞ」
「今日の代金はただでいいよ」
「・・・プラスケーキ三つ」
「うん、それでいいよ」
安く済む鷲だった。
「ついてこい、家の道場に案内する」
そう言って、A兄は道場へ向かい、その後を鷲たちがついて行く。
―移動中 Side-高町恭也―
(こいつが黒沢鷲か)
恭也の後ろには妹のなのはと同い年の黒髪の少年がついて来ていた。
(たしか四年くらい前になのはと店に来て、いきなりなのはと話し合えと言ったやつだったな)
あの時、彼の言葉がなければ今の幸せがあったかわからない。こうして家族で仲良くいられるのは彼のおかげなのだ。
恭也は確かに鷲には感謝している。しかし、最近のなのはは彼の話ばかりだった。
(もしかして、なのはは彼に気があるのか!?)
そう思うと怒りが込み上げてきた。
(なのはは渡さん!)
一人、怒りに燃える恭也だった。
道場に入り、鷲とA兄は真ん中に木刀を一本ずつ持って立つ。
「大丈夫かな、鷲くん」
「怪我しないといいけど」
「ふん、痛い目にあってあの曲がった性格を直せばいいのよ」
素直に心配する二人と素直じゃないお転婆。
「大丈夫だよ、恭ちゃんも手加減してくれるよ」
「案外、手加減されるのは恭也かもしれないぞ」
「え?」
「二人とも準備はいいかい?」
意外な言葉に驚く眼鏡だったが、士郎はそのまま審判に入った。
「ああ」
「あいよ」
「では、始め!」
士郎の合図と共に踏み出したのはA兄だった。
「はあああ!」
木刀を鷲の頭めがけて振り下ろす。
「ほい」
と、鷲はそれをあっさり避けた。
「はっ」
次は横に一閃する。
「ほっ」
鷲は慌てず後ろに下がり避ける。
「やるな」
「そりゃどーも」
木刀を肩に担ぎ、余裕そうに答える鷲。
「だが、これならどうだ!」
再び距離を詰めるA兄。
「射抜!」
「お」
A兄から連続の高速の突きが放たれる。さすがにこれは躱しきれないと察し、避けつつも木刀で防いだ。
「貫!」
「ちっ」
「徹!」
「ぐ」
―ドォォオン!
A兄の技で吹き飛ばされはそのまま壁に激突し、壁は壊れて煙が上がった。
「鷲!」
「鷲君!」
「鷲くん!」
「恭ちゃん、やりすぎだよ!」
「四人とも、まだ勝負は終わってないよ」
鷲に駆け寄ろうとする四人を士郎が止める。
「おとうさん!どうして!」
「見てごらん」
士郎に言われて四人は鷲の方を見た。
「やるな、お前」
煙の中で立ち上がった鷲は言う。
「これは俺も少し本気出さなきゃな」
瞬間、鷲は既にA兄の目の前にいた。
「なっ」
「ほい」
軽い声と共に放たれたのは、言葉とは逆に重い一撃だった。
「ぐっ」
なんとかそれを防いだA兄だがあまりの重さに手が痺れる。
「それがお前の本気か」
「全然」
「なに?」
「これで十分の一くらいじゃね?」
「なっ、これで十分の一だと」
「てことで、本気で来いよ。隠し玉くらいあるんだろ?」
「・・・後悔するなよ」
「そうこなくっちゃな」
「行くぞっ、神速!」
その瞬間、A兄が物凄い速さで動いた。
「おお、速いな」
だが、鷲にとってはそれだけだった。A兄は気づいた。鷲が神速を使っている自分を見て、ニヤリと笑っていることに。
(な、見えているのか!?)
「なかなかやる方だったよ、あんたは」
鷲が呟いた瞬間、A兄の体に痛みが走る。
「がはっ」
痛みとともに神速が解除され、その場に倒れるA兄。
「勝負あり!」
そこで士郎は勝負を止めた。見学していた四人は呆然と目の前の光景を見ていた。
「ぐっ、俺の負けか」
「あんたの技、面白い技だな」
「小太刀二刀御神流というんだよ」
士郎が説明する。
「のわりには、二刀流じゃなかったぞ、詐欺か?」
「本当は二刀流なんだけど、どちらにしても君には勝てなかっただろうね」
「ふーん、ま、いいや。士郎、とびきりうまいコーヒーくれ」
「待て」
店に戻ろうとする鷲をA兄は止める。
「なんだ」
「鷲と言ったな。お前は人間か?」
その質問に鷲はニヤリと笑う。
「何に見える?」
「・・・小学生だな」
呆れつつもそう答えるA兄だった。
「じゃ、後始末よろしく、シスコン」
「なんだと?」
「違うのか?俺はてっきり妹の前でいい格好をしようとしたふうに見えたんだが」
「なっ、そんなわけ―」
ないと言おうとしたが、寒気を感じて言葉が途切れた。恐る恐る振り返ると、そこにはそれはもう素敵な笑顔の桃子が立っていた。
「恭也?これは一体何?」
「か、母さん!?これは、鷲と手合わせをして」
鷲に助けを求めようとしたが、既に彼と士郎たちの姿はなかった。
「鷲君?子供相手にこんなことしたの?」
「ち、ちがうんだ!」
「ちょっと、オ・ハ・ナ・シしましょう」
「た、助けてくれー!!」
その頃、鷲たちは談笑しながらケーキを食べていた。
数時間後、そろそろ日も暮れるので、今日のところは解散になった。帰り際に、約束のケーキをもらい帰ろうとしたら、三人娘に明日も学校に来いと言われたので、起きれたらと返しておいた。そして、三つのケーキは家に持ち帰って、同居人二人と三人で食べた。
小太刀二刀御神流の技がよくわかないです。
あと、あの「おはなし」をアルファベットで書くかどうか迷った。