パツキンと鬼ごっこをしてから数日後、鷲は仕方なく学校に来ていた。まあ、授業中は暇なので寝ているが。
昼休みになると、いつものように三人娘に拉致られて、屋上に向かう。リアは今日、生徒会が忙しいので生徒会室で食べるらしい。
「じゃあ、今日は二人とも放課後は予定があるんだ?」
「ええ、今日はお稽古があるのよね」
「私も今日はちょっと」
お転婆はまだわかるとしても、猫町はジュエルシード探しだろうと考える鷲。
「そっか、鷲君は?」
お嬢様が話を振ってきた。
「ん、特にない」
「そっか。それじゃあ、前言ってた本、取りに来ない?」
以前、絶版の本などがあると言っていたことを覚えていたようだ。
「いいのか?」
「うん」
「じゃ、行かせてもらうわ」
「うん、放課後そのまま寄っていく?」
「いや、一回帰ってからにする」
「わかった、場所は大丈夫?」
「おう、あのでかさならわかりやすいからな」
「じゃあ、待ってるね」
「あいよ」
《鷲くん、今日は手伝ってくれないの?》
お嬢様と話していると猫町が念話で話しかけてきた。
《イタチもいるし、大丈夫だろ》
《むー、でも鷲くんがいてくれた方が助かるんだけど》
《自分の力を試すいい機会じゃねえか》
《それは、そうだけど・・・》
鷲は念話を切って食べることに集中した。
―放課後―
「じゃあ、また後でね」
「おう」
用事で先に帰ったお転婆と猫町。鷲はお嬢様と帰路の途中で別れた。
「きゃあ!」
声に振り返ると、お嬢様が白い服を着た奴らに、黒いワゴン車に無理やり乗せられていた。そして、その車はあっという間に走り出した。
「・・・・・・」
鷲はいきなりのできごとに呆然としていた。
「・・・リアル誘拐、初めて見た」
『そんなこと言ってる場合か!』
真紅の声に我に返る鷲。
「おっと、そうだな。追うか」
鷲は車を追って走り出した。
Side-月村すずか
すずかは下校途中、鷲と別れたところでいきなり白ずくめの人たちに車に乗せられた。
はじめはただの誘拐かと思ったが、どうやら違うらしい。服装を見ると白を基調として、胸元には十字架のアクセサリー、指には指輪をしていた。見た目は神父を思わせる姿だったのだ。
すずかは既に拘束され、口も塞がれていたので声も出せずにいた。
しばらく、車は走り続け、やがて停止した。車から降ろされたすずかが見たのは教会だった。彼女はそのまま中に連れて行かれた。中には中年ほどの男の神父が立っていた。
(こんなところで一体何を?)
すずかは疑問に思っていたが、やがて、中にいた神父が口を開く。
「ようこそ、教会へ。君のような存在でもここに入ることができるのだね、化物」
「っ!」
―化物、という言葉に目を見開き驚くすずか。
「驚いているようだね。人間に紛れていれば、気づかれないとでも思ったのか?」
「んー!」
すずかは逃げようと暴れるが、近くにいた男に押さえつけられる。
「我々は君のような異端者、化物を制裁するために作られた組織だ」
「・・・・・・」
すずかは無言で神父を睨みつける。
「まあ、これから死ぬ君には関係はないがね。化物をこちらへ」
神父が言うと周りの男たちはすずかを祭壇へと連れて行く。
「んー、んー!」
暴れて逃げようとするもうまく力が入らない。
(どうして!?)
「暴れても無駄だよ、教会には化物の力を弱める結界が張ってある」
(このままだと、殺されちゃう!)
何とかして逃げようとするすずかだが、力が入らず、成す術もなく祭壇に仰向けに縛られてしまった。手足を動かすが拘束具もビクともしない。
「さあ、処刑の時間だ」
神父が取り出したのは光り輝く剣、銀でできた剣だった。
「吸血鬼は銀に弱いと聞いたが、それは迷信かな?これを機に確かめてみよう」
神父は剣を持ったまますずかに近づく。
「んー!んー!」
すずかは来ないでと必死に叫ぶ。迫り来る死の恐怖に目から涙さえ溢れてきた。
「まあ、どちらにしても死ぬのにはかわらないがね」
神父が剣を振りかざす。
(いや!死にたくない!)
次々に脳裏を過ぎる家族や友達の顔。
(誰か、助けて!)
迫り来る恐怖に目を閉じるすずか。彼女は最期に想う。
―姉の忍や使用人のノエルとファリンともっと楽しく過ごしていたかった
―なのはやアリサともっと話したり、遊んだりしたかった
―そして最近、話すようになった少年
―彼とは話すようになったが今だに名前で呼んでもらえない
―彼に名前で呼んで欲しかった
―彼と本について語り合いたかった
―彼ともっと仲良くなりたかった
(死にたくないよぉ、・・・助けて!―鷲君!)
―ドオオオン!
「面白そうなことやってんじゃねえか」
扉をブチ破ったところにいたのは黒髪の少年だった。
-Side out-
お嬢様を追いかけてきたら、なんと意外に教会にたどりついた。鷲は疑問に思ったが、中から今にもお嬢様を殺しそうな声が聞こえたので思考を振り払った。
(何かは知らんが、ただの誘拐じゃねえな)
そう思うと鷲はニヤリと笑うのだった。そして、
「面白そうなことやってんじゃねえか」
と扉をぶち破った。
「なんだ、貴様は!」
最初に目に入ったのは祭壇に縛り付けられたお嬢様と剣を振りかざしている神父だった。周りには白ずくめの男たちがいて、全員、懐に持っていた銃を鷲に向けてきた。
「おお、熱烈な歓迎だな」
とりあえず、鷲は落ちている破片を拾って剣を持った神父に投げる。
―カンッ
と音を立てて、神父の持っていた剣は弾き飛ばされた。
「なっ」
あまりの速さに呆気にとられる男たち。
「じゃ、お嬢様は返してもらうぜ」
そう言うと、鷲は一瞬で縛り付けられているお嬢様のもとへと向かう。
「よう、大丈夫か」
拘束具や口を塞いでいた布を外す。
「鷲君!」
「おっと」
すずかは飛び起きて鷲に抱きついた。目からは涙がポロポロと流れ出す。
「くっ、貴様!そいつの仲間か!」
一人の白ずくめの男の声で我に返るお嬢様。
「・・・お嬢様、祭壇の裏に隠れてろ」
「で、でも!」
お嬢様は鷲を引きとめようとする。
「いいから、早くしろ」
半ば強引に、お嬢様を祭壇の裏へと押しやる鷲。
「貴様、その化物の仲間か?」
「化物?」
「知らないのか?」
「ダメ!」
「そいつは人間とは違う」
「ダメー!」
「吸血鬼、化物なんだ」
「あ、ああ」
その言葉に崩れ落ちるお嬢様。
「・・・・・・」
「どうした、驚いて声も出ないのか?そこをどけ、今ならばお前の命だけは助けてやる」
「・・・・・・」
「おい、聞こえているのか!」
俯いたまま無言の鷲に怒鳴る神父。
「フフフフフ、ハハハハハッ」
「な、なにがおかしい!」
突然笑い出す鷲を見て、声を上げる神父。
「ハハハハハッ、へえ化物ねえっ」
「嘘だと思っているのか?」
「いや、さっきのお嬢様の反応からしてそれは本当なんだろうよ」
鷲の言葉に身体をビクッと震えさせるお嬢様。
「ならば何がおかしい!」
「おいおい、吸血鬼だぜ?」
「それがどうした!化物だろう!怖くないのか!?」
「怖くなんてねえよ!吸血鬼が実在するなんて、
―おもしれえじゃねえか!」
「え?」
「な、なんだと!?」
鷲の発言に驚くお嬢様と神父たち。
「吸血鬼?ドラキュラ伯爵じゃなくて本物の吸血鬼が存在するなんて、最高じゃねえか!世の中捨てたもんじゃねえな、おい!」
またもや呆気にとられる神父たちだが、神父が我に返る。
「ならば、貴様も制裁してくれる!撃て!」
神父の言葉に我に返る男たち。男たちは鷲に銃を向け撃ち始めた。
「きゃあ!」
お嬢様は悲鳴を上げて祭壇の影に隠れる。
「そんなもん当たんねえよ」
そして、鷲は銃弾を軽々と避けてみせる。
「貴様も化物か!」
「おう、そうだ!」
鷲は銃弾を避けつつ、男たちに接近して殴り飛ばしていく。
「くっ」
「残ったのはお前だけだぜ?」
「なっ」
神父が周りを見渡すとそこには倒れて気絶している男たちの姿があった。
「で、化物に制裁を加える組織のリーダー格のお前は強いんだろうな?」
挑発を込めて不敵に笑う鷲。
「・・・・・・」
神父は落ちていた銀の剣を拾う。
「化物めえええええ!」
神父は叫びながら切りかかってくる。
「あんたらの方がよっぽど化け物じみてるよ」
鷲は剣を人差し指と中指で挟めて受け止める。
「なっ」
またもや呆気にとられる神父。
「それと、―よくもお嬢様を泣かせたな?」
「ひっ」
殺気の篭った目で睨みつけられ、恐れる神父。
「ぶっとべ」
鷲は神父を死なない程度に殴り飛ばした。
「もういいぞ、お嬢様」
事が終わったので声をかける。
「・・・・・・」
恐る恐るといった形で祭壇の陰から出てくるお嬢様。
「じゃ、行くぞ」
「・・・鷲君」
歩き出す鷲に声をかけるお嬢様。
「ん?」
「・・・何も聞かないの?」
「お前の家に行ったらな」
「・・・私のこと、怖くないの?」
「別に。さっき言ったじゃねえか」
「・・・ほんとに?」
「ほんとに」
「・・・う」
「う?」
「うえええええん!」
お嬢様は泣きながら鷲に抱きついてきた。
「・・・・・・」
しばらく泣いていたお嬢様も泣き止み、二人は一緒に月村邸へと歩いていた。
「・・・私、みんなの側にいていいのかな?」
「・・・・・・」
「・・・私、みんなに迷惑かけないかな」
「・・・はあ、お嬢様」
「え?」
「お前は誰だ?」
「えっ」
「お前は誰だ?」
ネガティブに入っているお嬢様に質問を繰り返す鷲。
「えっと、月村、すずか、です」
「・・・じゃあ、それでいいじゃねえか」
「え、えっと」
「気にするな、俺は気にしない。お前はお前だ、以上」
「・・・・・・」
「ま、在り来りな言葉だけどな」
「ううん、すごく、嬉しい」
お嬢様は笑顔で言う。
「そうそう、月村は笑ってたほうがいいぞ」
「・・・・・・」
月村は立ち止まり、驚いた顔で鷲を見る。
「ん、どうした?」
「鷲君、今・・・」
「今?」
「今、月村って」
「嫌なら、今まで通り―」
「そんなことないよ!」
「おっ」
お嬢様って呼ぶぞと言おうとしたら言葉を遮られた。
「やっと、やっと、呼んでくれたね」
「・・・まあな」
「フフフッ」
そして、ご機嫌な月村と一緒に月村邸へと向かうのだった。
お嬢様の呼び方が変わりました!三人娘の呼び方はこれからも変わります!
次回はまだ続きます。