あれから月村邸に着いた鷲と月村は部屋のソファに座っていた。そして、部屋の中には猫たちはいないが、目の前のテーブルにはコーヒーとケーキがある、・・・ケーキがある。
「月村」
「何?」
「これ食っていいのか?」
「あははは、いいよ」
「いただきます」
鷲はケーキを食べ始めた。
「ん、今日のはちゃんとできてるな」
「よかった。ファリン、今日は挽回するぞーって言ってたから」
「そうか」
鷲は黙々と食べた。
「おまたせ」
「待たせたな」
部屋に入ってきたのは月村姉とシスコンだった。後ろにはノエルとファリンもいる。
「別にお前らは待ってない、俺はケーキを食べる」
「もう、鷲君」
「私たちとしてはあなたと話したいのだけど」
月村姉とシスコンは対面のソファに腰掛ける。
「聞くことはあるが、俺から話すことはないぞ」
「いいえ、話してもらうわ」
月村姉の目が赤く染まる。
「お姉ちゃん!」
「・・・・・・」
「あなたが何者なのかはな―ヒュン―え?」
何かが月村姉の顔の真横を通り、カンと音を立てて壁に突き刺さる。振り向くと壁にはフォークが刺さっていた。
「なっ」
「貴様っ」
「やめなさい」
シスコンがどこから出したのか刀を抜く体制に入る。ノエルとファリンも構えるが月村姉の言葉に構えを解く。
「お前、今何をした?」
鷲はそれを無視して、低い声で月村姉に問いかける。
「あなた、何者?」
「俺の質問に答えろ、月村姉」
有無を言わせない迫力に冷や汗をかく月村姉。シスコンはいつでも刀を抜けるように構えている。
「・・・あなたに催眠術をかけようとしたわ」
「それも吸血鬼の能力か?」
「・・・ええ、そうよ」
「へえ」
「なぜ、あなたに効かないのかしら?」
「答えるとでも?」
「・・・なら、こうしましょう。私たちのことを話す代わりに、あなたのことも教えてちょうだい」
「いやだね」
「・・・なぜかしら?」
即答する鷲に目を細める月村姉。
「それだと立場が対等になる」
「・・・・・・」
「あんたは催眠術で俺を操ろうとしたな。そんな奴と対等の立場で話すとでも?」
「・・・・・・」
「それに操ろうとする奴なんて信用できない、俺のことを話す義理も義務もないな」
「・・・・・・」
「お姉ちゃん、どうしてあんなことしたの!鷲君は私を助けてくれたんだよ!」
今まで黙っていた月村が怒鳴る。
「・・・すずか」
「助けてくれた人に術をかけるなんてひどいよ!鷲君、私の部屋に行こ。私が話すから」
「すずか!」
「・・・・・・」
鷲は月村に手を引かれてその部屋を出た。
「どうしよう、お姉ちゃんにあんなこと言っちゃった・・・」
部屋に入ると、月村が姉に対して怒鳴ったことに落ち込む。
「俺的にはお前が正しいと思うがな」
「え?」
「道徳的な問題としてはお前が正しい。まあ、生きる術としては姉が正しいが」
「えっと・・・」
「お前ら吸血鬼は人間に隠れて生活してるんだろ?」
「う、うん」
「ならバレたら一大事なわけだ」
「うん」
「月村姉はよくわからない奴の俺に秘密がバレたことを恐れたんだ。相手のことを知らないんだ、催眠術を使って情報を聞き出そうとしたのは間違いじゃない」
「え、えっと、ならどうしてフォークを投げたの?」
「誠意を見せずに力に頼るやつが嫌いだから」
「・・・・・・」
鷲の返答に呆然とする月村。
「まあ、お前が怒鳴ってなかったら俺は帰ってたがな」
「・・・ありがとう」
「でだ、俺は今、お前に興味津々なんだが」
「えっ/////」
いきなりの告白ともとれる言葉に、顔を真っ赤にする月村。
「で、吸血鬼って実際どうなんだ?」
「そ、そっちか、びっくりしたよぅ」
「どうなんだ?」
「えっとね、私たちは夜の一族って言われてる吸血鬼なんだ」
「おお、ファンタジックじゃねえか」
子供のように目を輝かせる鷲。
「そ、そうかな/////」
それを見て月村は頬を赤く染める。
「おう、続きは?」
「う、うん」
月村は自分たちの存在がどのようなものなのか話しだした。
―人の血を吸うこと、月村はまだ吸ったことがないらしいが
―普通の人より力が強いこと
―姉のような催眠術や記憶操作が使えること
「へえ、血を吸わないと死ぬのか?」
「うん、長く生きられないんだ」
「へえ」
「あ、あとね」
「ん?」
月村は俯いて焦ったような声で話す。
「ひ、秘密を知った人、なんだけどね」
「ん、殺すのか?」
「そ、そんなことしないよ!」
「じゃあ、記憶操作?」
「う、うん。それもなんだけど、記憶を消す他にもあって、その、えっと」
「ん?」
言い淀む月村に首を傾げる鷲。
「え、えっとね、ひ、秘密を共有して、しょ、生涯を共にする関係を、き、築くことで」
「つまり、結婚しろってことか?」
「はうぅ」
はっきり言う鷲にまたもや顔を真っ赤にして俯く月村。
「うーん、結婚はなあ」
「別に結婚しなくてもいいわよ」
「お、お姉ちゃん」
「・・・・・・」
突然部屋に入ってきた月村姉に驚く月村と、目を細める鷲。
「さっきはごめんなさい。すずかを助けてもらったのに、仇で返すようなことして」
「・・・・・・ノエルのコーヒーとファリンのケーキで許してやる」
「ありがとう。あなたのことももう詮索しないわ。だけどひとつだけ聞かせて」
「・・・なんだ?」
「あなたは味方、と考えていいの?」
「お前らが俺を裏切らないなら、お前ら一族の味方でいよう」
「・・・ありがとう」
「それで、他の奴らは?」
「下で待っててもらってるわ」
「ふーん。さっきの結婚しなくていいってのは?」
「まあ、簡単に言えば秘密を口外しないって誓ってくれればいいのよ」
「え、そうなの!?」
「・・・・・・」
月村もそれは知らなかったらしい。
「ええ、同性の人に知られたときどうするつもりなの?」
「あ、そっか」
単純なことに気づかなかった月村だった。
「だから、今は誓ってくれるだけでいいわ」
「・・・今は、ね」
「ええ」
月村姉は楽しそうに笑った。
「それじゃあ、誓ってくれるかしら?」
「俺はお前らの秘密を口外しない、そして、俺を裏切らない限り味方でいることを誓おう」
「いいの?そんなことまで誓って」
「ああ、何より、その方が面白そうだし」
「ありがとう、それじゃあ、下に戻ってケーキを食べましょう。まだ残ってるわよ」
「食べてやろう」
「そうそう」
下に戻ろうとした月村姉が振り返る。
「すずかならいつでももらってくれていいからね」
「お、お姉ちゃん!/////」
「・・・俺には勿体ねえな」
「あら、すずかは満更でもないみたいよ」
「―ッ/////」
体中真っ赤ではないのかというくらい赤くなる月村。
「それじゃ、先に行ってるわね」
笑顔で去っていく月村姉。その場に残された鷲と月村は何とも言えない空気になってしまった。
「・・・行くか」
「あ」
歩いていこうとする鷲の服の袖を掴む月村。
「どうした、月村」
「あ、あのね、できれば名前で、呼んで欲しいなって」
「いいぞ」
「無理だよね、ごめん―え?」
「だから、いいぞ」
「・・・ほんとに?」
「吸血鬼の知り合いなんて初めてだしな」
「いいの?」
「嫌ならいいけど?」
「ううん、そんなことないよ!呼んでくれたら、すごく嬉しい」
「ま、次呼ぶときな」
「うん」
そして、二人は下の部屋へと向かった。
―おまけ―
部屋に向かう途中の会話。
「なあ、試しに血、吸ってみる?」
鷲はいきなりそんなことを言った。
「ええ!?」
「でも、あれか?吸血鬼に血を吸われたらグールになるのか?」
「な、ならないよ!」
「そうか」
少し残念そうな鷲。
「えっと・・・」
「で、どうなの?」
「え!?・・・いいの?」
「おう、血を吸われる感覚ってどんなもんかと思ってな」
「・・・・・・」
血を吸わせる理由がそんな理由なのかと思うすずか。
「え、えっと、じゃあ、少しだけ」
そして、彼女は鷲の首筋に口を当てた。
「ん、ん」
「んー、ちょっとした脱力感、血が吸われてるから当たり前か」
「ん、ありがとう」
そっと首筋から口を離すすずか。
「どうだった?」
「え、えっと、こういうのもなんだけど、美味しかった」
「へえ、俺の血ってうまいのか」
「う、うん、・・・鷲君のだから(ボソッ」
「うん、吸血鬼に血を吸われる体験も出来たし行くか」
「うん」
二人はまた歩き出した。
すずかの呼び名がたった一話で変わってしまった。