―土曜日―
「Zzz」
鷲は今日が約束の日だということを忘れて寝ていた。
『起きろシュウ、今日はサッカーの試合を見に行くんだろ』
約束をすっぽかしそうなので真紅は彼を起こそうとする。
「んー、あと三時間」
『それじゃあ間に合わないぞ。それに早く起きないと―』
―バンッ
「鷲!早く起きなさい!」
部屋のドアを開けたのはお転婆だった。他に人影はない、どうやらお転婆一人のようだ。
『ほらお迎えが来たぞ』
「・・・・・・」
「鷲!早く起きて、準備しなさい」
お転婆は布団をはがしにかかるが、鷲はそれに抵抗する。
「おーきーなーさーいー!」
「いやだ、今日は寝て過ごすと決めたんだ」
「ちゃんと約束したでしょっ」
「夢でも見てたんだろ」
「そんなわけないでしょっ」
「お転婆」
「な、なによ」
いきなり真面目な声になる鷲に怯むお転婆。
「俺は今日一日寝てないといけない理由があるんだ」
「・・・言ってみなさいよ」
「・・・・・・夜更かしした」
「今すぐ起きなさい!」
「Zzz」
「今起きたら、高級店のフレンチトーストをあげるわ」
「早く寄こせ」
フレンチトーストという言葉に、即反応して起きる鷲。その速さは目にも止まらぬ速さだった。
「・・・アンタ、ほんっとう甘いものに目がないわね」
お転婆は呆れた目で鷲を見る。
「俺はただでは動かないだけだ」
「威張って言うことじゃないでしょ」
「ん、んー」
お転婆の言葉を聞き流して体を伸ばす。
「はあ、早く着替えて下に来なさいよ」
そう言うとお転婆は下へと降りていった。
「はあ」
フレンチトーストの為とは言え、起きてしまったので仕方ない。長い一日になりそうだと溜息を付きながら着替えた。
「遅いわよ」
リビングに入るとお転婆はソファに座ってお茶を飲んでいた。
「おはよー」
「おはよう」
キッチンのテーブルにはリアとユーが座っており、既に朝食を食べていた。
「ああ、おはよう」
鷲は席について用意してある朝食、お転婆が持ってきたフレンチトーストをメインに食べ始めた。
「ごちそうさま」
最後に鷲が食べ終わり、食器を片付ける。
「やっと食べ終わったのね。そろそろ時間だから出るわよ」
鷲たちは準備を済ませて外に出た。
「・・・はあ」
「なによ、嫌そうね」
「よくわかったな」
「フレンチトーストあげたでしょ?」
「・・・・・・」
「ほら、突っ立てないで行くわよ」
お転婆は鷲の腕を掴んで歩き出した。
「鷲くーん!」
川原の広場に着くと猫町が声を出して手を振っていた。隣にはすずかの姿もある。
「おはよう!リアさんたちもおはようございます!」
「鷲君、アリサちゃん、おはよう。リア先輩たちもおはようございます」
猫町のところに着くと二人が挨拶してくる。
「おはよう、なのは、すずか」
「おはよー」
「おはよう」
「・・・・・・」
挨拶を返す三人だが、鷲は無言でいた。
「アンタも挨拶しなさいよ」
「・・・おはよう」
「にゃははは、相変わらずだね、鷲くん」
「そう思うんなら寝かせておいてくれ」
「まあまあ、終わったら翠屋でケーキ食べよ?」
「・・・・・・」
「まったく、アンタってやつは」
ケーキで心揺れる鷲。だが、彼は甘いものだけではここまで心揺るがない。ただ単に、翠屋のケーキは美味しいのだ、鷲が認めるほどに。なので、鷲は市販のものやそこそこなものでは決して頷かない。
「じゃ、向こうに行こ」
猫町は鷲たちを連れてベンチの方へと歩く。
―ピーッ
ホイッスルの合図とともに試合が始まった。ベンチにはすずか、猫町、お転婆、リア、鷲、ユーという順番で座っている。ちなみにイタチは猫町の膝の上に立っている。それぞれ、まあ鷲以外だが、士郎のチームの選手を応援している。
―ピーッ
そこで、二回目のホイッスルの音が鳴った。フィールドの一箇所に選手や士郎が集まっている。
どうやら、選手の一人が怪我をしたようだ。その様子を見ていると、士郎がキョロキョロとあたりを見渡す。そして、鷲たちのいるベンチに目を止めるとこちらに歩いてきた。
「鷲君」
「いやだ」
鷲は何かを言われる前に拒否する。
「・・・まだ、何も言ってないんだが」
「どうせ、試合に出ろとか言うんだろ?」
「ああ、よくわかったね」
「あの状況でこっちに来たってことはそうだろ」
「まあ、そうなんだが、出てくれないかい?」
「断る、他の奴に頼め。補欠くらいいるだろ」
当然、チームのスポーツとなれば控えや補欠の選手くらいいるはずだ。
「まあ、そうなんだが、控えの選手は今日は外せない用事や風邪でいないし、補欠の選手もまだ試合に出せるようなレベルじゃないんだ」
「・・・・・・」
「いいじゃない、出なさいよ」
「うん、鷲くんならきっとすごいよ」
横から無責任なことを言ってくるお転婆と猫町。
「・・・・・・」
「私もシュウ君のサッカーしてるとこ、見てみたいなー」
「私も見たい」
両隣のリアとユーも賛成してくる。
「鷲君なら大丈夫だよ」
「頼む、うちのケーキ奢るから」
「・・・サッカーなんてしたことないぞ」
翠屋のケーキで悩んだ挙句、仕方なく承諾する。
「大丈夫だ、君ならなんとかなる。じゃあ、こっちに来てユニフォームを来てくれ。ルールとかも簡単に説明するから」
士郎に連れられ、鷲はユニフォームに着替えた。
Side-応援組
鷲が移動して少しして、彼がフィールドに入ってきた。
「鷲くん、大丈夫かな?」
「サッカーの経験ないもんね」
「アイツなら大丈夫じゃない?」
「うーん、大丈夫かなー」
「鷲なら大丈夫、・・・だと思う」
なのは、すずか、アリサは鷲がサッカー未経験ということに心配しているが、リアとユーは鷲の力加減や行動に心配していた。
―ピーッ
そして、サッカー未経験の鷲をチームに入れた試合が始まった。
最初は他のメンバーがボールを回していたが、そのうち鷲にボールが回ってきた。
「ボールを前に蹴るんだ!」
チームの誰かがそう叫ぶ。鷲は言われたままにボールを前に蹴った。
―ポンッ
ボールは弧を描いて前にいた、味方に渡った。
「ナイスパス!」
それからチームでどんどん攻めていき、
―ピーッ
ゴールを決めた。
「やあ、いいパスだったよ、この調子で頼むよ」
鷲のパスを受け取った選手が声を掛けてくる。そして、試合がまた始まる。
「パス!」
味方選手が鷲にパスをしてきた。鷲は他の選手にパスを回そうとしたが皆マークされていた。
「・・・・・・」
どうするか悩んでいると、相手選手がボールを取りに来た。
「もらった!」
「・・・・・・」
しかし、ボールは相手に取られることはなかった。
「なっ」
鷲はボールを中に浮かせて避けたのだった。
「おお、こうすればいいのか」
鷲は一人で納得するとそのまま走り出した。
「止めろ!」
相手が鷲のボールを取ろうと迫ってくる。
「ほっ、お、おっと」
それを華麗に避けて、攻め入る。
「す、すごい」
「う、うん」
「アイツ、ほんとに未経験なの?」
呆気にとられるなのは、すずか、アリサ。
「シュウ君、なんでもできるね」
「・・・・・・」
リアとユーは改めて鷲のすごさに驚いた。
―ピーッ
そして、そのまま鷲がゴールを決める。同時に選手たちから歓声が上がった。
その後も試合が続き、サッカーをする鷲を見て、
「ほえー/////」
「かっこいいなあ、鷲君/////」
「け、結構やるじゃない/////」
「やっぱり、かっこいいなー/////」
「・・・・・・/////」
『いつもああだったらいいのにな/////』
その様子に見とれるなのは、すずか、アリサ、リア、ユー、真紅の六人だった。
―Side out―
―ピーッ
そのホイッスルの音で試合は終わった。結果は鷲の活躍もあって7-2で士郎のチームが勝った。
「はあ、無駄に疲れた」
鷲は見るからにダルそうに戻ってきた。そこには猫町、すずか、お転婆、リア、ユーが立っていた。
「お、おかえり、鷲くん/////」
「お疲れ様、鷲君/////」
「あ、アンタにしてはよくやったじゃない/////」
「シュウ君、かっこよかったよ/////」
「かっこよかった/////」
それぞれに労いの言葉をもらい、リアとユーからタオルとスポーツドリンクを渡された。
「おお、サンキュー」
鷲は渡されたドリンクを飲む。と、そこでお転婆が気づいた。
「アンタ、汗かいてないの?」
「あれくらいでかかないだろ」
「でも、結構動いてたよね?」
「猫町、お前と一緒にするな」
「にゃっ、そ、それはひどいのっ」
「でも、すごいね、あんなにボールを持って動けて」
すずかがどうしてという風に聞いてくる。
「まあ、似たようなことやったしな」
「へえ、そうなんだ」
そう、実は鷲は、猫町の魔法の訓練にたまに付き合ったりしてる。その際に、コントロールの練習で、魔力弾を使って空き缶のリフティングをしていた。それを見た鷲は暇だったので、魔力を使わずに足でリフティングをしていたのだ。
「さて、お待ちかねのケーキだな」
「鷲君はケーキ優先なんだね」
すずかが苦笑する。
「おーい、鷲君」
そこで、士郎に呼ばれた。これから翠屋に行くらしい。
「行くか」
鷲を始めとして他の五人もあとに続いた。
主人公にサッカーをさせてみた。力任せではなく、力の制御もできるんです。