「にー」
鷲の部屋の中で、真紅とラピスとリアの目の前には一匹の黒い子猫がいた。
『・・・・・・』
<・・・・・・>
「にー(なぜ、俺がこんな目に・・・)」
「ご、ごめんね、シュウ君」
そう、その黒猫は鷲だった。
『シュウ、言葉が通じないから念話で話してくれないか?』
《リアを恨んでやる》
「ほ、本当にごめんなさいっ」
《・・・いい、リアの天然には慣れた》
「うう」
こうなった経緯は数時間前に遡る。
<主様、私、人型になりたいです>
「『は?』」
休日の朝、早くに目が覚めた鷲は部屋でくつろいでいた。そして、ラピスの唐突な発言にこいつは大丈夫かと思った。
「こいつ大丈夫か?」
<思ったことを言わないでください!>
『なんで人型になりたいんだ?』
真紅は冷静にラピスに問いかけた。
<だって、この姿だと普段全然話すことができないじゃないですか>
『まあ、確かに』
<なので、人型になれば普通に話せますよね?>
『そうだな』
「んー、人型か・・・。モノを人型にするのはやったことないからなあ」
未知の領域なので渋る鷲。
<そこをなんとかお願いします>
「・・・いきなり人型は無理だ」
<そんなあ・・・>
鷲のできないという言葉に落ち込むラピス。
「まあ、小動物ならできそうだが」
<ホントですか!?>
「とりあえず、やってみるか。」
鷲は床に黒い魔法陣を展開した。そこに、指に魔力を込めて光の文字や線を書き足していく。
「こんなもんか」
書き終えた鷲は、ラピスを魔法陣の真ん中においた。
「よし、はじめるぞ」
鷲はドアの前にしゃがみ魔法陣に手をつける。そして、魔法陣が光を強める。しかし、その時―
―ガチャ
「シュウ君、ご飯できたよー」
部屋のドアが開いて、リアが入ってきた。
「きゃあっ」
リアは鷲がいつも寝ている時間なので、いつものように起こしに入ってきたのだ。しかし、今日は既に起きていて、ドアの前でしゃがんでいたので躓いてしまった。その反動で鷲は前に押し出された。
「なっ」
その瞬間、部屋の中を光が満たした。そして、冒頭に戻る。
『でもシュウ、すごく可愛いぞ』
<私がなれなかったのは残念ですが、主様のその姿はすごく可愛いです>
「うん。シュウ君、抱きしめていい?」
《こうなった原因が何を言ってるんだ?》
「うう、ごめんなさい」
<主様、元には戻れないんですか?>
《・・・明後日になれば戻れる》
「じゃあ、明後日までこのままなの?」
《そうなるな。とりあえず下に行くぞ、ご飯できたんだろ、腹減った》
『猫になってもぶれないな』
《それが俺だ》
鷲たちはリビングに向かった。
リビングに入ったら、ソファに座ってユーがテレビを見ていた。こちらを向くと黒猫の存在に気づいた。
「鷲?」
ユーは黒猫を見て、鷲だと言った。
《わかるのか?》
「うん、でもどうして?」
鷲は経緯を話した。
「そうなんだ、鷲、こっちに来て」
ユーは鷲に自分が座っているソファの横に来るように言った。
《なんだ?》
鷲は言われるがままにソファに乗った。すると、そのまま、抱き上げられた。
「ぎゅう」
《・・・・・・》
そして、抱きしめられた。
<ユーさん、なんて羨ましいことを!>
「いいなあ、ユーちゃん」
『・・・・・・』
《ユー、苦しい》
「もう少し」
それからしばらく、鷲はユーに抱きしめられていた。
あれからようやく開放してもらい、朝食を食べた。鷲は黒猫の状態でも人間のご飯を食べたが、あまり問題はなかった。
「鷲、今日はどうするの?」
「出かける」
「ええっ、危ないよ!」
《せっかく、猫になったんだし、それを満喫するのも悪くないしな》
「鷲らしい」
「で、でも、何かあったらどうするの?」
《ま、何とかなるさ。ユー、ドアを開けてくれ》
鷲はそう言うとユーにドアを開けてもらい外に出た。
《おお、いつもとは違う景色だ》
鷲は街中を歩いていた。普段見る景色と猫の姿になってみる景色は全く違って見えた。ちなみに、ラピスは付けていない。子猫の姿で付けると邪魔になるからだ。文句は言われたが、物理的に黙らせた。
『シュウ、感動するのはいいけど気をつけるんだぞ』
《わかってる、こういう刺激もたまにはいいな》
『なら、リアを許してあげろよ』
《・・・仕方ないな》
鷲は帰ったら、リアに何かしてやろうと思ったが、結局、抱かせてと言われそうだ。
そして、そのまま歩いていると、後ろから声が聞こえた。
「わあ、小猫さんだ」
なんか聞いたことがある声。後ろを向くとそこには猫町がいた。
「こんにちは」
猫に話しかけている猫町、これは痛い人ではないのだろうか。
(子供だからまだセーフなのか?)
「抱っこしても大丈夫かな」
《有料だぞ》
「ふえっ?」
突然聞こえた声にあたりをキョロキョロと見渡す猫町。
《何をキョロキョロしてる、ここにいるぞ》
「え?」
猫町は声の出処であろう場所を見る。そこには黒い子猫しかいない。
「えっと・・・」
《猫に話しかけるなんて、頭大丈夫か?猫町》
「え、猫町?も、もしかして、鷲くん!?」
街中で大声をあげる猫町。そんなことをすれば周りの注目を集めるのも当然だろう。
《注目の的だな》
「えっ」
猫町が周りを見るとクスクスと笑ったり、温かい目で見られたりしている。
「にゃあ!」
猫町は鷲を抱き上げてその場を去った。
《なぜ、俺を連れて行く?》
咄嗟の出来事だったが、自分が連れて行かれる必要がないと思った鷲。
「どうして、子猫なの?」
《念話を使え、また、温かい目で見られるぞ》
鷲の言葉に周りを見渡す猫町。どうやら、今のは聞かれていないようだった。
《どうして、猫の姿なの?》
《色々あったんだ、気にするな》
《そう言われると気になるよー》
《で、お前はどこかに出かけるんじゃないのか》
魔法に失敗したと言いたくないので、話題を変えることにした。
《そうなの、これから、すずかちゃんの家に行くところなの》
《へえ、気をつけていけよ》
《何言ってるの?鷲くんも行くんだよ?》
《は?》
いつの間にか勝手に自分も行くことになっていた。鷲は猫町を見上げる。
《・・・鷲くん》
《・・・なんだ?》
《撫でていい?》
《有料》
《うちのケーキ》
《・・・・・・許可する》
《やったー!》
猫町は鷲を撫でる。最近、ケーキで買収されることが多い気がする、気を付けよう。
《わー、すごい、ふかふかあ》
《撫でるだけと言っただろう》
撫でるだけではなく、頬擦りもしてくる猫町。
《固いこと言わないでよー》
《いいから、早く行くぞ》
《あれ、来てくれるの?》
《別に、お前の手を引っ掻いて逃げてもいいんだが?》
《や、やめてよ!》
二人?は月村家へと向かった。
「「可愛い!」」
着いた途端、すずかとお転婆にも撫でられた。
《・・・・・・》
《鷲くん、無言がすごく怖いの》
二人に無言で撫でられる鷲。その様子は猫町から見ればすごく怖いものだった。
「なのはちゃん、この猫どうしたの?」
「え?えっと・・・」
何か言い訳を考えている猫町。
《知り合いから預けられたと言え》
鷲は仕方なくフォローする。
「し、知り合いに預けられたの!」
「へえ、そうなんだあ」
「ああ、可愛いなー」
すずかはともかく、お転婆は黒猫姿の鷲にメロメロ状態だった。まず、お転婆に撫で繰り回された。
「にー《猫町、助けろ》」
撫で繰り回されるので、仕方なく猫町に助けを乞う。
《む、無理だよー》
《ちっ、使えないやつめ》
《うう》
「アリサちゃん、次、私も」
「うう、しょうがないわね」
そして、お転婆からすずかに渡された。
「うわあ、すごい、ふかふかー」
すずかにも頬擦りされた。その後膝の上に乗せられて、撫でられた。そして、さすがに複数の猫を飼っているだけあって、撫で方も上手かった。
「にー(くっ、やるな、すずか)」
猫状態の鷲はすずかの撫でテクニックに気持ちよさそうにしていた。
「む《鷲くん、気持ちよさそうだね》」
猫町が頬を膨らませて念話してくる。
《さすがに、猫を飼ってるだけあって撫で方が上手い》
撫でられて欠伸をする鷲。
「眠くなっちゃったのかな」
欠伸をしたのを見て、さらに優しく撫でるすずか。
《ダメだ、気持ちよすぎる、寝る・・・、Zzz》
鷲はそのまま寝た。
《ちょっと、鷲くん!?》
完全に寝てしまって念話をしても返事が返ってこなかった。
鷲が起きたのは夕方だった。起きると、猫町の姿がない。
『なのはなら途中で慌てて出て行ったぞ。あの様子だとジュエルシードだと思う』
「・・・・・・」
つまり、置いていかれた。
「えっと、なのはちゃん、この子を忘れてっちゃたんだけどどうしようか」
「とりあえず、すずかが預かっておけば?うちは犬がいるから無理だし」
「そうだね、明日、迎えに来てもらえばいいよね」
どうやら、今日ここに泊まることになったらしい。ユーに念話しておくか。
「じゃあ、またね」
「うん」
お転婆は帰ったようだ。
それから、ご飯を食べた。流石にキャットフードだったので牛乳をもらった。一晩くらいもつだろう。
だが、そのあとが問題だった。すずかが一緒にお風呂に入れようとするのだ。そうなると、真紅がすごく不機嫌になる。なので、逃げていたのだが、さすが、吸血鬼、すぐに追い込まれた。
そのまま、浴場へ連れて行かれた。まあ、子供の裸には興味がないからいいけど、真紅が不機嫌になるのは避けたかった。
案の定、風呂から上げると真紅が不機嫌になっていた。後で機嫌を取らなければいけない。
寝るときもすずかは鷲を離そうとせず、一緒に寝た。
今回と次回はオリジナルな展開