翌日、鷲は学校をサボって外を歩いていた。特に目的があるとかではなくて、あてもなくブラブラと街中を歩く。
「・・・・・・」
『・・・・・・』
鷲と真紅は昨晩の会話以降、何も話さなかった。真紅は鷲を信じると言ったが、やはり心の中では不安だった。そんな思いが表に出て話けれずにいた。
そんな思いを知ってか知らずか、鷲は川原の斜面を背に寝転がる。
「・・・暇だ」
鷲はそれだけ言うと空を眺めて始めた。
「オラッ、さっさと歩けよ」
しばらくすると、川原の方からそんな声が聞こえた。
「きゃんっ」
声の方向を見るとそこには子犬をいじめている四人の高校生くらいの不良学生たちがいた。高校生たちは犬に石を投げたり、空き缶を投げたりしている。
「・・・・・・」
そして、一人の高校生がダンボールを持ってきた。子犬をダンボールに入れて、川の方へ歩いて行った。おそらく、流す気だろう。動物好きな鷲から見たら、それは極刑ものだった。
「判決、私刑」
鷲は近くに落ちていた小石を拾って、ダンボールを持った不良の足元に投げた。
―ドオオン!
小石が地面に直径三メートルほどの穴をあけた。・・・・・・これでも相当手加減したほうだ。
「へっ?」
突然、足元に穴があいた不良は呆気に取られ、その場に立ち尽くした。他の不良も呆気に取られている間に鷲は彼らのもとへ歩いた。
「何してんの?」
「あ、あ?なんだガキ」
一人の不良が正気に戻って、鷲に気づいた。
「随分、楽しそうだな」
「ああ?ただの暇つぶしに決まってんだろ」
「へえ、お前ら暇なのか」
「なんだ、文句でもあんのか?」
「いいや、なら―――俺も混ぜろや」
鷲は低い声で言うと、目の前にいた不良を川へと投げた。
―ジャボンッ
その様子を見ていた他の不良も鷲を見た。
「てめえ、何しやがんだ!」
「お前らが暇って言うから、俺の暇つぶしに付き合ってもらおうかと思ってな」
「なめんじゃねえぞ、コラ!」
不良の一人が殴りかかってくる。鷲はそれを受け止めて、拳を砕いた。
「がああああ!」
その痛みに耐え切れず、不良は転がって泣き叫んでいる。
「・・・お前らは?」
鷲は残った不良二人を睨みつけると、悲鳴を上げて逃げていった。それを見て、川に投げられた不良も慌てて逃げ出し、拳を砕かれた不良も泣きながら去っていった。
「・・・つまんねえ」
鷲は子犬に近づく。
「・・・くぅん」
子犬はブルブルと震えて、怯えた目で鷲を見ている。
「・・・大丈夫だ、何もしない」
「くぅん(ほ、ほんと?)」
「ああ」
鷲はそっと近づくと子犬を抱き上げて撫でた。
「・・・・・・」
「くぅん」
撫でられて気持ちよさそうにしている子犬をよく見ると、体中に傷があった。さっきの不良どもにやられたのだろうか。
「我理を紡ぎて、癒しを与えん」
呪文を唱えると、子犬の傷が何もなかったかのように治った。
「あんっ(ありがとっ)」
「気にするな、お前、飼い主は?」
「あん(いない)」
「そうか。アテがあるんだが、行ってみるか?」
「あんっ(うんっ。ところでお兄さん、言葉わかるの?)」
「ああ」
「あん(へえ、すごいね!)」
「まあな」
鷲は子犬を撫でながら、そのアテの場所へと向かった。
―ピンポーン
鷲は大きな屋敷の門の前でインターホンを鳴らした。
『はい、どちら様でしょうか』
インターホンからは初老の男性の声が聞こえた。
「どーも、お宅のお転婆娘の同級生だ」
『黒沢様ですか、どうぞお入りください』
門が開いたので、鷲はそのまま中に入った。
「本日はどういったご用件でしょうか、お嬢様はまだ帰られていませんが・・・。おや、その子犬は?」
屋敷に入り、客間へと通された鷲はテーブルに座って執事と話す。
「こいつを飼ってもらえないか?」
鷲は膝の上に乗せた子犬を見せた。
「・・・何かワケありですかな?」
「いや、ただ単に犬の飼い主を探すのを考えたら、お転婆が思いついただけだ」
「そうですか、ですが、お嬢様は今は学校です。黒沢様はどうされたのですか?」
「サボった」
学校はどうしたと聞かれたので、即答した。
「お転婆が帰ってくるまで、待たせてもらっていいか?」
「はい、構いませんよ」
「じゃ、暇つぶしに付き合ってくれ」
鷲はお転婆が帰ってくるまで執事と時間を潰した。
執事と暇を潰していると、彼はお転婆を迎えに行くと言った。気づけばもう三時になろうとしていた。
執事と暇つぶしのために将棋やチェス、オセロなどをやっているとあっという間に時間が過ぎた。勝率は鷲の方が上だが、何回か負けてしまった。今までボードゲームなどで負けたことがなかった鷲は楽しさのあまり、夢中になってしまった。
気を抜けばそこを突かれ、崩されていく。一度でも油断したら、勝つことができないほど執事は強かった。
「・・・後で名前を聞くか」
鷲は執事とお転婆が帰ってくるのをコーヒーを飲みながら待った。
「なんでアンタがここに居るのよ!」
客間に入ってきてそうそう、お転婆は鷲の前のテーブルを叩いた。
「執事から聞いてないのか?」
「聞いたわよ!それより、どうして学校サボったアンタがここに居るのか聞いてるの!」
「だから、こいつを飼ってもらえないか相談に来た」
鷲は膝の上で大人しく眠っている子犬を撫でた。
「・・・その犬、どうしたの?」
「拾った」
「はあ」
お転婆は何かを諦めたように溜息をついた。
「アンタの家じゃ飼えないの?」
「まあ、飼えなくはないが、ちょっとな」
鷲の家でも飼えなくはない。ただ飼うとなると同居人二人が絶対甘やかすだろう。それはもう嫌という程に・・・。
「・・・いいわ、ウチで飼ったげる」
「おお、さすがお転婆、太っ腹」
「ただし!条件があるわ」
「ところで、あんた名前なんていうんだ?」
鷲はお転婆の条件があるという言葉を無視して執事に話しかけた。
「鮫島と申します」
「・・・鮫島ね」
「聞きなさいよ!」
またもやテーブルを叩くお転婆。その音に眠っていた子犬がビクッとした。
「大きな音を出すな、コイツがびっくりするだろ」
「う、ご、ごめんなさい」
「で、条件って?」
「・・・・・・」
お転婆は鷲を睨むが、鷲はどこ吹く風で気にしなかった。
「あ、アタシの護衛をやりなさい」
「・・・・・・」
なんの冗談かと半眼でお転婆を見る鷲。
「じょ、冗談とかじゃないわよ。最近、外に出ると監視されてる気がするのよ」
「・・・監視、ねえ」
「ほ、ホントなんだからー!」
必死に訴えてくるお転婆。
「別に疑ってるわけじゃねえよ、お前、金持ちだし狙われる理由なんざ山ほどあるだろ」
「・・・なんかその言い方は嫌だわ」
「で、なんで俺なんだ?」
「・・・だってアンタ、なのはのお兄さんを倒しちゃうくらい強いじゃない」
「あのシスコンより強い奴なんて沢山いるぞ」
「それでもよ、アンタの歳でそこまで強い奴なんていないわよ」
「どうだろうな」
「黒沢様」
お転婆と話していると、鮫島が入ってくる。
「私からもお願いします。私もいつも迎えに行けるわけではありません、学校にいる間と私がいない時の帰り道だけでもお願いできませんか?」
「小学生に頼むなんて正気か?」
「はい、私から見てもあなたは十分強い。見てはいませんが、私の目もまだ濁ってはいないはずです。何より、お嬢様のご希望ですから」
「鮫島っ」
鮫島の最後の言葉に怒鳴るお転婆。
「ま、いいぞ」
「ホントに?」
「いいのですか?」
本当にいいのかと聞いてくる二人。
「やらないとこいつを飼ってもらえないんだろ?いつまでやればいい?」
「監視の目がなくなるまでよ」
「あいよ、じゃ、明日からでいいか?」
「ええ」
「じゃ、今日は帰るわ。こいつ、よろしくな」
「くぅん(行っちゃうの?)」
子犬をお転婆に渡すと、子犬が寂しそうな声を出す。
「ああ、たまに会いに来るからな」
鷲はお転婆に抱えられた子犬を撫でる。
「あん(わかった、待ってるね?)」
「ああ。お転婆、こいつの名前、まだ決めてないからつけてやってくれ」
「いいの?」
「ああ、変な名前にするなよ?」
「しないわよっ」
「ま、任せるわ、じゃあな」
そう言って鷲は屋敷を出た。
とりあえず、子犬を拾ってみた。