翌日、鷲は学校に来ていた。昨晩、猫町をアースラまで送り届けると、
―「じゃ、俺いなくても良さそうだし、帰るわ」
と言って、家に帰った。後ろから、猫町がなにか騒いでいたが、気にせず帰った。何より、今日からお転婆の護衛もしなくてはならないからだ。
「はあ」
「アンタ、なのはのこと何か知らないの?」
席に座って溜息をつく鷲にお転婆が話しかけてくる。その隣にはすずかもいた。
「さあ」
「真面目に聞いてるの!」バンッ
お転婆は鷲の机を叩き、憤る。
「落ち着いてアリサちゃん。鷲君、本当に何も知らないの?」
「ああ」
「むーっ」
お転婆が唸りながら睨んでくる。正直、全然怖くない。
「ほら、ホームルーム始まるぞ」
チャイムが鳴り、ホームルームが始まった。ホームルームでも教師が猫町の欠席の理由を話していたが、はっきりとしたことは言わなかった。
「じゃ、帰るわよ」
放課後、お転婆が鷲の席に来て言った。
「あれ?鷲君の家ってアリサちゃんの家の反対方向じゃなかった?」
傍にいたすずかが疑問を言ってくる。
「まあ、色々あってね、しばらく護衛をやらせることになったのよ」
「護衛?大丈夫なの?」
何かあったのかと意味を込めてお転婆に尋ねる。
「大したことじゃないわ、念のためよ」
「そうなんだ。無理しないでね?」
「わかってるわよ。さ、校門まで一緒に行くわよ」
「うん」
そして、鷲たちは校門まで一緒に歩いた。
校門ですずかと別れてから、鷲とお転婆は歩いて帰っていた。今日は鮫島がお転婆の父親についていくとかでいないらしい。普段はそれでも迎えが来るのだが、今日は歩きたい気分だと言って、歩いて帰っている。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
歩いている間、二人は無言だった。鷲は無言でも一向に構わないのだが、お転婆はそうでもないらしい。チラチラと鷲を見ている。
「・・・・・・」
「ちょっと」
そうしてしばらく歩いていると、痺れを切らしたお転婆が話しかけてきた。
「なんだ?」
「なんか話しなさいよ」
「今日はいい天気だな」
「・・・・・・」
無言で睨んでくるお転婆。お気に召さなかったらしい。
「何を話せって?」
「・・・そうね、アンタのことを話しなさい」
「俺の?」
「ええ、アタシ、よく考えたらアンタのこと何も知らないわ」
「知ってたら怖いな」
「だからよ。普段だって、アンタが何考えてるかもわからないし」
「特に考えてないな」
「それに、なのはは猫町って苗字っぽく呼んでるし、すずかは名前で呼ぶし」
「すずかとはちょっと面白いことがあってな、猫町は・・・・・・忘れた」
「・・・面白いことって何よ」
「ロマンだな」
「ロマン?」
「ああ」
「・・・いいわ、話す気ないんだろうし」
「まあな。さて、お転婆」
「何よ?」
「囲まれたぞ」
「え?」
鷲の言葉に周りを見渡すお転婆。すると、道の角や物陰に何人かの人が隠れているのがわかった。
「・・・どうすんのよ」
ギュッと鷲の服を掴むお転婆。
「どうして欲しい?」
「アンタ、こんな時に―「よう、ガキども。ちょっと来いや」」
お転婆の言葉を遮って、一人の男が話しかけてきた。
「っ」
お転婆は服を握る力を強くした。それに、微かに震えている。
「な、何よ、アンタたちは!」
震えながらも声を張るお転婆。若干涙目な気もする。
「あんたらが最近、お転婆を覗いてた奴らか?」
「覗きじゃねえ、監視だ」
「うわ、ロリコンだ」
「ロリコンじゃねえ!いいから、こっちに来い!」
男は鷲の襟を掴んで、お転婆ごと車に乗せた。
しばらく走ると、どこかの廃墟についた。鷲とお転婆は手足を縛られ、口も塞がれていた。
「ついたぞ、降ろせ」
男が指示を出すと、他の男たちが鷲とお転婆を廃墟の中へ運んだ。
「連れてきました」
廃墟の一室に入るとそこには高そうなスーツを着たおっさんがいた。その横には、二メートルはあるであろう大男が彼を守るように立っていた。
「ご苦労」
スーツのおっさんは連れてきたやつらに一声かけるとこちらに近づいてきた。
「ふむ、どうやら、いらぬおまけもついてきたみたいだな」
「すいません、一緒にいて面倒なので、連れてきました」
「その選択は間違いじゃない。通報されるからな」
「・・・女のガキは大事な人質だ、何をしてもいいが殺すな。そっちのガキは殺して構わん」
そして、その男と大男は部屋を出た。
「んー!」
その言葉にお転婆は暴れた。
「うるせー!黙ってろ!」
近くにいた男はバシッとお転婆を殴った。
「ん、ん」
その衝撃にお転婆は気を失ったようだ。
(・・・さて、お転婆も気絶したし、やるか)
鷲は手足を拘束していたものを容易に引きちぎった。
「なっ」
男たちがその様子に驚いた顔で鷲を見た。
(・・・十人か)
「このガキ!」
一人の男が鉄パイプで鷲を殴りにかかった。
「うざい」
「ぐはっ」
鷲は鉄パイプを受け止めてそのまま男を壁に叩きつけた。
「な、何しやがる!」
他の男たちも鉄パイプを持って、鷲に襲いかかった。
「黙れ」
「がっ」
「邪魔」
「ぐっ」
「うせろ」
「があっ」
迫り来る男たちを鷲は難無く殴り飛ばした。
「で、あんただけど」
「ひいっ」
鷲はお転婆を殴った男を見据えた。
「子供に手を上げるのは屑のすることだ。反省しな」
「ひいいい!」
鷲はその男に生きているのが辛くなるくらいの痛みを味あわせた。
―キイィ
そこで、錆び付いた扉が音を立てた。
「ん?なんだこれは」
さっきのスーツの男と大男が戻ってきた。
「ゴミ掃除しただけだ」
「お前がやったのか?」
男は辺りを見渡すが鷲以外に立っている人間はいない。
「さあ?味方割れかもよ?」
「・・・・・・ジェイク」
「・・・・・・」
ジェイクと呼ばれた大男はスーツの男の言葉に頷き、鷲に近づく。
「・・・・・・」
「おっさん、無駄にでかいな。まるで木偶の坊だな」
「ふんっ」
大男はその人の頭一つ分はありそうな拳を鷲に振り下ろした。
「おっと」
「はあっ」
後ろに下がって避けた鷲に、大男はそのまま拳を突き出してきた。
「よっ」
それも軽々躱す鷲を見て、大男は鷲を睨んだ。
「・・・・・・」
「当たんなきゃご自慢の筋肉もただの肉だな」
「おおおっ」
「もう飽きたぜ、おっさん」
再び殴りかかってくる大男の拳を鷲は片手で止めた。
「なっ」
「なんだとっ」
それには大男だけではなくスーツの男も驚いた。
「せっかくだし、力比べでもするか?」
「っ」
大男はそのまま鷲を押しつぶそうとするが、鷲はビクともしなかった。
「はあ、つまんねえ」
鷲はそう言うとそのまま片手で大男を持ち上げた。
「なっ、馬鹿な!」
「お、まともに喋れるんだな」
鷲はニヤリと笑うと大男をスーツの男の方へ投げ飛ばした。
「ひっ、来るなっ」
スーツの男は逃げようとするが、それよりも大男が飛んでくる方が早かった。
「ぐはっ」
「がっ」
そして、二人は倒れた。
「・・・・・・」
鷲はそれを見ると、気絶しているお転婆に近づいた。
「ちょっと、腫れてるな」
お転婆の頬が赤く腫れていた。子供には相当痛いだろう。
「我理(ことわり)を紡ぎて、癒しを与えん」
鷲は癒しの呪文を唱えて、お転婆の傷を治した。
「ん、んー」
すると、お転婆が目を覚ます。
「あ、あれ?」
「寝ぼけてんのか」
「あ、アンタ。・・・そうだ、アイツ等は!」
ガバっと起き上がって辺りを見るお転婆。その視界には倒れた男たちの姿が映った。
「え、なにこれ」
「どっかのレンジャーが悪者を倒していった」
「馬鹿言ってんじゃないわよ!」
「・・・・・・」
これだけ元気ならもう大丈夫だろう。
「・・・アンタ、怪我は?」
「あるように見えるか?」
「・・・いつものアンタで安心したわ」
「さいで」
「うっ、うう、くそ、がき、がっ」
話しているとスーツの男が目を覚ました。
「アイツ、まだ」
「殺してやるっ」
男は懐から銃を取り出すとこちらに向けた。狙いは鷲ではなくお転婆に向けられている。
「ひっ」
その恐怖にお転婆はその場に立ち尽くしてしまった。
「死ね!」
―パンッ
乾いた音が部屋に響いた。死を覚悟したお転婆も目を瞑って死を覚悟した。
しかし、痛みはやってこない。恐る恐る目を開けると何かが視界を遮っていた。それを理解するのにさほど時間はかからなかった。
「・・・しゅ、鷲?」
「・・・・・・」
鷲の肩からは血が流れて、床に滴り落ちていた。
「ははは、はははははっ」
スーツの男は狂ったように笑い出した。
「・・・・・・」
鷲は無言で男に近づき、
「くたばれ、クズが」
そう言って、男を蹴り飛ばした。男は壁を突き破って、建物の奥へと飛んだ。お転婆はそれを呆然と見ていた。
「・・・さて、帰るぞ」
鷲の言葉にハッと我に帰るお転婆。
「帰るぞじゃないわよ!アンタ、怪我してるじゃない!」
お転婆は慌てた様子で鷲に近づき、ポケットからハンカチを出して止血した。
「ハンカチ、汚れるぞ」
「バカ!そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
お転婆は涙目になって必死に止血しようとしていた。
「これくらい大丈夫だ」
鷲はポンと血で濡れていない方の手で頭に手を置く。
「大丈夫なわけ、ないでしょっ」
既に、涙目だった目からは涙がこぼれ落ちていた。
「とりあえず、迎えに来てもらえ」
「わ、わかったわ」
お転婆は泣きながら携帯電話で連絡する。電話で止血の方法を聞いたのか、お転婆が応急処置をしてくれた。
「ありがとな」
「こ、こんなの、どうってことないわよっ、それより、外に出るわよ」
お転婆は照れながらも、鷲に連れ添って外に出た。
あれから、鷲はそのままバニングス邸に来た。応急処置はしたとは言え、銃で撃たれてそのままにしておけなかった。なので、ちゃんとした処置をするために屋敷に連れて来られた。
「まだ痛む?」
「いや、全然」
そして、鷲とお転婆は客室にいた。
「そう、痛くなったら言いなさい」
「・・・・・・」
鷲は急にしおらしくなったお転婆を見つめた。
「な、何よ」
「いや、しおらしくなったなと」
「っ、う、うるさいわねっ」
「別にお前が責任を感じる必要はないぞ?」
「っ」
鷲の言葉にビクッと体を硬直させるお転婆。
「それに、護衛に怪我は付き物だろ」
「でもっ」
「でもはなし、護衛をやる時点でこうなるのは覚悟していた」
「・・・・・・」
「それでも気にするなら、高級スイーツで許してやる」
「・・・・・・」
鷲の言葉に呆気にとられるが、それは溜息に変わった。
「アンタってそう言う奴よね」
「単純だろ?」
「ええ、単純で複雑」
二人はしばらく、話して過ごした。
余談だが、帰り際にお転婆の両親に会い、事情を知った二人は
「どうだ、家の婿に来ないか?」
「あなたなら大歓迎よ?」
と言われた。それを聞いたお転婆は顔を真っ赤にして、親に反感していた。
アリサルート・イン!