Side-フェイト・テスタロッサ
「シュー・・・」
シューが母親のプレシア・テスタロッサと一緒に虚数空間に落ちてしまった。虚数空間に落ちたら、魔法が発動せず二度と出てこれない。
「う、うう」
フェイトはあまりの悲しさにボロボロと涙を零していた。
「フェイト!早く逃げるよ!」
アルフは崩壊していく城の中、必死にフェイトに呼びかける。
「・・・シュー、母さん」
しかし、アルフの叫びも耳に入らず、ただ、二人が落ちた場所を見ていた。
―ドオオオンッ
音を立てて落ちてきたのは巨大な石の塊だった。その石の塊は運悪く、フェイトのいる場所に落ちてきた。
「フェイト!」
石が落ちてきたことで、フェイトのいる場所が崩れることはなかったが傾いてしまった。
「(このまま落ちたら、二人に会えるかな)」
フェイトはそんなことを思いながら、ただ虚数空間を見ている。
―ドオオオンッ
そこで二回目の大きな音が聞こえた。
「フェイトちゃん!」
そこから現れたのは白い魔導師の子。空中から手を差し伸べている。
「掴まって!」
「・・・・・・」
しかし、フェイトは手を取るかどうか迷った。
―このまま自分は生き延びていいのだろうか
そんなこと思った。
そして、フェイトがいる場所が今にも崩れ落ちそうになった。
「フェイトちゃん!」
「っ」
フェイトは立ち上がって白い子を見る。
「(そうだ、こんなところで私は死ねない。私はここから始まるんだ)」
フェイトはギュッと手を握り締める。
「(それに、シューだって大丈夫だって言ってた。だから、絶対戻ってくる)」
虚数空間に落ちていったシューを信じて、生きて始めることを決心したフェイトはその場から飛ぼうとした。
「っ」
しかし、フェイトがいた場所が揺れて飛ぶことができずに座り込んでしまった。
「フェイトちゃん!」
「っ」
フェイトはここまでかと諦めかけた。
「なんだ、親子揃って諦めが早いんだな」
「え?」
そんな声が聞こえてきた。
Side out
「なんだ、親子揃って諦めが早いんだな」
「え?」
目の前に現れたのは少女を抱え、女性がしがみついた少年だった。
「・・・・・・」
それを見たテスタロッサは驚きに目を見開き、次には泣いていた。
「シューっ」
「おう。ほらとりあえずここから出ろよ」
「で、でも」
「つべこべ、言うなっ」
鷲は言葉と同時にテスタロッサを猫町のもとに投げた。
「えええええ!」
突然テスタロッサを投げられた猫町は声を上げて驚くも、なんとか掴んだ。
「ふう、オレンジ狼!こいつらを頼む!」
次に鷲はオレンジ狼に声をかけ、テスタロッサ母とテスタロッサ姉?を運ばせた。
「よし、じゃ、お前ら先に行っててくれ」
そう言うと、鷲は城の中へと消えていった。後ろから叫び声が聞こえるが気にしない。
「ここでいいか」
鷲が来たのは崩壊がまだきていない広間だった。
「ラピス」
<Yes>
ラピスが出したのは最後のジュエルシードだった。
鷲はジュエルシードを手に取り願った。
「すべてのジュエルシードよ、ここに集まれ」
ジュエルシードは光りだし、鷲の周りにすべてのジュエルシードが集まった。
「ジュエルシードよ、本来あるべき姿に戻れ」
鷲が唱えると、二十一個のジュエルシードは一つになり、テニスボールくらいの球体になった。
「これがジュエルオーブ・・・」
鷲が図書館で見つけたジュエルシードの本当の使い方とは、二十一個のジュエルシードを一つにして使用するというものだった。一つになったジュエルシードは歪んだ形で願いを叶えることはない。しかし、願いが叶えられるのはたった一度だけ、それ以降は元のジュエルシードに戻り、二度と一つになることはない。
「これで真紅を・・・」
鷲は最初からこれが目的だった。猫町やテスタロッサ、管理局にジュエルシードを集めさせて最後に一つにして願いを叶える、悪く言えば横からかっさらうことだった。
『・・・・・・』
真紅は鷲の行動をただ黙ってみていた。
「真紅、やっとお前を解放できる」
鷲は真紅を見た。
『・・・シュウ』
「なんだ?」
『願いを叶えられるのは一回だけなんだよな?』
「そうだ、叶えたらもうこの姿になることはない」
『・・・・・・』
真紅は少しの間俯いたが、意を決したように顔を上げる。
『シュウ、それはあの子のために使ってくれないか?』
「・・・・・・」
『やっと、あの親子は幸せになれたんだ。だけど、その中にあの子がいないというのは可哀想だろ』
「・・・・・・」
『だから、頼むっ』
頼み込む真紅をしばらく見ていた鷲が口を開いた。
「・・・お前は本当にそれでいいのか?」
『・・・ああ』
「お前はせっかくのチャンスを他人の為に使うのかっ」
鷲の叫ぶような声に、真紅は驚くが意志は変わらなかった。
『ああ』
「・・・・・・」
『それに今の状態も気に入っているんだ。いつもシュウといられるしな』
はにかむ真紅を見て、鷲は無言で壁に近づき、拳を振り上げた。
―ドオオォォオオン!
鷲は壁を殴りつけた。
『シュウ・・・』
「・・・今回だけだ。次は必ずお前を生き返らせる」
『ああ、ありがとうシュウ』
真紅は微笑んだ。
「ジュエルオーブ!あの子を蘇らせろ!」
鷲が願った瞬間、ジュエルオーブは光り輝いた。光は一つの球体となり空へと飛んでいった。
残ったのは再び二十一個に戻ったジュエルシードだった。
「・・・・・・」
『・・・・・・』
<主様、早くここから出ましょう>
無言になった鷲にラピスが話しかけた。
「・・・・・・」
鷲はただ無言で歩き出した。
<ジュエルシードは回収して、管理局に戻しておきます>
鷲は時の庭園から転移した。
鷲がアースラに入るとちょうど中二とよく一緒にいる女性局員が通りかかった。
「あ、シュウくん!大変だよ!」
「・・・・・・」
鷲は黙って話を聞いた。
「アリシアちゃんが生き返ったんだよ!」
「・・・・・・」
「とにかく、シュウくんは部屋に行ってて!」
鷲は何も言わず、とりあえず部屋に向かった。
「アリシア!」
部屋の前に着くと中からテスタロッサ母の泣き声が聞こえてきた。扉が開いていたので中を覗くと、ベッドにはアリシアと呼ばれた少女と彼女を抱きしめて泣いているテスタロッサ母、他には猫町、テスタロッサ、女顔、オレンジ狼、中二、艦長殿がいた。
「あ、鷲くん!」
ただ見ていると振り返った猫町が鷲に気づいた。
「え、シュー?」
猫町を始めテスタロッサたちもこちらに振り向く。
「シュー!」
鷲に気づいたテスタロッサは鷲に抱きついた。
「よかった、無事で」
テスタロッサの目には涙が溢れていた。
「聞いてよ、鷲くん、アリシアちゃんが生き返ったんだよ!」
猫町が興奮した様子で鷲に話しかける。
「・・・みたいだな」
「すごいよね、奇跡ってあるんだね」
「っ」
猫町の言葉に鷲は我慢できずにテスタロッサを離して、そのまま部屋を出て行った。
「シュー?」
「鷲くん?」
それを見て部屋にいたメンバーは呆然としていた。ただ、テスタロッサ姉だけが首を傾げていた。
『シュウ、ゴメンな』
部屋を出て一人になったところで真紅は鷲に話しかけた。
「・・・お前のせいじゃない、誰のせいでも、ない・・・」
「シュウ・・・」
悔しがる鷲を真紅はただ見ているだけしかできなかった。
<主様・・・>
Side-高町なのは
「鷲くん、どうしちゃったんだろう」
突然部屋を出ていってしまった彼のことを気にかける面々。
「わ、私が抱きついちゃったからかな・・・」
自分のせいかもと思うフェイト。
「鷲くんはあれくらいで怒らないから大丈夫だよ」
落ち込むフェイトを慰めるなのは。
「でも、どうしてかしらね。普段の態度と全然違うわ」
「確かに、人が生き返ったと聞いたらすぐに飛びつきそうなのに」
付き合いが浅いリンディやクロノにまで違いがわかるのだから、相当なものだろう。
「一体どうしたんだろうね」
「・・・もしかしたら、シュウは何か知ってるのかも」
皆が心配する中、ユーノが可能性を口にする。
「わたし、ちょっと見てきます」
なのはは鷲を探して部屋を出た。
Side out
「はあ」
鷲は飲み物を片手に椅子に座っていた。
「・・・・・・」
特に何をするでもなく、ずっと天井を見ていた。
そこに小さな足音がこちらに近づいてくるのが聞こえた。
「あ、ここにいたんだ」
現れたのは猫町だった。
「・・・・・・」
「いきなり出てっちゃうからビックリしちゃった」
そう言いながら、鷲の隣に座る猫町。
「何かあったの?」
「・・・別に」
「そっか、言いたくないならいいんだけど・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
しばし無言になる二人。次に口を開いたのは猫町だった。
「ねえ、鷲くん」
「・・・・・・」
「わたし、昔鷲くんに助けられたことがあったでしょ?わたしが寂しくて公園で一人でいたら翠屋に連れてって話し合えって言ってくれたよね」
そんなことがあったかもしれない。ただ、他人に興味がない鷲はあやふやな記憶だった。
「あの時、わたしたち家族は鷲くんに救われたんだ。だから」
そう言って、猫町は鷲の手を握る。
「だから、今度はわたしが鷲くんの力になりたい」
決意を持った目でしっかりと鷲を見る猫町。その目は何にも揺るがないものだった。
「・・・・・・」
「今、話してくれなくてもいいの。けど、いつか話してね」
それだけ言うと、猫町は部屋に戻っていった。
「・・・・・・」
猫町はいい奴だ。話したくないことは無理に聞かない、今回はそれが助かった。鷲はそれからしばらく黄昏ていた。
久々にラピスが登場。ジュエルシードのオリジナル設定作ってみました。次かその次が無印編終わりかな