自由なチート暇人   作:sakuya-syu

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第53話

―クリスマスイヴ―

 

「よう、来てやったぞ」

 鷲は学校をサボってタヌ子のお見舞いに来ていた。

「あ、鷲君」

 鷲が部屋に入ると、タヌ子はベッドの上で読んでいた本から顔を上げる。

「まだお昼やけど、学校は?」

「サボった」

「相変わらずやね」

 タヌ子は苦笑いをして本を閉じた。鷲はまあなと言いながら椅子に腰掛ける。

「今日はアイツ等はいないのか?」

「うん、ちょっと出かけてんねん」

「そうか。ほら、見舞いの品だ」

 鷲が取り出したのはりんごやバナナ、ぶどうが入った果物セットだった。

「何食いたい?」

「んー、じゃありんご」

 鷲はりんごを取り出す。

「ナイフは?」

「あ、そこの引き出しの中や」

 鷲は言われた場所からナイフ、ついでに皿とフォークを取り出してりんごの皮をむき始める。

「ほら、できたぞ」

 そこにいたのはうさぎだった。しかし、ただのうさぎではない。普通はりんごの皮にブイ字の切れ目を入れてうさぎに見せるものだが、鷲が作ったのはうさぎの形をしたものだった。

「・・・なあ、鷲君?」

 それを見たタヌ子は固まっていたが、少しすると鷲に目線を合わせた。

「なんだ?」

「これ、鷲君がやったん?」

「他に誰がいる」

「せやけど・・・。これはもったいなくて食べられへんわ」

「気にするな」

「うう、食べるのに罪悪感が・・・」

 そう言いつつも、タヌ子はシャリっとそのりんごを食べた。

「こうしてまた一つ、命が散っていくのだった」

「ゴホッゴホッ、意地悪せんといてえな」

「それ以外に何をしろと?」

「他にもあるやろ!」

「例えば?」

「た、例えば、・・・そうっ、あーんとか」

「あーん」

 鷲はりんご(今度は普通に切った)を、フォークに刺してタヌ子の口に持っていく。

「うっ、す、少しは抵抗ないんか?」

 鷲が抵抗なくあーんをするのに対して、戸惑うタヌ子。その頬は少し赤く染まっている。

「別に食わせてやるくらい慣れてるからな」

 主に同居人で。たまに同居人が甘えてきて、飯の時にあーんをしたりする。他にもあるが、今はいいだろう。

「ほら、早くしろよ」

 ニヤニヤと笑いながらりんごを向ける鷲。

「(あ、あかん、完全に自爆や・・・)」

 タヌ子はどうしようかとしばし考えるが、覚悟を決めた。

「あ、あーん」

 シャリっと音を立てて、タヌ子はりんごを食べる。

「お、おいしいな」

「そうか」

「そ、それじゃあ」

 タヌ子は皿の上のりんごを一つフォークで刺す。それを鷲の口元に持っていく。

「あ、あーん」

 恥ずかしそうにするタヌ子は心なしか手が震えている。

「ん」

 鷲はそれをためらいもなく食べた。

「むー」

 それを見たタヌ子は不満そうに唇を尖らせる。

「なんだ?」

「別に。ただ、もう少し照れてもええやない?」

「慣れてるし」

「ぶーぶー」

 ブーイングをするタヌ子だが、鷲はどこ吹く風と自分でもりんごを食べている。

 

 

「っと、そろそろか」

 しばらくすると鷲は時計を見た。時刻は五時になろうとしている。

「もう帰るん?」

「ああ」

「そうか・・・」

 見るからに落ち込むタヌ子。

「そろそろあいつらも来るから落ち込むな」

「あいつら?」

「ああ。ん、噂をすればだな」

 病室の外から複数の話し声が聞こえてきた。この部屋の前で話し声が止むとノックの後に扉が開く。

「こんばんは」

「「「「こんばんはー」」」」

 入ってきたのはすずかをはじめとするいつもの五人だった。その後ろには弥生もいる。

「いらっしゃい!」

 突然の訪問にタヌ子も驚き、喜んでいた。

「なんでアンタがここに居るのよ!」

 いつものパターンというか、アリサが鷲に突っかかってくる。

「こいつのお見舞い」

「ならアタシたちと来ればいいじゃない」

「この後は用事があるんだ、じゃあな」

 鷲は部屋の外へと向かう。そこで弥生と目が合う。

「で、どうすんだ?」

「・・・行かせてもらうわ」

「そうか」

 他には聞こえないような声で短い会話だった。

「じゃあな」

 最後にタヌ子に挨拶をする。

「うん、今日はありがとうな」

 それを聞くと鷲は外に出た。

 

 

「ただいま」

「おかえり」

 家に着くと鷲はそのまま今日の夕飯を作りにキッチンに入った。ユーはテレビを見ながらお茶を飲んでいる。

「リアはまだか?」

「まだ帰ってきてない」

「そうか、ならさっさと作るか」

 鷲は夕飯を作り始める。今日はクリスマスイヴなのでいつもより豪勢に作る。後は昨日作ったスポンジケーキに生クリームなどのトッピングをする。それに今日は紅姉妹も来るので量も少し多めだ。

「ただいまー」

 作っている途中で、リアが帰ってきた。

「おかえり」

「ただいまユーちゃん、シュウ君も」

「おう」

 リアは一度リビングに顔を出すと着替えに自室に行った。

「何か手伝う?」

 私服に着替えたリアは手伝いにキッチンに来た。

「もう終わるから皿を出しといてくれないか?」

「うん、わかった」

 リアは皿をテーブルに並べる。その間に鷲は料理を作り終え、テーブルに持っていく。

「・・・・・・」

 そして、感じる魔力。かなり大きく、邪悪なものも感じられる。最初はヴォルケンリッターと猫町たちの魔力反応だったので放っておいたが、ヴォルケンリッターの反応が消えて代わりに別の魔力反応を感じた。

「リア、ユー」

 鷲がリアとユーの名前を呼んだだけで、二人は察した。

「ちゃんと帰ってきてね?」

「気をつけて」

「おう、遅くなったら食べてていいからな」

 それだけ言うと、鷲は家を飛び出した。

 

 

『シュウ、なんか嫌な感じがする』

 魔力反応の場所に向かっている途中、真紅が言う。

「ああ、これは魔族か?」

 魔力反応の他に何か邪悪な力も感じる。それは魔族の力と似ている。

『それだけじゃない気がする』

「闇の書か」

 闇の書、元は夜天の魔導書と呼ばれ、改変されて闇の書と呼ばれるようになった。詳しい説明は省くが、簡単な話、持ち主を死に至らしめ、世界を破壊するものだ。

「とにかく急ぐぞ」

『ああ』

 

 

 鷲が結界内に入るとそこには猫町とテスタロッサが銀髪の女と退治していた。銀髪の女の左腕には棒状のものが盾のようなものに覆われてくっついていた。

「あれがナハトバールか」

 闇の書の闇、それがナハトバール。

「咎人たちに、滅びの光を」

 そんな声が銀髪から聞こえてきた。銀髪の女が手を掲げると魔法陣が展開される。

「ちっ」

 それは猫町のスターライトブレイカーだった。

<主様!近くに一般市民の反応が!>

「なんだと?」

 辺りを見渡すとそこには五人の少女の姿があった。

「あいつら」

 そこにいたのは紅姉妹、テス姉、アリサ、すずかだった。魔力がある紅姉妹とテス姉はまだわかる。しかし、なぜかそこにはアリサとすずかもいる。

「三人に巻き込まれたか?」

<主様、あそこは危険です!>

 ラピスの言葉に銀髪の女を見る。先には巨大な魔力球が生成されていた。

「くそっ」

 鷲は五人のところに向かった。

 そこには五人の他に猫町とテスタロッサもいた。

「―スターライト、ブレイカー―」

 そこで銀髪がスターライトブレイカーを放つ。

《フェイトちゃん、アリサちゃんたちを!》

《うん》

 テスタロッサのデバイスから薬莢が出る。

「二人とも、そこでじっとして」

 テスタロッサは二人の周りにシールドを張る。そして、二人の前で彼女が魔法陣を展開した。

「レイジングハート」

 同じく猫町のデバイスからも薬莢が出て、シールドを展開する。

 

「しゃらくせえええええ!!!」

 

 彼女らが桃色の光に包み込まれる瞬間、鷲はそれを右手で思いっきり殴りつける。

「えっ、鷲くん!?」

「シュー!」

 猫町とテスタロッサは鷲を見て驚くが、スターライトブレイカーと鷲の拳がぶつかり合ってできた衝撃波を耐えるのに精一杯になってしまった。

 衝撃波が止む。スターライトブレイカー自体は鷲が打ち消したので衝撃波を耐えるだけで済んだ。

「もう、大丈夫」

「すぐ安全な場所に運んでもらうから、もう少し、じっとしててね」

 テスタロッサと猫町が弥生たちに話しかける。

「なのはちゃん、フェイトちゃん、それに鷲君」

「ねえ、ちょっと!」

「お兄さん、その腕!」

 すずかやアリサ、卯月が何か言いたそうにしていたが、足元にできた魔法陣に驚いている間に転移させられていた。

「鷲くん、その腕!」

 卯月に言われて猫町も気づいた。鷲の右腕はボロボロになって、血まみれになっていた。

「すぐに治療しなきゃっ」

 テスタロッサが鷲に駆け寄る。

「気にすんな、これくらいすぐ治る」

「シュー・・・」

 心配そうに見つめるテスタロッサだが、鷲はそれを気にせずに銀髪の女と向き合った。

「それより、あいつらを守らせろよ」

「え、あ、うん、そうだね」

 猫町は戸惑いながらも頷いた。

《ユーノくん、ごめん、みんなを守ってあげてくれるかな?》

《アルフもお願い》

 二人はイタチもどきとオレンジ狼に念話を送る。

《なのはちゃん、フェイトちゃん、クロノ君から連絡。闇の書の主に、はやてちゃんに投降と静止を呼びかけてって》

 二人は向き合い頷く。

《はやてちゃん、それに闇の書さん。止まってください!ヴィータちゃんたちを傷つけたの、わたしたちじゃないんです!》

《シグナムたちと私たちは!》

「我が主は、この世界が、自分の愛する者たちを奪った世界が、悪い夢であってほしいと願った。我はただ、それを叶えるのみ。主には穏やかな胸の内で、永久の眠りを」

 銀髪の女は左胸に手を当てて、俯いた。

「そして、愛する騎士たちを奪った者には、永久の闇を」

 右手を前に突き出すと足元に古代ベルカ式の紫色の魔法陣が展開される。

「闇の書さん!」

「お前も、その名で、私を呼ぶのだな」

「・・・・・・」

 悲しそうな瞳で銀髪の女は言う。

 そして、バインドが二人と鷲を縛り上げた。

「やれやれ」

 鷲は自力でバインドを引きちぎる。

「鷲くんっ」

「シューっ」

「黙って聞いていれば、主の願いだの、それを叶えるだのって。これが本当にあいつが願ったことなのか?」

「そうだ、悪い夢であってほしいと願ったのだ」

「それを叶えて、あいつは喜ぶのか?」

「我は魔導書、ただの道具だ」

「道具が泣くのか?」

「これは主の涙、私は道具だ。悲しみなど、ない」

「そうかい、弥生」

 鷲が呼びかけた瞬間、猫町とテスタロッサを縛っていたバインドが切り刻まれた。

「あら、気づいていたの?」

 現れたのは白いバリアジャケットを装着して、右手に西洋剣を持った弥生だった。

「え、弥生ちゃん?」

「弥生?」

 それを見た二人も驚いている。

「ふふっ、あなたの周りって本当に退屈しないわね」

「そうか?厄介事に巻き込まれてるだけだが」

「私からしてみれば楽しいわよ」

「なら代わってやる」

「ご免被るわ」

「えっと、二人とも?」

「言い合ってないで説明してくれないかな?」

 鷲と弥生の言い合いに呆気に取られながらも、説明を要求するテスタロッサと猫町。

「こいつは魔導師、以上」

「それだけ!?」

「そんなことより、アイツをどうするかだ」

「そんなことって」

「話は終わったか?」

 銀髪の女は鷲たちを見下ろしている。その目には変わらずに涙が流れている。

「私に任せてくれないかな」

 言ったのはテスタロッサだった。その瞳には決意が宿っている。

「どうぞ」

 だから、鷲は任せてもいいと思った。弥生は私の出番はなし?と口を尖らせていたが。

「ありがとう」

 そう言って、テスタロッサは銀髪と向き合った。

「あなたは悲しみなどないと言ったよね?」

「そうだ」

 テスタロッサの問いかけに銀髪は頷く。

「そんなの、そんな悲しい顔で言ったって誰が信じるもんか!」

「あなたにも心があるんだよっ、悲しいって言っていいんだよっ」

 二人はなおも銀髪を説得しようとしている。

「あなたのマスターは、はやてちゃんは、きっとそれに応えてくれる、優しい子だよ!」

「だから、ハヤテを開放して、武装を解いて!お願い!」

 見つめ合う三人だが、地鳴りが響くと猫町とテスタロッサは辺りを見回す。すると、あらゆる所から火の柱が地面から吹き出てきていた。

「早いな、もう崩壊が始まったか。私ももうじき意識をなくす、そうなれば、すぐにナハトの暴走が始まる。意識のあるうちに、主の望みを叶えたい」

 銀髪は自分の手を見ながら呟いた。

 銀髪が手を突き出すと、鷲たちの周りに赤いナイフのようなものが現れる。

「闇に、沈め」

 そう言うと、ナイフが鷲たちを襲い爆発する。

「危ねえな」

「全くね」

 鷲と弥生は無傷。猫町とテスタロッサは空中に逃げた。

<ソニックフォーム>

 テスタロッサはマントが取れて、バリアジャケットが薄くなっている。それで速さを上げて逃げたのだろう。

「眠れ」

 銀髪は魔道書を目の前にかざすと、赤い光の矢が次々に生成されて放たれる。

「この、駄々っ子!」

<ソニックドライブ>

 テスタロッサは全身に金色の光を纏い、多数の矢を交わして銀髪に近づいていく。銀髪は魔法陣を展開して防御の態勢に入った。

「はあああああっ」

 テスタロッサはデバイスを魔法陣にぶつける。

「お前にも心の闇があるはずだ」

 銀髪がそう言うと、テスタロッサは足元から消えていく。

「フェイトちゃん!」

 猫町が叫ぶもテスタロッサは消えていく。

「ちっ、間に合うか?」

 鷲は足に力を入れて飛ぶ。

「鷲くん!」

「うぉおおおおおっ」

 鷲はテスタロッサの手を掴んだ。

「シュー!」

「お前も眠れ」

<吸収>

 そして、鷲とテスタロッサは完全に消えてしまった。

「鷲くん!フェイトちゃん!」

 

 




今日は少し長めでした。読んでくれてありがとうございます。
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