翌日からリアとユークリウッドも修行についてくることになった。今朝になって突然、
「私はおねーさんだからシュウ君を守らないと」
と言い出して、勝手について来た。確かに、前の世界(別々の世界だが)で考えても年上だが、今では一つしか違わない。ユークリウッドは一人でいても暇だからついて来ただけだ。
修行場について結界を張る。ここに着く前にあの公園を通った時、真紅が、
『あの子はもういないな。大丈夫だったのかな』
と独り言を言っていたが気にしない。やることはやった、あとは少女次第。なので、もう忘れることにした。
「すごい、魔法使いみたーい」
結界を張ると、そんな呑気なことを言うリア。自分も魔法使いだというのを忘れているのだろうか。だとしたら、ぬけている。この自称お姉さんは今まで訓練をしたことがないのか。ちなみにユークリウッドは木の下で座って、持参のお茶を飲んでいる。
「シュウ君、修行ってどんなことするの?」
そんなことを考えていると、声をかけられる。
「・・・座禅」
「へ?」
「座禅だ。座って、精神統一することだ」
「えっと、それだけ?」
「・・・詳しくは駄バイスに聞け」
そう言って、鷲はラピスをリアに放り投げる。
「わわっ」
彼女はそれを慌てて受け止める。
<主様!私は駄バイスではありません!他のデバイスと比べたらすごい高性能なんですよ!もう少し丁寧に扱ってください!>
しかし、鷲はすでに座禅をしてそれを聞き流した。
<うう、主様~>
「まあまあ、シュウ君も悪気があるわけじゃないと思うから」
いじけるラピスをリアはなだめる。
<でも、最初の一回以来、私のことを名前で呼んでくれないんですよ?>
「それは、きっと恥ずかしいんだよ」
<うう、そうでしょうか?>
「うん、きっとそうだよ」
<ならそう考えときます>
「うん、物事は明るいほうに考えた方が楽しいよ。それで、どうして座禅なの?」
<それは―>
ラピスは座禅の意味をリアに説明する。
<というわけです>
「そうなんだー」
それを聞き終えたリアは自分に何かできないか考えた。しかし、考えは浮かばず、結局、ユークリウッドと見守るだけになってしまった。
一方、座禅を組んでいる鷲に昨日とは違う気配を感じた。何かの声が聞こえるのだ。
―じゅ・・・を、し・・・いか?
「・・・・・・」
―呪文を、知りたいか?
次ははっきり聞こえた。そして、その声と共に鷲は意識を失った。
「う、ん」
目を覚ました鷲が見たのは先ほどの修行場ではなかった。そこは空は黒く、月の光だけがあり、大地は荒野だった。ただ、荒野のいたるところに黒い結晶がいくつもあった。
「・・・・・・」
―こっちへ来い
そんな声が聞こえて来た。鷲は声がした方へと歩き出す。
しばらく歩くとそこには、巨大な黒い竜がいた。その竜は全身に鎖が巻かれており、その背中には十字架が突き刺さっていた。
「・・・・・・」
そして、よく見ると十字架には何かが磔にされている。それがなんなのか見えるまで歩くと鷲は目を見開いた。
そこには、真紅が磔にされていたのだ。
「!!」
それを認識すると同時に彼は走り出す。
(なぜ、ここに真紅がいる!)
しかし、竜のそばまで来ると、何かに行く先を阻まれる。
「なんだ、これは!」
結界だった。
「ちっ」
舌打ちをした鷲はそれを思いっきり殴った。
「があっ」
それでも結界は壊れず、鷲が吹き飛ばされた。
《無駄だ》
「あ?」
突然聞こえた声に目を細める鷲。その視線の先には鎖で縛られた黒竜がいた。
《それはお前には壊せぬ》
「てめえか、俺を呼んだのは」
《そうだ》
「まあいい、真紅を返してもらうぞ」
《フッ》
鷲の言葉に鼻で笑って返す黒竜。
「・・・なにがおかしい」
《いや、なに。いつもの貴様らしくないと思ってな》
「どういう意味だ」
《この少女を返したら、その後どうなるのかわかっているのか?》
「・・・・・・」
確かに、自分らしくなかった。真紅を解放する、それがどのような意味を持つのか。
「ちっ、なんで俺を呼んだ」
《貴様は察しが良くて助かるな》
「いいから、呼んだ理由を言え」
《貴様は呪文を知りたいのだろ?》
「それがどうした、てめえが教えてくれるのか」
《ああ、条件があるがな》
「・・・別にてめえに教えてもらわずとも自分で見つけるさ」
まさか本当に知っているとは思ってなかった鷲は軽く動揺した。しかし、それを表には出さず、いつものように軽口で返した。
《それは無理だな》
「なんだと?」
自分には見つけることができない、と言われたようで言葉に怒気を含んだ。
《別に見つけることができないというわけではない》
「どういう意味だ」
《貴様が呪文を見つけようが、俺が拒否すれば貴様に呪文は使えん》
「・・・てめえ」
鷲は憎々しげに黒竜を睨む。
《だから、条件付きで使わせてやる》
「・・・条件は」
その返答に黒竜はにやりと笑う。
《俺を暴れさせろ》
「いやだね」
しかし、鷲はそれを即答で拒否した。
《それは交渉決裂と見ていいのか?》
「暴れさせろって表でってことだろ?そしたら俺も含めて、全員死ぬ。俺が呪文を知ってもどちらにしても使えねえじゃねえか」
この黒竜の封印を何らかの方法で解いたら、真っ先に俺と真紅を殺して表に出て、破壊の限りを尽くすだろう。そうすれば、何も意味がない。
《ふん、やはり貴様は賢いな》
「そりゃどーも」
《今まではほとんどこれで暴れれたんだがな》
「そいつらがバカなだけだろ」
《まあな。ならば違う条件で使わせてやる》
「今度はまともな条件なんだろうな」
《ああ、至って簡単だ》
黒竜がそう言うと目の前に、騎士甲冑を着た黒い騎士と鷲の前に黒い刀があらわれた。
《それは俺の分身だ。封印のせいで大した力はないがここで暴れる分にはいいだろう》
「つまり、こいつと戦って勝てばいいんだな?」
《そうだ。そうすれば呪文を使わせてやる。ただし、お前が負けたら、俺は表に出て、暴れさせてもらう》
「ハイリスク、ローリターンってか」
《ならば、俺の力も一部やろう》
「・・・それでいいぜ。ルールは?」
《純粋に剣と体術だけの勝負だ》
「単純明快だな」
言って鷲は、刀を構える。
《さあ、俺を楽しませろ!》
「いくぜ」
そして二人は互いに一気に距離を詰めた。
呪文が出るのはまだ先だと思います。
さて、どんな呪文にしようか・・・。