魔法科高校の攘夷志士   作:カイバーマン。

16 / 53
第十六訓 潜入&遭遇

ほとんどの者が捜索班と護衛班に分けられている頃、中条あずさは一人鬼兵隊の船の前へと来ていた。

 

「久しぶりだな、万斉」

 

口にキセルを咥えながらあずさが話しかけた相手は

鬼兵隊のナンバー2こと河上万斉。

 

「しばらく見ない内に随分と縮んだでござるな晋助」

「それもこれもここにいる天人共のおかげだ、奴等にはこれからたっぷり礼をしねぇと」

「その体でか?」

「手足千切れようが装置を壊せば全て元通りさ。こんな体がどうなろうが知ったこっちゃねぇ」

 

見てくれがここまで小さな少女になっている事に万斉は違和感を覚えつつも彼女から放たれる一定のリズムがすぐにその違和感を払拭させた。

 

(異世界超えようが体がすり替えられようがやはり変わらぬな、ぬしの狂気に満ちたこの音楽は)

「他の連中も大事ねぇか」

「大ありに決まっているであろう、組織の頭が消えればどんなに強大な軍も崩れ落ちていくというもの。完全に崩れ去る前におぬしとこうして会えて間一髪でござる」

「その程度なら俺にとっては大事ねぇって言うんだよ」

 

万斉からの報告を聞くとトントンとキセルの灰を落としながらあずさはまた口に咥え戻す。

 

「俺の体はどうなってる」

「う、うむ……やはり聞きたいであろうな」

「どうした、急に歯切れ悪くなったぞ」

「い、いやなんでもないでござる……」

 

煙を吹かしながらこちらをジロリと見つめてくるあずさに万斉は突然しどろもどろになりながらやなわりと誤魔化す。聞いた内容がマズかったのであろうか。

 

「……おぬしがその体に入ったようにおぬしの体もまた入れ替わった者の魂が入り込んでおる。名前は確か中条あずさ殿と言っていた」

「名前なんざどうでもいい、そいつは今この船にいるのか」

「無論誰にも見られぬようひっそりと隠れてもらっているが……」

「会わせろ」

「え?」

「ツラ拝ませろって言ってんだよ」

 

最後に残った灰を落としきってキセルを懐に仕舞いながらあずさが静かに呟く。

 

「自分の体見る事になにも問題あるめぇだろ」

「……確かにそうでござるが、おぬしを会わすのは少々彼女には刺激が強すぎる気が……」

「何で向こうの方を心配してんだよ、ガキがどうなろうが知ったこっちゃねぇって言ってんだろ」

「……わかった、では一つだけ約束して欲しいでござる」

 

会わせたくなさそうな反応をする万斉にあずさが少々イラついていると、彼は提案するかのようにピッと人差し指を立てて

 

「絶対に泣かしちゃダメでござるよ」

「……」

 

彼の言葉にあずさは思わず固まってしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

そして一方その頃、捜索班として連蓬の母星内部に潜入していた司波深雪は、気味が悪いほど順調に中へと進んでいた。

 

「妙だな、前にここ来た時は化け物がわんさかいたって言うのに全然見当たらねぇぞ」

 

注意しながら曲がり角からこっそり顔を出す深雪だが、どこへ進んでも一向に蓮蓬の姿は見えない。

 

「ったく不気味だぜ、得体の知れねぇ奴等だから見えねぇと逆に不安だわ」

「蓮蓬ってどんな生物なの」

「アヒルだかペンギンだかオバQだかよくわからないモン被った化け物だよ」

 

物陰からを顔を出している深雪の下から一緒に顔を出すのは北山雫

 

「たまにおっさんみたいな生足が見えっからまあ中身はただのおっさんだろうな。つまりおっさん型の宇宙人だ」

「いやおっさん型の宇宙人って何? 私たちそんなおっさん達に星奪われそうになってるの?」

 

更にその下から顔を出すのは光井ほのか

 

「とにかくその蓮蓬が見つからないって事は安全に進めていいんじゃないかな?」

「バカヤロー、ここまであからさまにいねぇと明らかに怪しいだろ。どっかに罠が設置されてるに決まってんだろうが」

「そ、そうだった、ごめん安易な考えしちゃって」

 

誰もいない事を確認しつつ物陰から出ながら経験豊富の風格を醸し出す深雪に、考え方が少々浅はかだったとほのかが謝る。すると深雪はすっと前方の一見なんの変哲もない廊下を指差して

 

「ということでお前、この廊下ちょっと一人で歩いていってくんない? 奥まで行って何もなかったら合図してくれ、その後俺等も行くから」

「あからさまに私を囮に使う気だこの人!」

「囮じゃねぇよ、捨て駒だ」

「なお悪いよ!!」

 

自分が罠にかからない為に早速ほのかを利用としようとする深雪。しかしほのかはそれを激しく拒否。

下手すれば死ぬトラップでもあるかもしれないのにそんな事を簡単に了承する筈もなかった。

 

「私絶対無理だからね!」

「いやいやお前なら出来るって、お前もそう思うだろ?」

 

深雪に聞かれて隣にいた雫がコクンと頷く。

 

「中々出来ることじゃないよ」

「そりゃそうだよ誰だって捨て駒扱いされたくないんだから!」

「つべこべ言わずに突っ込んで来い」

「いだ!」

 

嫌がるほのかのお尻に軽く膝蹴りを入れて強引に行かせようとする深雪。

 

「遺族の方々にはお前が勇敢に戦い散っていったって事は伝えておくからさ」

「私はほのかという大切な友人がいた事を忘れない」

「既に死ぬ前提!? 勇敢に戦ったってこんなの仲間に利用されてるだけじゃん! それともう雫とは絶交するから!」

 

まったく感情のこもってない台詞を吐いてくる深雪と雫に半ギレの様子でツッコミを入れると、ほのかは勢いのまま廊下を歩き始める。

 

「じゃあもういいよ私が行けばいいんでしょ! 罠にビビッてる臆病者はそこでずっと立ってればいいんだから!!」

「チョロイなアイツ」

「そこがほのかの良い所」

 

二人の方に振り返って叫びながらほのかはどんどん廊下を進んでいく。

そして遂に廊下の一番奥にあるドアの前まで辿り着いたのだ。

ひとまず何事も無かった事に彼女は安堵するとクルリと振り返って遠くに立っている深雪と雫に向かって

 

「ほら罠なんか無かったよ! さっさと進もうよこのチキン共! この私に続けぇ!」

「ノリノリだなアイツ」

「自信がついて何より」

 

すっかりオラオラな調子でほのかが叫んでいるのを眺めながら深雪と雫は呟きながら廊下を歩き始めた。するとほのかの背後にあったドアがゆっくりと開き

 

アヒルだかペンギンだかオバQだかよくわからない生物が生気の無い目で現れたのだ。

蓮蓬、深雪達が今最も倒さねばならない相手である。

しかしそんな生物が背後にいる事に気づかずにほのかはまだこちらに向かって指を突きつけながら

 

「ほらさっさとこっち来る!! 私が通った場所歩けばいいんだから二人は楽でいいでしょ! 全くこのヘタレコンビが!!」

「終わったなアイツ」

「バイバイほのか」

 

徐々に調子付いて来ているほのかの背後にいる生物を眺めながら、深雪は彼女の命が潰えるのを確信し、雫はヒラヒラと手を振り彼女との最期の別れ。

 

「あれ? なんで雫手振ってるの? しかも銀さんの方は私というより私の後ろ見ている様な……」

 

二人の反応に違和感を覚えたほのかは恐る恐る後ろへ振り返ると

 

「ギャァァァァァァァ!! 化け物ォォォォォォォ!!!」

 

耳をつんざく様な叫び声と同時に彼女は目の前に現れた巨体の生物に向かって反射的に距離を詰めて

 

「せいッ!!」

「近距離からあの威力、やるな小娘」

「そういえば前にほのか、よく行く美容室で有名なボクシング漫画読んでた」

 

体を利き腕と反対側に大きく屈め、伸び上がるのと同時に生物に向かってフックを叩きつける。

 

『ガゼルパンチ』・フックとアッパーの中間の軌道を描く一撃で、インファイター型のプロボクサーも必殺技として愛用している者がいる程その威力は当たればキツイ。

女子高生がそんな物騒な技をつい反射的に出してしまった事に深雪が感心している中、ほのかの一撃を食らった蓮蓬はグラリと体を揺らしてその場に尻もちを着く。

すると突然蓮蓬はこちらに向かって短い手を突き出し

 

「ま! 待ってくれ!」

「?」

 

口は開いていないものの、今間違いなく蓮蓬が叫んでいた。それに対し不審に思ったのはかつて彼等と戦った経験のある深雪。

 

「妙だな、蓮蓬ってのは確か会話する事さえ許されないって掟がある筈だぞ……おい小娘! そいつへの追撃は止めろ!」

「はい! 立ち上がってファイティングポーズ取ったら一気に勝負仕掛けます!」

「ボクシングしてんじゃねぇんだよ! 立っても殴るな!」

 

 

スポーツマンシップに乗っ取ってダウンしてる相手への追撃はしないと拳を構えながら誓うほのかにツッコミながら深雪はすぐに尻もち着いてる蓮蓬の方へ駆け寄ると

 

「あれ? その制服……」

 

ふとその生物が何かを着ているのがわかった。

それは深雪達の学校の男子の制服の様な……

 

「おいお前、蓮蓬の一人だな。ちょっと聞きてぇ事があんだが……」

「し、司波さん!? どうしてここに!?」

「……は?」

「それにこっちもよく見たら光井! あっちにいるのは北山か!」

「いやいや待て待て、なんで俺等の事知ってんだよ」

 

 

予想だにしない事がおきた。この生物は会話出来るどころからどうやら自分達の事も知っているらしい。

不審に思う深雪に向かってその生物は生気のない目をしたまま顔を上げると

 

「僕だ司波さん! 国立魔法大学第一高等学校で君と同じ1年A組の!」

「あ? ウチのクラスにお前みたいな化け物いなかったよ」

「違うこれは僕の本当の体じゃない! 数日前に突然頭上から落ちてきた雷に打たれて!」

「雷って……まさか」

 

思い当たる節があり深雪は眉をひそめると彼は必死そうな声で

 

「本当の僕は君と同じ一科生! 森崎家の森崎駿だ!」

「も、森崎だと!?」

 

彼の名乗った言葉を聴いて深雪は大きく目を見開いて驚く、そして一瞬でまた死んだ魚の様な目に戻り

 

「って誰?」

「あれぇぇぇぇぇ!? 司波さんどういうことそれ!?」

「お前知ってる?」

「ゴールキーパー」

「それキャプテン翼の森崎だろ! すっとぼけるな北山!」

 

どうやら名前を知ってもイマイチピンときていない様子の深雪、おまけに雫の方まで覚えていない始末。何しろ見た目が蓮蓬なのだ、それなりの印象がないとさすがに名前だけではわからない。

するとほのかがジト目で二人に向かって

 

「いやいたよ森崎君、私達と同じクラスに。雫も覚えてるでしょ入学式の時とか色々あったし」

「式の途中で我慢できずに漏らした人?」

「それどこの森崎君だよ! 僕がいつそんな事した!!」

「あー俺なにか思い出したかも知れねぇわ」

 

全く思い出せない様子の雫をよそに深雪はポンと手を立ててわかった様子。

 

「授業中チラチラいやらしい目つきでこっち見てた奴だろ、クラスの女子共の噂になってたぞ、「エロ崎の奴がまた司波さんをチラ見してる」って」

「そそそそそそんな噂が女子の中であったんですか司波さん!? ご、誤解しないでください僕は別にそんなやましいつもりはなく同じブルームとして司波さんと仲良くなりたいと思っていただけで!」

「なんだエロ崎か、私も思い出した」

「おいもしかしてエロ崎で覚えてたのか北山!」

 

深雪のようにポンと手を叩いて思い出した様子の雫にエロ崎、もとい森崎が怒りに震えながら叫んでいると、深雪は自分の頭に指を突きつけながら「なるほどねぇ」とわかったかのような反応

 

 

「大方入れ替わり装置で体を奪われちまったんだろうなエロ崎も、そういや連中の目的は俺達地球人と体を入れ替えて星を奪い取るって魂胆だったからな」

「ええ! そういえば私達が出発するときに街中に雷が落ちてたけどもしかして!」

「あの時からもう1週間近くたってやがる、あれからずっと連中が攻撃を始めていたという事は……」

 

嫌な予感を覚えるほのかに深雪は確信したように頷いた。

 

「お前等の地球が本格的にマズイ事になってるみたいだな、最悪の事態を想定すると既に奴等の支配下におさまってるのかもしれねぇ」

「そんな! せっかくここまで来たのに!」

「落ち着いてほのか」

 

自分の故郷が既に蓮蓬に奪われてしまったかもしれないと動転するほのかの肩に雫が手を置いてなだめる。

 

「陸奥さんが言ってた、ここにある装置をどうにかすれば入れ替わった人達は元に戻る筈だって。私達がそれをやればまたいつもの日常に戻れる」

「雫……」

「そういうこった」

 

雫に続いて深雪も肩を回しながら口を開いた。

 

「気楽に行こうぜ。どうせこの星ぶっ壊せば何もかも元通りになるんだからよ、なぁにこちとら一度はこの星ぶっ壊してんだ、楽勝だよ楽勝」

「そうだね、私達が落ち込んでるヒマなんてないよね」

「星一個破壊して星二個救うだけ、簡単なお仕事」

 

傍から聞けばそんな事とても簡単そうには見えないのだが……

しかし深雪と雫に元気付けられてほのかも腹をくくった。

 

「よし行こう! 私達の未来の為に!」

「おー」

「調子乗りすぎて主役の美味しい所奪うんじゃねぇぞテメェ等」

 

この戦いに勝つという決意を更に確固たるものとし、三人は更に奥へと進んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

「って待てぇぇぇぇぇぇぇ!! 僕のこと忘れるなぁ!」

 

いつの間にか忘れ去られていた事に気づき蓮蓬の姿になった森崎は三人の背中に大きく叫んだ。

 

「どうして司波さん達がここにいるのか知らないがまさか僕等を助けに来てくれたのか!」

「え、誰お前?」

「さっき言いましたよね司波さん! どうしてそんな一瞬にして僕の存在を記憶から抹消できるんですか! 僕の事その程度にしか考えていないんですか!?」

「エロ崎」

「ああなんだエロ崎か」

「森崎です! いい加減にしろ北山! 司波さんが間違えて僕の名を覚えちゃったじゃないか!」

 

雫に対して怒っているみたいだが見た目が見た目なのでどうも感情が読みにくい森崎。

 

「僕の話を聞いてくれ司波さん! いや三人共!」

「おやおやエロ崎の分際で3人相手にナンパか? 言っとくが深雪さんはそんじゃそこらの安い店には行かねぇぞ、全品1枚100円の回転寿司じゃねぇ1枚500円の寿司が混ざってる回転寿司だ」

「ハードルあんま上がってないですよそれ!」

 

庶民的レベルの要求に森崎がツッコミを入れていると深雪は髪を掻き毟りながら話しを続ける。

 

「あーでも悪いけど俺等急いでるんだわ、回転寿司はまた今度にしてくれ、んじゃ」

「いや待ってください司波さん! 司波さん達に見せたいものがあるんです!」

「ああ?」

「それは……」

 

慌てて呼び止めると森崎は一瞬間を置いて

 

 

 

 

 

 

 

「……僕達地球人がこんな体のまま収監されている労働施設です」

 

 

 

 

 

 

一方その頃、坂田銀時達は彼女達とは別のルートから内部に潜入していた。

 

「早く進みましょう、お兄様が動けない今私が頑張らないと」

「そうは言っても深雪さん、どんな罠が待ち受けてるかもわからないのに迂闊に奥へ進むのは危険ですよ、ひとまず銀さん達と合流して一緒に行った方が安全ですって」

「私はあの男の事は嫌いです、ゆえに一緒に行動したくありません」

「はぁ……」

 

ズンズンと奥へと行ってしまう銀時に、ともに行動している志村新八は何度も同じ忠告をしているのだが彼はまったく聞く耳を持たなかった。後ろからついて行きながらため息を突く彼に神楽が隣を歩きながら口を開く。

 

「もう言っても無駄アル、ユッキーはおしとやかに見えて結構頑固モンネ、私達が何を言おうとこのまま一直線に突き進むことしか考えてないんだヨ」

「ただ単に銀さんの事毛嫌いしてるだけであそこまで頑なに拒否するなんて、そうとう洗わないと落ちない頑固さだよ、あれ?」

 

あまりに洗い落とせないその頑固さに新八が疲れた様子でまたため息を突いていると、ふと前を歩いていた銀時がピタリと止まった

 

「どうしたんですか深雪さん」

「……隠れて」

「え?」

 

張り詰めた表情でそう言うと銀時は突然物陰にサッと隠れる、新八も続いて一緒に身を潜める。

すると廊下の曲がり角からペタンペタンと新八がどこかで聞き覚えるのある足音が

 

そしてその足音の持ち主がぬっと廊下を歩いているのが見えた。何故か黒髪のカツラを頭に乗せてはいるが桂小太郎のペットであるエリザベスと酷似しているあの生物は間違いない

 

「蓮蓬……!」

「アレの後をついていけば何か手掛かりを見つけられるかもしれません」

「なるほど、こっから尾行して上手く連中の情報を収集すれば……」

 

こちらに気付かずに通り過ぎて行こうとする蓮蓬の後を上手く尾行すればいずれ何処かの場所に辿り着けるであろう。闇雲に探すよりそちらの方がずっと効率的だ。

名案だと新八が銀時に感心したように頷いているが、彼らはミスを犯した。

 

隠れて尾行する事を神楽に言い忘れていた事

 

「ホワチャァァァァァァ!!!」

「って神楽ちゃぁぁぁぁぁん!!」

 

物陰に潜んでいた銀時と新八の目の前で、既に神楽は動き出しており、蓮蓬の横顔に飛び蹴りを思い切りかましてしまっていたのだ。

いきなり現れしかも豪快な蹴りをモロに受けた蓮蓬はなんの反応も見せずにガクンと倒れる。

 

「なにのっけから倒しちゃってんの! 尾行してここの情報を手に入れようとしてたのに!!」

「ああ? そんなまどろっこしい事しなくてシメ上げて吐かせればいいんだヨ」

「シメ上げるどころかもうシメ終わってんじゃねぇか! さっき鈍い音が聞こえたよ、大丈夫なのそれ!!」

 

小指で鼻をほじりながらめんどくさそうに答える神楽にツッコミながら新八は倒れている蓮蓬の下へ駆け寄る。すると

 

「う、うう……」

「良かったまだ生きてる……あれ? 言葉を持たない蓮蓬が呻き声……?」

「その声もしかして……新八君かい?」

「!」

 

予想だにしない事がおきた。目の前で倒れている蓮蓬が突如喋り出し、しかも自分の事を知ってるみたいだった。

 

「えぇぇー!? なんで蓮蓬が僕の事を!?」

「ち、違うよ新八君! 僕は蓮蓬じゃない! 奴等に体を奪われたんだ!!」

「体を奪われたって……もしかして!」

「あ! 万事屋の旦那!」

 

必死な様子で訴えかけてきた蓮蓬の様子に嘘偽りはないように見えた。

新八がそんな彼を見開いた目で見ていると、蓮蓬は新八だけでなく銀時の存在にも気付いて顔を上げた。

 

「良かった旦那がいれば心強いや! お願いです早くウチの局長達の目を覚まさせてやって……どぅふ!!」

 

何やら助けを求める様子でガバッと近づいてきた彼に向かって銀時は無言で持っていた木刀を脳天に振り下ろした。

 

「ちょっとぉ深雪さん! 何思い切り木刀頭に叩き落としてんの!!」

「いや襲い掛かってきたからつい」

「助けを求めてたんだよ! アンタ自分に近づいてくる者全部敵かなんかだと思ってんですか!」

 

新八が怒鳴りつけるも反省する様子もなく後頭部を掻き毟っている銀時。

 

「私も前はこんな風ではなかったんですが、どうも最近誰かにしがみつかれそうになると手が勝手に動くというか」

「なんすかそれ、それじゃあまるでさっちゃんさんを返り討ちにしてる銀さんみたい……え?」

 

殺し屋にして銀時のストーカーである猿飛あやめはいつも銀時に飛びかかっては散々な目に遭わされていた。先ほどと同じような感じで

そしてそれに対して全く反省のない彼の態度を見て新八はふと気付くがすぐに首を横に振る。

 

(いやまさかそんな筈ないかただの気のせいだよきっと、でも会長さんの事もあるし……いやいや)

 

頭の中に一つの仮説が生まれたがすぐに新八はそれを気のせいだと称してうやむやにする。

あくまでただの思い込みであってそれが真実だと証明する確かな証拠もない。

 

(不確かな事をこの場で言って深雪さんを不安にさせちゃダメだ、ここは一旦様子を見よう)

「だ、旦那! 俺ですよ俺! 敵じゃないですってば!」

 

新八が脳内に生まれた仮説を無理やり封印させている中、倒れていた蓮蓬が再びヨロヨロと顔を上げた。

 

「山崎です! 真撰組の密偵としてアンタ等万事屋と何度も顔を合わせていたあの山崎退です!」

「や、山崎さん!? ええそれってマジですか!?」

 

山崎と名乗った蓮蓬に向かって新八は先ほどの疑問もすぐに吹っ飛んでしまった。

彼の名を新八はよく知っていた。万事屋とは何度も衝突したり共闘したりした腐れ縁の警察組織。

あの真撰組の地味なりに優れた偵察能力を持つ山崎退の事だ。

 

「どうしたんですか山崎さん! もしかして蓮蓬と体を入れ替えられたんですか!?」

「ああその通りだよ、でもそこまで知ってるって事は連中の企み事も知ってるみたいだね……」

「はい、全部わかってます、僕等地球人と入れ替わって星を丸ごと奪おうとしてる事も」

「……」

「でも大丈夫ですよ山崎さん! 僕等で力を合わせればこれぐらいなんて事ないですから!!」

 

蓮蓬となってしまった山崎を元気付けようとガッツポーズをとる新八だが、山崎の方はそれを聞いても無言で立ち上がった。

 

「新八君、悪いけどそれが全部じゃない、連中の計画はそれだけじゃないんだ」

「……え?」

「俺もここ最近になってわかった事だ、それを今から見せてあげるよ」

 

そういって山崎はこちらに背を向けてついてこいという合図。

 

 

 

 

 

 

 

 

「連中の真の恐ろしさって奴を」

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。