魔法科高校の攘夷志士   作:カイバーマン。

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全校生徒発表会編
第二十一訓 謀略&倒幕


司波達也は七草真由美、渡辺摩利は蓮蓬の基地に潜入中、突然現れた春雨第七師団団長こと神威にその行く手を阻まれてしまう、だがその時、謎の少女が助っ人として神威の足止めに入ってくれたおかげで3人は無事にその場から逃げ切る事に成功した。

 

「追ってはこまいか」

 

とある一室でその場しのぎとして休憩に入りながら達也が辺りを詮索し始めていると、真由美は先程の少女について彼に問いかける。

 

「茂茂殿、あの少女は一体何者だ」

「詳しい事はあの者の意義により言う事は出来ぬが、余達と同じ入れ替わり組だ」

「やはりそうか……あの刀の扱い振り、俺達の世界に通じるものがあった。しかもあの俊敏な動き、かなりの強者と見るべきであろうな」

「だがなんで今まで姿を現さなかったんだ?」

 

少女の抜刀から斬りかかるまでの動作の速さには桂小太郎として攘夷戦争を生き抜いてきた彼女にとっても目を見張るものがあったらしい。

しかしなぜこのタイミングで入れ替わり組であろうあの少女が現れたのか、真由美の隣にいた摩利は疑問に思った。

 

「私達と一緒に行動する事を避ける理由がわからないな」

「うむ、それはだな……む? これは……」

「どうした将軍殿」

 

摩利に説明してあげようとする達也だが話の途中でふとこの部屋にはある物が設置されている事に気付いた。

真由美も彼の視線の先に目を向けて気付く。

 

「これはもしや脱出ポッドか?」

 

人一人、否、蓮蓬が1匹丸々収まるぐらいの大きなカプセルとでも例えるべきか、宇宙船、宇宙戦艦には必ずつけておくべき緊急避難用のポッドの事だ。

万が一にこの施設が破壊されるトラブルが発生した時に、逃げられる様このポッドに潜り込んでそのまま宇宙へと排出される仕組みだ。

 

「ご丁寧にプラカードを収納するスペースまで作られている、さすがは最先端科学を用いる蓮蓬、匠の成せる技だ」

「いやプラカードって? 必要かそれ?」

「劇的ビフォーアフターの匠も「それ付ける意味あんの?」ってモノをバンバンつけたがるであろう、それと一緒だ」

「じゃあやっぱり必要ないって事だろそれ……」

 

早速中身を開けて念入りに調べながら感心している様子の真由美に摩利がツッコミを入れている中、達也は一人ジッとその脱出ポッドを見つめる。

 

「……」

 

そして静かに目を閉じた後、まるで何か一つ腹をくくったかのように再び目を開けて真由美の方へ歩み寄り、摩利には聞こえぬ様に小声で。

 

「桂、少し話がしたい。出来れば二人で」

「ほう、それは構わんが、将軍が攘夷志士に一体どんなご用件だ?」

「その攘夷志士であるぬしにしか頼めぬ事なのだ」

「……興味深いな」

 

本来敵である攘夷志士にしか頼めぬ事とは一体、真由美は面白そうに若干笑って見せると、早速摩利の方へ振り返り

 

「摩利殿、どうやら将軍殿は俺と内緒話したいらしい。少し席を離れてくれぬか?」

「ん? それは構わないが私が聞いてはいけない事なのか?」

「男同士の語り合いにおなごが傍にいては話せぬ事もあるのだ。修学旅行の夜、巡回中の教師の目を掻い潜って声を潜めながら顔を合わせて「お前ってクラスの誰が好き? 俺は花澤」とか男子同士で盛り上がるみたいな感じだ」

「女の私には全く共感できない例えだが……まあ好きにしてくれ、私は窓から外でも見てるから」

「そうしてくれると有難い」

 

女性である摩利にはイマイチピンとこなかったようだが、とにかく男同士で何か喋る事があるのであろうと素直に身を引いてくれることを了承してくれた。

話のわかる彼女に真由美は素直に礼を言うとすぐに達也の方へ振り返り何やらヒソヒソと会話を始める。

 

「……何かしでかさないといいんだが」

 

真由美と達也を二人っきりにする事に若干不安を覚えるも、ふと窓から見える広大な宇宙に思わず摩利も見とれてしまっていた。

 

「こうして落ち着いて眺めてみると本当に宇宙に来たのだなと改めて実感するな」

 

地球を飛び立ってから結構な日をまたいでいるが、こうしてはっきりとここが宇宙なのだと認識したのは初めてかもしれない、それ程彼女の周りはここ最近ドタバタしっぱなしだったのだ。

 

「果ての見えない壮大な広さ、宇宙は日々膨張しその成長速度は凄まじいとも言われているが実際の所どうなんだろうな」

 

思えばこんな光景を目にする事はとても貴重な体験なのかもしれない、彼等のいる世界では宇宙へ行く事など極々ありふれた事なのであろうが、摩利の世界では宇宙を自由に飛び回るなど子供の夢物語だと笑われるレベルだ

 

「地球からは決して見れない星々のはっきりとした形や、見てるだけで吸い込まれそうな真っ黒な空間……恐怖心があるのも否めないが不思議とジッと見てると禍々しくも美しく感じてしまう神秘感も覚える」

 

幻想的な景色というモノは時に人に様々な感情を覚えさせる、安堵、危機、悲観、好奇心、人間が他の動物と違う所と言えばそれは目の前の光景を見て涙を流す事が出来るという事であろうか……

 

「それにあの脱出ポッドに入って発射されている将軍、高貴な育ちの人間の考えはわからないな。あんな事してどうやってこっちに戻ってくるというんだ全く……ハァ~この綺麗な光景、出来ればアイツと一緒に見てみたか……え?」

 

物思いに耽ってすっかり乙女モードに入ってしまっていた摩利がふと改めて窓に広がる宇宙へと視点を向けると

 

 

 

 

 

 

蓮蓬用の脱出ポッドに機上した司馬達也が

 

いつもの無表情で宇宙空間をフヨフヨと漂いながら

 

徐々に小さくなっていくのが見えた。

「って将軍ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!!!!」

 

ようやく思考が目の前の現実に追いつく摩利、宇宙の神秘とかそんなの一気にどうでも良くなり悲鳴のような声を上げながら両手を窓に当てて宇宙を漂っている達也を凝視するのであった。

 

「ななななななんで将軍が宇宙空間に発射されているんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! どうするどうするどうする!? 一大事だぞコレは!! あぁどんどん遠くへ行って……一体どうしてこんな事に!!!」

「……フッフッフ、油断するなとは言った筈だぞ将軍」

「!?」

 

みるみる遠くへ行って小さくなってしまう達也、完全にパニック状態になってしまった摩利はアタフタしながらどうすればいいのかと必死に考えていると突如隣には不敵な笑い声を上げる真由美の姿が

 

「これで将軍は死んだも同然、さらばだ長年の宿敵よ……あっけない幕切れではあったが貴様との戦い、中々楽しかったぞ」

「お、お前まさか……」

 

真由美の指の上には脱出ポッドを宇宙空間へ排出する為に設置されている緊急ボタンが

 

その光景を見て摩利は愕然とする、もしや先程彼を宇宙へ放ったのは……

 

 

 

 

「我! 遂に倒幕成功せりぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「コ、コイツ遂にやりやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

勝利の雄叫びを力の限り上げながら片手を掲げてガッツポーズを取る真由美。

 

かくして世界を賭けて雌雄を決する戦いを前にして、自らの総大将を亡き者にするという前代未聞の大事件がこの場で起きてしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方場所は変わりここは深雪達のいる中層部。

 

突如現れた少女、アンジェリーナ=クドウ=シールズ、通称リーナ。

その中身は真撰組の鬼の副長こと土方十四郎であった。

 

深雪は腕を組んだままジト目で彼女を上から下へとしげしげと観察する。

見られている方のリーナは冷や汗垂らしながら彼女からの視線から目を逸らすだけ。

 

「マジかよオイ、まさかおたくまでこっち来てたとか、今まで何してたんだよ土方十四郎君?」

「いや何のことですか……自分土方十四郎とかそんな歴史人物パクったような人知らないんで……」

「とぼけんじゃねぇよ、どこの世界だろうがマヨネーズ直飲みする様な奴はお前と慎吾ママだけだろうが」

 

あくまでシラを切る様子のリーナに深雪が更なる追求をしていると、ついちょっと前に彼女に飛び蹴りされたばかりの光井ほのかが復活して彼女の元へ戻って来た。

 

「一体どうしたの、もしかしてこの人銀さんの知り合い? つまり入れ替わり組って事?」

「そうだよチンピラ警察24時だのテロリストより恐ろしいテロリストだのなんだの呼ばれてる、真撰組のナンバー2の土方十四郎君だよ」

「真撰組?」

「それは私が説明してあげるわ」

 

聞き慣れない言葉に眉を顰めるほのかに、同じように復活していた桂が物知り顔で深雪の代わりに説明してあげる。

 

「真撰組というのはか弱き市民から金を巻き上げ、自由を奪うという下劣な悪の組織、幕府の傘下に入ってる事を良い事にやりたい放題に暴れて人々を恐怖のどん底に陥れているクソの様な存在なの、というかクソそのものね、もしくはカス、つまりその中のナンバー2である土方という男はとびっきりのクソカス野郎って事ね」

「おめぇ喧嘩売ってんのかコラァァァァァァ!!!」

「まあ大体合ってるかな」

「合ってねぇよ!」

 

桂のかなり個人的な感情の入った説明の仕方につい反射的に青筋立ててブチ切れるリーナ、そして桂の説明に深く頷く深雪にも睨み付ける。

 

「真撰組ってのは幕府の下で働き日夜市民の為に戦っている正義の警察組織の事だ! 俺はそこの副長に就いてる土方十四郎! 覚えとけクソガキ共!!」

「自己紹介どうも」

「は!」

 

つい余計な誤解を生まぬようほのか達に説明してしまった事でいよいよもって言い逃れる事が出来なくなってしまった。

口元を僅かに広げて小馬鹿にしたかのように笑っている深雪を見てリーナはまんまと乗せられてしまった事に気付いた。

 

「しまった……こんなバカに二度も乗せられちまうなんて……」

「自己紹介良く出来たわね土方カス四郎君」

「やーこれで晴れて俺達と同じ入れ替わり組認定って事だね土方十クソ君」

「黙れクソカス共!!」

 

何故か拍手で迎えてくれる桂と深雪にリーナはいよいよ我慢の限界が来たのか、力任せに深雪の胸倉を掴み上げてメンチを切る。

 

「こっちの事情も知らねぇで好き勝手言いやがって! テメェ等がマヌケ面晒しながら遊び呆けていた間、俺がどんだけ大変だったかわかってんのかコノヤロー!!」

「知らねぇよ、てか何? おたく俺達の事もとっくに知ってたの? だったらさっさと合流すれば良かったじゃねぇか」

「将軍はともかく警察の俺がテメェ等攘夷志士と手なんて組める訳ねぇだろうが! それに何よりテメェに素性バレるのが一番嫌だったんだよ!! こういう事になるの目に見えてたからな!!」

 

キレたリーナが深雪の胸倉を掴んだまま揺さぶっていると、不意に茂茂が彼女の手をパシッと掴む。

 

「もう互いの情報確認は済んだか、ならとっとと行くぞ」

 

これ以上二人の不毛な争いを見ていられなかったのか、茂茂はキリッとした表情でリーナを見下ろす。

 

「俺達にもう時間はない、口を動かす前にまず足を動かすことが賢い選択だと思うぞ、アンジェリーナ=クドウ=シールズ」

「口挟むんじゃねぇぇぇぇ!!!!」

「お兄様ァァァァァァァァ!!!」

 

止めに入った茂茂にまさかまさかの顔面ストレートをお見舞いするリーナ。

直撃を受けてそのままぶっ飛ばされた茂茂を見て深雪は思わず絶叫の声を上げる。

 

「テメェよくもお兄様を! 今すぐ磔獄門にすんぞコラァ!!」

「ゲッ! しまったつい将軍の体を!」

 

つい反射的に恐れ多くも将軍の顔を殴ってしまった事に青ざめるリーナだが深雪はそんな事気にも留めず殴りかかる

 

「そんな事はどうでもいいんだよ! 俺のお兄様を殴ってタダで済むと思ってんのかぁ!」

「そっちぃ!?」

 

将軍じゃなくてお兄様(達也)を優先して一発食らわしてきた深雪に、一種呆気に取られてしまったリーナは避け切れずにその拳を横頬に浴びせられる。

 

「お兄様傷付け罪の罪で今すぐこの場で処刑してやらぁ!! テメェの罪を数えろ流行遅れの金髪ツインテ娘!!」

「調子乗ってんじゃねぇ!」

「うぶぇ!」

 

再度殴りかかって来た深雪にリーナはタイミング合わせてカウンターを彼女に食らわせた後、後方に飛ばされそうになる深雪の胸倉に手を伸ばして再び掴んでまたメンチの切り合いを始める。

 

「テメェこそ座敷童子みたいな見た目のクセに人の外見乏してんじゃねぇぞ!」

「オメェこそツインテール解いたらもうもうほとんど特徴ねぇじゃねぇか! ただのモブキャラじゃねぇか! ただの新八じゃねぇか!!」

「目腐ってるんじゃねぇのかお前! こちとら陽光に煌めく黄金の髪だの! サファイヤより輝く蒼き瞳だの呼ばれて超美人扱いされてんだぞ! テメェみたいな田舎っぺ娘と違うんだよ!! さっさと田舎に帰れ! 牛と年寄りの世話しながら婚活でもしてろ!」

「目が腐ってるのはテメェだろうが こう見えて俺は夜空より深き漆黒の髪だの! 黒真珠より黒く澄んだ瞳だのよくわからねぇ事言われてたんだぞ! てかホントどういう意味なんだ!? 褒められてるって事って良いんだよね!?」

「知るかそんな事! ぶっちゃけ俺もよくわかんねぇんだよ! なんだよサファイヤより輝く瞳って!」

「俺だって知るかぁ! 夜空より深き漆黒の髪とかバカじゃねぇの!」

 

顔を合わせて互いに唾を飛ばし合いながら口喧嘩をおっ始める二人を見ていたほのかは思わず「えぇ……」と困惑気味。異世界組である彼女は知らないであろう、この二人が元の世界では犬猿の仲だったという事を

 

「なんでこんな時に喧嘩始めてんのこの二人……挙句の果てにはお兄さんはっ倒すし」

「頑張って銀さん! 幕府のクソ犬なんかに負けないで!」

「美少女同士の罵り合い、まるでアイドルグループの楽屋みたい」

「この二人は全く止める気ゼロだし……会長に至っては逆に応援してるし……」

 

後ろには深雪とリーナの戦いを観戦して熱を上げる桂と、二人の事を携帯で動画撮りしている北山雫。

なんなんだろう、本当に世界を救う気あるのかコイツ等……ほのかが最初に感じていた不安を徐々に募らせているとリーナと深雪は叫び過ぎたのか疲れた様子で荒い息を吐きながら両肩を落とす。

 

「よしわかった、テメェの言いたい事は十分に分かった……それじゃあそういう事でいいんだな……」

「ああ、男に二言はねぇよ……」

「あ、ようやく終わったのかな」

 

てっきりただ互いに悪口言い合ってるだけかと思いきや何やら話をまとめていたらしい。

これでようやく喧嘩は終わりかとほのかが安心したのも束の間

 

突如二人はダッシュで通路の廊下を走り始めてしまう。

 

「「どっちが本当の美少女か逆ナン対決だァァァァァァァァ!!」」

「なんでそうなるのぉ!?」

 

すっかり本来の目的を忘れて何処へと駆け出して行ってしまう深雪とリーナに慌ててほのかが手を伸ばすが、暴走した二人はあっという間に走り去ってしまう。

 

「言っておくが今の深雪さんマジ敵無しだから!! この清楚な見た目と俺のテクニックを使えばその辺の男なんかイチコロなんだよ!! すっげぇエロい事だって出来るんだよ! 清楚で中身はテクニシャンっていうギャップが男の欲望を弄りたてんだ!」

「ほざけアバズレ!! テメェこそリーナさんの本気見て腰抜かすんじゃねぇぞ! パツ金ツインテ外人という最強属性をフルコンしたハイスペックマシンが動きだしたら数多の男は皆お前なんか見向きもしないんだよ!!」

「うるせぇブス!」

「お前の方がブス!」

 

再び口喧嘩を始めながら二人はあっという間に曲がり角を曲がって消えてしまうのであった。

 

「ああ行っちゃった……大事な事全部ほったらかしにして男漁りに行っちゃったよ……」

「青春ね、私も七草族でなく普通の家の子として生まれればあんな事に興じていたかもしれないわね」

「普通の家の子は世界滅亡を前にして男漁りに行く事なんて無いと思いますよ会長……」

 

しみじみとした表情で二人を見送っていた桂にほのかがボソッとツッコミを入れていると、雫の方は先程リーナに殴られていた茂茂を手を取って起こしていた。

 

「あの土方って人が現れた途端、銀さんが深雪っぽくなくなった気がする」

「そうかもしれないな」

 

何事もなかったかのように茂茂は立ち上がると状況を整理する。

 

「もしかしたら精神の浸食は周りの環境の変化も関係あるのかもしれん、銀さんは司馬深雪の兄である俺の存在が傍にあったおかげで浸食が早まり、逆にあの同じ世界出身の土方という人物が現れた途端浸食率が低下したように見受けられる」

「す、凄い思いきりぶん殴られながらも冷静にそこまで分析していたなんて……」

「さすおにさすおに」

「雫、なんかそれバカにしてるようにしか聞こえないんだけど」

 

常に冷静沈着に物事を1歩2歩見据える様に行動している彼にとってはこの程度朝飯前である。

素直に感心するほのかであるが、雫の方はさっき撮った深雪VSリーナの対戦動画の編集をしながら適当な感じで答えるだけ。

 

「じゃあ会長も私達と一緒にいれば改善の余地あるんですかね」

「いやもう会長はいいだろう、そっとしておこう。七草家には「お宅の娘さんは大気圏突入した時にうっかり外に出ちゃったから消滅しました」とでも誤魔化して向こうの世界に永住してもらおう」

「お兄さん会長に対してだけ冷たすぎない!?」

 

同じ世界の人間と共に行動すれば高まっていた浸食率が下がる可能性がある、その希望は完全に攘夷志士と成り果てた七草真由美にも効果があるのではとほのかは考えたのだが、茂茂は彼女の事に関しては全く諦めている模様。

 

「会長はもう自分の生き方を決めているみたいだからな、俺達がそれを邪魔するのも悪いだろう。会長、体が無事に元に戻ったら第一に何をやりたいですか?」

 

彼がおもむろに尋ねると桂は目をクワッと剥きだし大声で

 

「国家転覆!」

「な?」

「な?じゃないよ! 大丈夫ですよ! 体が元に戻ればいつもの会長に戻ってくれますって! 多分!」

 

諦めた様子の茂茂をほのかが必死に励ましていると、雫がふとある気配を感じた。

 

「……足音がこっちから聞こえてくる」

「え? 銀さん達が一周して戻って来たのかな?」

 

深雪達が行った方向とは違う通路から床を歩く足音が響いてきた。

足音からして恐らく人間ではあると思うのだが、ほのか達がそちらの方を眺めているとすぐにその人物が現れる。

 

「さてさてこの戦いが終わったらまずは新しき時代を作らねばならぬな……全くやる事がいっぱいで休む暇もなさそうだ、フフフ」

「あ、会長! じゃなかった確か桂さん!?」

 

出てきたのはメンバー内の中で桂と同じく危険因子の一人と称されている七草真由美だった。

何やら意味深なセリフを吐きながら現れるとすぐに「ん?」とこちら側に気付く。

 

「奇遇だなこんな所で会えるとは、まさかこちらの方の将軍も先に見つけてしまうとは」

「なにかあったんですか?」

「いや大したことじゃないから、本当大したことじゃないから」

「?」

 

意味深な言葉を呟く真由美にほのかが尋ねようとしても真顔で適当にはぐらかされてしまった。

なんか怪しいと彼女が思っている中、真由美の登場に桂がすぐに歩み寄る。

 

「どうですか桂さん、そちらの首尾は、こっちはもう達也君のガードが固くて大変なんですよー」

「フッフッフ、それはだな……おっとここで言ってしまうのは勿体ない。人目もあるので後程話してあげよう」

「えーなんですかそれー気になっちゃうじゃないですか、早く教えてくださいよー」

「フハハハハ、楽しみは最後に取っておくものだぞ真由美殿」

(改めて見ると長髪ロンゲの男が女口調で女子高生と話してるのは絵面的にキツいな……)

 

桂と真由美がキャッキャウフフと楽しげに会話している光景を内心気味が悪いと思いながら茂茂が見つめていると……

 

先程真由美が来た方角からダッダッダッ!と激しい足音が

 

「か~つらァァァァァァァァァァァ!!!!」

「この声は?」

「チッ、上手く撒いたつもりだったがもう追いついたか、まるで真撰組並みのしつこさだ」

「え?」

 

何処かで聞いた事のある声に桂が反応しているのに対し真由美の方はバツが悪そうに舌打ちしてはいるがどこか楽しげな様子。そして

 

「今回という今回は絶対に許さん!!!」

「ええ! 今度は渡辺先輩!?」

 

勢い良く飛び出してきたのは風紀委員長・三年生、渡辺摩利。何やら物凄い怒っているご様子で、部屋に入るやいなや即座に真由美を見つけると一気に飛び掛かる。

 

「捕まえた!!」

「捕まっちゃった~」

「あら摩利、元気してた? あなた坂本さん達と一緒に船で待機していると思ってたのに」

「この状況下で何のほほんと会話試みようとしているんだお前は……」

 

真由美を背中から羽交い絞めにしてそのまま床に伏せさせると、彼女の上にまたがり完全に拘束する摩利。

いきなりの行動に周りが面を食らう中、桂は一人笑顔で彼女に話しかけた。

 

「摩利どうしたのいきなり、桂さんを捕まえるなんて、まるであのクソカス真撰組共みたいよ? まだ引き返せるわ、私と一緒にやり直しましょう、一緒に革命起こしましょう」

「うっさいまずはテメーの頭を革命しろ! いいから邪魔をするな! 今からこのバカを徹底的に懲らしめてやる!! 死に晒せか~つらァァァァァァ」

「お兄さん、なんか渡辺先輩が般若の如き形相で無茶苦茶怒ってるみたいなんですけど……」

「どうやら何か良からぬことが起きたみたいだな、それもあの桂という男のせいで」

 

ツッコミ気質の彼女が何時にも増して激しい怒りを表している様子にほのかもただ事ではないとすぐに察知する。

そして茂茂もまたそれを理解し、急いで彼女もの下へと歩み寄る。

 

「先輩、一体何事ですか。何かトラブルでも」

「達也君もいたのか……正直君に一番話すのが酷なのだが言わねばならないな、何せ君自身にとって最も一大事な出来事が起きてしまったのだから」

「俺にとって?」

「落ち着いて聞いてくれ達也君……」

 

茂茂に対して少々話し辛そうな顔をするが、意を決したかのように摩利は彼の方へ顔を上げた。

 

 

 

「君の体は今、脱出ポッドによって宇宙へと排出されてしまったんだ」

「……は?」

「無論君の体にいる将軍ごとな……まあ詳しい説明は後にしておくよ、まずは……」

 

茂茂も思わず一瞬言葉を失う程の衝撃的事件。

なんと彼の本来の体である司馬達也の体は中にいる将軍と共にこの無限に広がる大宇宙へ発射されてしまったというのだ。

そしてそれを行ったのは

 

「そいつをやった元凶であるコイツに落とし前付けてもらうのが先だァァァァァァ!!」

「うごぉ!! キャメラクラッチ……!」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!! この人が将軍をそんな目に遭わせたのぉ!? いつも将軍倒すとか言ってたけど半分ネタかなんかだと思ってたのに!」

「なかなか出来る事じゃないよ」

「何感心してんの雫!?」

 

常々将軍を亡き者にしようと散々言っていたはものの結局は未遂に終わっていたのでほのか達から見れば結局口だけなんじゃないの?とか安易に考えていたのだが、やはり桂小太郎はそんじゃそこらの小娘では測れない傑物であった。

この世界の危機を前に遂に将軍打倒を成し遂げてしまうという事を”全く空気を読まずに”成し遂げてしまうのだから。

 

「そんな、てことはお兄さんの体は……」

「ああ、俺の身体の捜索は今からだと極めて難しい。何せ膨大に広がる宇宙で人一人探す事は砂漠の中でアリのコンタクトレンズ見つけるより難しいってかいけつゾロリが言ってたしな」

「お兄さんの口からかいけつゾロリが出て来る事も衝撃的だよ……」

 

サラッと児童向けの本の台詞を引用するぐらいの余裕は垣間見える茂茂だが、やはり事は一大事だ。こればっかりは見過ごす事はできない。

 

「とりあえず元凶であるこの男を抹殺する所から始めるとしよう」

「抹殺しちゃうの!?」

「手伝うぞ達也君」

「手伝うの!?」

「撮っていい?」

「撮るの!?」

 

摩利に拘束されている元凶である真由美の首を早速刎ねようと茂茂が腰に差す刀の鞘に手を置く。

雫が携帯で撮ってる中、摩利は彼の方へ真由美の首を差し向けた。

いやいやさすがにヤバいのではとほのかが口を挟もうとしたその時

 

「フッフッフ、手ぬるい、手ぬる過ぎるぞお主たち……」

「何!?」

「これしきの事で俺の首を取れるとでも? 逃げの小太郎と呼ばれ長年幕府の手を掻い潜り生き延びてきた俺を見くびってくれちゃ困る」

 

上から押さえつけられてなお不敵に笑う真由美、今すぐにでも首を刎ねられそうな状況下で笑みを浮かべると、彼女の目は突如カッと開く。

 

「必殺! 尻波絶対凍風《ケツカチブリザード》!!!」

「げ! うおわぁ!!!」

 

真由美が叫んだと同時に突然彼女の下半身から強烈な冷気が爆発したかのように周りに発生したではないか。

彼女の上にまたがっていた摩利は直撃を受けてしまって後ろにぶっ飛び、傍にいた茂茂達も顔を手で覆ってその衝撃波に備える。

 

「氷エレメンツの放出魔法!? てかあの人お尻から魔法撃たなかった!?」

「こんな隠し玉を持っていたとは……」

「いやそれより今お尻から! どんな魔術修業を積めばお尻から魔法が撃てるようになるの!?」

「お尻お尻うるさいよほのか」

 

ナンバーズでもあり強大な血統を有する七草家、その身体を利用した魔法はやはり侮れない。

周り一帯に強烈な冷気がほとばしり目も開けられない、寒さで体が震える中で術を行使した張本人である真由美はドヤ顔で立ち上がった。

 

「どどどどどどうだ俺のひひひ必殺尻波絶対凍風の威力はははははは!」

「撃った本人が一番寒がってるんだけど!?」

 

近距離でぶっ放してしまったので自分にも被害が乗じたのか歯をガチガチ鳴らし震えながらも強がって見せる真由美。

そしてそんな彼女をただ呆然と立ち尽くしながら見つめる者が一人

 

彼女と体を入れ替えた人物、本来の七草真由美である桂小太郎だ。

 

「そ、そんな……桂さんが……」

「ようやく気付きましたか会長」

 

呆然とした目で真由美を見つめる桂に茂茂が冷静に諭す。

 

「あなたが憧れていたこの男はやはり極悪非道の……」

「私達の憎き敵である将軍を亡き者にした上に、私の知らない魔法の行使まで取得していたなんて……あなたは一体何処まで底知れぬ御方なの!?」

「……は?」

 

ショックを受けてたかと思いきや急にテンション上がって歓喜の声を出す桂に茂茂は言葉を失ってしまう。

 

「さすが桂さん! 常々思ってたけどやはりそうだったんだわ! あなたこそ私のヴァンガード! 未来を切り開き新たなる夜明けを生む人類の先導者!!」

「さすヅラさすヅラ」

「さすヅラじゃない桂だ」

 

いつの間にか真由美の傍へ駆け寄り、彼女の両手を取って感動の涙を流す桂。

背後から雫がボソッと言ってる事に真由美は即座に訂正しながら桂にフッと笑う。

 

「真由美殿、そなたも見事な働きであった。正直勘の鋭い達也殿が傍にいたら無事に事を運ぶことが出来なかったかもしれぬしな、こうして達也殿を足止めしてくれていた事には感謝しきれん」

「そんな私なんて……」

「さあこれからが忙しくなるぞ、何せまだ肝心の将軍の体を持つ達也殿が生きているのだからな、手始めに……」

 

賛辞の言葉とまだ倒すべき相手がいるという事を伝えると、真由美は寒い身体を震わせながら桂の両手を取ったままフッと笑い

 

「凍えて動けなくなってしまっている俺をおぶってこの場から逃げ出してくれ」

「は! 御意のままに!!」

「完全に暗黒面に堕ちたよ会長!」

 

言われるがままに桂は動けない真由美をサッと背に背負い、一目散にこの場からダッシュで逃げ始めた。

入れ替わり組の中で最も仲が良いこの二人が、遂に真の意味で本当のコンビになった瞬間である、

 

「……お兄さん」

「大丈夫だほのか、まだ打つ手はある。あの裏切り者二人は後で粛清するとして早く銀さん達と合流しよう」

「いやそうじゃなくて……」

 

颯爽と駆け出して行ってしまう桂とその背中で「バイビー」とこちらに手をかざす真由美を見送りながら、ほのかはボソリと茂茂に呟く

 

 

 

 

 

 

 

「会長、アレもう元に戻れませんねきっと」

「そうだな、いっそ俺達の手で優しく葬ってあげよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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