魔法科高校の攘夷志士   作:カイバーマン。

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第二十三訓 驚愕&衝撃

西城・レオンハルトと陸奥が巨大ゴリラと一戦交えている頃。

 

「かかれぇ! 俺達地球人とゴリラの力を奴等に見せつけれてやるんだぁ!!」

「生まれ育ち、世界は違えど俺達は皆青き星にて生を受けた者達! 協力して敵を駆逐するのだ!」

 

 

それと同じ時間帯に近藤勲・十文字克人率いる反乱軍が助っ人としてやって来た真撰組と共にいよいよ蓮蓬軍と正面から向かい合っていた。

 

ここは下層部、蓮舫と化した地球人達が収容されている場所。地下で淡々と反乱を企てていた者達が遂に決起を始め、その数は少数ではあるものの、地下で見張り役として配置されていた蓮蓬の斥候部隊を倒すには十分であった。

 

『おのれ地球人! 我々の体となってなおまだ抗うか!』

『急いで上層部に報告だ!』

『すでに我等と同化した地球人達も援軍としてこちらに回せ!』

 

蓮蓬の部隊がプラカードを持ち出し急い伝令を飛ばそうとするも、その伝令役の前に華麗に着地する男が一人。

真撰組の鬼の副長として恐れられ、幕府の下で数多の攘夷志士を斬り捨ててきた猛者

 

「伝令役か、ならここを通すわけにはいかねぇな……ここはいわば地獄の窯底、それを管理するのは鬼であるこの……」

 

腰に差した刀を抜いて、静かに構えると、開きっぱなしの男の瞳孔が更にカッと開く。

 

「土方十四郎なんだぜ!! 土方十四郎がいる限り! ここから逃げると思うんじゃないぜ!!」

『ぐはぁ!』

 

刃の方でなく峰の方で伝令役を吹っ飛ばしながら、土方はマヌケな口調で戦っている部下達に激を飛ばす。

 

「お前等! 俺達真撰組の底力を見せつけてやるんだぜぃ! お前等にはこの土方十四郎がついている! 土方十四郎であるこの俺がいる限りこの戦は勝ったも同然! 全員この土方十四郎に続けぇ!!!」

「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」

 

真撰組だけでなく蓮蓬と化している地球人達も彼の雄叫びに応えて一斉に他の蓮蓬軍に襲い掛かっていく。

そんな中でもう一人暴れ回れ回っているのは真撰組一番隊長である沖田総悟。

 

「コイツ等蓮蓬を殺しちゃいけねぇってのが面倒だが、まあテメェ等程度の相手だったら問題ねぇか」

 

土方と同様刀を回して峰討ちの構えを取りつつ、次から次へと敵を減らしていくその姿は正に真撰組の特攻隊長。

剣の腕であれば真撰組随一とさえ称される程の天才剣士、そんな彼を止めるにはまだまだこの程度の数では足りない。

 

下層部での反乱は無事に成功、攻略するのも時間の問題であろう。

しかしこれはまだ序の口、中層部は更なる激戦が行われるであろうと共に、蓮蓬に完全に成り果ててしまった地球人とも戦わなければならない。本当の戦いはここからだ。

 

そんな中で、万事屋メンバーである志村新八は後衛の守備に周りつつ、ずっと前で戦っている土方を怪しむ様に見つめていた。 

 

「……やっぱ絶対変だろアレ……絶対土方さんじゃないって、あそこまで自分の事土方ですって強調されたら逆におかしいって……」

「そうだよね、やっぱ副長もどこかおかしい。もしかしたらさっき落ちて来たお女の子が本物の……」

「あ、山崎さん!」

 

新八が疑惑の目を土方に向けていると、いつの間にか隣にいた蓮蓬の体となった山崎がそれに賛同してくれる。

今現在、妙な事ばかり起きる中で、新八にとって情報収集に長けている山崎の存在はかなり頼りになる存在だ。

 

「どこ行ってたんですか山崎さん! 僕等と一緒に地下へ降りたっきり全然姿見えなくて心配してたんですよ!」

「すまないちょいと野暮用でね……それより旦那はどうしてるの? ていうか深雪さんって人」

「え、深雪さんですか? 深雪さんなら……」

 

何故か彼女の事を訪ねてきた山崎に、新八は蓮舫と反乱軍が群がっている方へと指を指す。

そこには同じ万屋メンバーである神楽と背中合わせの状態で、銀髪天然パーマを揺るがしながら木刀を振り抜く……

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

『げほぉ!』

 

襲い掛かる蓮蓬達を相手にバッタバタと木刀で豪快にぶっ飛ばしていく坂田銀時の姿がそこにあった。

 

「ったく揃いも揃って同じツラばっか出て来やがって……お前等やられ役にかまってる時間ねぇんだよこちとら……」

「ユッキー! 右からまた来たアル!」

 

何やら機嫌悪そうに木刀で肩をトントンさせながら蓮蓬達を睨み付ける銀時、そんな彼に一緒に戦っていた神楽が敵が来たと知らせると彼はすぐに目をカッと開かせ

 

「糖分切れてイライラしてんだよ!」

『うぐ!』

「どうせ出て来るならパフェ持って出て来い! もしくはみたらし団子でも可!」

『どぅへ!!』

 

襲われようが容易に避けつつ、木刀で突きながら強烈なカウンターをかましていく銀時。

とても本来の魂が入っていない身体とは思えない動きだ。

 

(強い……! この異常とも呼べるずば抜けた身体能力! 元の私の体ではこんな動き出来なかった! 魔法は使えずともこんなにもうまく戦えるなんて……!)

 

銀時の中にいる司波深雪は戦いつつ内心驚いていた、本来の体ではない筈なのに、戦えば戦う程体の動かし方が分かっていき、蓮蓬相手には引けを取らない程強くなってしまった。

更にこのまま戦い続ければまだまだ自分は強くなれる、そう確信する程この身体の力は計り知れない。

 

(見てくれはちゃらんぽらん、だが何故こんな男にこの様な力が秘められて、一体この男にどんな過去が……づ!)

「どうしたアルかユッキー! 急に頭抱えて!」

 

ふと坂田銀時という男の過去が気になった瞬間、銀時の頭に強烈な痛みが発生し、思わず頭を抱えて膝を突く。

心配して駆け寄ってくる神楽をよそに銀時が一瞬見えた光景は

 

 

 

人と人ならざる者が混ざり合った血生臭い戦場

 

そして築かれた屍の山

 

どこか見覚えのある男達と共に戦場を駆け

 

屍の山を乗り越え、喉が潰れる程の雄叫びを上げながら

 

異形の姿をした者達を斬り捨てていく

 

 

 

 

 

「は! チィ!」

 

ふと我に返った銀時はすぐにこちらの隙を突いて襲ってきた敵を蹴りで薙ぎ倒す。

 

(今頭の中で妙な映像が……血や死体の匂いまではっきりとわかるぐらいリアルな……今のは一体)

「おいユッキー! ボーっとしてないでさっさとコイツ等ぶっ倒すネ! 今のお前なら銀ちゃんには及ばないけど十分戦るネ!」

「って考えてる暇なんかねぇか、やれやれ少しぐらい私にも休みくれよコノヤロー」

 

ふと物思いにふけりながらも、すぐにここが戦場だという事を思いだし、銀時は木刀を握り直して蓮蓬達に逆に襲い掛かる。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

先程見た光景と同じく、喉が潰れる程の雄叫びをあげながら

 

異形の姿をした者達を斬り捨てていく。

 

(この身体で戦い続ければ更に強くなれる、あの人に護ってもらう必要がないぐらいに、あの人の隣に立つぐらい……いや)

 

目の前にいる最後の一体を強烈な一撃で宙に回せながら銀時は微かにニヤリと笑った。

 

(ずっと護られていただけの私が、逆にお兄様を護れるぐらいに!)

 

 

その想いに危うさを重ねて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ深雪さん滅茶苦茶強くなってる! ていうかもはや動きが完全に銀さんになってるし! 山崎さんアレまずいですよね! 浸食率80%はいってるんじゃないですか!?」

「戦い方や思考まで体にある記憶に影響されてる可能性があるね、もうあのままだと完全なる旦那となるのも近い」

「そんな! だったら蓮蓬を相手にする前に入れ替わり装置の破壊を優先しないと!」

「いやその前に新八君達にはやる事がある」

「え?」

 

一刻も早く二人を元に戻さねばならないのに、それより先にやる事などあるのか?と疑問に思う新八をよそに、山崎は自分の口の中に手を突っ込むとある物を取り出して新八の方へ差し出す。

 

「コイツは俺がずっと入れ替わり現象についての事を調べ尽くしたノート、『ZAKINOTE』だ」

「……なんかどっかで聞いた事のある名前なんですけど、ザキだから余計にアレと同じ類かと匂わせるんですけど」

「これを新八君に託す、そしてある時にこれを開いて欲しいんだ。それがきっと世界を救うチャンスになる」

「ある時って……」

「旦那と司波深雪、そして司波達也が揃った時だよ」

「なんであの三人が会った時……そもそも入れ替わり現象の事なんて僕等山崎さんのおかげで全部知ってるじゃないですか、今更これを読んでも何の意味が……」

 

やたらと黒く、白字で「ZAKINOTE]と書かれた胡散臭さこの上ないノートを託されて新八は眉を顰めるも、山崎は真剣な様子で話を続ける。

 

「俺が新八君に教えたのはあくまで蓮蓬が計画した内容だ、だがそこには蓮蓬達も知らない事も書かれている」

「蓮蓬でさえ知らない事って……山崎さんそんなのどうやって調べたんですか? いくら真撰組の密偵でもさすがにそこまで……」

「まあ偶然の産物って所かな……俺の口からは言えないけど、時期が来れば分かる筈さ」

「……今読んじゃダメなんですか?」

「新八君一人じゃ完全には読めないよ、魔法についての知識を持ってなければ理解できない」

「魔法!? 魔法って深雪さん達の世界にある奴の事ですよね!? 山崎さんがどうしてそんな事!」

「……」

「山崎さん……?」

 

何やら山崎の様子がおかしい、以前は聞いた事はちゃんと答えてくれたが今回はかなり曖昧な感じで全部は答えようとしてくれない。魔法に関するという事について調べたという事は山崎自身が魔法に詳しいという事。

なぜ真撰組の山崎が異世界の魔法の事について精通しているのだろうか……

 

「わかりました、言いたくないのならこの件については僕から問い出す事はもうしません」

「すまない……けれどこれだけは教えておくよ、入れ替わり現象による精神の浸食はマイナス効果だけじゃないんだ」

「……プラスにもなりえる可能性があるという事ですか? もしかしてそれが蓮舫の知らない現象という事なんですか?」

「ああ、でもそれが出来たとしても極めて危険な賭けなんだけどね、大いなる力には大いなる代償が必要となる、もしかしたらやらない方が良いかもしれない……でも俺は信じてるよ」

 

その現象は極めてリスクの高い超常現象とも呼べる存在であるらしい。

一体どんな事が起きるのか……不安に思う新八に対して、山崎は心なしか声のトーンが若干下がったような感じで彼に語りかける様に呟く

 

「”銀時さん”なら、入れ替わり現象において蓮蓬達でさえ知らない未知の領域に達する事が出来るんだと”僕”は信じてます」

「当たり前ですよ、あの人はデタラメだけどやる時はやるんです、それは長年見ていた僕が保証します」

「そう……か、それは……良かったよ……あの人はやっぱり……良い仲間に……恵まれ……る……」

「山崎さん!?」

「……やれやれ、声長変換装置がもう持ちませんね……まあこれ以上人の良いあなたを騙すのも心苦しかったのでよしとしましょう……それでは最後に一言だけあなたに……」

「!」

 

山崎の口から雑な機械音が鳴りだしたと思いきや、彼の声がガラリと変わった事に気付く新八、その声はまるで……

 

女性の様だった。

 

「かつて”僕等と共に戦ってくれた銀時さん”と、”私達の生徒会長”をどうかよろしくお願いします」

「……あなたは一体……うわ!」

 

最後にそれだけ言い残すと、突如新八の前に味方の部隊が一斉に押し寄せてくる。

恐らく新八が喋っていた間に下層部は陥落したのであろう、皆一斉に中層部へと向かう道へと走り出している。

その群衆に紛れ込んでしまった新八は、あっという間に彼……いや彼女かもしれない人物を見失ってしまった。

 

「……一体何だったんだ」

「あ、新八くーん!」

「え? ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

次から次へといろんな出来事が起こり混乱している新八をよそに、突如群衆を掻き分けて彼の下へやって来たのは

 

「久しぶりー、いや実は俺も沖田隊長に連れられてこっち来ちゃってたんだ、密偵としてこの辺調査してんだけど情報全然手に入らなくてさー」

「山崎さん!? しかも生身のままの山崎さん!?」

「え、なに生身のままって?」

 

なんと現れたのはいつも通りの人間の姿をした山崎退であった。

特に何も変化してる様子は無く完全に江戸で会っていた頃の山崎本人だ。

 

「なんで普通にいるんですか山崎さん!? 蓮蓬と体入れ替わったんじゃないんですか!?」

「え? いや俺は奴等に体乗っ取られてないよ、ずっと自分の体のままここまで来たんだから」

「ってことはやっぱり僕等がずっと山崎さんだと思ってた人は別人!?」

「ちょっと待って新八君、さっきからわけからないんだけど」

「僕だってわけわからないんですよさっきから!!」

 

一体なんだというのだ、山崎かと思ってたあの有能な情報提供者は山崎ではなく、山崎だと偽っていた別の人物だったという事がわかったのはいいが、一体全体何故そんな真似したのか見当もつかない。

当の山崎本人は困惑している様子で、新八もまた頭を抱えて叫んでいると

 

「おぃどうした山崎、下層部は完全に落ちたぞ。中層部で奴等がどんな風に待ち構えてるか偵察よろしく」

「あ、沖田隊長、いやなんか新八君の様子がおかしくて」

 

攻略し終えて山崎を探しに来たのか、沖田はいつもの済ました顔で何事もなかったかのようにひょっこり現れた。

それに気付いて山崎も彼の方へ振り向く。

 

「あ、おかしいといえば最近の副長もどこか変だし、それに沖田隊長もなんか違和感覚えるんですよね、局長はいつも通りですけど」

「ん? どこか違和感覚えるってどういう事でぃ」

「いやなんか前もそうだったけど最近やけに極端になったというか……なんていうか微妙に前の沖田隊長とは違うような気がするんですよね……ほら、あの時からですよ」

 

自分が少しおかしい言われて若干不機嫌になってる沖田を前に、山崎は人差し指を立てながら思い出す。

 

 

 

 

 

「俺とパトロール中に沖田隊長が突然謎の落雷を頭から受けた時」

「ああ、あの時か、でも俺あん時の記憶あんまねぇんだよな」

「凄ったですよホント、だって雷直撃したのに無傷でケロッとしてるんですもん、さすがにあの時の沖田隊長は本当にバケモンなんじゃないかと真剣に思っちゃうぐらいビビりましたよ」

「まあ俺ぐらいになれば雷食らったって屁でもねぇって事さ、俺にかかりゃ超電磁砲だって素手で受け取ってそのまま御坂美琴に投げ返してやるよ」

「いや御坂美琴って誰っすか?」

 

ちょっと前に落雷を受けたというのに全くピンピンしている様子の沖田に苦笑する山崎。

 

しかし彼等のやり取りを傍で一部始終聞いていた新八はというと

 

「い、今謎の落雷に当たったって言いませんでしたか……?」

 

冷や汗を垂らしながら怯えてるかのような目を沖田に向け、言葉は尋常じゃない程震えていた。

 

「無傷って事はそれって……つまりそういう事ですよね、銀さんや桂さんと同じアレ……」

「おいコラァ、雷食らったぐらいでなに良い気になってるアルか」

 

もしかしたら今目の前にいる沖田は……しかし本人は自覚が無い、それは一体どういう事だ……。

疑問を浮かべながら彼に尋ねようとする新八だが、突如戦いを終えたばかりの神楽が喧嘩腰で沖田に近づく。

 

「私だってな、ここ来る前に江戸で雷落ちて来たけど全然平気だったネ、自分だけだなんて思ってんじゃねぇゾ、私なんかビリビリの超電磁砲食らってもそれをご飯にかけて余裕で食べきる自信があんだぞコラァ」

「か、神楽ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!? い、今なんて言ったぁ!?」

 

どうだ参ったかという感じでドヤ顔を見せる神楽に対して驚いたのは沖田ではなく新八であった。

完全に思考が追い付いていないこの状況で、更に上乗せするがの如くとんでもない事をぶっちゃける彼女に新八はもうパニック状態に

 

「雷食らったんか!? 銀さんと達と同じ雷食らってたんか!? てことはもしかして銀さんだけじゃなくて神楽ちゃんも!?」

「ん? いや私は銀ちゃんと同じ雷じゃないネ、だって私は入れ替わってないし、私は私だってキチンと自覚してるアル、あの雷食らった事で変わった事と言えば」

 

自信満々に自分は神楽本人だと言い切ると、彼女は思い出そうとするかのように目を瞑って額に人差し指を当てる。

 

「せいぜい寝てる時に見知らぬ部屋でどっかであったような気がするオバはんと暮らしてる夢見る事ぐらいヨ」

「ふーん奇遇だなチャイナ娘、俺もあの雷食らってたから妙な夢見るようになったんだよな」

 

何やらおかしな夢を見るようになったと言う神楽に沖田が面白くなさそうに頷く。

 

「見知らぬ部屋でどっかであったような気がするおっさんと暮らしてる夢」

「はぁ? んだよそれ、サド野郎と似たような夢見るとか最悪アル」

「そいつはこっちの台詞だチャイナ娘、今すぐ見る夢変えろ、もしくはもう二度と寝るな」

「んなの出来る訳ねぇだろうが! お前が寝なければいいじゃねーか!」

「ざけんな、睡眠不足はお肌の大敵……あれ?」

 

神楽とのいつもの口喧嘩中に沖田はふと自分が言った事に疑問を浮かべて首を傾げる。

 

「なんで俺、肌の手入れなんて気にしてんだ?」

「男のクセになに女々しい事言ってるネ、マジキモイアル。あ、そういえばユッキーどこ行ったアルか? おーいユッキー! 私の目から見えない所に行っちゃダメヨー、お前は私達一族にとって大事な……今私なんか変な事言いかけたアル」

 

何故か自分が言おうとしてない言葉が勝手に出て来る……沖田と神楽は顔を合わせて数秒固まった後、同時に新八の方へ振り向いて

 

「なにか俺達に変な事が起きてるんで」

「すぐに調べてもらっていいアルか?」

「……」

 

新八はそんな二人をジト目で見つめながらしばらく硬直した後、スーッと大きく息を吸い込みそして

 

 

 

 

 

「すんませぇぇぇぇぇぇぇぇん!! さっきいなくなった人もう一度戻ってきてくださぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」

 

悲痛な思いで新八はひたすら叫び声を上げる。

しかしその声に返事する者は無く、ただ空しく地下牢で響くのみであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新八が様々な衝撃的な事実に追い込まれている頃。

そんな事も露知れず、司馬深雪はリーナと共に中層部をコソコソと動き回っていた。

 

「逆ナン対決でここまで来たが……」

「イケメンとどころか同じ面したバケモンしか見当たらねぇ」

 

同じゴミ箱に身を潜めながら、僅かに隙間を開けてそこから外を見渡す深雪とリーナ。

自分達がいる通路を埋め尽くすがごとく、大量の蓮蓬達がゾロゾロと隊列乱さず行進していた。

恐らく下層部がやられた事を聞きつけ、反乱軍の下へと向かう途中なのであろう。

 

「悪いが深雪さんはこんなレベルじゃ声をかける事さえしねぇぞ、小栗旬か菅田将暉レベルじゃねぇと橋本環奈クラスの美少女である深雪さんは満足出来ねぇんだよ」

「ケッ、誰が橋本環奈だ。小栗旬をテメェが落とせる訳ねぇだろ、俺は柳楽優弥なら余裕で口説けるけど」

「寝言は寝て言えや、テメェが落とせる男なんざせいぜいムロツヨシだ」

「お前だって所詮佐藤二朗ぐらいだ……!」

 

気付かれぬようにしながら二人は小声で口喧嘩をしつつ、蓮蓬達が通り過ぎるのをひたすら待つ、

 

しばらくしてようやく彼等は見えない所にまで消えていったのを確認すると、深雪とリーナはゴミ箱の蓋を開けて姿を現す。

 

「やっと行ったか、どうやら連中も本腰入れて来たって所だな、ってアレ?」

「おいちょっと待て、なんか出られねぇんだけど」

 

入ったはいいが逆に出る事が困難なようで、二人は見事にズッボリ挟まって中々抜けない。

 

「リーナさん、おたく太ってるんじゃありませんのこと?」

「太ってねぇ! こちとら社会の為に働き規則正しく生活してたんだ! それにこの身体になってからは愛用しているマヨネーズも脂質カットの方に切り替えて……ってオイ、マジで抜けねぇぞ!」

「ふざけんな! 敵陣のど真ん中でこんなマヨネーズバカとセットで身動きとれねぇ状態とか笑えねぇんだよ!」

「俺だってテメェみたいなブラコンバカとセットとかごめんだ! クソ! 本当に抜けねぇ!」

 

ガタゴトとゴミ箱を揺らしながらなんとか出ようとするも二人共自分が先に出ようとするせいで一向に抜け出せないでいた。こんな事している間にもまた蓮蓬の隊がこの廊下を通ってくるかもしれない……そんな事を二人が思っていた矢先、蓮蓬達が進んで行った方向とは反対の廊下から奇妙な音が聞こえてくる。

 

「うぇ~……皆さんどこ行っちゃったんですか~……」

「ん? おい今声が聞こえなかったか? なんか泣いてる様な声が」

「泣いてる声?」

 

いち早く気付いたのはリーナだった、すすり泣いてるかのように鼻を鳴らす音と不安そうな小さな声が耳に入り、深雪もまた何かの気配に勘付く。

 

「こんな所で一人にされたら私……私もう怖くて歩けませぇん……」

「誰かがこっちに向かって来てるみたいだな……あれ? この声どっかで聞いたような?」

「とにかく喋る事が出来るって事は蓮蓬じゃねぇって事だろ、つまり味方だ。おいそこの! ちょっと手を貸してくれ!」

「……ふぇ?」

 

リーナの叫びに反応してすすり泣く声がピタッと止まる。しばらくすると廊下の曲がり角から人影が見え……

 

その男が姿を現した。

 

「ったくこんな所で泣きじゃくるとかどんだけの臆病者……っていィィィィィィィィ!!!」

「お、お前はァァァァァァァァァァ!!!!」

 

リーナと深雪は呆れながらやって来た人物の方へ顔を上げると同時に目をひん剥いて驚きの声を上げる。

 

その男は左眼に包帯を巻き

舞う蝶の刺繍が施された着物をはだけたまま着飾り

腰には刀と愛用のキセルをぶら下げている。

 

二人はこの人物をよく知っていた。

 

「……」

 

男は二人の前にゆっくりと歩み寄ると、血走った目でこちらを睨み付ける。

 

その男の名は高杉晋助

 

攘夷志士の中で最も危険と称される程の過激派であり、強者揃いの奇兵隊の頂点に君臨するただ一人の人物。

 

「テ、テメェは高杉晋助……!」

「ウソだろよりにもよってここでお前と……ってアレ?」

 

まさかこんな所で高杉と遭遇するとは思ってもいなかった二人、だが深雪はふと思った。

 

「でも高杉ってもう俺等と同じ入れ替わり組だったよね? 確かウチの学校の生徒会の奴と入れ替わったって……」

「……てことは今目の前にいるのは高杉と入れ替わった……」

 

深雪が悟と同時にリーナもそれに気付く、二人は恐る恐る顔を上げたまま目の前にいる高杉をジッと見つめていると彼はゆっくりと目を閉じて、カッと再び目を開けたかと思いきや

 

 

 

 

「うえぇ~ん! 深雪さぁ~ん! 良かったこんな所でやっと知ってる人と会えました~!!」

「「えェェェェェェェェェェ!?」」

「私奇兵隊のみんなとはぐれちゃって……いつ襲われるんじゃないかとずっと怖かったんです~!!」

 

突然顔面に濃いモザイクがかかり高杉の表情が見えなくなる。しかし声から察するに思いきり泣いているのであろう、モザイク越しとはいえあの高杉の泣き声を聞いて、彼をよく知っている深雪は当然だがリーナも口をあんぐりと開けて我が目を疑う。

 

これが高杉晋助、世界をぶっ壊すという目的で多くの破壊工作を行い幕府にとっての脅威となった存在……

 

それが

 

「会えて嬉しいです深雪さ~ん! 一緒に会長の下へ帰りましょ~!!」

「ギャァァァァァァァァ!! その姿で抱きつかないでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

挟まって動けない状態でいる深雪に高杉は感極まって抱きついてしまうと、深雪は悲鳴のような叫び声を上げるのであった。

 

間もなく中層部での戦闘開始。

 

 

 

 

 

 


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