魔法科高校の攘夷志士   作:カイバーマン。

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第二十九訓 達也&茂茂

コレは今より少し前の出来事

 

そこは無限に広がる大宇宙、左も右も下も上を向いても目に見えるのは真っ暗な闇と微かに遠くで光る星々だけ。

そしてこの宇宙空間特有の存在である次元の狭間という入ったらどこへ飛ばされるかわからないという大変危険なモノも存在する。

しかし、目をよく凝らしてよく見てみるとそれ以外の物が次第に見えて来た。

 

それは徐々に大きくなりゆっくりとこちらへとやってくる。

 

 

宇宙船だ、全長42メートル、全高20、全幅は54といったところか。普通の宇宙船に比べやや小さい。

 

しかしその形状は宇宙船と呼ぶより飛行船に近かった。ボディは宇宙であるというのに皮製にも見え、船体後部には大きな垂直尾翼があり、海賊のシンボルマークである髑髏(ジョリー・ロジャー)が描かれている。船体の大部分は木と布で出来ており固有武装や装甲等は無く、とても宇宙を移動できるとは思えない代物だ。

 

 

そう、それはさながらどこぞのジブリ映画に出てた空賊一家が母船として使用していた飛行船のような見た目……。

 

しばらくそれを眺めていると徐々にその宇宙船らしからぬモノは近づき、底部にあるハッチが開く。

 

中に入れという事か、開いた場所を一瞥すると一切の躊躇を見せずに中へと入る。

 

中へと入って周囲を見渡すと、見た目は飛行船ではあったがやはり中身は普通の宇宙船と大差ない設備であった。むしろ普通の宇宙船よりも整っている。

 

「悪ぃ、遅くなっちまったな。なにせ向こうの世界はおろか元の世界でも宇宙船なんざ造った事ねぇからよ、技術者共と必死に頭振り絞ってようやく完成出来たぜ」

 

しばらくすると背後から気品すら感じるゆったりとした老人の声が

 

振り向くとそこに立っていたのはその声の主だけでなく複数の者達が出迎えてくれた。

 

皆見知った顔ばかりではあるが、実の所その体は本来の体ではない、彼等もまた入れ替わり組なのだ。

 

「しっかしかつては将軍であるアンタを殺そうと騒動起こしたお尋ねモンのジジィが、将軍の役に立つ日が来るとはな」

「まあ今のアンタはお尋ねモンじゃなくてどこぞの一族の執事に過ぎねぇからとっ捕まえる様な真似はしねぇさ、何より今の俺も警察じゃないんでね」

 

老人だけでなく今度は女性が口を開く。

 

「すんません将軍様、本当はもっと早くこれたんですがねぇ、どうも大急ぎで作ったモンだから思ったよりスピードが出なかったんでさぁ」

「でもようやくこれで銀ちゃん達の所へ辿りつけるアルな、将軍、道案内しっかりするヨロシ」

 

女性の隣に立っていた男性もきさくに話しかけて来た。

 

「きっと銀ちゃんや新八も私との再会を今か今かと待ち望んでいる筈アルな、何せ今の今までずっとヒロイン不在という作品としていかがな展開にずっと思い悩んでいた筈だろうし、これは早く行ってメインヒロインである私が登場しないと駄目ネ」

「おいクソバカ旦那、いつからテメェみたいなおっさんがヒロインになったんだ? それにお前将軍相手に何上から目線で命令してやがるんでぃ。目的地辿り着く前にテメェをここからダストシュートしてやろうか?」

「ああん!? やれるモンならやってみろよクソボケ女房! 返り討ちにしてブラックホールに背負い投げしたろかぁ!?」 

 

いきなり口論を始める男女二人はほおっておいて、無事に案内係を回収した事によってこの宇宙船は再び移動を開始する。

 

目的地は蓮蓬の母星、到着の時間は刻々と近づいてくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「という事があったのだ」

「まさか援軍の誘導役をやっていたとは……」

 

場所と時間は戻りここは蓮蓬の母星、中層部。

司波達也は自分の身に起こっていた話を徳川茂茂にしていた最中である。

聞く所によるとどうやら彼は地球から来た援軍を安全にここまで送り届ける事を目的とし自らを案内役とする為に、蓮蓬から勘付かれぬよう注意を払って脱出ポッドで宇宙を彷徨ったというらしい。

 

「桂はそれを知った上でアンタを宇宙に?」

「うむ、桂にはちゃんと全て伝えていた、直にここら近辺に余があの世界で要請していた援軍が遅れて来るとな」

「あの男……味方である俺達まで欺いていたという訳か」

「敵である蓮蓬達をかく乱させる為にはまず味方であるそなた達も謀ったのであろう、やはり食えぬ男だ」

 

てっきり桂が悲願達成の為に彼を無理矢理脱出ポッドに乗せて宇宙へ吹っ飛ばしたと思っていたのだが、どうやらしてやられてしまったらしい。

彼の策を見抜けなかった事に茂茂がますます落ち込んでいる中、達也は話を続ける。

 

「手筈通り援軍は蓮蓬に悟られず潜入に成功できた、だからこそ余はここに無事舞い戻って来れたのだ」

「援軍か……それは俺達の世界からか? それともアンタ達の世界からか?」

「そなた等の世界からの援軍ではあるが、中身は入れ替わっている、つまり余達と同じ入れ替わり組だ」

「何者だ?」

「そなたが知っている者達だ、と言っても中身は入れ替わっているので少々勝手が違うが」

「俺が知ってる者……?」

 

茂茂が司波達也として知ってる者であり、こんな宇宙まで来れるモノとなるとかなり限られる。

もしかしたら自分が何かと世話になっていた藤林響子も所属している軍事組織、独立魔装大隊ではなかろうか……

しかし宇宙船の確保ともなるといかに軍でも難しい、では一体どこの……

 

「援軍が遅れたのは宇宙船をゼロから造り上げたのも理由の一つだ、そなたの世界では宇宙船の技術に関してはまだまだらしいのでな」

 

何も言わずにいる茂茂に対し達也はいかにして援軍がやって来れたのかという経緯を語り始める。

 

「だが幸運であり皮肉にも、入れ替わり現象により余達の世界から、かつては”江戸一番のからくり技師”と称された技術者がそなたらの世界に現れていたのだ。その者の活躍により準備は短期間で練られ、現にここに来れるまでの宇宙船を開発するまでに至った

「宇宙船をそんなプラモ感覚で造れるとは何者だ?」

「かつて余を一度は手にかけて殺そうとした者だ」

「なに?」

 

無表情で語る達也ではあるが茂茂はそんな輩を信用して良いのかと疑念を抱くが、すぐに達也がフッと彼に笑いかける。

 

「案ずるな、今はもう余をどうにかしようとは考えておらぬらしい。ならばこそ、これを好機としてあの者に宇宙船の設計を頼んだのだからな」

「かつて自分を殺そうとした奴に助けてもらう為に信用としたというのか? とても正気とは思えないな」

「そうだな、歴代の将軍から見ればこれ程愚かな将軍は末代の恥と称するであろう……」

 

半ば自虐的にそう言う達也を茂茂はジッと見つめる。

やはりこの男と自分は相容れない、境遇は近しいかもしれないがやはり考え方が根本的に違うのだ。

こんな誰であろうと信じようとするお人好しと自分が真に理解出来るなど絶対にありえないと茂茂が考えていると、ふとちょっとした疑問が頭に浮かんだ。

 

「そういえばよくその援軍のいる所まで宇宙空間を移動出来たな」

「うむ、水中と違い宇宙を泳いだのは中々の難儀であったぞ」

「それもそうだ、目的地の定まらない宇宙で泳ぐとなると中々……え?」

 

聞き間違えたのか今彼は宇宙を泳いだと言ったような……

途中で茂茂が気付くと達也は至って平静な表情を浮かべたまま

 

「脱出ポッドは簡単な移動は出来たのだがどうも遅くてな、ゆえに急な事態であるから泳いで宇宙船に辿り着いたのだ」

「……脱出ポッドから出たという事は……生身か?」

「うむ、生身でクロールして泳いだ」

 

残念なことにやはり聞き間違いではなかったようだ。

 

見渡す限り広大な大宇宙をクロール一本で制覇……

 

想像して固まる茂茂に達也は話を続ける。

 

「実はそなたとこうして入れ替わってる間に色々と魔法の勉強を独学で学んでいてな、それがキッカケなのかそなたの類稀なる才能のおかげだったのかわからぬが「宇宙遊泳」という魔法式を開発したのだ」

「……ちょっと待て、いやちょっと待ってください……宇宙を生身で泳げる魔法……? 未だかつてそんな狂気じみた魔法式を組み入れられた魔法師は過去一度も存在していないぞ?」

「それもそうであろう、この様な魔法式など普通に暮らしていればなんの役にも立たぬ、やはり余には魔法師としての才能は無いという事だ……この体はやはりそなたが一番相応しい」

「いやむしろ将軍辞めて魔法師として道を進んだ方が良いと、いや進んでくださいお願いしますと全力でおススメ出来るレベルだぞ、アンタ以上にその体を扱える自信が俺には無い、というか今後司波達也として生きる資格すら無いんじゃないかと思って来た」

 

宇宙空間を自由自在に動き回れる魔法など、公式に発表すれば間違いなく世界がひっくり返るのは目に見えている。

今現在自分が技術化させようとしていた「飛行魔法」など吹いて消える様な大偉業だ。

銀雪に悟られブルーに陥っていた茂茂は更なる追い打ちを掛けられ、もはや司波達也としての自信さえ消失しかけるが、そんな彼もまた達也はほおってはおかない。

 

「達也、余が連れてきた援軍はきっとそなたにとって大きな助けとなるであろう、これしきの逆境など難なく跳ね除ける程の強者揃いだ、だから安心してあの者達に背を預けろ」

「……悪いが自分の背負ったモノを誰かに託すような真似は出来ない、そいつ等がどれ程強く頼もしくても、俺にしか出来ない事、俺でしか出来ない事があるんだ」

 

援軍が来た事によってこの戦いも少しは楽になるであろう、しかしだからといってやはり茂茂は考えを改める様な真似をおいそれと簡単には出来ないでいた。

 

彼は生まれながらにしてそういった宿命を背負い続けていたのだ、その荷を簡単に下ろす真似などしては今まで身を粉にして孤独に戦って来た意味が無い

 

「妹である深雪だけはどうしても俺が護らねばならないんだ、例えあの男(銀時)に蔑まれ、深雪に拒絶されても俺の道はやはりこれしかないんだ……」

「それは違う、達也、そなたは一つ大きな勘違いをしている」

「なに?」

「人の道は一つではない、無数にある道を進んで様々な成功や失敗を繰り返してこそ人間なのだ」

 

達也の目は本来の自分の目とは思えない程澄んでまっすぐだった。

茂茂はまるでその目と合わせたくない様に視線を下ろして床を見つめる。

 

「そんな生き方を俺には到底出来ない、俺は普通じゃないんだ。道を変えた俺に何が出来る? 何処に行けば自分に合うのかすらわからない、だからこそ俺はこの道しか進まない」

「進まないのではない、進めないのであろう、ならば余がそなたと共に進もうではないか」

「!」 

「自分に何ができるか?じゃなく、自分に何が合うか?じゃなく……」

 

反射的にハッと顔を上げた茂茂に、達也はスッと手を差し伸べる。

 

 

 

 

「本当に心が一番選びたいモノを選んで行け、達也」

「……」

「もう一度聞こう、そなたが歩みたい道はなんだ、安心しろ、いかなる道であろうが余がどこへでも共に歩いていってやる」

「俺は……」

 

しばし言う事に躊躇する姿勢を取るが、意を決して茂茂は彼に対しゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

 

「深雪に心配かけられない程強くなりたい、あの坂田銀時よりも強く。そして妹が安心して笑って暮らせる為に、二つの世界をこの手で護る」

 

やはり銀時に対して並々ならぬ対抗心があるのは確かな様だ、決意の内に込められている彼の本当の言葉を聞いて

達也は苦笑しつつ静かに頷いた。

 

「やはりそなたは本当に妹思いなのだな、どこの道を進んでも言ったというのに結局妹絡みか。そこまでいくと正気とは思えぬぞ?」

「お互い様だ茂茂、それでどうだ、俺とも共についてくる気はあるのか?」

 

達也が差し伸べていた手を茂茂が強く握りながら笑い返す。

そして達也もまた彼に笑みを浮かべ

 

「いいだろう、将軍ではなく友として、そなたと共に道を歩もう」

 

互いに握手を交え笑みを浮かべると突然変化が

 

二人の間から突如眩しい光が発生し、二人の姿が見えなくなるのであった。

 

今ここで、それぞれの人生を歩み全く別々の道を歩んでいた二人の男の道が

 

交差して重なり合い、新たな道が作られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、彼等から少し離れた場所で、鬼兵隊や坂本辰馬、そして無事に合流した北山雫と光井ほのかは

 

次第に数を増やして攻めにかかって来る春雨に苦戦していた。

 

「やっぱお兄さんと将軍様をほおっておいて行っちゃったのはマズかったかな……将軍様が先に行っててくれって言ったから来たんだけど……」

「ほのか、後ろ後ろ」

「え? ギャァァァァァァァ!!!」

 

茂茂達を心配しているのも束の間、雫に指を指されて背後に振り返るほのかの目の前にまたしても異形の姿をした天人が。

 

「悲鳴を上げている場合か! 早く退け!」

「あ、はいすみません!」

「モタモタしてるとアンタ等にも流れ弾お見舞いするっスよ!」

 

しかし颯爽と鬼兵隊の河上万斉が現れ、ほのかに襲い掛かろうとした天人は一瞬で斬り伏せられた。

そして来島また子もすかさずフォローに入り、両手の銃で次々と敵の額に風穴を開けながら檄を飛ばす。

 

万斉やまた子が勢いよく数を減らしていくもやはり数の暴力を抑えるには限度がある。

共に戦いたいのは山々だが、今のほのかと雫は神威戦の影響でまだまともに動ける状態ではないのだ。

 

「どうしよ雫、こっちにも敵がわんさかいるしこのままだと……」」

「弱気になっていけませんよお嬢さん」

「うわ! なんかいきなり変質者っぽい人が!」

「変質者ではありません、フェミニストです」

 

力になりたいのではあるが今の自分達では何も……

そんな不安に駆られているほのかの前にいつの間にか鬼兵隊参謀、武市変平太が現れ、ほのかはますます不安に陥る。

 

「あ、あの……なんか用ですか? 何もないなら話しかけて欲しくないんですが……」

「バリアー、ここより先は変態が入ってはいけません」

「ふむ、思春期の少女はどうもおっさんに対しての警戒心が強いですね。ですが安心しなさい、私はフェミ道を究めたフェミニスト、ゆえにあなた達の為にとっておきの秘策を伝授してさしあげましょう」

「秘策?」

「我々には出来ず、あなた達にしか出来ないこの状況を覆す必勝の策です」

 

武市を見て何か危険なモノを察知したのか、他人には基本的に優しいほのかが珍しく警戒心を剥き出しに。

雫もまた両手を出してこれ以上近づくなとアピールしている。

しかし武市はこの程度の拒絶などでへこたれはしない。

彼には彼女達の心を開かせる”とっておき”を持っているのだから。

 

「ささ、お二人共すぐにこのスク水を着て戦場に立ってください、その成熟しきっていない魅力的な成長度具合だからこそ成り立つ抜群のスタイルで我々の士気を、主に私の昂ぶるこの感情を高揚する事に一役……」

 

真顔でスク水取り出す者など変質者以外の何者でもない。

ほのかと雫は残ってる力を振り絞って武市を地面に倒してそのまま容赦なく無言で何度も踏みつけるのであった。

 

一方その頃、鬼兵隊にとって最優先で護衛すべき対象である高杉晋助は現在顔面にモザイクかけながら必死に走っていた。

 

「ひぃ~助けてくださぁ~い!」

「ギャハハハ! モザイクで上手く顔は見えねぇがありゃあ高杉だぁ~! みんな殺っちまえぇ!」

「うえぇ~ん!!」

「高杉……だよな?」

「モザイクかかってるからわかんねぇけど……なんか泣いてね?」

 

高杉は時に春雨と手を結びはしたものの、最終的に手を切り彼等へ甚大なる被害を与えた事があり、春雨にとっては見つけたら即抹殺するべきと称される程のお尋ね者なのだ。

 

顔にモザイク掛けて逃げ惑う彼の姿を見て春雨の隊員は困惑しつつも、三人がかりで彼一人に襲い掛かる。

 

しかし

 

「させるかぁ!」

「どぶるち!」

「会長!」

 

高杉目掛けて斬りかかった一人をすかさず背後から一太刀浴びせたのは桂小太郎。

間一髪の所で高杉を助けると、すかさず彼の前に立って残った二人の隊員に対して血に濡れた刀を突き付ける。

 

「私の所の大事な生徒を手に掛けようものなら生徒会長であるこの私が許しません!」

「わぁ会長カッコいいですぅ~!」

「フ、決まった……ここでカッコよく敵を殲滅すればきっと桂さんも私を置いて行った事を後悔してくれる筈……」

 

察そうと救いに現れた生徒会長に背後で賞賛する高杉、しかし敵は一瞬怯みはしたもののすぐに体勢を立て直し二人に襲い掛かる。

 

「今度はあの桂か! やっちまえ!」

「二人揃って殺してやらぁ!」

「かかって来なさい、桂さんの体を借りてる以上、私は絶対に負ける訳にはいかないのよ」

 

刀の扱いなど元の体で会った時は手に持つ事さえ無かった。しかし大事な生徒がいる以上、何より桂との絆をより深くする為に、攘夷志士・桂小太郎は、否、生徒会長・七草真由美はここで退く訳にはいかないのだ。

 

「奇遇ね生徒会長、私もこんな体でくたばりたくないわ」

 

そしてその心意気に応えるかのように、突如横方から複数の弾丸が桂達に襲い掛かる隊員に浴びせられた。

桂達が振り向くとそこには、銃口から硝煙を放つ坂本辰馬の姿が

 

「どうせ死ぬんだったら自分の体で死ぬわよ、と言ってもこんな連中に殺されるんじゃなくて普通に長生きして畳の上で死にたいって事だけど」

「あのーごめんなさいエリカさん、余計な事しないでくれませんか。今私桂さんからの好感度爆上げの為に頑張ろうとしてるんです、お願いですから邪魔しないでくれません? マジで?」

「何コイツ助けてやったクセに何半ギレしてんの? マジなんなのコイツ? 化け物と一緒にコイツもセットで撃ち殺しておけば良かった」

 

せっかくキメ台詞まで吐いたというのに、桂に水を差されるどころかややキレ気味の口調で責められてカチンとくる坂本ではあるが、すぐに銃を構えながらどこからでも襲われて対処できるように、彼等と円形の陣を組んで立て直す。

 

「ホントこんな奴が生徒会長なんてどうかしてるわよ、アタシ元の世界に戻ったら速攻退学届け出すわ」

「そんな事生徒会長である私が許しません、私が元の世界に戻った暁には、学校を大改革して攘夷志士育成学校を築くつもりなんですから、あなたにはこの戦いを経験した功労者として幕府を討ち滅ぼす為の先陣になってもらわないと」

「ますます学校行く気失せたわ、てかウチの世界に幕府なんて存在しないわよ」

「そうでした、なら代わりに十師族を討ち滅ぼします」

「実家もろ共滅ぼす気!?」

 

桂の恐るべき野望を聞きながらツッコミを入れつつ坂本は引き金を引いてあちらこちらにいる敵に銃口を定めて連射する。

 

「下らない話は置いといて今は敵に集中しなさいよ! 鬼兵隊の連中もなんとかやってるし、あの二人組は変態踏みつけてるしアタシ達も全力で生き残るわよ!」

「無論よ! 私と桂さんの輝かしい未来の為にまだ死ねないのよこっちは!」

「うう~……」

 

遠くにいる敵を坂本が、近づいて来る敵を桂が対処して次々と撃破していく。

そんな二人を近くで眺めながら高杉は歯がゆない様子でうろたえている。

 

(私にも何かできたら……でも今の私なんかに出来る事なんて……)

 

同じ入れ替わり組である二人が慣れない体で奮起している様子を見て高杉は一人落ち込む。

いつも鬼兵隊や他のみんなに護られてばかりいる自分自身に「怯えてないでシャキッとしろ!」と言い聞かせるのだが恐怖で思うように体が動かないでいた。

 

すると春雨の隊員が隙を突いて彼一人目掛けて飛び掛かる。

 

「高杉かくごぉ!!!!」

「しまった! あーちゃん!」

「きゃあ!!」

 

桂の声空しく、その敵の白刃は怯えて片目を伏せる高杉目掛けて振り下ろされる。

 

しかしその刃が高杉の頭部に当たる直前……

 

 

「げっぱぁ!!」

「え!?」

 

突如敵は空中で苦悶の表情を浮かべたかと思いきや一瞬にしてまるで塵と化したかのように消失してしまった。

手に持っていた刀はコロンと高杉の目の前で落ち、突然の出来事に困惑していると

 

「『雲散霧消』を発動してもなんらおかしい所は無いな、むしろ物質への構造情報への干渉が元の体よりも早くなっている気がする、これが俺と茂茂の成せる業という事か」

 

スッと音もなく高杉達の目の前に何者かが現れた。

 

その者は高貴かつ気品あふれる出で立ちをし、橙色の衣を袖を通して着飾する姿はまさに江戸の象徴とも呼ぶべき存在、右手には徳川の家紋が鞘に彫られた刀、左手には拳銃形態の特化型カスタムメイドCAD、『トライデント』が握られている。

 

(あの銃はトーラス・シルバーが設計したCAD……まさか!)

 

数々の功績を次々と上げて魔法界全体の進歩させたことで有名な謎多き存在、トーラス・シルバーがモデルしたとされるそのCADを見て高杉はハッとした表情を浮かべて顔を上げる。

 

それを手に持っていた人物は

 

「無事で何よりです、中条先輩」

「も、もしかして司波君!?」

「いえ、残念ながら今の俺は司波達也ではありません」

 

その顔は自分より一年後輩でありながらも類稀なる才能を秘めているともっぱらの噂の司波達也であった。

しかしその服装や右手に持っている刀など、更に元の世界にいた時とは雰囲気が変わっている事に高杉は気付く。

まるで一国の王であるかのような強いオーラがバックから溢れんばかりに放たれているのだ。

 

「余は江戸幕府第14.5代征夷大将軍」

 

視界に入る敵の数を計算しつつ、その者は刀と銃を手に持ち構える。

 

「”徳川達茂”だ」

 

全員をものの数分で仕留められる計算を完了すると、将軍・徳川達茂が一歩前に出る。

 

「将軍の御前だ、頭が高いぞお前等」

 

口元に僅かな笑みを浮かべ、新たなる融合体が戦場に現る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の将軍の台詞には銀魂実写版の主題歌の歌詞の一部をパク……引用しています。

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