魔法科高校の攘夷志士   作:カイバーマン。

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第三訓 追跡&宿敵

日が昇り外が明るくなった頃、深雪は自宅にて朝食のトーストを食べながら死んだ目でテレビを見ていた。

 

『世界会議にて各国の代表達が暴れ回り多くの負傷者を出したこの事件、なぜこんな事が起こったのかは不明ですが世界会議が開く前の講堂に突如巨大な落雷が降ったとの情報が……』

「んだよ結野アナの天気予報とかやってねぇの?」

 

テレビに向かってブツブツ文句を垂れながら深雪はトーストを口に加えたまま制服のカーディガンを上から羽織る。

 

「あーあ、朝から結野アナの顔が見えないとか最悪だよこの世界、さっさと結野アナのいる世界に戻りてぇよ」

 

トースト口に加えたまま器用に喋りながら深雪は制服を着替え終えると座っていたソファの上から立ち上がる。

 

「しかし随分とまあ、いい家に住んでるわホント」

 

深雪が、というより深雪の中にいる男がこの家に初めて来たのは昨日の事であった。

何者かは不明だがここの住所が書かれた紙を手渡され、深雪は疑いもせずにこの家で一晩明かした。

見慣れない家具も多いし長居する気はないし、何より他人の家に勝手に上がりこんで泊まってる気分なので心中複雑な気持ちで辺りを見渡す。

 

「兄貴と二人暮らしで良かったよ、親でもいりゃあ余計面倒な事態になってたからな」

 

そんな事言いながら深雪がガチャっと自宅から出るドアを開ける。

そして外に出ると、ふとドアの傍にある物が立てかけてあるのを発見した。

 

「……」

 

深雪はただそれをジト目で見下ろす。

 

それは柄の部分に『洞爺湖』と彫られた木刀。

まだ坂田銀時であった時に使っていた愛刀と酷似していたモノであった。

「……ったく」

 

立てかけられたその木刀を深雪は手にとって見る。

さすがにいつも握ってる愛刀とは重さも肌触りも若干違う。どうやらこの世界で出来る限り自分の木刀を再現したつもりらしいがやはりあの愛刀に比べるとどこか違うのがよくわかる。

 

深雪はそれを家の前で適当に振ってみた後、肩に掛けて

 

「姿も見せずにコソコソとこんなモン贈りやがって……一体俺にどうしろってんだよ」

 

未だ見せないその正体に悪態を突きながら、深雪はそのまま情報収集の為に学校へと向かうのであった。

 

そして校門でその木刀を即風紀委員に取り上げられたのは言うまでもない

 

 

 

 

 

 

「なに? 姿を見せぬ協力者だと?」

 

学校が始まってから数時間後、深雪は真由美と二人で食堂で昼食をとっていた。

他の人の目もある生徒会室ではなく、二人だけで話をする為に深雪が彼女を連れてきたのである。

 

「司波深雪の住所教えたり俺が使ってた木刀に出来るだけ似せたようなモンが家のドアに立てかけられていたりよ、そっちは昨日出会った風紀委員の女に奪われたけど。オメーはそんなの無かったのかよ」

 

深雪が今食べてるのはどんぶりサイズのご飯の上に宇治金時を乗せた炭水化物に炭水化物をトッピングさせたとんでもない化け物。

周りの生徒がそれを見て気分悪そうにしているのも知らずに深雪は食べながら向かいでそばを食べている真由美に尋ねる。

 

「俺の所には来てない、こうしてお前に言われて初めて知った」

「オメー嫌われてんじゃねぇの?」

「嫌われてないたまたまだ、たまたま。そういう人が嫌がる事を平然と言うな」

 

不機嫌そうにそう言いながら真由美はズルルっとそばを吸い込むように食べる。

 

「しかしお前の名を知っている所から察してその者は俺達と同じようにこちらの世界に来た人物と捉えるべきだろうな、心当たりはあるか銀時」

「検討もつかねぇな、コソコソと姿を隠して協力してくれる奴なんて、コソコソ隠れるストーカーなら候補が二人ほどいるけど、ゴリラとメス豚とか」

「うーむ、出来れば深雪殿の兄上殿を探す事にどうにか助力してもらえないだろうか……」

 

二人で口に物入れてクチャクチャ音を立てながら会話していると、二人のいるテーブルにふと一人の女子生徒が近づいてきた。

 

「生徒会室に来ないと思ったら二人してなに話してるんだ」

「おお、摩利殿」

「その殿って付けるのはいい加減止めてもらえないか……?」

 

やってきたのは昨日の生徒会の会議をなんとかまともにしようと一人で頑張っていた渡辺摩利。ちなみに今日の朝、深雪から木刀を取り上げたのも彼女である。

 

「しかし真由美のそばはともかく……司波が食べてるのは一体なんなんだ? 見てるだけで胸焼け起こしそうだ」

「決まってんだろ、宇治銀時丼だよ。欲しいって言ってもあげないからなー、ほれほれー」

「金を貰ってでも絶対にそんなの食いたくないし見せつけるように食べるな、羨ましくもなんともない、それより真由美」

「む?」

 

こちらにドヤ顔を浮かべながら宇治銀時丼などという奇怪な物を見せびらかすように食べる深雪を一蹴した後、摩利は真由美のほうに振り返る。

 

「中条が学校に来なくなってもう一週間になる、自宅に電話したが帰ってこずにフラフラ出歩いているらしい、警察に相談して捜索隊でも出してるが見つからないんだと」

「なんだと! あーちゃん殿が!?」

「もしかしたら行方不明になってる達也君と関連性があるかもな、今すぐ早急に調べて……」

「そんな悠長な事を言っている場合ではない!」

 

摩利の報告を聞いて真由美はダンっと力強くテーブルを叩きながら立ち上がる。

 

「大事な仲間である生徒会の一人が家にも帰らず外を出歩いているなど我ら生徒会にとって緊急事態だ!! あーちゃん殿は非行に走るような人間ではなかった! きっと彼女なりの理由があって我々の前に姿を現さないのだ!!」

「だからその理由を調べるんだろう」

「調べるだけで解決など出来ん! 我々生徒会が一丸となってあーちゃん殿の捜索を行い必ず見つけ出す! そうだろ銀……深雪殿!!」

 

うっかりいい間違えしそうになるがすぐに訂正して彼女の名を叫ぶ真由美。

だが深雪は宇治銀時丼を食べながらめんどくさそうに

 

「俺パス、飯食い終わったらこのまま学校サボって兄貴探しに行くから」

「貴様それでも侍かぁ!!」

「いや真由美、深雪は侍じゃないから」

 

あっけらかんとした感じで断る深雪に真由美がブチ切れるとすぐに摩利が彼女の肩を掴んで抑える。

 

「我々の仲間を一刻も早く救わなければいけないのだ! 同じ生徒会であり書記であるあーちゃん殿を見捨てるというのか!」

「いや俺そいつの事知らねぇし、誰だかしらねぇ相手をいきなり探せって方がおかしいだろ」

「薄情者め!! もう貴様など知らん! 例え俺一人でも探し見つけてやる!!」

「お、おい真由美!」

 

冷たく言い放つ深雪に真由美は怒り心頭で摩利の手を振り払ってどっか行ってしまう。

それを慌てて追おうとする摩利に深雪は

 

「ほっとけよ、生徒会のゴタゴタに風紀委員長様が首突っ込む事もあるめぇよ」

「……」

 

宇治銀時丼を食べ終えて彼女にそう言うと深雪はゆっくりと立ち上がる。

 

「それより俺の木刀返してくれない? あれ貰ったばかりだからロクに試し振りもしてねぇんだわ」

「……ほう」

 

さっさと返せとこちらに手を出す深雪をしばし眺めた後、摩利はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「生憎だが校内に無許可でなんらかの理由も無しに凶器に扱えるものを持ってくるのは重罪だ、だがもしなんのお咎めもなしに返して欲しいのであれば、それ相応の事をやってもらおうか」

「……は?」

 

よからぬ事を企んでいる顔だ。深雪は彼女にそんな事を思うと同時に嫌な予感を覚えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「オイ、この辺でこんな制服着た子見なかった?」

 

深雪は今、電車で1時間ぐらいかかる距離の所までやって来ていた。

エリートコース確定である第一高校の制服を着ている深雪がいるのは少々場違いな場所であり、治安もあまりよろしくない所であった。

 

噂ではマフィアや密売人などが巣窟としている程ブラックな繁華街らしいのだが

 

「ったく本当にこの辺にいるのかよ、なあ」

 

さっきから地道に聞き込み始めてから数十分、深雪はふと背後に立っている彼女の方に振り返った。

 

「授業サボって学校抜けだした不良風紀委員長殿」

「それはそっちもだろ不良生徒会書記殿」

 

皮肉に皮肉で返すと、摩利は深雪の方に近づく。

 

「中条がこの辺で見かけたという情報が風紀委員のデスクにあってな、一体誰がそんな事をしたのか知らないが、とにかくガセではないと願いつつ探してみる他ないだろう」

「ったくよぉ、こちとら兄貴探さないといけねぇってのに、どうして他の奴も探さなきゃならねぇんだよ」

「言っておくがしっかり契約したんだ、忘れたとは言わせないぞ」

「わーってるよ」

 

念を押して忠告してくる摩利に深雪がけだるそうに返事すると、腰に着けた革製のベルトに洞爺湖と彫られた木刀を差しているのが見えた。

 

「ったく人の私物奪っといてそれ返す代わりに手伝えとか、飛んだ性悪風紀委員長だぜ」

「そうか? あのタイミングで木刀を返せとか言う辺り、むしろ条件を提示して自分をアゴで使ってみろと私を試してるみたいだったぞ」

「……」

 

僅かに口元に意地悪そうに笑みを浮かべるのを深雪は無言で目を逸らしてバツの悪そうな顔を浮かべる。

 

「あんなバカ生徒会長の事なんかほっとけよ、最近イメチェンしてすっかり変わり果てちまったんだろ。さすがに愛想尽きるだろあんなんじゃ」

「お前が言うのか……? いやまあ確かに宇宙人に洗脳されたんじゃないかと思うぐらい性格が変わってしまったが」

 

小指で鼻をほじりながらけだるそうに尋ねて来る深雪に摩利はため息を突く。

 

「仲間の事を想い、仲間の為に怒り、仲間の為に助けようとする。どんなに性格が変わろうともそこだけは変わる事が無いアイツを、私は見捨てる事が出来ないだけだ」

「不器用な奴だねぇ」

 

摩利目掛けて小指を親指で弾きながら深雪は短く呟く。

 

「そんな性格じゃ野郎共より女にモテちまうタイプだろ、それじゃあ結婚できねぇよ、俺の知り合いにも似たような女共がいるし」

「いやこう見えて私には婚約者が……てか今ハナクソ飛ばしてきただろ、わかってたんだぞこっちは」

 

さり気なく汚いモンを飛ばしてきた事に気づいていた摩利は深雪の頭を軽く叩いていると曲がり角を曲がった所で数十人の人だかりが出来ているのを発見した。

 

「何事だ、行ってみるぞ司波」

「ええー、どうせ酔っ払い同士の喧嘩見てる野次馬だろー?」

 

あまり乗り気でない深雪を連れて摩利はすぐに現場に急行すると

その人だかりの中心には見知った顔が

 

「あーちゃん殿ぉ! ここにいるのはわかっている今すぐに出てこぉぉぉぉい!!!」

 

群衆の真ん中に立っている少女、七草真由美が手に持った拡声器を使ったまま声高々に叫んでいた。ただでさえ大きく叫んでいるのに拡声器のおかげで更にうるさい。

 

「大人しく投降して生徒会に戻って来ればいいだけの話!!! 素直に罪を認めるだけでみんな笑顔になれるんだ!!!」

 

周りの人だかりから「うるせぇぞクソアマ!」とか「近所迷惑なんだよ!!」だの「とっとと帰れ!!」と馬事雑言を投げられ空き缶やら紙くずも投げられる中、真由美はそれら全てを無視してそれらの罵声以上の声で叫んでいた。

 

「実家のおふくろさんも泣いてるぞ!! そんな親不孝をしたまま一生暗い堀で人生終えていいのかぁぁぁぁぁぁぁ!!! だから!! だから!!!」

 

少々涙声で擦れそうになるも真由美はスゥーと深呼吸して肺に息を溜めると喉の奥から今まで以上に大きな声で

 

 

 

 

 

「潔く腹を切って侍として死のうではないかぁぁぁぁぁ!! 安心しろ!! 介錯なら生徒会長であるこの俺が責任を持って!!! ぶべらッ!!」

「「なんでだよ!!!」」

 

最終的に切腹しろと叫ぶ真由美を群衆をかき分けてきた深雪と摩利が同時に飛び蹴りを顔面にかましながら叫んだ。

 

顔面に思いきり足で踏みつけられながら真由美は地面に大の字で倒れる。

 

「なんで仲間助けに来た奴が仲間殺しに来てんだよ!! どっちがやりてぇんだよお前!!!」

「何か後ろめたい事があるのなら、いっそ腹を切らせて見事な散り様にしてやろうと……」

「そんな救い方あるか!! お前が一生堀の中に入りたいのか!!!」

 

倒れながらも呻き声を漏らす真由美に深雪と摩利がツッコミを入れていると、真由美の傍にいた同じ生徒会の鈴音がすぐに彼女の手を取って起こす。

 

「大丈夫ですか会長」

「大事ない……すまんリンちゃん殿」

「おいコラ! そのバカ甘やかすんじゃねぇ鉄仮面娘!」

「傍にいるお前が止めてやらないとその内マジで大変な事やらかすぞそいつは!!」

 

深雪と摩利に同時に糾弾されながらも鈴音が涼しげな顔で

 

「そんな事よりもどうしてお二人がこんな所に、私達は中条さんらしき人をこちらで見かけたという情報を頼りに来たのですが」

「私達も中条をここで見かけたという情報があって来たんだ、やはり生徒会の方にも情報を渡していたのか、一体誰なんだ……」

「おお! 来てくれたのか銀……深雪殿! 俺は信じていたぞ!! ハッハッハ!!」

 

生徒会と風紀委員両方に情報を提供したという人物の存在に摩利が不審に思っている中、真由美の方は深雪に気づいて嬉しそうに歩み寄る。

 

「さすがは俺の友だ! 我らが手を結べば鬼に金棒! 共にあーちゃん殿をお助けに行くぞ!」

「いや俺仕方なく来ただけだから、つうかこっちに顔近付けんな気持ち悪ぃ」

 

今は女同士だが中身は男なので深雪は気色悪そうに真由美の顔を手で掴んで引き離す。

 

「それより服部君どうしたんだよ、まだ生徒会室の窓辺に立たせて雲眺めさせてるのか」

「お前ハンゾー君をなんだと思っているのだ、あーちゃん殿とハンゾー君は同学年であり長きに渡りお互いを高め合っているライバル同士、彼女の危機にハンゾーくんが動かない訳なかろう」

「じゃあお前等と一緒に」

「ああ、俺達と共にちゃんとここへ来ている。ほら、あそこで流れる雲を眺めている者がいるであろう」

 

そう言って真由美は近くに建ってある3階建ての雑居ビルの屋上を指差し

 

「アレがハンゾーくんだ」

「結局やってる事一緒じゃねぇか!!」

「生徒会長、どこの雲の中にも中条もラピュタも見当たりません……」

「諦めるなハンゾーくん! ネバーギブアップの精神だ! 諦めたらそこで試合終了だぞ!!」

「いや雲の中にいる訳ねぇだろうが! 試合すら始まってねぇよ! 始まる前に終了してるよお前等の頭が!!」

 

こちらに顔を下ろさず常に遠い目で空を眺めながら呟く生徒会副会長の服部に真由美が下から叫んでいる所を深雪が思いきり頭をぶっ叩いた。

 

「テメェ生徒会長だからってあんま服部君イジメんじゃねーぞ、あのツラよく見てみろ、どうみてもラピュタより魔女宅派だろうが、天空の城より空飛ぶ魔女っ子さん探させろやボケ」

「貴様にハンゾーくんの何がわかる、ハンゾーくんは間違いなくラピュタ派だ間違いない。あの年頃はパズーの生き方に憧れるものであろう」

「わかってねぇなお前。ああいう年頃だからこそウルスラさんみたいな大人の色気にコロッといっちまうんだよ。ウルスラさんのたまに見える胸の谷間でムラムラしちゃう年頃なんだよ服部君は」

「貴様こそわかっていないではないか、ああいう年頃はお色気より生き様に魅せられるものなのだ。ドーラ一家のコメディ溢れながらも決死の思いで戦いに赴くあのシーンで胸を熱くしない少年などいやしない」

「なんでお前等が服部の好きなジブリ映画がどれなのかって揉めているんだ!! どうでもいいだろうそんな事! なに二人して服部の事で熱くなってるんだ!!」

 

服部がどんなジブリ映画が好きかについて白熱した討論を交わす深雪と真由美に摩利はツッコンだ後ジト目で鈴音の方へ振り返り

 

「おいもうコイツ等ほっといてお前と私で探すぞ、これ以上コントに付き合ってたら学校サボってまで来た意味が無い」

「いえ私は会長のお傍に」

「甘やかすお前が傍にいては真由美も独り立ち出来ないだろう、ここは真由美の為にしばし距離を取るのも一つの心遣いだと思うぞ」

「やれやれ素直に私と二人っきりでいたいからと言えばいいのに、回りくどい人ですねホント、いいんですか? あなたには結婚を前提にお付き合いしてる方がいるのに」

「ホント生徒会には誰一人まともな奴がいないな、もう廃止にすればいいんじゃないかな……」

 

こちらを軽蔑の眼差しで見つめて来る鈴音に摩利がサラッと本音を言いながら彼女の腕を引っ張って半ば強引に連れて行く。

 

「鈴音は連れて行くぞバカコンビ、せいぜい服部と一緒に雲でも眺めて遊んでいろ」

「おい待てぇ! 俺の片腕であるリンちゃん殿を奪うとはどういうつもりだ摩利殿! さては裏路地に連れ込んでチョメチョメと!!」

「人聞きの悪い事言うな! 誰がするかそんな事!」

「アイツ絶対そっち系だと思ってたわー、なんか一緒にいる時も私の事チョーイヤらしい目で見てたしー。あんなのと付き合うのもう止めましょよ真由美ー」

「なんでコギャルみたいな喋り方!? 余計腹立つから止めろ!!」

 

こちらに向かって叫ぶ真由美の耳元に根も葉もない事を若い娘風に言う深雪に怒鳴りながら摩利は鈴音を連れてさっさと行ってしまった。

 

残されたバカコンビこと深雪と真由美はジッと顔を合わせる。

 

「で、どうすんだよ」

「どうするもこうするも二人であーちゃん殿を探すしかあるまい。ハンゾーくんは上空担当、俺達は陸を攻めるぞ」

「いや俺は服部君と同じ担当でいいわ、つうことでお前一人で陸を攻めろ」

「貴様如きがハンゾーくんと同じ担当になるなど笑わせるな、ハンゾーくんはいずれあーちゃん殿と共に肩を並べて我等の学校の重鎮となる存在だと俺は考えているのだ、貴様が傍にいてはハンゾーくんの邪魔になるだけだ」

「お前服部君を軽んじてるのか重んじてるのかどっちなんだよ!」

 

自分の提案をフンと鼻を鳴らして一蹴する真由美に深雪がツッコんだ後、彼女は「あ」とマヌケな声を漏らし

 

「そういや俺お前等が探してる奴のツラ知らねぇや、写真とか持ってねぇの」

「全くしょうがない奴だ、なら俺が一週間前に生徒会で撮った写真が携帯にあるから見て覚えろ」

「なんで異世界で写真撮ってんだよお前、帰る気あんのか本当に……」

 

見知らぬ世界で見知らぬ人達と写真を撮るとかどういう神経してるんだと思いながら、深雪は真由美が取り出した携帯の画面に映った写真を覗く。

 

「この一番左端で緊張したように縮こまっている気弱そうな女の子があーちゃん殿だ」

「ちっさ、こんな物騒な所を出入りするようなガキには見えねぇぞ」

「だからこそ心配なのだ」

「腹掻っ捌こうとしたクセに何言ってんだお前」

 

初めて見た深雪はその中学生にも見えるような小動物っぽいタイプの女の子に目を細める。

隣で見事に直角に立っている長身の鈴音のおかげで、端に立っている中条あずさは余計小さく見えた。

そしてふと深雪は真由美が手に持っている携帯写真の真ん中に映っている女子生徒に気づいた。

 

「司波深雪……」

「そういえばコレを撮ったのはお前が彼女と入れ替わる一週間前ほどの事であったな」

「なるほどね、コイツが正真正銘のこの身体の持ち主か、冴えねぇツラだな」

「兄上殿がいなくなって随分と経っている、さすがに顔つきもしおらしくなるだろ」

 

写真の真ん中に映るのはこの身体の本当の持ち主である司波深雪本人であった。

一度保健室で写真を見せられた事があったがその写真よりも彼女はどこか覇気がないように見えた。

彼女の顔をジーッと観察した後「あれ?」とふと何かに気づいた。

 

「そういやお前どこに映ってんの?」

「何を言っているよく見ろ、深雪殿の足元だ」

「は? なんで足元を……」

 

言われるがまま彼女は司波深雪の足元に目をやると

 

思いきり彼女に右足で踏みつけられている真由美がいた。

 

「って踏まれてんじゃねぇか! 何!? 何があったのお前!?」

「いや俺が深雪殿に写真を撮ろうとせがんでいたらいつの間にかこんな状態に」

「これ絶対お前があまりにもしつこいからムカついてたんだろ! いいのコレ! 深雪さん生徒会長に下剋上しちゃってるよ!!」

「他の者とは仲良くやれていたのだが、どうも深雪殿だけは俺の前に壁を作っていたな。踏まれたり氷漬けにされそうになったり散々だった、全く年頃の娘はわからん」

「いやお前みたいな不審者相手ならこんぐらいの態度が普通だろ……」

 

自分が桂の身体に乗り移った真由美を踏みつけてた様に、真由美の身体に乗り移った桂もまた司波深雪に踏まれていたらしい。

変な偶然もあるモンだと思いながら真由美の携帯を返す深雪。

 

「まあいいや、こんなガキなんざどうでもいいし、ただ互いの体借りてるだけの関係だし」

「それはそれで凄い関係だと思うのだが……とにかく深雪殿の事よりもまずはあーちゃん殿を探すぞ」

「わーってるよ、けどこんだけちっちぇガキがこんな広くて治安の悪い街の一体どこに……」

 

とにかく中条あずさを探す事を開始する深雪と真由美だがまずどこから探していけばいいのかわからない、ただでさえこの世界の地理には疎いというのに……

 

すると深雪がしかめっ面でキョロキョロと辺りを見渡していると

 

「ん?」

「どうした銀時」

 

ふと靴の踵に固いものがコツンと当たる感覚が

すぐ様深雪が振り返ると足元には

 

「石ころ……しかもまた……」

 

踵に当たったのがこれだと瞬時に理解しながら深雪はそれを手に取るとまたもや……。

 

「小さく丸めた紙束が付いてやがる……おいヅラ、俺の背後から石転がしてきた来た奴見たか」

「いやお前と同じ方向を見ていたから気付けなかった、まさかそれはお前が言っていた……」

「ああ、今度は頭に投げられなくて良かったぜ」

 

わかってるかのように深雪は石に巻きつけられた紙束を手に取って開いてみると。

 

「「ここの住所にお二方で行ってみてください、彼女はそこにいます」だとよ」

「あからさまな罠にも感じるが。銀時、コレが我等に協力している姿なき存在の者だとしたら」

「恐らくコイツを書いた奴は俺達の行動や目的までも全て把握してやがる、どこのどいつかは知らねぇが只者じゃねぇのは確かだ」

「乗ってみるのか、銀時」

「敷かれたレールの上を歩くってのは気に食わねぇが、こんな面倒事さっさと終わらせてぇしな」

 

深雪が紙を裏返すとやはり『銀時さんへ』と書かれていた。彼女はまたそれをポケットにしまい込み、書かれていた住所の方へ歩き出す。

 

「上等だ、どこで見ているか知らねぇがテメェの思惑通り動いてやるよ」

 

その先に何が出ようが知った事かという感じで、深雪は真由美と共に進んで行くのであった。

 

 

 

 

 

 

進み出してからしばらくして、二人はやっと書かれていた住所の場所に辿り着いた。

 

「ここは……」

「どうやら空き家らしいな」

 

街の中心から少しズレた場所にあったみずぼらしい空き家。

ひどくオンボロでとても人が住めるような場所には見えないがもし本当にここにいるのであれば

 

「よし、中に入るぞ銀時」

「待てヅラ」

「って! 何をする!」

 

今すぐにでも入ろうとする真由美の肩を掴んで、深雪は傍にあったゴミ箱の影に潜む様にしゃがみ込む。

 

「お客さんだ」

「なに?」

 

ゴミ箱の裏に隠れながら二人が顔を覗かせていると、空き家の前に数人の人だかりが

それも皆黒いスーツを着て、拳銃やら刃物やらを手に所持した屈強な男共ばかりである。

 

「アレは……」

「カタギじゃねぇのは確かだ、みんなでお家に集まって仲良くパーティする柄でもねぇ」

「あの様な者がどうしてあーちゃん殿がいるかもしれない空き家の前に……」

 

ますます彼女の事が心配になって来ると、突如屈強な男達の一人がその空き家のドアを乱暴に蹴破る。

 

「なに! 行くぞ銀時!」

「やれやれ……異世界でこれ以上面倒事なんかごめんこうむると思ってたのに」

 

ゾロゾロと中へと入っていく男達を見て、深雪と真由美は同時に物陰から現れた。

 

「銀時! 今の俺達の身体じゃ満足に戦えん事を忘れるな!」

「わーってるよ、その為にあの風紀委員長様から取り返してきたんだ」

 

ダッと駆けながら深雪は腰のベルトに差す洞爺湖と彫られた木刀を抜く。

 

「こんな細っこい身体でも使い方と工夫によっちゃなんとかなるんだよ」

 

そう言いながら家の前に辿り着くと、既にあのスーツ姿の男達が全員入り込んだドアから入っていく。

 

「でもさすがにあの数全員相手だとキツいかもな……ガキ連れてすぐ逃げるぐらいなら出来るが。ヅラ、テメェは家の前見張ってろ」

「バカを言うな、お前だけに行かせるか。それに俺には”秘策”がある」

「?」

 

どう見ても丸腰にしか見えない真由美に一体どんな秘策があるのかと尋ねたい所だがそんな場合ではない。

深雪を木刀を肩に担いだまま彼女に背後を任せて中に突っ込んだ。

 

「ああ? どういう事だ? あんな数の野郎共が入ってったのに妙に静か……ん?」

 

上の方から聞こえたのはバタン!という何かが倒れた音であろう、深雪はすぐに2階へと上がる階段を駆け昇っていく。

 

「な!」

 

2階に辿り着いた深雪が見たものは、とても信じられない光景であった。

 

 

先程この家に上がり込んでいたスーツ姿の男達が全員苦悶の表情を浮かべ倒れていたのだ。

僅かに息をしている所から察するに死んではいないみたいだが……

 

辺りを警戒するように木刀を構えながら深雪は奥へと進んで行く。

 

「……これだけの数を一瞬で仕留めるたぁ、やった奴は複数か、それともたった一人の化け物か」

 

倒れている確認しつつ、一体奥には何がいるのかと徐々に足取りを遅くしてしっかり前を見据えながら歩いていく。

すると一番奥の部屋の一室でドゴォ!っと鈍い音が

 

「……ったく、何度ぶちのめされれば気が済むんだオメェ等」

 

奥の部屋から聞こえる声に耳を傾けながら深雪は抜き足でその部屋の方に歩み寄って行く。

 

「オメェ等がどういう目的で俺を追うのかしらねぇが、なら俺は目の前に転がって来た石ころを蹴飛ばすだけだ」

 

バレぬ様に注意を払いながら深雪はそっとその部屋の中を覗く為にゆっくりと顔を出すと……

 

「だがもしこんな胸糞悪い身体になった原因がテメェ等にあるんなら、俺はすぐにでもテメェ等の組織乗り込んで皆殺しにしてやるよ……」

 

(えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??)

 

目を思いきり見開いて深雪は心の中で思いきり叫ぶ。

 

あの写真で見た小動物の様な気配を持ち、オドオドしてそうな小さな少女である中条あずさが

 

自分よりずっと背の高くガタイもいい男の首根っこを鷲掴みにしたまま、口を大きく横に開いて楽しそうにどす黒い笑みを浮かべているではないか。

 

(どういう事これぇぇぇぇぇ!? もしかしてこれ全部あの子がやったの!? あの強そうな野郎共を全員!? ていうか全然見た目違うし! ホント何があったんだあのガキ!! 夏休み前と夏休み後の女子は丸っきり別人になるとは聞くけどさ!)

「口が利けねぇのかテメェ等? おら」

「ぐふっ! 我等を倒してもいずれ本隊が……」

「なんだ喋れるじゃねぇか……」

(いや別人過ぎるだろ! あんな事言いながらオッサンの頭床に叩きつけるとか夏休みどころか学校生活の三年間ずっと少年院で過ごしてましたぐらいの化けっぷりじゃねぇか!!)

 

最後の一人である男を顔面から床に思いきり叩きつけるその姿を見て深雪が震えながら動けないでいると、中条あずさは制服の裏から何かを取り出しながら

 

「そこに隠れてる奴も、俺の首狙いに来た奴か」

「!」

 

バレていた、こちらを振り向かずともまだ笑みを浮かべている彼女を前に深雪はビビりながらもそーっと姿を現して部屋に入って来る。

 

「お、お邪魔しまーす……あのー覚えてます? 前に生徒会で一緒だった司波深雪ってモンですけど、ちょっとお話いいですかー……?」

「知らねぇよテメェみてぇなガキなんざ、消えろ」

(いやお前もガキだろ!)

 

頬を引きつりつつなんとか一歩前に出る深雪に中条あずさは傍にあったイスに座って観察するように目を細める。

そして制服から取り出していたある物を口に咥え

 

「俺に取り入ろうとしてんなら諦めなここじゃあ俺にとって全てが敵だ。目の前にある物は全て叩き潰す、今こうしてマヌケ面しているテメェもな」

(キセル!? この子キセルなんか吸っちゃってるよ!? 絵面的にすげぇヤバい事になってるんだけど!?)

 

彼女が平然と加えているキセルを凝視しながら深雪が固まっていると、中条あずさはスゥーと口から煙を吐き

 

 

 

 

 

 

 

「”俺はただ全て壊すだけだ”」

「……え?」

 

その言葉なんかどっかで聞いたような、すると深雪は今までの彼女の変貌っぷりや口調を思い出しふと”ある男”が頭を突然余切った。

 

(い、いやまさか……まさかそんな事ある訳……いやいやアイツに限ってそれはないって……だってもしそうだったらアイツも俺達と同じ……)

 

深雪はふと試しに彼女を”ある男”と重ねる様に見つめると……

 

(ひょっとして……)

 

 

 

 

 

「この世界を、俺を”こんな体にした”腐り切ったこの世界をな……!」

(高杉くぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!?)

 

血走った目をしながら歪な笑みを浮かべ完全に怒り狂っている様子で中条あずさはキセルを持った手を震わせる。

 

彼女の中にいるのは高杉晋助。

かつては銀時と桂と同じ学び舎で一人の師の下で稽古や学を学び

二人と共に攘夷戦争に参加し鬼兵隊と言う組織の隊長として大活躍した人物。

その後は袂を分かって銀時と桂とは敵対する事になったのだが

 

よもやこんな事で宿命の再会を果たしてしまうとは……

 

歪な物語は更に酷く歪み始めるのであった。

 

 

 

 


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