魔法科高校の攘夷志士   作:カイバーマン。

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前回の話の後、感想数がいつもの4倍以上も貰えました

さすがに予想外でした


四葉真夜がこんなにも人気あったキャラだったなんて……


第三十六訓 魔女&駄男

○月×日

 

私がSAGIの力と技術を下に創り出した入れ替わり装置は無事に起動が成功したようだ、こちらの世界の人間と異世界の人間の魂を入れ替えてみたらしい、最初の被検体は達也さんと深雪さんが入学する予定の学校の女子生徒だとか、向こうの世界の誰と入れ替わったかは不明だが、これで私の野望に第一歩近づけた

 

□月△日

 

今度はSAGIにとって最も憎むべき相手を対象に入れ替わりを行ったみたいだ。なんでも向こうからノコノコと出向いて来た所を狙い撃ちしたらしい、現在は千葉家の妾の娘の体になっているとか。

我々の世界に来たその男(今は少女だが)も今頃自分の身に置かれた状況に混乱しパニックになって絶望しているであろう

 

△月□日

 

続いてSAGIはまた自分達を脅威に晒した人物に装置を発動した。名は桂小太郎と言うらしいがどうでもいい。

今度は七草家の長女と入れ替えさせたみたいだ、七草家……あそこの一族はいずれ潰しておこうと思っていた所だ。

自慢の娘の変貌した姿を見てあの男がどんな反応をするか考えるだけで気分が高揚する。

 

×月×日

 

ゴリラの入れ替わりに成功、てかなんでゴリラ?

 

 

○月○日

 

達也さんと深雪さんも入れ替わり装置で向こうの世界に飛ばすよう蓮蓬に指示、二人が向こうの世界でどんな風になってしまうのか個人的に興味があったからだ。近い内に行う予定らしいが、それを実行する頃にはもう私も……

 

○月□日

 

私に歯向かって来た葉山を異世界に送ってやった、これで邪魔する者は誰もいない。

精々向こうの世界で慣れない生活に苦しむがいい

 

β月Ω日

 

この日記を再び書くのは当分先になるであろう、何故なら今日、私は入れ替わり装置の力で向こうの世界へと飛び立つのだ。

失敗するなど微塵も考えていない、今私の中にあるのは一刻も早くこの醜き体から解き放たれて、最強の魔力を秘めている者の体へと宿ろうとする執着心だけだ。

その体と入れ替わる事によって初めて私の野望が動き出す、もはや四葉などどうでもいい、この世界さえも

 

宇宙最強の魔法師となって全て滅ぼしてあげるのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

「そしてその日、私は異世界で長谷川泰三という一人のオッサンに生まれ変わったのよ」

「バカじゃねーの?」

 

四葉真夜という己を捨て去り新たに長谷川泰三となった彼に向かって、とりあえず話だけ聞いてやっていた坂波銀雪が死んだ魚の様な目を向けながらボソリと一蹴した。

 

「お前そのオッサンがどんだけダメな生き物か知らねぇの? 何がマジでダークな王だよ、どっからどう見てもまるでダメなオッサンじゃねーか」

「フッフッフ、知らないのはあなたの方よ、この体に秘めたる恐ろしい力があるの。私は汚らわしい四葉真夜の身体から脱却した事により! この新たな体でありとあらゆる存在を破壊し続けるわ!」

「いやそれ以上に汚らわしい体なんざこの世に存在しねぇよ」

 

胸を張って堂々と宣言する長谷川に対し冷たくツッコミを入れながら、銀雪は隣に立っている達茂の方へチラリと目を向ける。

 

「どうすんのお兄様? 事件の黒幕がこのマダオとかマジやる気出ねぇんだけど? もう帰りたくなってきたわ」

「俺も同じ気持ちだがやはり伯母上の言っている事も少々引っかかる」

 

完全にやる気が削がれた様子でウンザリしている銀雪だが、達茂の方はまだ警戒心を薄めていないみたいだ。

 

「宇宙最強の魔法師、もしあの体が本当にそんな大層なモノになれる器だとしたら、今後野放しにしておくのは非常に危険だ」

「大丈夫だって、あの長谷川さんだぞ? 確かにゴキブリ並の生命力は持っているけどよ、スライム以下だろあんなの」

「確かに今もあの身体から魔力は感じられない、だが用心していつでも動ける準備はしておこう」

「いやもういいですってばもう、ラスボスが長谷川さんとかホントやる気出ないんすよウチ」

 

しっかり油断するなと忠告する達茂ではあるが、銀雪の方はすっかり油断しきっている状態で長谷川の方へ目をやる。

 

「大体よくその体で今まで生きてこれたなアンタ、セレブな一族の伯母上が没落してホームレスになったオッサンに転職したのによく環境に順応出来た事は褒めてやるよ」

「確かに長谷川泰三としての生活は地獄の様だったわ……」

「うわ、急に泣き出しやがったよコイツ、もうラスボスの風格完全に失ってるよ、既に見た目だけで失ってるけど」

 

ふと思ったから尋ねてみただけの銀雪に、長谷川は突然グラサンの奥から一筋の涙を流しながら語り始めた。

 

「職も無いわ家も無いわで公園の中でダンボールで体を包んで夜を過ごす毎日……」

 

『お、お腹減って眠れやしない……屋敷の食事とベッドが恋しい……』

 

「あるのはこのグラサンと膨大に膨れ上がった借金のみ……」

 

『長谷川さ~ん! いい加減ウチの所で借りた金とっとと返してくれやせんかねぇ! こちとらもう我慢の限界なんでさぁ!』

『えぇぇぇぇぇ!? いやそれは私が借りたんじゃ……!』

『ふざけた事言ってんじゃねぇ! お前等この野郎を事務所に連れてけ! 監禁して身ぐるみ剥いでやれ!』

『いやぁぁぁぁ!監禁して身ぐるみ剥ぐとかもう100%犯されるぅぅぅぅぅぅ!!!』

『んな気持ち悪い事誰がするかボケェ!!』

 

「何処へ行っても周りから汚物を見る様な目で見られ、その視線に耐えながら飢えを凌ぐためにゴミ箱を漁る毎日……」

 

『やったぁ! 捨てられた弁当にまだおかずが残ってるわ! このエビフライの尻尾で2日は生き延びられる!』

『銀ちゃん、マダオがゴミ箱漁りながら凄い嬉しそうな顔してるアル』

『またゴミ漁ってんのかよあのおっさん……近寄りたくねぇからそっとしておいてあげようぜ』

 

「なんか普通に俺出て来た! 何それ全然記憶にねぇんだけど!?」

「ひもじい生活を送りながら、場末のスナックで安酒を飲んで知り合いと語り合うだけが唯一の楽しみだったわ……」

 

『辛い! 辛すぎるわこんな生活! ついちょっと前はセレブでリッチな生活だったのに! どうして私がこんな目にィィィィィィィ!!!」

『まあまあ落ち着いてください長谷川さん。生活が大変なのは私も同じです、こんな体になってしまって私も毎日が辛くて仕方ありません……ああ、どうして私が……こんな銀髪天然パーマのクソみたいな男にィィィィィィィ!!』

『うるせぇんだよお前等! 店で喚き散らすなら出て行きな! つーか銀時! オメェはさっさと家賃払え!』

 

「また出て来たよ銀さん! しかも今度は入れ替わってるよね!? コレ体は銀さんだけど中身は深雪さんだよね!? うっそだろ全然覚えてねぇ! 俺達いつの間にかラスボスになった長谷川さんを見たり関わったりしてたの!?」

 

長々と語り出した長谷川の地獄のような生活を聞かされて、銀雪は頭を抱えて叫んでいると。

 

長谷川はまだグラサンの奥から涙を光らせながらズビッと鼻水をすする。

 

「でも私は頑張ったの! この体に宿る力をコントロールする為に必死に頑張ったの! 自動販売機の下から小銭を回収しつつ魔力の解放を出来る様にし! ゴミ置き場の空き缶を拾い集めながら魔法の展開を覚え! スーパーの試食売り場の前で恥も捨てて数時間ずっと立ちっぱなしで待機しながら独自に編み出した魔法式を計算し! 遂に私は正真正銘最強の魔法師になれたの!」

「そんな最底辺の生活送りながら最強の魔法師になれたら今頃河川敷の下は最強だらけだバカヤロー」

 

どっからどう見ても最強とは程遠い存在である長谷川泰三。

 

とても信じられないという表情で銀雪は目を細めながら冷ややかにツッコミを入れるとボリボリと髪を掻きむしる。

 

「なんだよコレ、こんな奴と戦う為に俺達ここまでやって来たのかよ。俺もうやってらんねぇわ、お兄様代わりに倒してくんない? デコピン一発で消し飛ぶと思うからよろしく」

「フッフッフ……」

「あ?」

 

戦う気すら起きない様子で全て辰茂に任せようとしていたその時

 

突如長谷川は不敵な笑みを浮かべて、背後にあった玉座を軽く揺らす。

 

「ならこれを見てまだあなたは戦う気は無いという訳?」

「そ、そいつは!」

 

長谷川が玉座を軽く手で揺すった瞬間、その微かな揺れで玉座の背中に立て掛けてあったモノがバタリと横に倒れて銀雪達の目の前に現れた。

 

それを見てさっきまでやる気の無かった銀雪の目の色が一瞬で変わる。

 

「良かった……無事にここまでやってこれたみたいですね……」

 

現れたのは一見普通の姿をした蓮蓬だった。

 

しかしその蓮蓬はプラカードを用いずに肉声を用いてこちらに話しかけて来た。

 

その姿は所々に穴が空いた状態ですっかりボロボロに。

更に穴からは出血が出ており、かなり消耗しきっている危険な状態であることが明白だった。

 

銀雪は彼を見てその声を聞いた瞬間、ふとどこかで聞いた声だったような気がして表情をこわ張らせた。

 

この声は確か学校にいた時……それに中条あずさを探しに隣町に行った時も……

 

「残念ながら僕達の力では銀河皇帝を倒す事は出来ませんでした……やはりこの者を倒すのは私達が託した希望であるあなた達しかいません……」

「フ、希望という名の下らない妄想ね」

「調子に乗ってるのも今の内ですよ銀河皇帝……私は先輩として、共に生徒会の一員として、司波兄妹の未知数の底力を信じています、そして僕もまたかつて共に戦って来たから知っている、坂田銀時はお前が想像するよりも強いって事を……がはッ!」

 

蓮蓬の言葉を遮って、長谷川は微笑を浮かべながら既に瀕死である彼に向かって深々と食い込む程の蹴りをお見舞いしてぶっ飛ばす。

 

その光景を見て銀雪の目が見開いた瞬間、ぶっ飛ばされた蓮蓬は激しい音を立ててこちらに向かって落ちて来た。

 

「ぐふ……どうやら私達もここまでのようです……最期に謝っておきます銀時さん、司波深雪の住所を教える時に思いきり石ぶつけてすみませんでした……」

「お前が……! まさかお前が俺の事を陰ながら助言していた正体だったのか!?」

「それと会長にも謝っておいてください……共に国家転覆をしようと言って下さったのにこんな道半ばで終わる私を許して下さいと……」

「いやそれはむしろ会長の方がお前に謝った方がいいと思うんだけど、ふざけた事言って誑かしてすみませんでしたとか」

 

この蓮蓬の正体が薄々わかって来た銀雪、恐らく彼は自分や達茂と同じく『融合体』

”あの二人”はずっと今の今まで自分達の助けになる為に影に徹して動き続けてくれていたのだろう。

 

それがわかった銀雪は急いで彼を助けねばと歩み寄ろうとすると、その者は最後の力を振り絞るかのように、こちらに向かってゆっくりと顔を上げる。

 

「あなたが腰に差しているその得物……私達の世界で作ったその木刀は特殊なデバイスが内蔵されたCADです……そいつで銀河皇帝に強烈な一撃を叩き込めば、奴の恐るべき力を封じ込める事が出来るはずです……!」

 

そう言われて銀雪はずっと前に司波家の家の前に差出人不明の状態で置かれていた自分の木刀と瓜二つな得物を右手で握って掲げた。

 

「そうかお前……こうなる事を事前にわかっていやがったのか、そしてその為にこの木刀を俺に託して……」

「わかりますよそりゃ……桂さんに高杉さん、坂本さんに銀時さん……この四人が揃えば、宇宙の果てであろうと辿りつけるって信じてましたから、僕が僕だった時からずっと……」

「……」

「……後は頼みました、私と僕の世界をどうか護ってください……」

 

それだけ言い残し、彼はガクリと再び倒れて動かなくなった。

 

最期の言葉を聞き届けて銀雪は、彼、否、彼と彼女の正体が完全に把握していると、隣に立って一緒に話を聞いていた達茂がスッと前に出て、倒れた蓮蓬の前にしゃがみ込む。

 

「気を失っただけだ、重症の様だが俺の力ですぐに体の修復は可能だ」

「……そうか」

「着ぐるみを脱がして正体を見てみるか?」

「……その必要はねぇ、中身なんざ見なくても、そいつ等がどれだけ俺達の為に戦ってくれたのかわかれば十分だ」

「そうだな」

 

達茂が静かに頷くと、銀雪は目の前でほくそ笑む長谷川を見据えながらスッと二本の木刀を構える。

 

もうやる気が無いとか戦う気が失せたとか、そんな気持ちは微塵も無い。

 

今あるのは二つが一体と化した魂から迸る熱い闘志、それだけだ。

 

「予定変更だ、お望み通りこの場でぶっ倒してやるよ伯母上様」

「あらやっと本気になってくれたみたいね、その無様な融合体を殺さず生かしておいて正解だったわ」

「勘違いすんじゃねぇ、もはや四葉家とか世界を救う為だとか、そんなちっぽけな事なんざどうでもいい、俺は俺の魂に従ってテメェを宇宙の彼方に葬る」

 

彼女から放たれる強い戦意と気迫を肌で感じながら、長谷川は微笑を浮かべたままかかってこいと言わんばかりに両手を横に広げ待ち構えて来た。

 

そして銀雪はキッと鋭い眼光を光らせながら、二本の得物を携えて彼を睨み付ける。

 

 

 

 

 

 

「『俺の先輩』と『私の後輩』、そいつ等をやった落とし前、坂波銀雪がこの場で着けさせて頂く」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラストバトルが始まる頃合い、銀雪と達茂を見送った新八達の方は現在進行形で面倒臭い事態に陥っていた。

 

「なんか春雨の奴等が一杯出てきたんですけど!!」

「コイツ等きっと状況が掴めていない下っ端共アルな」

「やれやれ、さっさと逃げねぇとヤベェってのに」

 

新八達を取り囲むのは蓮蓬ではなく春雨の連中を根こそぎ集めたかのような、まさに無法者と呼んでいい粗末な軍団であった。

 

入れ替わり装置が破壊された事も、更には蓮蓬達の大半は全て徳川達茂が倒した事も

 

もはや地球人と戦う理由はこれっぽっちも無い事にすら気付いていない。

 

袋のネズミだと言ってる様にニヤニヤと笑って勝利を確信している表情をしてるのが、もはや哀れみすら感じる。

 

新八が驚く中で神楽と沖田は呆れたように周囲を見渡しつつ、さっさと終わらせようと前に出る。

 

「勝負しようぜチャイナ娘、俺とお前でコイツ等をどれぐらい倒せるか」

「望む所アル、ここいらで私の本気を見せてお前の負け面拝ませてもらうネ」

「へ、そいつは俺の台詞でぃ……行くぜ!」

 

どちらがより多くの敵を倒せるか勝負を仕掛ける沖田に神楽は彼の方へ振り向かないままフンと鼻を鳴らして受けて立つ。

 

そしてそれを合図とするかのように、沖田は前方に群がる敵に向かって高々に……

 

「いっけぇーメス豚2号! 君に決めた!!」

「シャァァァァァァァァァァ!!!!」

「戦うのお前じゃないんかい!!!」

 

沖田の叫び声に応えるかのように、彼に付けられた首輪をはめて永遠の忠誠を誓った司波小百合が奇声を上げて春雨軍団に向かって襲い掛かって行った。

 

まさかの人妻、しかも素手で戦いに来るなど思ってもいなかった敵は一瞬困惑の色を浮かべるが

 

「ニャアァァァァァァァ!!!」

「おぼへぇ!!」

「つ、強いぞこの女!」

「まるで正気を失ってるかのように突っ込んで来たと思ったら! 無茶苦茶暴れて手に負えねぇ!」

 

身近にいた雑魚に向かって引っ掻くわ殴るわ怒涛の連続攻撃をお見舞いする小百合。

 

動きも読めないそのバーサークっぷりに、春雨の連中は手を焼いて迂闊に近づく事が出来ない。

 

それを見て沖田は戦おうとする姿勢すら一切見せずに、静かに傍観しながら人差し指を立てる。

 

「説明しよう、俺のメス豚2号こと司波小百合は、数々の調教により人体の眠らされた力が活性化、人間性が失われたと同時に俺に対する忠誠心と強靭な運動神経、そして全てを破壊しかねない程の凶悪さを手にしたのだ」

「なにその悲しみを背負った殺人マシーンみたいな設定!? アンタ一体どんな事したんだよあの人に!」

「ちなみにメス豚1号は作者の処女作である「3年A組銀八先生!」に出て来る柿崎美砂である、アイツ今頃どうしてるのかな?」

「どうでもいいわ! 向こうはとっくの昔に完結してんだからそっとしておいてやれよ!」

 

どうでもいい補足を説明する沖田に新八がいちいちツッコんであげていると

 

「く! あの人妻中々やるアル! ここは私も奥の手を使わせてもらうネ!」

 

沖田、というより小百合の活躍に負けじと神楽も勢い良く身を乗り上げた。

 

「いっけぇ龍郎ぉぉぉ!! 君に決めたァァァァ!!」

「うわぁぁぁぁぁ! 絶対無理! 私じゃ絶対死ぬ!」

「いやいやいや龍郎さんはダメだよ神楽ちゃん! その人ただの一般人だからね!」

「うるせぇ! 私は龍郎の力を信じるアル! 龍郎! だいばくはつ!」

「その命令の時点で一ミリも信じてねぇだろお前!」

 

前々回に妻と娘にボコボコにされ、やっとこさ復活したばかりの司波達郎に向かって神楽はビシッと敵に指を向けながら命令。

 

しかし龍郎は当然そんな真似出来やしない。狂気化した小百合と違い、生まれつき魔力が多いという才能を持つだけの極々普通の人間なのだ。

 

断固拒否の構えで神楽の背後に引っ込む龍郎、しかし神楽には彼の中にあるやる気を燃えさせる為の秘策があった。

 

「おいおいそれでいいアルか龍郎? 今ならまだ間に合うかもしれねーんだゾ、テメーの女をあのドS野郎から解放出来るチャンスをみすみす捨てるつもりアルか?」

「なに!? 私の小百合が戻って来るチャンスだと!? それは一体なんなんだ!?」

「簡単な事ヨ」

 

息子と娘には冷たくされ、仕事は酢こんぶ工場長にされ、そして何より愛する妻をドSの王子様に寝取られてすっかり精神ボロボロな状態であった龍郎にとってそれは願ってもない朗報であった。

 

藁にもすがる思いで龍郎は必死な形相で神楽に尋ねると、彼女はニヤリと笑ったまま親指で前方の春雨軍団を指差して

 

「連中全員はっ倒して、あの女にイイ格好見せつけてやりゃあいいアル」

 

そんな無茶苦茶な提案を聞いた龍郎は、無言で彼女の背後から離れ

 

スタスタと敵の方へ歩いて行くと

 

「クソッタレェェェェェェェェェェェ!!!!」

「うべるぼッ!」

「龍郎行ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ある意味逝ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ヤケクソ気味に気合のストレートを敵の一人にお見舞いする龍郎。

 

新八が絶叫している間に、突然刃向かって来た龍郎目掛けて他の連中が彼に襲い掛かる。

 

「この野郎よくもやりやがったな!」

「囲んで袋にしちまえ!」

「うわぁ! ちょ! ちょっとタイム! 話せばわかる! 私はただ妻を取り戻したい一心で……!」

 

凶悪な面構えに囲まれた事でつい一時のテンションに身を任せて迂闊な行動をしてしまった事を後悔する龍郎。

 

しかしそんな彼の下へ救いの女神が

 

「うにゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「「「ぐはぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

「さ、小百合ぃ!?」

 

なんという事だ、沖田によってすっかり別人となってしまったと思っていた小百合が、ここでまさかの龍郎の為に周りの敵を飛び蹴りで華麗にぶっ飛ばしてしまう。

 

窮地を脱して龍郎は感動して泣きそうになりながら、敵を倒してくれた小百合に歩み寄ろうとすると

 

「信じていたよ小百合、そうさ、君はやはり私にとってかけがえのない愛する妻……」

「……おい」

「え?」

 

嬉しそうに顔をほころばせる龍郎の方へと振り返った小百合は、地べたを這う虫けらを見るかのような目つきを向けながらガシッと両手を伸ばして彼の腕を取ると

 

「丁度いい時に来たわね、アンタの身体使わせてもらうわ……!」

「へ!? 小百合! それって一体どういう……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「オラオラオラオラオラオラァァァァァァァ!!!!」

 

龍郎の両腕を後ろから持って、そのまま豪快に彼の身体を振り回し始める小百合。

 

その猛烈な回転力は小百合の攻撃力を更に上昇させ、周りにいる敵たちを次々と飲み込んでは天高くぶっ飛ばしていく。

 

「に、逃げろぉ! アレに飲まれたら死……うぶわぁぁぁぁ!!!」

「ギャァァァァァァァァ!!!」

「フハハハハハハハハ!!!!」

「助けて新八くぅぅぅぅん!!!」

 

敵の悲鳴と小百合の笑い声、そして龍郎の助けを呼ぶ声が辺りに木霊する中で

 

原因を作った張本人である沖田と神楽はそれを眺めながら

 

「倒してるのはウチのメス豚2号だから俺の勝ちだな」

「何言ってんだテメェ、私の龍郎を武器として使ってるんだから倒してるのは龍郎アル、だから私の勝ちネ」

「オメェ等この期に及んで何勝負の結果で言い争ってんだよ!!」

 

どちらが勝負に勝ったのかと不毛な議論を展開する二人に、新八は後ろから声を荒げて怒鳴り声を上げるのであった。

 

「あんな夫婦共同作業初めて見たよ! 新手のSMプレイだろこんなの!」

「そう熱くなさんな白ブリーフ、ここは冷静に考えてみて」

「誰が白ブリーフだ! ってアンタいつの間に僕の背後に!」

 

歪んだ夫婦の絆を前にして新八が叫んでいる所に、背後から彼に向かって静かに話しかけてきたのは

 

彼等と一緒に行動している北山雫だった。

 

「こんなにも司波夫婦が大活躍している劣等生二次作品は、後にも先にも私達だけだと自信を持って言える」

「そんな自信いるかボケェ!! それで人気取れると思ってんのかおのれは!」

 

仏頂面なに誇らしげに言ってんだと北山に新八が口調荒めにツッコんでいると、雫と一緒にいたもう一人の少女、光井ほのかもまた前に出る。

 

「ていうかこうやって言い争いしてる間にもあのおじさんヤバいんじゃないかな? さっきまで泣いてたのに今は白目剥いて笑ってんだけど……」

「ハハハ……アハハハハハハハハ…………」

「しっかりしろ龍郎! 自分を見失うな!」

 

上機嫌な様子で振り回してる小百合とは対照的に、振り回されてる側の龍郎はすっかりおかしくなってしまっている。

 

さすがにもう限界だろ、と新八は慌てて彼に向かって檄を飛ばしながら台風の様に辺りをぶっ飛ばしていく司波夫婦に向かって勇気を出して駆け寄ろうとすると……

 

 

 

 

 

 

「待ちな、あんなんでも義理の兄夫婦だ、ここは俺が敵を先に片付けてアイツ等を止めてやる」

「……え?」

 

不意にポンと肩に手を置かれて立ち止まらされる新八。

 

そして同時に背後から聞こえたのは男性の口調ではあるが今まで聞いた事の無い女性の声……

 

一体誰だと新八が振り向こうとする、だがその動作を行う前に、彼の目の前で謎の人物の言う「止める」という行為は既に実行されていた。

 

「あ、がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「か、身体に穴が! ぐふッ!」

「なんなのだ! これは! 天から光が注がれたかと思えば俺達の体中に無数の穴が……な……ぜ……!」

 

突然頭上から数えきれないほどの光の雨が春雨の敵のみを捉えて、次々と降り注がれていくではないか。

 

その光に照らされた敵は体中に無数の穴を作って体で光の道を差した途端、蒸発するかのように体もろ共消滅。

 

敵だけをピンポイントに狙いを定めて次々と消滅していく様を見せつけられ、新八は振り向くのも忘れて呆然と立ち尽くす。

 

「こ、これはもしかして魔法……? 一体何が起きたんだ……」

「魔法だけど、私達とは次元が違い過ぎるレベル」

「凄い……あんなにいた敵が一瞬で……」

 

ものの数十秒程しかかからないあっけない決着。

 

これには新八だけでなく雫も眉をひそめてその凄さに言葉を失い、ほのかもまたあっという間の出来事にどう対応していいのか困惑している様子。

 

程無くして敵がいなくなったことに気付いた小百合は龍郎を振り回すのを止めて、苦々しい表情を浮かべて舌打ちすると、両手に持っていた彼をポイッとゴミの様に捨てた。

 

「終わったみてぇだな」

「!」

 

背後からまた聞こえたその人物の声に新八はハッと思い出して改めて背後に振り返る。

 

そこに立っていたのは優雅に口に咥えたタバコからモクモクと煙を上げながら女性だった。

 

ブリーフ一丁の新八が思うのもなんだが、場違い感半端ない黒いドレスに身を包ませている。

 

その見た目は妖艶な美と呼ぶべきか、とても言葉では現す事が出来ない

 

まるで無理矢理にでも惹きつける程の強烈な美がそこにあった。

 

しかしそんな美しい女性なのであるが難点が一つ

 

 

 

 

 

彼女の美貌には不釣り合いなグラサンだ。

 

「あ、あなたは一体……え? ちょっと待ってください、そのグラサンとタバコを吸う姿を前に何処かで見たような……もしかしてアンタ……」

「新八君、細けぇ話は後にしてくれ、俺は俺のやる事を為す為にここまで来たんだ」

「なんで僕の名前を……えぇ! ひょっとしてアンタ! まさかアンタの正体は!」

 

絶対にあり得ないだろと思いながらも、その姿を見ている内に段々と「とある男」が脳裏に浮かんでくる。

 

口を大きく開けて新八がショックで言葉が出てない内に

 

彼女は口に咥えていたタバコをポイッと床に捨てて前方を見据える。

 

 

 

 

 

「『マダオ』を止めるのは『マダオ』だけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

本作でブリーフ一丁の新八を見た魔法科高校の劣等生キャラの反応

 

司波深雪の場合

 

(……恥ずかしくないんですか?)

 

司波達也の場合

 

(何かの作戦だろうか……とりあえず尋ねるのは止めておくか)

 

渡辺摩利の場合

 

(うわ……真由美がおかしくなるわけだ、やっぱ向こうの世界の住人は頭がおかしい)

 

リーナの場合

 

(こういう輩は抹殺しておくのが世の為ね)

 

十文字克人の場合

 

(ふむ、よく見るとかなり鍛えているな。貴重な戦力になりそうだ)

 

光井ほのかの場合

 

(なんだろう、ストレスかなんか溜まってんのかなあの人……お気の毒に)

 

北山雫の場合

 

(向こうの世界ヤバ過ぎ、永住しよう)

 

司波小百合の場合

 

(恥が眼鏡掛けて歩いてるわ)

 

司波龍郎の場合

 

(完全に変態だけど、言動はこの中で一番まともっぽいし、いざとなった彼に頼ろう……)

 

四葉真夜の場合

 

(監視カメラで覗いてたらいきなり露出狂が現れた件……)

 

???の場合

 

(私達の代わりに銀時さん達をよろしくお願いします)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最近DTVでドラゴンボール観てます

なんか悟空がスーパーサイヤ人ゴッドとかいうとんでもないのに進化してました。

いやぁ今もなお進化する悟空さは凄いですね本当に

まあ私が一番心打たれたのは敵役の破壊神ことビルス様だったんですけど、何アレ超かわいい。

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